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2008/12/07(日)に投稿された記事
涼宮ハルヒの青空(3)
投稿日時:15:09:03|コメント:0件|》本文を開閉
ディレクトリ:(未完成)涼宮ハルヒ - *涼宮ハルヒの青空
今日は前置き少ないよ!
入学当初、俺はハルヒに無理矢理首根っこを掴まれて連行されて来た懐かしの……屋上に通じる資材置き場にハルヒを呼び出していた。
誰にも話しを聞かれる心配がなく、かつ誰もやって来るはずがないであろう場所、校内広しと言えどそんな場所は限られている。
元々、すでに校内においてクレイジー集団として公私ともに認知されている我らが謎の団体『SOS団』の団長様と、その側近にして雑用係にいつの間にか位置づけられてしまった俺との間に交わされる会話なんてモノに、耳をそばだてるような奇特な人材はいないであろうとは思いつつ、如何せん俺だって青春まっただ中の男である。
万が一、谷口になんて話しを聞かれたら……
話しに尾ヒレ背ヒレに胸ヒレ腹ヒレを追加して、エラ呼吸をしながら肺呼吸もできる謎のUMAに仕立て上げられた上で、校内全体にウワサを流されてしまうに違いない。
「ハルヒ……まぁ、そのなんだ」
しかし、まさか俺が、俺の意志で、こんな言葉を言わなくちゃいけないような状況になるとはな。
果たして、ハルヒに誤解を与える事なく、どのようにして言葉を伝えたら良いものか……俺は小学校3年生の夏休み終了前夜に国語のドリルを1冊やり忘れていた事に気づいた時以来の真剣さで悩んでいた。
どう考えても、俺がハルヒに伝えなくてはいけない言葉は、そのまんまの意味じゃないか。
どんな変化球を投げたとしても完全にホームランは必至。
9回裏に2アウト満塁の状態でホームラン予告をされた若手投手の心持ちとはこの事だ。
ストレートで投げるにはいささか芸がないようにも感じるが、変化球を下手に投げて結局ホームランを放たれては立ち直る元気も出ない。
果たしてどうしたものか……
「何よ、言いたい事があるならハッキリ言いなさいよ!」
そんなに急かさんでくれ!
などという心中の叫びなどおくびにも出さず、俺は落ち着かない視線を四方八方に飛ばしてしまう。
ああ、なんだこの初々しい俺の反応は。
屋上へ通じる錆び付いた鉄製の扉を背にして、腕を組みイライラとしたように落ち着かない様子でギロリと視線を送ってくるハルヒに伝えなくてはいけない言葉が、そもそもストレートすぎるんだ。
もうちょい俺のピュアなハートに配慮ってモンがあったって良いんじゃないか?
「ハ、ハルヒ、その……えっと……」
「な、何よ……」
だめだ、俺の眠れる脳みそを全稼働させても、この言葉をストレートに伝える以外の手立てがないじゃないか!
その言葉まんまの意味で、一切の含みも誤魔化しもなく、数ミリとしてブレのない完全なストレート投球。
……ならば投げるしかない、この利き腕で。
俺は全力で阻止しようとし続けている理性に『グッバイ、俺のネイチャースピリット』とハラリと手を振ると言い放った。
「ハルヒ、今日、俺の部屋に泊まりに来ないか?」
この、全人類が赤面し、近隣の知的生命体が住む惑星の住民達に至っても振り向いて「ぷっ」と吹き出されそうな恥ずかしいセリフを口にしなくてはいけなかった経緯は、昼休みに入って間もなく、文芸部室で俺と長門との間に交わされた会話にまで遡らなくてはならない。
1週間にも渡って見続けた同じ夢、今朝は目覚める直前に夢の中に長門が出現するという出来事に遭遇し、いよいよ『その夢がただの夢ではない』と認識を新たにしなくてはならなかってしまった。
確かに同じ夢を1週間も見続ける事自体、おかしな話しだったのだろうとは思う。
しかし、長門の介入は、その夢への考え方を180度変えるだけの説得力を持っていた。
所詮は夢、たかが夢。
もし部室に行って、そこに長門がいなかったとしたら、俺はあるいはホッと胸を撫で下ろす事ができるのかも知れない。
だってそうだろう?
すでに毎日の中に超能力者に未来人、果ては宇宙の管理人もどきが送り込んできたスーパーアンドロイドが身近にいる、という非常識な展開が浸透してしまっているんだからな。
それに加えて、夢にまで非常識が浸透しているんだとしたら、俺の心休まるオアシスは睡眠時からも失われてしまう。
……俺は決して、俺の身の回りで起きている非常識な面々のチンドン騒ぎが嫌だって思ってるわけじゃない。
だけど、俺はごく普通の一般高校生として、あのその気になれば世界征服だってやり兼ねないSOS団の良心であるべきなんだと思いたい。
でも、今の取り巻く環境が楽しくて仕方がないと思っている事も確かなんだ。
部室と廊下を隔てる扉のドアノブに手をかけ、ガチャリとそれを回した俺は、ああ、やはりあの夢はただの夢なんかじゃなかったんだな、とホッとしていた。
おかしな話しだな、窓際のパイプ椅子にチョコンと腰を下ろして分厚い本に視線を落としている長門がいても、いなくても、俺はきっとホッとしていたのだろうから。
「よっ、長門」
軽く手をかざして言葉を放つ俺に、長門は顔を上げると珍しく「待っていた」と言った。
窓際には強い日差しが降り注ぎ、それを避けるように僅かにパイプ椅子をずらして座っている長門。
窓は開かれて僅かに風が流れ込んでは来ているが、室内はムンとした熱気に満たされている。
そんなサウナのような室内にあっても、さすがは長門、汗1つかいてすらいない。
スッと立ち上がり、パタンと本を閉じた彼女はパイプ椅子の上に本を置くと、足音もなく俺に近づいて来る。
「……長門、つかぬ事を聞いてもいいか?」
「なに?」
「あの夢は、一体何なんだ?」
「説明する」
相変わらず句点を使う暇を与えない、ぶっきらぼうな口調で彼女は言い、俺は近づいてくる長門を部屋の真ん中に置かれたテーブルのパイプ椅子に座るように促した。
「あなたが見ていた夢は、現実」
テーブルを挟んで向かい合った途端、突然に長門は言い放つ。
肘をついて、どんな難しい言葉が飛び出してくるのかと身構えていた俺は、正直面食らった。
「現実?どういう事だ?」
「その言葉の意味のまま、あなたが見た夢は、夢ではなく現実だった、という意味」
そう言えば、俺が初めて長門に情報統合思念体という言葉や、彼女の正体を明かされた時もそうだったな。
意味は分かるのに理解できない。
そのままの意味なのに、それを受け入れる事ができない。
あの時に感じた違和感と言えばいいのだろうか、自分の常識の全てをひっくり返されたような心境を、俺はまた感じていた。
『夢が現実』
その言葉の真意は推し量れないが、それはひとまず置いておいて、俺はとりあえずの疑問を投げかける。
「俺は……夢の中で、どこにいたんだ?」
「幻想郷、という場所」
俺はこの時初めて、その名を聞いた。
幻想郷、俺はその後、嫌というほどその名を耳にする事になる。
でもその時の俺にとって、その言葉はまだ聞き慣れない、初めて耳にした名前だった。
「……夢の中で、俺はそこに行っていた、という事か?」
「そう」
長門の曇りのない真っ直ぐな視線が俺の顔を凝視している。
いつになく真剣……なような気がした。
「この幻想郷と呼称される閉鎖的特異空間については、情報統合思念体も認識していた」
そして一つ息を置いて、長門は、そうあの時のように。
長門の部屋で、お茶をたらふく飲ませてくれて、その後に話してくれた時のように、話し始めた。
「幻想郷という場所の存在は認識していたが、幻想郷に居住する者たちが『結界』と呼ぶ位相空間の複合波に類似する障壁が観測を阻害して来た。現状において、正確な全容を知るには情報不足。しかし、今回の一連の出来事により結界は弱体化し、夢という手段を用いて、その内外との通信が可能という状態に至った」
「その……げんそう…何たらって所は、古泉が言っていた閉鎖空間みたいなものなのか?」
俺はあの灰色の世界を思い出して鳥肌を立てた。
色と音のない、まさに静寂と虚無が支配する世界。
いつぞや、ハルヒと俺が放り込まれて、危ういところで世界が滅亡しかけたなんて事もあったな。
「異なる。閉鎖空間は次元と次元の間に強制的に発生した、例えるとしたら時空同士の間に膨らんだ風船のような物。しかし、幻想郷と呼ばれる空間は、涼宮ハルヒのように特別な能力を持った、特定の何者かによって生じたものではなく、空間そのものの中に発生しながら、内外から、相互の認識が不可視であり観測できない状態にある」
「……つまり、俺たちのいる世界にあるのに、俺たちには隣にあっても見えない、という事か?」
「その認識で間違いない」
古泉や、ハルヒの意志なくしては入り込む事もできない、次元と次元の間に生まれた空間。
それとは異なり、全然別物が実在する……なんて事を俺は信じられなかった。
でも、現実なんだろうな。
何しろ古泉に見せられちまったんだから。
あの灰色の、無機質な世界を。
だが、その世界が実在するとして、俺にはどうしても解せない事があった。
「しかし、どうして突然に……その、げんそう…」
「幻想郷、幻を想うの『幻想』に、故郷の『郷』」
「幻想郷か、そこと何でまた、やり取りが突然にできるようになったんだ?」
しかも俺みたいな一般人代表みたいなごく普通の高校生なんかに。
そうだ、どうして俺なんだ?
「幻想郷が、あなたを必要としていたから」
俺は一瞬、その言葉を受け止めようとして、違和感を感じ顔を上げた。
幻想郷が俺を必要としていた、だって?
「待ってくれ、長門はさっき、幻想郷という『空間』と言っていたよな……空間にそんな『必要』とか考えるような力があるものなのか?」
当たり前の問いかけだった。
俺は恋する乙女に必要とされているような願望があっても、そんな謎の多いミステリアスな不思議空間に必要とされるような心当たりは一つだってありはしない。
それに、その『場所』が俺を必要としている、という意味も分からなかった。
神懸かりのような得体の知れない話しだと思わないか?
まさか人身御供にでもされるんじゃないだろうな……
「空間には思考力や人格的要素はない。ただし、『集合的意識』あるいは『情報統合思念体』の前例があるように、情報の1つ1つを固有の回路として用いる複数個体の集合という意味合いにおいて、あり得る」
「その……集合的意識…が、俺を?俺なんかをどうして?」
朝は寝坊して、夜は夜更かし。
果てはSOS団の雑用係として奔走する、この俺をどうして?
「その件に関しては調査が不足しており断言できない。ただし、あなたを幻想郷という集団的意識は求めている」
……長門の話しを完全に理解できた人は、ぜひ挙手願いたい。
そして俺に説明してくれ。
「……長門、聞いてもいいか?」
「なに?」
「俺は……一体どうすればいいのか、さっぱり分からない」
俺が見ていた夢が実は夢ではなく、俺は幻想郷という場所に行っていた。
あの赤い謎の服を着た少女と、紫色のドレスを着込んだ女性、あの二人はおそらく幻想郷という場所に住む人間たちなのだろう。
あの二人は俺に何かお願いをしたり、命令をしたりしただろうか?
俺の記憶では「どうしてここにいるの?」と首を傾げているようにしか見えなかった。
長門が言う集団的意識というモノが一体どういう存在なのかは分からないが、ただ単に『求められている』だけでは行動なんで出来るはずがないじゃないか。
「あなたの行動は、あなたが決めるべき。私はその意志決定に従う」
「……そう…か。そうだな、いつもそうだった」
俺の気持ち、俺が一体どうすればいいのか。
はっきり言おう、全く分からない。
だって、そうだろう?突然に幻想郷に求められているなんて言われても、一体どうしたらいいものやら……
夢が夢ではない、俺が幻想郷に行っていた、そして俺は長門に夢の中で言われた。
……そうだ、俺は長門に言われたんだ。
「長門、夢の中で俺に言っていたよな。……確か、俺にとって大切……違う、こうだ。『とても大切な事。あなたにとっても、私にとっても』あれは、どういう意味なんだ?」
「文字通りの意味で、あなたにとって大切、という事」
「じゃあ、長門にとっても大切、という事は、俺の選択がお前にとっても大切だって事なのか?」
「そう」
「……荷が重い話しだな」
だが、実際の所、俺の中ではすでに答えなんてものは出ていたんだと想う。
幻想郷という場所が俺を求めている、その意味する所は分からないが、1週間見続けた夢、そして長門の介入。
俺にとって大切であり、長門にとっても大切である事。
そして、俺はその時は気にもしていなかったが、その時の俺は知る由もない『八雲紫』にとっても大切である、という事。
全てをひっくるめて、俺は自分の選択肢が元々1つしかなかった事を知っていた。
そして、俺の好奇心はその幻想郷という得体の知れない世界に十分すぎるほど刺激されていた、というのも正直なところだった。
「……行くか、幻想郷って所に」
「そう」
無表情に帰って来た長門の言葉。
でも、俺にはほんの少しだけ長門の顔に喜びにも似た、小さな変化が含まれていたような気がした。
今にして思うと、もしかしたら長門は知っていたのかもしれないな。
そして今にして思えば、俺の選択はきっと間違っていなかった。
俺が幻想郷に行く、そう決めた時、ドラキュラ少女が言う『運命』は動き出していたんだ。
「幻想郷に行くためには、現在不足する情報を補う必要がある」
すでに俺の回答を知っていたかのように、長門はそう言うと再び真剣な眼差しを向けてくる。
真っ直ぐな瞳だ、俺はいつも思う。
小柄な体、大きな瞳、肌には曇りの1つもない。
周囲から見ると、真剣な顔で向かい合う俺たちはどう見えるのだろう?
長門の恋愛相談を俺が聞いている……とでも思われるんだろうか?
しかし、ティーンファッション誌の表紙を飾ってもおかしくない……と言っても言いすぎではないだろう。
美少女と呼ぶに相応しい長門と向かい合って、昼休みを過ごすのも決して悪い気はしない。
だけど、俺は思うんだ。
昼休みは、長門と会話をするためだけにあるもんじゃないだろう?
「長門、話しの前に1つ頼みがあるんだ」
「なに?」
「俺に昼飯を食わせてくれないか……」