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「くすぐりの塔」はキャンサーさんから作品が届き次第、ちゃんと更新していきます!
(今は公開させていただいた作品が手元に届いているすべてです)
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2010/10/02(土)に投稿された記事
くすぐりの塔R -第2話- 『塔』
その特異な政策と、辺境に隠れ住んでいる事を省けば、特に問題のない平和な国に、突如として魔王を名乗る男が襲来した。
魔王は一方的にメルフィメールに伝わる秘宝と魔獣を引き渡すように要求すると、メルフィメール領土内に隠されていた『遺跡』の中へと姿を消す。
今、国民の誰もが知り得ていなかった遺跡の中のある部屋で、『休眠』状態となっている魔獣復活の第一段階が進められていた。
「準備、出来ました」
魔王が引き連れていた従者二人が、主の待つ部屋へと戻ってくる。
そこは、直径が2メートル近い大きな宝玉が中央に設置されているだけの部屋で、その宝玉の前に立っていた魔王は、無言のまま振り向いて、諸準備を済ませた従者を見やった。
その宝玉の放つ僅かな発光現象のみを光源とした、薄暗い室内にいる二人は全裸の男性であったが、その実体は現在の文献に記されていない種類のライカンスロープ(獣人)と、スライム体質の人間であった。
今し方終えた作業を行うには、戦闘形態とも言うべき実体より人間の姿の方が都合がよいため、その姿を戻していたのである。
「いつでも行けます」
二人は小さな宝玉を手にして言った。
それを見た魔王が小さく頷くと、二人の従者は同時に手にしていた宝玉を握り潰す。と、同時に、ここから離れたとある六箇所の部屋で爆発が生じた。
【バースト・ジュエル】
一対の小さな宝玉と、掌サイズの宝玉複数が一組となったマジックアイテムで、小さな宝玉二つを同時に潰すことによって、ある波長の魔力が瞬間的に開放され、セットになっている掌サイズの宝玉がそれを感知すると、蓄えられていた魔法を一気に開放する仕組みとなっている。
これには幾つか種類があり、周囲を焼く火炎系の魔法が仕込まれた物、逆に周囲を凍結させる冷凍系の物や、眩い光を放つ目眩まし用の物もあり、規模の大小で戦争・暗殺・悪戯と、幅広い使われ方をしているが、その規模・威力が大きいほど、入手は困難なものとなっている。
彼等が使用したのは爆裂系のタイプで、設置対象近辺の物を破壊する用途の物だった。
使用されたその数は六つ。六箇所同時に爆破が行われた直後、魔王の前にある大きな宝玉が、その輝きを増し始めた。
「成功・・・・だっ!!」
その照り返しを受けながら魔王は嬉しそうに言うと、次の瞬間、その光に負けない程の光を纏った拳を宝玉に叩き込んだ。
宝玉は、その一撃を受けて粉々になり、散った破片はゆっくりと崩れて砂と化す。
宝玉が完全にその痕跡を消すと、光源を失った室内は再び闇が支配する空間に戻った。
灯火もない室内は、完全に闇一色の世界であったが、それも長くは続かなかった。遺跡内に新たな変化が生じ始めたのである。
失われた宝玉の光に代わるかのように、宝玉の台座が僅かに光り始めたかと思うと、その発光現象が台座から敷石~壁、そして天井へと広がり、瞬く間に遺跡内全体へと広がりをみせたのだ。
遺跡内全体そして天井各所に埋め込まれていた幾つもの宝玉が光を放ちだし、遺跡内における闇の支配を覆す。
『遺跡』が再び活動を開始し、遺跡とは呼べない存在になった瞬間であった。
「さて、目覚めの時だ」
こみ上げる嬉しさを押し殺して魔王は呟く。
遺跡の変化は内部に止まらず、むしろ外部の方で劇的な変化を見せていた。
遺跡を覆っていた岩山が地震のような地響きと共に震動を放ち、その形を崩し始めた。
そして、邪魔な岩壁を振り落とすかのようにして、中から石造りの塔、正六角の台座の上に佇む円錐形の人工物・・・・が出現したのである。
この様子はメルフィメール国内の大半、そして城内からも確認する事ができた。
事の成り行きを知らない国民達は、突然の事態におののき、城内の者達は例外なく魔王と名乗った男の仕業と直感した。
災いの予感、争乱の前兆、禍々しき存在の降臨・・・凶兆以外の連想が出来ない事態に、城内は重苦しい空気に包まれた。
「すぐさま調査を!」
そんな中、何らかの打開策を成されなければならない王女フレイアは、あまりにも乏しい情報という現状を打開するために、当面の指示を下し、命を受けた数名の衛士が謁見の間を飛び出していった。
(まさか本当に・・・!?)
フレイアは声にすることはなかったものの、その表情には不安感が滲み出ていた。
魔王の語った事が嘘とは思えなかったが、こうも早く、かつ、こうした形で表面化するとも思ってはいなかったのだ。
事の真実を知らないとは言え、伝承によれば魔獣は『封印』されていたのである。正確なところはまだ把握してはいないが、少なくともあの塔の出現は、その封印に絡んだ何らかの現象だろうと彼女は考え、そしてそれは的はずれな推測ではなかった。
無知なる事も罪ではあったが、事態が進展がここまで急速に行われるなど、誰が予想したであろうか。
フレイアは降って湧いたような事の成り行きを夢だと思いたくなっていた。
実質、彼女達を襲った『敵』の数はあまりにも少ない。
だが、惨めなことに、今のメルフィメール国内のに残留する戦力では、その少数にも太刀打ちできないのも事実であった。
したがって、命を受けた調査隊は、塔の内部潜入などは当初より断念し、遠方からの監視で可能な限りの情報収集を行うことに専念していた。
魔王一行は塔内にいる可能性が高いと判断していた調査隊は、とにかく外周の情報だけでもかき集めようと数班に分かれて周囲を移動・視認調査を行う。
その最中、隊長リリアが率いる班が『それ』を発見する。
林の中、木々から伸びる半透明の粘着性物質に絡み取られ、四肢をX字状態に固定されたままの状態で項垂れているエリザであった。
「エリザ!」
彼女を知るリリアは、仲間の惨状を目の当たりにして思わず声をもらした。
その状態もさることながら、特に調査隊の一同が痛々しく思ったのは、全ての鎧を除装され、アンダーウェアすらもほとんどが解けたように、ほんの僅かな部分を残して付着しているだけで、ほぼ全裸状態になっている事だった。
女性ばかりの国とはいえ、羞恥心と無縁という訳ではない。むしろ、忌み嫌う『男』によって、その仕打ちが成されたかと思うと、彼女に対する同情と、敵に対する憎悪が相対的に膨らんでいった。
この事態を見て、誰もが魔王一行の仕業と断定し、このあまりな仕打ちから早々に仲間を解放しようと近づく。
その気配に気づいたエリザは、視線のみ僅かに動かして相手を確認すると身動きすることなく、意外な言葉を叫んだ。
「リリア・・・?だ、だめ!来ないでっ!」
「!?」
思いもよらなかったエリザの言葉に、リリア達は顔を見合わせその意味を理解しようとしたが、周囲の状況だけではその答えを得ることは出来なかった。
実際、周囲には敵の気配はない。その一方で、罠とも思える状況ではあったが、それらしい仕掛けや痕跡も見受けられず、彼女が何に警戒を促したのか皆目見当もつかなかった。
何より、彼女を救わんとする義務感が多少の危険を顧みない心情にさせていた。
それが結果的にエリザの新たな不遇へと繋がる。
「だめっだめっ!」
か細いながらも必死に懇願するエリザを、一瞬の錯乱状態と判断した一人が、とりあえず解放だけでもと、方々に延びて彼女をX字に拘束している粘着物質に剣で触れた瞬間、エリザは弾けたように身を震わせた。
「いやぁはははははははははは!あっ、あはっ、あはっはっははははあ~~~っはははははは!!」
エリザは狂ったように笑い悶えると、自由のきかない身体を必死に捩らせ一同を驚かせた。
「エリザ、どうしたのよ?」
「だめ~~~~っっへへへぁひゃはははははははっ、うごっ、うごかさないっ・・・きひひははは、触れないっっでへひゃぁははははは!」
当のエリザからは事情が得られない一同ではあったが、悶笑と言う状況が外的要因である事を示唆している。
それを悟ったリリアは、現時点で唯一彼女に影響をおよぼすことの可能な物体である、粘着物質に視線を移すと、エリザの身体にまとわりついていたそれが、小さな振動を含めた動きで脈動し、いたる所を刺激していたのである。
「いやははははははははは!あははあははははは!やめっ、やっっっ~~~っははははは!」
エリザは全身を駆けめぐるくすぐったさに耐えきれず、尽きることのない笑い声をあげ、その苦しさから逃れようと、そして四肢の自由を取り戻そうと必死に足掻いたが、粘着状物質は、数本のツタがまとまった程度の細さでありながら、見かけ以上の弾力と剛性を有しており、彼女の抵抗を封じ、その身体を虚しく振り乱すだけに留めていた。
「きぃっひひひひっひぁはははははあはははは!いひゃはははっはははは・・・・」
エリザの身体に絡みつく粘着物質は、彼女が身悶える度にその動きを活発にし、その付着面積を広げて徐々に彼女の身体を覆っていく。それに比例して彼女を襲うくすぐったさは増大してゆき、更に彼女をのたうち回らせる。
エリザには、それを押し止める手段はなく、唯一許された笑い悶えると言う行為を延々と続けるしかなかった。
「ははははははっはははっっははははあ~~~ははははははは!!くるっ、くるしっっははひゃぁっっははははは!あ~~~~~~っっははははは」
咳き込み、むせながらも笑いを続け、地面に倒れる事すら出来ないエリザの地獄は終わる様子を見せなかった。
否、実際にはエリザは、この地獄から抜け出す手段を二つ知っていた・・・と言うより、知らされていた。
今、彼女を笑い地獄に突き落としている粘着物質は、先に闘ったスライム人間が自身の身体の一部を利用して施した物で、粘着物質に対する一定の刺激あるいは動きに反応して彼女をくすぐる仕組みになっていた。
その動きが大きいほど、粘着物質の責めは激しくなる一方、大人しくしていれば、粘着物質は徐々に小さくなり、やがては消滅する・・・・と言う仕組みだったのだ。
これを施したスライム人間は、しばらく自分達の邪魔をしないようにするための一時的な拘束処置・・・・と、していたが、その実は、辛辣な悪意を含んだ罠でしかなかった。
大人しくしていればやがては解放される仕組みとはいえ、粘着物質の消滅速度はかなり遅い上に、彼女が大人しくしていても枝と間違って止まった小鳥などの接触にも反応して作動した上に、一旦くすぐりが始まると、彼女には身悶えるのを止めようがなく、結局は気を失って動きが止まるまで、笑い悶える事になるのである。
そして気がつき反射的に身を動かす、あるいはまた鳥や虫による反応で悶笑する・・・・を繰り返すのである。
そして今、運良く身動きしないまま覚醒したエリザは、じっと我慢して時の経過を待っていたのだが、助けに来たはずの仲間によって再び地獄の門をくぐってしまったのである。
「あっあっあぁぁぁ~~~~~~~~~」
こうなるともう止める事は出来ない。身体にまとわりつく粘着物質は彼女がくすぐりに反応する度にその動きを巧みに変化させ、その範囲を広げていく。
そうして休ませる暇を与えないまま、気絶に至るまで責め続けるのである。
この様相を目の当たりにしたリリアは、悪意の秘められた悪循環をおおよそながら悟った。
「しっかりしてエリザ!」
リリアは自らの行為が彼女を苦しめる結果に至った事を悔やみつつ、一刻も早く彼女を助けようと、力ずくで粘着物質を引き剥がしにかかる。
だが、粘着物質はエリザにピタリと貼り付いて巧みな刺激を加えているにも関わらず、リリアが触れた部分は大量に水を含んだ泥のように、彼女の指の隙間から流れて、殆ど掴み取ることが出来なかった。
「くぅひひひひひひぁはははははっははははは・・・リリ・・・アっっっっっははははは・・・・」
エリザは度重なるくすぐりによって朦朧とした中で、自分を助けようと懸命になっているリリアの姿を見て、「もう一つの脱出方法」を思い出していた。
それは自分一人では到底不可能な手段ではあったが、今ここには、それを可能とする仲間達がいた。
だがそれでも、彼女はその選択を選ぶことを躊躇していた。
危険が伴うわけではない。困難な手段でもない。ただ、絶対的に生じる弊害を知るが故に、躊躇いを生じさせていたのである。
しかし、そんな彼女のささやかな理性も、表面積を増す粘着物質によるくすぐり責めの前に、徐々に崩壊しつつあった。
「ひぃ・・ひぃ・・・ひぃやぁははははははは!あっ、あぁっぁあぁぁっっはははっはははははははは!ぎぃやぁははっっはははははは!!」
そうしているうちに、ウエストのほぼ全体を粘着物質が覆い尽くし、腰回り一帯に何十ものミミズが這うような刺激を受けたエリザは、一段と狂ったような奇声に近い笑い声をあげながら、激しく腰を振り乱した。
「エリザァ!」
振り払おうとするその行為が無駄と分かりながらも、身体の反応を押し止める事の出来ない彼女の狂乱に痛々しさを感じたリリアは、無力さを実感しながらも粘着物質除去に尽力する。
だが、何度手で粘着物質を掻き分けても、浅瀬の水面のごとく復元して徒労に終わる。
もうどうしようもない・・・・と、リリアが諦めかけた時、エリザの理性が限界に達した。
今までなら悶絶気絶しか道がなかった彼女に与えられた、選択を躊躇わせる光明。
極限に来ていた彼女は、遂に「それ」にすがったのである。
「ちぇ・・・チェンジィィィィ!!!」
全てを振り絞るような声だった。もちろん、リリア達にその意図は分からない。分からないままに状況だけが推移していった。
エリザを絶叫と共に、彼女を責め立てる粘着物質が、その動きを止めたかと思うと、次の瞬間、引き剥がしを行っていたリリアの手を伝って、彼女の方へと移動を始めたのである。
それは瞬く間であった。
リリアが事態に気づいて離れようとする頃には、粘着物質の半分が移動しており、残るそれも、長い蛇の様に一本に繋がったまま、一気に彼女の身体へと移り変わった。
「!」
リリアは異質な物質に纏わり付かれた事に悪寒を感じ、反射的に引き剥がそうとしたが、粘着物質は今度はトリモチ状に変質して張り付き、引き伸ばすことは出来るものの、離れる様相は見せなかった。
そして、エリザの四肢を捕らえていた分も含む全ての粘着物質が移動を完了すると、それはたちまちリリアの服と鎧の隙間に潜り込み、肌に直接接触し始めた。
「ひぅっ・・・ううぅっ!」
たちまちリリアの不快感が一気に増大し、両腕を振り乱して身体を庇ったが、鎧の上からではどうしようもない上に、あらゆる箇所から入り込むそれを抑える手段などあるはずもなかった。
そして難なく中に入り込んだ粘着物質は、すぐさま行動を開始する。
「はぅっ・・・ひぃっ!」
突如リリアが背を仰け反らせた。
潜り込んだ粘着物質が服の下で幾条もの触手形態に変形して、彼女の背筋を尻の割れ目からうなじ付近まで撫で上げたのである。
見た目の不快さに反する感覚に、リリアは身震いした。
「こ、今度は私を嬲るつもり!?」
どうするにしても、まずは粘着物質との接触を妨げている自分の鎧を除去しなければならなくなった彼女は、すぐさま胸当ての留め具に手を回したが、そうした行為を察知したのか、粘着物質が新たな動きを始め、触手状に伸ばした一部を彼女の両腋の下に潜り込ませ、腋の下全体を激しくこね回した。
「・・・・・・!きぃやぁっっはははははははははは!やはははははははは!!やめっきゃめぇ~~~~!」
いきなりの腋の下責めに、リリアは留め具に回した手をすかさず両腋の下へと移したが、上から押さえつける程度の抵抗では、触手の蠢きは止まる事はなかった。
「あ、あ~~っははははははははは、は、はっ、はひひゃははははははははは!!」
笑いながら身を振り乱して、左右によろめくリリアの姿は、傍目には踊っているようでもあったが、見えないところで施されている腋の下くすぐり責めは、その蠢きの強弱や踊るパターンを多彩に変化させて、慣れていくゆとりを与えようとはしなかった。
リリアも腋の下を手で押さえる他、腋を閉じようとも試みたが、胸部を包み込む鎧のパーツが完全に腋を閉じる事を邪魔し、適度な隙間を作り上げる結果となっていた。
「いやっっはははははははははは!よ、よろい、鎧がぁぁぁ~~~~っははははははっはははははは!!」
本来、我が身を守ってくれるはずの鎧が、我が身を庇う行為の邪魔になると言う皮肉な状況に陥ったリリアは、初めて鎧の存在を恨み、その留め具を外そうと努力したが、新たなくすぐったさがわき起こる度に身体がたまらず反応して指が離れてしまう。
しかも、粘着物質が責めるのは、腋下や背筋に留まらず、首筋・腋腹・腹回り・脚の付け根や太股と言ったポイントへと広がりを見せて行った。
そして、それらのくすぐりポイントに到達すると、指先サイズの触手形態の先端でこねくり回す。
「きぃぃぃぃやぁっっっはっははははははははははっはははははは!!!!あはっあははははははあぁぁぁっははははははは!!!!」
それは各所のくすぐったく感じるツボを、指先で指圧して震わせ刺激する行為に近く、新たに数ヶ所で起きたくすぐったさに、遂にリリアは倒れ込んで、釣り上げられた魚のようにのたうち回った。
「たすっっっへぁっっははははははあはははははは、たす、たっ・・・助けてぇぇぇっっははははははははははは!!」
リリアは、弾ける様にのたうつ身体と、込み上げる笑いを抑える事が出来ないまま、必死に仲間達に懇願した。
「ご、ご免なさい・・・・・」
この場の中で、その苦しさを唯一理解できるエリザが、喘ぎながら呟いた。
「ど、どうなってるの?」
女戦士の一人が項垂れるエリザに駆け寄った。
「ご免なさい・・・・」
彼女は改めて呟くと、悲しげな視線で笑い悶えるリリアを見た。
「ずっと・・・・スライムが消滅するまでずっと、身動きしない事と・・・・あれが、私の解放されるもう一つの手段だったの・・・・」
エリザは語る。それは即ち、責め苦を受ける代役を立てる事。
ある一定距離に、自分以外の人間がいた時にだけ得られる非情な選択。自分が受けている耐え難いくすぐりを他人に肩代わりしてもらうと言うこの手段は、当然、容易には選択出来ない。
もともと周囲に人気がない環境でそのような選択を用意しているのも辛辣ではあるが、環境が整ったからといって喜々として実行できるわけもない。
代行となった人物がどうなるか、我が身で知るエリザは、無論その選択を拒むつもりであった。だが、極限に追いつめられていた彼女は、結局のところ、自分が助かる道を選択してしまったのである。
それは、状況から考えれば責められるものでもなかったであろうが、仲間を身代わりにしたという罪悪感はどうしても自身につきまとう。
エリザは事態の経緯を語り終えると、ようやくにして解放された安堵感に襲われてか、がっくりと力つきて気を失った。
「はやくっはやく、なんとかしてぇ~~~~あぁっははははは!」
今なお身悶えるリリアを見て、無事な一同は困り果てた。
「鎧をっ!鎧を外してぇ~~~っっへへへぁははははっははははははは!」
リリアの悲痛な叫びに、一同はおそるおそる彼女へと近づく。
無難に対処できるとすれば、彼女が望むように除装し、身動きできないほどに拘束して粘着物質の消滅を待つしかない。
だが、粘着物質の状況を知ってしまった彼女等の行動には躊躇が見られた。
何かの拍子に、自分も代行者になってしまうかもしれない・・・・
そうした恐怖が、どうしても積極的にリリアに近づく決心を鈍らせたのだ。
それは、事情を知ってしまっては仕方の無いこととも言えるが、そうしている間にも粘着物質は遠慮なくリリアを責め立てる。
彼女がどの様に手足を振り乱し、あちこちに転げ回ろうと、くすぐったさは一向に変化しない、否、逆に激しくなっていく。
「ひひひっひひひひひひひ!はぁ、はははははははははははっ!お願いぃ~~~~ひひひぁはははは、もう、もう、止めてっっっくぁっっっっははははははっははははは!」
すっかり土に汚れて尚、リリアの悶絶は続く。それは決して彼女を休ませまいとする、粘着物質の意志にも思えた。
自由に身悶え、身体が動かせる分、彼女に、気絶という一つの逃げ道に達することが、なかなか出来なかった。
そうして、全員が何も出来ないまま、無意に時間を費やしている時、一つの転機が訪れた。
身悶え続ける彼女の前に、不意に一人の少女が姿を現したのである。
「!」
「忍者隊!?」
その独特の軽装と装備で、一目でそうと分かる少女は、無事な一同には目もくれずに跪き、足下で悶えるリリアに触れて静かな口調で言った。
「交代を・・・身代わりを宣言して下さい」
「!?」
それを聞いた一同は耳を疑った。首から下を網タイツとも思える極細の鎖帷子で身を包んだ上に、短い着物の様な衣類を羽織った忍者少女は、自らを生け贄にする事を躊躇なく言ったのである。
「何?何を・・・ぃひひひひひひひ」
先程のエリザの説明を聞くゆとりなど無かったリリアは、その意味が分からなかった。
「いいから、交代・・・あるいはエリザさんのように、チェンジと言えばいいはずです」
「ちぇ、チェンジ?」
意味も理解できず復唱した言葉に、粘着物質は敏感に反応した。
鎧の隙間からあふれ出したそれは、最も手近な所にいた忍者少女に飛びつき、絡みつき始めた。
「!!」
唐突な出来事に、一同が身を引くが、対して忍者少女は無言のままそれを受け入れ、静かに立ち上がった。
そして、間もなくして全ての粘着物質が忍者少女へと移行したものの、彼女は身じろぎ一つせず、無言のまま佇んでいた。
「何?どうしたの?」
全く反応を見せない忍者少女を一同はじっと見据える。
『近づかないで下さい』
それは忍者少女の声だった。しかしそれは、目の前からではなく、彼女等の背後から放たれた声だった。
「!?」
一同が驚いて振り向くのと入れ違うように、一つの影が一同の間をすり抜け、地面に伏したままのリリアに駆け寄ると、すかさず彼女を抱えてその場から離れた。
「また忍者!?」
同じ着衣で現れたもう一人の忍者少女は、ある程度の間合いをあけると、間髪入れず粘着物質に覆われた少女に、一本の手裏剣を投げつけた。
「!?」
意外な事態に一同が再び驚くと同時に、手裏剣が忍者少女の胸に命中した・・・かと思うと、その手裏剣から、正確には手裏剣の中央に仕込まれていた宝玉から激しい炎が上がり、彼女を包み込んだ。
「あ、貴女、一体何を・・・・・!?」
詰め寄る女戦士の言葉はそこで途切れた。リリアの代役となった忍者少女と、今、目の前にいる忍者少女が同じ顔をしていたのである。
「な、何?双子?」
「まさか・・・・・あれはクグツです」
忍者少女は失笑して言った。
「くぐつ?」
「忍者隊秘蔵のアイテムを使って構築した、泥と木の身代わりです。あれに一旦、スライムを移して、諸共に焼き払ったんですよ」
「へぇ~」
「あ、有り難う・・・・助かったわ・・・」
忍者少女に抱えられていたリリアが息を乱しながらも言った。
「いえ、エリザさんの話をこっそりと聞いて、対処法を準備するまでに時間がかかってしまって・・・・」
忍者少女はばつが悪そうに言った。
「いつの間に・・・・・・」
実際、彼女達は忍者少女が姿を現すまで、その存在を全く認識していなかった。本来なら、仲間の窮地に姿を現しても良さそうなものではあったが、そうしないのが忍者隊でもある。
実際、通常の隊と忍者隊のこうした接触も珍しいのである。
「でもどうして忍者がここに?」
「魔王なる人物の襲撃の急報が本陣に届いた際、情報収集として、私達忍者隊の一部が先に斥候として派遣されたんです」
「そう、もう本隊に連絡が届いたの・・・」
「ともあれ、アレが、敵の使い魔である可能性もあります。まずはここから離れて下さい」
忍者少女は燃えさかる炎に焼かれ、沸騰し蒸発していく粘着物質を見て言った。
一同に異論など無く、気絶したままのエリザを自分の馬に同乗させて自分も馬に乗ると、リリアは眼下の忍者少女を見やった。
「本当に有り難う・・・・貴女、名前は?」
「ルシアと言います」
「借りが出来たわね。返せる物なら、いずれ返すわ」
「構わないですよ」
少々照れたふうにして、忍者少女ルシアは笑った。
「それじゃ、気を付けて」
軽く手を挙げて見送るルシア。彼女には、まだ斥候としての任務があるため、同行する事ができなかった。
リリアも彼女が同行する素振りも見せなかったため、そうした事情を悟り、無用な言葉を出さなかった。
ルシアとリリア達は、炎に焼かれる粘着物質を残したまま、別方向へと走り去っていった。
まだメルフィメールにとっての苦難の日々は始まってもいない。
王女フレイアは、遠征していた主力より帰還するとの返答が伝書鳩にてもたらされたのを聞いて僅かながら安堵した。
魔王の恐ろしさを垣間見、素性の知れない塔まで出現し、言いようの無い不安感を抱いていたが、国内の主力兵達の実力に絶対の信頼を寄せていた彼女は、主力の帰還と同時に討伐を開始しようと目論んだ。
忌々しくも魔王を自称し、男子禁制の歴史を営んできた自国に踏み込んできた不埒な『男』を一刻も早く排除する。そのことでフレイアの頭の中は一杯だった。
それも主力が戻れば実現する。
そう確信する彼女は、自分の部屋のテラスから見える塔に、ふと視線を送った。
今まで岩山に埋もれていたとは思えないほど、完璧な状態で姿を現した塔は、一片の欠損箇所も見せずにそびえ立っていた。
「?」
だが、何気なしに見ていたフレイアの視線が、塔の最上階付近に不統一な箇所があるのを捕らえた。
「あれは!」
フレイアは思わず唸った。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
魔王は即席展望台に改装させた塔の最上フロアの一角に立ち、メルフィメール城のフレイアのいるテラスへと視線を向けていた。
距離的に双方が認識できるのは人の存在の有無程度であったが、両者とも、遠距離で向かい合っている相手が誰かを推測し、それは当を得ていた。
距離のみが互いを隔てる状況で、王女と魔王が抱くのは戸惑いと憎悪であった。
魔王は王女を見る度、心の奥底から沸き上がる単純明快な感情を押し止め、心の赴くままに行動すれば、どれほど晴れやかな気分になれるだろうかという誘惑に耐えていた。
そうして欲求を抑制できても溢れる感情は流石に止めようがないのか、魔王が放つ言いようのない負の想いを敏感に察した王女は、気圧されてその場に留まる状態を保てず、悪寒を抱きながら城内に戻った。
「・・・・・・・・・もうすぐだ・・・」
眺める対象のとなる人物を失った魔王であったが、彼はそのまま城を眺め続けながら、近々行われる『実行の刻』を待つのだった。
Rの1話を書き下ろした事で、自動的に誕生が義務づけられたと言っても過言ではない2話目です。
襲撃シーンなどをもっとシンプルにまとめれば、1話で済んだのかもしれませんが、どうにも「行程」に凝る癖がありまして、この様になりました。
魔獣のシーンだけでは短すぎた事もあり、ルシアがちょい役として登場してしまいました。
ストーリー的に御贔屓キャラですが、まさか従者を倒すわけにもいかないため、放置プレイ(?)された仲間の救助役となりました。
当初ルシアに関しては、お約束のようにキーンと行動を共にしていく案もありましたが、中ボス撃退後の「お約束」や、道中イベントなどの妨げになる方が多いだろうという事で、廃案となった経緯があります。
パーティを組んでいたらどうなっていたか・・・・今でも考える事があり、それはキーン最大の適わぬ夢なのです。