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「くすぐりの塔」はキャンサーさんから作品が届き次第、ちゃんと更新していきます!
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2010/11/24(水)に投稿された記事
くすぐりの塔R -第5話- 『精霊使いシリア』
「お楽しみ」の後の満足感に浸っていた為か、あるいはその者が巧みに抑えている為か、ワードック達の野生は、その視線に含まれた殺気に気づく事はなかった。
視線の主は、モンスター達に自身の存在を察知されないように努めつつも、仲間の惨状を嘆いた。
「なんてこと・・・・」
辺りに同化したその存在は、塔内の数少ない闇の中で怒気を含めた口調で小さく呟く。
「敗軍の女性はああなる・・・・人間もモンスターも結局は同じね」
同じ闇の中でか細い声が通る。普通であれば確実に聞き逃してしまうであろう小さな声でも、「忍者」として訓練を受けた彼女達には十分に聞き取ることが出来た。
出来るものなら今すぐにでも助けに行きたい衝動を必死に抑えながら、ワードックと共に闇の中に消えたミア達を、二つの存在は音もなく追っていく。
それが彼女達の任務だからである。
彼女達の存在はミア達にも聞かされてはいない。彼女達は、相手の真の目的と自分達が知り得ていない情報・・・・とりわけ魔獣の情報を集めるべく、王女に特命を受けたスパイだったのだ。
二人はまず、敵が侵入者を殺さない事を知り、同時に捕らえた者達をどの様に扱うかを知ってしまった。
これが我が身であれば・・・・と、考えると、思わず身震いする二人だったが、さらにその後、何処に幽閉されるかを知っておく必要があると感じ、気配を完全に消してワードックの後を追い始めたのだった。
ワードック達は「犬」であるにも関わらず、尾行者に全く気づかず、通路を、幻影の壁を、隠し扉を進んで行き、やがて大きな石版で閉鎖された部屋の前までやってきた。
「・・・・・・・・・・・・・・」
ワードックの一匹が小さな声で呪文、おそらくは合い言葉であろう、言葉を口にすると、石版は唸りをあげて右にずれ、出入り口を開放した。
「よし、運び込め」
ワードックの一匹が指示し、中に入ろうとした時、その動きが止まった。部屋の奥に何者かの存在を感じたのである。
「誰だ、そこにいるのは?」
「「?」」
二人の忍者は仰天した。だがそれは追跡者である彼女達の事を指摘した発言ではなかった。ワードックは二人とは全く違う方向の通路にある影に向かって威嚇していたのである。
ワードックが威嚇をかけると同時に、奥に潜んでいた存在が歩みだし、その姿を現すと、たちまち彼等の表情が凍りついた。
「!?」
一方で姿を隠したまま様子を窺っていた忍者二人は目を見張った。現在自分達以外に塔内で活動している仲間がいない以上、出て来るのは敵の仲間、すなわちモンスターと予想していたのが、姿を現したのは意外にも人間だったのだ。
フード付きのマントを深々と身に纏い、顔は判別できなかったが、その体型と体つきは間違いなく人間のそれだったのだ。
「あ、貴方は・・・・・なぜここに・・・・・」
ワードック達も予期しなかったのだろう、彼等は狼狽しながらも一斉に跪く。素人目に見ても彼等が緊張していくのがよく分かった。
「気にするな。暇だったので動いてみたくなっただけだ。それとも、俺がここにいては邪魔か?」
フードの奥で落ち着いた男の声が発せられた。
「い、いえ、とんでもありません・・・・・」
ワードック達が視線すら合わせず、萎縮し震える相手に、彼女達は戸惑いを感じていた。
全身を隠しているため、相手の戦闘スタイルや技量の目算すら出来ない事もあったが、フードの人物に対し、ワードック達がああも恐怖する理由となるべき威圧感や殺気などを、全く感じなかったからである。
そう、スパイとしての能力が秀でているはずの彼女達が、あのフードの人物に対し全くの危険を感じなかったのである。
「た、ただ、貴方様がこんな下層に来られるなど思ってもいなかったもので・・・・・」
「上まで来れる奴等をただ待っているのも暇なものだ。「アレ」の様子を直に確認しに行くついでに、塔内の状況視察を兼ねた散歩をさせてもらっている」
意味深に語られた「アレ」と言う単語を耳にした彼女達は、敏感に反応した。現在の状況から推察すれば、それが魔獣を示している可能性は高い。彼女達の関心はたちまち仲間の行方から男が向かおうとする場所へと変化した。
「それでは、この者達を運び込むついでですので、御一緒されれば」
「いや、いい」
「は?」
男の即答にワードックは、躊躇した。
「別の暇つぶしを見つけたのでな、その女達の方は任せる」
フードの陰から僅かにのぞく口が、微妙な笑みを浮かべた。
「左様で。で、では、護衛を・・・・・」
「いらん」
またも即答する男。
「ですが、我々の領域内とは言え貴方の御身は・・・・・・・」
「貴様、この国の連中ごときに俺が後れをとるとでも・・・・本気で思っているのか?」
ほんのわずかに感情のこもった口調で男は言った。
「い、いえ、とんでもない」
ワードックは頭をたれ、床石に視線を固めたまま応えた。男の機嫌を損ねそうになった事がそれほど恐ろしいのか、全身の震えが激しくなっていた。
「ならば貴様は、自分の役割のを果たせ・・・・」
「はっ、御命令のままに・・・・・・」
更に深く頭を下げて当初の作業に入るワードックを見送る事もなく、男は歩み始めていた。
男の足音が規則的に遠ざかるのを確認し、何事も起きずに済んだワードック達は揃って安堵の息を吐いた。
(あの男、幹部か何かみたいね)
(少なくとも、奴等の中では地位がそうとう高いみたい)
(風体から見ると、魔王と一致する部分があるけど・・・)
(その可能性も十分あるわね)
気配を消している忍者二人が、常人では判別すら出来ない独特の発声法で会話を交わす。
((・・・・・・・・・・・))
当初、ワードックを尾行し、仲間の所在を突き止めようとしていた彼女達だったが、その興味は自然とあの男に傾いていた。
あの男を捕らえるか倒すことが出来れば状況に大きな変化が現れるだろう。
相手はモンスターではなくただの人間。もしくは攻撃的身体特徴を持たないヒューマノイド系の生物。
しかも一人。
そうした状況は、無言のままに彼女達を誘惑する。
時として、暗殺も行うべく訓練されていた彼女達二人が協力すれば、負けない自信もあった。そんな思考が一気に彼女達の脳裏をかすめ、結論をある方向へと傾けた。
二人は相談もせず互いに顔を見合わせると、小さく頷いて互いの判断が同じである事を確認すると、尾行の対象を男の方へと変更させるのであった。
男は複雑な塔内を、我が家のごとく黙々と歩き続けた。
その間、モンスターは一匹たりとも姿を見せず、まるで男の存在に怯えて姿を隠しているようでもあった。
機会を窺いつつ後を追っていた尾行者達が、男の目的地に興味を抱きだしたのとほぼ同じ時、彼は大きなホールにたどり着いていた。
円形で広いその部屋は、一見して闘技場にも見える。否、ほぼそうに間違いはない場所となっており、辺りにこびり付く血の染みと臭いが無言のままにそれを証明していた。
その闘技場の中央まで進むと、男はピタリと立ち止まった。
((?))
周囲に何もない状況で意味もなく立ち止まった男に不信感を抱いた二人だったが、その時、その疑問に答えるかのように、不意に男から声が発せられた。
「お嬢さん方、ここに来て、まだ状況を把握できないのか?そろそろ自分たちの存在が気づかれていると判断してほしいのだがな・・・・」
「「!?」」
「独り言かと思っているのなら、そっちに一撃入れてみようか?」
そう言った男の周囲に2つの小さな光球が発生した。
光球はゆっくりと男の周りをゆっくりと周回していたが、やがてゆっくりと、速度を落とし、男の左右で停止した。
男が彼女達が潜んでいる付近を小さく指さすと、彼の右側に浮遊していた光球が、指された方向に向かって飛翔した。
「「!」」
光球は、掌サイズという小さな物ではあったが、燕のような早さで飛来し、彼女達の隠れていた石柱付近を直撃し、魔法弾に似た爆発を発生させた。
物陰にいたために、これによるダメージは無かったが、男の発言がはったりの類でないことを証明して見せた。
「納得したなら出て来い。これでは会話している気がしないからな」
不意打ちの機会を失った事を悟った二人は素直に男に従い、石柱から姿を現して、直接男と対峙した。
「ほぅ、気配の絶ち方から、ただ者では無いと思ったが、意外に若いな」
姿を現した女忍者二人を目の当たりにして、男は微かに笑んだ。
「こちらも出てきたのだから、そちらも、フードを取って素顔を見せてくれないかしら?」
「やはり気になるか?」
そう言って男は、言った側の彼女達さえ驚くほどの率直さで、そのフードを両手でゆっくりと下ろした。
そこには、何の特筆すべき点もないありふれた人間の男がいるだけだった。
「どうかな?何か御感想は?」
「別に感動は無いわ。もっと凶悪な顔かと思っていた分、意外さは感じたけど、それだけね・・・・・・」
「変に期待するからだな。公平に情報を集めるつもりであるなら、憶測や期待を交えるべきではなかったな」
「ご忠告どうも・・・・それで、確認したいんだけど、貴方が噂の、『魔王』を名乗る身の程知らずかしら?」
「そう思ったからこそ、尾行してきたのだろ?」
「間違ってたかしら?」
「いいや、正解だ」
これまた率直に認める男。
「ふ~ん、意外に素直なのね。塔の下層で登場する魔王ってもの珍しいわね」
あまりにあっさりとした魔王の言い様に、彼女達はおどけて見せた。が、それぞれ腕を組む・腰に手を当てるという自然な動作の間に、手の中に小さな投げナイフを用意していた。
「更に素直に言わせてもらうと、『犬共』の後を尾けてほしくなかったんだよ。だから、奴等の行き先よりも興味を抱くだろう、俺自身を登場させてアピールしたわけだ・・・」
彼女達二人は僅かに表情を曇らせた。魔王の発言は、ワードック達の行く先に、重要な何かが存在していた事を証明していた。
それこそが「魔獣」である可能性が高く、本来彼女達が調べるべきそれを、好奇心と一発逆転という可能性に誘惑され放棄してしまったのだ。
「ワードック達の向かった先に、何か・・・・あるのね」
「もちろん」
「一体何があるというの!」
「お前達が今、一番知りたがっているだろうモノだよ」
「っ!・・・・魔獣!」
よもやここまで素直に答えるなどとは思わなかった。だが、逃した情報の大きさを考えると、自然に彼女達から殺気が溢れた。
「そういう事だ。まだまだ人前に出せる状態ではないのでな・・・捕らえたお仲間達に御協力願っているわけだ」
しくじった・・・と、改めて彼女等は思う。この話が事実であるなら、魔獣は未だに復活には至っていないか、あるいは未成熟状態であると予想される。しかも魔王自らが姿を現して囮となり感心をそらした事実を考慮すると、今の魔獣は彼女達の手でも葬ることが可能な状態なのかもしれないのである。
実感は無かったが、彼女達は災厄の芽を摘み取る最大の機会を失ったのである。
こうなっては二人の取る手段は二つしかない。即ち、任務失敗による逃亡か、あるいは闘いか・・・・
今回の彼女達の主任務は偵察である。本来なら、自分達の存在がばれた時点で撤退すべきなのだが、『男』を前に逃亡は許されない・・・と言うより、逃亡はあり得ないと言う、彼女達特有の基本的概念と、その『男』にしてやられたと言う屈辱感が、正しい選択を失わせてた。
従って取るべき道は闘いのみとなり、そうした意識から僅かにもれた殺気を敏感に感じ取った魔王が、不適に問いかけた。
「できるのか?」
無言の挑戦を受けた魔王は、言葉で、そして行動で先制した。彼の横で浮遊していたもう一つの光球が二つに分裂して、彼女達へと疾走したのである。
「な!?」
魔王が動いた様子はなかった。通常この手の攻撃は、体の動作が伴っているのが常である。それがなかったということは、手足の動きのによるコントロールは行わず、精神力のみで光球を操っていたという事である。魔法関連の知識として、それがいかに困難な事かを知る二人は相手の真の実力の断片を悟った。
二人は猛スピードで迫る光球を寸前でかわすと、用意していたナイフを反射的に放つ。
細く、黒く、目立たないナイフの素早い投擲は視認されにくい物である上に、先端には猛毒が塗られているため、かすり傷でも致命傷に至らしめる事は可能であったが、魔王はマントを振って、難無くナイフを払い落としていた。
「物騒なものではあるが、そんなちゃちなモノでは、俺を仕留めるどころか、一歩たりとも動かせんぞ」
「そんな事、分かってるわよ!!」
二人は腰の剣を抜くと同時に魔王に向かって突進を開始する。
「では、どうする?」
魔王が再び先程と同じ光球を二つ生成し、攻撃を開始する。
それに対し、彼女達は突進を続けたまま縦一列に並び、前列の一人が飛来する二つの光球を剣と左腕の鉄甲で受け止めた。
その瞬間、二つの光球は同時に爆発し、巻き起こった衝撃はそれを受けた彼女の剣を折り、鉄甲を砕き、その体を突き飛ばした。
「あああああっ!」
悲鳴を上げ床に叩きつけられる仲間には目もくれず、後ろに位置していた女忍者はそのまま魔王との間合いを詰めた。
光球を受けた時点でああなるのは二人とも承知していた。あえて一人が犠牲になることで一撃必殺の攻撃の間合いを掴もうとしたのである。
事実、間合いは一気に詰まった。相手が再び光球を出す間などなかった。
「もらったわ!」
躊躇いなく、剣が魔王の左肩口を狙うコースで振り下ろされた。剣に手応えが走る。
だが、彼女の目は勝利を確信したものではなく、驚愕で満たされていた。
魔王は全くの無傷だったのである。そればかりか会心で放った剣も真っ二つに折れてしまっていた。肉体の強度に負けた結果ではない。剣が接触する直前、彼の左手から光の剣の様なモノが発生し、彼女の一撃を受け止め、それによって折られたのである。
「・・・・・・・そ、それは、まさかサイコブレード?」
サイコブレードとは精神力によって具現化された剣状の物体で、魔法・闘気・妖術等と言った各種の技能に存在する類似技法の総称である。
呼称こそ各分野で多々あるが、精神力の酷使と高度なコントロールを要する必要性がある点で共通している。
ただ基本的に、精神力や魔力をそのまま物質化レベルにまで凝縮する事は事実上、不可能に近く、どんな術者でも剣等という形を形成する場合には、増幅を主目的とした触媒が必要とされていた。
たいていは剣の柄を模した物(マジックアイテム)を触媒として使用するのだが、魔王の手にはそんな物は存在していないにも関わらず、今も尚、何かを握ったように構える左手から光の剣を発生させていたのである。
「ば、化け物・・・・・」
「魔王たる者、人智を越えた能力を有していないでどうする」
ある意味、説得力があったが、魔王は全く触媒無しという訳でもなかった。彼は、精神力の安定・補助に、そうした能力のある指輪を両手にしていたのである。
だが、既存の常識として、サイコブレードの触媒は柄・筒状の物としての先入観があった彼女は動揺し、魔王の指輪の存在に気づけずにいた。
もっとも、気づいたところで、どうなる物でもなかったが・・・・
「やはり役不足だったとな・・・・」
光の剣が彼女に突きつけられ、大きく振り上げられる。一瞬にして実力の違いを思い知った彼女は、逃げることすら断念していた。
だがその時、部屋の奥から凄まじい熱気を伴って、鳥の形状をした炎が魔王めがけて迫って来た。
「何?」
魔王は指輪を介して増幅された気を剣状から盾状に変化させ、その一撃を正面から受け止めた。
男は盾を大きく振り、まとわりつく炎を振り払うと、辺りは一気に静寂を取り戻す。
「迂闊だった・・・・他にも術者がいたのか?」
少し意外だった様な素振りを見せて、魔王は炎の鳥の飛来方向に目を向けた。そこには動きやすさを重視した短いローブに身を包む女性が一人立っていた。手に持った松明に照らされた姿は本来以上の迫力を演出している。
「シ、シリア様・・・・・・」
相手が応えるよりも早く、忍者の女性がその名を漏らした。
「やはり、そちらの仲間か・・・・・それにしても、良いタイミングで来たものだな・・・・どうやって来れた?」
「案内を受けたのよ」
不敵な笑みをもらしてシリアは答える。
「案内?」
「二人とも、ここは任せて逃げなさい!」
言うが早いか、彼女の持つ松明から異様に炎が立ち上り、その中から無数の炎の蛇が立ち上り、魔王めがけて迫った。
炎の蛇は瞬く間に魔王を取り囲み、収束して炎の球へと変貌する。並の相手であれば、この炎の球の中心で燃えかすとなっていただろうが、そうはいかないだろうとシリアは思った。
「行きなさい!」
女忍者は、炎の勢いを前に、この一撃で勝負がついたのでは思いもしたが、シリアに気圧され、倒れている同僚を抱えて足早に姿を消した。
「その程度でやられるような相手じゃないって、知ってるのよ!」
炎に遮られ、まだ姿さえ見えていない魔王に向かってシリアは叫ぶと、今度は炎の龍を生成して投げかける。
だが、炎の龍が命中直前、目標の炎の球が不自然に脈動したかと思うと、一角から光の剣の切っ先が突きだし、炎の球は風船の様に弾けて飛び散り、一部の炎は、光の剣にまとわりつくかのようにして螺旋を描いた。
炎の龍は魔王を飲み込もうと迫ったが、その牙が目標を捉えるよりも早く、彼は炎をまとった光の剣を突き立てる。ただそれだけでは、炎の龍は止まることはなく、剣もろともに相手を飲み込み焼き尽くしたであろう。
しかし切っ先が突き立てられたと同時に、光の剣から瞬間的に強大な衝撃波が放たれ、炎の龍を四散させた。
「!?」
頭から尾へと散り散りとなって行った炎の龍は、一瞬、花火のような美しさを見せたが、それもすぐに消え失せ、やがて全ての炎が消失した。
「大したものだ。炎の召還術・・・・精霊使いの様だが、一度にこれだけの数と規模の物を放つとはな」
ほんの僅か、光の剣にまとわりついた炎を振り払って、魔王は言った。
「それをあんなに軽々しく払った人に言われても、素直には喜べないわね」
軽口の裏腹に焦りを感じるシリア。魔王と称する男がただ者でないことは十分に理解しているつもりであった。この塔に入った際にも、精霊が嫌というほどそれを語っていた。だが現実は、そうした中で想定した強さをも上回っており、自分の最も得意とする多重火炎精霊術でもダメージとなっていない事実は信じたくない出来事でしかなかった。
「だからか?」
「?」
「精霊の案内でここまで来れた訳か」
シリアの全身を悪寒が走った。彼女自身が感じた物ではなく、彼女の周囲に存在するあらゆる精霊達が、魔王の波動に怯えていたのだ。精霊と精神的にコミュニケートを取ることが出来る彼女は、精霊の動揺を敏感に感じ取りその恐怖・危機感を我が身と同様に感じたのだ。
「あなた、一体何者?」
「魔王・・・・と、名乗っただろ?要はお前の敵さ!」
光の剣を振りかざした魔王が一足飛びに間合いを詰める。基本的に術士は格闘には弱いという事を見越しての攻撃だった。
「!!」
シリアもそうした攻撃が来るだろう事は予測していた。が、その早さは予想を上回っていた。
最初の一撃は何とかかわしたものの、返す剣で繰り出された二撃目に防具の一部を切り裂かれてしまった。
「このっ!」
シリアは素早く光の精霊を呼び出して光球を形成させると、直後にそれを破裂させた。まばゆい光の洪水が巻き起こり、周囲を一瞬照らしつける。
「ぬ!?」
不意のめくらましに魔王は視界を奪われた。瞬時に攻撃に備えたものの、目眩ましに乗じた攻撃は来なかった。
「・・・・・・・・・・逃げたか・・・・良い判断ではあるな」
うっすらと回復していく視界の中には、無人となったホールだけが在るのみだった。
シリアは精霊の道案内に従って、複雑な塔内の中をまっしぐらに走り続ける。
国内随一の精霊使いとしては闘って勝ちたかったが、彼女の本能は、あの時の僅かな手合わせで敗北を悟ってしまっていた。それに何よりも信頼する精霊までもがそう訴えていたのである。
「私が・・・何の役にも立たなかった・・・・・・・」
シリアは歯がみしながら呟き、塔内の複雑な通路をひた走る。これまで負け知らずという身であれば、その屈辱も計り知れない。
初めての敗北。かつて無い完敗という事は確かに当事者としてはショックだったであろう、だが彼女はそれに気を取られ過ぎると言う失敗を犯してしまった。
周囲に対する注意力が散漫になっていたのだ。その結果として、彼女が周囲のとある異変に気づくのに遅れてしまい、事態は既に手遅れな事態へと陥っていた。
「変だわ・・・・・」
自分がいる場所が記憶していた位置と、あからさまに異なっていると感じたシリアは、思わず立ち止まり周囲を見回した。
壁・天井・床の造りは今までと全く違いはない。精霊は平穏を保っており周囲にも敵の存在は感じられない。だが、何か違和感があった。自分の本能だけが危険を感じ取り警戒を促しているようだったのだ。
「私が怯えてるというの?」
いつの間にか流れた汗を拭いつつ、シリアは自問した。
常に精霊と一体となって戦っていた自分と、その精霊の見識が一致していない事は初めてだったのである。
得体の知れない緊張感ばかりが高まり、それに対し何もできず進展もしないまま、幾ばくかの時間が経過したとき、不意に通路の奥のから聞き知った声が響きわたった。
『どうやら、気づいた様だが・・・・・・・・遅いな』
魔王の声にシリアの緊張感が一気に最高潮に達し、精霊達もにわかに騒ぎ出す。ここに至ってようやく両者の感覚が一致したのだが、精霊側は本能的な恐怖感を表しただけで、警戒そのものはしていなかった。
反射的にシリアが身構えたと同時に通路の周囲の壁が全て崩れて移動を始めた。この塔の構造を複雑化させているブロッカーモンスターが一斉に活動し始めたのである。
「そ、そんな!?精霊がこいつらに気づかなかった?」
人間・動物がそれに気づかないのは当然としても、全ての生き物・物質と密接な関係を持つ精霊が、この事実を見過ごしていたのがシリアには信じられなかった。
全ての壁が分解し、周囲が本来の姿を取り戻すと、そこに一人の男が佇んでいた。
(やはり、この男!)
一瞬で大きな部屋へと変貌した空間の中央にいる魔王を見て、シリアは息を飲んだ。
「どうした?かなり驚いた様だな」
全てを見透かしてるかのように魔王は言った。
「あなた一体何者?精霊に存在を察知させないなんて、出来るはず無い!」
シリアは戸惑いを隠せないまま、魔王に問いかけた。
「確かに、精霊を相手に気配断ちも無意味だ・・・・と、言う事は、お前が状況を理解していないということさ」
「ど、どういう事?」
「精霊が俺を察知できなかったのでは無い。精霊が教えなかったんだよ」
「そ、そんな・・・・・馬鹿な!」
否定しながらも、彼女は合点がいった。確かにそう考えれば、状況のつじつまが合うのである。ただ、常に味方だった精霊が、自分を裏切った事がどうしても信じられないでいたのだ。
「全ての精霊が味方では無いということだ。特にこの塔内ではな。もう少し自分以外を疑い、自分自身を信じるべきだったな・・・・・」
精霊使いにとって精霊は唯一無二の味方と言って良かった。常に真実を語る存在、それが精霊だった。それ故に精霊を疑うという概念は精霊使いには存在しなかったのだ。
「せ、精霊が私を・・・・・・・」
認めたくない事実が無情にもシリアにのしかかった。
「諦めろ・・・・・」
男の無慈悲な言葉にシリアが反射的に身構える。
「せ、せめて一撃だけでも・・・・・・・」
「無駄だ、今のお前は集中力も乱して、本来の力を到底発揮できないでいる・・・何より、後ろの敵にも気づかんではな」
「!?」
男の言葉に、咄嗟に振り返ったシリアだったが、既に新手の攻撃は始まっており、無数の触手が彼女の体を絡め取った。
「な、何こいつは?」
全身に絡みつく触手を振り解こうともがきつつ、シリアは相手の正体を見て声を漏らした。今まで見たことの無いモンスターが一匹、余りある触手を伸ばして彼女を引き寄せようとしていたのである。
「ろ、ローパー?」
その特異な形状に、知識として心当たりのある名称を口にするシリア。
それは、まっとうな生物を例にするならば、巨大なイソギンチャクという形容が近い存在であった。
ローパーとは、本体と触手のみで構成されたモンスターで、その無数の触手で獲物を捕獲・捕食する。
中には精神力・生命力を吸収する亜種も存在するが、形状自体に大きな差は無いとされているため、素人ではその判別は不可能であった。
「ローパーか・・・・・・確かに形状も分類的にもそうなのかもしれんが、正確には違う。こいつは、俺が作った魔獣の失敗作だよ」
「魔獣を・・・・作る?」
「知らないか?魔獣とは全て、先史文明の人間が生み出した生物だ。ならば俺にも作れないかと試してみたんだが、結果はこの通り。結局、先人達には及ばず、こんな程度の出来損ないしか完成しなかった。成功していればここの魔獣を復活させるなんて手間をかけずに済んだのだがな・・・・」
残念そうに溜息をついて、魔王は言った。
「当然よ、先史文明といえば、今より遙かに優れた賢者達の集っていた世界、あなたなんかに理解できるはずもないわ」
触手から脱出しようと藻掻きながらシリアは言った。先史文明は現在では伝説的存在であった。今より遙かに高度な文明・文化を誇り、今では発掘でしか入手できないとされる希少なマジックアイテムを容易に構築できたとされる世界である。
宗教的な観念が加わり、神の世界・時代と崇める者もいるほどで、遙か昔に滅んで以降、人類が再び到達することが出来ない世界となっていた。
「俺の知識では付け焼き刃程度でしかなかった事は認めよう。せいぜいこの程度の完成度だが、お前の相手には十分だろ」
「くぅっ!」
魔王の言葉は理解しているのか、異質のローパーは触手の力を強め、一気に本体へとシリアを引き寄せ、短い触手で更に彼女の自由を奪っていった。
「こ、殺すなら早くしなさい」
もはや勝ち目のないことを悟ったシリアが声を荒げた。
「とんでもない。今までの連中も含め誰一人殺す訳にはいかない。お前達は大事な滋養だ」
「滋養?」
「魔獣復活のための滋養だ。時が来れば分かる。それまで出来損ないと戯れていろ」
それだけ言い残して、魔王は不敵な笑みを浮かべ、姿を消した。だだっ広い部屋に残る者は、シリアと『出来損ない』と称された異質のローパーだけだった。
「そんなのまっぴらよ!」
シリアはしばらく抗って、体力的な事ではとうてい脱出不可能と悟ると、精霊術を使おうと試みた。
あの男が相手では手も足も出ないが、このモンスターであれば勝機はあるだろうという考えがあったのである。
だがそれは、使われる側が許しはしなかった。
シリアが精神集中に入ったと見るや、ローパーは彼女の体を持ち上げ、空いている触手を器用に使って、彼女の体を撫で回したのである。
「はあっ!?」
予期しなかった刺激にシリアは思わず息を吐き出し、精神集中を乱した。
触手は相手の自由が利かない事を良いことに、脇の下・脇腹・腹・首筋・膝・膝裏・肘・内股などを遠慮なく撫で回し続ける。
「は、あっ、あっ、く、くくっ、くふふ・・・・・」
触手の動きは巧みで、シリアはくすぐったさと快感の入り交じった感覚に全身を襲われた。責めは若干くすぐったさを重視した物であったが、これまた適度な加減で彼女から理性を奪うほどの刺激でも無かった。
「く、くくくくく・・・・・ひ、ひひひ・・・・」
何とか笑うまいと必死になって堪えながら、身を精一杯捩るシリア。そんな彼女を弄ぶかのように、ローパーは器用に触手を蠢かせ続ける。
事実ローパーはシリアで遊んでいた。彼女が気づかないようにゆっくりと責める勢いを加減しては、彼女がそれに慣れて攻撃のための精神を集中し始めると、不意に責めを強めて彼女を悶えさせ、それを妨害した。
ローパーは捕獲した相手がそうやって、ピクピクと反応し悶える様を好んだ。より正確に言うと、その時、発生する精神波を好んでいたのである。
このローパーは、精神波動を生命活動の維持に、つまりは『食料』とする極めて稀なタイプとして誕生した。そして初めてあてがわれた女性を捕獲し、触手による様々な責めを試みて、その時に発する精神波を味わい、自分にとって最も甘美で満たされる波動を生み出す手法を見つけだしたのである。それが、今、シリアが直面している事態であった。
「く、くくくくく・・・・・・こ、このままじゃ、ひゃはは、このままじゃ・・・・・」
事態が一向に好転しない事だけは理解しているシリアだったが、非力にも身を捩るしか抗う方法を持たなかった。
ローパーの手加減により、かろうじて笑い狂うことは無かったが、堪えるのももはや限界だった。
それを目ざとく悟ったローパーは次の行動へと移り、シリアに対する責めはそのままにして、触手全体からぬるぬるとした粘液を分泌し始め、それを彼女の全身になすりつけ始めた。
「・・・・・何?」
新たに加わった妙な感覚に不安を隠しきれないシリアだったが、その疑問はすぐに結果として判明した。着衣の溶解という形で・・・・・
「はあああ、ああっ、い、嫌ぁー!」
シリアの顔が羞恥に紅く染まる。辺りに人間がいなくても、強制的に全裸にされる事にはどうしても抵抗がある。今までとは別の意味を込めて体を捩る彼女だったが、その身の自由を回復することは出来なかった。
結局、ものの数分で彼女は一糸まとわぬ姿にされ、露わになった素肌を衣類溶解能力しかない粘液にまみれた触手が這い回り、更なるくすぐったさを与えた。
「はぁぁぁぁぁっっっっ!はひっ!ふわぁっ!くぁっあっあっあっ・・・・」
触手がにゅるりと肌を撫でる度、シリアの身体が艶めかしく跳ねた。未だ手加減をしているローパーは、その反応を楽しむかの様に、彼女の身体の隅々を予期せぬタイミングで撫で続ける。
そうした淫らなダンスを強制的に踊らせ、しばらくした後、頃合いを見計らったローパーは突如、触手の責めを中断した。
「・・・・・・あ・・・?」
休む間もなく身悶えていたシリアは、この意図不明の中断に戸惑った。だが、ようやくにして訪れた開放感に全裸に近い状態である事も忘れ、安堵の息を吐く。
だが、それは更なる責めの予兆でしかなかった。
シリアがうなだれたまま、つかの間の休憩を行っている間、ローパーの本体がゆっくりと開き、柔らかい突起物のびっしりと並んだ口をあらわにした。
「ま、まさか・・・・」
これから起きる事態を察してシリアが青ざめ、またも身を捩る。
彼女のささやかな抵抗も虚しく、シリアの身体はローパーの本体へと寄せられ、開いた口が両脚のすねから下を包み込む。そして脚を挟み込んだ口は粘土の様に変形してピッタリと隙間無く閉じた。
「あ?・・・・・ああっーーーーー!!!!」
今までとまた異なる感覚に、シリアが大きな悲鳴を上げた。
ぬとぬととしたローパーの内部に包み込まれた両脚が密着した突起物によって、信じられない刺激を受けたのである。それは先程まで全身を這い回っていたくすぐったさとは訳が違った。隙間無く包まれた脚全体が容赦なく、そう、それこそ全ての足の指の間まで、くすぐり撫で回されていたのである。
「ひゃああっーーーー!あっあっ、あはははははははははははは!!!」
その脚だけの刺激で、ついに限界を超えたシリアは大声で笑い悶えた。
意識が逃げようと思っても、脚はローパーの口に包み込まれたまま抜け出せず、内側にある足首も自由に動かせたものの、何処へ傾けようと、そこにはおぞましい突起が密生しており、休む間もなく足裏全体を責め立てた。
「あははは・・・!だめ、だめぇ!!やめてぇ!!」
何とか脚を引き抜こうともがくシリアであったが、触手と口に抑えられた体は望む結果にはつながらず、逆に徐々にではあるが、その体はローパーの中へと沈んでいった。
「いやぁーっはははは!!やめて、きゃはははははははははははは!!」
もはやシリアに孤高な精霊使いという面影もプライドは無かった。今や彼女は人知を越えたくすぐりに悶え狂う少女でしかない。
彼女の身体は、まるで底なし沼に踏み込んでしまったかのように、膝から太股へと徐々にローパーの体内に沈むように取り込まれて行き、その面積が広がるにつれ彼女の反応も激しくなった。
「やはははははは!いやっははははははは!よしてよして!ひゃははははははははは!!」
間もなく下半身が完全に沈み込もうとしており、更に取り込まれていく身体と、それに伴う刺激の強烈さを想像して、シリアは笑い苦しみながらも恐怖感に襲われた。
「あはははははははははははは!!!だめぇ!!!!!!」
必死の懇願空しく、ついに彼女の下半身はローパーに沈み込んだ。
そして容赦なく襲いかかる刺激。
「はあああああ!!!!あひゃ、あひゃははははははは!!はぁあああああ、あっあっ、ふひゃはははははは!!」
シリアは半狂乱になって身を捩った。触手の拘束を解かれた下半身もローパーの中でばたばたと蠢いていたが、ローパーの内部は液体のようにピッタリと彼女の肌にまとわりつき、僅かの隙間も見せる事はなかった。
どんなにもがいても一向に衰える事のない脚全体のくすぐったさに加え、股間や尻などと言った強い性感帯が存在する部位では、突起による故意か偶然か判らぬ不規則な接触が繰り返され、その微妙な刺激に快感さえ感じ始め、彼女の感覚は混乱を始めていた。
「ああああん、きゃは、きゃは、ひゃん、ひゃはははははははは!!」
悶えまくるシリアを前に、ローパーも酔いしれていた。
いつ味わっても、女という生物のこの波動は自分に心地よい活力を与えてくれる・・・・そんな思考のもとにローパーは更に彼女を本能のままに責め立てた。
「あああああああああああ!!!!!!」
それから間もなくして、限界に達したシリアの、一際大きな悲鳴が甘美さを交えて響きわたった。
ローパーにとって『食事』はまだ始まったばかりである。
まだまだ上半身という箇所が残っている状況は、一方にとっては更なる楽しみであり、一方にとっては終わり無き地獄の始まりと言えた。
空想生物であるローパー登場の本エピソードですが、このローパー、初見は20年以上も前の、ファミコンゲーム「ドルアーガの塔」でした。
当初はドット絵で、単なる敵モンスターとしてしか見ていませんでしたが、コミックボンボンの某ゲーム漫画にて、その姿を知った瞬間、コレ(くすぐり)目的の生物だ!と、電波が来たような気がしました(笑)
時を経て、それは自作で実現したわけですが、メジャー級では無い幻獣とか空想モンスターって、一部文章のみのケースもありますが、中には我々に有効なデザインの存在もありますよね。
触手系モンスターなどはその筆頭ですが、やはり私の世界では、単なる敵以外はオリジナルを活用する事が多くなりますね。
チャット等でも言っていましたが、くすぐりモンスターなど、ご要望があれば設定等送り付けて下さるれば、AFシリーズとなるでしょうが機会を見つけて・・・・否、作って、登場させますので・・・・・