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2010/12/26(日)に投稿された記事
くすぐりの塔R -第10話- 『雇われ勇者』
キャンサーさんが書かれてくすぐりの塔R、第10話です。
男が城下町の入り口前でガッツポーズを取って十数秒。達成感の余韻に十分
浸った彼は、荷物を再び抱えて前進を再開した。
「とにかく今は、まっとうなベットで休めれば十分!」
男は一軒くらいはあるだろう宿屋に期待をよせつつ、城下町に入ろうとす
る。
が、その瞬間、彼は激しい衝撃が体内を駆けめぐるのを感じ、ほぼ同時に大
きく後方に弾き飛ばされていた。
「がはっっ!!ぐ・・・・な、何だってんだ?」
転倒時の僅かな擦り傷以外には大した外傷がないにも関わらず、痛みが全身
に生じており、男はそれを鎮めるように体の各所をさすりつつ身を起こす。そ
の際に周囲を見回すが、襲撃者らしき人の気配もなければ、変化も無かった。
一見すれば不可解なことだったが、こうした『現象』に心当たりのある男
は、左腕を正面に突きだし、そっと城下町に近づいて行った。
やがて彼の腕が先程弾かれた位置に達した時、突き出していた指先にビリッ
とした感覚が走り、瞬間的にではあったが、目の前が光の壁で覆われたのを彼
は見逃さなかった。
「やっぱり結界か・・・・」
男は若干痺れの残る指先をさすって呟いた。
結界・・・主に魔法による技法で、外敵の侵入防止、あるいは対象を外界に
出さないための牢獄的な目的で用いられるもので、特定の条件を満たさない存
在に対して発動するフィールドであったり、物品を守る鍵であったりする場合
が多い。
ここに至る道中で何度か遭遇したモンスターの強さを思い起こせば、この処
置も国内の治安維持策として当然かもしれないと、男は一人納得する。
が、納得できない点もやはりあった。
この世界で使用される結界は『聖』か『魔』の、どちらかの属性を持ってい
る。このどちらを利用しても、結界の内容に指向性を持たせる事が可能となっ
ていた。
つまり、結界に反応する種族や条件等がかなり細かく設定可能なのである。
仮に目の前の結界がモンスターに対して張られているのであれば、人間であ
る自分が反応するはずが無かったのである。
「・・・・・・・・」
男は再び結界のフィールドに掌を近づけ、反応するのを確認すると、事態を
概ね把握した。
「何か・・・・余所者を全て拒絶するような基準設定が施されているみたいだ
な」
そしておもむろに右掌をフィールドに触れさせ、反発する力に耐えながら一
人絶叫する。
「ぐ・・・ぉ・・・ふ、ふざけやがって!こんな辺境で旅人をないがしろにす
る国があっていいのかよ!!」
この国の事情を知れば納得するかもしれなかったが、今のところ彼が門前払
いされる心当たりは無い。その上、人っ子一人として姿を見せない現状に、疲
労感も加わった苛立ちを感じたのである。
しばらくの間、結界との力比べをしていた男だったが、やがて限界にきたの
か、自らその腕を結界から遠ざけた。
『対象』との接触により発動していた結界が急速に治まり、辺りが再び静寂
に包まれる。そんな中、男は接触させていた掌と目の前の空間とを交互に見比
べ、一つの確信を得た。
「凄いな。『聖』と『魔』の両方の術を併用して結界をはってやがる」
その事実に、男は一人驚愕していた。多少の例外もあるが、聖の属性の結界
の場合、相手に対し磁力の反発のような反応を示し、魔の属性の結界の場合、
接触者に苦痛を与えるというのが基本的な性質となっている。その両方の特性
が、この結界にはあったのである。
「いったい、何だってこんな手の込んだ結界が必要なんだ?」
男は自問自答する。
モンスターの類に対するにしても度が過ぎているとしか言えず、余程強力な
存在がこの辺りにいるのであれば、道中で彼がその痕跡を見逃すはずもない。
情報も無い上に、現状のみが考察の材料である中、彼の思考は推測のみで満
たされ始め、その結論として、
「ひょっとして、街の連中が施した結界ではなく、外敵が施した結界か!?」
という発想に至った。
「と、なると、国全体が幽閉されているって訳か・・・女ばかりの国を独占す
るとは、粋な輩もいるもんだ・・・・・」
一人故、その意見を否定し幅広い視野をなかなか得ることが出来ないのが、
彼の不幸であった。
これまでの旅路でも、意見交換する相手がいなかったために人生の遠回りを
したことも幾度となくあり、今回の一件も、そうした事例の一つとなる。
結局、結界はこの国に望むべくして施された物ではない・・・・という結論
に達してしまった男は、背負いバックを地面に置き、杖代わりにしていた槍を
地面に突き立てると、両腕を背に回し、X字に背負っていた二本の剣をゆっく
りと抜いた。
右手に持つ黒い剣を魔剣『デラー』と言い、左手に持つ白銀色の剣を聖剣
『クレアル』と言った。
この二本は対になっていたものではない。彼がこれまでの旅の途中に、別々
の時と場所で見つけた武具の一つで、共に長さが自分の好みに合っていたた
め、メインの武器として所持していたのである。
男が抜いた互いの剣の刃を軽く接触させると、属性である聖と魔の力が干渉
し、魔力の火花を小さく散らす。
それを確認した彼は、二本の剣を揃えるようにして大きく右肩越しに振りか
ぶる。
その表情が緊張で強ばり、辺りでのどかに鳴いていた小鳥も微妙な気配の変
化に気づき、警戒し始める。
男は呼吸を一定のリズムで取り始め、結界との距離を徐々にすり足で縮めて
行く。
ややして、ある距離に達した時、彼の動きは止まり、しばしの間が訪れる。
そして、前触れも無しに彼の気が弾けた。
「聖・魔・滅・封!!!!」
気合いを込めた二本の剣が同時に振り下ろされた。
男の放った一撃は、結界のフィールドに触れ、激しい光を放った。
「くあっ!」
男は腕に予想以上の反発力を感じつつも一気に剣を振り下ろすと、すかさず
今後は左肩越しに剣を振りかざすと、同じ要領でもう一振りする。
パキィィィィィィィン!
剣が振り下ろされたと同時に甲高い金属音が響き、彼の両手に握られていた
二本の剣がほぼ同時に粉々に砕けた。
「おおっ!?」
愛剣の消滅に男は驚愕した。だが、結界の方も無事ではない。剣が振り下ろ
された空間にはX字の『傷』が生じ、周囲が曇りガラスの様によどんでいたの
である。
やがて傷ついた空間は徐々にその範囲を広げていくと、結界の触媒だったの
だろう、物陰に設置されていた古木でできた小さな神像と古めかしい札が同時
に白い炎を上げ消滅し、それに伴い、よどみを生じさせていた空間が、綺麗さ
っぱり消え去った。結界の一区画が消滅したのである。
「あ~あ・・・・結界一つに剣二本の損失か・・・・・・・・・すっげぇ出費
だ」
すでに鉄屑となり果てた、かつての愛剣の柄を投げ捨て、男はぼやいた。
この時代、通常より高い攻撃力を持つ剣や特殊な能力を付与されている剣
を、その特性によって『聖剣』あるいは『魔剣』と呼称し、区分していた。
一般にそれらの武具を作る技術は失われていたが、古代繁栄期と呼ばれた遙
か過去に作られたそれらが、当時の遺跡や戦場跡から発見されることがある。
彼の持っていた二本の剣も、とある遺跡にて見つけた物であり、余談となる
が、その価値は捨て値でも小さな館がメイド・執事付で生涯雇えるほどの高価
な品であった。
彼はそう言った古代遺跡捜索を中心とした旅を続け、意外に多くのアイテム
を入手していたが、気に入った物以外は全て高価な宝石に変えて旅の資金にし
ていた。
金銭に関しては旅人であるため、極端な執着はなかったものの、今の行為で
どこかの国の地方領主の全財産に匹敵するだろう物品がゴミ屑と化したのであ
る。
「剣のもとを取るだけの価値があればいいんだが・・・・・」
男は無惨に散った二本の愛剣に相当する見返りがある事を本気で祈ると、意
を決して城下町に向かって歩き出した。
そしてそこで『出迎え』に遭遇する。
「その者か?」
王女フレイアは装備を取り上げられ、周囲を数名の女兵士に囲まれて威嚇さ
れ、床に座り込んでいる男を王座から見下ろして言った。
「は・・・・」
男を取り囲む兵士の中で、一人兜の形状が一部違う女性が跪いたまま答え
た。
「その者も魔王の手の者ですか?いったい、どうやってこの国に侵入したので
す?」
王女としての威厳と威圧感を存分に示しながらフレイアは問う。
「魔王・・・・・って何?旅人が道中の街に立ち寄るのは当然だろ。この一帯
何もなく、モンスターもうようよしているとなると、立ち寄っても不自然じゃ
ないだろ」
今こうして拘禁されている事が信じられないと言った様子で男は逆に問い返
した。
「この国にはモンスター・魔族・男性を拒む強力な結界が施されています。見
え透いた嘘など・・・」
「あっ、あの結界・・・・・あんた達が仕掛けたのか?」
フレイアの言葉の終わらぬうちに男は口を挟んだ。この時彼は自分の判断ミ
スを悟る。
あの結界は『外部からの人間』に反応したのではなく、彼女が公言した通り
『男』に反応したのである。何故そのような設定にされているのかは理解でき
なかったが、これで納得はいった。
「もう一度問います!」
話が中断され、フレイアは不機嫌さを顔に表して声を荒げた。
「どうやってこの国に侵入したのか答えなさい」
「そのですね・・・・結界が・・・・結界が、この国の物ではなく、外部の
『敵』の仕業かと思ったんで、ぶち破っちまった・・・・」
自分の行為が状況を不利にする材料でしかない事を認識する彼は、かなりば
つの悪そうな表情になりながら、真実を答えた。
「何ですって?」
王女が小さく呻き声をもらし、控えていた女兵士達もどよめき合った。
「聖魔複合のあの結界を貴方一人で?」
普通であればとても信じられる物ではなかった。だが、こうして現実に結界
の『対象』である男がこの場にいる以上、破壊は虚言ではないことを証明して
いる。
もともと、結界に異常が生じたのが察知されたからこそ、急遽警備の部隊が
派遣され、事情を知らずに街を歩いていた彼を捕獲したのである。
しかし、結果が目の前にあっても、彼女達は素直にそれを信じ切れずにい
た。そもそも聖魔複合結界とは、相対する二つの性質の術をバランスよく合わ
せて形成された物で、例え一方の性質の結界が解除されても、残った一方がそ
れを補い修復するという特性を持っており、解除するには二つの結界に対し
て、解除の術や呪文を同時かつ同等の力で長時間施さなければ不可能なのであ
る。
「確かに二つの結界の複合で強烈だったけど、やっぱり人間の施す事だから
な、完璧じゃぁないさ」
「ですが、容易に破れるものでもありません。答えなさい、一体何をしたので
す!」
当初から罪人を見るようなフレイアの態度に、少なからず不満を抱く男であ
ったが、何はともあれ、勘違いによって結界を破壊した気負いが彼にはあり、
横暴とも思える彼女の態度にも反抗する意志がわかなかった。
「あ~・・・・聖剣と魔剣の同時使用した俺の技で、結界そのものを斬った・
・・・その、文字通りにね・・・・・おかげでこっちの貴重な剣もパァになっ
たけどね」
男の証言に周囲が再びざわめいた。結界を斬るなどと言った、にわかに信じ
がたい事をさらっと言ってのけたからである。
「では、それが事実なのであれば、貴方にはその責任を取ってもらいます」
フレイアにしてもその発言を信じたわけではなかった。しかし見たところ魔
王一派でもない様子から、使える物ならと、利用する事を考えついた。
「せ、責任とは?」
「もちろん破壊した封印の修復です。あるいは、貴方によって生じた封印の綻
びから侵入してくる外敵の駆逐、あるいはその根元を絶つ事です」
どれも男一人では無理難題であることは判っている。しかし、廃品利用でき
るのであれば、それにこしたことはない程、この国の戦力は低下していたの
だ。
「・・・・・って、そう言うのなら、もう少し状況を説明してほしいな」
責任云々は、自分のミスと判った時から受ける覚悟はあった。だが、現状に
至った原因を把握しなければ、いまいち落ち着けはしなかった。
「いいでしょう・・・・・」
王女は応える。
「我が国、メルフィメールは古より男という不要な存在を除外し、平和に過ご
してきた国でした・・・・」
(男を除外?他に野郎を見かけないから多分そうだとは思ったが・・・・ここ
が山賊共の言った『理想郷』か?・・・・ちと、イメージが違うな)
フレイアの前置きを聞いて、男はここが目的地である事を悟り、思い描いて
いた国と異なる事に落胆した。が、現実とはおおよそこんなモノだな。とも思
った。
「しかし、昨年来より魔王を名乗る者が現れ、我が国を蹂躙し、先人が封じた
魔獣の眠る塔の封印を解き、国宝である秘宝をも奪っていきました。幾度も繰
り返された闘いで主力を失って行った我々は、魔王達から身を守るために強固
な結界を張り、籠城を行っていましたが、その城壁ともいえる結界を貴方が破
壊したのです」
「成る程、思ったより深刻だった訳だ・・・・それで、秘宝ってのは何?」
ある意味、遺跡を探し回り古代の武具を漁る事を生き甲斐としているような
生活をしていた男は、話の中に含まれたその単語に敏感に反応した。
「分かりません。古来より伝えられ、一度も使用されていない物で、その実態
を知る者はいません」
「形状も何も知らないってか?」
「秘宝の鍵とされる物は封印の施された宝箱に納められ、何人にも開ける事は
適いません」
「で、魔王には奪われ、秘宝の封印は破られた・・・・と?」
「いえ、魔王と言えど不可能でしょう」
「何故?」
「過去、大勢の者が開封を試み、秘宝の謎に迫ろうとしましたが、誰一人成功
しませんでした。それほど厳重な封印処置が魔王の手に負えるはずもありませ
ん」
それは偏見だ!
そう言いたいのを男は懸命に耐えた。自分達が駄目なら他の者にも不可能と
いう論理はあり得ない。だがそれを主張したところで無意味であり、ただ不安
に駆り立てるだけで利益はない。
心に僅かな蟠りを残しながら男は質問を続ける。
「では、魔獣ってのは?」
「わかりません」
「・・・・・・おい・・・・・」
あまりにも無責任とも言える返答に、男は思わず唸る。
「事実です。未だ実態を見せていない事から、完全覚醒には至ってはいないの
でしょう。ただ・・・人の魂を虜にしようとする恐ろしい存在であるらしい事
は・・・・間違いありません」
そこまで言ってフレイアはほんの僅かに頬を染めたが、それに気づいた者は
男を含め一人もいなかった。
「じゃあ、最後に聞きたい。俺に結局、何をしてほしい?」
「多くは期待していません。当面は失われ結界の代わりです。新たな結界が構
築されるまでの約三週間、侵入してくるモンスター達と闘ってもらいます」
「ちょ、ちょっと待てぇ!20日以上?さすがにそれは理不尽だろうが!!」
「原因は貴方です」
闘いは構わない。だが、条件が悪すぎる。いつ来るかも判らない敵に対して
20日以上の門番を一人でするなど、『魔人』や『傭兵王』と異名を持つよう
な人物でも不可能な事である。
そうした抗議を弱い一言で突き返されると、男は言葉に詰まった挙げ句、妥
協案を提案した。
「・・・な、なら提案だ!さっき言ってた責任の話で、根元を絶つって言って
たろ?それを実行してはだめか?」
「つまり魔王を倒す?」
意外そうな彼女の復唱に呼応するかのように周囲からも失笑が漏れた。
「その通り。でもって、魔獣を処分するか再封印して、秘宝も取り返せば、2
0日なんてかけなくていいだろ?」
「出来るのですか?貴方に?」
「そんな事、やってみなければ分かるはずもないだろ。実施させてもらえなけ
れば可能性は無いし、チャレンジするなら可能性は0じゃあ無い」
フレイアにもその論理は判る。しかし、
「私にしてみれば、得体も知れない男風情に国の運命を・・・」
と、その時だった、彼等のいる謁見の間の大扉が砕け、二人の女兵士が吹っ
飛んできた。
「何事だ!」
兵士長らしき女性が剣を構えて叫ぶ。
「て、敵襲です・・・・例の結界の穴から魔王の直属隊と称する輩が・・・
・」
吹っ飛ばされた女が、苦しげに喘ぎながら報告した。
「左様・・・」
ふてぶてしさを含んだ声が壊れた扉の奥から聞こえた。
「王女にはお初目にかかる。我が名はアルカード、魔王騎士団の分隊長を務め
させてもらっている者です。長らく籠城されていたようですが、我が主がお待
ちなので、ご同行願いますよ」
来るべき時がきた。悟りながらもフレイアの顔は青ざめた。
「なに、魔獣の能力の一端を知った貴女です。一度本体と相見えれば、その素
晴らしさが判るはずです」
(何だぁ?王女は魔獣を知ってる?)
アルカードと名乗る人物の言葉に、男が疑惑を抱いた瞬間、相手が実力行使
に出たため、彼の思考は中断せざるを得なかった。
「いけっ!」
主であるアルカードの命を受け、彼の背後に控えていた二匹の人獣型モンス
ターが素早く跳躍した。
「王女!!」
周囲の兵達が集まり壁となったが、それはあっさりと弾き飛ばされていく。
「すでにこの国の主力は無いも同然。下っ端の兵士では足止めにもならん。潔
く同行するが良かろう」
アルカードは余裕の笑みを浮かべ、配下の行動を見守った。だが、その瞳が
瞬時に曇った。
突進する二匹のモンスターの進行上に、一人の男が立ちはだかったのであ
る。
「ジャマダ!」
モンスターが唸って鋭い爪を構え、二匹の同時攻撃で男を引き裂こうと勢い
をつけた。
ほとんどが闘争心で占められている二匹の脳は、男が引き裂かれ、血の海に
沈む姿を想像したが、それは幻想に止まった。
彼等の爪が目標に達するよりも早く、男が靴に隠してあったナイフを投げ放
ち、二匹の眉間を貫いたのである。
勢い余って派手に倒れる二匹のモンスターは、おそらくは何が起こったかを
理解する前に絶命したであろう。
「・・・・・・・貴様、何者だ?」
意外な伏兵を目の当たりにしてアルカードが問う。この国に残された兵力を
理解していた上で、それを圧倒できるはずの二匹をつれてきたのだが、この男
の存在は全くの計算外だった。そもそも、「男」という存在がここに在る事自
体が計算外なのである。
「ただの旅の傭兵だよ。契約が決まる直前だったんだ・・・・悪いが少し退席
してくれないかな・・・・」
「ほう、何の契約かな?」
「あんたの親分を殺す事」
男の返答は予想はしていた。だがここまではっきりと言われるとは思っても
みなかった。だからこそ、アルカードには余計に不愉快に感じた。
「小賢しい!」
何の前触れもなしに、アルカードが光弾を放った。
「お、おいおいっ!騎士団長とか言ったくせにいきなり魔法弾かよ!」
横っ飛びし、光弾をかわした男は、そのまま横滑りしながら、先の攻撃で倒
れた兵士の所へ移動すると、彼女の持っていた槍をひったくった。
「借りるよ」
「死ねぃ!」
再び光弾が放たれた。男は槍を拾うという行為を行ったため、回避のゆとり
は無いと誰もが思ったが、彼はその場で槍を回転させると、その切っ先で光弾
を弾いた。
「馬鹿な!」
アルカードは叫んだ。魔法弾を弾く行為そのものは不可能ではない。だがそ
れには同じく魔法の関与があるか、武具にそれなりの仕様が施された時に限
る。男が魔法を使った形跡はない。ましてや一般兵の所持する槍にそんな力が
付与されているはずもない。
「こんな事が・・・」
「目の前の事実は信じるものだよ」
アルカードの動揺をよそに、男が槍を投げつけた。
「なっ!」
その異様なスピードに、アルカードは驚愕しつつも迎撃の光弾を放ったが、
槍は光弾を貫き、勢いを衰えさせる事無く、彼を貫いた。
致命傷であった。絶命の直前、身を貫く槍越しにある種の力を感じ取り、ア
ルカードは男の力の正体を悟った。
「き・・・きさま・・は・・」
アルカードは知り得た事実を誰に伝える事無く事切れた。
「さてと・・・・」
敵が床に伏したのを見届けると、男は何事もなかったように王女の元へと戻
る。
「さっきの話の続きだけど、俺自身は結界の穴を指定期間中護る自信は・・・
一応はある。攻めてくるのがあんな雑魚なら尚更だ。だが、傭兵として追加依
頼してくれれば、俺は魔王とやらとも闘ってもいいが・・・・どうだ?実際、
いつまでも籠城したところで、事態の解決にはならないだろ?」
それは籠城を余儀なくされた時点で判っていたことである。自給自足が出来
るメルフィメールでも、隣人がああも物騒では、国民に真の安息はあり得な
い。
「その追加依頼としての見返りは何です?」
フレイアはもう、実力に関しては何も問わなかった。少なくとも、現在のこ
の国においては彼が最も強いという事実を認めざるをえなかったのだ。
「そうだな・・・・戦闘に際して、俺の所持していた武具の返還と、目的達成
時に相応の報償金・・・・・それと、依頼遂行中に敵陣で得たアイテムの所有
権・・・・・もちろん『秘宝』とやらは省くとしてだがな」
男の提案にフレイアは僅かながら眉をひそめた。結局の所、そこいらの山賊
と大差がないと思えたためである。相応の実力を持ちながら、仕官する事なく
この様に争いの場に現れては、血生臭い行為を行い、そのどさくさに価値のあ
る物を得ていく・・・・・生まれからして高貴な立場であった彼女には、男の
生き様がそんな風に見えたのである。
「・・・・・良いでしょう。その条件を呑みましょう。早速支度を・・・・
・」
「は?支度と言っても・・・・・・」
男は投げやりな彼女の言いように戸惑った。だが、王女の説明不足を補う存
在が彼の後に姿を現した。
「私が案内します」
黒装束に身を包んだ少女が頭を垂れながら言った。
「え・・・と、君は?」
「王宮忍者、下人のルシアと言います。身支度の場に案内しますのでどうぞこ
ちらへ」
「あ、ああ、宜しく・・・・」
ある意味、王女と全く異なる対応をされた男は、リアクションに困りながら
先を歩くルシアと名乗った少女の後についた。
謁見の間を出るまでの間、男は自分の背中に好意的でない視線を数多く感じ
るのであった。
ルシアの案内で男が訪れたのは、武器管理庫だった。
「こちらに貴方の武具も保管されています。それ以外に必要な物がありました
ら一緒に選んで下さい」
「わかった」
男は頷いて、開けられた扉から中に入った。
室内には、剣・槍を始めとした武具が整然と並んでいたが、男はそれらには
目もくれず、正面の台に保管されていた自分の装備に手を伸ばした。
その傍らではルシアが「忍者」としての癖で、その行為を真剣に観察してい
た。
男の存在が珍しいというだけでなく、先程見せた戦闘能力に興味を持ったた
めである。普通なら『男』であるという事だけで軽蔑の対象にされていたのだ
が、如何なる時でも相手の実力・現実をシビアに見つめるように訓練されてい
る忍者故に、比較的冷静な評価を得る事が出来たのである。
その目に、男の装備は非常に独特な物である様に見えた。
身に纏う防具は、一つ一つが手を加えられているらしく、胸部はハードレザ
ー腹部はソフトレザーと、組み合わされたレザーアーマーに、膝カバー付きの
脛当て、左右非対称で左側がやや大きいレザーのショルダーパッド、チェイン
メイルの様な金属製の網を張りつめた右腕の手甲に、それよりやや大きく盾と
しても使えるのだろう左腕の手甲。頭には兜は被らず、青のはちまきがその代
わりかのように巻き付けられている。
そして武装、先程の一騒動で使用した2本のナイフが靴に隠されているのを
始め、ショートソードに近い雰囲気を持つナイフが2本、両腰に下げられ、ハ
ルバートの様に『切る』『突く』『刺す』の機能を持った2メートル程度の槍
・・・・・という、おおよそ知られている戦士の装備とかけ離れていた物とな
っていた。
「質問・・・よろしいですか?」
自分の武具を装着し、失った『剣』の代わりを物色し始めた男に、ルシアは
問いかけた。
「どうぞ~」
異国の剣を物珍しそうに眺めながら、男は応えた。
「見た所、かなりオールマイティな戦いをする事を想定している様ですが、そ
んな戦い方を何処で学ばれたのですか?」
「そんな事が判るのか?」
「相手を詳しく観察するは私達、忍者の癖です。戦士は剣、槍を使う場合は接
近戦になった事を想定して鎧を強化するなど、ある程度の偏りみたいな物があ
るんですが、貴方の場合、どの様な状況にも対応できるような準備があるよう
ですから・・・・」
「なかなかに鋭いな・・・・」
自分には無い特技だなと感心しつつ、男は話を続けた。
「知っての通り俺は傭兵だ。色々とこなすが、やはり多いのは戦争の参加だ。
そこでは、敵を倒して幾ら・・・の仕事だから、当然激戦区に赴く事が多い。
そこでは、流派とか、武器の質がどうかとか言う以前に、先に攻撃を命中させ
ることが重要なんだ。そんな環境で生きてきたからな・・・・・・俺の戦い方
はその帰結さ」
「あの時、魔法弾を弾いたり、投げた槍に何らかの力を付与するのも・・・で
すか?」
「そんなものだな・・・・戦場に剣士しかいないなんて保証は無いだろ」
どことなく、はぐらかしたかのような言い方だったが、ルシアは理解した。
この男は見た目の年齢にそぐわない程、多くの戦いを経験しているのだという
事を・・・
「よし、これ貰うぞ!」
一瞬、思考がそれていた間に、男が武器を選び、ルシアは彼の選んだ武器を
見た。
それは戦士が通常使う剣より若干短い片刃の剣だった。柄の部分から急角度
で刃が突き出て、すぐに反対方向に反り返っている剣で、その形状故に若干重
心のずれている剣だった。
この形状に深い意味はない。単なる制作者の思いつきによるデザインだっ
た。もちろん選んだ男の方にも特筆する理由など無く、あえて言うのであれ
ば、異質な形状が気を引き、彼が欲していた長さである事と、数打ちの量産品
ではなく特別に手がけられている事を示す『紋』が、刀身に刻まれていること
が選出の理由だった。
これについて、ルシアは意見を言うつもりはなかった。武具の好みなど、人
それぞれであるのだから・・・・
準備の整った男を促そうとした時、それを彼が制した。
「?」
「すまん、ちょっと髭を剃って顔を拭きたい。水のあるところに案内してくれ
ないか?」
ルシアは快く承諾した。そして、たった一人で行う大仕事を前にして、妙に
マイペースな男に微かな興味を持った。
支度を済ませ、再び王女の前に姿を現した男は見違えた・・・・と、誰もが
思った。
装備を調え、ここに至る道中で伸びていた髭を剃り、汚れきった顔を洗った
だけだったのだが、それだけ最初の姿が酷かった事を証明していた。
前後のギャップがあまりにも激しかったため、根本的に『男』を毛嫌いして
いた一同の中に僅かながら評価を上げる者もいた。
もっともそれは、『薄汚れた男』から『単なる男』程度の違いでしかなかっ
たが・・・
「それでは行って参ります」
最初の時とはうって変わって、恭しく片膝を床に着け頭を下げる男。相手を
正式に依頼者として見た行為であった。
「貴方が口だけの傭兵でないことを祈りますよ」
これは、雇われたからには責任を持て。期待はしていないが・・・・と、語
っている様なものだった。
普通の依頼者であれば、大抵形式的であっても期待していますよと、言う所
であったが、やはりここは根本的に違うと、男は痛感した。
「少なくとも、王女が今、持たれている期待を越えて見せますよ」
男も僅かに皮肉を込めた一言を言って、立ち上がった。契約が交わされた以
上、相手は依頼主であり、忠義を尽くす対象であった。過去の仕事の中には顔
すら合わせようとしない依頼者もいたため、フレイアのように自分を格下と見
なす相手にも慣れていた。
捨て石同様に戦地に送られた事もあったが、その時も文句は一切無かった。
事前に説明があった上で、相応の報酬も支払われたからである。
だがもし彼女が、自分の持つ最低限のルールさえ破ろうものなら・・・・・
そう思い、今回の自分には味方はいないのだということを再認識した。
「待ちなさい!」
出口に向かう男の背に、フレイアの声が投げかけられた。
振り向くことなく、ただ立ち止まる男。
「名前を聞いていませんでした。名乗りなさい」
本来なら、初対面の時にあってしかりの台詞である。これは本当に、この国
が男を相手にしていない事を証明していた。
「キーン・・・キーン・ファストです」
首を傾け、僅かに視線をフレイアに向け、彼は・・・キーンは言った。
浸った彼は、荷物を再び抱えて前進を再開した。
「とにかく今は、まっとうなベットで休めれば十分!」
男は一軒くらいはあるだろう宿屋に期待をよせつつ、城下町に入ろうとす
る。
が、その瞬間、彼は激しい衝撃が体内を駆けめぐるのを感じ、ほぼ同時に大
きく後方に弾き飛ばされていた。
「がはっっ!!ぐ・・・・な、何だってんだ?」
転倒時の僅かな擦り傷以外には大した外傷がないにも関わらず、痛みが全身
に生じており、男はそれを鎮めるように体の各所をさすりつつ身を起こす。そ
の際に周囲を見回すが、襲撃者らしき人の気配もなければ、変化も無かった。
一見すれば不可解なことだったが、こうした『現象』に心当たりのある男
は、左腕を正面に突きだし、そっと城下町に近づいて行った。
やがて彼の腕が先程弾かれた位置に達した時、突き出していた指先にビリッ
とした感覚が走り、瞬間的にではあったが、目の前が光の壁で覆われたのを彼
は見逃さなかった。
「やっぱり結界か・・・・」
男は若干痺れの残る指先をさすって呟いた。
結界・・・主に魔法による技法で、外敵の侵入防止、あるいは対象を外界に
出さないための牢獄的な目的で用いられるもので、特定の条件を満たさない存
在に対して発動するフィールドであったり、物品を守る鍵であったりする場合
が多い。
ここに至る道中で何度か遭遇したモンスターの強さを思い起こせば、この処
置も国内の治安維持策として当然かもしれないと、男は一人納得する。
が、納得できない点もやはりあった。
この世界で使用される結界は『聖』か『魔』の、どちらかの属性を持ってい
る。このどちらを利用しても、結界の内容に指向性を持たせる事が可能となっ
ていた。
つまり、結界に反応する種族や条件等がかなり細かく設定可能なのである。
仮に目の前の結界がモンスターに対して張られているのであれば、人間であ
る自分が反応するはずが無かったのである。
「・・・・・・・・」
男は再び結界のフィールドに掌を近づけ、反応するのを確認すると、事態を
概ね把握した。
「何か・・・・余所者を全て拒絶するような基準設定が施されているみたいだ
な」
そしておもむろに右掌をフィールドに触れさせ、反発する力に耐えながら一
人絶叫する。
「ぐ・・・ぉ・・・ふ、ふざけやがって!こんな辺境で旅人をないがしろにす
る国があっていいのかよ!!」
この国の事情を知れば納得するかもしれなかったが、今のところ彼が門前払
いされる心当たりは無い。その上、人っ子一人として姿を見せない現状に、疲
労感も加わった苛立ちを感じたのである。
しばらくの間、結界との力比べをしていた男だったが、やがて限界にきたの
か、自らその腕を結界から遠ざけた。
『対象』との接触により発動していた結界が急速に治まり、辺りが再び静寂
に包まれる。そんな中、男は接触させていた掌と目の前の空間とを交互に見比
べ、一つの確信を得た。
「凄いな。『聖』と『魔』の両方の術を併用して結界をはってやがる」
その事実に、男は一人驚愕していた。多少の例外もあるが、聖の属性の結界
の場合、相手に対し磁力の反発のような反応を示し、魔の属性の結界の場合、
接触者に苦痛を与えるというのが基本的な性質となっている。その両方の特性
が、この結界にはあったのである。
「いったい、何だってこんな手の込んだ結界が必要なんだ?」
男は自問自答する。
モンスターの類に対するにしても度が過ぎているとしか言えず、余程強力な
存在がこの辺りにいるのであれば、道中で彼がその痕跡を見逃すはずもない。
情報も無い上に、現状のみが考察の材料である中、彼の思考は推測のみで満
たされ始め、その結論として、
「ひょっとして、街の連中が施した結界ではなく、外敵が施した結界か!?」
という発想に至った。
「と、なると、国全体が幽閉されているって訳か・・・女ばかりの国を独占す
るとは、粋な輩もいるもんだ・・・・・」
一人故、その意見を否定し幅広い視野をなかなか得ることが出来ないのが、
彼の不幸であった。
これまでの旅路でも、意見交換する相手がいなかったために人生の遠回りを
したことも幾度となくあり、今回の一件も、そうした事例の一つとなる。
結局、結界はこの国に望むべくして施された物ではない・・・・という結論
に達してしまった男は、背負いバックを地面に置き、杖代わりにしていた槍を
地面に突き立てると、両腕を背に回し、X字に背負っていた二本の剣をゆっく
りと抜いた。
右手に持つ黒い剣を魔剣『デラー』と言い、左手に持つ白銀色の剣を聖剣
『クレアル』と言った。
この二本は対になっていたものではない。彼がこれまでの旅の途中に、別々
の時と場所で見つけた武具の一つで、共に長さが自分の好みに合っていたた
め、メインの武器として所持していたのである。
男が抜いた互いの剣の刃を軽く接触させると、属性である聖と魔の力が干渉
し、魔力の火花を小さく散らす。
それを確認した彼は、二本の剣を揃えるようにして大きく右肩越しに振りか
ぶる。
その表情が緊張で強ばり、辺りでのどかに鳴いていた小鳥も微妙な気配の変
化に気づき、警戒し始める。
男は呼吸を一定のリズムで取り始め、結界との距離を徐々にすり足で縮めて
行く。
ややして、ある距離に達した時、彼の動きは止まり、しばしの間が訪れる。
そして、前触れも無しに彼の気が弾けた。
「聖・魔・滅・封!!!!」
気合いを込めた二本の剣が同時に振り下ろされた。
男の放った一撃は、結界のフィールドに触れ、激しい光を放った。
「くあっ!」
男は腕に予想以上の反発力を感じつつも一気に剣を振り下ろすと、すかさず
今後は左肩越しに剣を振りかざすと、同じ要領でもう一振りする。
パキィィィィィィィン!
剣が振り下ろされたと同時に甲高い金属音が響き、彼の両手に握られていた
二本の剣がほぼ同時に粉々に砕けた。
「おおっ!?」
愛剣の消滅に男は驚愕した。だが、結界の方も無事ではない。剣が振り下ろ
された空間にはX字の『傷』が生じ、周囲が曇りガラスの様によどんでいたの
である。
やがて傷ついた空間は徐々にその範囲を広げていくと、結界の触媒だったの
だろう、物陰に設置されていた古木でできた小さな神像と古めかしい札が同時
に白い炎を上げ消滅し、それに伴い、よどみを生じさせていた空間が、綺麗さ
っぱり消え去った。結界の一区画が消滅したのである。
「あ~あ・・・・結界一つに剣二本の損失か・・・・・・・・・すっげぇ出費
だ」
すでに鉄屑となり果てた、かつての愛剣の柄を投げ捨て、男はぼやいた。
この時代、通常より高い攻撃力を持つ剣や特殊な能力を付与されている剣
を、その特性によって『聖剣』あるいは『魔剣』と呼称し、区分していた。
一般にそれらの武具を作る技術は失われていたが、古代繁栄期と呼ばれた遙
か過去に作られたそれらが、当時の遺跡や戦場跡から発見されることがある。
彼の持っていた二本の剣も、とある遺跡にて見つけた物であり、余談となる
が、その価値は捨て値でも小さな館がメイド・執事付で生涯雇えるほどの高価
な品であった。
彼はそう言った古代遺跡捜索を中心とした旅を続け、意外に多くのアイテム
を入手していたが、気に入った物以外は全て高価な宝石に変えて旅の資金にし
ていた。
金銭に関しては旅人であるため、極端な執着はなかったものの、今の行為で
どこかの国の地方領主の全財産に匹敵するだろう物品がゴミ屑と化したのであ
る。
「剣のもとを取るだけの価値があればいいんだが・・・・・」
男は無惨に散った二本の愛剣に相当する見返りがある事を本気で祈ると、意
を決して城下町に向かって歩き出した。
そしてそこで『出迎え』に遭遇する。
「その者か?」
王女フレイアは装備を取り上げられ、周囲を数名の女兵士に囲まれて威嚇さ
れ、床に座り込んでいる男を王座から見下ろして言った。
「は・・・・」
男を取り囲む兵士の中で、一人兜の形状が一部違う女性が跪いたまま答え
た。
「その者も魔王の手の者ですか?いったい、どうやってこの国に侵入したので
す?」
王女としての威厳と威圧感を存分に示しながらフレイアは問う。
「魔王・・・・・って何?旅人が道中の街に立ち寄るのは当然だろ。この一帯
何もなく、モンスターもうようよしているとなると、立ち寄っても不自然じゃ
ないだろ」
今こうして拘禁されている事が信じられないと言った様子で男は逆に問い返
した。
「この国にはモンスター・魔族・男性を拒む強力な結界が施されています。見
え透いた嘘など・・・」
「あっ、あの結界・・・・・あんた達が仕掛けたのか?」
フレイアの言葉の終わらぬうちに男は口を挟んだ。この時彼は自分の判断ミ
スを悟る。
あの結界は『外部からの人間』に反応したのではなく、彼女が公言した通り
『男』に反応したのである。何故そのような設定にされているのかは理解でき
なかったが、これで納得はいった。
「もう一度問います!」
話が中断され、フレイアは不機嫌さを顔に表して声を荒げた。
「どうやってこの国に侵入したのか答えなさい」
「そのですね・・・・結界が・・・・結界が、この国の物ではなく、外部の
『敵』の仕業かと思ったんで、ぶち破っちまった・・・・」
自分の行為が状況を不利にする材料でしかない事を認識する彼は、かなりば
つの悪そうな表情になりながら、真実を答えた。
「何ですって?」
王女が小さく呻き声をもらし、控えていた女兵士達もどよめき合った。
「聖魔複合のあの結界を貴方一人で?」
普通であればとても信じられる物ではなかった。だが、こうして現実に結界
の『対象』である男がこの場にいる以上、破壊は虚言ではないことを証明して
いる。
もともと、結界に異常が生じたのが察知されたからこそ、急遽警備の部隊が
派遣され、事情を知らずに街を歩いていた彼を捕獲したのである。
しかし、結果が目の前にあっても、彼女達は素直にそれを信じ切れずにい
た。そもそも聖魔複合結界とは、相対する二つの性質の術をバランスよく合わ
せて形成された物で、例え一方の性質の結界が解除されても、残った一方がそ
れを補い修復するという特性を持っており、解除するには二つの結界に対し
て、解除の術や呪文を同時かつ同等の力で長時間施さなければ不可能なのであ
る。
「確かに二つの結界の複合で強烈だったけど、やっぱり人間の施す事だから
な、完璧じゃぁないさ」
「ですが、容易に破れるものでもありません。答えなさい、一体何をしたので
す!」
当初から罪人を見るようなフレイアの態度に、少なからず不満を抱く男であ
ったが、何はともあれ、勘違いによって結界を破壊した気負いが彼にはあり、
横暴とも思える彼女の態度にも反抗する意志がわかなかった。
「あ~・・・・聖剣と魔剣の同時使用した俺の技で、結界そのものを斬った・
・・・その、文字通りにね・・・・・おかげでこっちの貴重な剣もパァになっ
たけどね」
男の証言に周囲が再びざわめいた。結界を斬るなどと言った、にわかに信じ
がたい事をさらっと言ってのけたからである。
「では、それが事実なのであれば、貴方にはその責任を取ってもらいます」
フレイアにしてもその発言を信じたわけではなかった。しかし見たところ魔
王一派でもない様子から、使える物ならと、利用する事を考えついた。
「せ、責任とは?」
「もちろん破壊した封印の修復です。あるいは、貴方によって生じた封印の綻
びから侵入してくる外敵の駆逐、あるいはその根元を絶つ事です」
どれも男一人では無理難題であることは判っている。しかし、廃品利用でき
るのであれば、それにこしたことはない程、この国の戦力は低下していたの
だ。
「・・・・・って、そう言うのなら、もう少し状況を説明してほしいな」
責任云々は、自分のミスと判った時から受ける覚悟はあった。だが、現状に
至った原因を把握しなければ、いまいち落ち着けはしなかった。
「いいでしょう・・・・・」
王女は応える。
「我が国、メルフィメールは古より男という不要な存在を除外し、平和に過ご
してきた国でした・・・・」
(男を除外?他に野郎を見かけないから多分そうだとは思ったが・・・・ここ
が山賊共の言った『理想郷』か?・・・・ちと、イメージが違うな)
フレイアの前置きを聞いて、男はここが目的地である事を悟り、思い描いて
いた国と異なる事に落胆した。が、現実とはおおよそこんなモノだな。とも思
った。
「しかし、昨年来より魔王を名乗る者が現れ、我が国を蹂躙し、先人が封じた
魔獣の眠る塔の封印を解き、国宝である秘宝をも奪っていきました。幾度も繰
り返された闘いで主力を失って行った我々は、魔王達から身を守るために強固
な結界を張り、籠城を行っていましたが、その城壁ともいえる結界を貴方が破
壊したのです」
「成る程、思ったより深刻だった訳だ・・・・それで、秘宝ってのは何?」
ある意味、遺跡を探し回り古代の武具を漁る事を生き甲斐としているような
生活をしていた男は、話の中に含まれたその単語に敏感に反応した。
「分かりません。古来より伝えられ、一度も使用されていない物で、その実態
を知る者はいません」
「形状も何も知らないってか?」
「秘宝の鍵とされる物は封印の施された宝箱に納められ、何人にも開ける事は
適いません」
「で、魔王には奪われ、秘宝の封印は破られた・・・・と?」
「いえ、魔王と言えど不可能でしょう」
「何故?」
「過去、大勢の者が開封を試み、秘宝の謎に迫ろうとしましたが、誰一人成功
しませんでした。それほど厳重な封印処置が魔王の手に負えるはずもありませ
ん」
それは偏見だ!
そう言いたいのを男は懸命に耐えた。自分達が駄目なら他の者にも不可能と
いう論理はあり得ない。だがそれを主張したところで無意味であり、ただ不安
に駆り立てるだけで利益はない。
心に僅かな蟠りを残しながら男は質問を続ける。
「では、魔獣ってのは?」
「わかりません」
「・・・・・・おい・・・・・」
あまりにも無責任とも言える返答に、男は思わず唸る。
「事実です。未だ実態を見せていない事から、完全覚醒には至ってはいないの
でしょう。ただ・・・人の魂を虜にしようとする恐ろしい存在であるらしい事
は・・・・間違いありません」
そこまで言ってフレイアはほんの僅かに頬を染めたが、それに気づいた者は
男を含め一人もいなかった。
「じゃあ、最後に聞きたい。俺に結局、何をしてほしい?」
「多くは期待していません。当面は失われ結界の代わりです。新たな結界が構
築されるまでの約三週間、侵入してくるモンスター達と闘ってもらいます」
「ちょ、ちょっと待てぇ!20日以上?さすがにそれは理不尽だろうが!!」
「原因は貴方です」
闘いは構わない。だが、条件が悪すぎる。いつ来るかも判らない敵に対して
20日以上の門番を一人でするなど、『魔人』や『傭兵王』と異名を持つよう
な人物でも不可能な事である。
そうした抗議を弱い一言で突き返されると、男は言葉に詰まった挙げ句、妥
協案を提案した。
「・・・な、なら提案だ!さっき言ってた責任の話で、根元を絶つって言って
たろ?それを実行してはだめか?」
「つまり魔王を倒す?」
意外そうな彼女の復唱に呼応するかのように周囲からも失笑が漏れた。
「その通り。でもって、魔獣を処分するか再封印して、秘宝も取り返せば、2
0日なんてかけなくていいだろ?」
「出来るのですか?貴方に?」
「そんな事、やってみなければ分かるはずもないだろ。実施させてもらえなけ
れば可能性は無いし、チャレンジするなら可能性は0じゃあ無い」
フレイアにもその論理は判る。しかし、
「私にしてみれば、得体も知れない男風情に国の運命を・・・」
と、その時だった、彼等のいる謁見の間の大扉が砕け、二人の女兵士が吹っ
飛んできた。
「何事だ!」
兵士長らしき女性が剣を構えて叫ぶ。
「て、敵襲です・・・・例の結界の穴から魔王の直属隊と称する輩が・・・
・」
吹っ飛ばされた女が、苦しげに喘ぎながら報告した。
「左様・・・」
ふてぶてしさを含んだ声が壊れた扉の奥から聞こえた。
「王女にはお初目にかかる。我が名はアルカード、魔王騎士団の分隊長を務め
させてもらっている者です。長らく籠城されていたようですが、我が主がお待
ちなので、ご同行願いますよ」
来るべき時がきた。悟りながらもフレイアの顔は青ざめた。
「なに、魔獣の能力の一端を知った貴女です。一度本体と相見えれば、その素
晴らしさが判るはずです」
(何だぁ?王女は魔獣を知ってる?)
アルカードと名乗る人物の言葉に、男が疑惑を抱いた瞬間、相手が実力行使
に出たため、彼の思考は中断せざるを得なかった。
「いけっ!」
主であるアルカードの命を受け、彼の背後に控えていた二匹の人獣型モンス
ターが素早く跳躍した。
「王女!!」
周囲の兵達が集まり壁となったが、それはあっさりと弾き飛ばされていく。
「すでにこの国の主力は無いも同然。下っ端の兵士では足止めにもならん。潔
く同行するが良かろう」
アルカードは余裕の笑みを浮かべ、配下の行動を見守った。だが、その瞳が
瞬時に曇った。
突進する二匹のモンスターの進行上に、一人の男が立ちはだかったのであ
る。
「ジャマダ!」
モンスターが唸って鋭い爪を構え、二匹の同時攻撃で男を引き裂こうと勢い
をつけた。
ほとんどが闘争心で占められている二匹の脳は、男が引き裂かれ、血の海に
沈む姿を想像したが、それは幻想に止まった。
彼等の爪が目標に達するよりも早く、男が靴に隠してあったナイフを投げ放
ち、二匹の眉間を貫いたのである。
勢い余って派手に倒れる二匹のモンスターは、おそらくは何が起こったかを
理解する前に絶命したであろう。
「・・・・・・・貴様、何者だ?」
意外な伏兵を目の当たりにしてアルカードが問う。この国に残された兵力を
理解していた上で、それを圧倒できるはずの二匹をつれてきたのだが、この男
の存在は全くの計算外だった。そもそも、「男」という存在がここに在る事自
体が計算外なのである。
「ただの旅の傭兵だよ。契約が決まる直前だったんだ・・・・悪いが少し退席
してくれないかな・・・・」
「ほう、何の契約かな?」
「あんたの親分を殺す事」
男の返答は予想はしていた。だがここまではっきりと言われるとは思っても
みなかった。だからこそ、アルカードには余計に不愉快に感じた。
「小賢しい!」
何の前触れもなしに、アルカードが光弾を放った。
「お、おいおいっ!騎士団長とか言ったくせにいきなり魔法弾かよ!」
横っ飛びし、光弾をかわした男は、そのまま横滑りしながら、先の攻撃で倒
れた兵士の所へ移動すると、彼女の持っていた槍をひったくった。
「借りるよ」
「死ねぃ!」
再び光弾が放たれた。男は槍を拾うという行為を行ったため、回避のゆとり
は無いと誰もが思ったが、彼はその場で槍を回転させると、その切っ先で光弾
を弾いた。
「馬鹿な!」
アルカードは叫んだ。魔法弾を弾く行為そのものは不可能ではない。だがそ
れには同じく魔法の関与があるか、武具にそれなりの仕様が施された時に限
る。男が魔法を使った形跡はない。ましてや一般兵の所持する槍にそんな力が
付与されているはずもない。
「こんな事が・・・」
「目の前の事実は信じるものだよ」
アルカードの動揺をよそに、男が槍を投げつけた。
「なっ!」
その異様なスピードに、アルカードは驚愕しつつも迎撃の光弾を放ったが、
槍は光弾を貫き、勢いを衰えさせる事無く、彼を貫いた。
致命傷であった。絶命の直前、身を貫く槍越しにある種の力を感じ取り、ア
ルカードは男の力の正体を悟った。
「き・・・きさま・・は・・」
アルカードは知り得た事実を誰に伝える事無く事切れた。
「さてと・・・・」
敵が床に伏したのを見届けると、男は何事もなかったように王女の元へと戻
る。
「さっきの話の続きだけど、俺自身は結界の穴を指定期間中護る自信は・・・
一応はある。攻めてくるのがあんな雑魚なら尚更だ。だが、傭兵として追加依
頼してくれれば、俺は魔王とやらとも闘ってもいいが・・・・どうだ?実際、
いつまでも籠城したところで、事態の解決にはならないだろ?」
それは籠城を余儀なくされた時点で判っていたことである。自給自足が出来
るメルフィメールでも、隣人がああも物騒では、国民に真の安息はあり得な
い。
「その追加依頼としての見返りは何です?」
フレイアはもう、実力に関しては何も問わなかった。少なくとも、現在のこ
の国においては彼が最も強いという事実を認めざるをえなかったのだ。
「そうだな・・・・戦闘に際して、俺の所持していた武具の返還と、目的達成
時に相応の報償金・・・・・それと、依頼遂行中に敵陣で得たアイテムの所有
権・・・・・もちろん『秘宝』とやらは省くとしてだがな」
男の提案にフレイアは僅かながら眉をひそめた。結局の所、そこいらの山賊
と大差がないと思えたためである。相応の実力を持ちながら、仕官する事なく
この様に争いの場に現れては、血生臭い行為を行い、そのどさくさに価値のあ
る物を得ていく・・・・・生まれからして高貴な立場であった彼女には、男の
生き様がそんな風に見えたのである。
「・・・・・良いでしょう。その条件を呑みましょう。早速支度を・・・・
・」
「は?支度と言っても・・・・・・」
男は投げやりな彼女の言いように戸惑った。だが、王女の説明不足を補う存
在が彼の後に姿を現した。
「私が案内します」
黒装束に身を包んだ少女が頭を垂れながら言った。
「え・・・と、君は?」
「王宮忍者、下人のルシアと言います。身支度の場に案内しますのでどうぞこ
ちらへ」
「あ、ああ、宜しく・・・・」
ある意味、王女と全く異なる対応をされた男は、リアクションに困りながら
先を歩くルシアと名乗った少女の後についた。
謁見の間を出るまでの間、男は自分の背中に好意的でない視線を数多く感じ
るのであった。
ルシアの案内で男が訪れたのは、武器管理庫だった。
「こちらに貴方の武具も保管されています。それ以外に必要な物がありました
ら一緒に選んで下さい」
「わかった」
男は頷いて、開けられた扉から中に入った。
室内には、剣・槍を始めとした武具が整然と並んでいたが、男はそれらには
目もくれず、正面の台に保管されていた自分の装備に手を伸ばした。
その傍らではルシアが「忍者」としての癖で、その行為を真剣に観察してい
た。
男の存在が珍しいというだけでなく、先程見せた戦闘能力に興味を持ったた
めである。普通なら『男』であるという事だけで軽蔑の対象にされていたのだ
が、如何なる時でも相手の実力・現実をシビアに見つめるように訓練されてい
る忍者故に、比較的冷静な評価を得る事が出来たのである。
その目に、男の装備は非常に独特な物である様に見えた。
身に纏う防具は、一つ一つが手を加えられているらしく、胸部はハードレザ
ー腹部はソフトレザーと、組み合わされたレザーアーマーに、膝カバー付きの
脛当て、左右非対称で左側がやや大きいレザーのショルダーパッド、チェイン
メイルの様な金属製の網を張りつめた右腕の手甲に、それよりやや大きく盾と
しても使えるのだろう左腕の手甲。頭には兜は被らず、青のはちまきがその代
わりかのように巻き付けられている。
そして武装、先程の一騒動で使用した2本のナイフが靴に隠されているのを
始め、ショートソードに近い雰囲気を持つナイフが2本、両腰に下げられ、ハ
ルバートの様に『切る』『突く』『刺す』の機能を持った2メートル程度の槍
・・・・・という、おおよそ知られている戦士の装備とかけ離れていた物とな
っていた。
「質問・・・よろしいですか?」
自分の武具を装着し、失った『剣』の代わりを物色し始めた男に、ルシアは
問いかけた。
「どうぞ~」
異国の剣を物珍しそうに眺めながら、男は応えた。
「見た所、かなりオールマイティな戦いをする事を想定している様ですが、そ
んな戦い方を何処で学ばれたのですか?」
「そんな事が判るのか?」
「相手を詳しく観察するは私達、忍者の癖です。戦士は剣、槍を使う場合は接
近戦になった事を想定して鎧を強化するなど、ある程度の偏りみたいな物があ
るんですが、貴方の場合、どの様な状況にも対応できるような準備があるよう
ですから・・・・」
「なかなかに鋭いな・・・・」
自分には無い特技だなと感心しつつ、男は話を続けた。
「知っての通り俺は傭兵だ。色々とこなすが、やはり多いのは戦争の参加だ。
そこでは、敵を倒して幾ら・・・の仕事だから、当然激戦区に赴く事が多い。
そこでは、流派とか、武器の質がどうかとか言う以前に、先に攻撃を命中させ
ることが重要なんだ。そんな環境で生きてきたからな・・・・・・俺の戦い方
はその帰結さ」
「あの時、魔法弾を弾いたり、投げた槍に何らかの力を付与するのも・・・で
すか?」
「そんなものだな・・・・戦場に剣士しかいないなんて保証は無いだろ」
どことなく、はぐらかしたかのような言い方だったが、ルシアは理解した。
この男は見た目の年齢にそぐわない程、多くの戦いを経験しているのだという
事を・・・
「よし、これ貰うぞ!」
一瞬、思考がそれていた間に、男が武器を選び、ルシアは彼の選んだ武器を
見た。
それは戦士が通常使う剣より若干短い片刃の剣だった。柄の部分から急角度
で刃が突き出て、すぐに反対方向に反り返っている剣で、その形状故に若干重
心のずれている剣だった。
この形状に深い意味はない。単なる制作者の思いつきによるデザインだっ
た。もちろん選んだ男の方にも特筆する理由など無く、あえて言うのであれ
ば、異質な形状が気を引き、彼が欲していた長さである事と、数打ちの量産品
ではなく特別に手がけられている事を示す『紋』が、刀身に刻まれていること
が選出の理由だった。
これについて、ルシアは意見を言うつもりはなかった。武具の好みなど、人
それぞれであるのだから・・・・
準備の整った男を促そうとした時、それを彼が制した。
「?」
「すまん、ちょっと髭を剃って顔を拭きたい。水のあるところに案内してくれ
ないか?」
ルシアは快く承諾した。そして、たった一人で行う大仕事を前にして、妙に
マイペースな男に微かな興味を持った。
支度を済ませ、再び王女の前に姿を現した男は見違えた・・・・と、誰もが
思った。
装備を調え、ここに至る道中で伸びていた髭を剃り、汚れきった顔を洗った
だけだったのだが、それだけ最初の姿が酷かった事を証明していた。
前後のギャップがあまりにも激しかったため、根本的に『男』を毛嫌いして
いた一同の中に僅かながら評価を上げる者もいた。
もっともそれは、『薄汚れた男』から『単なる男』程度の違いでしかなかっ
たが・・・
「それでは行って参ります」
最初の時とはうって変わって、恭しく片膝を床に着け頭を下げる男。相手を
正式に依頼者として見た行為であった。
「貴方が口だけの傭兵でないことを祈りますよ」
これは、雇われたからには責任を持て。期待はしていないが・・・・と、語
っている様なものだった。
普通の依頼者であれば、大抵形式的であっても期待していますよと、言う所
であったが、やはりここは根本的に違うと、男は痛感した。
「少なくとも、王女が今、持たれている期待を越えて見せますよ」
男も僅かに皮肉を込めた一言を言って、立ち上がった。契約が交わされた以
上、相手は依頼主であり、忠義を尽くす対象であった。過去の仕事の中には顔
すら合わせようとしない依頼者もいたため、フレイアのように自分を格下と見
なす相手にも慣れていた。
捨て石同様に戦地に送られた事もあったが、その時も文句は一切無かった。
事前に説明があった上で、相応の報酬も支払われたからである。
だがもし彼女が、自分の持つ最低限のルールさえ破ろうものなら・・・・・
そう思い、今回の自分には味方はいないのだということを再認識した。
「待ちなさい!」
出口に向かう男の背に、フレイアの声が投げかけられた。
振り向くことなく、ただ立ち止まる男。
「名前を聞いていませんでした。名乗りなさい」
本来なら、初対面の時にあってしかりの台詞である。これは本当に、この国
が男を相手にしていない事を証明していた。
「キーン・・・キーン・ファストです」
首を傾け、僅かに視線をフレイアに向け、彼は・・・キーンは言った。
あとがき
唐突ですが、私は剣と魔法もののゲームとか、結構好きです。
きっかけはDQでした。
名前が登録できて、旅をして徐々に強くなっていく事にのめり込みましたね~
そしてPCで美少女ゲームの類に遭遇したのは必然でしたが、塔のベースにな
った某作品の様な「お約束」モノの他に、実にストーリーが良くできた物も幾
つも体験してきました。
実際、最近・・・と言うより、人気作品はストーリーも良いのが多いと思って
ます。
ゲームがWIN時代に入る前に、ゲームの販売ペースに追いつけなくなってし
まいましたが、数年前に知人が大量のゲームCDを譲ってくれました。
その数は本当に「大量」でして、CD収納バッグに10以上、気長にチェック
してみるとダブリもあったりで、雑誌等を読んで興味を持ち、記憶している作
品や、インストール時のタイトル画面で好みのタッチであったのを選出したり
して、だいぶ減らしたのですが、正直、残りの一生をかけても全てプレイでき
るかが怪しい数となっています。
実際、ゲームする機会が少ない事に加え、最近のWINバージョンでは起動し
ない物もありますから・・・・
でも、この中にはきっとネタになる作品もあるはずなので、年に2~3作はや
ってみたいですね。
唐突ですが、私は剣と魔法もののゲームとか、結構好きです。
きっかけはDQでした。
名前が登録できて、旅をして徐々に強くなっていく事にのめり込みましたね~
そしてPCで美少女ゲームの類に遭遇したのは必然でしたが、塔のベースにな
った某作品の様な「お約束」モノの他に、実にストーリーが良くできた物も幾
つも体験してきました。
実際、最近・・・と言うより、人気作品はストーリーも良いのが多いと思って
ます。
ゲームがWIN時代に入る前に、ゲームの販売ペースに追いつけなくなってし
まいましたが、数年前に知人が大量のゲームCDを譲ってくれました。
その数は本当に「大量」でして、CD収納バッグに10以上、気長にチェック
してみるとダブリもあったりで、雑誌等を読んで興味を持ち、記憶している作
品や、インストール時のタイトル画面で好みのタッチであったのを選出したり
して、だいぶ減らしたのですが、正直、残りの一生をかけても全てプレイでき
るかが怪しい数となっています。
実際、ゲームする機会が少ない事に加え、最近のWINバージョンでは起動し
ない物もありますから・・・・
でも、この中にはきっとネタになる作品もあるはずなので、年に2~3作はや
ってみたいですね。