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2011/03/05(土)に投稿された記事
くすぐりの塔 After Story -魔王の後継者達- 第1章-徘徊編-(1)
投稿日時:16:22:27|コメント:0件|》本文を開閉
ディレクトリ:くすぐりの塔AF -魔王の後継者達-
-その時-世界は滅亡の危機に瀕していた。
とある辺境の小国にて勃発した些細な動乱をきっかけに、一人の青年が魔族と結託し、人智を越えた力を手に入れ、その力を背景に『魔王』を名乗り、全世界に対し闘いを挑んだのである。
これに対し、数多くの国家や勇者が、魔王を討伐し『日常』という平和を取り戻し、英雄の称号を得るための戦いに挑んだ。
だが、魔王の軍勢・・・いや、魔王を名乗るただ一人の人間を抑える事も適わず、彼等は次々と敗れ去り、蹂躙されるままに数年が過ぎ去った。
多大なる犠牲を無意味に増大させ、武力での抵抗が不可能と悟った者達は、種族を越えて結託し、文字通り最後の手段に打って出た。
それは、多種族の秘術を統合させる事により実現した『超広域多重結界』なる桁外れな規模の結界を施す強攻策であった。
一個人に用いるには前代未聞のこの呪法により、魔王はその居城を中心とした広大な大地ごと結界の内側に閉じこめられたのである。
世界は1/10程の生活圏を犠牲に、あるいは魔王に献上する形で、世界から隔離する事に成功し、平和を取り戻したのである。
全ては遠い遠い昔の事である。
今となっては魔王の驚異を憶えている人間は存在せず、その存在すら伝説となった今、隔離された世界では、残された者・・・・いや、残された全ての生物達独自の生活が魔王の存在の有無に拘わらず、繰り広げられていた。
鬱蒼とした植物が密生する密林。
どう見ても人間ではなく、野生動物・モンスターの領域である地の一角で、生命のやりとりが繰り広げられていた。
それは、この密林の中にあっては取るに足らない出来事であり、弱肉強食が掟であるこの場においては日常茶飯事の出来事であった。
だが、この一件に関しては、自然の習わしによる騒動とは若干事情が違っていた。
今そこで、命のやり取りを行っているのは、三人の人間と複数のモンスターだったのだ。
生き残る・・・そうした基本的な姿勢とは別に、一方は食欲を満たすために襲いかかり、一方は我が身を守るために迎え撃つ。こうした理由での闘いが続いており、客観的に状況を見れば、人間側が数において圧倒的に不利な状況にあると一目瞭然であったが、地に伏しているモンスターの数が、その判断が誤りである事を示していた。
キィィィ!
人間に聞き取れるぎりぎりの高音域で雄叫びをあげながら、蝙蝠と人間のハーフの様なモンスター数匹が宙に舞い、螺旋を描きながらターゲットの一人である平均的体格の男に襲いかかった。
(変幻自在のこの動きに、人間がついてこれるものか)
そう語ったわけではなかったが、モンスターにはそうした自信があった。生まれた時から備わっていた、その秀でた力で、彼等は獲物を狩り、敵を退けてきたのである。
当初彼等と仲間の種族は、肉体的に秀でた能力を持たない人間を甘く見ていた。その結果、多数の仲間を失った。だがそれにより相手が、知り得る『人間』より遙かに秀でた戦闘力を備えている事を悟った。
(手を抜いて倒せる存在ではなかった)
そう反省したモンスター達は、数に頼った無策な行為から、自分達の最も得意とする戦法を集団で実施し、確実に相手をしとめる事にしたのである。
だが、彼等はまたも評価を誤った。
獲物であるはずの男は懐から何かを取り出したかと思うと同時に、それを投擲していた。彼等がそれを認識した時には、その物体である鋭いニードルが深々と彼等の額に突き刺さり、その思考を停止させた。
見た目通り、蝙蝠の特性を得ていたモンスターは、超音波による鋭い物体認識能力があったが、ニードルの細さと飛来速度が、その認識力を超えていたのである。
宙に舞っていたモンスターは、今の一投で全て地に落ちて行った。
「あ~あ、また不必要な殺生しちゃって・・・・」
三人組の中で唯一の女性が、墜落したモンスターの死骸を見てため息をついた。殺生に対する嘆きの様相はみせていたが、その言葉に悲哀の感情はこもっていない。
「見たところ、それなりの知能がありそうなモンスターなんだから、まずは友好的にフレンドリーに接さないと・・・・そんな事じゃ、今後大変よ」
「バカ言うな!!」
少女の呟きに、怒声で答えたのはもう一人の男であった。ニードルを放った男とは異なり、2メートルを超す身長と、それに見合った筋肉は、彼を人類に分類するのが躊躇される程であり、今現在も、牛の頭を持つ人型モンスター『ミノタウロス』と力比べの真っ最中であった。
「こんな殺気だった連中に、話し合いが通じるかよ!どう見ても俺達は連中のディナーの食材にしか見られてないぞ」
「それは、あなたが美味しそうな体格してるからでしょ」
「ぬかせぇ!」
巨漢はミノタウロスを抱え上げ、後方のモンスター達に投げつけると、傍らの地面に突き刺してあった先端が幅広となっている特異な形状の剣を引き抜き、周囲のモンスターの群を薙ぎ払った。
「だいたい、周りの死体の数を数えられないのか?俺よりカレンの方が大勢、殺ってるだろうがっ!それでよく友好的なんて言ってられるな!」
「あら、私に向かってくるモンスターはみんな目をぎらつかせて、欲情丸出しで息を荒げているのよ。貞操を守るための正当防衛じゃない」
カレンと呼ばれた少女は腰に手をあて、巨漢の指摘を心外だと言う素振りを見せた。
確かに彼女は人間男性達が見れば、美少女と評するだろう容姿はしていたが、その身に纏った、禍々しい異質の生物を連想させてしまう悪趣味な鎧を見ては、生半可な下心は萎えてしまう。
「ワーウルフ種なんだから、目つきや息づかいは当然じゃないか」
空中に舞っていたモンスターをあらかた撃退したもう一人の男が、カレンの主張を非難した。
「それじゃ、ウェイブは私が欲情されるに足りない存在だとでも言うの?」
「モンスターに欲情されても嬉しくもないだろ。いや、カレンの趣味には合っているのかも知れないけど、向こうは餌としか見てないよ。多分」
「色気より食い気ってこと?これだから下等モンスターは・・・・」
「うぉいっ!どうでもいいが、俺ばかりに闘わせるな!」
どうも緊張感に欠けた口論に、汗水垂らして闘う大男が唸った。
「その程度の敵なら、タール一人で十分だろ」
すでに剣を納めたウェイブが、腕組みをして言い放つ。
「俺だけに単純労働を押しつけるなぁ!」
「あ~はいはい、分かったわよ。面倒くさいから、もう一気に行くわよ!」
タールの怒声を聞き続けるより、多少の披露の方がましと判断したカレンが、ゆっくりと右手を頭上にかざし、聞き取れないほどの小さな小声で呪文の詠唱を行った。それとともに、彼女の身体が魔力飽和状態による淡い光に包まれ始める。
「行くわよタール!間違って当たったらゴメンね~っと」
カレンが、かざしていた右腕を大きく横に振った。その腕の動きに合わせ、地面から魔力によって生み出された炎が高々と吹き上げ、腕の動きに連動して横へと伸び、戦闘中だったタールとモンスターの間に炎の壁を形成した。
モンスターの動物としての本能が炎の壁に恐怖し、その動きを止めると、その隙にタール、ウェイブ、カレンの三人組は手際よく、さっさとその場から離れてしまった。
モンスターの集団の包囲網を、強引な方法で離脱した三人組は、手頃な岩場に辿り着くと、そこを休息場として腰をおろしていた。
依然、周囲は密林であるものの、岩場によって大きな木々が育成できず、木々の密生密度に間隙が生じていたため、警戒しやすいという判断によるものである。
三人は思い思いに休息をとり、先程の戦闘の疲れを癒していた。
タールと言う大男は、常人には着用不能であろう鎧を着込んだまま、保存食の干し肉を口に放り込んで軽い飢えをしのぎ、ウェイブという名の青年は座り込んだ岩場に並べた何本ものダガーナイフやニードルを携帯用の砥石で磨き、その先端の鋭さを見直していた。
そして、カレンと呼ばれていた女は、岩場の一番高いところに立ち、周囲を何度も見回していた。
「まだ何も見えないわね。本当にこの方向で合ってるの?」
変わり映えのしない森を見回しながら、彼女は仲間に尋ねた。
「さぁね、でも、とりあえず森の中心部にあるのがお約束だろ」
武器の手入れを続けたまま、気のない返事をするウェイブ。実際、彼女の問いかけに自信を持って答えられるはずもないのだ。
「その中心部には間違いなく向かってるの?」
「さぁね、人間がここに来たこと自体、何十年もなかったはずだからね」
「あてずっぽうなわけね」
「まぁね、もっと奥に行けば知能の高いモンスターが住んでいるなんてお約束もあるだろうから、そう言った現地民から情報を集めればいいだろ」
「でも、蝙蝠と狼と牛さん達の仲間とは、もう友好的にはいかないでしょうね。あなた達が邪険にして、殺しまくるから・・・・」
「お前が言うか!?」
カレンの遠回しな非難に、タールが応じた。
「だって、タールはスキンシップを求めてきた牛さんを突き飛ばしたり、薙ぎ払ったりして近づけなかったし、ウェイブは歓喜の舞いを踊っていた蝙蝠さんを片っ端から落としていたじゃない」
「角を突きつけて、全力で突進してくるのがスキンシップか!」
「そうそう、カレンだって近づくワーウルフを問答無用で撃退したり、ミノタウロスなんてこんがりウェルダンに仕上げたじゃないか」
「美女に立ちはだかる獣は全て悪者と相場が決まってるのよ」
「友好的が聞いて呆れるよ」
言って、手入れの終わった武具を懐にしまい込んだウェイブは、無造作に岩場に横になり、カレンを見上げる格好となった。
「『美女と野獣』って御伽話の例もあるだろ」
「私の野獣はこれで十分」
そう言ってカレンは、自分の纏っている不気味な鎧を撫でて、ウィンクしてみせた。
「そうだろうな」
タールもカレンのこの自負だけは認めざるを得なかった。
「でも、本当にあると思う?」
視線を仲間二人にむけてカレンは改めて問うた。
「『魔王の遺産』なんてありがちな物」
「多分ね・・・・・」
ここに来てから訪ねる類の疑問ではないと思いつつも、カレンの疑問にウェイブが応えた。
「証拠が少なくなっているけど、確かに魔王は実在した。それは歴史が示しているし、何よりカレンの鎧が良い証拠だろ。『彼』の素性は伝承のせいで悪魔だったみたいなイメージがあるけど、事実は人間だった・・・・これは間違いないよ」
「実在したのと、遺産の有無は同意語じゃないわよ」
「分かってる。問題は魔王であったその人が、後継者を残さず没したって事だよ。権力を求めて残った家臣が争って後継者を名乗ったような歴史も全くない事から、かつて魔王が所持していた物の大半が残されたままである・・・・・って可能性は高いと思うよ。特にマジックアイテムなら、良質であれば何百年と保つからね。探す価値はあるさ」
「見つけたはいいが、手に入れられるかどうか・・・・だな。パターンとしてはアイテムを守るガーディアンがいてもおかしくないぞ」
会話にタールが加わる。しかも目指すは魔王の遺産という、これ以上ないだろうランクの肩書きが備わっている。危惧するガーディアンが実在するなら、守るべき存在の重要性を考慮すれば、かなり強力な存在になることは間違いないだろうと彼は考えていた。
「俺達なら多分、大丈夫さ・・・・・生半可なモンスターには負けないし、何より、俺達は魔王の子孫だろ。それなりの資格はあると・・・・・思いたい」
「でも、それを決めるのは、私達じゃないわよ」
三人はそこで押し黙った。
魔王の子孫、それは生まれが全く異なる三人が、唯一共通して背負った過去であった。
人は誰も生まれ方を選ぶことは出来ない。生を受けたその瞬間が既に博打みたいな人生において、彼等のそれは特に奇異な物に当選したと言えた。
彼等がそうした自分の血筋の秘密を知らされたのは多少の差はあるものの、一人前とは言えない子供の頃だった。
自分の生きる道を決めた時点で、闘いの場に生きる者の運命として、早々に真実を知る者からうち明けられたのである。
異なる生き方を選べば知らされることのない事実ではあったが、もともと弱肉強食の色合いが強い、この隔離世界において、闘いを生きる道にする者は結構多い。その為、この内容は、代々に伝えられる口伝になっていたのである。
当然ながら、時の経過と共に魔王の血は薄れてはいったが、まれに血が濃く出る者も現れる。それが彼等のような存在であったのだ。
ただ、そうした者達が同じ場所に集うと言う現象に対しては、ある種の呪いの類を少なからず気にかけたが、彼等が出会ったのは、そうしたものではなく、全くの偶然であった。
場末の酒場でなにげに出合い、酔った勢いで語った身の上話の中、常人であれば笑い飛ばすであろう内容を他者の口から聞きいた彼等は、最初、同じ血筋・遠い血縁者になる事に実感が持てず、二晩程の時間を費やして、まだ自慢するほどの長さではない、自分の人生と自分達の知らない魔王逸話を語り合った。
高名な先祖に対する情報と見識を語るうち、彼等は、魔王の存在をこれまでになく意識し、関心を持ち、その結果、存在するだろうと思い始めた遺産の捜索にチャレンジしてみようと思い至ったのである。
目的地はこの『隔離世界』の中心地。
結界が、魔王を対象に施されたのであれば、この地の中心が魔王が居た場所となるのは自明の理であり、彼等はその大雑把な目的地を目指し、時の経過によって密林と化して来る者を拒んでいるような地へと足を踏み入れたのである。
密林となっている広大な中心地は、魔王の意志による結果であるという話もまことしやかに語られているが、真偽は定かではなく、実際、数百年の月日があれば、荒れ地が森になるのも十分にあり得る事であり、そこがモンスター達の巣窟となるのも自然な流れであった。
そうした人外の領域に入り、これまでと異なる闘いを経る事により、彼等の潜在能力が急激に向上を見せる事となる。
もともと素質のあった闘気士としての能力がこれまでになく高まり、彼等が思い描いていた闘い方が、実現できるようになっていたのだ。
それは、激戦において成長する闘気士の特性でもあったが、彼等にしてみれば、血の中に眠る魔王の影響も意識せずにはいられない。
周囲の人々が思う以上に、伝説の後継者という立場は重い物なのである。ましてやそれが、魔王と呼ばれた存在であれば、尚更であった。
だが、実感が無いのも事実故に、それを明確する意味も含め、彼等は魔王の遺産を求め、血の源流となった存在の実在した証を得て、半信半疑状態である自分達の背負ったモノをはっきりさせたかったのである。
それで何が変わるか、何が起きるか、全く予想もできなかった。
想像と願望と不安とが入り混じり、色々な憶測が勝手に彼等の脳裏で未来図を描いていたが、全ては結果を得てからなのである。
どんな不安があろうと、もう彼等には引き返す選択は存在しないのである。己の為にも・・・・
「・・・・・・・・とりあえず、日もまだ高いし、もう少し進もう」
「そうだな、進まなきゃ意味ないな」
「でも、今度は原住民と仲良くするのよ」
「「お前が言うな!」」
かくして、魔王の子孫達は、己の運命を見極めるべく、あてもない樹海探索を再開するのだった。
それから陽が沈み、一同が本日の適当な野宿場所を決まるまでに、三回に亘ってモンスターとの遭遇があり、三回の単純明快な交渉が行われた。
即ち戦闘である。
それら全てに難なく勝利した一同ではあったが、結局その戦闘でも必要な情報を得る事は出来ずに終わっていた。
「ただいま~」
立ち枯れの樹を砕いて作った薪に火をつけ、獣の肉を焼いていたタールのもとに、偵察に出ていたウェイブが戻ってきた。
「おう、何か収穫はあったか?」
「情報に関しては何も・・・・暗すぎる事もあるけど、これといった物は見つからなかった。あ、これお土産」
ウェイブは偵察の際に回収した果実数個が入った麻袋から、一個を取り出し頬張ると、残りをタールへ投げ渡した。
タールは無言でそれを受け取ると、お返しにとばかりに焼き上がった肉の刺さった串を投げ返した。
「どうも。それで、カレンは?」
受け取った肉に囓りつきながらウェイブは問うた。
「鎧に『餌』をやってるよ」
「ああ・・・」
タールが自分の背後を肉の串で示して気のない返事をすると、ウェイブも納得したように頷いた。
ウェイブはちらりとタールの示した方向を見た。焚き火の光が辛うじて届く距離に、繭とも蛹ともとれる直径3メートルほどの物体が存在していた。
樹などの支えを必要とせず、自ら突き出した触手状の物体で全体を固定しいている様相は『卵』にも見えるが、それらの表現が全て当てはまらない事を彼等は承知している。
あの物体はカレンが着用している鎧が変貌した物で、その正体は、悪魔の擬態した物だった。
より詳しく素性を説明すると、その鎧は生粋の悪魔ではなく、かつてこの世界に召還されたセイファートと呼ばれた高位悪魔が、自分の魔力と身体の一部、そして、こちらの世界の生き物を利用して作り出した『我が子』とも『分体』とも『分身』とも『使い魔』とも言える存在である。
その誕生理由は、セイファートの我が儘とも言える感情が発端であった。
彼(セイファート)が、その世界で活動できる契約が終了し(今回の場合は契約者の死となる)、自分の世界へ還る事となった際、自分が興味を持ったこちらの世界の情報を常時得るための端末機として作り出した物が、その『鎧』だった。
単なる分身では『生粋の悪魔』であるため、『契約』なしでこちらの世界に居残る事が出来ないため、セイファートは、自分との精神的な感応力を持ちながらも、実質的には生粋の悪魔ではない存在を生み出す必要があったのである。
彼はそうした条件を満たすため、自分の身体の一部を使って産み出した分体悪魔と、こちらの世界の生物を利用した異種融合を試みたのである。
人と悪魔が主な例となる異種融合という手法は、過去の事例から様々な特殊能力を持った生物を発現させる可能性を秘めてはいたが、得られる能力が未知数であるだけでなく、両者の自我が失われ新たな人格が生じる欠点もあった。
幾度となく実施された末、ようやくセイファートが望む能力(異世界という境界に阻まれる事なく、自分に人間界の情報を伝達する能力)を備えたそれは、その求めた基本能力の特異さ故か、本来あるべき自我そのものが完全に失われただけでなく、悪魔特有の膨大な魔力をも失う事となった。
誕生したそれは僅かに残った悪魔の本能で、最初に仕えた血族に従事する特殊な魔鎧となって現在に至る。
ちなみに、魔鎧は『ミファール』と名付けられ、当時のセイファートの主の落とし子の一人に与えられたと言われている。
それを考慮すると、ミファールは血族証明書のような物でもあり、カレンに限って言えば、魔王の子孫の証拠とも言えたのだが、当の所持者である彼女は、話全てを真実とは受け止めてはおらず、代々受け継がれている、おそらくは魔王より頂いた特殊な鎧と言う認識しか待っていなかった。
ともあれ、自我と魔力を失ったとはいえ、魔鎧ミファールは装備としては十分に強力であった。
魔法攻撃の大半を無効化し、装着者の治癒効果の上昇に多彩な武装、そして自己修復能力と本能的な自己防衛能力が備わっており、鎧としても武器としても伝説級の能力を秘めていた。
この魔鎧のおかげで、闘気士としての能力が低い彼女も、タール達と対等の戦場に身を置くことが出来たのである。
だがミファールは鎧でありながら『生物』でもあるが故に、生態活動維持の為のエネルギー補給、すなわち『食事』が必要であった。
ミファールの食事は基本的には悪魔側よりで、生物の精神的波動を好んだ。特に快楽に部類するそれを最も好み、カレンは必要な時には、自らの身体を『餌』として与えていたのである。
道具であるはずの鎧の滋養となる・・・と言えば物騒な話にも聞こえるが、実際には寿命が減る部類ではなく、むしろ快楽を与えてもらう上に、鎧は活性化するので良いことずくめだと彼女は認識していた。
つまり彼女は今、その繭とも蛹とも卵とも言える物体に変化したミファールの中でお楽しみの最中だったのである。
「・・・・ぁぁぁん・・・・ふぁ・・・・あ・・・あぁん・・・・はぁん」
繭の内部、けっして広くない卵状の空洞の中で、胸元と両サイドに切れ込みの入ったレオタード状のアンダーウェアのみとなったカレンが、尻を底部につける体勢となって、絶え間ない快楽に打ち震えていた。
彼女の体臭とミファールが分泌した粘液の臭気が混ざり合った甘ったるい高湿度の空気に喘ぎ、上気した身体はそれだけで異性の欲情を煽るに十分な要素を含んではいたが、それを彼女はまだ誰にも披露した事がない。
ミファール内部で発生する粘液と臭気は、カレンの・・・正確には女性の官能を煽る効果があり、精神的な高揚に乗じて、内壁の各所から生えた無数の触手が彼女の身体を撫で回し、肉体的な性感を刺激して行く。
初めての者であれば、異質な触手の存在に嫌悪感を抱くであろうが、粘液と臭気の効果によって間もなく意識は朦朧とし、そうした嫌悪感は消え去ってしまう。
もっとも、ミファールと長い付き合いであるカレンにそうした気負いがあるはずもなく、不規則に身体を撫でてくる粘液まみれのそれの刺激に対し、素直にその身をくねらせていた。
「はぅっ・・・はぁっぁん・・・・ぁぁぅ・・・」
触手がうねる都度、カレンは心地よい快楽が身体を突き抜けるのを感じ、艶やかな声をもらし続けた。
触手は巧妙に身を捩り続けるカレンの肢体を責め続ける。
正面から胸や腹部を一斉に撫で回していたかと思えば、意識のそれていた背筋をいきなり撫で上げられる・・・・そうした変化が生じる度に彼女は息を詰まらせ身を仰け反らせ、反射的防御で背を繭の内壁に密着させる。
だが、密着して隙間を無くしたからといって、触手の責めが封じられたわけではない。触手は内壁から生えているため、密着部分から直に彼女の背筋や背中の一帯を撫でることが出来るのである。
「はっ・・はぁん!」
背中の密着部に生じた幾つもの突起に背筋を撫でられ、たまらずカレンは小さな悲鳴を上げて腹を突き出すように身を弾けさせた。
と、そこへ正面の触手が迫って、張った状態の腹部を無造作に撫で回す。
「ぁんっ・・・あひっ」
その刺激にまたも彼女は反射的な反応を示して身を右に捻り、許容量を超えようとする刺激を抑制しようと両手で腹部周辺を庇った。
だが、触手の責めを制するには、彼女の二本の腕だけでは明らかに不足であった。
触手はそうしたガードを意にも介さず、前後左右から迫り、防御の対象外となっている箇所を次々に責め立てた。
「はぅっ・・あぁ・・はぁあああ・・・やぁぁぁん」
触手のうねりにビクビクと呼応するように身悶え、何とか逃れようと身を左右に捩るカレン。だが密閉空間の繭の中にいる以上、触手から逃れる術など無く、腕や身体を振り乱して一時的に触手を払う事しかできなかった。
そうして無駄な抵抗をするほど、彼女の体力と呼吸は乱れ、充満する臭気を更に吸い込み、官能を高めていく。
こうして抵抗が弱まる隙を狙って触手が新たな脈動を始め、彼女のアンダーウェアの胸元や脇の大きな切れ込み部分そしてハイレグ部分から侵入し、着衣と肌の間で激しくのたうち回った。
「あひっ!あぁっはははははは!やはははははははっはははははは!あ、あん、いやっはははははははは!あ~~っっははははは!!!」
その刺激は今までの心地よさよりも遙かにくすぐったさが勝る物であり、快楽に悶えていたカレンは、いきなり変化した感覚についていけず、堪える間もなく激しい笑い声をあげた。
「いやぁはははははははははは!だめだめだめっひゃっっはははははは!あはっあはっあひははははははははは!」
カレンはそれこそ狂ったように身をのたうち回らせ笑い悶えた。暴れる手足は何度も内壁を殴打するが、柔軟性と弾力に富んだ内壁はびくともせず、彼女を取り囲み続ける。
「きゃひひひひっひひひひっひひ!あひゃっっっはははははは!あ~~っ!あ~~っ!あ~っっはははははははははは!も、もう、もうううううひゃっっははははははは!!」
悶笑しながらカレンはくすぐったさから逃れるために必死に抵抗し、アンダーウェアに潜り込んだ触手の一本を掴み、引き抜こうと試みたが、それに反発するように他の触手の動きが一斉に動きを激しくし、更なるくすぐったさを彼女に与えて、その抵抗を制した。
「きぃっっひひっひひゃっっははははははは!やめやぁっっははははは!!」
ビクビクと身を弾けさせ、それでも触手から手を離さず引っ張ろうと試みるカレンであったが、触手は先端を枝分かれさせて広がり、着衣の中で絡みつくような状態となって抵抗した。その上、触手は粘液に覆われているため滑りがよく、彼女程度の力では引き抜くことは不可能であった。
「あひはははははははははは!ああああああああっぁぁぁぁ~~~~~!!」
何一つ抵抗できないまま、耐えきれなくなったカレンが触手から手を離して腹を抱え込む。僅かでもくすぐったさを緩和させたいという本能的な行動であったが、着衣の中に潜り込み、密着状態となっている以上、その行為も逆効果でしかない。
「きゃひひひひひっっ!あはっ、あははは、あぁ~~~~っっっっっはははははははは!!」
自ら触手を押さえつける結果となって生じた刺激に、カレンが更なる笑い声を発した。
着衣の中から外から触手の不規則なうねりを受けて、慣れることのないくすぐったさに悶え続ける。
そうした激しい喘ぎを第三者が目撃すれば、密閉状態である内部の酸素不足を心配したであろうが、ミファールがそのようなミスで主を失うはずもなく。酸素の維持も当然ながら、カレンが本気で望めば今すぐにでも開放されるのである。
それが行われないという事は、彼女がそれを望んではいないという事であり、この状況を愉しんでいる何よりの証であった。
「あひひひひひひひ・・・・はぅっ!」
クネクネと身を捩らせ笑い続けていたカレンが突如、艶めかしい声をあげた。着衣の内部に潜り込み、メロンの表皮の筋の様に細く枝分かれして広がっていた触手が、胸の先端をソフトに撫でたためである。
その絶妙な刺激に彼女は鳥肌を立てて身震いし、快感に身を仰け反らした。
乳首に生じた刺激はその一瞬に止まらず、今尚、執拗に快楽を送り続け偶然の出来事でなかった事を物語る。
「あぅっ・・・やぁん・・・」
身悶え両手を胸にあてがって抗おうとするが、着衣の上から押さえる程度でその刺激が止まるはずもなく、逆に押しつけたことがその快楽をより明確な物とした。
「はぁぁぁぁぁぁっ!」
たまらず喘ぎ声を上げてカレンが胸元の切れ込みに手をやり、目一杯左右に開くと、中から汗と粘液にまみれた若々しい乳房が姿を現した。
その適度なサイズの美乳には細い触手が付着し、敏感な先端を擦ったりつついたりして、今も快楽の波を送り続けていた。
触手は露出したことによりその活動を活発化させたようにも見えたが、これによって直接触れることが可能になり、カレンにもささやかながら抵抗が出来るように思えた。
だが、彼女の手が胸の先端に貼り付く触手を掴むより早く、内壁上部から伸びた触手が彼女の腕を絡め取って引き寄せ、強制的に内壁へと引き寄せ、それに呼応して新たな触手が飛び出し腕を内壁に固定し、数少ない抵抗の手段を奪った。
「あぁっ!」
両腕という最大の抵抗手段を失ってカレンがか細い悲鳴を上げると、その瞬間を待っていたかの様に二本の触手が彼女の両胸に近づき先端を乳首へと押し当てた。
触手は接触寸前に先端を吸盤状に変化させると、これまでの快楽で隆起していた乳首を吸い上げる。
「はぁぁぁぁ~~~~っっ!」
胸の先端に走った新たな快感に、カレンは首を仰け反らして自由を失った上半身を可能な限り左右に振った。
着衣の保護を失った胸が、その左右の運動によって小刻みに揺れたが、吸い付いた触手は、その吸引力と行動の自由によって外れる事がなかった。そればかりか、無駄な足掻きは止めろといわんばかりに、吸盤の内側に細い触手を生やして、吸い上げられていた乳首に巻き付き、先端でくすぐった。
「はぅっはぁぁぁっぁっぁぁぁ、あはぁ~~~ぁぁん!!」
粘液によって過敏になっている肢体にこの刺激は強烈であった。もともと胸が性感帯の一つでもあったカレンは、息も絶え絶えに喘いで首を項垂らせながらも快楽に打ち震える。
「んっ・・・んん~~~~~~っ・・・・!!」
何とか堪えようと、歯を食いしばって首を振るカレンであったが、ミファールはそうした心情を常に見越しているのか、絶妙のタイミングで新たな責めを開始する。彼女の意識と精神的防波堤が胸に集中している隙に、粘液と汗、そして体液によって生じた底部の水溜まりから触手が近づき、不意にその股間を撫で上げた。
「ひぁぁぁっっぁぁん!!!」
全く予期しなかった方向から快楽の津波を受けて、カレンはビクリと腰を浮かせて凶悪な快楽の発生源から遠ざかろうとした。
だが、狭い空間内にいる上に、腕を内壁に捕らわれている身では立ち上がる事も出来ず、一種浮いた尻は小さな水しぶきを上げて床に着き、戻ってくるのを待っていた触手の歓迎を受けることとなる。
「あはぁぁん・・・・だめぇっ・・・・だ、駄目・・ふぅん」
説得力のない口調で拒絶しながら、送り込まれる快感を少しでも軽減しようと脚をモジモジとさせるカレンであったが、何本もの触手が意地悪く脚に殺到し、膝から先を絡め取って内壁と同化してしまった。これによって、彼女は両手を上に上げ、脚をM字開脚状態で拘束された事になり、完璧に抵抗も逃亡も出来ない状況へと追いつめられた。
「はぁ・・・・・・ん」
当然の事ではあるが、カレンの表情に絶望の色はない。むしろ恍惚な表情となっており、これまでの責めによって上気した頬が、それに拍車をかけていた。
そしてその期待に応えるかの様に、触手が蠢き出す。大小数種の触手が強弱つけての刺激を股間に与えると同時に、胸回りに殺到した触手群が乳首に吸い付いているそれと同様に、先端を吸盤状に変化させて乳房に吸い付き、吸い上げた皮膚を内部の細い触手で撫で上げる。更には首筋にも触手が吸い付き、耳元や耳の穴にも細い触手が近づきソフトに舐め始める。
同時かつ各所で生じた刺激は局地的快楽の爆発となってカレンの身体を駆けめぐり、脳で合流して相乗効果の大爆発を起こした。
視覚的嫌悪感によって生じる感覚の麻痺などを考慮しなければ、これに耐えられる女性など存在しないだろうなと、この瞬間が訪れる度に彼女はそう思った。
もっと愉しみたいという想いや願望があろうと、この快楽に抗う術はなく、決壊した流れのように押し寄せる快感にただ流されるのを待つばかり・・・・・だったはずの彼女は、突如違った感覚を違ったポイントで味わった。
「はぅっっ!?は・・・・はぁっ?あぁっ・・・・ほぁはははっはひゃっぁっっっはははははははっはははははっはっはははははははは!!」
それがくすぐったさと脳が理解した瞬間、彼女は激しく笑い悶え、先程とは違った意味で身体を左右に振って、刺激からの離脱を試みようと無駄な足掻きを行った。
乳首に吸い付く触手と同種のそれが、無防備にさらけ出されていた両脇の下と臍に吸い付き、中の細い触手で責めだしたのである。
そのタイミングに合わせて各所から快楽を送り込んでいた触手は活動を弱めていたため、カレンは快楽の波に流されている最中に、突風によってひっくり返されたような感覚を味わった。
「あひぁっはははははははは!きゃぁっはははあはあはははは!いやぁぁぁっっっはははははは!!」
唐突な刺激の変貌であったが、過敏になっているカレンはその変化に敏感に反応した。
「だめっっへっっひゃっはははっはははははは!駄目だってばぁぁ~~っっっははははははうぁぁぁ~~っっははははははは!!げ、げんかぃ~~ひゃひっひひひいっっっっひひひひひあぁっっっはははは!!」
くすぐったさに耐えきれない身体が脇を閉じ、臍を隠そうと腕を突き動かそうとするが、腕を捕らえる触手がそれを許さず、彼女は生じるくすぐったさを抑える事も緩和する事も出来ず良いようにくすぐり蹂躙され続けた。
そして、痛烈とも言えるくすぐったさに意識を失いかけると、意地悪く触手が快楽モードへと変化し、絶頂に近づくとくすぐりモードへと変化して、カレンを嬲りつづける。
現実的には不可能な事だが、この行為を観察する事が出来れば、くすぐりと快楽という交互の責めは、その間隔を徐々に縮めている事に気づくだろう。それは彼女の双方の刺激の限界を意味していた。
このタイミングが交差した瞬間、カレンはくすぐりと快楽の限界を同時に味わい、通常行為では体験不可能な絶頂を得て、ミファールにとっての最上級の食事を与える事となる。
・・・・・・その瞬間は、間もなく訪れようとしている。
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
若い青年である二人としては、そんな美女の痴態を覗けないまでも、耳をあてがって声だけでも聞きたいと思うのが正直な心情であった。
だが二人は以前、その衝動に駆られて本能に従った結果、自己防衛機能を発揮したミファールの触手に危うく貫かれそうになった経験があり、以後、決してあの『繭』に近づかないようになっていた。
「あいつはいいよな、欲求不満のはけ口があって・・・・・」
この樹海にあっては、いくら金を費やしたとしても彼等の相手をしてくれる女性は存在しない。パーティの中で唯一の女性は人間を相手にしてくれず、かといって実力行使も命がけでは割にも合わず、悶々とする思いを抑えるしかない。
「俺達にもきっといつか美味しいイベントが発生するさ」
根拠のない希望を抱いて二人の青年語り合い、その妄想が現実の物となる事を心底願った。
結局、他にすることもなく、黙々と自分達の食事を終えた二人は揃って地面に横たわり、木々の隙間から微かにのぞく星空を眺めていた。
平穏な一時・・・・少なくとも夜だけはそうありたい。日中の大半が森のモンスターとの闘いに費やされている彼等は本気でそう願っていた。
だが、今晩に限ってはそのささやかな願いも叶えられなかった。
「「!・・・・・誰だ!!」」
微かな気配にタールとウェイブは揃って叫ぶと、傍らに置いてあった武器を拾い上げて構えた。
「・・・・ま、待って下さい・・・・」
か細い声と共に、樹の陰から現れたのは、傷だらけの色白の青年だった。
「た・・・助けて下さい」
そう言って青年は、彼等の眼前でへたり込んだ。