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2011/07/25(月)に投稿された記事
第2章-獣魔の街編- 第1話 モンスターマスター
投稿日時:21:22:16|コメント:1件|》本文を開閉
ディレクトリ:くすぐりの塔AF -魔王の後継者達-
第二章だよ!
じわじわと編集してます、もうちょい待ってね・・・
途中でモンスターに遭遇するという事態は相変わらずであったが、先日の群のように策を用いて行動している知能・統率力を持った群との遭遇は極端に減り、大型のモンスターとの遭遇率が日増しに高くなっていた。
これは、樹海の生物達の生活圏、つまりは縄張りの境界にさしかかっている事を表しており、その地の支配者が異なる事、そしてそれが、群の連中も攻めあぐねているような相手である事を示している。
そうした樹海深部の大型捕食生物の存在はお約束であり、体格負けをするヒューマンタイプが苦戦を強いられるのは避けられない。
出来れば避けて通りたい相手であるはずだったが、一同は今現在、ばったりと出くわした大型のキマイラとの遭遇戦に陥っていた。
キマイラとは合成獣の総称で、魔法に類する技術によって複数種類の動物・モンスターを合成させたモンスターである。
代表的な存在として、前半身がライオン、後半身がヤギ、炎を吐くヘビの尻尾に、その三種の生物の頭を持つそれがある。
また、合成獣に類される場合もある生物の中には、グリフォンと馬の交配によって誕生したヒポグリフの様な自然の産物も存在するため、人為的に合成され誕生した存在をキマイラと呼称する事が通例となっている。
彼等が遭遇したキマイラは、世間一般の文献に該当する存在ではなかったが、明らかに複数の生物の特徴が混合したような様相が、そうした判断を得る要因となっていた。
その外見で真っ先に連想される生物は、カマキリであった。だが、キマイラである以上、只のカマキリで終わるはずもなく、まずサイズからして規格外であり、通常姿勢でも高さは3メートルを超え、その身体の表面は甲虫のようなチキン質の装甲となっており、それを支える足はクモのように四対八本存在し、それを小刻みに動かして、体格に似合わない俊敏さを見せつけ、カマキリ最大の特徴であるはずの一対の釜状の腕は、カニのハサミに近い形状の爪となって、獲物を刺し貫こうと構えていた。
更に、そのハサミの間には体液の噴出口が存在しており、体内で分泌した液を噴出する能力を持っている。その分泌液は空気中に放出されると、たちまち発火し火炎の息の様に襲いかかってくるとんでもない物であった。
この攻撃的特色が抜群の生物には、ウェイブ達と平和的話し合いをすると言う発想も知能も当然のごとく、無い。
動き回る餌を動かない餌にするべく、本能的攻撃を続け、獲物と認識された側も、自身の安全を守るために全力を尽くすしかなかった。
「ほっ・・はっ・・とっ・・」
ウェイブは頭上から交互に振り下ろされるキマイラの爪を右に左にと避けつつ、後退し続けた。自分も同様に両手に武器を持ってはいたが、このウェイト差のある攻撃を片腕で受け止められるだけの自信はなく、仮に両腕で受けようものなら、次の瞬間にはもう一方の爪が襲いかかり、悪くすれば致命傷である。
したがって彼は積極的攻撃は控え、キマイラの陽動に専念し、攻撃に関しては他の二人に託していた。
だが、攻撃の要であるはずのタールは、始めて遭遇するキマイラの素早く不規則な動きになかなかタイミングを合わせる事が出来ず、攻めあぐねていた。
そんなわけで自然と期待が寄せられる事になるカレンがキマイラの側面に回り込んで呪文を唱えた。
複数の火の玉が同時に胴から腹部を直撃したが、キマイラは平然とその炎に耐え、逆に彼女に向けてハサミからの火炎放射を行った。
「わひぃっ」
魔法とは異なる火炎に対し、ミファールの防御能力があまり期待できなかったため、カレンは慌てて飛び退き、その直撃を避けた。
もともと火炎攻撃を行うモンスターである以上、炎に対する抵抗力は高かったのである。
「!」
彼女の攻撃に便乗して間合いを詰めていたタールも、そうした常識を失念しており、期待した効果が得られなかった事に怯み、一瞬、その動作を鈍らせる。その間が攻撃の最前のタイミングを逃し、本来なら有効打になったかもしれない彼の一撃も、炎を放っていたハサミで受け止められ、逆に至近距離から炎の牽制を受けて、あえなく後退する。
「あっちぃ!」
幾らか浴びた分泌物がタールの身体で燃え上がり、彼は地面に転がり擦りつけるようにしてそれを消火する。
「何やってるのよ、サルじゃあるまいしそんな程度の火に怯えないでよ」
「うるせぇ!お前こそ、手抜きしないで、もう少しましな魔法をかましやがれっ!」
カレンとタールが罵り合うのを見て、ウェイブは両人に対して文句の一つも言いたかったが、キマイラの第一目標が依然、自分になっているため、それどころではなかった。
ハサミの攻撃は激しさを増し、揺動役と意識するのも難しくなり、周囲への気配りすらも怠りがちとなり、その結果、彼は一本の木に背をぶつけ、その退路を失うことになった。
「!!」
しまった・・・と思った瞬間には、キマイラのハサミが横振りに繰り出されていた。辛うじて身を屈めて避けたウェイブであったが、この一撃は木を直撃して根本から強引に押し倒す荒技をして見せた。
「じょ、冗談じゃない」
ウェイブは倒れた木を乗り越えて後退したが、巨躯なキマイラも軽々とそれを乗り越え、獲物との間合いを変えなかった。
「ウェイブ!」
カレンが新たな呪文を唱え、胸の手前に差し出していた両手の間に電撃を生じさせる。電撃は手の間でいくつのもスパークを繰り返し、一本の棒状になると、彼女はそれを構えて投げつけた。
火炎が駄目なら電撃で・・・と言う単純発想ではあるが、通常の電撃では近距離にいるウェイブにも被害が及ぶため、その放出エネルギーを凝縮して放ったのである。一定範囲に対して効果を発揮する電撃呪文の特色を損ねる行為ではあったが、相手が一匹であるなら大きな問題とは言い難い。
魔法に長けたカレンは、こうした通常魔法に独自のアレンジを加え、本来と異なる効果を発揮させる事を得意としている。
雷の矢は、的確にキマイラの腹部に命中して激しい放電を起こしたが、甲虫のような外皮は非電導体だったらしく、期待していた内蔵へのダメージは生じず、その足が避雷針代わりとなって、その放電を地中へと逃がしてしまった。
「カレン!!」
何やってる!と、思いっきり非難の意志を込めてウェイブが怒鳴る。
「し、知らないわよ!ここまで便利な外皮なんて反則よ!」
そう主張するものの、そもそもキマイラ制作にルールはない。基本的に攻撃タイプであれば、その創造主は可能な限り最強を目指すものである。
これがその完成体かどうかは不明ではあるが、人間が相手にするにはかなり厄介な存在であるのは間違いない。
「どうするよ!?」
焦るタール。
「外皮が傷つけられれば、電撃も通るはずだ。タール!一発いけ!」
必死にキマイラの攻撃から逃げながら、ウェイブが叫ぶ。
「無茶言うな、こんなラッシュに近づけるか!一番近いお前がやれっ!」
「そのラッシュを避けながらの一撃にどれほどの威力があるってんだ、頑丈さとパワーが取り柄の、お前向きだろう」
どちらの言い分も正しかった。キマイラは炎や電撃に耐える堅い外皮に覆われている。生半可な剣撃などダメージにもならなかったが、ウェイブでも剣に気を加えれば、その堅固な外皮を打ち破ることは可能であった。だがそれには体重とスピードが十分に揃っていなくてはならず、絶え間ないハサミの攻撃を回避し続けている状況では、万全の体勢を取ることがかなり困難であった。
一方、タールであれば、気が不十分であったとしても、その桁違いのパワーで外皮を砕くことは可能であったが、自分の攻撃の間合いに入るタイミングを掴みあぐね、手を出せないでいた。彼は、その体格故に縄跳びの輪に入る事が苦手なタイプなのである。
自分の力が存分に発揮できない状況だと、誰もが思う。そして揃ってこれを打破しなければと思う中、最も命の危険にあったウェイブが切羽詰まってか、強引な行動に入る。
彼は側転し、キマイラのハサミを踏み台にすると言う少し無茶をして、瞬間的に間合いを広げると同時に、タールの方へと跳躍した。
キマイラはすぐに追いすがってくるが、ここで獲物が二つになっている事を認識する。
「少し代われ」
意図あってのウェイブはすぐに横へと回避したが、何の相談も受けなかったタールは反応が遅れた。そこへキマイラが迫り、一番近く動きの鈍い方へと目標を変更した。
「んなっ!?」
キマイラの殺気が自分に向いた事を悟ってタールが焦るが、もはや背を向けての逃亡は不可能であり、ウェイブが受けていた攻撃を、今度は彼が直に体験する事となった。
「おわぁぁぁぁ!!」
もちろん俊敏性に劣る彼が同様の回避を行えるはずはなく、気を込めた剣で攻撃を受け止めるといった、自分の特長を生かした手法での防戦を強いられる事となる。
「ウェイブ!てめぇ!」
「いいから、少し保たせろ」
身代わりにした相方の非難を受け流したウェイブは、そのまま駆け足でカレンの元へと駆け寄った。
「カレン、俺を飛ばせ!」
「はい?」
その突拍子もない要望にカレンが呆ける。
「この前のイノシシの群に出くわした時にやった、あれだよ」
「・・・ちょっ、正気?」
「アレの上を狙ってな」
何を求めているのか理解できなかったカレンであったが、両手にしていた剣の片方を鞘に収めたウェイブを見て、その意図を理解する。
「・・・・無茶するわね」
「自分でもそう思うよ。自分で飛べるか、代案を考える時間があれば良かったんだけど、生憎ね・・・・」
「今回は恨みっこなしよ。あなたから求めたんだから」
急を要する事態である事を理解する彼女は、論議をさけて要望に応じるべく呪文を唱え始める。
「お手柔らかにな・・・」
「善処するけど、結果は期待しないで・・・・・ねっ・・とぉ!」
カレンが呪文を唱えて拳を振り上げた瞬間、ウェイブの真下の地面が破裂した。カレンのアレンジ魔法の一つであり、地中に爆裂の魔法を仕掛け、その爆発力でもって広範囲に石礫を撒き散らす手法であった。
本来は指向性の爆発によって、ぶつける飛礫の大きさと数、そして加速度を増大させるものだったが、今回はウェイブの足下で直上に向けてそれを起こしたのである。
範囲も調製されていたため、彼の身体は木の葉の様に舞い上がった。
「つぅぅぅ~~~~」
その際に一緒に吹き上げられた幾つかの石飛礫の直撃を受けていたウェイブは、その痛みを堪えながら身を捻り、狙い通りキマイラへの落下コースへと乗った。
背を地面に向ける姿勢であった彼は、手にしていた剣を逆手にして小脇に抱える様にして、全体重を剣に乗せた上で刀身に気を込めた。
キマイラは、カレンの呪文が炸裂した際、僅かに注意を逸らしてそちらを向いたが、その時にはウェイブは舞い上がっており、視界には入らず、何らダメージも生じていなかった事から、すぐに視線をタールへと戻す。
勝利は目前であると確信したのか、キマイラが小さな呻き声を上げ、再びハサミを構えたその時、その背にウェイブが落下し、突き立てられた剣の切っ先が外皮を貫いて体内に侵入した。
キィィィィィっ!!
キマイラが苦痛に満ちた悲鳴をあげてのたうつ。その激しい動きにウェイブは容易く振り落とされた。
「カレンっ!やれぇっ!!」
「ええ」
頷いてカレンが電撃呪文を放つ。素早い詠唱が必要だったため、先程のような工夫をしている余裕が無く、放射範囲は狭めていたものの、近くにいたタールとウェイブにも電撃が襲いかかった。
それでも、大半の電撃は突き立てられた剣を通してキマイラの身体を直撃し、筋肉を硬直させた。
「タールっ!!」
電撃の余波を受けながら地面に落下したウェイブが続けて叫んだが、当の彼はその時既に行動を起こしていた。
「任せろ!」
タールはこれまで防御態勢だった剣を頭上に掲げ、それを一気に振り下ろした。既に気の込められていた刃は、キマイラの左前足を切断し、返すように振り上げた刃で右前足も切断した。
二本の前足を同時に失ったキマイラは、途端にバランスを崩して前のめりに倒れた。失った足の切断面とハサミを使って何とか身を起こそうと藻掻くが、そこへウェイブの放った気孔弾が頭部を直撃し、とどめを刺した。
一気に力を失ったキマイラの身体は、また前のめりに倒れて数回痙攣した後、二度と動くことはなかった。その活動停止を見届けた三人は揃って大きなため息を吐いて、その場にへたり込んだ。
「つ、疲れた・・・・」
「ああ手間取ったな・・・」
「やっぱり一筋縄ではいかないわね・・・」
ここ最近はこうした苦戦の連続であった。特に今回は極めつけであり、あのモンスターが単体行動であった事が幸運とさえ思えた。
「取りあえず場所を移動しましょう。ここは見通しが悪すぎるわ・・・・」
「そうだな。近くにいい場所があればいいが・・・・」
カレンの意見に同意したタールが、ゆっくりと立ち上がる。
「それならさっき吹っ飛ばされた時に、川を見たよ。そこに行こう」
ウェイブが宙に舞った際に見かけた景色を思い出し、その方角に向かって顎をしゃくり一同を促す。
流石にあの一戦の直後とあって、一同は過剰と思えるほどの警戒を行っていたが、運良く新手との遭遇もなく、彼等は当面の目的地とした川へと辿り着いた。
彼等の知るところではなかったが、ある程度のレベルに達したモンスターや獣は、先のキマイラの強さを知っており、無闇に縄張りに入る愚を犯さなかったのである。
もっとも、数日もすれば、キマイラの存在が消えたことを悟ったモンスター同士でその縄張りの奪い合いが生じるのは間違いなかったが・・・
その川の一部もキマイラの縄張りであったため、モンスターの遭遇率は比較的に低いものの、そうした事情を知るはずのないウェイブ達は、小さな滝の落ち込んでいる河原を休息の場とするべく支度を始めた。
「「「ん~~~~っっはいっはいっはいっ!」」」
三人は互いに向き合い、相手の表情を伺いながら、タイミングを一致させて右手を何度も繰り返して突きだし合う。
それは人間の間で広く使われる当番や順番を決定する儀式『ジャンケン』と呼ばれ、遙か昔から今に至るまで、変わることなく使い続けられる行為であった。
腕力が劣る者でも結果に大きな差は生じず、万人が公平と納得する単純な行為の結果、タールが周囲の偵察兼食料探し。ウェイブが偵察兼対モンスター用の罠の設置。カレンが薪集めと可能であれば川での食料調達役と決定し、彼等は早々に行動に入った。
「くっそぉ~何で毎回俺は負けるんだ?」
あの時、拳ではなく掌底を突き出していれば、ドローだったのに・・・・と、敗北者特有の後悔をしながらタールは森の中を歩いていた。
偵察という性質を考えると、彼の行動はあまりにも迂闊とも思えたが、戦時中における偵察の類ではなく、モンスターや人間の痕跡が無いかの確認であり。息を潜める必要などは無かったのだ。
さすがにモンスターの怪しい気配でも感じれば身を隠しもするが、今はそうした必要性はなかった。逆に猪突した猪でも不意に現れれば、それは彼等の今晩の食材となるのである。
だが、こうした樹海の深部に一般食材となるような猪の類が軽々しく生息しているわけもなく、遭遇する生物はたいてい食するには勇気のいる存在ばかりであった。
タールは食べられるか否かは別にして、とにかく生き物、特にモンスター類の痕跡がないかを注意して見回したが、頻繁な往来がなければ獣道も構築されず、タールの無為な偵察が続くかに思われたが・・・・・
「!?」
濃密な気配を察するより先に、草木を掻き分けて接近する音に気付いたタールが反射的に剣を抜き、音の方に向かって身構えた。
「何だ?獣か、モンスターか?」
隠そうともしない、抜き身の刃のごとき敵意・・・・と言うより殺気に、タールは緊張した。
相手は既にタールを認識している様で、まっしぐらに接近してくると、突如、身を隠す役割を担っていた茂みから何かが飛び出し、彼の頭上からいきなり仕掛けてきた。
「はっ!」
「くぁっ!」
もとより相手の殺気に呼応して、自分も話し合いをするつもりが無かったタールは、気遅れる事なく相手の繰り出した剣撃を自分の剣で受け止めた。
「何だ、あいつじゃないのか、誰、あんた?」
攻撃を仕掛けた勢いのまま、くるりと宙転して着地した男がタールの姿をまじまじと見つめて問うた。
「それはこっちの台詞だ。なんだってんだいきなり」
肩・肘・膝、そして額部分に大きなスパイクが付いている金属鎧に身を包んだ戦士風の男に対し、タールが至極当然の文句を投げつけるが、当の相手は悪びれた様子も見せず、しげしげと彼を眺めていた。
「そう騒ぐなよ。単なる人違いだったんだからさ」
「何ぃ!」
「だからさ、もう行っていいよ。邪魔だからさ」
「ふざけるな!」
ハエを追い払うかのような仕草に激高したタールが剣を振るった。
鎧の男は軽く身を引いてそれをかわし、両腕に装着されていた妙に長い突起の付いた大きな手甲で反撃する。
突き出された突起を左手で掴んで制したタールは、力任せにそれを押しやって、間合いを広げる。
「へぇ、少しはやれるみたいだけど、もしかして戦うつもり?」
鎧の男はさも意外そうにタールを見やった。
「止めた方がいいよ。腕力だけの戦士風情じゃ、この俺は倒せないから」
「てめぇだって、腕力もない戦士だろうが!」
事あるごとに挑発的言動をする相手に対し、タールは必要以上に苛つきを見せると、再び剣を構えて振り下ろす。
「違うね。俺は戦士なんて単純な者じゃない」
男は盾も兼ねている手甲でその一撃を受けると、もう一方の手甲を突き出して反撃する。
「あぐっ!」
手甲の突起の一撃を胸に受けたタールが後方によろめいた。彼の体格に合わせて作られた重厚な鎧のおかげで肉体への直接的な傷は無かったが、痛打された衝撃が胸を打ち、少なからずダメージとなっていた。
「俺はモンスターマスター」
「モンスターマスターだぁ?」
「そう、モンスターマスターのザイアさ。あ、でも名前を覚えてくれなくていいよ。どうせ君、ここで死ぬから」
ザイアが器用に手甲を次々に繰り出し、タールを襲う。訳の解らぬまま戦闘に突入したためペースを乱された彼は、攻撃を次々に受けてしまう。
ザイアは、一般人からすれば屈強な部類に類する体格をしており、一見力任せのタイプに見えながらも、手甲の先端で突くだけの攻撃に終始せず、横振りして打撃武器としても扱って、攻撃手法に複雑さをつけていた。
鋭利な先端の突きを警戒し過ぎるタールは、フェイントで放たれる打撃をしこたま受けて、ダメージを蓄積させていく。
ザイアは致命傷に成りかねない突きだけは絶対に受けないとする相手の目論見を的確に見抜いて、打撃の方に力を入れて、徐々に獲物を追いつめていたのである。
「ぐぁっ!」
左右から来た打撃を両腕でガードしたタールだったが、直後に繰り出された蹴りを顎に受けて仰け反る様に倒れた。
幸運だったのは体格差があまりに大きかったため、ザイアの膝のスパイク状突起での攻撃ではなかった事である。それでもほとんど一方的な攻撃を受けている現状は、タールには屈辱的ではあった。
「くそったれ!」
苦々しく唸ってタールが身を起こす。いきなり突入した戦闘で、自分のペースがつかめない状況ではあったが、いい様に攻撃されては彼の気性が治まらなかった。
そして不満はザイアにも別の形で生じていた。
基準外とはいえ、自分がただの人間を仕留め損なっている事が不愉快であったのだ。何度も攻撃を受けてダメージにはなっている様であったが、繰り出している突き・打撃は、それ一発で並のモンスターを瀕死に追いやることが可能な威力を秘めているのである。それを受け続けてタールが未だに健在なのは、彼のプライドが許さなかった。
「呆れた頑丈さだけどさぁ、そろそろ死んでくれないかな」
「ふざけるな!」
体力が自慢のタールは、戦闘時は常に全力状態であった。それ故、ほとんど無意識に彼は気を全身に充たした状態となっており、その効果で通常以上の強靱さを得ていたのである。そのおかげもあり、彼の闘志はいまだに衰えていない。
「だいたい、さっきお前は自分をモンスターマスターとか言ってたよな?どこがだ?この戦い方じゃ、せいぜい拳闘士ってところだろうが!」
これはタールが戦闘に突入した時から抱いていた疑問だった。マスターと言うからには多種多様なモンスターがザイアの支配下にあり、群で攻めてくるかと警戒したのである。ところが、攻撃は彼一人に終始し、群の気配すら感じられなかったのである。
こうした周囲の警戒が、ザイアの攻撃に対する集中力を僅かに乱し、攻撃を受けてしまう結果となっていた。
「ふ~ん、そんなに早く死にたいんなら見せてあげるよ」
これまでが遊びと言わんばかりにザイアが言った。
そうした言葉とほぼ同時であった。タールの背後の茂みが物音を立てたかと思うと、灰色の大きな影が飛び出し、息つく間もなく彼の背後を襲った。
「がぁぁぁっ!」
繰り出された鋭い爪が、振り向く間も与えずタールを襲い、彼の鎧の背面パーツを切り裂き、肉の一部を抉った。
そこへザイアが肉薄して両腕を横振りし、彼の腹部を殴打する。
「くはっ!」
腹部への不意な攻撃を受けてタールの息が詰まり、彼の巨体がよろめくと、そこへ先ほどの影が体当たりして、彼を大きく吹っ飛ばす。
体重も一般人の三倍はあるはずのタールの巨体が、車に跳ねられたかの様に宙に舞い、受け身も取れないまま地面に落下し、勢いのまま転がった。
激しい衝撃に意識が一瞬飛びそうになるところを、無理矢理頭を叩き、そして振って、覚醒させる。
その際、僅かに聞こえた物音にタールが視線を向けると、激しい流れの川が眼についた。おそらくは自分たちが休息場にしたのと同じ川だろうと思うより早く、飛ばされた彼を追ってきたザイアが姿を現した。
「ま~だ、生きてるの?ほんっと、しぶといね」
その傍らには彼を背後から襲い、突き飛ばした存在、全身が灰色かかった分厚い皮膚に覆われ、タールとほぼ互角の体格を持った獣人型モンスターもいた。
「見た事ないだろ?こいつワーライノスって言うライカンスロープなんだけどね、人間に戻る事が出来ない珍種なんだよね。モンスター形態が長いせいか同じ種の中でも凶暴性も攻撃力高いんだけど、こいつとある呪術で契約する事で、配下にしたんだ。どう、解った?これがモンスターマスターさ」
タールの視線の方向を敏感に悟ったザイアは、自慢げにそのモンスターを軽くたたいた。
複数のモンスターの使役ではなく、強力種一体の専属使役。予想とは全く正反対の実態が今、当人の口から明かされた。
「それじゃぁ、これで心おきなくジ・エンドだね」
そう言ってザイアがワーライノスの上に飛び乗り、肩車される体勢になった。そのまま体重を前に傾けると自然に彼の体は前のめりとなるが、その瞬間、ワーライノスがタールに向かって駆けだした。
その凄まじい突進速度に、ダメージを受けたタールは即応出来ず、その加速に乗って突き出された手甲の突きを受けてしまう。
「うぉぉぉっっっっ!!!」
再びタールが弾き飛ばされ、彼は背後にあった大岩に叩きつけられた。その勢いで岩が砕け、それと一緒に彼は川に転落した。
ザイアはしばらくの間、川の流れを凝視しタールの姿が浮かんでこない事を確認する。
「今度こそ死んだな・・・・余計な手間かけさせてくれたよな」
一人吐き捨てるようにいうと、彼は再びワーライノスの上に飛び乗り、前方を軽く促す。ワーライノスはその意志に従い、駆け出し樹海の中に消えて行った。
残されたその場には、タールの剣が墓標のように地面に突き立っているのみであった。
タールが好戦的極まる敵との遭遇を果たしていた頃、偵察と罠の設置が担当作業となったウェイブは、道中手頃なポイントを見つけてはあり合わせの道具で罠を仕掛けていた。
とはいえ、あり合わせの道具ではそれほどこった罠が作れるはずもなく、その大半は自然を利用した原始的なものとなっている。
当初はその作業に意義があるのかと愚痴ってはいたものの、一旦波にのると調子に乗ってしまうのも彼であり、既に小動物を捕獲する為の物も含めると、数十に達する罠が彼のよって設置されていた。
「さて、次は・・・・」
へし折った枝の先をナイフで鋭く加工しながら歩くウェイブに、もう一つの役割である偵察の意志は薄れていた。この『罠作り』に夢中になってしまったために、初心者の冒険者でも見つけることが出来たであろう、「集団」が通過したばかりの痕跡を見落としてしまっていたのだ。
しかしこれによるしっぺ返しを、彼自身が直接受ける事はなかった。
この痕跡に関する被害を被ったのは、ここから少し離れた樹海の一角にいた一人の少女であった。
その少女「サナ」は、己の人生を賭けて樹海の中を全力疾走していた。
目的地などない。とにかく少しでも遠くに離れたかった。隠れるなどという選択はない。隠れた程度では追跡者の目、否、鼻を欺くことが出来ないのが判っていたからである。
捕まり連れ戻されればもはや人としての未来はない。例え息が苦しかろうと、足が痛もうと走り続けるだけだった。
しかしそんな彼女の必死の逃走も、背後からいきなり追いつき、自分を飛び越して立ちはだかった影を前に、遂にその足を止めた。
サナの進路を遮ったのは、鋭利で大きな一対の角を頭部に持ち、鬼のような凶悪な形相をした二足歩行のモンスターであった。
上半身は生物を思わせるような曲線美の鎧を装備しているが、下半身は膝当てしか装備しておらず、鹿や馬を思わせる脚が見て取れる。この脚がサナに追いつき追い越したのである。
その下半身のみの特色で言えば、ワーガゼルとでも呼称すべきであろうが、その正式な名称はサナにも判らない。だが、見覚えはあり、決して味方でない事は判っていた。
こいつ等の脚力は人間を軽く凌駕している。この間合いで逃げても逃げ切れないことは判っていた。だが逃げずにはいられない。サナは本能的恐怖に駆られて、ワーガゼルとは違う方向へと駆け出した。
ワーガゼルは目の前の獲物が逃亡を始めたのを、立ちつくしたまま見送った。それは手心などではない。追う必要すらない事を知るが故の余裕であり、サナもそれを直後に悟った。
彼女の駆け出した方向に、新たなワーガゼルが現れて立ちふさがったのだ。
「!」
今度は反射的に別方向へと転身しようとしたサナであったが、今度はそれよりも早く三匹目のワーガゼルが現れてそれを遮った。
再び動きの止まったサナに、次の行動を考える隙は無かった。これ以上、無駄な抵抗をさせまいと更に新たなワーガゼルが次々に茂みから現れ、十匹を越えるそれが、完全に彼女を取り囲んだ。
「・・・・・・・!!」
「もう、鬼ごっこも飽きたからお終いにして帰ろうか?」
逃げ場を失ったサナに、人間の言葉がかけられた。
「嫌に決まっているでしょ!」
彼女にはその言葉の主が誰かを知っている。この獣人の群を束ね、モンスターマスターを称する男、ボヴァであった。
「でも諦めるんだな。こうなっては逃げ場は無い」
ワーガゼルの囲いが一部開き、そこから一人の鎧姿の男が姿を現した。
ワーガゼル達と同種の鎧を身に纏い、鋭く長い2本の角型の飾りのついた兜を小脇に抱えた男は、遠目からはワーガゼルの群と見分けがつきにくい存在であったが、彼等と唯一異なる点として、下半身も完全に鎧を着用した状態であることが述べられる。
「だったら、あんたを殺して押し進むだけよっ!」
「それこそ不可能だ・・・」
群の逃走者を倒すと言う、その発想は自体は正しい着眼点だった。だがそれを完遂するには、彼女の実力が不足していた。
ボヴァに向かって短剣を振りかざして迫るサナであったが、彼は応戦する素振りさえ見せずに薄ら笑いを浮かべていた。
その余裕は、圧倒的優位な立場による裏付けであった。彼女の剣がボヴァに届くよりも先に、周囲で包囲していたワーガゼルの二匹が素早く動き、左右から彼女を襲った。
「あぁぁっ!!」
ワーガゼルがサナの眼前で交差し、その最中、一匹によって剣が弾かれ、もう一匹によって攻撃を受け、身につけていたハードレザーの鎧が切り裂かれ役に立たない状態にされた上で突き飛ばされ、地面に投げ出される。
「くっ・・・」
幸い肌に傷は負ってはいなかったものの、突き飛ばされた際の衝撃はダメージとなって伝わった。よろめいて立ち上がる彼女であったが、そこへ別の二匹が先と同様に、左右から襲いかかってまたも彼女を突き飛ばす。
ワーガゼルとの瞬発力の差が大きすぎるが故に、彼女は一方的に攻撃を受け、ボヴァに一太刀与えるどころか、ワーガゼルに触れることさえ適わなかった。
絶対的な数と実力差から来る余裕は、そうした状況だけでなく攻撃内容にも現れ、サナはダメージこそあるものの、その肉体には傷一つなく流血が生じていなかった。
そうした事実が何を意味するのか、十分に理解する彼女は焦燥感にとらわれた。一刻も早い現状からの離脱。だがそれは、現実味を伴わない儚い夢でしかなかった。ふらつく脚は懸命に自由を求めたが、その願望に応じる脚力を発揮することもかなわず、背後から近づいていた二匹のワーガゼルに両腕を掴まれ、遂に捕縛されてしまった。
「さて、それじゃ、勝者の権利を行使させてもらおうかな・・・・」
ボヴァが口元を不適に歪めた。サナにとってそれは死神の笑みに等しい物であった。
投稿日:2011/07/26(火) 22:14:06
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