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2011/10/09(日)に投稿された記事
第2章-獣魔の街編- 第9話 樹海大乱戦
投稿日時:15:03:22|コメント:1件|》本文を開閉
ディレクトリ:くすぐりの塔AF -魔王の後継者達-
ちなみに俺はこの間、何もない道でコケて頭打って脳しんとうで救急車で運ばれると言う恥ずかしい体験をしたばかりだ!!
なんか顔が、くすぐりの塔に出てくるモンスターみたいなことになってしまっている!!
みんなも、気をつけてくれッッ!
理知的話し合いによる和解か・・・
可能性としてどちらの選択もあり得る現状ではあったが、これまでの経緯を考慮すると前者となるだろう事を語るまでもなく予感していたウェイブ達は、相も変わらずいい加減な基礎計画しかないまま街を出発した。
無計画・無謀だと周囲から再考を迫られる事を予想して、誰にも伝えず、やっかいになっていたサナにすら声をかけない、日の出前の出発であったが、彼等は門前でラーディと鉢合わせする。
偶然とか彼が当番であったという事ではない。こうした行動を予想し、待ち伏せしていたのだが、彼等を止めるための行為ではなかった。
「全て・・・・任せる」
一言そういって、彼は門を開けた。その言葉には、身内で始末をつけるべき事に力及ばない自分に対する悔しさ、他人を頼らなければならない事、どちらが勝者であっても訪れるだろう不幸に対する複雑な心境が入り混じっている。
一行は言葉に出さず、そろって頷くと、まだ薄暗い森の中へと侵入し、木々の影に消え去った。
彼等の当面の目的地は、モンスターマスターの技術書物が発見されたという魔王戦争時の遺跡であった。この遺跡は街では有名であり、そこそこマジックアイテムも発掘されている。
それ故、発掘作業の頻度が高くなるのは必然であり、モンスターマスターの関連書が発掘されたのも、それ程、特殊な事態ではなかったであろう。
ただ、それに接する者の中に、類い希な知識を持つ人物がいた事が存在し、必要以上に理解してしまった事が不運の始まりだったと言えよう。
大きな視野で見れば、この出来事はよくあるトラブルと何ら変わりはない。力に溺れた者の暴走。言ってみれば、ただそれだけ。
日々の営みで繰り返される人の業。
だが、人類の歴史の日常茶飯事であっても、どれ程ありきたりな事でも、当事者にしてみれば事は常に深刻であり、その事態に関わり、望む望まぬに関わらず避けられないだろう立場になったウェイブ達は、どの様な結果になるかはともかくとして、事態の終息を目指して本格的に動き出したのである。
「まだ、いると思うか?」
自ら選んだ事とはいえ、ラーディの一言で重い物を背負ったような気がしてならないタールが、神妙な面もちでウェイブに問うた。
「はっきり言って情報不足だから何とも・・・・モンスターマスターの技術が単なる呪文とかの類なら、どこでも出来る事だから、いないかもしれない。だけど、キメラとかの製造みたいに特別な設備も必要なら、遺跡のそれを流用している可能性はある。ここじゃ、設備の移転とか簡単にはいかないからね」
「成る程・・・」
「そんな訳で、第一目標としてはその技術あるいは施設の破壊。第二に説得、第三はいつも通り・・・で行きたいんだけど、何か代案を思いついた人いる?」
「一と二が逆っぽく思えるけど?」
説得が先では?と、カレンが暗に問う。
「口約束だけで済まされたくないだろ?どうせ、約束条件に技術の破棄が生じるんだから、先に壊してしまってもいいだろ」
「タールにしては冴えてるね。それに、以後の研究意欲を損なわせる効果もあるしね」
学者系の人間は、日々の研究成果の積み重ねによって『今』がある。それが一気に崩壊すると言う事は、彼等にとっては全てを失うのに等しい物であり、少なからず脱力し、たいていは再起の意欲すら失ってしまう。それをウェイブは狙っていたのである。
「ふ~ん、そういうつもりならそれで良いけど、言葉程には楽じゃないわよね?」
「だと思うよ。モンスターマスターもまだいるだろうし、何人か同胞を殺ってるんだから、プライドばかり高い連中になるほど、自分達より強い人間の存在を許せずに襲ってくるだろうしね」
「心の狭いこった・・・・」
冗談半分に言ったタールは、その直後、微かな金属音を耳にして表情を強ばらせた。同様にカレンとウェイブもその音を聞き取って足を止め、互いに顔を見合わせ、同じ事を考えていることを確認して頷いた。
それは彼等の良く聞き知った、戦闘の音だった。
樹海の一角で繰り広げられていたささやかな戦闘は早々に終息に向かっていた。
傷ついた左腕をだらりと下げ、右手だけでショートソードを構えていた青年は、自分の圧倒的不利を悟り、逃亡手段が無いかと周囲に視線を巡らせたが、その考えを実行するのはかなり難しい状況であることを思い知らされる。
十人近くいた仲間は皆、致命傷を受けて地面に伏しており、殺意をみなぎらせた異形の人間達が自分を取り囲んでいたのである。
青年は、あるとしたらどのくらいの可能性か?などと、自分の生存率を無意味にも試算し、どう動いても変わらぬ結果にしかたどりつかず、チェック・メイトの文字を思い浮かべた。
そうした思考は相手側にもあったようで、すぐに決着を着けようとせず、余裕の表情で間合いを詰め、最後の得物をどの様に始末するかを考えているようでもあった。
不可避な運命。万人が一つしかないと考えるだろう状況。
だが、結果的には偶然でしかなかったが、双方はその時に抱いていた考えが絶対的な物でない事と、一つの教訓を思い知らされる。
青年に関しては、チェック・メイトとは基盤の状況であり、そうしたルールの関与しない本当の戦場には、それをひっくり返す事態が生じる事もあるという、稀な現実を・・・
異形の人間達には、絶対的優位から生じる余裕は慢心でしかなく、さっさと目的を果たすべきであるという戒めを・・・
「双方そこまでっ!!」
いきなり状況を把握していない人物による場違い極まる声が放たれ、一同はほぼ同時に声の飛来した方へと視線を向けた。
そこには、遠近感を狂わせる巨体のタールが、ヘビーシックルの先端を地面に打ち付け、仁王立ちしていた。
「なんだ貴様はっ!?」
「馬鹿、例の余所者の一人だ。知らんのか」
「やっぱ、モンスターマスターかよ。どんな理由があるか知らんが、人間一人にお前等が束になって来てるってのはどういう了見だ?」
異形の人間達が流暢に言葉を放ち、尚かつその内容で事を確認したタールは、らしからぬ行為に疑問を抱く。
「貴様が知る必要はない」
「そうかもしれんが、殆ど無力なそいつにまだ危害を加えるつもりなら、俺達も黙ってはいないぞ」
「無関係者が出しゃばるな!」
台詞だけならありきたりな流れを経て、両者は戦闘態勢に入った。
「とはいえ、弱者を嬲るのを見過ごすこともできん。それとも、圧倒的優位でないと闘えないか?」
明かな挑発であった。だが、余計なプライドがつきまとっているモンスターマスターには有効な一声であった。
「お前なら不公平な実力と数の差を埋められるとでも思ってるのか?」
「何人か仲間を葬ったらしいが、舐めてると命を失うぞ」
殺意の方向が明らかに変わり、タールは不適に笑う。絶対的な自信があってのものであり、それがまたモンスターマスター達の神経を逆撫でした。
「できん事は言うなって。知ってるぜ、お前等の大半が実戦経験の少ない素人だってのは。そんな姿になって強くなった気でいるんなら止めとけ。もっと自分の能力を使いこなせてからにしろよ」
実際にそうされると、タールの劣性は必定であった。最初に出会った不完全なモンスターマスターでの闘いでは、相手が相棒モンスターとの連携や特性を把握した戦法を用いたからこそ苦戦を強いられたのである。逆に以後出会った完成型は、その力を得て間もないためか、あるいは基礎能力が高すぎるためか、自己の特性を生かしきっていない様に見受けられた。
それでは、使い慣れない強力な武具を持っただけの人間と大差がなく、そうした視点で考えれば彼等の手に負えない存在ではなかったのである。
一応は穏便に進めよう・・・・タールにも一応そうした思いはあったようだが、本音としては闘って一気に済ませてしまおうとする本来の気質が大きかったのは否めず、言葉が挑発的になってしまったのは必然といえた。
「舐めるなと言っただろう!」
「どうせお前は仲間の仇!いずれは殺る存在だったんだ。この場で、俺達の実力を思い知って死ね!」
感情を爆発させ、その流れに身を任せた二人のモンスターマスターがタールに向けて駆けだした。
サボテンの様に全身に鋭い針が突出ているモンスターマスターと、蚊の様に細身で細く長い針のような特徴的な尾を持つモンスターマスター二人は、互いの感覚を僅かに広げてタールに迫る。
性質の異なる武器による、左右からの僅時間差攻撃であった。
「ウェイブ、右側から来る細い方な」
ぽつりと呟き、サボテン男に対して身構えるタール。
「そうだよな、腕はたっても所詮は人間!同時に相手にするなんて不可能だよな」
細身のモンスターマスターは、若干スピードの勝る自分に対して対応しなかった事を少し疑問に思ったが、予想範囲内の対応を行った相手に優越感を抱いた。
戦闘経験がどうのと言った相手が自分達の思考範囲内の行動しかしない。それだけで自分達の戦闘センスは互角であり、身体能力を考慮すれば負ける要素は無いと思えた。
「ああ、さすがにね。だからマンツーマンで行くんだよ!」
「!?」
どこからともなくタールとは異なる声が聞こえ、細身のモンスターマスターは一瞬怯んだ。人間と異なる視界となった眼が、周囲を見回すが、声の主は見つからない。
それが僅かに彼の動きを戸惑わせた。その僅かな隙を狙うように、巨人タールの背後に身を潜めていたウェイブが飛び出し、両手にした剣を同時に左右へと振り抜いた。
瞬時の事ではあったが、彼にはそれが見えていた。だが、即時に反応する事が出来なかった。その結果、彼はまともに左右の剣撃を受け、上半身と下半身を分離させられ、そのまま地に転がった。
「モルキート!」
サボテン男が、既に肉の塊へと変貌した仲間の人であった頃の名を無意味に叫ぶ。
「今なら追いつけるぜ!」
仲間の死に動揺したサボテン男にタールのヘビーシックルが襲いかかる。
「!!!」
上から下という質量武器が最も威力を発揮する一撃を、事も有ろうに腕でガードしようとした彼は、許容量を遙かに上回る一撃に、両腕を粉砕された上に頭も潰され、先行した仲間の後を追って冥界へ旅立った。
「なん・・・だと・・・」
他のモンスターマスター達は揃ってたじろいだ。
自分達は格段に強くはなった。だが不死身ではない。
力を授けたセイムは事ある毎にそう言っていた。人間であった時は思いもよらない特殊な能力を得て、かつての自分がゴミにも見える程であっても、生物である以上、殺せる事ができるのだと・・・・
その言葉を彼等は理解していた。いや、理解していたつもりだった。より大きな能力を得た仲間、あるいはモンスターと相対すれば、死が巡ってくるのは当たり前だと考えていた。
だが、自分達を上回る存在、死をもたらすことの出来る力を持った者が、人間にいる可能性を全く考慮していなかったのである。
「やっぱ、この手で行けるな」
「ああ」
ウェイブとタールは二人だけに聞こえる程度の声で語ると、やはり相手が未熟者で、人間を過小評価している事を確認し、その高慢さを突く戦法が有効であると確信した。
素人であっても今のが油断による結果であろう事は容易に推察できた。彼等が以前にも仲間を倒しているという情報も持っていた。だがそれは激戦の末の辛勝であって、こうも容易く出せる結果ではないと信じていたのである。
だがそれは、目の前であっさりと打ち砕かれ、自分達が思ってたよりも死は近い物だという事実を実感させられた。
「だから言っただろう。もう少し腕を上げてからにしろって」
「そうそう。人間捨ててまで得た力なんだから、大切にした方がいい」
そうした発言が、モンスターマスターにとってどういう受け取られ方をするか、十分知った上で二人は言った。
「ふざっ・・・ふざけるなっっ!!!」
「この力は容易く得られる物じゃない!何百、何千分の一の可能性でようやく成功する奇跡の能力なんだよ!」
案の定、成功率の低さを乗り越えて得た能力に優越感を持っていた一同は、それって逆上する。セイム達の言葉をそのまま引用して、自分達の存在の希少さを誇示するが、それはあまりに無意味な虚勢でしかない。
「そんな物に心まで奪われるから・・・」
せめて人としてのプライドの方を残せないのか?苦々しい表情で一同を見回し、ここで己を振り返る事のできる者がいたなら、説得の可能性もあるのにと、ウェイブは残念がる。
「さっきの様な不意打ちさえなけりゃ・・・」
「おお!一斉に責めればこんな連中!」
残ったモンスターマスター五人全員が、身構え、戦闘続行の意思を示す。
「やめとけ・・・最後のチャンスだ」
タールもここまで意地に固執した姿を見て、哀れみの言葉をもらすが、さすがに仲間を二人葬られて逃げ帰ってでは、他の仲間に面目が立たないと考えた一同は、一歩も退く気配を見せなかった。
この中で何人かは命を失うかも知れない。だが、その代償に、この生意気極まる人間を殺せば意地は通せると考えていた一同は、同時に突撃するタイミングを見計らう。
「・・・・」
無言のままタールとウェイブが武器を構えると、それを合図にしたかのようにモンスターマスターの一同が身を僅かに屈めて突撃の体勢に入る。
ガサッ!
彼等が一斉に駆け出すより僅かに早いタイミングで、ターゲット近くの枝が不自然に鳴った。
「!?」
明らかに怪しい物音に、突撃を始めたモンスターマスター達の視線がそちらに向き、その目が捉えたのは、枝を蹴って高々と跳躍する異様な鎧を身に纏う少女の姿であった。
その風貌から、目の前にいる二人の仲間の女である事、樹の枝に潜伏していて、跳躍してあそこにいるのだろうという事だけは理解したが、その意図が見抜けなかった。
そしてその疑問は瞬時の出来事で理解に至る事となる。
「光よ!我が敵を貫けぇぇぇ!」
中空で上下逆さまになった体勢のまま、カレンが手にした六牙の杖を振るう。
「!」
既に魔法が蓄えられていた杖全体から光の矢がほとばしる。しかもそれは一本や二本ではない。それこそ光の矢の雨と表現しても過言ではない数のそれが、モンスターマスター達めがけて一斉に飛来したのである。
「うおぁぁぁぁぁぁ!???」
もはや回避という発想は無意味であった。見て分かる状況ではあったが、隙を突かれた一瞬の出来事でパニックに陥ったモンスターマスターは、適切な対処が出来なかった。慌てふためく一同は、身体に幾つもの矢を受けてダメージを受けた挙げ句、頭部にも直撃を受けて絶命していく。
中には己の能力を適切に行使すれば、無傷とは行かないまでもこの場を切り抜けられたはずの者もいたのだが、慌てた結果、何一つ対応する事も出来ないまま、身体を射抜かれ地に伏した。
結局、カレンの攻撃によって、残ったモンスターマスターも全滅し、その場は人間のみが残る事となる。
「それで・・・セルシオさん・・・だっけ?あんたは何で連中に襲われていたんだ?」
辺りに倒れる人間の様子を伺い、既に事切れている事を一通り確認したウェイブがその事を合図で報告してきたのを見て、タールは眼下にへたり込んでいる、唯一の生き残りとなった青年に声をかけた。
「あるとすれば、サナみたいな適合者候補で、あんな姿になるのが嫌で逃げてたとか・・・・」
基本的にモンスターマスターは人間を軽視している。力をふるう相手にも成り得ない下等な存在・・・とする考えも抱く者もおり、それは、元人間としてはあまり良い傾向ではないが、逆にその事によって無意味に襲われることも皆無だろうとも考えられた。
もちろん捕食対象に見られているはずもなく、従って、ただの人間がモンスターマスターに襲われるには、それなりの理由が存在するはずであり、カレンは、その最もあり得るだろう可能性をあげてみたのだが、その青年は首を横に振って否定する。
「なら、裏切り者か?」
この突飛ともいえるウェイブの問いに、青年のみならずカレンとタールも注目した。
「だって、追われる者のお約束だろ?ラーディみたいなのなら失敗作とかいって見向きもしないだろうから、完成体で人の良心を残して、連中に反発した・・・とか?」
それはもはや予想と言うより願望に近い物だった。モンスターマスターの仲間・・・それはかなり頼もしくもあり、魅惑的な構成になるとも思えたが、そうした彼の淡い期待も、横に振られた首によって否定される。
「なら、何で?」
「連中の企てを知り、私が障害になる可能性があったからです・・・・」
「企て?何かしているのか?」
青年セルシオは小さく頷くと、周囲に立つ三人を見回し問いかけた。
「あなた方は連中の・・・いや、その上に立つレギアスの事は聞いてますか?」
「ああ、モンスターマスターの創始者の一人で、最強のモンスターマスターって話だろ」
「・・・彼の目的の事は?」
「本当の意味での最強を目指すってアレか?」
記憶を思い起こすタールに向かって、こくりと頷くセルシオ。
「その為に命を狙われたってか?」
「いいえ、その目的を達成するために企てている事を知り、無関係ではなかったが為に、私は・・・いや、我々は・・・」
周囲に点在する仲間の亡骸に視線を向けて彼は呟く。
「知ったくらいで口封じか?連中に言わせれば、人間に知られたところで何が出来るってもんだと思うんじゃないか?」
経験上まずそうなるはずだと確信したタールが、状況の不自然さを問うた。
「ええ、彼等の行動を止めることは正直、我々には出来ません。でも、阻止することは可能なんです」
「・・・・・??まてまてまて、どういう意味だ?止められないのに阻止できる?」
言葉の持つ意味を理解できなかったタールが会話を一時中断させ、思案する。
「つまり、彼等が企てに必要としている物を、彼等より先に奪って処分する事は出来るんです」
「成る程、そう言う意味ね。と、いう事は、連中が今、企んでいる目的には、何らかの材料みたいなのが必要ってわけか」
「ええ、彼等にしても、決して容易じゃないですが」
「で、結局、何が必要なんだ?」
「ドラゴンです」
ブっ!!
簡潔に答えられた単語に含まれる強烈極まる意味に、タールのみならず一同が思わず吹いた。
「モンスターの力を得るのがモンスターマスターです。ドラゴンを対象にして最強を目指すのは至極当然の帰結ですよ」
さらりとセルシオは言う。確かに、モンスターの力を利用するのが基本の彼等にしてみれば最強生物と言われるドラゴンの力を得るのは実に魅力的な物だろう。その圧倒的力を前にすれば、他モンスターの能力など子供騙しとも思えるだろう。が、それを実現するのは言うほど簡単ではない。
「いやいやいやいや、その発想はもちろん解る。が、そもそも、いるのかドラゴンが!?この世界に!」
そうなのである。この隔離世界において、ドラゴンの公式な目撃記録は存在しない。
その一般的外見や知識は、文献や口伝で伝えられてはいたが、ドラゴンそのものはこの大地が結界で覆われる前に全てが逃げ出したと言われている。
一説では結界構築にはドラゴン族すら協力したとさえ言われており、何が起きるかを悟ったドラゴンは、早々に魔王領地から逃げ出し、一匹もこちらに取り残されてはいないとされ、事実隔離されて以降の目撃談はどこにもない。
その長年の定説を、セルシオは簡単に否定するのである。
「ええ、いたんです。だからこそ連中は動き出した」
「慢心も極まり・・・だな。ドラゴンを生け捕りにするつもりかよ」
ウェイブはその途方もない計画に呆れた。いくらモンスターマスターとはいえ、ドラゴン相手に勝負を挑むというのは無謀の域をでない。しかも彼等には、利用目的があるため生け捕りという条件が生じる。
倒す事と生け捕りでは、どちらが難しいかは一目瞭然であり、どの様な作戦であれ被害は避けられないだろう事は予想できた。
「一体、何人の仲間を使うつもりだよ・・・」
そこでウェイブの思考は突如、方向を変えた。
(いや、あるいは全部捨て駒かな?最終的な目的は自分が最強に至る事・・・・仲間を増やしていったのも、組織の構築じゃなく、これが目的かもな・・・・)
「つまりは、計画実行が可能と思える人材が揃ったのね?」
カレンから放たれた言葉がウェイブの思考を中断させ、相手の真意よりも重要な事項が目の前にあることを思い出させた。
「そうです。もう計画は最終段階です・・・」
「ドラゴン捕獲って事か?」
「はい。彼等は以前から、ドラゴンの存在は確認していたようです。ただ、広大な樹海のどこに潜んでいるのかが判らず、捜索していたらしいんです。ところが、グループ探索に出ていた我々は、偶然・・・」
「知ったのか!?ドラゴンの巣を!」
「はい・・・巣と言うより縄張りと言うべきですが、その中に間違いなく巣もあります。もちろん、我々では、とてもドラゴンを倒せない上に、連中の目的も知らなかったので、不必要・無謀な行為は行うまいとその場を後にしました。そして街に戻る道中で、幻の存在とされていたドラゴンの事を話題にしていたところを連中に聞かれてしまい、後は・・・ご想像の通りです」
「確かに・・・俺達でなくても、街の連中にでも事を知らされたら、邪魔される可能性はあるよな」
今回のようにモンスターマスターが人間を必要以上に襲うという不可解さに、一応の納得がいったタールは、仲間二人の反応を伺った。
「かなり難しくはあるけどね・・・・」
僅かな危険もつみ取っておくという考えからすれば、その対応は間違ってはいない。
彼等を見過ごしてウェイブ達に助力を求める以前に、巣の周辺を焼き払って、ドラゴンの別の場所へと追いやる事くらいは可能なのである。
この広大な樹海である。ドラゴンの逃げた場所を探すには、またかなりの時間を要するだけでなく、住処を焼き払われた事で以前よりも警戒心が強くなり、容易く近づけなくなる可能性も高い。
そうなるよりは、今のチャンスで成功する事が重要であり、過剰殺戮も万全を狙っての当然の行動といえた。
「お願いします!!」
突如、セルシオは大きく頭を下げた。
「無茶は承知でお願いします!連中より先にドラゴンを始末して下さい。でないと更に手に負えなくなり、今度どうなるか、判ったものじゃありません」
彼に言われるまでもなく、その結果の深刻さは理解できている。だが、妨害工作を行うにしても、彼等の戦力はあまりにも少なく、確実性のある計画が立案できないのも確かであった。
いつも作戦立案担当になるウェイブは、一同を見回しながら思案し、タールとカレンは立案を待って、その内容に対する疑問を指摘する。そうしたお決まりの状況が展開されたが、今回はその待ち時間が長かった。
それは有効な案が浮かばない証明であったが、全くの無策という訳でもないようで、視線を地面に向けたまま小声で独り言を呟き続け、剣の鞘で何度も地面を突いて落ち着かない様子を見せながら悩んでいた。
更に時間は経過し、結局その中でより良い、少しでも最善と思われる策を見出せなかったウェイブは、自分でもリスクがかなり高いと思う案を口にするのであった。
樹海は普段では有り得ない騒々しさに襲われていた。
突如現れた好戦的極まる存在が、原生動物・モンスター達の迷惑も顧みず、辺りの被害も考えない強引さで暴れていたのである。
それは一定のある種族を見つけては派手に攻撃をしかけ、その騒動につられて集まる仲間も巻き込んで戦火を拡大させつつ、獲物を仕留め、時には離脱し、また新たな場所で同様の行為を繰り返す。
この非日常的現象に、樹海の原生動物たちは戸惑い、怯え、可能な限り現場から逃れようとしていたが、騒動の中心となっている、それに『狙われている種』だけはその場に止まり、原生生物達とは全く逆の行動をとっていた。
それは持ち得た知性と肉体故に生じたプライドと意地からなる、見えない楔による現象だったと言えよう。
「くそおぉ!!ナムまで殺られた!!どうなってやがる」
人と蜂がバランス良く融和したような外見を持つモンスターマスターのヒデは、殆どパニック状態のまま、周囲に視線を巡らせ憎悪の対象を捜索した。
彼の視界には自分同様に混乱する仲間とその死体が点在し、それを取り囲むように木々が燃え上がって辺りを赤く夕暮れの様に染めていた。
彼等は当初数人で樹海内を探索していた。その目的は入手した情報をもとにドラゴンの巣を発見し、その生息を確認する事であり、多くの仲間が幾つかのグループに分かれて、指示された区域を分担捜査していた。
その時突然、何の前触れもなく、上空から一筋の炎が降り注ぎ、自分達を取り囲むように円を描いて炎の包囲網を構築したのである。
彼等は当初、それがドラゴンの吐いた炎による現象だと思った。だが直後、炎の壁を突っ切って、姿を現した男が、変身の間も与えず仲間を三人斬り倒した時点で、それが敵襲と理解した。
男は現れた勢いのまま再び炎の中に姿を消すと、その人間に復讐心を抱いた仲間の一人が素早く姿を変えて後を追ったが、炎の壁を通過しようとした瞬間、まるで生きているかのように急速に火の勢いが増し、彼は尋常でない炎に呑まれて瞬時に消し炭となって消え去った。
彼等に起こった惨劇はこれで終わった訳ではない。仲間が灰になった事で、炎が持続性のある魔法による物と理解し、まだ攻撃は終わっていないと怯えた一同は、襲撃に対応すべく現状よりも強靱な姿に一斉に変身しだすが、その変化のタイミングを狙って先程の男が再び炎の壁を突っ切って現れ、有無を言わさず一人を斬ると、全く別方向から光の槍が飛来して別の一人を射抜いて倒していた。
こうして瞬く間に半数以上の仲間を失った彼等は、現状に対する対応法も判らないまま、あたふたと周囲を警戒する事しか出来なかった。
何時襲われるか分からない状況に、ヒデは精神的に消耗し続ける。少しでも気を抜けば襲われるといった思い込みが彼の脳裏から離れず、一方的に強いられる緊張だけが続いた。
(潮時?)
(ああ。だけど、あと一撃だけやる。下からサポート頼む)
炎の壁の反対側で中の様子を伺っていた襲撃者のウェイブとカレンは、小声で短く語るとすぐさま行動に入った。
「たりゃぁぁぁっっっ!!」
「!?」
これまでとは異なり、奇声を上げて仕掛けてきた相手に、モンスターマスター達は揃って反応し、一斉に身構え、初めて襲撃者ウェイブの顔を目の当たりに出来た。
「あいつはっ!」
自分達を襲う者達である。その正体はあらかた想像していたが、その姿が教えられていた人物の一人である事を確認して、予想は確定へと変化し、抱いていた不安と恐怖はたちまち憎悪へと切り替わった。
「もう一人、斬らせてもらうっ!」
両手に剣を携えたウェイブが、勢いを落とさずヒデに迫る。
「舐めるなっ!」
ヒデは指が無くなり、鋭い円錐状の槍の様に変化していた右腕を突きだして、迫る相手にカウンター攻撃を仕掛けた。
正体さえ分かれば恐れるほどのモノではない。そうした思いで繰り出された攻撃は、相手に軽く受け流される。
ウェイブは身を翻してヒデを飛び越えると、彼との勝負だと思い込んでいた後方のモンスターマスターに向かって駆けだして行った。
「!?」
敵の矛先が自分に向いた事で少し狼狽えながらも迎撃の構えを見せるモンスターマスター。だが、そんな彼の直下の地面が局所的な爆発を起こして直上に幾つもの礫をまき散らした。
カレンの魔法による現象であった。その威力は大きくはないものの、相手の体勢は完全に崩れた上に、爆発で僅かに浮き上がった身体は回避の術が無く、そこへウェイブの斬撃が繰り出され、彼は致命傷を負って倒れた。
「きさっ!?」
狙いは自分ではなかった。
それを悟った時には、ウェイブはまたも炎の壁に消え、その姿を見失う。
魔法援護による攻撃。その戦法は理解できた。タイミングも連携も絶妙であり、手練れだという事は嫌でも理解させられた。
それでも、人間に自分達が翻弄されている事実は許し難いものとしてヒデを激怒させた。そうした思いは他のモンスターマスター達にもいえる事で、彼等は揃って同じ手は喰わないとした決意のもと、再び来るだろう攻撃に備えた。
だが、どれ程待っても、襲撃はなかった。自分達に隙が無いためであろうと思い込み、状況を維持し、先に動いた方がやられると判断した彼等は、持ち前の身体の耐久力を頼りに、持久戦覚悟の構えをとった。
だがこの時点でウェイブとカレンは戦闘の継続に意義を見いださず、さっさと場を離れていた。
現在彼等を覆う炎の壁も、木々が自然に燃えているだけであり、後しばらくして火の勢いが衰えた事でようやくその事実を彼等は知る事になる。
こうしてウェイブ達は樹海内を徘徊しては、遭遇するモンスターマスター達に奇襲をかけ可能な限り倒しては、被害を受ける前にさっさと逃亡するという行為を繰り返していた。
その闘いは派手で、隠密性を無視した行動はたちまち周囲のモンスターマスター達に知れ渡り、彼等の敵対心と警戒心を煽った。
そうして注目を浴びる一方で、別グループとなっていたタールとセルシオの二人が、ドラゴンの縄張りの深部へと向かうコースを辿り、ドラゴンを始末、最悪でも追い出すという目的を達成する・・・・というのが彼等の選んだ計画であった。
ただ、立案者であるウェイブが悩んだように、これにはリスクの方が大きかった。
ただでさえ少ない戦力が二分される上に、一方はどうあっても戦力バランスと連携が望めないのである。
内容上、三人のうち二人は揺動の方を担当する事になり、一人が案内役となるセルシオと組んで目的を達する役割を担うわけであるが、お世辞にも達成を求めるには戦力が足らなすぎたのである。
とはいえ、最大戦力となる全員で行動すれば、モンスターマスターの戦力も減ることなく、三つ巴の闘いになる恐れも大きく、そうなった場合、彼等が勝利条件を満たすのは困難であり、最悪の場合、集結した敵に圧倒的戦力で殲滅される恐れすらある。
反対に全員でモンスターマスターを倒していったとしても、その数に差がある以上、彼等が闘っている間に、別働隊がドラゴンに接触する恐れもある。
その為、両面作戦という、一方は揺動と敵戦力の可能な限りの除去、一方は早急なるドラゴンの発見と、撃退あるいは追放という、過大な条件が課せられたのである。
誰がどの担当になろうと、バランスの悪さが生じるのは確実であり、それでも、僅かにでも成功率を上げるために、長い検討の末、ウェイブ&カレンが騒動担当、タールがドラゴン担当となったのである。
もちろん、検討したからといって不安が解消された訳ではない。絶対的に戦力がない以上、それしか選択できなかったというのが、正しい状況であった。
そして、最重要任務を担当する事となったタールは、苛立ちを抑えながら慎重に樹海を進んでいた。
この周囲に潜んでいるかも知れないモンスターマスターに発見されないよう、出来るだけ気配を隠しながらの行動は、彼の本質にそぐわないものであった。
出来れば揺動組に入って暴れたかった。その方が気が楽であり、こうした気遣いも不要で、苛立ちもつのらないはずだった。
だが、今回の揺動には可能な限りスピードが要され、それはタールの最も苦手とする条件である上に、ドラゴンと相対した際に物理攻撃でダメージを与える可能性の最も大きいのが彼であった。
そうした諸事情を把握し、自覚するが故に、彼はこの役割を承知したのである。
それでも、理解することと性分とは別物であり、彼は遠くで聞こえる爆発音を聞く度に、ストレスが溜まるのを感じて行った。
その溜まった鬱憤をぶつける対象(ドラゴン)がいるのは良かったが、それを実行するにも命懸けだと思うと、自然に彼の感情の高ぶりは落ち着きを取り戻す。
彼の手には道を切り開くための鉈代わりとして、セルシオの持っていたショートソードが握られていた。
刃渡り50センチ程のそれも、タールのサイズからすればナイフみたいな物であったが、彼はその独特な剣をまじまじと見つめ、これが切り札の一つに入っている事を思い起こしていた。
このショートソードはマジックアイテムではなかったものの、ある特殊な効果があった。『毒』である。
この剣の素材は、マジックアイテム発掘の際に一緒に出てきたとある石で、偶然か意図的かは判らなかったが、かなりの毒性分が染み込んでいた。セルシオはその石を削りだして剣を作り、森のモンスター退治等に利用していたのである。
その効果は意外に高く、大型モンスターであっても手傷を負わせて体内に毒を浸透させる事ができれば、数分で身体が麻痺して動きを止めることが可能だという。
もちろんドラゴンとは言っても生物である以上はこのアイテムも有効であり、これで動きを止めることさえ出来れば、タールの力で止めを刺す事もできるのである。
問題は、この武器の届く距離まで近づき、手傷を負わせられるか?
仮にそれが成功した場合、毒の効果発揮までにどのくらいの時間を要するか?
そして更に、その効果発揮時間までの間、傷を受けて激怒するだろうドラゴンの攻撃をしのげるか?
等の問題があったが、無策のまま闘うよりは遙かに希望の持てる手段だと言える。
正攻法が信条のようなタールも、さすがに伝説の存在であるドラゴンが相手では、持ち前の馬鹿正直さを貫く度胸もなく、この降って沸いたアイテムの存在をありがたく感じたが、石材であるこの剣がどのくらい自分の力に耐えられるかという一抹の不安もあった。
だからこそ今、小道具として使用して感触を確認していたのである。
樹海にて局地的戦闘が頻繁に勃発する現象は街でも観測され、住人達はこれまでの人生、そして言い伝えにもなかった事態に直面し、大いに戸惑いながらも状況の把握に奔走していた。
モンスターマスター同士の戦闘、天変地異、魔王復活、などと幾つかの根拠のないデマが流れる中、サナは状況を正確に把握した数少ない人物の一人であった。
「あの、大馬鹿達ぃぃ~~~~~」
彼女が早朝目覚めた時、彼等の姿はなかった。前夜の会話の内容から早々に行動を開始したのは明白だったが、ここまで極端な事をしでかすとは思っても見なかった。
「施設とかの破壊が先じゃなかったのぉ?」
爆発音・火の手・煙はあちこちで生じており、ここまで派手ではモンスターマスター全てを呼び寄せているようなものであり、非効率この上なかった。その素人目にも馬鹿げた行動に、彼女はいても立ってもいられなくなり、その感情に任せて駆け出すのだった。
投稿日:2012/02/15(水) 17:26:27
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