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2011/10/09(日)に投稿された記事
第2章-獣魔の街編- 第10話 呪術文様の儀式・・・・あるいは悪戯
投稿日時:15:06:53|コメント:0件|》本文を開閉
ディレクトリ:くすぐりの塔AF -魔王の後継者達-
なんかブログに反映されてなかったみたいなので再投稿。なんでだ。
行って何になるかという単純な疑問にも、即答できる理性と判断力もあった。
だが、事態のあまりの無意味な成り行きに、当事者達に直接一言怒鳴りたい衝動を抑えきれなかったサナは、自宅に置いてあった手槍を手にすると、一目散に門へと向かっていた。
街の壁の内側、煙や火の手を眺めて思い思いの想像を言い合う住人達の中にあって、そうした明確な行動は実に目立ち、門番役のラーディが雑踏の中でも、それに気付いたのはそう珍しい事ではなかった。
「おい、サナ!」
明確な目的を持った躊躇いのない目を見て、何となくやろうとしていることを察したラーディは慌てて声をかけ、彼女を呼び止めた。
「何をしようっていうんだ?」
「一言、文句をつけるのよ!」
誰にとは問わない。問うたところでその答えは彼の想像と同じなのである。
「意味無いだろ」
「でもね、こんな超馬鹿な真似するなんて、正気を疑うわ!」
「考えがあるかも知れないじゃないか。連中の常識は俺達とは違う。強さも、作戦もだ」
「それにしたって、ここまで常軌を逸脱した行動をする理由があるの?これじゃまるで戦争じゃない」
そうした論議も、実際に事が起きている中で当事者を介さないでは意味を成さない。そうした現実を知らしめるかのように、一際大きな爆音が、街に響き渡り住人の注意を一気に引いた。
「確かに・・・・戦争だ・・・・」
ラーディもその意見には異論は無かった。
「くぅぅぅっ!」
モンスターマスターの一人、グラントは表層が亀の甲羅のように硬質である自身の身体の特性が幸いし、爆裂系魔法六発の同時爆発を何とか耐えきった。
何とか五体満足な自分を確認しながら、彼は遅れて沸き上がる恐怖心に震えた。
「あの女、何てマネしやがる・・・」
確かに自分達の外見は既に人を捨てていた、その上で並のモンスターと同列に見られるのも心外と感じていた。自分は強い!敵には相応の心づもりで相対してもらいたいものだと言う、妙な自負心さえあった。
しかし、圧縮した爆裂魔法を六発同時に炸裂させると言うのは、彼の許容範囲を越えた対応であった。しかも、仲間の剣士がその効果範囲内にいる中での行為となると、術者の正気を疑うのも当然といえた。
魔法使いカレンの狂気的攻撃を受けたことにより、密集していたグラントの仲間は、大半が四散して肉片になり、戦闘に支障がないと思われるのは彼一人になっていた。
仲間を捨て石に、俺達を倒しにかかっている・・・
剣士ウェイブの存在を無視して繰り出された魔法に、当初そう考えていたグラントであったが、落ち着きを取り戻した爆煙の中に、彼が生存して立っているのを見ると、無謀ながらこれが作戦の一環である事を思い知らされた。
「ほぅ、残ったのは一体か。予想以上の成果だな」
「当然じゃない。本来は城も攻略できる魔法よ」
「さすが!なら、この一体もついでに始末してしまうか」
「何だと?」
まるで自分を格下の存在であるかのように扱う会話に、グラントは怒りをあらわにしたが、周囲の惨状を見るに至り、それを認めざるを得なかった。当初、彼は各所で仲間が襲われ、何人もの犠牲者がでているという情報を聞き知った時、それは当人の油断か偶然による結果だと思い込んでいた。だが実際は、強い方が勝つという至極当然の摂理のみの結果であったのだ。
「そうそう、思い通りにさせるものかよ」
それでも彼にはモンスターマスターとなれた誇りがあった。個々によって異なる特性・能力の中で、トップクラスの強度を誇るこの身体さえあれば、場を凌いで反撃の糸口も掴めると信じていた。
グラントは俊敏さで責めてくるウェイブを無理に捉えようとせず、身を軽く縮めて防御主体の体勢をとって相手が仕掛けてくるのを待った。
今し方の攻撃で、魔法攻撃に対する耐性が高いと判った以上、相手は剣による急所攻撃を試みるだろうと彼は予測した。近接攻撃が始まれば厄介な遠方からの魔法援護はなくなり、眼前の敵だけに集中する事が出来る。
そして思惑通りウェイブが手にした剣で斬りかかってくると、避ける事を考えなかった彼は、腕を突きだしてそれを受け止める。
ガキィン!
剣が岩に衝突したかのような音を上げて軋み、その動きを止めると、グラントがもう一方の腕を振るって相手を薙ぎ倒そうと試みる。
ウェイブはそんな粗暴な攻撃を、傾けた剣で受け止め、衝撃の負荷が最大になる瞬間、剣を振り上げて腕の方向をずらして命中する軌道を僅かに逸らせた。
「ぬぅっ!」
当てるつもりで繰り出した一撃は、それ故に大振りとなってグラントの体勢を崩させた。そうした拍子に生じた隙を狙い、ウェイブの左掌が彼の腹部にあてがわれた。
「?」
グラントは『剣士』のそうした行為が何を意味するか理解できなかった。が、次の瞬間、疑問は瞬時に回答を得る。予想もしなかった激しい衝撃がグラントの腹部を駆けめぐり、それに耐えられなかった身体が後方に浮いて仰け反り、体勢を立て直す間もなく彼は地面に背を打ち付けた。
「かはぁっっ・・・・」
その瞬間には何が起きたか判らなかった彼も、倒れた後に激痛が襲いかかり、ダメージを受けた事を知らされる。素早く起きあがって次の攻撃に備える・・・つもりだったが、身体が言うことを聞かず、ノロノロと身を起こすのが精一杯な状態で、それでもようやくにして上半身を起こし、自分の身に起きた事態を正確に把握する。
腹部への致命傷。ウェイブが手を添えた場所に大きな穴が穿かれていたのだ。
「こ、これは・・なん・・・だ?」
何をされてこうなったのか、彼にはまるで判らなかった。穴は身体を貫通して背にも至っており、今も血を大地に与えていた。
(致命・・・・傷?どうやって・・・?何をされた・・・?)
急速に薄れる意識の中でグラントは必死に考えたが、それを声にする事すら出来ず、答えを得る事もなく、やがて彼は闇の中に沈んでいった。
「いよっしっ!これで通算何体目だ?」
止めを刺した左拳をグッと握り締め、ウェイブが勝利を噛み締める。
「いちいち数えてないわよ。三十前後じゃないの?そんな事より、早く移動しましょ、長居は禁物よ」
「その通りだ」
「!!?」
ウェイブでない別の男の返答に、思わずカレンが身を竦めた。聞き覚えのある声。結果的に相対するにしても、できる事なら最後にしたかった存在。レギアスの声だった。
「だが少し遅かったな・・・」
木々の間から姿を現した敵は、人間の姿のまま武器も持たず腕組みをしたまま、不敵な笑みを浮かべて二人を眺めていた。
「お久しぶり、レギアスさん・・・・」
苦笑いを浮かべ歓迎していない表情で身構えながら、カレンは応じる。既に警戒心いっぱいで、冷や汗まで滲んでいる。
「こいつがレギアス?」
創始者の一人の登場に、ウェイブも改めて身構え相手の出方を窺った。
「こんな所で会うなんて奇遇よね。水場の時もそうだったけど、私をつけ回してるのかしら?」
「冗談いうな。これだけ派手に暴れて、奇遇も偶然もあるか、やり手とは判っていたが、ここまでとは思わなかったよ」
辺りに散る仲間の死体と肉片を見回し、溜め息混じりにレギアスは言った。その言葉には、相手に対する賞賛よりも仲間の不甲斐なさの方が大きかったといえる。
「それで大将御自から来た訳か?それとも、もう兵隊が尽きたか?」
「正直そうだよ」
ウェイブの挑発的態度にレギアスは素直に応じ、乱雑に頭をかいた。
「まさか正面切って勝負を挑んでくるとは思わなかったし、経験の少ないこいつ等がここまで脆いとも思わなかった。何より、お前等の実力を甘く見過ぎていた。俺ですらそうなんだから、こいつ等はどれ程侮っていたことやら・・・・」
「努力も無しに得た力を過信した酬いだよ」
どの様な『力』であれ、先天的に備わっている物と後天的に得た物とでは、その性質は大きく異なる。例え肉体的変化による特殊な能力とはいえ後者の様に、これまでの人生で使ったことも無く、本来備わっていない能力であれば、その実態は「新しい武器」でしかない。
つまりは、慣れない限りは使いこなすことは不可能であり、行使できる力は本質の上辺だけなのである。
逆に言えば、突き詰めればどんな能力に発展するかも判らない可能性を秘めた存在。それがモンスターマスターであり、言うなれば彼等のほとんどは生まれ間もない子供なのである。
皮肉にもその事実は、当人達より敵対者であるウェイブ等の方が強く認識してしまう結果となり、事態の重要性を把握し迅速に行動した側に、勝利の女神は祝福を与えていたのだ。
「全くもってその通りだ」
レギアスは相手の言葉の意味を正確に理解していた。
「常日頃、強力なモンスターの襲撃に怯える生活を送っていた連中だからな。過分な力を得た反動で増長するんだろうな」
「あんたはどうなんだ?」
自覚がある以上、これまでの連中の様な慢心は無いだろうと察しながらもウェイブは問いかけた。
「俺か?俺は連中ほど楽観者のつもりはないさ。個人差が大きく生じて同じ能力を持つ者がほとんどいないモンスターマスター達の中で、俺はこいつ等にはない力があるから・・・と言って安心したりはしないさ。どんな能力も使い方次第。それを知ってたからこそ、お前等もこのタイミングで仕掛けてきたんだろ」
「いやいや、買いかぶりだよ」
こいつは己を知っているとウェイブは確信した。正直言って相手にしたくない類のモンスターマスターであった。人を越えている認識はあっても、油断をしてくれない相手・・・つまりは、これまでのような不意打戦法での勝機はほとんど無いといえる。
「謙遜するな。お前達は強い。強さを求める者にとっては妬ましいほどにな」
「!」
レギアスから殺気が放たれ、ウェイブとカレンが反射的に身構えた。
「そりゃ俺達も苦労して、努力して、頑張ったからな。こちらから見れば、労せず力を得られるモンスターマスターの技術のほうが羨ましいよ」
ウェイブは心にもない事を言って応じた。
「だから喧噪するな」
レギアスの殺気が更に膨れあがった。
「お前等は選ばれた者だろう?」
「!?」
「得ようとしても、努力だけでは決して得られず、俺達みたいに呪術や技術を用いても会得が不可能な力・・・・闘気士としての力を持ってるじゃないか。お前のさっきの一撃・・・・あれ、気孔弾だろ?」
「へぇ、知ってるのか・・・・」
「ああ、理想的な万能戦士の技能。得て極めれば最強にも成り得る力・・・・だからこそ、お前達を倒す事で、俺も最強の存在になれるという確証を得たいんだよ!」
本音を露呈したレギアスは、抑えていた物を一気に解放したかのように二人に襲いかかった。
その姿は人のままであったが、両手の爪は鋭く伸び、獲物を貫こうと煌めいた。
「そんなのっ」
「譲ってやるからさ」
ウェイブとカレンは左右に散ってかわすと、レギアスは二つになった目標に対し、迷わず右方向、カレンに向かって方向転換した。
「恵んでもらった地位に何の意味がある!奪い取ってこその強者の座だ!」
「だからっ、自覚のない者を相手に自分の我を押しつけないでよ!」
カレンが六牙の杖に溜めていた魔法を解放して小さい竜巻を発生させてぶつけ、相手の接近を押し止めた。
「ちぃぃぃっ」
レギアスは足の指を鉤爪状に変化させて地面に食い込ませ、突風を堪えた。
そこへ、反対側にいたウェイブが風の影響が生じない角度に回り込み、身動きのままならない相手に向かって迫った。
二手に分かれ、狙われた側が相手を足止めし、もう一方が攻撃を仕掛ける。これはモンスターマスターに限らず、強敵を相手にした際の彼等の基本的戦闘パターンの一つである。特に今は、モンスターマスターとの闘いによって多用されている戦法でもあり、その甲斐あって連携タイミングは絶妙の域に達している。
しかし、そうした行動はレギアスの予想範囲を逸脱してはいなかった。
彼は風に抵抗しながら顔を傾け、不適な笑みをウェイブに向けると、右腕をゆっくりと彼に差し向けた。
「!?」
意図は分からなかった。だが、向けられた腕が変化していた事だけは理解できた、肘から手首にかけて、腕に大きな腫瘍の様な膨らみが生じ、倍以上の太さになっていたのである。そしてその腫瘍らしき物体の先端に、噴射口らしき穴が生成されるのを見た時、ウェイブは攻撃を中止して反射的に身を翻していた。
その転身と同時に、腫瘍の噴射口から液体が放出され、寸前まで彼のいた空間を襲った。目標を外した液体は、そのまま地面に付着すると嫌な音と臭いを含んだ白い煙を発生させながら地の一部を穿っていった。
「溶解液!?」
「厳密には消化酵素さ」
ウェイブの判断を一部補足したレギアスが、もう一方の腕をカレンに向けた。魔法の風はまだ持続しており、同様の液体噴射は自滅に繋がる事は、その場の誰もが理解している事である。それ故、別の何かを企んでいると察したカレンは、新たな魔法詠唱を始めたが、それより早く突きつけられていた相手の掌に魚眼の様な物体が現れ、彼女は明確な危機を感じた。
「ミファァ!!」
扱いに関しては声にする必要も無いのだが、切迫した危機感に思わずカレンは叫び、それに込められた意思に従うまでもなく、主に迫る危機を察していた魔鎧ミファールは、適切に対応を開始し、不必要に大きい肩パーツを移動させて前面に対する防御を行った。
本能的直感は正しかった。レギアスの掌から熱線が放たれカレンを直撃した。正確にはミファールに命中したのだが、防御に集中したそれは、人間サイズの生物であれば瞬時に灰になっていただろう熱量を秘めた光を受け止めて弾き、本来致命傷となるはずだった攻撃を無に帰した。
だがミファールも無傷では済まなかった。並の魔法攻撃を遙かに上回る熱量が、受け止めた肩パーツの一部を融解させていたのである。そして熱線が焼いた空気はカレンにも到達し、肺も焼きそうな熱気に彼女は喘いだ。
「カレン退けぇ!」
ウェイブが懐に隠し持つ投擲用ニードルを六本手にして纏め投げする。
「こいつは根本的に他のマスター連中とは違う」
必要最低限の部位にのみ力を発現させるその現象は、これまで敵対した相手には見られないものであった。それ故、ベースとなるモンスターが何かをまるで見抜けない状況は、否応なしに自分達の不利を認めざると得なかった。
「今頃わかったのかよっ!」
飛来するニードル全てを腕を振るって叩き落とすレギアスの腕は硬質化していたが、目的を達した直後、三日月状の刃を生成させて第二撃と迫っていたウェイブの剣撃を受け止めた。
「お前っ!本当にモンスターマスターかよ」
腕から生じたチキン質の刃が押し切れないだろう事を手応えで察したウェイブは、それ以上無駄な鍔迫り合いを行わず、必要以上相手に近づく事を嫌って間合いをとった。
「何を言ってやがる、お前達にモンスターマスターが理解できてるのかよ?俺の・・・これこそが本来の姿!あるべき形なんだよ!!」
叫んだレギアスが、手の甲を相手に見せるようにして拳を合わせるような構えをとると、腕に先程の熱戦放射器官である魚眼状物体が浮き上がるように姿を現した。
「!?」
それは、掌に現れたそれとは二回り以上も小さいものであったが、それが腕一面、肩口や首にも浮き上がっていたのである。
「なにぃ!!」
それが何を意味するか容易に想像できたウェイブは躊躇わず後退し、カレンと合流した。
「カレン、分が悪すぎる。退くぞ!異論ないよな?」
「あるわけ無いでしょ」
「はっ!そう容易く見逃すかよ」
レギアスの魚眼が閃いた。衣服に隠れた腹部や脚部にも放射器官が生成されていたらしく、全身から一斉に熱線が放たれ、衣服を焼き、たちまち身体は炎に包まれたが、彼はそんな事は意に介さず熱線を放ち続ける。
「もちろん、そうそう楽に逃がしてもらえるなんて思ってないわよ」
辺り一面に熱線が降り注ぐ中、身を低くしながらカレンが叫ぶ。ウェイブはそんな彼女の前面に立って両手の剣に気を込めつつ、命中コースで迫る熱線をその剣で受け止め捌いていく。
こうして彼が作った僅かな時間を利用してカレンは魔法を詠唱し、氷の矢を幾本も放つ。それらはレギアスの行為を意識してか、彼同様に方々に放っていた。
「何の真似だ?今更その程度の物が俺に通じるとでも・・・・」
熱線の一斉放射時はレギアスにも細かい狙いがつけられなかったが、飛来する氷の矢をいちいち迎撃する必要もないと判断した彼は、今の体制を崩そうとはしなかった。むしろ、そう差し向けて注意をそらし、その隙に逃げようとしているのだと考え、逆に砲撃のピッチをアップさせた。
彼の読みは一部において正しかったが、読み間違えた部分がその場を大きく支配することとなる。
「!?」
熱線同様、方々に放たれた氷の矢の幾つかが熱線に射抜かれ、瞬時に融解・気化した。それは瞬く間に水蒸気の煙となって辺りに広がりを見せ、霧のように視界を遮り始める。
この時、ようやくにしてレギアスは彼女の意図を察して熱線の放出を停止させたが、既にかなりの数の氷の矢が熱線に射抜かれ、また自らコースを修正して熱線に飛び込み、水蒸気の煙と化していた。
「しまった・・・」
レギアスは完璧に視界を奪われ肝心の目標の姿も見失った。
彼は表皮を硬化させて警戒しながら先程まで二人がいたはずの場所まで歩み寄ったが、当然のごとくその姿も気配も消え去っていた。
「・・・・・くそっ!こんな子供騙しに・・・」
やはり手練れの相手は、自身の力を使いこなしている。水蒸気の煙幕が徐々に晴れるのを待ちながら、彼は簡単に事が進まないのを改めて実感した。
ウェイブとカレンは文字通り全力で戦場を離れていた。中途半端な逃亡や無策な迎撃は命を落としかねないと判断した二人は、今は一目散にレギアスとの距離と開ける事に専念した。
「やべ、やべぇ、創始者とかボスだから強いだろうと思ったが、予想以上に桁が違う」
「ええ、あるべき姿って言ってたけどあれが・・・・」
「モンスターマスターの実力か・・・他の連中とは違って、かなり真面目に鍛錬してたみたいだな。だが、あそこまで異質な力を使いこなせるものなのか?」
「鍛錬したからでしょ。必要な能力を必要部位にのみ発現・・・・そうとう器用よね」
「何にしても、他の連中みたいに、ただの『知性あるモンスター』と見る訳にはいかないよな」
「そうね・・・・で、どうするの?彼を呼び込んだ以上、陽動は成功していると思うけど、ここから先、簡単には行かないのは確かよ。下手すると、こっちが封じ込めにあっちゃうわ」
「ああ、判ってる。だから少しプランを修正して、当初の計画案を再検討しようと思うんだけど」
「何?当初の案?」
「あいつに言われて、こっちも相手の事を把握してきっていないってのを痛感させられた。例のモンスターマスター発端の地に行って連中に関する手がかりを探す」
「探すって・・・遺跡のことよね?あそこに手がかりがあるって確証も無いじゃない」
「ああ、でも、他に思いつかない。モンスターマスター狩りもこれからは楽に行かないだろうし、少し行動パターンを変えないと確実に行き詰まる」
「・・・そうかもね。転機がそこにあればいいけど」
「それは現地に着いてからだ」
モンスターマスター発祥の地。資料文献の見つかった遺跡・・・・は、隠されたものでもなく、過去に発掘作業が行われた際に周囲の木々が伐採された事もあり、手書きの大雑把な地図だけでも比較的容易に発見する事ができた。
その上、相手には重要視されていないのか、あるいはここに敵対者が来ることなど想定されていないのか、そこを警備する者の姿もなかった。
「・・・・結構簡単に辿り着いたけど、罠じゃないでしょうね?」
逃亡からここまで、敵と一度も遭遇しなかった事を作意による結果と勘ぐったカレンは、遺跡の入り口で中を覗き込み、入るのを躊躇した。
「それを俺に聞くかい?行って確かめるしかないじゃないか」
気楽に言って遺跡に入るウェイブも警戒心は抱いているようで、モンスターの気配すらないこの場所で、剣を抜き放って臨戦態勢をとっていた。
人の手による発掘が行われた遺跡とはいえ、外壁で守られた街とは異なり樹海内で開放状態となっているそこは、モンスターマスター達の本拠となっていなくても、天然のモンスターの巣となっている可能性があり、油断することができなかったが、発掘済みの遺跡故に中は予想以上に整備されており、モンスターの痕跡もまるでない状態となっていた。そうした状況を入って早々に察したウェイブは、若干緊張を解き、いつもの調子で周囲の確認を行い始める。
「カレン、当たりだ」
入ってそれほど見回ったわけでもなく、また物的証拠が見つかったわけでもないのに断言するウェイブ。その根拠が判らなかった彼女は不審そうな表情を向けて無言のまま疑問を投げかけた。
「ここがモンスターの巣になってるなら、糞や爪痕といった縄張りの目印がつけられているもんだけど、それがない。つまりは、そんな事をしない者がここに居座っているって事さ。もちろんそれは、人間じゃない。人間なら、入り口に頑丈な門でも作ってモンスターの襲撃に備えるはずだけど、それすらない。つまり、襲撃されても確実に撃退できる自信がある連中が使ってるってことだ」
「本当?・・・・・推測第二案とかはない?」
彼女の中には、廃棄されて間がないだけ・・・と言う仮説もあったため、彼の確証めいた発現に少なからず疑問を抱いていた。
「少なくても定期的に人が使っている可能性は高いよ。でなければとっくに巣穴になってるって。それに、もともとここは調べるつもりだったんだから、誰が主でも良いじゃないか」
「良くないわよ。連中が主で、戻ってきたらどうするのよ?」
「だから、そうなる前に調べて、必要なら潰して逃げるんだよ。それが基本方針だったろ?」
そう言ってウェイブはカレンの手を掴んで強引に中に引き連れた。
強引な論法と行動であったが、根本的に間違いでは無かったためカレンもそれに従うことにして彼に従った。
状況的に時間は少ないものと彼等は自覚しいるため、その行動は手早い物だった。本来、遺跡の捜索に関しては罠や自然崩落を考慮し、慎重に行動すべき所であったのだが、そうした諸事情にも圧され、素人さながらのペースで進んでいた。
迂闊極まりない行動ではあったが、結果的にはウェイブの読みが正しい事が証明され、二人は何事もなく深部へと進むことが出来た。
特に奥に進むにつれ、判別用と思われるしるしや、人が何往復もしたために床の埃の積もり方に差が生じ、ちょっとした道しるべが構成され、捜索を容易にしていたのである。
こうして効率よく各部屋を巡り回った二人は、十数回目に到達した部屋を覗き見て『ゴール』を直感した。
「一時の闇を払う光よ、我等を照らせ・・・」
薄暗い部屋の中、カレンが魔法を唱え部屋の天井一帯に光を灯し、その全体像が明らかとなる。
そこは誰が見ても研究室であった。整然と並んだ棚に、医薬品と思わしき瓶と本が並び、幾つかあるテーブル状の台座にも本・瓶・機材が散乱し、典型的な学者系の部屋を構築していた。
誰かが何かを研究している部屋としては、まさに万人がイメージするであろう環境がそろっていたが、ただ一つ、意味不明な設備がそこには備えられていた。
それは、僅かに発光する液体の満たされた装飾も何もない水槽で、大型の人型モンスター用の浴槽とも思える無機質な設備であったが、二人は意見を交えないまでも、これがモンスターマスターに関連した設備だろう事を直感した。
「な、当たりだったろ」
「みたいね。とりあえず、レギアスの秘密か何か、手がかりがあるか調べましょ」
「そうしましょ、そうしましょ」
目の前には資料や手がかりの山が積み上げられており、目的の物は簡単に入手できる物と思われたが、その目論見はすぐに頓挫することとなる。
資料の数があまりにも多く、内容も基礎学的な物や根本的に違う研究と思わしき物といったものが混在し、整理が成されていなかったため、当事者でなければどこに何があるか判らない状況となっていたのである。公共施設とは無縁の、自分以外が利用することなど考えもしない場所故の現象であり、個人研究施設では当然とも言える状態であったが、これは捜索者側には障害でしかない。
その上、内容が専門的すぎたり発掘された古文書のままで、翻訳も成されていなかったりで、目的のものかどうかも判別できないのが多数あったのである。
「くぁ~~~~~ぬかった・・・・こういう問題があったか・・・」
意味不明な文字が満載された本に埋もれたウェイブが、嘆いて手にした本を投げ捨てた。
「ホント、これを理解できたなんて、セイムとか言う人、凄い人だったのね」
魔法を学んだカレンにも古代文字に対する知識が多少はあった。だが、彼女が今現在直面している文字は、かじった程度の知識では歯が立たないレベルであることを思い知らしめていた。
「くそっ、後々の為に判りやすくまとめておけよなぁ!」
一方的な理屈を述べてウェイブが本の山にもたれかかって、文献の理解を断念する。
一つの目論見が潰え、独自にレギアスに対抗する手を考える必要性に迫られたウェイブは、ぼんやりと光る天井を見上げたまま思案にふける。
「?」
その姿勢故であったが、彼の身体は石床を通じて伝わる僅かな振動を偶然にも察知した。
「カレン、鎧で探ってくれないか?」
「え、何を?」
唐突な依頼に、カレンはその意味を理解できず思わず問い返していた。
「何か遺跡内にいないか?」
自分の僅かな感覚より遙かに優れたミファールの能力を頼っての事であり、確証を得たかったのである。
「ちょっと待って・・・」
促され、カレンはミファールに意識を傾けた。ミファールの感知能力は生粋の悪魔達に比べれば格段に劣るものの、野の獣には負けない感覚は有している。だがそれはそうした指示が無ければ発揮されず、通常時においては人間の達人クラスほどの感覚しかなく、その調子も、環境や鎧の体調に左右される。
以前、水場で潜むレギアスに対してミファールが警戒心を抱けたのも、相手の存在が強かった為であり、彼が少し殺気を抑えるなどしていれば感知できなかった可能性もあったのである。
改めて僕の感知力を上げて捜索した彼女は、程なくして遺跡内、比較的自分達の近くで動き回る存在を察知した。
「何かいるわ・・・確かに」
「何か判るか?」
「いいえ・・・でも、真っ直ぐこちらには来てないわ。あちこち不規則にうろついてる。野良モンスターかもしれないけど・・・・一体ではないわ。少なくても二体・・・・」
「マスター連中が俺達を探している可能性もある・・・か」
「そうね。どうする?」
「この状況じゃ、もう待ち伏せしかないだろ。灯りを消してくれ」
ウェイブの提案に不満の無かったカレンは無言で頷いて、天井で輝いていた魔法の灯りを強制解除し、物陰に潜んだ。
不意打ちを行うためには、自分達が部屋の暗さに慣れていなければならないため、早々に灯りを消し、目が慣れるための時間を確保したのである。
ウェイブは剣を抜き、カレンも六牙の杖を手槍として用いる用意をした。魔法の溜めを行うと、少なからず発光現象を生じ、闇に潜むのに不向きであるがための対応であった。
闇と静寂に包まれた研究室で静かに時は流れ、二人の目が徐々に慣れてくると、それに合わせたかの様に明確な足音が鼓膜に届き、その音は徐々に近づいて来る。
それはカレンが感じたように、明確にここを目指しているわけでなく、時折、立ち止まっているのか一定のペースを維持していなかったが、徐々にそして着実に実験室に近づきつつあった。
道なりに各部屋を確認していると考えれば、その不規則性に合点がいき、モンスターの徘徊の線は薄れていった。
何にしてもタールとセルシオがここに来る可能性があるはずもなく、研究室の扉が開いた瞬間、攻撃を仕掛けて良い状況は二人にとっては気楽であった。
危惧するのは、相手がレギアスであった場合である。彼との遭遇戦は正直避けたいところであり、ここで出くわした場合、逃亡できる可能性は極端に低くなり、また、これから行う予定の奇襲で仕留められるとも思えない。
意見交換が無くとも、同じ事を考えていた二人は、手に汗握りながら、事態が最悪にならないよう祈りつつその時が訪れるのを待つ。
運命の瞬間は、緊張感の持続できる間に訪れた。
自分達が入ってきた扉の向こうに明確な気配を察した瞬間、二人は身構え、それが開かれると同時に脚に力を込め、その何者かが入ってきた瞬間、突進を開始する。
「「!?」」
入室した二つの人影が、動揺するのを見て不意打ちは成功したとウェイブは察する。だが、急速に間合いが縮まり、徐々にはっきりする相手の姿を把握すると、彼も動揺した。
何故?
どうして?
という基本的な疑問が彼の脳裏に瞬く間に溢れたが、理性はそれどころではないと現状回避を最優先させた。
「カレン、止めろ!」
相方の制動の有無を確認している暇もなかったウェイブは、攻撃中止を叫ぶと同時に彼女側の方の腕を、円を描くように振るうと、その手にしていた剣先で、突き立てられていたカレンの六牙の杖の切っ先を払った。
「え??」
ウェイブの制止は聞こえた。その言葉の意味も理解できた。だが彼女が行動を起こすより早く杖の先が正面から下方へと流され、床に接っすると、次の瞬間には石畳の継ぎ目の出っ張りに引っかかった。
「あきゃぁぁぁ~~~」
進む勢いも殺せていなかったカレンは、予期しない杖の抵抗をもろに受けてつんのめり、バランスを崩して転がり、入ってきた二つの人影の小さい方を巻き込んだ。
「なぜ来た?」
自分が原因で派手に転倒したカレンを後目に、ウェイブはもう一方の人影に向かって問いかけた。
「お前達の行動が心配だったんだ」
「心配性だな」
戦闘形態に変化していた左腕を通常の状態に戻してラーディが答えると、ウェイブはその内容に思わず苦笑した。
「そうじゃない」
相手の勘違いを察したラーディが力強く否定した。
「あんな大騒ぎを起こす行為そのものを心配したんだ。何を考えている?あれ程の事を起こす必要性があったのか?」
「あ~・・・あったと言えばあったんだが・・・・」
他人に改めて問われると、その正当性に疑問を生じさせるウェイブ。事の推移を話せば同意を得られるだろうが、振り返って見れば調子に乗ってしまった感も否めない。
「ちょっと、お二人さん・・・」
語り合う二人にカレンの声が投げかけられ、二人の視線が同時にそちらへと向けられる。
「そうした話の前に、こっちを助けてよ・・・」
そこには、サナと衝突して巻き込むように転倒した挙げ句、自分の鎧の必要以上に大きいパーツとサナの身体によって、こんがらがって立ち上がることも出来なくなっていたカレンがいた。
「・・・・」
緊張感が一気に抜けるその光景を目の当たりにした男二人は、揃って苦笑して、二人を助け起こし、あらためて研究室に招き入れた。
「それにしても、よく俺達の居場所が判ったな」
適当なテーブルに腰かけ、ウェイブがその事実に感心した。囮として必要以上に戦闘を繰り替えしていた二人は、その性質上一定の場所に居座り続けることは不利になるため、頻繁な移動を繰り返していた。探して簡単に見つかるはずもなく、サナという非戦闘員をつれたラーディが、何の手傷も負っていない事から、敵及び敵性生物にも遭遇する事なく、自分達をほぼダイレクトに見つけたことが察せられたのである。
「判るも何も、ここが当初の目的地だったんだろ?」
彼等の事情を知らないラーディが、意外そうに問い返した。そう、こちらの二人は、ウェイブ達の状況の変化をしらないまま、当初の目的地であったここに訪れただけだったのである。
「あ・・・そういう事か・・・」
この接触が、幸運な偶然である事をウェイブが察した。
「やっぱりここはセイム達の本拠だったのか?だから、相手を誘い込むためにあんな騒動を起こして、ここの守りを・・・」
「あ~半分ほど正解かな・・」
自分の推測を語るラーディを自分の言葉で制止させたウェイブは、事の次第を説明しだした。
「確かにここは連中に使用されていたけど、連中も所用でここを空き家にしていたようなんだ・・・」
「所用?」
「ああ、その妨害のために俺達とタール達とで別れて行動して、こっちが揺動兼戦力削り、タールが本命って寸法だ」
「その所用って何?」
モンスターマスター達が集団行動を行うほどの行為である。サナでなくとも興味を抱くであろう。
「ドラゴンを見つけたそうだよ。それを狙って連中は今、全員動いてる」
世間話の場であれば勿体つけるだろうネタを、ウェイブはこれ以上ないくらい率直に述べると、二人は案の定、驚きと疑惑の入り混じった表情となった。
「ドっ!??ドラゴン!!」
「本当にいるのか!?」
「そうらしい。俺達も疑ったが、事実いるそうだ。それで連中としては、是非とも加えたいモンスターらしくて、戦力を総動員している。で、こっちもその企みを知ったからには邪魔しようと考えて、タールがドラゴンのところへ、俺達が囮になって注意を引き付けていた」
たぶん自分達も最初はあんな顔をしたのだろうと思いつつ、ウェイブは説明を続けた。
「あの騒ぎがそうか?」
「ああ、ドラゴン相手でも重労働になるタールの負担を軽減させたいからな、ハデにやったつもりだが・・・・」
「つもりぃ!?」
そのあまりに控え目すぎる表現にサナは思わず怒鳴った。
「貴方達、あれが派手な行動に該当してないとでも思ったの?あんな騒ぎ、街の有史以来の出来事よ!樹海ごと彼等を焼き払おうと考えだしたのかと思ったわよ!!」
「ああ、そういう手もあったな」
被害さえ考慮しなければ有効だなと、ウェイブは本気で思った。
「やらないでよ!ここまでの惨状だけでも十分よ。囮にしたってもう少しやりようがあるんじゃない?」
「この樹海で静かな襲撃なんてしてたら、連中は仲間が襲われている事にも気づくのが遅れて、場合によってはタールの方に向かっちまうかもしれない。それに、ドラゴン相手なんて、連中だって初めてのはずだから、万全の体制で臨もうと考えて当然だろ。そこに、貴重な戦力を削ってまわる第三勢力が登場したらそれを手早く片付けたいと考えるはずだ」
「だからこそ、派手に闘って、可能な限り敵を倒して、さっさと移動する・・・・これを繰り返してタールの時間を稼いでいたのよ」
「・・・・それにしてもやり過ぎよ・・・」
ウェイブとカレンの説明で、状況・・・というより、彼等が事に至った思考は理解できた。実行された規模には同意しかねる部分がやはりあった。
「手加減して済ませられる相手じゃないだろ・・・」
「それじゃ何故、ここにいる?」
説明からすれば彼等は常に場所を変え、闘う必要性があった。にもかかわらずこの場にいる事実に疑問を感じたラーディが、その心中を隠さず問うた。
「あ~・・・・それね・・・まぁ、当然の結果なんだけどね、ついさっきレギアスに遭遇してね・・・」
「!?」
意外な言葉にサナ達が思わず顔を見合わせた。
「あいつ、他の連中とケタが違うよ。別の化物と言っても良いくらいだ・・・」
「闘ったのか?」
「ええ、今までのモンスターマスターのつもりで闘っていたら駄目だってのが判ったから・・・・」
「尻尾巻いて逃げだしたって訳だ。で、ここにモンスターマスターの・・・正直言えばレギアスの情報か手がかりがないかを求めに来たわけだ」
「なるほどね・・・で、何か分かった?」
「セイム・・・だったか?ここの遺跡を解析した奴?そいつが天才だって事がはっきりとした」
「・・・・それだけ?」
「それ以上のことは俺とカレンの脳みそじゃ理解できん。サナかラーディは古代語読めたり、呪術・生物学は得意かい?」
そうした問いにラーディは素直に首を横に振り、サナはあからさまに不機嫌そうな顔をする。
「そんな、生活に関係のないもの理解できるわけないじゃない!」
「さいですか・・・・」
やはり資料から情報を得るのは不可能だなと、ウェイブは思う。
「それでこれからどうする?」
現状からすれば、ここにいる理由も既になく、至極当然の質問をラーディは行った。
「ここにいても情報は皆無。その上、連中が戻ってくる可能性もある・・・・となれば、さっさと抜け出すべきと思ってるけど」
「そうだろうな・・・・ところで・・・」
「ん?」
「手伝える事はないか?」
「何?手伝いって?」
「いや・・・このままお前達の結果を待つだけでは、どうしても納得できないというか、心苦しくてな・・・」
「ん~判らなくもないけど、色々な意味で闘えるのか?」
それは実戦経験以前に、同じ街の同胞を手にかける事が出来るのかを暗に問うていた。
「道を踏み外した奴は叩いて目を覚まさせる必要があるだろ」
ラーディは質問の意味を正確に受け取り、それに対する意思を示した。基本的な問題であるはずの、身体の能力差に関しては、人の身でありながら幾人ものモンスターマスターを倒している人物が目の前にいる以上、一部だけでもその能力が発現できる自分に出来ないことでは無いという思いがつのっていた。
「う~~~~ん・・・」
ウェイブは真剣に悩んだ。確かに戦力は少しでも欲しいところであったが、ラーディはともかく、サナがいてはどうしても足枷になってしまう恐れがある。だからといってここに彼女を置いて行く訳にもいかず、そうした話をどう切り出そうかと考えていた。
「何悩んでるのよ?手伝って貰えるなら、出来る範囲でやってもらったらいいじゃない」
「そうは言うが・・・・モンスターマスターが相手と考えると、無茶も言えないし・・・なぁ、カレンの魔法に、一時的にでも能力増加の出来るやつってないか?」
ほとんど他力本願の無い物ねだりの質問であった。少なくともウェイブ当人はそう思っていた。だが、その返答は意外なものであった。
「あるわよ」
「だよなぁ・・・・ご都合主義だよな・・・」
「・・・・聞いてた?あるって言ったのよ」
「なに?」
「あ・る・の!!呪術紋様による能力増加法ってのがね」
「・・・・良く判らんが、それ、今できるのか?」
「出来るわよ」
まるで片手間仕事とでも言うように、いとも簡単にカレンは答えた。
「ラーディ、サナ」
ウェイブが二人に視線を向けると、二人はその意味を悟った。
「構わないが・・・・」
「痛くないでしょうね?」
「ええ」
サナの心配している点に対し、カレンは自信を持って答える。
「カレン、やってくれるか」
「良いわよ。じゃ、手早くできるラーディから始めるわ」
「何で、ラーディは手早く・・なんだ?」
「個人的好み・・・ってのは冗談だけど、ラーディは既にモンスターマスターの呪術を施されたんでしょ?」
「ああ」
「だったら、他の呪術を上乗せしても、効果が望めない可能性があるの。出来るのはその呪術の増幅だけなんだけど、ラーディは左腕を戦闘形態に長時間維持できる?」
「ああ、それは問題ない」
「それじゃ、悪いけど戦闘形態にしてくれる」
「ああ」
応えてラーディは意識を集中し、左腕をカニのハサミに似た形状へと変化させた。
「これでいいか?」
「ええ、ちょっとそのままでいてね」
カレンは鎧の隠しポケットの一つから、小さな小瓶を取り出し栓を開くと、中の液体を静かに彼の腕に垂らすと、その滴を指先で引き延ばすようにして不可解な文字のような物を描いていく。
程なくして彼の「爪」全体に文字が書きなぞらえると、引き延ばされた滴が淡い光を放ち、消えると同時に文字も消失した。
「・・・・?」
「失敗か?」
「いいえ、成功よ。単純な強度は数倍になったはずだから、堅さに自信のある相手でもその爪で攻撃すれば、慢心をうち砕けるはず。あと、説明が難しいんだけど、別の紋様処置も成功したから、貴方が心に強く抱く力のイメージが、そのまま爪に繁栄されるはずだから」
「力?」
思いもよらない付与にラーディが当惑の声をもらす。
「ええ」
「具体的にはどんな力なんだ?」
「それは判らないわ。それを発現させるのは、貴方自身の意思だから、自分で理解するしかないわ」
「自分で・・・・?」
それは初心者に対してはあまりに抽象的すぎる説明であるといえる。が、カレンにしても先入観を抱かせないように、そう言うしかなかったのである。
「そ、自分で。ウェイブと軽く模擬戦でもしてみればいいじゃない。サナの処置には少し時間がかかるから、丁度良いでしょ?」
「サナには時間がかかるのか?」
「ええ、彼女は余計な呪術がかけられてないから、ちょっと時間をかけて凝った処置をしたいのよ。ほら、分かったらさっさと行く!」
男二人の背中を押しながら、カレンは言った。
「おいおい、急かすなよ・・・・」
「時間があまりないでしょ。サナの処置の間、練習と見張り!しといてよ」
「で、ついで言うと男子禁制か?」
「そう言う事」
ラーディに施した処置から察して確認を行ったウェイブに対して、カレンは意味深な笑顔で応じた。
「はいはい、判ったよ」
何となくカレンの企みを悟ったウェイブは、これ以上無意味な論議で時間を費やすのも得策でないと考え、効果が本物であればよしと妥協し、彼女に従うことにした。
「できるだけ手早くしてくれよ」
「わかってるわよ。ほら、さっさと行って!」
半ば強引に男二人を部屋から追い出し、更に扉に鍵をかけたカレンは、サナに向き直ると真顔になって一言いった。
「それじゃ、サナ、脱いで」
「ぬっ脱ぐの~?」
一瞬サナは耳を疑ったが、続く彼女の言葉がそれが聞き間違いでないことを証明した。
「貴女には全身処置を施すから・・・」
「ちょっ、何で?彼は左腕だけだったじゃない」
「だから言ったじゃない。彼は既に呪術がかかってるから効果が薄いって、反面貴女は無垢だから、やりがいがあるのよ」
「やりがいって・・・・」
「ほら、ウェイブ達も待たせてるんだから早く脱ぐ脱ぐ」
「いや、だから・・・」
「それとも、無理矢理が好きなのかなぁ~」
ほとんど親父モードに突入したカレンが、怪しい手つきをしながらサナににじり寄ると、身の危険を感じた彼女が後ずさりする。そうして一定の間合いが維持されていたが、後退一方の彼女はやがて行き止まりに追い込まれ、背後にそれ以上の逃げ場がないと目視した直後、カレンが襲いかかった。
鎧から幾つもの触手が放たれ瞬く間にサナを絡め取ると、床に大の字の形で固定してしまった。
今回は身体に紋様を施すという目的から、身動きされるのが好ましくなく、そうした意思を汲んで、触手は各関節にまとわりついて硬化し、がっしりと関節を固定していた。
「ほら、観念して大人しくなさい」
観念しなくても大人しくする以外ないサナは、カレンの妖しい笑みに、水場での一件を思い起こさずにはいられなかった。
「それじゃ、まずは腕からね」
おあつらえ向きに・・・サナには不運でしかなかったが、彼女はスパッツ状の履き物の上に、前の開いたミニスカートを腰に巻き、上は厚みはあるものの袖無しのシャツという軽装であった。
それを改めて見て嬉しそうに言いつつ、カレンが先程の瓶そして細筆を手にすると、筆を瓶にいれ、その毛先に液体を染み込ませた。
「ちょっとちょっと、何で毛筆なのよ!さっきは指だったじゃない~!」
「ラーディとサナでは紋様のパターンが違って、指じゃ無理なのよ」
言ってカレンは筆先を近づけ、彼女の右掌に円を描くと、それを中心に、魔法陣に似た紋様を細かく記し始めた。
「はふぅっ・・くひっ!」
右掌全体に筆先によるムズムズとした感覚が加えられ、サナが思わず息を乱す。
反射的に指が閉じそうになるが、ミファールの触手が各指先を捕らえている上に、手の甲も粘着性を発揮する触手に張り付き、震わせる以上の動きが出来ずにいた。
「ほらほら、じっとする」
出来ないと分かってカレンは言いつつも、その筆先を滑らせていく。
「う、うごけ・・・あうっ・・・・ふひっ・・・あっ・・・あ」
掌から指先・手首・下腕・肘裏・上腕と、反応を楽しむようにしてカレンが筆先を蠢かす度に、サナが堪えきれない呻き声をもらし、言いかけた抗議の声を詰まらせる。
右腕一本の処置が済む頃にはサナの呼吸はちょっとした運動後のように乱れていたが、それに構わず、カレンは左腕の処理に入る。
「うくくくっ・・・・はひっ・・・ふぁぁ・・・ぁぁ」
カレンは紋様を書き込みながらもサナの反応を確認し、好ましい反応があったポイントに対しては繰り返し筆を這わせるといった悪戯心を見せていた。
「はうぅっ・・・・・うひっぃ・・・・ふぁぁっくくく・・・・」
筆先による刺激は実に巧妙で、そのジワジワと広がりを見せる感覚に、サナはしゃっくりにも似た不規則な息づかいを繰り返しながら身悶える。
厳密には完全に近い拘束により、その動きが制されているため、激しい動きは見られなかったが、それがなければ彼女の身体は面白いほどに跳ねていたに違いない。
「それじゃ今度は・・・・・」
満面の笑みを浮かべたカレンが身体を下げてサナの視界から外れた。彼女は可能な限り首を傾けて相手の姿を追い、足下へと移動していたことを確認すると、それが意味する事態を想像し、表情を引きつらせた。
それはこうした事態に陥った時点で予期されていた状況ではあった。だだ、思うのと実際に直面するのとでは心の受け方が異なり、直前に迫った事態に大いに慌てた。
「ちょっとっ・・・待って」
「だ~め、時間が惜しいんだから」
「そ、そんなっ、少し休憩をっおひゃぁぁぁっっっ!!」
サナの懇願空しく、予期した通り靴と靴下が剥ぎ取られ、露出した足裏に筆先が襲いかかった。現実には予想以上のムズムズとしたくすぐったさが足裏を刺激し、その例えようもない感覚に彼女は思わず悲鳴を上げる。
「ほぁっ!ひはあっはははははは!うひひゃっははははははっはは!あぁぁぁ~~~~!!!」
どこまで信憑性と効果があるかははなはだ疑問が残るものの、儀式として行われている、この紋様の処置が行われている以上、身体の過度な動きはその妨げになる・・・と、理解しつつも、抑えきれない反応が彼女の身体、とりわけ足首より下を突き動かしたものの、それを心得ていたミファールは見事な展開を見せていた。
ミファールの触手はサナの足首をしっかりと固定しながら、それより下をゲル状に変質させて覆っていた。そして、筆先の近づいた部分のみを開けて筆の移動に従ってその開放部分を移動させていた。
これによって、本来なら筆で文字を書くことのままならない状態になる足の動きを完璧に制し、カレンは何の支障もなく筆先をつま先から土踏まず、そして踵へと移動させ、そのポイントの仕上げとばかりに足指の間にまで筆を差しのばした。
「ふぁぁぁっっっぁああああ!はひっぁっぁははっはははははははははあははははははあぁぁぁ!!!」
今まで全く経験の無かったポイントに対する刺激は、未知なる感覚となってサナを襲い、その感性を翻弄した。
「いきぃぁっっぁぁっははははははは!ひぁっっっはあはははは!はっはっはっっはぅぅっ!」
肉体的抵抗が不可能なサナは、必死に与えられる感覚に慣れようとするが、僅かながらの慣れが出来たかと思うと、筆先が別の位置へと移動し、また異なる感覚を生じさせ、そのいとまを与えなかった。
「はひっ・・・・くっ・・・ふっふっ・・はぁ・・ほ、ほんとに・・・ちょっと休憩をぉぉ~~~~~~きゅ、きゅうけぃぃぃ~~~~ひぃっぁぁぁぁはははははははは!!」
自力での脱出が不可能なサナは、ただただ笑い声をあげ、可能な限りの間隙を見つけては一時の休息を求めたが、それは全く聞き入れられず、悪戯心が大半を占める筆先は足裏の蹂躙を済ませ、足首より上方へと徐々に侵攻を開始しはじめ、また新たな感覚を送り始め、際限ないくすぐったさを持続し続ける。
「うぅっ・・・んん~~~~うっぅぅぅ~~~~~!!」
それでも最初は良かった。足首からすね辺りを筆が這っていた時は、そのくすぐったさが減少し、息を整える暇があった。
「!!!?ひゃぅっっ!??」
これならしばらくは我慢できると思ったのも束の間、そこから更に筆が進み、膝から膝裏へと移行した時、全く予期しなかった感覚が不意に駆けめぐり、サナは息を詰まらせた。
「あっ、ここも弱いんだ~」
その反応に責め側のカレンも意外そうな表情をしたが、すぐに新たな遊び場所を得た幼児のような笑みを浮かべると、発見したばかりの弱点に対し、念入りな紋様処置を施し始める。
「ほぉぁぁぁぁぁ!!ちょ、ちょとっと、ま、まって・・・ぅひゃぁぁぁぁん」
思い寄らなかった箇所の、思いも寄らない感覚に戸惑いを隠せなかったが、心の準備が整う間も与えられずに加えられた刺激に身を強ばらせた。
「んんん~~~~~~!!!」
ガクガクと膝を震わせるサナ。その様相はくすぐったさというより、心地よさに類する感覚を堪える様相が強く滲み出ており、未体験の感覚に彼女の心を戸惑わせる。
しかし、そうした本人の自覚しなかった性感帯に対する刺激による感覚も長くは続かない。膝裏の処置が済めば必然的に筆先は更なる上方を目指すことになり、そこは彼女も自覚する性感帯が存在する。
快楽を求める欲望が筆の到来を待ちわびる一方で、乱れる自分を恥じる理性がそれを堪えようと備える。
自己評価では拮抗していたと思っていた内心の表裏は、筆先が右太股の内側を撫でた瞬間、欲望が一気に増大するのを感じ、込み上げる声を抑えきる事が出来なかった。
「はぅっはぁぁぁぁ・・・ん」
初めて明確に出た艶のある声を耳にしたカレンは気を良くして太股に対する責め、もとい、紋様処理を入念に行った。
「ちょっとぁ、やだっっはぅん・・・ぅくくく・・・ふぅぁん・・・」
まともに身体を捩らせる事もままならず、なされるがままに刺激を送り込まれるサナは、不本意にもこぼれる声で自身の状況を語り続ける。
微妙な心地よさは筆先が太股の上方へと近づくにつれ、その度合いを高めて感性を刺激し、欲望を煽り始める。
それを言葉にすまいと彼女は堪えるが、身体・・・とりわけ筆から近い所にある股間周辺が、筆先の到来を待ちわび、肉体的反応を表し始めていた。
「んっ!!うぅんんんん~~~~~~~~~!!」
自分の本心を否定するかのように、サナが切なげな悲鳴を上げて首を震わせる。そうした現状を同姓のカレンが察しないわけもなく、彼女はそうした反応を楽しみながら、瓶の液体を筆に含ませては紋様を描く行為をジワジワと続ける。
やがて筆が太股の大半を這い終わると、その動きが一旦停止する。更に筆が進むのは明白であったが、その為には障害を除去する必要があった。着衣のスパッツ系の履き物である。
ここに来て今更言うまでもないが、この紋様処置は素肌に施す必要があり、着衣の上からの処置などありえない。その為には今ある衣服の除去が必要となるわけで、これがウェイブ達を追い出した本当の理由でもあった。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
筆を止めたカレンとサナの視線が合い、カレンがこれ以上ない意味深な笑みを浮かべると、サナは語られるまでもなくその企みを察した。
ここに来て拒絶の言葉も悲鳴もない。そうしたところで状況に変化が生じる見込みなど無いことを十分に理解しているためであり、彼女が出来るのは覚悟を決める事しかなかったのである。
僅かな間の後、カレンが動くと、サナは羞恥と僅かな期待感を抱いて身を強ばらせ、次に訪れるだろう刺激を待った。
だが、カレンが差しのばした手はスパッツではなく、上着の方へと伸びシャツを強引にまくり上げ、白く張りのある腹部を露出させた。
「!?」
「こっちは最後にしましょうね」
予想が外れた疑問が表情に出たのであろう。サナが問いかけるよりも先にカレンが結論を述べると、露わになった腹部の中央にある臍に筆先を突っ込み、コソコソと蠢かせた。
「!!!!~~~~~~~~くぁひゃっっははははははははははは!ああああ~っっっはははっはあはははははははあははあはははは!ほぁひゃははははあはははは!!」
それは僅かな出来事による産物だった。カレンのお預けを宣言されたサナは、心の奥底で期待していた刺激の延期を受けて僅かながら落胆した。その気の抜けた瞬間に臍への刺激を受け、その未体験ながらも激しいくすぐったさをまともに受けてしまったのである。
自分でも知らなかったくすぐったさの不意打ちに、サナはこれ以上ない笑い声を上げてしまい、それは今まで堪えていた心の防波堤をも打ち砕いた。
カレンは構わず筆先を動かし続け、腹部に対する刺激を続行する。そこから送り込まれるくすぐったさは抑えの効かなくなった身体を駆けめぐり、その感性を遠慮なく蹂躙した。
「ひはははっはははははははあ~~~~~っっはははっははははは!!ちょちょっっ~~~~っっほっっっはははははははははははあははは!」
一度決壊してしまっては、もう溢れる笑いを堪えることも出来ず、狂ったようにサナは笑い続け、カレンは容赦なく筆を操り続けた。腹部・脇腹・腰といったポイントでひとしきり楽しむ様子は、当初の目的が何なのかという疑問を抱かずにはおられず、受け側の方に至っては、何故こんな目に遭っているのかすら思い出すのも困難になっていた。
「くぁ~~~~っっっっはははははははは!あああぁぁぁぁ~~~~~っっっっへははははははははははは!いやぁっっいやっっはははっはははははっはははあはは!」
筆が動く度に新たな笑いが際限なく込み上げ、息が乱れて咽せても抑えられないまま、笑い悶えるサナ。強制的な笑い故に体力の消耗も急激であり、これ以上の消耗は好ましくないと感じた彼女は、現状から一刻も早く逃げ出したい一心で、止めるのとは異なる別の懇願を口にした。
「も、も、もぅっ、これ以上はだっめぇ~~~~~!!いぃっ、いっそひと思いにやってぇよぉ~~~!」
それは選択としては斬新とも言えないありきたりな物だった。だが彼女の状況からすれば、大きな過ちに類する発現であった。
処置が済んでいない身体の部位は、全体の割合から言って半分以下ではあった。愉しみ目的であれば残った部分をじっくり愉しむため、そうした懇願は却下されがちであるはずが、カレンは目を輝かせてそれを受け入れた。
「そうね。そうよね。そうしてあげる!!」
本当に嬉しそうに、そして訂正など受け付けないかのようにまくし立てると、カレンは再確認など一切行わずミファールに自分の意志を伝え、行動に移させた。
「ひゃん!?」
身体をがっしりと拘束した粘着触手がいきなり動き出し、サナは小さな悲鳴を上げた。
ミファールは起用に蠢いて彼女の着衣を剥ぎ取ると、既に紋様処置が済んだ四肢を完璧に包み、仰け反らせるような体勢で固定した。
まだ筆の洗礼を受けていない胸部と背中にはミファールの付着は一片もなく、半ば関節を極める形での拘束となっていた。もちろん、苦痛を与えないように配慮はされているが、サナはこれから起こる事態を悟って青ざめていた。
「それじゃ、ご希望に応じて・・・・」
カレンの手には筆。これは当然のことで理解できた。だが、もう一方の手にある瓶に、ミファールの触手が何本も先端を突っ込み、液を含ませた先端を彼女の身体に向けていたのである。
「ちょっ・・・・まさか・・・」
「ふふふ・・・どう?これだけの数で一気にやっちゃえば、すぐに終わるわよ」
「ひぃぃぃ~~~~ん!!」
予想通りの悲劇にサナが悲鳴をあげた。確かに理屈はそうである。一本より二本。二本より十本。扱うのがカレンの意思で動くのであれば間違いはないだろうが、その際『受刑者』の受ける刺激もそれに比例するのである。
ここに至るまでにも疲労困憊となってしまっている中で、十を越える刺激に耐えられるかと言えば、答えは聞くまでもないだろう。
「そ、それはいくらなんでもっ、もっ、もぉぉぉ~~~~~~~~~~~!!」
サナの抗議は一切聞き入れられなかった。そうした異議申し立てをしようとする最中、周囲の触手が先端を筆状に変形させて、一斉に彼女の身体に群がって紋様を描き始めたのである。
それはカレンの意思によるが故に、彼女の動きと遜色はなく、目を閉じればカレンがいきなり十人以上に増えたと錯覚するほどの正確さで蠢いていた。
「はっはぁぁぁ~~~~~~~~!!!!」
もちろん、悪戯心も忠実に再現されており、背筋・首筋・胸回りといった要所は的確にそして別の意味で丹念に施行され、いきなり十倍以上になった感覚に、彼女は声にならない悲鳴を上げて身を震わせた。
「どう、これならすぐに終われるわよ~」
「ぃひぃぃぃ~~~~~~~!!!!!はぁっっぅうう~~~~」
サナは笑いの勢いが躓き、停滞したかのように引きつった状況のまま身悶え、もはや抗議も返事もできないでいた。
「最初からこうしてたら良かったわね」
これまでと比べ物にならないペースで進む処置に、カレンは本気でそう思う。やがて一通り紋様処置が終わろうという所で、身を乗り出し彼女ににじり寄った。
「さ、あと少しだからね~」
汗と涙と涎が入り交じり、上気した表情のサナに彼女にとっての吉報を伝えるカレン。だが、報告を受けたサナは、相手の笑みに不信感を抱き、その言葉の意味を朦朧としかける意識の中で考えた。
(あと少しで終わり・・・・・)
(もうすぐこの紋様処理と言う口実の筆責めが終わる・・・・)
(あと少しで・・・・)
(もうすぐ・・・)
(残った僅かな部分が済めば終わる・・・・)
(残った・・・・)
(僅かな部分!?)
ここでサナは気づいた。
この『あと少し』の意味を。
「それじゃ、一気に行くわね~~~~」
気づくタイミングを見計らっていたかの様にカレンが言ったかと思うと、ミファールの触手が彼女のブラの中に潜り込み、カレンの両手がスパッツの両端に差し伸べられた。
「いっ!いやぁぁっっああああああ!!!!!!!!!!」
サナのこれ以上ない羞恥の悲鳴は幾つもの石壁を通過し、室外に出て見張りに立っていたウェイブ達の所にまで届き、男の妄想心を煽ったという。