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2012/12/21(金)に投稿された記事
第2部 序章-1 集う怨念
投稿日時:13:27:28|コメント:1件|》本文を開閉
ディレクトリ:くすぐりの塔AF -魔王の後継者達-
・・・ここの所、更新が滞ってまして、ごめんなさい。
実はこの作品も11月に送ってもらっていたのに、俺が
どことも判らない幻想的な空間に、苦しげながらも艶やかな女性の笑い声が響き渡っていた。
そこには最低限としか言い様のない着衣しか身にまとっていない大勢の女性達が、あらゆる手法で自由を奪われ、二人の男に弄ばれていた。
一人はウェイブ。そしてもう一人はタールである。
二人は拘束され、一列に並べられた女の一人一人の前に屈み込み、無防備に晒された肢体に遠慮なく指を這わせていた。
「いっ、いや、いやはぁはははははははあははははは!いやぁっ~~ははははははははは!やめてぇぇ~~ひぁっっはははははははは!」
ウェイブの前にいる女性は斜めになった台座に両手両足を肩幅の倍ほどの位置で固定され、腹部を突き出す格好で拘束されていた。当人が望まなくとも、それはあたかも、くすぐられる事を求めているかの様な格好であり、その無抵抗な腹部や腰に、彼の指が襲いかかっていた。
「いひっ、はぁっはははははははははは!あぁはははははははは!だめっだっぁっははははははははははは!」
腹部を指先で撫で、腰を揉み回す都度、女は激しい笑い声をあげ身を震わせ、指先からの刺激から逃れようとする。だが、腹を突き出した姿勢は身体の動きを厳しく制限し、激しく身を捩る事さえ困難にしていた。
「ひひひはははははは、ああっひゃはははあはははあははははははっははあははは!!」
ウェイブは無言のまま指を動かしつつ、女の反応を観察した。
「や~~~っっははははは!ひっひっひっ・・・・・・あぁ~~~もういぃ、もうやぁ~~~っっっはっっはっはははははははははは!もうやらぁ~~~ひははっっはははは!」
彼は至る所に指を這わせ、その反応を確かめつつ弱点となるポイントを把握していきつつ、不規則なタイミングでポイントポイントを的確かつ微妙な力加減でくすぐり続ける。
「いやっ・・・・うくっ・・・ふひゃっ、あひっ・・・・くくくく・・・・」
時には強く、そして急に弱くなるタッチに、女は身を震わせて笑いを堪えるが、それが出来るのも加減されている時だけであり、ひとたび指に力が戻ると、彼女は悲鳴のような笑い声をあげて不自由な体をガクガクと震わせ身悶える。
「あぁ~~~!!!っっははははははははははは!あははははは!やぁ~~~あぁぁっっはははははは!やぁっっはははははは!ああああっっっぁぁ~~~~」
狂ったように笑う女を前に、ウェイブは慈悲の欠片も見せず、反応の良いポイントを刺激し続ける。
特に内股と脇の下の少し下、乳房の真横辺りを擦るように責めるとその反応は一際だった。
「ひやっぁ!あぁっ!あ~~~~~~~~~~っっっははははっはははははは!!!あ~~~~っっっはははははは!あぁ~~~~!!!!」
まるで声の力で相手の指が押し戻せると思っているかのような大声で女は笑い続け、凄まじいくすぐったさを生じさせているポイントから指を遠ざけようと身を揺するが、拘束された身体の抵抗は微々たるもので、一秒の安息も得られないのが実状であった。
にもかかわらず、彼女が無駄な運動を続けるのも、ひとえに身体を駆けめぐるくすぐったさが到底耐えきれるものでは無い為である。
「ぁ~~~~~~!!あぁ~~~~~!あぁ~~~っはっっははははあははははははっ!わぁっっははははは、いやぁっはははっ!あああ~~、も、もぅ、もうおわりぃひゃっっはははははは!やぁめへぇへへ~~~~!」
「降参なのかな?」
激しい笑いの中に含まれる懇願を察し、ここに来て初めてウェイブが女に問いかけた。
「そっ・・そぅ、そふぉふぉふぉふぉぁっっはははははは!!」
女は肯定しようとしたが、それをこみ上げる笑いが邪魔をし、首を縦に振るのが精一杯だった。彼は問いかけたにも関わらず、意地悪くくすぐりの手を止めていなかったのである。
「こ、こぉふぁ・・・こうっはっっははははは!」
「何言ってるか意味不明だね~」
ウェイブは女が意思表示しようとする都度、指先を巧みに動かして耐え難い刺激を与え、その言葉が口から発せられるのを邪魔し続ける。
そのあまりにも耐え難いくすぐったさに対し、女はただひたすら笑い首を左右に振り乱す事しか出来ずにいた。
「こぅっ、こうっこっ、こうさん。こうさぁぁぁんいやぁ~~~っっっはははっははははははははは!」
それでも息が止まるかの様な思いでようやくにして彼女はその意志を示したが、それでも尚、身体を貫くようなくすぐったさは止まることは無かった。
「いやぁっははははははははは!あ~っっははははははやっっはははっははは!なんでぇ、なんでっひゃっっははははは、も、もぅやめてへへへへぇぇ~~~~!」
来るはずの安息が未だ到来せず、女は止めようのない笑いに放浪され続ける。
「降参宣言後、五分間ラストスパートだよ」
彼女の聞かされていない一方的なルールをウェイブが宣言する。
「そんあぁっっはっははははははは、いやっっっははははははっ!うそ、うそ、うそぉぉ~~~~~~!!!」
笑い悶え抗議する彼女であったが、どんなに口で抗議しようとも、彼の手が身体から放れる事はない。
宣言通り、否、それよりも更に二分ほど長く面白いように反応する女体をくすぐった後、ようやくにしてウェイブがその手を離すと、女はがくりと項垂れ、ただ懸命に呼吸をするだけに終始した。
「よし、また一人陥落っと、タールこっちは五人目終わったぞ~」
「いちいち報告するな、こっちはじっくり楽しんでるんだ!」
ウェイブの結果報告にタールは見向きもしなかった。彼の眼前には両手を後ろ手に、足を揃えて縛られ芋虫同然の状態になった女性が横たわっていた。
そんな、抵抗も逃げることもままならない彼女の身体に、タールは手にした羽を用いてくすぐり責めたてていた。
何しろ彼は身体が大きい。当然ながら指も太いわけであり、かなりのサイズの女性でなければポイントを突くと言うような器用な責めが出来ないため、こうした道具を用いる事の方が多い。
彼は右手に一本の羽箒を持ち、左手には各指と指の間に何本もの羽を挟み込むようにして持ち、ちょっとした羽ブラシ状態を形成させていた。
「ひゃっ・・・あっ・・・はひっ・・・ぅ・・あっ・・・あっ・・・くふっ」
彼女もどこかの酒場の踊り子の様な最低限の着衣しか身に纏っておらず、肌を惜しげもなく露出していた。そんな若々しい肌に、タールは羽の先を執拗に這わせ、その反応を楽しんでいた。
「ちょっ・・・・ひひゃく・・ぅはぁ、ぁ・・」
羽の触れるか触れないかのタッチは、言葉で表すのが難しい微妙な感覚となって彼女の神経を駆けめぐる。
羽先がスッと腹や腰、太股、布地に覆われた胸の先端などのポイントを不規則に通過する度に女はしゃっくりのような小さな声と共に、その身をピクッピクッと反応させ、責め手の目を楽しませる。
「あっ・・・んはっ・・くぁ、ぁ、ぁぁぁ、あはっはははははははは!助けてぇっっはっっははは!おねがぁい~~~~!」
そうした中、羽が下腹部と脇腹辺りを集中して往復しだすと、くすぐったさはあっと言う間に彼女の許容量を超え、耐えきれなくなった口から笑い声を絞り出す。
「んぁっはははははははっ!きゃっっはははは!ちょっ、あっ、あっはははははははは!あはっ、あはっ、あっっっははははははははは!くっ、あぁぁ、あっっはははははは!!」
女は身を捩り、くねらせ羽の刺激から逃れようと藻掻くが、手足の自由のない芋虫状態では逃げおおせるはずもなく、身を捻ってその場を凌いでも、別のポイントに羽が触れ、また異なるくすぐったさを生み出していく。
右に左に、時には転がるようにくすぐり責めからの脱出を試みても、羽はどこまでも追いすがって彼女の肌をはい回る。
「おねがい、おねがいっ!ちょっと、そこっ、ダメ!駄目なの!いやはははははははははははははははは!!」
無秩序に這い回っていた羽が、激しく身悶えて傾いた背筋を撫でた時、女は一際良い笑い声をあげた。本人すら自覚していなかった箇所への特別な刺激。一瞬の事であったが思いも寄らない感覚を味わい、彼女は慈悲を求めたが、それは逆に責め側を煽る反応でしかなかった。
タールは邪悪な笑みを浮かべて彼女の身体を俯せにすると、尻の割れ目から縛られた手でガードされていない背筋部分を何度も羽で往復した。
「あ!あぁ!あぁっ、ああぁ~~~~~~っっっははは、あはははあはは、あはっ!ほんとっ、ホントにやめっやっ、あはははははははは!ちょっ、やめてぇ~~~~あっははあははははははははは!!」
タールの太い足に抑えられ、逃げる術のない彼女は、苦しげに笑い声をあげながら、上半身をくねらせた。時にはのけぞって悶えるものの、どんな激しい運動を行っても、羽は一度発見した弱点を見逃しはしなかった。
「はひひひひひっっっっっははははははははは!あはっっあっっはあはあははっははははは!た、たすけ、あっあははははは~~~~~死んでしまぅ~~~いやっっはははいやぁ~~~~」
激しいくすぐったさで痛みも感じる間もないのか、仰け反りった反動で頭を何度も打ち付けながらも、彼女は笑い続けた。
その様相は実に痛々しくもあり、狂ったようでもあった。程なくしてタールが問うと、彼女は間髪入れず降参を宣言してしまう結果となった。
「さて、俺も五人だ。調子でてきたからな。先に十人達成するのは俺だな」
「よく言う、こっちは待ってやったってのに」
「頼んでねぇよ。追い越されても文句言うなよ」
「いうかよ。こっちが本気で責めれば、大きく差を開けて俺が勝つに決まってるだろ」
「言ってろ」
タールとウェイブは口ではいがみ合いながらも状況を楽しんでいた。
辺り一面に並ぶ拘束状態の美女の群。それを自由に出来る権利が彼等にはある。
これ以上ないだろう幸福な世界を満喫しつつ、二人は新たな得物に視線を向けた。
吊され、顔をうなだらせている二人の女。それに目をつけたタールとウェイブは、揃ってそこへ赴き、男の理想と言っても過言ではないボディラインを保ったターゲットに生唾を飲む。
そして肝心要の顔を拝見しようと、下から覗き込んだ時、彼等の心臓は一瞬止まった。
ゾンビよりも醜悪な腐乱した顔がそこにあったのだ。
「「!!!!」」
思わず二人が後ずさる。今し方、見事な物と感激した肢体もいつの間にか腐乱体となって自由を取り戻していた。
「な、何だ?」
突然の出来事に混乱する二人。しかし異変はそれだけで済まなかった。
気がつけば彼等の周りいた拘束女性全てがゾンビ化して、彼等を取り囲んでいたのである。
「「だぁぁぁぁ!!!!!!!!!」」
この世の終わりに直面したかのような悲鳴をあげて、実際、それに等しいショックを受けて二人の男は飛び上がるように覚醒した。
ハーレムから一転、地獄の一角に落とされた二人は全身から冷や汗を流しながら、それが脳内だけの出来事であった事を思い出し、その現況となる紅い玉を見た。
二人はブラッド・ストーンに指先を添え、その万能の力を用いて至福の幻想を見ていたのである。
無論、ブラッド・ストーンの作り出すそれが単なる魔法と同レベルであるはずがなく、脳に直接作用し現実と変わらぬ『体験』を構築していたのだ。
使用者の意志に応じ、その力を発揮するそれが、彼等の望まぬ幻影を見せたのには、勿論のこと明確な理由がある。
二人の他に、ブラッド・ストーンに触れる細い指先があり、その第三者の意志が介入した事により、彼等は悪夢を味わい覚醒したのである。
「カ、カレン・・・」
「何するんだよっ!」
自分達の最悪の体験が彼女の仕業と知って、二人の男は不満の声をもらす。
「それはこっちの台詞よ。貴方達、究極アイテムをそんなくだらない夢を見るために使わないでよね」
カレンは二人から持ち出されたブラッド・ストーンを奪い返すと、それを大事そうにミファールの中にしまい込む。
「試してみただけだろ。夢を見るくらいなら、大した燃焼はしないはずだし」
「その通り、ここは魔女の逆ハーレム。女っ気なんて全然ないんだから、夢の中でくらい楽しませろよ」
自分が女っ気の勘定に入っていない事はカレンにとって不満の材料とはならない。彼等は行動を共にする最良の仲間ではあっても、その関係に恋愛感情は存在していないのである。これは、彼等が皆、魔王の血族という境遇から、兄弟の様な感覚を抱いているからに他ならない。
「石の力を試すっていうのなら、もう既にその身体で試したでしょ。あの大怪我が数秒で完治。十分証明にはなったじゃない」
ウェイブもカレンもタールも、昨日、キーンによって負わされた傷を、授与されたブラッド・ストーンを用いて治す事を試していた。
結果は彼女がいう通り完治し、後遺症などが危惧されたタールの腕の貫通傷や、ウェイブの両腕の裂傷、そしてカレンの各所に生じていた骨折が傷跡もなく修復したのである。
その状況はまさしく神の御技であり、どんな回復呪文術者でも不可能な現象を目の当たりにすると、おとぎ話に思えたアイテムの力を認めざるを得なかった。
「確かにそうだけどよ・・・・」
不満が残りつつもタールはゆっくりと立ち上がって不調のない身体を確認する。
一日おけば、何かしらの問題でも生じるのではないかと危惧していたのだが、神の力はそんなミスなど犯してはいなかった。
「こっちの身体はともかく、そっちの鎧はどうなんだ?」
ウェイブは一見していつもと変わらぬ形状を維持している彼女の鎧を見た。
魔鎧ミファールもまた主を守るため『重傷』を負っており、昨日までは回復を優先させるため主から離脱していたのである。
一日経過して目に見える傷は修復し、主の元に戻ってはいたが、昨日の損傷が完全に回復したとはウェイブには思えなかったのである。それに対しカレンは素直に装備の不備を認める。
「一応、役目は果たせる程度には・・・ね。本調子とは言えないけど、数日あれば回復するから、石の力を使うまでもないわ」
「いいんだな?」
改めて確認するウェイブ。今のところ彼女だけが装備に関して完璧でない状態であり、少なからず不公平感を抱かずにはいられなかったのである。
「ええ、大丈夫2~3日もあれば自然に解消できる問題よ」
カレンは何も問題ないと頷く。
「それじゃ、タール?」
「ああ、聞かれるまでもない」
寝起きであってもこれから何をするか理解しているタールは、片腕を軽く掲げて応じた。
「なら、行こうか・・・」
ウェイブの誘いに応じ、三人は各々の荷物と装備を手にトラセナを求めて歩き出した。
自分達が導き出した決意を伝えに・・・・
「あ~、やっと見つけた」
騎士達に居場所を聞き回って森の中を歩き回った三人は、彼女の領域でありながら、あまり人の行き来した痕跡のない一角の中でようやくにして、ここの主を見つけだした。
「樹の精霊が、本体から離れてこんなにあちこち動き回るなんて聞いたことがないよ」
そうぼやきながらトラセナに近づくウェイブ達だったが、当の彼女は振り向く事無く背を向けたままの状態を保っていた。
その視線は下を向き、何か一心に祈っているようにも見える光景であった。
「トラセナ・・・さん?」
周囲の木々で、自分達の接近を知らぬはずがない彼女がこちらに反応しない様子にカレンが不自然さを感じて声をかけた。
それでも彼女の反応はなく、しばらくの間立ち入る事の出来ない雰囲気を維持していたが、ややしてからようやく振り返ってその視線を彼等へ向け歩み寄った。
「せっかちな人達ね・・・」
彼等が察していた通り、トラセナは彼等の接近に気づいてはいた。それでいて相応しなかったのは、彼等より優先すべき事が彼女にあったからに他ならない。
移動したことで彼女が前にしていた物が視認できるようになると、彼等は事態を納得した。それは一対の石を縦に立てた物で、一方の石の傍らに細見の曲刀が突き立てられていた事で、それが墓の類だと物語っていた。
過去の騎士達のそれではない。
三人は本能的にそう感じた。それが視線と表情に表れたのだろう。トラセナは僅かに微笑むと、自身もそれを見やり小さく頷いた。
「あの人のお墓よ。必ずここに作ってくれと頼まれていたの」
その手には昨日彼等が渡した布袋が握られており、それが蒔かれたのだという事を推測させた。
「それじゃ、もう一つのは・・・」
これまでのキーンという人物を知れば、おおかた予測がついたが、ウェイブはあえて口にして問うてしまった。
「多分、お察しの通りよ。あの人の想い人の墓。ちゃんと再会できたかしらね」
少し視線を上に向けてトラセナは確認不能な疑問を口にした。
「あれだけ苦しんで生きてきたんですもの、死後の魂に安らぎがあらん事を・・・・」
トラセナは手を組んで心から祈った。
「・・・・・それで、行くつもりなのでしょ」
少しの間をおいて、彼女は視線を三人に戻すと、唐突に本題に入った。
「聞くまでもなく知ってるんでしょ?」
彼女の領域に植物の無い場所はない。隠すように会話をしていない限り、大半の話題は彼女の耳に入っていて当然と考えているカレンが質問によって答えとした。
「ええ。でも、その様子を見れば、聞いてなくても察しはつくわ」
準備万端。これから出発しますと言わんばかりの格好をしている三人の姿を前に、トラセナは笑んだ。
「では、例の方法を詳しく教えてもらえませんか」
前振り無しにウェイブが問う。この世界に残された結界破壊の為の遺産の場所と手順、これが分からなければ旅立ちの意志があっても前には進めないのである。
「概要は昨日話した通りよ。起点になるのは、この世界の中心にある、あの人の居城であった城と、最端部にある五つの遺跡。まずは中心点にある遺産を目覚めさ、次に五箇所の遺産を目覚めさせるの。そして再び中央に戻り、五芒星魔法陣を発動させれば、この世界の悲願は達成されるわ」
「その目覚めさせる方法と、目覚めさせる遺産って何だよ。それが分からなけれりゃ、やりようがない」
その悲願に生涯をかけた人物もいる。それをいとも簡単に口にされると流石に信憑性に欠けてしまうため、その詳細を知りたい衝動に駆られたタールが先を急かす。
「目覚めさせる方法は至って簡単よ。その意志を持って触れるだけ」
「その意志?」
「結界が消えて欲しいって思う意志よ」
「成る程。確かに簡単だ・・・・それで、遺産の形状は?」
それで本当に事が進むのか?相手がそこいらの情報屋であればまず信じない話であったが、相手はトラセナである。騙す理由もなければ恨みも持たれてはいない為、素直に話を信じ、先の話を聞き続ける。
「各ポイントの中心部に位置する宝玉よ。ポイント六各所の設置場所や環境は違っても、それだけは全て共通なのよ。見れば貴方達ならすぐに判るわ」
「それで、五箇所のポイントの位置は?」
その問いにはカレンが割って入った。
「それは予想がつくわ。五芒星魔法陣を形成するなら。基本は正五角形よ。詳しい地図が無いから正確な位置はすぐには言えないけど、まずは中心地から真北に一箇所。あとはその二つを起点にして五芒星を描いてみれば、大まかな位置は分かるはずよ」
「その通りよ。現地では魔王縁の場所として残っているはずだから、近くに人が住んでいれば分かるはずよ」
だがこれはトラセナの保証の限りではない。現地に人間が住んでいても遺跡の存在すら気づいていない可能性も、また遺跡としてしか認識せず、その由来を知らないケースもあり得るのだが、彼女はそれをあえて口にはせず、全く別の話題へと持ち込んだ。
「あとは・・・貴方達の運が良ければ、中心地の城のテレポーターが生きていて、少なくとも一箇所には瞬時に飛べるはずよ」
「テレポーター?」
聞き慣れない名詞にタールが首を傾げ、それにウェイブが応じた。
「魔鏡とか魔法陣を用いた移動手段だよ。特定の場所を一瞬で移動ができる設備の総称だ。時にはトラップに用いられる事もある」
「それが用意されているんですか?」
基本的には魔鏡を用いてのケースが多いテレポーターであったが、それには高度な魔法の知識が必要であり、跳ぶ距離に応じてより難易度が更に高くなる傾向があった。
その為、失われつつある技術の一つに部類されている希少な設備であった。
「ええ、ただ長い間放置されていたから使えるかは保証できないわ。行って確かめるのね」
「そうですね。考えてみれば、凄い長旅になりそうだからね。一箇所だけでも行程が短縮できれば御の字だ」
今回の「目的」で言えば、距離が重大な問題となるのは話を聞いた時点で確定事項となっている。単純に言っても、この世界を大回りに一周する行程となるのである。
「あと・・・・行けば判る事だけど、あの人の恩人って事で一つ忠告しておくわ」
少し話す事を躊躇ったトラセナであったが、やはり恩人という立場が大きかったのだろう彼女はいよいよ出発という彼等に声をかけた。
「?」
「問題の各ポイントは、多かれ少なかれ魔王縁の地として知られているはず。それ故に色々な障害や弊害があるから覚悟しておきなさい」
「どういう意味だ?」
「少なくとも、安全ではあり得ないって事だよ。現地民が封印しちゃってるか、モンスターが住み着いているか、盗掘除けに厳しい罠があるか・・・ですよね」
ウェイブにとっては、それは言われるまでもなく覚悟していた事だったが、直接彼女からの助言を得ることで、それは確信へと変化した。
「行けば判るわ」
ここに来て曖昧に答えるトラセナに、タールは不愉快そうな表情を見せた。
「何だよ、もったいつけるな・・・」
「言ったはずよ。私は求める者に道を示すだけ。必要以上の肩入れはしないの。装備を整えた事だけでも異例なのだから・・・」
トラセナはタールが手にするダブル・ハルバートに意味深な視線を向けた。
「判ったよ。寵愛を受けられるのは騎士になった者だけって事だな」
「そういう事。考え直す?」
その誘いは彼女にしてみれば本心でもある。少なからず個人的関心があり、実力は申し分ない彼等が側にいれば、彼女の世界は安泰であろう。それに、彼女すらも予期できない危険に彼等を晒すのは、運命であっても気が咎めるのである。
「光栄ですけど、俺達はまだまだ先を目指してみたい。残念だけど、ここではそれが難しいんで・・・その・・・」
代表するようにウェイブがしどろもどろに答えた。
「気を使わなくて結構よ。ここは安息の満ちる場所。その一方で向上心を阻害する閉鎖空間でもあるのは十分に理解しているわ。私には問題のない空間でも、貴方達にはまだ不必要な場所でもある事もね。もともと私の為だけの場所なのだから仕方ない事だけど・・・」
「悪い所じゃないんだぜ」
生態や主義が違う以上、生き方も異なる。そうした違いの気負いとも取れる感情をタールが一言で吹き飛ばした。
「ありがとう。人それぞれの生きていく道が違うのと同様、ここが安住の地にならない者もいる。貴方達にはまだ早いだけかもしれない・・・・いつ戻ってきても、私は歓迎するわ」
「闘いに飽きたら考えるよ」
「お気遣い有り難うございます」
「そんなに遠くない未来に戻ってくる予定なんだし、土産話をいっぱい用意しておくわ」
三人はそれぞれの言葉で応じると、荷物を抱え治して出発の意図を見せた。
「ええ、期待してるわ」
「それじゃ・・・・」
「場所は・・・分かるわね?」
「ええ、キーンさんのいた遺跡に向かう途上にある城・・・・そこの中心ですね」
「そうよ。そしてそこから貴方達はあらゆる地に赴く事になる。そこには多くの人との出会いがあり、少なからず運命を左右されていく事になるはず。かつてあの人も、この地で運命的な出合いをしたわ。生涯の敵、愛する事の出来そうな人・・・・・でも、ちょっとした周囲の状況があの人を不幸に傾け・・・世界全体にも影響を及ぼした。運命って表裏一体なのよ。僅かなきっかけで容易に反転してしまう。それは貴方達にも言える事よ」
「・・・なんです?」
「ちょっとした予言・・・とでも思っておきなさい。とにかく、行ってきなさい。その先々の地での出会いと経験が貴方達の運命を作り上げていくのだから」
運命。
あまり意識していなかった命題に、三人はそれぞれに想いを馳せる。キーンの一件はあまりにも壮絶で規模も大きく、参考にはならないものの、要点のみを集約すれば良く聞く話にもなるのだ。
新たな旅を目指す彼等の先に、闘いが皆無とは楽観的に見てもあり得ない。現実的にこの世界はそれ程までに厳しいのである。
「まっ、なるようになるだろ」
タールは楽観的に言った。
「そうだね。結局は事に直面してから考えるしかないもんな」
トラセナが言うような運命は、人間には憶測しにくい物でもあり意識して調整できる類のモノでもない。ウェイブも必要以上に考えるても無駄に近い事例に頭を悩ます愚行を避けた。
「私達は神様でも何でもない。ただ、魔王と言われた人間の血を、すこ~し引き継いでいるだけですものね。トラセナさんは何か私達に期待してるんですか?」
カレンもそれに同意すると、話を切りだした彼女に視線を向けた。
「いいえ、何も。ただ、貴方達が悔いのない人生を過ごしたならそれで良いと思うわ。私も結局は神じゃないんだから・・・・」
その発言はキーンという大きな先例の影響があっての事だろう。
「それじゃ、御忠告通り、自分に背を向けない人生目指して行ってきます」
ウェイブが大手を振って歩き出すと、トラセナもそれに応じた。
「ええ、また会える日を楽しみにしているわ」
気軽には言ってもこれは旅行ではない。少なからずの闘いと、予期しない出来事が待ちかまえているのは明白であり、あまつさえ命の保証もない。それ故、トラセナの送り言葉には重い意思が込められているのを三人は感じ、彼女に軽く一礼して去っていった。
「・・・・・良いのですか」
彼等の姿が木々に遮られて見えなくなったところで、警護当番として少し離れた木の陰に控えていた騎士数人の一人が姿を現し、彼等の去って行った方向に視線を送った。
「最初のポイント・・・・あの中心部の城には・・・」
「良いのよ」
騎士の言葉をトラセナが遮った。
「彼等が決めた以上、あの城は不可避の障害となったのよ。それに忠告もしたわよ」
とはいえ、明確にではない。
「切り抜ける方法はいくらでもあるし、逃げる選択だってあるんだから、思考の柔軟さが無ければこの先やっていけないわ」
主がそう言う以上、僕である彼等騎士にそれを否定する意思はない。だが彼等は、あの珍客三人が城に巣くうこの国の業に、どの様に対応するのか、また対応出来るのか、少なからず気にかけるのだった。
「「「忘れてた・・・・」」」
トラセナの森の領域がはっきりと分かる場所を過ぎ、目的地である城を目視で場所に来たところで三人は揃って呟き、己の迂闊さを悔いた。
最初に見たとき感じた妙な違和感。
中に何かが存在するとあからさまに示す怪しげな気配。
言うなれば城全体が邪悪な気を放っているかのような様子を目の当たりにして、自分達が当初拒否していた場所への侵入という事態がいかに勇気と精神力を要するかを思い出したのである。
前後の出来事があまりに大きかったため失念していたことも、城の異様な存在感が嫌でも思い起こさせていた。
「な、なにかこう・・・初っぱなから大試練みたいな感じよね」
遠目に見てカレンが引きつった笑みを浮かべると、ウェイブもうんうんと頷いた。
「ああ・・・目を閉じたら城サイズのモンスターが正面に潜んでいるような気配だもんな」
「一体、あそこに何があるんだろうな・・・・」
「ウェイブ、何か憶測はないの?」
自分には及びもつかない推測を他人に頼るカレンであったが、質問した相手も状況は同じであり、現在の状況から得られる答えを持ちあわせてはいなかった。
「わ、分かるかよ・・・こんなケース初めてだし、そういうカレンはどうなんだよ。魔に関してなら、そっちの方が専門だろ」
「アレを『魔』と決めつけないでよ。感覚は似てるけど、複雑すぎて・・・・負の感情の混合品みたいにも感じるけど」
「過去に盗掘に来て死んだ連中の怨念とでもいうのかよ」
タールのそうした指摘はあり得る話ではある。だがそうしたモノは遺跡の類には少なからず存在し、珍しくはない。だが、目の前のそれは明らかに桁が違った。
「に、しても、気配というか感覚が大きく過ぎないか?仮にそうだとしたら、何人分だ?」
「何人と言うより、千年分じゃないか」
タールにしてみれば冗談のつもりであったが、少し考えればあり得そうな話に一同は揃って表情を強ばらせた。
「・・・・・と、とにかく、行ってみなけりゃ始まらないよな。OK?」
「あ・・・・ああ」
無理矢理笑みを作って先へ進もうとゼスチャーするウェイブ。本音として言えばあまり気が乗らなかったが、進まなければ新しい一歩も踏み込めないため、二人も不承不承頷くしかなかった。
「「それじゃ、よろしく」」
異様な気配に緊張し、押し黙ったままだった三人であったが、城門前に辿り着くやいなや、ウェイブとカレンはタールを同時に見上げて言った。
「やっぱり俺かよ?」
二人が何を言わんとしているか彼には瞬時に理解できた。
門の開閉。
ノックで開くはずもない遺跡のそれを強制的に解放させるのは、どう見ても彼が適任であり、それは暗黙の役割として定まっていた。が、流石に今回は状況が異なると、意義を申し立てようにも、二人の瞳は決定事項だと言い放っていた。
「・・・・・畜生!」
話し合いも多数決も無駄な状況にタールは愚痴ると、その巨大な双腕を扉に押しつけ、全身に力を込めると、長年放置され手入れが成されていなかった悪条件にも関わらず、門はゆっくりと閉ざされていた扉を開く。
先のキーン戦の際、開門直後にモンスターと遭遇した記憶も古くなかった為、彼等はその瞬間に緊張したが、幸いにしてか、感じられる気配とは裏腹に門の先には何もなく荒廃した庭園が広がるのみだった。
構えていた一行は、少し拍子抜けした様相を見せたが、不気味な気配は消えることなく周囲に漂っていた。
「・・・で、どこへ向かう?」
人間が完全に通れるだけの隙間を確保したタールが、後方の二人に問いかける。
「魔法陣のある中心部に決まってるだろ」
当然のごとくウェイブが言った。
「だからどこだよ?」
「魔法陣が構築できるくらいの広さがある所だろうから、広間か玉座か謁見の間あたりじゃないか?」
「すぐに分かる様な事をトラセナさんも言ってたし、基本的にただの城みたいだから、最悪でも順に見回れば見つかるでしょ」
「他にナニがあるか分からないけどな」
ウェイブとカレンの発言には根拠など無い。だが状況から見れば正論であったため、タールも反対はしなかったものの、やはり心の奥底には予想外の罠などの存在を危惧し、不安を燻らせる。
もはや周囲に漂うと表現する方が正しいとも思える異質な気配に不快感を覚える彼は、その場に長時間居る事すら良しと思わなかったのだ。
「確かにね。これが場の雰囲気だって思うのは甘い考えだよな」
それにはウェイブも同意した。明らかに何かが居ると思われる感覚はあるのだが、その正体が定かではなく、キーンの時とはまた異なる不安感が存在したのである。
「細かな事は判らないけど、魔に関する事かもしれないわよ」
「・・・根拠は?」
何気なしに語られたカレンの言葉にウェイブが確証を求める。
「ミファールが反応しているのよ。僅かだけどね。本調子でないから何とも言えないけど、やっぱり負の感情か魔気が漂っているみたいね」
「魔気・・・・ね、魔族でも住んでるか?」
冗談めかしてタールが言った。彼等に魔族との戦闘経験は無い。それどころか世界が隔離されて以降、出現・召還の例も激減していた。
これも結界の影響によるもので、異世界経由での脱出などを阻害する様な効果が生じているため、余程高度な召還術でもなければかつての魔族召還は不可能に近いと、こちら側の学者が唱えていた事もあった。
「それならもっと周囲に影響でてるだろ」
「どうだかな。下級な奴とか、カレンの鎧みたいな合成体かもしれないだろ」
もちろんこれも確証を持って言った訳ではない。あくまでも魔族関連であればと言う前提の仮定であり、そもそも魔族であるとすら決まってはいない。
「どのみち、俺達の前に姿を現して貰えなければ分からずじまいで終わるんだ。ひょっとしたら例の魔法陣そのものの影響かも知れないしね。とにかく先に進もう」
存在の有無もはっきりしていない相手に警戒しすぎても時間と精神力の浪費になるだけと判断するウェイブが一同を促す。
「ええ」
「わかったよ」
既に何かと遭遇する前提で行動を始めるウェイブ達。何の根拠もないものではあったが、結果としてそれは誤りとはならなかった。
『それ』は感情のぶつけどころを見出せないまま城内を漂っていた。
あるのは激しい負の感情のみで、それを緩和する事も適わぬまま、永き時を過ごしていた。
時は感情をつのらせ、やがて自己の記憶と理性を奪い去り、『それ』を残された感情のみで動く獣同様の存在へと変貌させた。
鬱積した感情を抱いたまま徘徊することしかできなかった『それ』は、ふと自分達の領内に変動が生じたのを察知する。
永らく忘れていた生者の感覚を感じ取った『それ』は、歓喜の感情と共にそれに勝る憎悪を溢れさせた。
彼等は生者を無条件に憎んでいた。そして彼等を自分達の仲間に引き入れる楽しみを得た事で、無情の喜びを感じ、動き出す。生者に自分達の背負う苦しみを等しく与えるために・・・
「痩せても枯れてもやっぱり城だな」
手入れもされずただ時間に任せて朽ち果ててはいたが、訪れた広間は、かつての栄華を想像するに難しくはなかった。その広い空間を前に、タールは手近な壁や柱を軽く叩いてその頑丈さを確認した。
「何とかの夢の跡・・・ってところね」
「でも結構、華やかな歴史だけじゃないみたいだけどね」
ウェイブは可能性は少ないと思いながらもトラップの有無を見定めていた最中、柱や壁に剣や斧、そして魔法と思わしき攻撃によって生じたと思われる傷を幾つも見つけ、打倒キーンの戦がこの場にも及んだのだなと察した。
「闘いに明け暮れた人だったからな。この城も最初から魔王の物じゃなかったんだろ?」
「確かそう言う話だったな」
「なら、これが多分、本来の主だったんだろうな」
タールの思わぬ主張にカレンとウェイブの視線が集中した。彼は壁に残っていた幾つかの絵の前で、原型を留めていた物を指していた。
それは妙齢の女性の肖像画で、見事な金髪に高価な装飾品を幾つも身に飾り付けており、身分の高い存在である事が一目瞭然な絵であった。
「王女か王妃って感じね・・・・フレ・・イ・・ア?」
近くにいたカレンがタールのもとに歩み寄り、額縁に僅かに残された文字を何とか読みとる。
「ふ~ん、フレイア様か・・・是非、存命中にお目にかかりたかったな」
遙かな過去の人物と知りつつ、タールが社交辞令を口にすると同時に異変は起きた。
『ナラ、私ノトコロヘイラッシャイ・・・』
「「!!」」
唐突だった。絵画から声がしたかと思うと、絵の女性が目を異様に見開いてタールを凝視し、あまつさえ手を伸ばしてきたのである。
『私ノ住ム世界ヘ・・・』
ドドンッ!
手がタールに届く寸前だった。二発の光弾が、タールと絵に割り込むように飛来し、伸ばされた手と絵の顔部分を直撃した。
伸ばされた手と絵画が、壁の一部ごと砕け、タールはそこから生じた細かな破片の煽りを受けつつも身を退き、ダブル・ハルバートを構えて臨戦状態を取った。
「気を抜きすぎだ」
気孔弾を放ったウェイブは、彼等より離れた位置にいたため、周囲の朽ち果てた状態と比べ、かなり差が生じていたという絵の僅かな不自然さに気づき、動きが生じたのとほぼ同時に行動できたのだ。
「すまん」
気の緩みを素直に認めたタールは、改めて絵の飾られていた箇所を見やる。
そこにはあった額縁は粉々に砕け散っていた。だが、そこに女性の存在が残っていた。しかしそれは先程まで額縁に飾られていた清楚で気品のあるそれではなく、劣悪な環境に放置されたかの様な、腐乱した肉体の様相となっていた。
「な、なんだぁ」
「ゴーストの類かしら」
現状から推測される相手を予測し、カレンが手にした六牙の杖に魔力を込めた。
ゴーストは各種生物、たいていは人間・人間に類する生物の魂がこの世にとどまった物であり、実体がない精神体である。
それ故、剣などの物理攻撃はほぼ効果がなく、神聖魔法や魔力などを帯びた武具での攻撃でなければ効果がない。
カレンは六牙の杖の魔法ストック性質を利用し、即席の魔力付与武器としたのである。
「まぁ、居て当然だろうけどね」
「古城だもんな。ベストスポットじゃないか」
ウェイブ、タールも各々の武器に気を込めて身構えた。
『!!!!ソノ波動、覚エテイルゾ・・・』
三人がそれぞれ武具を身構えた時だった。絵画の女性の影が唸り声とも思える声を放った。それは先程の様な女性のそれではなく、野太い男の声となっていた。
『忌マワシキ力・・・』
『思イダシタ・・・』
『闘気士ダ・・・』
『闘気士ダ・・・』
部屋の至る所から声がした。それは一人一人の声ではなく、大勢の声が重なった様にも思える重苦しいものだった。
「「「!」」」
三人が反射的に周囲を見回すと、辺り一帯に半透明の物体が浮遊していた。それはゴーストの特徴を持ってはいたが、中には人型の形状すら成していないものもああった。
「幽霊様ご一行の居城だったか」
「やっぱり、嫌な気は間違いじゃなかったわね」
タールとカレンはウェイブの立つ位置まで移動して互いに背を会わせて死角をカバーする体勢を取った。
「勝手にお邪魔して失礼。ちょっとここに探し物がありまして、あんた達の眠りを妨げに来た訳じゃない。もしこの世に未練があるなら、手をかすけど・・・・」
基本的にゴーストはこの世に未練があるために誕生する人の魂である。その未練が果たされれば成仏して消え去るものとされているが、その数と雰囲気から並々ならぬ物だろうと感じたウェイブの発言は、後半にはほとんど小声になっていた。
『ソノ、チカラ・・・憎イ』
『生キテイル貴様等・・・憎イ』
『死ネ』
『死ンデ仲間ニナレ』
ゴースト達は口々に言った。それは双方が相容れないことが明白な内容であった。
「生きてる人間に八つ当たりかよ」
タールが相手の心理を的確に言い当てる。
「相当な人間不信なのね」
判らない話じゃないとカレンが理解を示すと、あからさまな殺気が周囲から沸き上がり、それを敏感に察知した三人は一斉に身構えた。
その動きに呼応するかのように、ゴーストの一集団が彼等に迫った。
無秩序に迫る相手に対し、三人は同時にそれぞれの武器を横に振るった。通常のモンスターと異なり実体が皆無に近い為、手応えもほとんどなく、何の抵抗も受けずに武器が振り抜かれると、その一閃をうけたゴースト達は一斉に霧散して消え去った。
「悪いが・・・」
「こっちも、そんな一方的な要求には応じられないな」
「だから無理矢理に成仏させてあげる」
『ノォォォォォ!』
生者の反抗に激怒したのか、ゴースト達が吼えたかと思うと、ムキになって攻撃を再開する。
「迷ってないで、さっさと逝け!」
三人もまた、床を蹴って正面のゴースト達に向けて駆けだしていった。
ウェイブ・カレン・タール対ゴーストの間には、圧倒的な実力差があった。
個体によって動きや速さが異なっていたが、ゴースト達は一貫して正面から迫り、その都度、気や魔力を帯びた攻撃の餌食となって霧散していった。
だがこれは一個体での話であって、生者対ゴースト達となると、その結果を予測するのは今はまだ困難と言えた。
何しろ相手側にはその総数の底が見えず、次から次へと湧き出すように現れて、その数がいっこうに減らなかったのである。
変化のない状況から、そうしたペース配分の見当もつかない闘いの危険性を、すぐさまウェイブ達は意識する事になり、無駄な動きを控えた闘いへと移行させていく。
単体での実力が低い事もあり、そうした控え目な姿勢であっても彼等の優位は揺るがなかったものの、それでも尚、小一時間もの間、変化のない闘いが続くと、圧倒的不利な状況にある事態が見え隠れし始めていた。
「てぇいっ!」
ハエでも払うかのように振られたダブル・ハルバートが数体のゴーストをまとめて霧散させる。だが、その先にすぐ新たな一団が迫りつつあるのを彼は見て取った。
「今更だがな、キリがないな」
「何体くらい殺ってる?」
左右の手に持った剣を器用に交互に突きだして、迫るゴーストを次々に撃退していくウェイブが背後の相方に問いかけた。
「随分前に数えるのは止めてる。全員で万に届くくらいは行ってるんじゃないか?」
それは明らかに誇張であった。だが、このペースで闘いが続けばそれも現実の話と成り得るが、そこへ至る前に彼等の体力が尽きるのが先となるだろう。
「いったい、何人分いるのよ!?」
基本的に多数の敵を相手にするのが向いているカレンも、流石にこの数を相手にしては弱音の一つも出るというものであった。
「さぁね、この樹海で死んだ連中全てが集っているって可能性も・・・・千年分の怨念って話もあり得るかもな」
そう言ったウェイブに、女性を思わせるシルエットのゴーストが一体迫る。ゴーストは右腕を突きだし、その命を狙ったが、彼は左の剣でその腕を切って消滅させ、右の剣を突きだして胴を貫いた。
「!?」
ゴーストは断末魔の表情を一瞬見せたかと思うと、次の瞬間には霧散して消え去った。だが、その時の顔を見てウェイブは思わず目を見開いた。
「・・・今のは・・」
「ウェイブどうしたの?」
そうした動揺は動きに露骨に現れ、突如動きの鈍った彼に思わずカレンが声をかける。
「フレイアがいた」
「何?」
その呟きがよく聞き取れなかったタールそしてカレンは、必然的に戦闘区域を狭め、ウェイブの元へと集まった。
「フレイアだ。最初に絵から出てきた女の幽霊。あいつを今、俺は見た」
「見間違いじゃないの?はっきりした姿でもないしね」
「いいや、確かにあの女だった。最初に姿を現した奴だからな覚えてたんだ」
「だからそれが何だ?」
集まった彼等にゴースト一団が殺到する。タールはウェイブの話の意図がまるで分からず、また考える間もないまま気をダブル・ハルバートに大量に込めて迫る相手を一気に薙ぎ払う。
「理解しろよ!つり、連中は死んでない。倒されてないって事だ」
自分でも嫌な事を口にしたと思いつつも、ウェイブはタールが霧散させたゴーストの様子を凝視した。
原型を失い、煙のようになったゴーストの体は、一時宙空を漂っていたかと思うと、すぐに意思が介在しているのが明白な様子で後方に退くと、仲間のゴーストの後ろで再び集結して人の形を形勢していた。
「見たか・・・・」
あまり信じたくない光景を目にしたウェイブは、これが自分の見間違いである事を僅かに祈って他の仲間に問うた。
「何を?」
一人の仲間、タールはそれどころではなかった。次々に迫るゴーストを相手に奮闘し、倒したと判断した相手の動向まで注意する余裕がなかったのである。
多対一の状況ではそれもやむなしと言える。彼自身も、それに気づくまではそうであったのだから。
「見たわ・・・復活してる。倒せてないのよ」
逆にカレンは事実を認識した。だがそれは歓迎される事態ではない。
「何だとっ!?」
「倒した後からすぐに復元してるわ。これじゃ、穴を塞がないまま浸水した舟の水を掻き出している様なものよ」
「回りくどく言わずに、無限の兵隊を相手にしてるって言えばいい」
「どうなってやがる?ゴーストってのはこれで消滅できるはずだろ?」
気を込めた武器を見てタールが怒鳴った。武器こそ違ったが、過去にも実績があったため、信じて疑わなかった戦法が効果を得ていない事実は、自然に焦りを浮き上がらせる。
『無駄ダ・・・』
そうした彼等の焦燥を感じ取ったのか、ゴーストが動きを止めて語った。
『我々ハ、ごーすとニアラズ・・・・』
『ソウ・・・囚ワレタ魂』
『全テヲ拒ム結界ニ阻マレシ存在』
『死シテ尚、彷徨ウ存在』
『天ニモ地ニモ迎エラレズ』
『苦シミ留マル存在』
『憎イ』
『憎イ』
『憎イ』
『憎ィィ』
『きーんノ為ニ、俺ハ・・・・』
『私ハ、コノ世デ苦シミ続ケナケレバナラナィ』
それは恨み言の大合唱であった。ゴースト達は次から次に恨みを込めた言葉を連呼し、広間に醜い声を響かせて、彼等に状況を理解させた。
「こいつ等・・・・やっぱり千年前からの怨念の集合体か!」
「集合体だぁ?」
いつものように、いち早く状況を把握するウェイブの放った言葉にタールが混乱する。見る限り、相手は数があっても単体のゴーストである。彼が聞いたとおりに解釈すると、その存在はキメラの様なモノを想像したのである。
「結界のせいだ・・・・この世界の垣根は、中の存在を文字通り全て拒んでるだよ」
「・・・・つまり、魂も?」
ウェイブの言いたいことをカレンが悟り、確認するように問うた。
「多分ね。憶測だけど、結界には魔王が転生して外に出る可能性も織り込まれてたんだよ。だから、負に傾いた・・・つまりは怨念の類の感情を持った霊魂は結界の外へ、つまりは昇天出来ずに無理矢理この世界に留められているんだよ。だから倒しても消滅できず、結果、復元する」
「幽霊の強制捕縛かよ。ある意味、地獄だな」
理解を得たタールの例えは当を得ていたと言える。
「そして、死して安息の得られなかった彼等は、原因の元凶であるキーンを呪って彼の居城であるここへ集って、彼を今も探してるんだと思う。彼が死ねば、結界が消えると思ってね」
「でも俺達は当人じゃないぞ」
「ああ、それも永い年月の成せる業だろうね。怨念の塊である連中は、永い徘徊と苦しみで、その憎悪を膨らませたんだろ。当初の目的も忘れる程にな」
「あり得る話ね。その結果、自分達の苦しみに無縁な生者をも恨み、同じ苦しみを与えようと私達を襲っている・・・・」
「それじゃ、どうするんだよ。生きている事で襲われるんじゃ、原因とか正体とかの見当がついたところで、状況打開には・・・・・」
存在するだけで疎まれるのであれば、どんな交渉も成立しない。絶望的戦闘しか残されていない事に悲壮感を漂わせたタールであったが、ふとその表情が豹変した。
「タール?」
それは他者からは思考停止にも見え、気になったカレンがその顔を覗き込もうとした時、不意に彼が動いた。
「一つ交渉の手があるぜ」
「何?」
よもやタールからそうした案が出るとは思いも寄らなかったウェイブは、思わず耳を疑った。そんな彼に構うことなく、珍しくも名案を思いついた肉体派大男は、声を荒げた。
「おい、お前等、死後の安息が欲しいんだろ!」
全員に言い聞かせるようにタールは周囲を見回し、言葉を続ける。
「俺達はお前達を縛る結界を破壊する為にここへ来たんだ。だから邪魔をするな」
『我々ヲ』
『解キ放ツ・・・』
『・・・・出来ルモノカ』
「出来るさ。ここいは、魔王キーンが残してくれた遺産が眠っている。その遠い血縁に誓って約束してやるさ・・・」
「アホゥ!!!!!!」
突如、ウェイブが大声を張り上げ、剣の腹でタールの頭を殴った。
『きーん!!』
『魔王ノ血族!!』
タールが殴られた理由と不満を口にするより早く、ゴースト達がざわめきだし、続いてウェイブが怒鳴った。
「あいつ等は無条件に魔王を恨んでるんだぞ!そんな連中の前で最悪のNGワードを言う奴があるかぁ!」
彼は、よもやタールがこれ程の暴挙を行うとは予想も出来きず、それ故に呆れを通り越した怒りに身を震わせる。
「もう、遅いわよ」
ヒートアップするウェイブとは対照的に冷めた口調でカレンが呟くと、彼も一気に冷静さを取り戻して周囲を見回した。
「ご丁寧に教えなくてもいい、私達の素性まで教えて・・・・殺る気満々にさせちゃったわよ」
悲観的状況から呆れ声になったカレンは、頬に冷たい汗が流れるのを感じた。滅ぶことが許されないゴースト、キーンに対する千年分の恨みがこの場に集まりつつあるのを否応なしに感じた彼女は、外にあってあれだけの嫌な気配を放っていたソレが、どの様になるのかと考え、すぐ思考を停止した。考えれば不吉な答えにしかならず、考えずとも間もなく回答が判明するのは明白だったからである。
『魔王!』
『きーん!!』
『ソノ血族!』
『生カセテオクモノカ・・・』
事態はもはや完璧な不可避となりつつあった。
投稿日:2012/12/22(土) 03:16:15
魔王様との戦いがないのですががが
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