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2012/12/21(金)に投稿された記事
第2部 序章-2 分岐点
投稿日時:13:32:43|コメント:0件|》本文を開閉
ディレクトリ:くすぐりの塔AF -魔王の後継者達-
・・・ところで、本当にどうでもいいことなんですが、今年って来年のカレンダー手に入りづらくない?
銀行に行ってもカレンダー置いてないし、液に行ってもカレンダー置いてないし。
こうなって来ると、いよいよ自分でカレンダーを作ろうとか思っちゃうわけなんですが、
自作してみたら、小学生の夏休みの自由課題みたいな出来映えになったので没にしました。
カレンダーどっかに置いてないかなぁ。
すんません、真顔でどうでもいい話しで。
獲物となる三人に対し、彼等の数はあまりにも多すぎ、例外なく自分がその悦びを得たいと考えていた。
欲に溺れた人間であれば、醜悪な同士討ちが始まってもおかしくない状況ではあったが、既に死して肉体の滅んだ彼等にはそれ以上の死という概念が存在しないため、そうした行為は逆に無縁となっていた。
誰もが譲りたくないと考えた結果、彼等はその基本行動を変化させる結論に至った。
『彼等』はある一体の指示に呼応し、集結しを始めた。まるで小さな雲が風にながされ合流し、大きくなっていくように、一つの塊へと形態を変え始める。
全てが一つになり、分かち合う。
そうした発想の元、幾十幾百もの影が現れては集い、凝縮結合していく。その集結に伴い、虚ろで半透明だった存在も姿を色濃くしていき・・・・
「「「・・・・・・・!!!」」」
やがて城内に潜む全ての怨念が集結し終えると、それは一つの巨大な肉塊へと変貌していた。
「こんなのアリか!?」
目の前に起きた現実を見ながら、タールが疑問をもらす。ゴースト達の集合による実体化。そんな現象が現実に起こり得た事に彼は驚愕した。
「煙みたいな連中が集まったからって、こんな塊になれるもんなのか」
「半端じゃない数が集まった・・・・って、理解するしかないだろうな」
悲壮感を滲ませウェイブが気孔弾を連射した。彼にしても、実体化できるほどの数など推測するのも恐ろしいため、闇雲な攻撃でそれを吹っ切りたい思いがあった。
放たれた気孔弾は見た目通り重鈍な肉塊に、吸い込まれるようにして全弾命中する。
各所で小規模な爆発が起き、怨念集合体の各所の表層を抉り取るものの、その傷は瞬く間に復元していった。
「うぁ、やっぱり・・・・」
結果を予想していたウェイブは、まさしく想像通りの現象が起きたのを見て、気を滅入らせた。
死者の魂の集合物体、あるいは幾万もの魂を凝縮させた合成獣もどき。どう表現したとしても滅する事が至難である存在に間違いはない。
至難ではあっても、不可能ではない・・・はず。そんな望みも捨ててはいなかったが、今の彼にその手法をゆくっり思案するゆとりはなかった。
一方で、時間や猶予を与えてやる義務も義理もない怨念集合体は、肉塊の各所から触手を突きだし、三人を捕らえ、刺し貫こうと攻撃を開始する。
「「「!!!」」」
三人は方々に散って、触手の数を分断する行動を取った。しかし思念の集合体であるそれに既成の形態などなく。その不定型さを利用して体表の各所から触手をさらに追加して彼等を追撃する。
怨念集合体はその場を動く事なく、無尽蔵・無秩序・無制限に触手を繰り出し続け、獲物の抹殺のみに活動を続ける。
「くっそぉ~~!!」
タールはダブル・ハルバートを大きく左右に振り続け、迫る触手を複数単位で切り払い、ウェイブは二本の剣を用いて完全に防御に専念した。唯一カレンだけが左腕に装備した連射式魔砲擬装で触手を撃退しつつ、右手に持った六牙の杖から放つ魔法光弾で応戦したが、目を見張るような効果を得ることはできなかった。
「明らかにまずいわよね」
相手が変化した時点でこうした事態に陥る事は判っていた。仮に実体化で相手に消滅のリスクが生じていたとしても、おそらくは万単位の『存在』が集合したソレには相応分の生命力があり、言ってみれば万の部隊と三人で闘っているようなものだった。
より単純に言えば、スタミナ差が歴然な相手との消耗戦であり、現状のままではやがて自分達が力尽きてしまうのは火を見るよりあきらかであった。
その上、彼女のミファールは本調子ではない。擬装の威力も低ければ、主へのサポート能力も万全ではなく、より早い消耗が避けられない状況であった。
「いったん退くか?」
そうした判断は当然の選択であった。意外だったのは、それがタールの発言だった事である。
「珍しいな、お前が逃げを提唱するなんて」
賛成の意思がありながらもつい、ウェイブが余計な一言を言い放つ。
「俺は単純馬鹿ではあるが、川の逃れを一人で止められると思う程じゃねぇ、こんなのと正攻法で相手できるかよ」
「まあな、何か対策を練らないと・・・・上だっ!!」
話題を中断してウェイブが叫ぶ。彼等の会話を聞いて理解したのか、怨念集合体は頂上部から太めの触手を高く伸ばし、彼等の頭上を狙うように攻撃を仕掛けてきたのである。
三人は落下してくる触手をかわしたが、触手は床に激突する寸前、先端部を肥大化させてその堆積を増加させ、強大なハンマーのごとく床を叩いた。
その一撃は床の耐久許容量を越えた。
ピシッ!
床石から亀裂音が生じたのを皮切りに、怨念集合体の打撃点を中心に無数の亀裂が生じて四方に広がったかと思うと、床は結合力を失って砕け、階下空間に向けて崩れ落ち始めた。
「こいつらっ!」
相手の意図を察してタールが唸る。崩壊の範囲は三人のいる場所まで及び、彼等は諸共に落下していったのである。
階下は奈落の底という訳ではなかった。怨念集合体はもちろんの事、三人もこの落下による致命的なダメージを受けることはなく、なんとか着地に成功する事ができたが、事態はより深刻な物へと陥った。
「~~~無茶苦茶だな」
「ああ、絶対に逃がさないつもりだな」
周囲を軽く見回し、頭上以外に脱出口が見あたらない事を確認するタール。
隠し部屋なのか倉庫なのか、その用途は容易に判断のつかなかったものの、そこは広間と大差ない空間が広がっていた。
「何?ここ・・・」
「さぁな・・・でも間違っても、自然的に出来上がった空間じゃない事は確かだけど」
天井は崩れたが、周囲の壁と床には加工された石版が規則的に並べられているのが一目で分かるその空間は、人の手による物であるのは明白であった。
ウェイブは誰が見ても理解出来る事実よりも、タール同様この場所へ至る通路や扉が無い事が気がかりになっていた。経緯や利用方法はともかく、この空間は、空を飛びでもしない限り脱出できない闘技場となってしまっていたのだ。
なんであれ、人の手による部屋の類であるなら、そこへ繋がる出入り口が一つはあるはずで、無いのではなく見つかりにくいだけであろうが、今の敵を前にその捜索は不可能であり、脱出には敵を倒すしかない構図が否応なしに出来上がっていた。
「くそっ、ここで決着をつけるしかないのか」
現状ではまず勝ち目がない。状況打開の手段を見いだせないまま、ウェイブが気孔弾を背後から迫る怨念集合体に連射した。
『オアアアアアアア!!』
数発の気孔弾が本体の肉塊に命中し、数発が伸びる触手を分断した。だが、そのダメージも見る間に修復し復元する。
『ココハ・・・・貴様達ノ死ニ場所』
『ココハ、私達ノ墓所・・・』
『ココデ』
『ココデ』
『コノ場デ』
『滅ビロ、魔王ノ血ヨ』
「同意できるかよ!」
無造作な落下により、体の一部が瓦礫に埋まって動きの鈍化した怨念集合体に向かって闇雲に肉迫したタールがダブル・ハルバートを叩きつけ、肉塊の表皮を力任せに引き裂いた。
『無駄ダ、我ラハ不滅』
痛々しい裂傷がたちまち修復し、幾本もの鋭い触手がタールに向けて伸びる。
「!」
彼はダブル・ハルバートを引き抜きざまに横振りして何本かの触手を払ったが、三本の触手を裁ききれず、無防備な脇腹を貫かれるかと思った瞬間、間に飛び込んできたウェイブが、その触手を一気に切り落とし、続けざまに近距離からの気孔弾連射を行い、タールが身を退く時間を稼いだ。
「すまん。助かった」
「攻撃を続けろ!」
「何?」
礼の声にも耳を傾けずに言い放たれた言葉を前に、タールは思わず聞き返した。
「断続的にしかけるんだ」
言いながらウェイブは、それを実証するように気孔弾の連射を続けている。
「相手が消滅するまでチマチマ削るのかよ?」
「違う、時間を稼ぐ」
「稼ぐ?それで進展するのか?」
「カレンだ」
「わたしぃ!?」
話題が前触れもなく自分に向けられ、カレンが軽くパニくった。
「私に何が出来るってのよ、正直、手に負えないわよ」
「そんなの分かってる。だけど、これは魔の領分だろ?だったら、カレンの方が場を凌ぐ何か手だてを思いつけるんじゃないか?」
「いきなりすぎるわよ!!」
理屈としては分かる。相手は確かに死者の魂と言う、魔法分野に類する存在であり、カレンの持つ知識に望みを託すのは、正論の部類に入る選択と言える。
だが、至極当たり前の理屈であっても、何の断りもなく話を向けられても、即時期待道理に実行できるはずもない。
「だから、時間を稼ぐ!その間に、この場を逃げるだけの僅かな時間でもいい、凌げる手段を考えてくれ」
正直言って、これはもはや神頼みに近い行為であった。
タールとウェイブの得意とする攻撃が効果を得られない以上、彼女の魔術面の知識に頼るしかなかったのである。
「しゅ、手段って言ったって・・・・」
混乱しながらもカレンは生き残るべく自身の記憶を掘り返し始める。四の五の言って難色を示していても、他者が交代してくれるわけでもなく、事態は悪くなる一方でしかないため、彼女は思考せざるを得なかった。
しかし、魔法が得意とは言っても、彼女のそれはもっぱら攻撃に関する魔法であり、この場を凌ぐには縁遠い類のものばかりであった。
「え~い、もぅっ!モノは試し!!六魔光弾!」
カレンは、まずはできる事で有効と思える手法、自分の魔法の中で一個体に対する破壊効果の最も高い六種の魔法の同時攻撃を繰り出した。
六牙の杖の各「牙」から放たれた六つの光条は、一つに合わさった瞬間、怨念集合体を直撃する。
『オァァァァァ~~~~~~!!!』
醜い断末魔の様な唸り声と共に、肉塊の半分以上が崩壊し消え去った。世間一般の生物であれば、一目で致命傷と判別できる程のダメージであったが、それでも尚、ソレは体を維持し、消滅した部分を見る間に復元させた。
「・・・・・あの再生能力、反則だな」
「ああ、モンスターマスターが可愛く見える・・・」
呆れ声でタールは言い、ウェイブがそれに同意する。その光景は、生き物ではまずあり得ない再生であり、相手が既に死に捕らわれない事を改めて証明してみせた。
「私もアレで事が済むとは思ってなかったけど」
それでも試したのは、彼女自信の最大魔法がどれ程の効果があるのかを見てみたい好奇心があったからに他ない。
「で、何か参考にでもなったのか?」
「私達の攻撃じゃアレを完全破壊もできないって事くらいかしら・・・・見たところ一部でも肉片が残っていれば驚異的な再生をするみたいだし、完全消滅でもできれば、復元には少し時間がかかると思うけど・・・・」
そうした肉体労働を任せたい・・・そんな意思のこもった視線が向けられているのを感じたタールとウェイブは慌てて首を横に振った。
「ムリ!絶対無理!!あの攻撃で不可能なら、俺達の攻撃じゃどうやったって・・・・」
言いつつウェイブは気孔弾の連射を始め、そのことごとくを命中させるが、あとからあとから復元が行われ、まるで水面に石を投げ込んでいるかのような様相となっている。
「そんな訳で、次の案を考えてくれ」
タールもダブル・ハルバートを構えて突進を開始する。彼女に更なる時間を与える為に。
「そんな事いわれても・・・・・」
カレンは押しつけられた役割に焦った。
単純に封じる・・・としても、封印系・結界系に関しては、軽い知識しかなく、仮に実行したとしても、中途半端なそれで相手を抑えられるとは到底思えず、良くて若干の足止めが可能かもしれない程度である上に、そもそも、結界に用いる装備が全く用意されていなかったのだ。
道具に頼らず、魔法陣も用いる手法ももちろん知識としてあったが、この乱戦中に複雑な魔法陣を描く事などできるはずもなく、まさに万事休すとしか言いようのない状態であった。
(タールの言う通り、あんな生物界の反則物体をどうすれば・・・・手に負えるわけ・・・)
そこで唐突にカレンの思考が止まった。目の前の現状と自問が、何かの光明に触れた気がしたのである。
僅かな気がかり、それが心に引っかかり、その正体を把握するため彼女は思考に全ての意識を傾けた。
だがそれは、あまりにも無謀な行為だった。
ソレを任されたとはいえ、一歩離れた位置にいたとはいえ、変幻自在な敵からも意識を逸らすのは迂闊としかいいようがない。
そんな状況を悟ってなのか、怨念集合体が触手を一本伸ばし、カレンに刺し貫こうと試みる。
「カレン!?」
タールが触手の動きを察知し、同時に思考に没頭する彼女を見て咄嗟に反応した。
今回はミファールの防御本能もあてにはできない。そう判断した彼は、頭上を狙って大きく弧を描く触手よりも一瞬でも早く到達すべく、全力で駆け、到達と同時に彼女を遮る壁となった。
それは彼にしては上出来の反応だった。だがそれでも体格の大きさが当人の理想的行動速度を阻害したため、彼は我が身を盾とする行動をするしかなかったのだ。
「っっ!!」
不運にも、触手は彼の鎧が装備されていない箇所を直撃した。背後から左脇腹付近を刺し貫かれたタールは短い呻き声をもらしつつも、身体を貫通した触手の前後を両手で握り、強引にそれを引き抜く。
「ター・・・」
「構うなっ」
我に返ったカレンが事を悟り、思わず口から漏れた謝罪の言葉を彼は強がりとも言える口調で遮った。
「何か策があるなら、先に結果を出せ!」
最優先事項を諭すと、彼は脇腹から滲む血も無視し、改めて武器を手にして相手の注意を晒すべくカレンから放れ、再び闘いへと身を投じていった。
「・・・・・・・!!」
そうした戦闘優先の姿勢が、彼女の中に燻っていた答えの道を切り開く。
そうした『闘い』でしか結果を望めなかった最強の戦士の姿を、つい最近カレンは目の当たりにしている。それは自分達の血の源泉であり、相手が最も憎悪する者。その『彼』から継承した宝があったのを思い出したのである。
至高にして最強のアイテム『ブラッド・ストーン』彼女はそれをミファールの中から取り出すと、仲間二人の承諾も得る事なく、手にしたそれを高々と頭上に掲げ、意識を集中しだす。
「大いなる力よ・・・絶対的存在よ・・・我ここに祈らん。我等を脅かす、邪悪なる意志の塊を屠る力を今ここに!」
カレンの行為は召還魔法に似たものだった。実際にはブラッド・ストーンの使用に関し定められた手法はない。そうした形式を取ってしまったのは、彼女が魔法使いであるからに他ならない。
敵を倒す『何か』を呼び出すという行為そのものが、彼女に召還術を連想させたため、自然とその様な形になったのである。
だが、ブラッド・ストーン使用時に必要なのは形式でなく強く願う事である。カレンは事態打開の為に、相手を凌駕する力を純粋に求めた。あの圧倒的な敵を撃退するモノを。
もはや目の前のそれは、人の力でどうこうできる物ではなかった。少なくとも自分達三人には不可能と分かった。
常人を遙かに卓越した力を持った彼等も、何世代も前から蓄積された怨念の前には無力に等しかった事を理解し、それを退ける力を強く求め、そして願った。
ブラッドストーンはカレンのそうした純粋な意志を受け発動し始めた。
敵対するモノを滅するに足る力を有した存在を、否、カレンが深層心理で思い抱いた存在を・・・・
ソレを至高の宝は呼び込んだ。
「な、何だ?」
『グヌァァ?』
不意に、対峙する彼等と怨念集合体怨念の間の景色が陽炎のように歪み、周囲がにわかに明るさを増し、双方は思わず動きを止めた。
空間が、ブラッド・ストーンの特殊な力に歪められ、光が直進できなくなり始めたのである。
その歪みは徐々に拡大し始め、やがて中心部に闇が生じ始めた。光の屈折により完全に照らされない一角が生じたのである。
それは、この空間が別空間に繋がった事を意味しており、その歪みと闇の中から、『何か』がその姿を現し始めた。
「カレン、何をした?」
今この場でこの様な現象を引き起こす事の出来そうな人物と言えば、彼女しか思い当たらなかった。タールが腹の傷を軽く抑えながら問う。
「何か・・・は、判らない。これを使ったから・・・」
カレンは掌で輝くブラッド・ストーンを見せると、安全確保のためミファールの胸部にそれを埋め込こむと、二人はたちまち状況を理解する。
「おまっ、それ使ったのか!」
ウェイブが驚きの声を上げる。純粋に願いを具現化させるアイテム・・・と聞かされたそれが何を呼び込んだのか、カレンにも判らないとする状況に、一同は緊張を隠せないでいた。
『何ヲシタ』
『何ヲ呼ンダ』
『ソンナモノ・・・・』
『貴様達ノ道連レニシテヤル』
肉塊の身体の各所から何本もの触手が繰り出された。
その先端は見かけは正確に突き進んだが、空間の歪みは視認できる以上だったようで、放たれたそれは、途中で大きく孤を描き、全く見当外れのポイントに次々と逸れていく。
その存在は徐々に輪郭がはっきりしてゆき、それが人型であることが確認できたかと思うと、その刹那、闇から光の爆発が発生した。
貯め込んでいた光りをを一気に吐き出したかの様な、瞬間的に太陽が発生したかの様な眩しさが辺り一帯を白色に染める。
光は一瞬の瞬きであったが、カレン達の目がその余波から回復するのに若干の時間を要した。
『オ・・・オォ・・・』
怨念集合体が呻き声を上げた。召喚された物を見ての事だろうと思われたが、ウェイブ達は今だ視界が真っ白に覆われたまま、はっきりと物を見る事ができず、ようやく視力が回復した時、彼等は自分達に背を向けている一人の人間の姿を見た。
「「「あ・・・・・あぁっ!!」」」
三人は揃って驚愕の声をあげる。
「これが、アレを葬る力?」
「これが、私の願った・・・存在?」
「あい・・・あれは・・・」
そこに立っていたのは、
彼等がついこの間、死力を尽くして闘った相手・・・・・
魔王キーンその人であった。
『ォオッ・・・憶エテイル』
『憶エテイルゾ』
『オ前ハ俺ノ敵・・・・』
『オ前ハ、俺ノ苦シミノ根元』
『オ前ノ為ニ、俺ノ魂ハ永遠ノ恨ミニ包マレタママ・・・』
『オ前ノ為ニ、俺ハ呪ワレタママ・・・』
『殺シテヤル!』
『滅シテヤル!!』
怨念集合体は激しく脈動し、唸り声をもらし続けた。
寄り集まったそれぞれのゴーストの記憶の断片が甦えり、より感情的になったのである。
言うなれば、彼等全ての『誕生』の原因そのものがここに現れたのである。
「あ・・・あの・・・」
カレンは無言のまま佇むキーンの背に、恐る恐る声をかけた。
望むべくして死を迎えた人間を再び呼び戻したのである、不満を抱かれても当然と考えたのである。
「説明はいらん」
背を向けたままキーンは言った。
「ここへ呼び込まれた理由は全て判っている。そして、俺が何をすべきかも・・・・要は、俺の不始末の一端を、遙かな未来のこの場で償えってんだろ」
おそらくはそれもブラッド・ストーンによる影響であろう。キーンは目の前にある、信じがたい存在を前にして状況を理解していた。
「は・・・はい」
「だから、気に病むな。むしろ強敵を提供してくれた事に感謝したいところだ。こいつなら、俺の十年来の退屈を紛らせてくれるのかもしれんからな」
「・・・・十年?それじゃひょっとして全盛期の・・・・・?」
言葉尻の違和感をとらえ、ウェイブが眉を潜めた。彼はブラッド・ストーンの能力が、消滅したキーンを甦らせたと思っていたのだが、その発言を聞く限りそうではなく、遙かな時を越えて、彼を呼び込んだのが明白となったのである。
「全盛期?かもしれん・・・・」
「でも、大丈夫なのかよ?相手は死を超越してる存在だぜ」
単に強いだけでは解決できない事態となっている事を、タールは伝えたかった。結局の所、キーンも自分と同じ戦士系である以上、主戦法が肉弾戦になり、それでは効果が薄く、同じ事態になると予想したのである。
「目を覆いたくなる醜悪な姿になって面影もないが、所詮は、一度倒した相手のなれの果てだ。恨むだけに日々を費やした連中が、俺に勝てるわけもない」
自信たっぷりに言い放つキーンに、肉塊が不気味に脈動した。
『戯言ヲ!』
『我ハ強イ!』
『我ハ不滅!』
『コノ恨ミ、全テノ根元ハ貴様ニアル』
『今ココデ魂ヲ喰ライ、貴様モ永劫ノ地獄ニ落トシテヤル!』
「地獄?地獄なら、今既に体験中だ!」
それは愛する者に会えない精神的地獄。この先、数百年続く事も今はまだ知らないキーンは、怨念集合体に負けじと吠え返す。
『コ・ロ・ス!』
肉塊より、先端を鋭く尖らせた触手が伸びる。
キーンは素早く身を翻して触手をかわすと、続けざまに放たれる触手を器用にかわし続けた。既に相手の意識はキーン一人に向いてしまい、この時点でウェイブ達の脱出の時間が得られたことになり、最低限の目的が早々に達せられた。
だが彼等は、折角訪れたチャンスに気づかず、その闘いを見守る姿勢をとっていた。
「キーンさん、私の鎧を・・・」
カレンはキーンが丸腰である事に気づき、腕の擬態武装を解いて剣に再構築しようとしたが、それを彼は拒絶した。
「いらん心配をするな」
キーンは一喝すると、左手を突き出し、その掌に気を集中させて小さな光の盾を形成させると、突進してくる触手の先端に接触させ、それを霧散させる。
「武具なら自前のがある。お前の鎧の親戚がな」
不適な笑みを浮かべると、キーンは右手の手刀に気を込め、その手でもって自分の左腕を軽く傷つけた。
「!?」
彼は攻撃をかわしつつ、腕から流れる血をある程度床に撒くと、全身から気を放って防御を固め、意識を別の所へと集中させた。
「異界に住みし、忠実なる我が僕。太古の盟約、命の契約に従い、時を越えし主の血の元・生命の印の元へと降臨せよ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・俺は此処にいるんだ!とっとと来い、セイファートぉ!」
キーンの半ば強引な呼びかけに、突如として床に散ったキーンの血が増殖して伸び、直径五メートル程の魔法陣が一瞬で形成された。
『盟約』と言う物は、『彼等』の住む向こうの世界では大きな力を持っているらしく、正規の手順を無視した状態であったにも関わらず、異世界の住人、魔族が魔法陣の中からその姿をいとも簡単に現した。
現れた魔族は、人間系生物にはあり得ない肌の色、表皮の質を持ち、既存の生物には該当しない形状をした、まさに異世界の人間そのままの様相で、圧倒的な威圧感を放っており、さしものウェイブ達も見ただけで思わず気圧された。
「す、すげぇ・・・あれ、マジに純正の高位魔族か・・・・」
「あ、あんなのが無条件で召喚できるのか・・・あの人は・・・」
キーンがセイファートを僕としていた事実は意外として知られていない。
恐れから来る噂話には、そうした内容は多々あったが、実際に使役した所を見た者はほとんどいない。
それもそのはず。彼は僕として契約したそれを、侵略のための武器や尖兵としてではなく、ほとんど身を守る防具として用いていたため、その強大な力が表に出ることは皆無だったのである。
現れた異界の実力者は、周囲の状況には一切気を止めず、眼前のキーンを一別して僅かに口の端を歪め、笑みと辛うじて判る表情をして見せた。
『・・・・久しいな、我が主よ。如何にしてこの世に舞い戻った?』
「馬鹿な連中が、手に負えない敵を倒すために俺を別時間から呼び寄せたんだ。だから俺にしてみれば、お前とは久しぶりでも何でもない」
苦笑混じりにキーンが事態を説明すると、セイファートもそれだけで全てを把握した。
『・・・成る程、龍血結晶の力か。結局は血族に継承されていたか・・・少しこちらの世界を覗くのを怠ると、面白い事が起きている。皮肉なモノだな』
セイファートは間近に、己がこの世界を見物するために生み出した分身ミファールが在ることを感じ取って苦笑いする。
「故郷の怠惰な生活で鈍ってないか?今一時、俺の道具として仕えろ!」
『御意』
例え幾千年もの時間が経過しようと、主が生きている限り使えるのが、彼、セイファートの盟約であった。
事は遙かに規格外な事態であっても、『生』の事実がある以上、交わした約定を拒否する事など彼には出来ず、またそれを不本意とは思わない。
一瞬とはいえ人間界に降臨し、唯一認めた人間と再び共にいられるのである。数百年に及ぶ退屈な日常からの開放と考えれば、セイファートの心は、がらにもなく踊った。
セイファートは軽く宙に舞い一瞬でアメーバ状になったかと思うと、キーンに覆い被さり瞬く間にその材質を変貌させ、彼の鎧へと変化した。
それは禍々しさが表にたった凶悪なイメージの鎧であり、カレンの鎧と似通った雰囲気を見せている。
「はぁん・・」
突如、カレンが悩ましげな声を漏らした。
「おい、カレン・・・」
「こんな時に、あの人の鎧に欲情するなよ」
鎧の形状に欲情したと判断した男二人が呆れた視線を彼女に向けた。
「違うわよっ!」
思わずカレンは怒鳴った。
「私は鎧に欲情してるんじゃないわよ。あの鎧の魔気にあてられて、ミファが呼応して蠢くのよ」
「多分、産みの親の波動に呼応してるんだ」
脈動するミファールに軽く触れてウェイブが納得する。
「これの血統が証明されたって事かしら?」
その力は認めつつも、伝承を信じ切れていなかった事実がいまここで証明されたと実感するカレン。
だが、セイファートの魔気に呼応したのは、彼女の鎧だけではなかった。
もともと闇の感情に強く作用する魔族の気は、怨念の集合体である『敵』にも力を与える結果となっていた。
半ば強制的に流れ込んでくる力を受けた怨念集合体は、その密度が増して肥大化し、その形状をも変化させる。
それは、無理矢理に多くのモンスターや人間を粘土の様に掛け合わせて人型に形成したものの、表皮は自己を主張した個々が、頭部を幾つも浮き出させた様な醜悪なモノに変貌していた。
『キサマヲ・・・切リ刻ミ、喰ラウ』
これまでと異なり、完璧に多々の意志が統一された言葉が人型肉塊から放たれた。
「その程度のパワーアップでできるものか!」
キーンが右腕をかざすと、彼の鎧の腕を覆ったパーツが瞬時に拳にまで延長してナックルガードと化す。彼はその形状を目で確認することもなく、振りかぶって無造作に拳を相手に叩き込んだ。
その鎧となったセイファートの変化と、攻撃するキーンの一連の動きには全く無駄がなく、一つの意志で統一されているかのような動きであった。
ナックルガードにはキーンの気が込められているだけでなく、魔族の身体で構成されているだけに、怨念体に有効なダメージを与えることが可能となっていた。
拳は深々と人型肉塊に食い込み、それが忘れて久しい痛みを与えた。
『オオオオオッ!!』
人型肉塊は咆吼をあげた。
受けた痛みが新たな憎悪をかき立て更に身体を強化していくという悪循環が生じていたが、キーンはまるで意に介していなかった。
不滅の存在とキーンとの闘いを傍観するだけとなったカレン達であったが、その一挙一動は彼等にとって、実に意味深い物となっていた。
「「凄い・・・」」
タールとウェイブは同時に唸った。
「連撃の一撃一撃が、次の一撃の布石になってる。相手の隙を突くだけじゃなく、隙を作らせてもいる・・・・」
「ああ、それにインパクトの瞬間に気を集中させて、一撃一撃で着実なダメージにしている・・・」
「「・・・・俺にはまだできない」」
額に冷たい汗を流しながら、二人は呻いた。
ウェイブもタールも、パワーあるいは連撃という一部の攻撃手法に関してであれば、ある程度の自信を持っていた。だが、キーンの闘い方と見比べた場合、ウェイブの連撃は単なる手数が多いだけで無駄が多く、タールの力技も、不必要な時にまで気を集中させている分、無駄な消費が多かったのである。
その自身の欠点を、何も告げられぬまま、見る事により悟らされたのである。
そしてカレンも・・・
「完全にあの鎧と一体化している・・・・」
自分を遙に上回るキーンと悪魔(セイファート)の連携に驚愕を隠しきれないでいた。
キーンはセイファートの鎧の右腕をナックルガードに、左腕を小さな盾状にして人型肉塊との対峙を続けていた。
シンプル極まりない武装な上に、見かけもカレンの武装擬態に比べれば大した事はなかったが、その威力には大きな差が無く、彼女の武装擬態が見かけだけにも思える程であった。
そして何よりも刮目すべきなのが、状況に応じて形状を常に最適化している事と、複数の擬態を扱いこなしている点であった。
思うがままの形状に変形する擬装は、形成時にそれなりの精神力を必要とする。それが複数となると、その疲労度は相乗効果で増大する。
つまりはキーンが行っているセイファートとの連携は、彼女の常軌を逸脱していたのである。
基本的には鎧としての役割を最優先に果たし、主の要望に応じて一部の形状を攻撃に適したモノと化すものの、余剰な能力は有さず、主の特出した戦闘技術を損なわないようにする。命じられた役割を完璧にこなし、互いの技術を信じている何よりの証であった。
強化されたはずの人型肉塊も、身体の至る所から触手を伸ばして攻撃を仕掛けるものの、その全てがことごとくかわされ、痛烈な拳の反撃を受け、命中箇所を霧散させては修復する行為を繰り返す。
一見すれば、結局のところタール達と同じ運命に至るように思える光景であったが、注視するとそうではない。
一撃一撃が積み重なるにつれ、損傷して回復する速度が徐々に鈍っていたのである。これは対精神体攻撃として用いられている気及び魔具の威力が大きいことを意味していた。
「さぁ、もう極めるぞ!あい、そこのデカイの!」
「・・・俺か?」
「他に誰がいる!その剣を貸せ」
「剣?・・・何?」
唐突に告げられた事をタールは理解できなかった。いや、内容は理解できてはいたのだが、何をすればいいのか解らなかったのである。自分の手元・周囲には指摘される『剣』に該当する物体が見あたらなかったのである。
「その手にしているヤツだ!」
言うが早いか、キーンはタールから手にしていたダブル・ハルバートを奪い取る。
タールにこそ丁度良いサイズとされたソレをキーンが持つと、遠距離戦用の長槍にしか見えなかったが、彼は軽々とそれを振り回し縦一文字に構えた。
「お前、こいつの本当の使い方、知らない様だな」
奪い取った得物を『剣』と認識していないタールの様子を見て、キーンが言った。
「つ、使い方?」
「こいつ、トラセナから譲られたんじゃないのか?」
「え・・・あ、いや・・・」
タールはしどろもどろになる。確かに彼女から賜った物ではあったが、使い方に関しての説明などは一言もなかった。極論すれば、当人が聞かなかった為ではあるが、自主的に教えてくれても良いのでは・・・とも思う。
「なら見ておけ、こいつの真の姿をな!」
「!?」
キーンがダブル・ハルバートに気を込めた。それは見れば分かる事だったが、しかもそれは尋常な量ではなかった。
そのサイズから見ても過剰とも思える気を注ぎ込むキーンであったが、その様子にウェイブ達は異変を感じ取る。
本来、武具に込める気は、その形状・大きさ・材質などによって限界が存在する。それを越えて過剰に気を込めれば、対象の武具は砕けてしまう。ある程度であれば、溢れた気を刀身の周囲で留める事も可能であるが、ダブル・ハルバートは限界と思える気の量を越えて尚健在であり、しかも刀身に漏れている様子さえなかったのである。それはまるで武具が気を無尽蔵に吸収しているようにも見えた。
そして目に見えるはっきりとした変化が生じた。
気の吸収に合わせるかの様に、柄がスライドを始めてリーチを短くし、先端部の両方向の斧刃がゆっくりと左右に広がり始め、中央の刃も上下に分かれて小さな隙間を作り出したのである。
ビヒュッ!
その変形の意味を推測するよりも早く、結果が現れた。
変形した穂先から光が吹き出して巨大な刃を形成し、まさしく『剣』の形状と化したのである。
その剣は、タールを持ってもしても巨大であり、本物の巨人族の持つ剣程に思えるサイズであった。
タールが持っても大きすぎるように見えるサイズの刃を、キーンは軽々と構えた。その大半が気からなる光で構成された刃なのだから、総重量は槍状の時と変化はない。
それを手にした彼の表情は実に活き活きとしていた。まるでこの闘いを楽しみ、負けるという仮定すら存在しないかのように、自信に満ちあふれていた。
「さぁ、行くぞ!」
僅かに間合いを取ったキーンが吼えると、彼は床を蹴って跳躍し、更に壁・柱を蹴って弾ける様にして高度をとると、限界まで至った時点で柱を力一杯下方に蹴って、自身の落下速度を加速させた。
その際、鎧の背部の一部が変形し、彼の背に蝙蝠に似た羽が形成され、更に加速を助長する。
重力による落下速度を遙に上回った速度で、キーンが人型肉塊に突進する。
「「「早っ!」」」
こうした一連の動きは先日の対キーン戦の序盤で経験済みであり、予想の範囲であったが、その早さは桁違いだった。その戦法を知っていなければ目で追うことも困難な程に。
人型肉塊は有り余る魔気を連続して放って迎撃を試みたが、命中するかに思えた都度、キーンの背に生えた羽がうねって飛行コースを僅かに変えて避けていた。そして希に命中しても鎧であるセイファートが魔の力を吸収し、その威力は無効化されてしまっていた。
「うらぁ!!」
キーンの雄叫びと共に衝突音が響いた。だが、衝突は目標にではなく床であった。数度のコース変更が本来の目標から反れたのである。
自爆・・・とカレン達は思わなかった。
当のキーンの姿がなく、床の中に埋もれたままなのである。至近距離でその一瞬を見た怨念体には彼が消えたかのように見えたかも知れない。
だが、相手がそうした事態を悟るよりも先に、キーンが動いた。
地面の中をミファールの助力を得て移動したのだろう彼が、怨念体の背後の床を裂いて出現したのである。
『!!』
人型肉塊は自分の『背』を『正面』に変形させるようにして振り向くと、すかさず指先を触手にして伸ばし、キーンを貫こうとした。
「なめるな!」
咆吼と共に光りの大剣が横振りされると、その直接的な一撃と刃風によって、全ての触手が寸断されて散り散りになり、その勢いのまま剣を振り上げたキーンは、その切っ先を床に叩きつける。
『オオオォォォォッ!?』
凄まじい衝撃と共に床が砕け、その亀裂が人型肉塊の足元にまで及んで陥没し、人型肉塊はその瓦礫に挟まれる形となった。
尋常ならざる高密度によって実体化してしまった怨念は、それ故に物理的な障害物に動きを封じられてしまった。
人型肉塊にとって脱出は困難ではなかったが、瞬間的な隙が生じる事になる。
瞬間的とはいえ、相手にしているのはキーンであり、その一瞬が命取りとなる。
キーンは叩きつけた光の大剣を引き抜き正面に突き構えると、床を蹴って一気に人型肉塊に向けて突進した。
『オノレ!魔王!』
人型肉塊が腕を肥大化させて突き出し、突進を押し止めようとするが、光の大剣はその手を刺し貫き粉砕しながら本体へと到達する。
『オノレ!オノレェ!!』
人型肉塊は新たな腕を作り出して、零距離にいるキーンを握りつぶそうと動き出す。だがそれより早くキーンは気を操り、とどめにはいっていた。
『!?』
人型肉塊の意志は、自身の統一されているはずの身体が膨れ上がるのを感じた。
「砕けて消えろ!未練がましい魂がっ!」
キーンが不適な笑みを浮かべると同時に、人型肉塊の中から幾筋もの光が溢れ出す。彼が突き立てた光の刃を暴発させたのである。
刃の形状を維持しなくなった気は方々に拡散し、肉塊を内側から責め立てた。
やがてその圧力が限界に達すると、人型肉塊の身体は内から溢れ出した光と共に爆散し、凄まじい衝撃が容赦なく周囲にも広がった。
「か、カレン!」
「ええ!!」
傍観者と化し、キーンとの距離が離れていた事が彼等には幸いした。
この衝撃波に対しての対応の間が与えられた彼等は、ひとかたまりになり、カレンが急遽、擬態武装で魔盾を形成し、タールがそれを構え、カレンとウェイブがそれぞれ魔法と気孔で障壁を形成するという、三重の防御体勢で身を守った。
三種の防御法が一体となり、強固な障壁を形成したが、言いかえればそうしなければキーンの起こした衝撃波を受け止められない事が明白だったのだ。
彼等の見立て通り、三人の防御は辛うじてキーンの攻撃の余波を受け止めた。
「無茶苦茶だっ・・・」
衝撃が治まった後、恐る恐る覗いた彼等が見た物は、無傷で佇むキーンと、見るも無惨に破壊された周囲の壁や柱、そして散り散りになって霧に近い状態になった怨念体であった。
「すげぇ・・・・・あれをあそこまで四散させる事が出来るものなのか」
濃霧のように無力となって周囲を漂うそれを見やって、タールが感嘆の息をもらす。
「でも、相手の本質は思念・・・・放っておいたらまた復活してしまうわ」
カレンの危惧は当たっていた。漂う霧状のそれは、ゆっくりではあるものの、徐々に再集結しつつあった。
「その点は心配するな」
カレン達の心配を、キーンは事も無げに否定した。
「後始末も万全だ。なぁ、セイファート」
『御意』
主の意図を理解していた『鎧』は、キーン身体から離れ、本来の悪魔の姿に戻ると、周囲に散る怨念の霧を、全身で無造作に吸収し始めた。
多少密度があるとは言え、根本が負の思念であるため、それを糧にする悪魔のセイファートには丁度良い食事となったのだ。
「悪魔を使った浄化なんて皮肉なものだろ」
言って笑って、キーンはカレン達に視線を向けた。
「さて、これで俺の仕事は終わりだな」
「あ、有り難うございます」
馬鹿正直に召還者たるカレンが頭を下げる。
「召喚された俺が礼を言われるのも変だろ。それに、それなりに面白い物も見れたからな」 そう言ってキーンはまじまじと三人を見つめた。
「未熟ではあるが、一部に特化した血筋ではあるみたいだな」
「あの、ご、ご先祖・・・様?」
おずおずと、ウェイブが声をかける。先日出会ったキーンとは全く異なる彼は、やはり全盛期の様で、その身から感じる雰囲気が大きく違っていた。
「キーンでいい」
「は、はい、貴方は、人間・・・・・・なんですよね」
「それ以外の何かに見えると?」
ウェイブの言いたいことを判りつつも、あえてキーンは問いかけた。
「い、いいえ・・・・・ただ、人間とはあそこまで強くなれるものかと信じられなくて・・・」
彼等は並々ならぬ努力があれば、彼の側に近づけると今し方まで思っていた。だがそれは、悠久の時を無茶をして過ごし、否応なしに衰えてしまった彼の事であり、たった今見た真の彼を見ると、そうした自信もあっさりと瓦解してしまった。
「そうだな・・・・誰もがそうなれる訳でもないが、取りあえずは『目標』だな。それ次第で人は強くなれるさ」
「貴方は・・・・何を目標としていたのですか?」
「詳細も判らない敵・・・だった。故郷を滅ぼした連中・・・・それが俺の心の中で勝手に強くなっていて、それを確実に超えたいと闘い続けて、気づけばこうなっていた」
ふと遠い昔を思い出し、キーンは苦笑する。今の彼は死ぬことを目標にして闘っているが、それが成就されるのは遙かな未来、この時に至るまで待たなければならない。
「そう言う、お前達に目標は無いのか?」
見たところ、闘う者である自分の子孫達がそれを持っていない事を不思議そうに思うキーン。
「ない・・・な。ちょっと前まではあんたと同じ域に達してみよう・・・ってのが取りあえずの目標だったが、それももう夢物語になりそうだ」
タールもやはり実力の根本的な違いを見せつけられ、自信を失っていたのだろう、投げやりな態度となっていた。
「だったら、別の目標を持てばいい。この際、俺と同じ・・・なんて控え目な目標じゃなく、超えるくらい考えてみたらどうだ」
「「「ぶっ!!」」」
とてつもなく、否、それ以上に形容しがたい事をさらりと言うキーンに、一同は思いっきり吹いてしまった。
「む、無茶言うな。軽々しくそんな域に行けるもんかよ!
「それにこの先、貴方が生きているなら目標にもなるけど、実際には既に・・・・過去の人だ。死者には永遠に勝てないよ」
「そうか・・・・なら、それがお前等の限界だな」
呟くキーンに、ウェイブは何らかの意図を感じ取った。
「何にしても諦めた時点で全てが終わる。大馬鹿であるところは似ているから素質はあるかと思ったんだがな」
「?」
意味深に笑むキーンに、一同は不思議そうな顔をする。
「俺をここに召喚したのは、そこの娘が持ってる宝珠を使っての事だろ」
「あ、はい・・・・」
カレンはミファールの胸部で光るブラッド・ストーンに手をあてて頷いた。
「お前達、それが何か知っているのか?」
「え、ええ、一応は・・・」
貴方から貰ったとは言わない様に努めてカレンが答える。
「じゃ何故、わざわざ俺を召還した?ブラッド・ストーンは所有者の願いを何でも適える力がある。なら、俺を召喚せずとも、単純に敵の消滅を望めば、事はもっと単純に済んだはずだ」
「・・・うそ!?」
カレンは思わず呆けた。強力な敵を倒す方法ばかりを思案し求めるあまり、単純に倒すという至極簡単な選択があった事に、今気づいたのである。
「事実だ。ブラッド・ストーンは今も、この『時間』には存在しない俺を、維持させるために、力を使い続けている。言ってみれば、ダイヤを石炭代わりに使って気がついていないのと同じくらい無駄な事をしているんだよ」
「おいカレン!」
至高のアイテムの無駄使いに慌ててタールがブラッド・ストーンを覗き込む。
「し、知らないわよ」
カレンも慌てたが、キーンはそんな様子を楽しげに見て言葉を続けた。
「もう遅いな。その大きさではじきにブラッド・ストーンは消滅する」
その指摘を肯定するかのように、カレンの胸元に位置していた紅い宝玉は小さく、その光を失い、そして消滅した。
と同時に、キーンの姿が歪み始めた。神の力の時間拘束力が失われ、彼が本来の時間へと戻ろうとしているのである。
「キーンさん・・・・」
「お別れだ馬鹿ども。生き延びたければ絶望はするな。そして諦めた時点で全ては終わる。どんな状況でも、足掻けば可能性はゼロじゃない・・・」
今回の戒めとも思える言葉を最後に、実にあっさりとキーンはその姿を消した。
『さらば、我が真に認めた人間よ・・・・そして我が分身よ』
キーンの消滅は、セイファートをこの世界に繋ぎ止めておく理由の消失と同意であった。
彼はキーンの消え去った空間と、カレン、正確にはカレンの着用している鎧に一言告げると、空間に穴をあけ、主同様、実にあっさりとその中に消えていった。
一組の人間と悪魔が本来いるべき世界へと還ると、その場はたちまち本来の静寂を取り戻した。
己の絶対的な支配下領域の中心部にて、本体の樹を背もたれにして、静かに時の推移を感じ、森を眺めていたトラセナは、ふと異質な風が本体を撫でた違和感に振り向き、その視界にある物を見て大きく目を見開いた。
「・・・・キーン様!?」
トラセナは思わず立ち上がり、最も力強かった時の姿で立つ存在に抱きつこうとして、失敗した。
本体ではないとはいえ、魔力によって密度を持ったトラセナの仮の姿は物理的接触が、つまりは触れることができる。にもかかわらず、抱擁に失敗したと言う事は、彼女にではなく、相手側に問題があったのだ。
「すまん、実体じゃないんだ」
体を通り抜けたトラセナに苦笑して見せた相手の表情を目の当たりにして、彼女はそれが間違いなくキーンである事を確信した。
「あの・・・どうして?」
彼は間違いなく、待ち望んだ死を迎えた。ブラッド・ストーンを他者に託した事がその証明でもあり、目的を成し遂げた彼の魂は、喜び勇んで、あるいはかなり気まずい思いで、先に逝った思い人の元へと向かったはずであり、未練を残してゴースト化するなど考えられない事態なのである。
「なに、馬鹿な三人組が危機に直面して、その解決法として、俺をこの時代に呼び込んだ。ブラッド・ストーンを使ってな・・・心当たりあるだろ」
「ええ、あの子達ったら、そんな使い方をしたの」
キーンの説明を聞き、トラセナは合点がいった。
「と、言うより使い方を正確に理解してなかったんだよ」
「でしょうね。それで、問題の方は解決したのですか?」
そもそも、存在その物を疑っていたのである。最も適切な使い方を考慮できなくて当然だと彼女は思う。そして、その結果が判りつつも問いかけた。
「ああ、面白い相手だったよ。まぁそれで・・・だ、この地に召還されたのなら還る前にこっちの知り合いにも超えかけとこうと思って、こっちのブラッド・ストーンを使って魂だけ訪問させてもらった」
似合わない事をしている自覚があるのだろう。少し照れた様子を見せながら、キーンは最初の疑問に答えた。つまりは、このゴースト化もブラッド・ストーンの能力によるものだったのだ。
「そっちは・・・相変わらずみたいだな」
少し離れた木の影から、主の様子を伺う騎士達の姿を認め、キーンは苦笑する。
「ええ、私も・・・そして世界も、己の運命を探し求めて暗中模索ですわ」
その言葉に含まれる重みが、彼女の見てきた歴史を物語っていた。
「あの三人組の様子からして随分と時が経っているみたい・・・だな。・・・・・・俺は・・・・どうなった?」
少し間を置いて、キーンはこのゴースト化訪問の本題とも言える事を問うたが、一瞬の間も待たずに、自ら返答を拒絶する。
「あ、いや、やっぱりいい。聞くのが恐い」
「キーン様も相変わらず、その辺りは臆病ですわね」
トラセナは遠慮なく、率直な感想を口にした。
臆病。
魔王を称したキーンには不釣り合いとも思える単語であったが、彼の内外全てを知る彼女は、その評価は適切であると自負している。
「ああ、自覚してるよ。していて、どうしても変えられない・・・・こんな弱い人間を何で世界は倒すことが出来ないんだろうな・・・」
皮肉混じりにキーンが疑問を口にする。
「その弱さ故ですわ」
即座にトラセナが答える。補足も何もない意見だったが、彼もそれが意味するところを理解していた。
「・・・何度も言ってるが、因果だよな。まぁ、何はともあれ、元気そうで何よりだ。これからも元気でな」
過去の自分が、未来の彼女に長々と愚痴るのも無意味だと知るキーンは、遙かに長い時を生きる知人が、変わらず元気である事を確認し、安堵する。
「はい。これからも精一杯生き続けます。そして・・・・そして、この『世界』の行く末を、見届けますわ」
「頼むよ」
それは、彼の死後の世界を意味していた。
「はい」
「じゃぁな・・・」
「はい・・・どんな困難に遭っても、キーン様の努力は必ず報われます」
霞のように消えゆくキーンに向かって、トラセナは小さく呟いた。その声が届いたか否かは判らない。未来の結果を知る事を拒否した彼に対して、端的に結論を告げるような行為であったが、聞こえなくても良いからどうしても、そう言いたかったのである。
その呟きの終わるのとほぼ同じタイミングで、キーンの姿は消え去り、その気配も完全に消失した。
「ありがとうございます」
トラセナは、キーンの死の瞬間に立ち会う事が出来なかった。半不死処置の助力以降、長い間まともに対面していなかっただけに、それは心残りになっていた。
だが、この様な形でそれは解消される事となる。彼女は、消える姿をキーンの死とだぶらせ、おそらくはそれを配慮してゴースト化で来てくれたのだろう、過去のキーンに感謝しつつ、改めて長き間のつき合いだった知り合いの魂に黙祷した。
城に巣くうゴーストが全て浄化されたことにより、三人に立ちはだかる障害は無くなった。
闘いによって一同が落ちた、出口のない牢獄層からの脱出に関しては、キーンの戦闘の余波で崩れた瓦礫が斜面になり、若干の苦労はあったものの自力で這い上がる事が可能となり、それ以後の捜索は難なく進んだ。
彼等が目指す、結界破壊の魔法陣ポイントとテレポーターは、玉座の間にて早々に見つける事ができた。
「こいつか・・・・本当に分かりやすい場所に置いてあるな」
床を眺めタールが呟く。玉座の間の中央に描かれた魔法陣は、カモフラージュも偽装もされておらず堂々とその複雑な紋様を晒し、その中央に小さな宝玉が二つ台座に固定されていた。
「これ、魔法液を混合された塗料ね・・・千年以上魔法陣が消えないように工夫されているわ」
「おい、それよりこっち、この台座のにある紅い方の宝玉・・・こいつって・・・」
魔法陣を見ていたカレンがウェイブに呼ばれ彼の指摘する物体に目をやった。
「これ・・・ブラッド・ストーン!?」
「やっぱそうか・・・」
魔法陣の中心に位置するそれを見て、ウェイブが納得する。
歴史上最大であろうこの世界を覆う結界。それを構築するのに想像を超える人や触媒が用いられたのは疑いなく、それを容易に破壊するとしたキーンの遺産の存在。その力の根元がブラッド・ストーンであれば、見れば解ると言い切ったトラセナの話も頷けた。
ここと世界の外郭五箇所に在るとされる魔法陣の中心。それがブラッド・ストーンならば、規模の桁違いな結界を内側から容易に破壊する事も可能であろう。
「魔法陣とブラッド・ストーンが相互に効果を高め合うようにされているのね」
「あの時のプレゼントがブラッド・ストーンの全てじゃなかったわけか」
「計六ヶ所に用いた分の貴重な余りだった訳だ」
「それをお前は無駄使いしたわけだ」
不可抗力を揃って露骨に指摘するタールとウェイブに、カレンは恨めしそうな視線を向けた。
「分かった分かった。そう殺気だたないでくれ」
今にも魔法の4~5発も放ちそうなカレンを前に、ウェイブが両手を上げ、もう一つの宝玉に視線を向けた。
「ほら、これ、こっちの宝玉。これって、例の記録宝玉っぽくないか?」
「・・・・・そうみたいね」
ちらとそれを見やり、その場を逃れる言い訳だけでない事を把握したカレンは、小さな怒りを脇に捨て、示された宝玉に指先を添えた。
「・・・・・!」
途端に宝玉が輝きを放ち、触れたカレンの脳に情報が伝達される。
「なんだ?」
その光景を見たことのないタールがウェイブに問うた。
「魔法の情報記録アイテムだよ。ああやってると頭の中に記録された情報が入ってくるんだ。きっと、この魔法陣の使い方が伝えられてるんだと思う」
「へぇ、便利なもんだな。なぁ、ところで、あのブラッド・ストーン、持っていけないかな」
カレンが情報を得ている最中、タールは光る宝玉の隣に位置する、更に価値の高い紅いそれを指さし、ウェイブに案を耳打ちした。
「やめた方がいいって。もともと結界破壊用に用意したヤツだから、それ以外に作動しないように処置されているはずだし、下手すりゃガーディアンの数体は出てくるかもしれないよ」
「マジか?」
「多分だよ・・・魔王キーン殿が、目的ある物を不用心に野ざらし・・・とは思えないだろ?」
それはウェイブにも確証があった訳ではない。だが、そうであっても不思議でない思いがあった。
「解ったわよ・・・」
情報伝達の終えたカレンが声を上げた。
「で、どうすれば?」
「トラセナさんの言うとおり、結界破壊を願ってブラッド・ストーンに触れるだけ。ここも他の五箇所もそれだけでいいみたい。ただ、本当にそう願って触れないと起動しないようになってるわ」
「な、言ったろ」
勘が当たり、ウェイブがタールに軽く笑んで見せた。
「そうだな。目の前の宝は諦めるしかないか。それで、テレポーターは解ったのか?」
「周りに配置されてるわ。あの周りにある五つの魔境よ」
カレンの指摘に二人が周囲を見やった。
「確かに・・・鏡があるな」
朽ちて半壊した玉座の後ろを初め、正五角形の位置に立てられた鏡を確認する。
「枠の上の方にあるレリーフに手をかざして発光反応を起こせば移動可能よ。あとは鏡面に触れるだけ」
「・・・こうか?」
タールが手始めとばかりに一番近くの魔境に手をかざすと、枠全体が輝きを放ち始める。
「これは使えるみたいだな」
「こっちは・・・反応無い。枠の一部が破損して使えない様だ」
別の一つに触れたウェイブが結果を報告し、次の魔鏡へと移動する。・・・結局、起動して使用可能と分かったのは五つの魔境のうちの四つであった。
移動手段の確認が出来た後、早々に魔法陣の起動を済ませた三人は、ここである種の選択に迫られた。
「さて、四箇所も使えるとは思っても見なかったからな、まず、どこから行く?」
タールは目の前の二人に視線を向け、その意思を問うた。
「どこへ、って言ったって、未知なる場所には変わりはないだろ?それに結局は全部を回る必要があるんだし、早いか遅いかだけで問題はないんだけど・・・」
少々含みを持たせてウェイブが応じると、カレンも仲間達にある種の共通的する考えがあることを悟った。
「やっぱり、二人も思うところがあるようね・・・」
ウェイブの意見は確かに間違いではない。だがそれは、これまで通りであればと言う前提である。
「そう言うカレンもだろ?」
ウェイブの指摘に彼女も頷く。
結果敵には全てを回る事は必須であり、行く先に何が起きるかは解らない以上、どこへ向かうかを選択しても、状況は変わらない。否、タイミングによってはトラブルの有無もあるだろうが、人である彼等にそれを予見する事は不可能だった。
だが、彼等が思い悩んだのはその様な、どこから・・・では、なかったのだ。
三人は互いに視線を交えて、同じ事を考えた事を認めた。
「それじゃ、それぞれが主張する場所を選んでみようか?」
結果を知りつつもウェイブが言うと、二人は頷いて歩みだし、魔境の前に立つ。
その選択に、意見の一致は微塵も見られなかった。
ウェイブは玉座の後ろの魔境、カレンはその右隣の魔境、そしてタールはその隣と、全員が異なる場所を選んだのである。それは各々が、その選択の正当性などを主張する事はなかった。
「・・・・覚悟はいいよな?」
唐突であったが、これまで同様チームとしてではなく単独での行動。それが三人の意志だった。
無論これは効率だけを考慮した判断ではなく、困難に一人で立ち向かい、己のレベルアップを目指すための選択であった。
これには二度も見てしまった、伝説の魔王キーンの闘いが大きくウェイトを占めているのは間違いない。
「もちろんだ!」
「五つの遺跡のどれか、あるいはこの場所で再会しましょ」
格好良く応じるタールとカレンではあったが、流石にこれまでにない旅路に、緊張の色は隠しきれない。
「上手くいけば、三箇所を同時に処置できるはずだけど、その次以降が難題だよな」
「ああっ、だがそれよりも、ウェイブもカレンも、まずは死ぬなよ」
「一人じゃ貴方が一番心配よ、最初は良いけど、次の場所に間違えずに向かいなさいよ」
「言えてる、タールじゃ道に迷って二度と会えなくてもおかしくない」
「うるせっ!」
完全否定できないタールが苦笑いすると、二人もつられて笑みをもらす。
そして静寂・・・・
「じゃ・・・行くか・・・」
これ以上いたら躊躇いが生じそうなのを感じたウェイブが、皆と自身を歩ませようと声をかける。
「ああ・・」
「ええ・・」
応じて三人は互いの様子を確認しつつ・・・
同時に魔境に手を触れ、
それぞれの地へと消えていった。