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2012/12/21(金)に投稿された記事
第2部 カレン編 1-1 -迷宮内ただ一人-
投稿日時:13:38:38|コメント:0件|》本文を開閉
ディレクトリ:くすぐりの塔AF -魔王の後継者達-
そう言えば、私事で大変に恐縮なのですが
26日の年の瀬が押し迫った頃に、俺は東京に出張へ行くことになりました。
もう少し早い日付で予定して欲しかった!
忘年会とかいっぱい予定入ってるんだもーん。
そーいや、今年の忘年会って結構、規模小さくやる所が多いみたいっすね。
みんなの所の忘年会はどういう感じなのかな?
視界を奪う光の洪水は一瞬でおさまり、同時に不可思議な浮遊感も消え去ったが、眩んだ目は残光を残し、それが回復するまでにやや時間を要した。
テレポーターによる移動が完了したのだと理解したカレンは、一人となった不安感と、全く予備知識のない地に移動した緊張感を自覚しながら回復した眼で、ゆっくりと周囲を見回した。
そこで彼女は、自分がメルフィメール城とは異なる石造りの、おそらくは迷宮内であろう事が伺える薄暗い部屋の中央にいる事を把握する。
「・・・・・」
周囲に例の魔鏡が無い事を確認するや、彼女はアレが、相互テレポーターではなく、一方通行の仕様であり、元の場所へ戻るための設備・備品が用意されていない事を悟った。おそらくそれも意図的なのであろう、魔王のそうした仕様に不満を抱く間は無かった。
部屋を見渡した際、室内の床の傍らに、僅かな光源となる松明が放置され、今も燃えており、緊張と警戒を余儀なくされていたのである。
現状は、この付近に人、あるいはそれに類する種が存在するのは明白と物語っており、カレンは更に状況を把握しようと見回すが、ついさっきまで十分に光を取り入れていた場所にいた彼女の目は、周囲の暗さに今だ馴染んではいなかった。
目が慣れるのを待つのが常套手段ではあったが、彼女はそんな時間も惜しみ、呪文を唱え六牙の杖の先端を発光させて光源代わりにして、周囲の視界を確保すると、それを用いて改めて室内を見回し、表情を強張らせる。暗がりに人影を見つけたのである。
「誰!?」
光源である六牙の杖を構え、カレンが威嚇した。
人影は何も答えなかった。ただじっと様子を伺っているように見受けられるそれを、警戒しつつゆっくりと歩を進めて、その間合いを詰めていくと、その人影がピクリと反応した。
「!」
一瞬緊張したカレンであったが、すぐに落ち着きを取り戻し、更に間合いを詰めてゆく。不意打ちされる事を警戒し、杖を構えつつ、いつでも魔法攻撃を行えるように精神集中も怠らない。
僅か数メートルの距離を実にゆっくりとした時間で縮めていくカレンは、剣のやり取りが行える間合いに入ったところで、改めて相手に声をかけた。
「誰?言葉は通じるのでしょ?」
そこに来てカレンは、相手が警戒などしているのではなく、蹲って震えていたことに気づいた。
彼女は光源を更に前に突き出し、相手を確認する。
相手は中年と言っていい風貌の男で、かなりくたびれた身なりをしており、長期間この迷宮・・・・だろう、この場所に滞在している事を物語っており、身につけている装備は軽装で、戦闘が専門とは思えなかった。
「見たところ、レンジャーか盗賊みたいだけど、まさかあなた一人なわけないわよね」
カレンは震える男に向かって問うた。レンジャー及び盗賊とは所謂、職種の名称を現すもので、この二種は主に罠や鍵の解除が特出した者の事を示す。
一応の戦闘技術もあるが、やはり戦士や剣士と呼ばれる者達に比べれば戦闘力は心許なく、こんな場所で単独行動などするはずもなく、複数の仲間や戦士団に雇われて罠の解除や宝の鑑定を行うために行動する事が多い。
「ねぇってば!」
一向に口をきかない相手に少し苛立ってカレンが更に詰め寄ると、相手の男は飛び跳ねるように後ずさった。
「ひぃぃぃぃぃっ!!!い、命ばかりはっっあ、おたっ、お助けをっっ・・・」
これが彼女が最初に聞いた男の最初の肉声であった。
この男は心底怯えていたのである。カレンに・・・
彼女にしてみれば、うら若き乙女を見て怯えるなど、無礼千万と言うところであろうが、何も無い空間から、いきなり禍々しい鎧を纏った女が出現しては、魔界かどこかの魔女などに見えても仕方の無い事であろう。
結局カレンは、腰を据え、相手を落ち着かせ、納得させ、正常に話が出きる状態に持って行くのに十数分という時間を要した。
「・・・・・・・・・・で、仲間とはぐれて身動きできない状況に陥っていた所に、私が現れたと・・・」
「あ・・あぁ、いきなり床に魔法陣が現れたと思ったら、あんたが出てきて・・・・タチの悪い罠が、魔界との門を繋げたのかと思って、気が気じゃなかったよ」
実際、今も彼はカレンを警戒している。当人は何度も『うら若き乙女』を主張してはいたが、藍色を含む長い髪や、少し勝ち気に見えるつり目がちの瞳、【巨】にも【貧】にも属さない絶妙な地位にある胸、健康的にくびれた腰と、そのバランスを崩さない尻・・・これら全てが『人間』の女性の範疇と示していても、身に纏う物があの鎧では、その説得力も一気に失せると言うものであった。
いっそ、魔界から修行に来た、プリンセス候補・・・・とでも騙った方が納得されたかもしれない。
「無知ねぇ、そう簡単に異界との門は開かないわよ」
前もって契約さえしていれば先刻のキーンのように、隣室から呼び出すような行為も可能だが、実際には色々な手順が必要である上に、この世界では、例の結界の影響でそうした術の効果が阻害されているらしく、かなり成功率が悪いのが現状であった。
「だけど、この迷宮はトラップだらけだし、強いモンスターもうじゃうじゃいる。宝の価値を思えば、それれ位の仕掛けがあっても納得いくだろ」
「宝の価値?」
そのキーワードに目敏くカレンが反応すると、男は一瞬しまったと表情に出し、慌てて言葉の持つ意味を否定した。
「いや、何でもねぇ、単なる例えだ。ここは、地元では結構有名な迷宮でさ、入ったはいいが、帰って来ない奴等が多いんだ。だからそれに見合うだけの凄い何かが眠ってるはずって噂があってな・・・」
「その辺の事情は分からないけど、それ程の迷宮なら、あなたの仲間達は全滅したか、あるいは、あなたが死んだと思って、探しには来ないんじゃない?」
取り繕うような説明に関して、カレンは内容の深追いはしなかった。この手の男は聞いても正直に話さない可能性が高いことを、経験で知っていたのである。
「かもしれないが、連中が生きてるなら、俺の死体の確認はしに来るさ。何と言っても俺はこの探索の要だからな。俺が死んだとなると連中の進行もそこで終わりだ。だからこそ生死の確認を必ずするってわけさ」
「立場故って事ね・・・それで、地元で有名とかいうここは一体何処で、何があるの?」
確認の有無はともかく、死亡と判断されれば別の盗賊なり学者なりが雇われるだけであり、彼が自負しているほどの価値や評価は得られているはずがないと思ったカレンだったが、無意味に相手の自尊心を傷つける事はせず、話を本題の方向へと修正した。
「何って・・・」
男は目の前の女の質問が、瞬時に理解できなかった。
「有名なら、ここに眠る『何か』の噂の一つもあるでしょ?それを信じたからこそ、この迷宮に貴方は入ったんじゃないの?」
「あんた・・・本当に何も知らないで来たのか?」
どういう経緯で現れたかはともかく、カレンも自分達と同じ目的を持っているものとばかり思っていた彼は、この場にいる人間ならば誰でも知っているはずの初歩の初歩ともいえる情報を求めた彼女の様子を見ながら驚きの表情を見せた。
「ええ、何も知らないで来ちゃったのよ。知ってるなら聞くはずないでしょ」
自分と相手の常識の差ぐらい、すぐに察しろと言わんばかりにカレンが視線を向けると、男は気圧され、情報を口にし始めた。
「・・・・ここは聖戦時代の遺跡さ」
「聖戦って、魔王戦争の事かしら?」
これに関しては地方で呼び方が異なっている。だが共通した相手を意識しているため、誤認される事は皆無であった。
「ああ、聖戦・魔王戦争・隔離戦争・追放戦争の事さ。長い言い伝えの類ははしょるが、ここは魔王が、この地に閉じこめられた後に何度か訪れたって話のある場所なんだよ」
「そんな話があるの」
少し驚いて見せたが、例の仕掛けを施すためだろうとカレンは察した。
「ああ、原型を残した建物も残ってるし、この地域じゃ有名さ。魔王の目的までは判ってないが、あの魔王が贔屓にしていた場所なら何かあるだろうって考えでな・・・いろんな連中が調べたり研究したりしてるんだが、凄いと言われるほどモノは何も発見されていないんだ。まぁ、だからこそ手つかずのお宝を夢見て多くの連中が挑んでるんだけどな」
「ありがちな話ね」
「ああ、恥ずかしいほどにな。だが、挑んだ連中の多くが命を失い、そして目的を果たせず逃げ帰ってきているのも事実なんだ。絶対に何か隠されてるのさ」
断言するように男は言った。事実彼等は、これまでにない情報を入手し、それを求めてここにいるのである。だが、そこまでの説明はしなかった。どんな思惑がカレンにあるかが判明しておらず、話の通り、偶然に赴いたのだとしても、横取りを考えさせるような情報を与えたくはなかったのである。
「凄く曖昧な動機で大勢が命を賭けてるのね」
カレンも男の説明の中に不自然さを感じ、それを遠回しに指摘した。憶測のみで、あるかどうかもはっきりしない物に対し、説明にあるほどの冒険者達が挑むとは思えず、『何か』の正体ぐらいは把握していると直感したのである。
そして、それを言わないの、余所者である自分に横取りされることを危惧しての事だろうと彼女は正確に事情を察した。
「罠やモンスターの規模が、お宝の価値を示してると思われてるんだよ。危険の先にある宝がなんであれ、それを求めるのは男のロマンさ」
男は性別の違いを利用した論理でカレンを言いくるめようとするが、二人の相棒の行動を目の当たりにしている彼女は、その『ロマン』にも個人差があるのを熟知していたため、そうした越えられない壁の理屈には惑わされなかった。
「困難を乗り切るのが、男のステータスってわけ?」
「そ、そんなところさ」
「そのロマンの先に何も無かったとしても報われるの?都合の良い自己満足で死ぬのも滑稽だし、労力の無駄使いで終わる可能性もあるでしょ?魔王が贔屓にしていた場所って言っても、単なる思い出のある場所だった・・・・なんてオチもありえるんじゃない?」
「魔王がそんな感傷的な行動なんてするものか?」
カレンの指摘は、知り得た情報から成るものであり、客観的にも正しいと言えた。だが、モノが在る事が確定事項として動いている男には、そうした公平な仮定も逆に有り得ない話にしか聞こえなかった。
(するものよ)
心の中でカレンは応じた。
実際に二度も魔王キーンと会い、会話も交わして実像を知る彼女は、魔王という肩書きだけで悪の権化に思われている彼に少しばかり同情した。
今や非難・異議を唱えられない身のため、話は周囲の人々の解釈が加わって変質して行き、更に長い年月が加わる事で大半の話が虚像となる。
とは言え、カレンにそれを訂正するつもりはなかった。話したところでその内容を証明できる物もなく、そもそも無意味であり、それ以前にまず間違いなく信じて貰えない類の話である事が常識的に考えれば明かであったからである。
それに、当事者たるキーンも、そんな事はどうでもいいと思うに違いないとカレンは思った。
そうした伝説などの話題はともかく、ここにキーンの関与があるという噂を聞いては、その真偽と真相を確かめない訳にはいかない。
少なくとも、彼女が転送された場所である以上、噂とは別であっても、例の起動ポイントがここにあるのは確実と思えたのだ。
「・・・・・ま、話半分でも、魔王ってブランド銘は結構魅力よね。私も軽く探索してみようかしら」
言って立ち上がったカレンを、男は驚きの表情で見上げた。
「あんた一人でか?」
「ええ、あいにく他の仲間は違うところに向かってて、合流なんて夢物語だから」
男がそうであるように、カレンもまた相手に自分の目的を話したくない思いがあった。
前後の状況を理解できない者にとってはカレンの目的は、この男達が狙っている『お宝』よりも夢物語であるにも関わらず、そのキーがブラッド・ストーンだと聞けば、ライバルになる可能性が大いにあったのだ。
そもそも魔王関連のアイテムを求めている以上、行き着く先が同じである可能性すらあったため、彼女も自分の事実を説明しようとは思わなかった。
もちろんその事に関する負い目は彼女には無い。相手も肝心な事を説明せずに済ませている以上、必要以上の事を話す気にはなれなれず、彼等の行動に関しては無関心・軽視を装う方が良いと考えたのである。
「一人でこの迷宮を探索なんて正気じゃないな」
経験者の意見として、あるいはライバル誕生を避けたいが為に男は言った。
「悪いけど、ここは私の住まいじゃないんだから、外に出るのは当然でしょ。だから正気狂気の問題にはしてほしくないわね」
「いや、だから、さっきも言ってるだろ。罠やモンスターが・・・・・」
「罠や鍵で先に進めないなら諦めれば済む事だし、モンスターに関しても経験はあるから大丈夫のつもりよ。それとも、永遠にここに閉じ籠もるのが最良な策?」
極端な例えを出してカレンが問うと、男は少し困った表情で両手を上げ、不毛な言い争いをするつもりは無いと表現して見せる。
「・・・なぁ、もう少し視野を広げないか?」
「どういう意味?」
「確かにここに籠城しても行き着く先は餓死しかない。だから俺から提案があるんだ」
「聞きましょうか」
「俺と組むんだよ」
「却下」
一秒の間もなく、カレンが即答する。
「お、おい、もう少し考えてくれても良いだろ」
想像以上の即決力に硬直した男は、一人吸後、我に返って、出発準備を始めるカレンに追いすがった。
「あなたは既に別のパーティと契約しているじゃない。公然と二股かけられるのは好きじゃないの。それに万が一あなたの仲間と鉢合わせになって、私が脅したとか言って責任を押しつけられたりしたら困るしね。本気で組みたいのなら、今の仲間との契約を精算してからにしてちょうだい」
カレンとしてはこの男と行動を共にしたくない感情が強かった。ほとんど偏見に類するが、この手の男は凄い宝を前にすれば、仲間を簡単に裏切る類の人間だと思えてならなかったためである。
「固いこと言うなよ」
突き放そうとする態度にも気づかないのか、男はしつこく食い下がった。彼としては横取りされる可能性のある相手の監視云々以前に、自力での脱出すら不可能であるのを自覚していたため、単独になるのを恐れていたのである。
「常識でしょ。もしくはあなたが私を雇うか・・・・ね」
結局、しつこさに負けたカレンが妥協案を提示する。
「?」
「あなたの仲間と合流するまでの期限付き・・・・と言う事よ」
「・・・・・・・」
男は少し考え込んだ。明らかに損得勘定を精査している様子であった。
「仲間と合流できればそれでお別れ。出来なければ地上に出た時点で契約解消・・・・・道中で見つけたお宝があれば、基本的にそれは折半。それが駄目ならここに籠もって仲間の捜索を待ちなさい」
「わ、わかった。その条件で良い」
まだ何か有利な条件が有るのではないかを思案したかった男だったが、急かされた事によりその可能性を見いだす機会を失い、不承不承頷いた。
「そう、それじゃ、早速行きましょうか?」
「お、おいおい・・・・・」
カレンのあまりにも気の早さに、男は呆気にとられた。
「まず簡単な情報を聞くとか、せめて互いの名前くらい・・・・・」
「事実上、仮契約だし、二人しかいないんだから「あなた」「お前」で構わないじゃない。改めて大勢と行動を共にすることになれば名乗るわよ」
全く興味なしとばかりにカレンは男に背を向け、扉の取っ手に手をかけた。
最初の出だしとしてはあまり良いとは言えない。先頭に立つカレンは脇役Aである男に表情を見せないようにしてそう思った。
来た早々、他人のトラブルの渦中に突っ込むのは、事態が正確に判らないために判断を誤りやすい。そもそも狙いすましたようなこのタイミングは、テレポーター自体の罠ではなかろうかとさえ思えた。
そうした鬱憤さを、カレンは迷宮内のモンスターにぶつける事で解消した。
男が言うように、ここに出没するモンスターは、通常の迷宮のそれとは異なっていた。一般常識で知られる「迷宮に生息するモンスター」もいるにはいたが、それ以上に通常居ないだろうと思われるモンスターが何種類も潜んでおり、その奇異さは山中で水辺のモンスターを見るに等しい程であった。
だが、奇異な敵との戦いに関してならば、彼女は現状以上に特殊な敵との闘いを経験済みであり、迷宮という環境で想定外の相手が現れても、経験を活かした攻撃でそのことごとくを撃退していった。
むしろ問題なのは男の方であると言えた。彼は、戦闘では隠れるばかりで、まるで役に立たず、本業であるはずのトラップ解除も今のところ出番がなく、見せ場という物が一切ないため、公平評価のしようがなく、今は役立たずとして支持率を低下させる一方だったのだ。
「来たっ!また来たぞ!」
喚く男が指摘するものなど、カレンにも見えていた。
相手は守るべき物も部屋も持たずに徘徊する土人形(クレイ・ゴーレム)で、自然的なのか人為的なのか、上半身の大半がスライムで覆われていた。
土人形は武器を装備していなかったが、スライムで覆われた腕で殴られでもすれば、スライムが付着してその身が解かされ吸収されることは容易に想像できた。
近づいての物理攻撃は危険を伴う相手ではあったが、これはカレンにとっては得意分野の敵といえる。
「はいはい止まって!フリーズっ!」
六牙の杖の牙二つから、込められていた魔力が離脱し、氷の矢となって飛翔する。二本の氷の矢は的確に土人形の両膝を直撃し、両足を氷漬けにしてその動きを止めた。続いて六牙の牙の先端から大きな火球が放たれ、動きを制された相手を直撃した。
炎に包まれた相手は生物ではないため、苦しみ藻掻く様子もなかったが、表層のスライムは違った。弱点である火の攻撃に晒されて苦しみ藻掻いているかのように蠢いたが、逃げ場すらなかったスライムは、たちまち沸騰し、焦げ、無害な物体へと成り果てた。
「はいっ、これで終わり」
炎が消え去り、スライムと同時に足の戒めも失った土人形はいまだ動いてはいたが、厄介な鎧を纏っていないそれは、カレンの敵とは成り得ず、喜々として振り下ろされた六牙の杖によって粉々に砕かれた。
「随分、闘い慣れてるな」
これまでのカレンの闘いを傍観し続けていた男が、改めて感嘆の息をもらす。
出会った当初は、美的感覚が常人とは大きく異なる、あるいは悪魔かぶれな小生意気で身の程をわきまえない魔法使いの小娘と認識していたのだが、いざ闘いの姿を目の当たりにすると、魔法攻撃が主体である点は予想通りであったものの、その使い分けが実に巧みで、最適と思われる攻撃で敵を撃退していき、その手際はある意味、呆れるほどであった。
「そうじゃなきゃ、一人で動き回ろうとは思わないわよ」
男の言葉に素っ気なく応えつつ、カレンは倒した土人形の残骸を調べていた。
(・・・・・只のクレイ・ゴーレムね。ゴーレムとしての使うために必須の宝玉に・・・あとは・・・ダメ、こんな焼き土じゃ、判らないわね)
警護という基本的な役目も持たずに徘徊していたゴーレムに違和感を感じたカレンは、残骸らか何かの手がかりでも無いものかと考え、調べたてみものの、魔法に関連する事以外の物を見いだせず、落胆した。
ここにウェイブがいれば、それ以上の何かも見つけられたかもしれなかったなと、今まで行動を共にしたいた仲間の不在を惜しんだ。
「これに心当たりある?」
ほとんど仕方なくといった感じで、視線を男に向けず、カレンは問うた。
「なに?何のこった」
「これ、ゴーレムの一種よ。ゴーレムって本来、重要な部屋や宝を守る番人なのよ。それがどうしてこんな通路で遭遇するのか、その訳を知らないかって聞いてるの」
「そんなの、わかんねぇよ」
男の即答は、何かを隠しているのか、真に無知なのか容易には判断がつかなかった。
(迷った個体なのか、あるいは・・・ここ全体がゴーレムの守っている場所なのか・・・)
こんな時、意見交換できる仲間がいればと彼女は思う。今いる男ははっきり言って信用できる存在ではなく、目の前の事ばかりにとらわれる厄介者でしかなかった。
彼は冒険者の典型的特徴を発揮し、行く先々の部屋を物色しては、自身の行動が宝以外に無い事を証明して見せ、そのうちの数回に一回の割合で、モンスターやゴーレムの待ちかまえている部屋を開放してはその処置をカレンに託し、彼女を苛つかせた。
その都度、彼女は状況を的確に把握して、効率の良い魔法攻撃で対処していたが、回数を重ねるにつれ、内心に焦りがつのり始めていた。
魔法の効率的使用は、無駄な精神力の消費を抑え、常に不測の事態に対する余力を残すためのものであり、単独行動となった時点で意識していた課題でもあった。
だが度重なる戦闘を前に、そうした努力も空しく、彼女の余力は徐々になくなりつつあったのだ。
「やっぱり、消費の方が大きすぎるわね・・・」
「え?何だって?」
通路を進む最中、唐突に自分の手を見て呟くカレンに、男が怪訝な表情をする。
「状況が悪いといったのよ」
その最たる原因は、背後の男ではなく、自身の鎧の不調にあるとカレンは思った。完全回復を待たずにここに来た結果故に、自業自得な訳だが、彼女はそれを改善すべき必要があると自覚していた。
(やっぱり・・・このままじゃ駄目か)
ここに競争相手がいる以上、先を急ぎたいと考えのあるカレンであったが、万全でないまま先を急いで良い結果が得られないと判断した彼女は、進行方向の先に視線を向け、扉のある部屋の存在を確認し、小走りにそこへと向かった。
「お、おい、どうしたよ」
男は急にカレンの動きが変わったことで、何かを見つけたのかと思い、一瞬焦った。だが彼女が向かう先は、これまでも幾つもあった部屋の一つで、これまでの構成から言っても何も、あるいはモンスターしかいないだろう部屋の一つであった。
カレンは男の声には耳も貸さずに扉の前まで行くと、僅かに扉を開け、その中に魔法で作り出した光の玉を放り込む。
「!」
彼女が扉の前から身をかわしたのを見て、何をしたのかを悟った男も慌ててそれに倣った。
ボン!
直後、部屋の中から爆発音がし、中で生じた衝撃に押されて扉が勢いよく開く。
「おい、何やってんだ?モンスターでもいたのかよ」
男の問いかけを意識的に無視して、カレンは舞い上がった埃が治まりつつある室内を覗き込む。
「大丈夫みたいね」
中にはモンスターの死骸どころか備品の一つも転がってはおらず、完全な空部屋である事を確認すると、彼女はその中へと入っていった。
「何かあったのか?」
カレンの後を追って部屋に入ろうとした男だったが、それを戻ってきた彼女が扉前で遮った。
「な、何だよ・・・」
「中には何もないわ」
「なら何で入る」
「今からちょっと装備の手直しをするから、しばらく待ってて」
「手直しだぁ?」
「少し時間がかかって、大変なのよ。それと、くれぐれも言っておくけど、私が出てくるまで、この部屋には入らないで。何があってもよ」
「何?なら俺はどうするんだよ」
「ここでじっとしてれば良いのよ。もし、モンスターが攻めてきたら大声で呼んで。いいわね、呼ぶのよ!間違っても入ってこないで。お願いと言うより、忠告よ」
少し重みのある口調でカレンは念を押す。
「もし・・・もしだ・・・入ったらどうなる?」
その何でもない内容に、妙な凄みがあるのを悟って、男が問いかけた。
「するなと言われた事をした者の末路は昔話でよくあるでしょ。命を失うか、共に居られなくなるか、視力を失うか・・・そうした少なくとも幸福でない未来が確実に訪れるでしょうね」
「・・・・冗談だろ?」
「確かめてみれば?お勧めはしないけど、真実が知りたいならご自由に。待ちきれないなら一人で先に行く選択もある訳だし、好きにしたらいいわ」
涼しげに言うカレンの言葉に、偽りや脅しが一切無いことを感じ取り、男が思わず唾を飲み込んだ。
「他に質問はある?」
男は首を左右に振った。
「じゃ、そう言う事で・・・・」
言ってカレンは扉を閉めると一人お籠もりとなった。
「さて・・・と・・・」
カレンは魔法による光の玉を作り出して薄暗い部屋の灯りを確保すると、改めて部屋の中を見回し、現状を再確認する。
問題となっているミファールの不調は、単純に過去のダメージから回復しきっていないことにある。
これは難しい問題ではない。鎧でもあり生物でもあるミファールは、それ故に時間の経過と共に回復するが、今はその時間が惜しい状態にある。従って、回復を促すために栄養・・・つまりは餌を、できるだけ多く与えれば良いのである。
「少し気が咎めるけど、報酬の先払いって事にしてもらいましょうか」
一人納得すると、彼女はミファールの内側に収納していた人の指ほどのサイズの水晶を取り出す。
この中には彼女が以前、樹海で保護した少女達が入っていた。
事は偶然だったが、助け出した彼女等をそこに残しておくことも出来なかったカレンが、人里に戻った際に解放すると約束し、この水晶に封印という手段で保護していたのである。
「この部屋の広さだと、三人程度が限度ね」
手の中にある水晶を見て呟くと、カレンは鎧に意識を傾ける。それに従い、彼女の身に密着していた鎧が展開して広がり、さほど広くない部屋一面を覆い尽くし、一瞬にして室内を生物の体内にいるような風貌へと変化させた。
「よし、それじゃ・・・・」
周囲の準備が整ったのを確認し、カレンは水晶に向けて囁くように呪文を唱える。
それに伴い水晶が輝きを放ち、封印状態にある少女達の中からランダムに三人が選出され先端部から照射された光と共に解放された。
(みんな、ごめんね~)
選ばれた三人は全員、横たわっていた。解放直後であるため封印時の眠りから冷めていないのである。そんな彼女等の寝顔に小声で謝ると、カレンは相手の意思確認も無しに、事を先へと進めていく。
ミファールは差し出された『餌』に対し、壁から床から触手を伸ばし、大切そうに絡みついて行くと、一人は壁に四肢を固定されてレリーフの様に、一人は天井・床・壁から伸びた触手に絡め取られてクモの巣にかかった蝶の様に直立状態で固定され、一人は床に首から下を無数の触手に包まれた繭状態となって拘束されて行った。
「あれ!?・・・彼女は」
カレンは『クモの巣』に囚われの身になった少女に記憶があった。彼女は『保護』を提案した際、真っ先にそれを承知した最初の一人であった。
「何かの縁かしらね~」
選ばれた者にとっては災難でしかないだろう、これからの行為に対し、カレンは罪悪感等の意識を抱かない。そもそも、これから行われる行為が悪いことであるという意識すらない。それもこれも基本的な価値観の相違と言える。
彼女が遠くない思い出に軽く浸っている間に、ミファールは新たな触手を捕らえた獲物の身体へと伸ばして行った。
異質・不定形生物から伸びる触手の様相は不気味この上ない物だったが、その動きは貪欲に獲物に群がる猛獣とは全く正反対の、慎重さが垣間見えた。
壁と蜘蛛の巣の少女の周囲で十分な数と位置を確保した触手は、一斉に、しかしソフトにその先端を肌に触れさせていく。
見た目とは裏腹に、繊細な動きをしてみせる触手は、女性の指先の様に優雅にそして的確に女体の要所を触れるか触れないかの微妙な動きで這い回った。
「う・・・ん・・・」
眠りの中にあった少女達であったが、その若く敏感な身体は刺激に反応し、悩ましげな吐息をもらす。
当初は夢の中の感覚と思っていただろうその刺激は、まどろみの中にいる彼女達を起こす微弱な揺らぎから徐々に鮮明となり、完全な覚醒と同時に鮮明な刺激となって襲いかかった。
「あ・・・あん・・な、なに、なにこれぇ!?」
少女達はまず、身体を駆け抜ける甘美な刺激に身悶え、次に身体の自由が利かない事に戸惑い、そして身体の自由を得体の知れない物体に奪われている事に驚いた。
「あ、目覚めてくれた?」
覚醒した少女達の視界に、魔法の光に照らされたカレンの姿があった。
「・・・・貴女は!?」
少女達は最初、生物の中の様な部屋の中央に立つ肌着一着だけの姿の女性が誰だか、そもそのこの状況がどういう経緯かすら解らなかった。
だが、周囲の醜悪な生きた壁と、彼女の姿が悪趣味な鎧を纏っていた恩人のそれと一致し、彼女等は封印前のその記憶を一気に覚醒させた。
「何がいったい・・・どうして?」
戸惑いは無理もない。助けてくれると請け負った女性によって放たれた光に意識を奪われ、目覚めてみるとまた囚われの身となっていたのである。前後の事情が全く把握できない彼女達は、唯一事情を知るカレンに問いかけた。
「ごめんね。目覚めは解放の時・・・って、予定だったんだけど、少し困った事態になって・・・協力して欲しいの」
少し悪びれた様子でカレンは言った。だが、その内容以上に深刻そうな状況の説明にはなってはいなかった。
「きょ、協力って?」
「これじゃ、何も・・・」
「心配いらないわ。貴女達はそのまま感じるままに感じてくれればいいの」
妖しげな笑みをしたがえカレンが語ると、それを合図にしたかのように触手がその動きを活性化させた。
「ちょ、ちょ・・・・・きゃっははははは!!なに、なになにぃ~~~!!」
これまで撫でるだけの、ムズムズするような弱々しい刺激しか送り込まなかった触手は、主の許しを得て、獲物の衣服の中に潜り込み、遠慮なく蠢きだしたのである。
「やっ、やだあぁぁぁぁぁ!きゃあっははははははははっはっあっああぁぁぁ!!」
突如強まったその刺激は、身動きを許さない少女達に容赦なく襲いかかり、彼女等は逃れる事のかなわない感覚にその身を震わせた。
衣服の中の触手は、先端を少しだけ硬化させ、それを用いて少女の柔肌を軽く爪で引っ掻くような刺激を与え続ける。
それは的確に女体がくすぐったく感じるポイントにあてがわれており、一箇所だけでも十分な効果がある刺激を全身の至る所から送り込んでいった。
「やめ・・・やめてぇ~~~!!ああっははぁぁあっはっははっはははは!あはぁっはっははっは~!!」
「これがっ、これがどうして協力になるのぉぉ!いやっっ、いやぁぁああ~~~~!!」
「実はその触手や壁ね、私の鎧なのよ」
もっともな質問に、カレンが冷静に説明を開始する。
「よ、よっ、よろっ、よろぃひゃははははははは!あははははははははあははははは!!」
壁に捕らわれた少女はそれだけ言うので精一杯だった。それ以上の言葉を口にしようとしても、絶え間なく生じるくすぐったさがそれを押しのけ、笑い声を強制的に生じさせていた。
それでも何が聞きたいのかを承知しているカレンは、笑い悶え苦しむ彼女等を尻目に話を続けた。
「そ、鎧。見ての通り生きてるんだけど、ちょっと激しい戦闘があって負傷しちゃったの。そのままでも通常の使用には問題はないんだけど、今、その通常とは言えない状況でね、それで手っ取り早く回復するために貴女達に手伝ってもらってる訳なのよ」
「きゃははははははは!!くすぐった~い!!いひひひひ、あははははは!!こ、これが、何でなぁぁぁんでぇぇぇ~~~~あ~っはははははははは!!」
「生きているって言っても、私達みたいな食事で栄養俸給している訳じゃなくてね・・・今、貴女達が感じている状況の精神派が栄養になってるのよ。だから、そのまま楽しんでくれたら良いのよ」
「いはははははっ!!たのしっ、た、たのっ、楽しんでなぁぁぁ~~~い、い、ぃいあひゃあっっははははははははは!く、苦しいぃ!!苦しぃだけっ、あははははははははは!!ひゃぁ~っはははははははははは!!」
蜘蛛の巣状態の少女が大声を張り上げ、激しく身を揺らして笑え悶える。
彼女にとって渾身の力に加え、各所をくすぐられる苦しさから生じる最大の抵抗だったが、拘束している『巣の糸』を形成している触手は、指の太さほどもないにも関わらず、凄まじい弾力によって獲物が自力脱出するのを拒み続けた。
「きゃぁぁ~~~っはははははははははははは!!!し、死ぬっ!!死ぬってばぁぁ~~っはははははははははは!!ひぃっひひひひひゃはははははは!!死んじゃうよぉ~!」
さらけ出された弱点を執拗に責められる『壁』と『蜘蛛の巣』の少女より、更に深刻と言えたのが、床に転がる少女であった。
首から下を触手に覆われ、見かけは砂風呂に似た状態にある彼女は、覆われた部分全て、が触手による刺激を受けるという、見かけとは全く逆の事態となっていたのである。
少女の身体と触手の間には僅かながら隙間が生じており、内部に向いた触手の先端がありとあらゆる箇所をクリクリと、時にはブルブルと多彩な動きでもって刺激していたのである。
「うわぁははははははははは!!ひゃはははははははははは、あはっあはっ、あはははははははっ!!無理、もうムリぃぃい~~~!!ほんとに、ほんとにぃ~~~~!」
どんなに藻掻こうが、身体を覆う触手は歪みすら生じさせず、包み込んだ獲物に気が狂わんばかりのくすぐったさを容赦なく送り込む。
触手が蠢くために設けられた僅かな隙間が彼女の身体の動ける限界であり、その程度の自由では、刺激を送り込む触手から一瞬の離脱もあり得ない。
更に不幸な事に、床に横たわる状態で捕らわれた彼女は、その姿勢から足の裏を無防備に晒していた。
全身を指先で引っ掻く様に、時には舌で舐め回すような刺激を不規則に与え続けた触手は、身体の反応を見定め、反応が若干鈍化したと判断した途端、これまで刺激を控えていた足裏に、集中的な責めを行った。
「!!!!!!~~~~~ぃ~~~~ひゃっっっっはははははははははははは!!あ、あ、あ~~~~~~~っっっははははははは!うぁっ、うひゃははははははは!!や、くぁっははは、う、うぃあははははは、あぁぁぁ~~~~~!!!!」
足裏の柔らかい部分を縦横に引っ掻かれ、足指の間を人とは異なる生物の舌が舐め回すような感覚は、言葉に表すのも困難で強烈なくすぐったさを彼女に与えた。
その痛烈さは、足への刺激がこれまで少なかった為に、全身のくすぐったさが全て二つの足裏に集中したかの様だった。
彼女は一生の力を振り絞るような思いで足を動かしたが、現実は厳しくその身体は脱出の兆しをまるで見せることはなかった。
「はっ、は、はっ、はひゃっははははっっあひっっはあははははははは!ダ、ダメ!ほ、ほんと、だめぇ、うくっっひゃっははははは!!」
延々と続けられる、あまりのくすぐったさに少女は咳き込み、息を激しく乱すが、それをも押し出すように沸き上がる笑いが彼女の表情を歪めさせる。
今、彼女が唯一自由になるのは首から上のみで、自身の状態を首を激しく振る事で表現していたが、それで責めの苦しみが緩和する事はない。
「苦しそうね・・・」
カレンが意地悪く笑い悶え続ける三人を見回した。ミファールの責めを身体で熟知している彼女は、目の前で繰り広げられている行為に参加したい欲望に駆られていたのだが、今回はミファールの回復が済めばすぐに未知の迷宮探査が再開され、いつものような休息の一時ではない。
程度の度合いに関係なくミファールの『食事』作業では、どうしても体力の消耗が生じるため、先に何が起きるか解らない状況での疲労は避けるべきなのは当然であった。
「いひっいひひひひひ!!くくっ、苦しぃいいい!!苦しいわよぉ~!」
「お臍ダメっ!あはぁあああぁ、あ、足の裏もぉぉ!脇腹、脇もっどこもだめっ!くすぐったぁぁぁぁぁぁぁぁぃぃ~~~~~!ダメえぇぇ~!!」
「私もっっわっ、わっ、ムリぃぃい~~~!!!やぁっははははははははっははあああ~!!」
少女達は口々に叫んでカレンの言葉を肯定した。それによって我が身に生じる苦しみが終焉に向かうことを期待しての、渾身の願いを込めた物だったが、この場の支配者は彼女等が期待するように首を縦には振らなかった。
「そう、苦しいのね。だったらまだまだ本番はこれからね」
カレン笑みは少女達の目には悪の魔女に見えた事だろう。だが彼女の笑みには悪戯心ではなく、ある種の嫉妬心が滲み出ていた。
本来なら、自分が得る悦びを他者に委ねた口惜しさが、彼女等を早々に楽にさせようとはしなかったのである。
「うそっ!うそぉ~!!いひゃはははははははは~!!こ、これ以上は無理ぃ~!うやぁぁぁ~~~!!」
「うぁはははははは!!ほんとに死ぬっ!死んじゃうってばぁっはははっははははははあぁ~!!」
「やめてえぇぇぇ~~!!やめっ・・あはははははははははぁ~!!」
「死なない死なない。これからが凄いんだから」
経験者のカレンが言い切ると、それを示してみせるかの様に触手の一部がその動きを変化させた。
三人の拘束状態によって多少の差異があるものの、触手は少女達の首筋・胸・背中・尻・足の付け根・太股、そして足の親指と親指の間に位置する要所と言った、俗に言う女性の性感帯に対してくすぐりとは異なる刺激を送り込み始めたのだ。
「ははははははあはっっっはははは、はっはっはひぃぁぁぁぁん」
予期せぬ感覚が不意に身体を駆け抜け、少女の悶笑の声に、艶やかな色が混じった。
触手も動きそのものは撫で擦る様な動きで、くすぐり行為と酷似していたが、肉眼では判別の難しい力加減によって、全く違う感覚を生み出していた。
汗と粘液によって触手の滑りが助長される事で、効果が倍増されている感触は、抗いようのない快感を身体の各所から生み出し、少女を襲う。
「あひゃっははははあははぁぁぁん、いひゃははははぁぁぁあん、いやっぁぁぁん」
経験のない彼女達の目では触手の動きの変化など解ろうはずもなく、衣服の中でその動きが生じる度、苦しげな笑いの中に、快楽を示す声が混じり合わせた。
それは、少女の身体に打ち寄せる激しいくすぐりの波に紛れ込んだ、僅かな悦びの小石の衝突であり、その間隔は全く不規則で予測不能であった。
だが、悦びを招く刺激が生じると、少女達はそれを受け入れ、次の波が訪れるのをくすぐりに悶えながら待ちかまえる。
だが、彼女等が望む間に合わせてそれが訪れる事はなく、また位置すらも予測させようとしない意図が見え隠れする。
何度か乳房周辺で規則性を見せておきながら、急に刺激を中断し、そろそろ来て欲しいと焦れったくなったところで、背筋を不意打ちし、その性感を弄ぶ。
快楽の刺激に期待感をつのらせると激しいくすぐりが全身を襲い、それを堪えようとすると甘美な快感が要所を刺激して精神的防壁を開けようと誘う。
当初くすぐり責めの狭間に潜んで襲いかかっていた快楽は、徐々にその波長をくすぐりに合わせ、やがて、くすぐりの中にまで潜みだし、いつしかくすぐったさと快感が同時に押し寄せるようになっていた。
そうなるともう、彼女等の精神的抵抗も限界となり、二つの異なる刺激が融和し、くすぐりそのものが快楽に感じようになるのも当然の帰結であった。
少女達は自分達の状況で出来る限界いっぱいにのたうちながら笑い悶え、無制限に沸き上がる感覚を抑える事も出来ず、一気に溢れたそれに飲み込まれていく。
「「「はぁっ、はぁぁぁぁぁぁあああああぁ~~~~~~~~っっ!!!!」」」
三人は、仰け反って絶叫しながら、ほぼ同時に絶頂に達し、これまでに味わった事のない強烈な快感を全身で受け止め、次々に気絶して行った。
そうして彼女等が意識を失い、脱力するのに反し、周囲の肉壁を構成するミファールは激しく脈動し、その色を更に新鮮な色へと変化させていった。
「・・・・・・・」
入れば不幸になるという忠告を受け、外で待っていた男は、いつ訪れるか分からないモンスターとの遭遇の恐怖と同時に、中でカレンが何をしているかという好奇心と戦っていた。
そうした二つの思いは、時間の経過と共に後者の方が大きくなり、やがて平穏な状況がしばらく続くと、完璧に興味一色へと移り変わる。
男は無言のまま、そっと扉に耳をあてようとして、ふと思いとどまり、扉の横の壁に聞き耳を立てた。扉では急にカレンが出てきた時、言い逃れが難しく、壁ならウトウトしていたなどという不自然な姿勢に対する言い訳も出来るだろうという、姑息な考えの結果である。
最初は何も聞こえなかったが、男が耳に神経を集中させると、徐々に中の音が聞こえ始め、それが若い女の甘い声であることに気づく。
「な、なんだぁ?」
最初は聞き間違いかと思った。だが、再度聞き耳を立てても、それを否定するような音は確認できず、それが現実の出来事であることを認識した。
(あの女、こんな時に一人遊びかよ!?)
呆れる様に呟きながらも男は少し興奮した様子で、更に聞き耳を立て、中の様子を妄想する。何が原因かは分からない。だが、中の出来事が想像通りであるなら、カレンが入室禁止とした事も、彼の中で合点がいく。
つまりは、何故か欲情した身体を鎮める行為にふけっている姿を見られないようにするための、牽制だった・・・と、解釈したのである。
そう判断した途端、男はゆっくりと物音を立てないように努めて扉の取っ手に手を伸ばすと、静かに慌てず扉を少しだけ開けた。
男の悲しい性が、耳にした情報から想像した妄想によって奮起し、中を覗きたい誘惑を増長させた。僅かに抗う理性もあったが、おそらく行為に夢中で気づかれないだろうという楽観論が男を突き動かし、僅かなすき間から覗けば大丈夫だろうという結論に行き着かせた。
一般論からすればそれは過ちとも言えなかったであろうが、今回は根本的に判断ミスであった。
カレンのミファールの存在からして想定外であったため、そうした判断ミスは仕方のない事ではあったが、結果として男は、彼女の忠告を破った事となる。
(・・・・・?)
邪な期待を込め、中の扉のすき間に目をやった男は、中の様子が全く見えない事に疑問を抱いた。
あちこちに視線を向けても何も見えなかった結果、更に扉を開けてすき間を広げることにより、ようやく彼は扉の空間全体にあるはずの無い『壁』がある事に気づく。
(!?)
そしてそれが無機物でなく、得体の知れない肉壁であることに気づき、それに仰天した瞬間、肉壁から触手が針のように伸びて男に襲いかかった。カレンの忠告の理由となる、ミファールの防御本能が働いたのである。
男は思わず身を引くが、不意を突かれた彼にかわす術はなく、伸びた触手の針は男の右目を刺し貫いた。
「がぁぁぁ!!」
目に焼ける痛みを受け男は仰け反り、転がるようにして扉から離れる。
その一連の反応で、扉は大きく開かれ、一面を多うミファールの肉壁があらわになると、男の妄想が別方向に加速した。
「な、なんだこりゃ!あ、あの部屋のトラップか?あの女、喰われたのか?そ、それとも、やっぱりあいつ、魔界かどっかの化物・・・・」
目の前に醜悪な物体があれば、その方面の想像しか沸き上がらないのは至極当然であり、夢と思いたくとも、視力を失った目の痛みがそれを許さない。
時折、脈動を行う肉壁を見て、男の恐怖感は一気に限界に達した。
(まさか、この迷宮自体が生きている??)
勝手に増幅した恐怖に負けた男は周囲の状況など考える間もなく、悲鳴とも思えない奇声を上げ、その場から一目散に離れていった。
それからしばらくして、三人の少女の助力によって得た『栄養』でミファールを完全回復させたカレンは、協力者を再び水晶に封印し、ミファールを身に纏い部屋から出て、外にいるはずの男がいない事に気づく。
「待ちきれなくて行ったのかしら?」
周囲に戦闘跡が一切無い事からの判断だったが、更に注意して見て、扉付近に血痕がある事に気づき、事実を概ね理解する。
「正直者にはなれなかったのね」
一人呟くと、彼女はよくある昔話の例にならった男の存在など綺麗さっぱり切り捨て、迷宮の中を歩き始めた。
ここにあるだろう、結界破壊のキーポイント魔法陣を求めて・・・・
あとがき
カレン編
実のところ、彼女の章の執筆は結構苦手です。
まず、性別が違うので、女性の心理状態が完璧に私の空想のため、自信がありません。
こういう考え方をする娘もいるだろう・・・
と、思いながらも、本当か?
と、自問する事もあります。
特に恐れているのが、後に現れるだろう、彼女の新たなパートナー役に対しての感情・・・
こればっかりは男妄想100%になる事は疑いようもなく、場合によってはコロコロ変化する可能性もあるかもしれません。
まぁ、それはタール&ウェイブのパートナーにも言える事ですが・・・
ともあれ、他の二人とは異なり、パートナー登場には少し間のある彼女です。
それまでの間に、どんな奴か想像していただくのも一興かと思います。