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2012/12/21(金)に投稿された記事
第2章 カレン編 1-7 -魔女躍進-
投稿日時:14:34:25|コメント:2件|》本文を開閉
ディレクトリ:くすぐりの塔AF -魔王の後継者達-
今回は、これでおしまいだよ!!
キャンサーさんの書かれる作品を見ていると、いつも思うんですが、
バトル展開ってのを俺は書けないので、いつも羨ましくて仕方ありません。
バトル展開って難しい。
剣と剣がぶつかり合う描写なんて俺には無理だ。
俺が書くとしたら・・・
森の木々を揺らすように、鳥たちが一斉に大空へ舞い上がった。
鈍い鋼がぶつかり合う音と共に、昼間であるにも関わらず日差しの届かない森の奥で、何度か火花が散るのが見える。
遠い空には夏の終わりを感じさせるように、大きな入道雲がわき上がり、微かな雷鳴を轟かせている。
その雷鳴を切り裂くようにして、森の中から届く音は、時折空気を裂き、ぶつかり、そして……
一方その頃、チルノは自分の腋の下の中で蠢く、大妖精の指が、執拗に送り込んでくるむず痒い刺激と戦っていた。
地面を転げ回り、洋服の至る所が土で汚れている。
その大きな瞳からは、笑いとあまりに執拗な大妖精への恐怖から、涙が流れ出し続けていた。
ってなんでじゃ。
さあ、みんな、今日の俺は大体こんな感じだぞ!
そこがカレンの任地であった。
案内者ランジェラによる、そこでの紹介は、実に簡素であり必要最低限なものに止まった。
これは、彼の個人的な見解や意見などをふまえて紹介などすれば、ある意味特別扱いとなって、身内の中で不必要な対立を招く事を経験で熟知しているからに他ならない。
そうでなくとも、破格な報酬を狙っての対立が少なからず生じてしまう環境下では余計な火種を可能な限り作りたくないのは、ランジェラの様な組織の運営側にしてみれば当然の心境であったであろうが、内心の不安を拭いきれないでいた。
これまでの経緯を見る限り、カレンの気質は、基本的に仲間を作るのに向いていない気がしてならなかったのである。
だからこそ、当初はありきたりなグループ任務に着任してもらい、何人かの仲間を作ってもらい、後々にその面々で遊撃隊チームを編成するのが有効だろうと思っていたのだが、人事に発言力のある者の、個人的感情による悪意が、そうした良案を揉み潰していた。
純粋な戦力として見る限りは、カレンは十分に合格者である。だが、その力が敵ではなく仲間内の対立に向けられた場合、取り返しのつかない事態に陥る可能性も十分なあったため、彼はしつこいくらい、カレンに仲間同士の対立、特に戦力の奪い合いは御法度だと説明していた。
彼女は素直に了承はしていたが、その時の笑みが逆に不安を煽っていたのであるが、紹介が終わり干渉の権限が無くなった今となっては、祈るしか無かった。彼女によって生じる両極端な可能性如何によっては、ランジェラの今度の栄達にも影響が及ぶのだから・・・・・
「う~ん・・・・」
カレンは、拠点内広間の壁一面に貼られている地図と向かい合って唸り声を上げていた。地図には色付けによって自陣の勢力が、そして○印等によって各拠点が区分されており、その面積や数で見れば、状況はほぼ互角と見て間違いはない。
「何か・・・判らないことでもありますか?」
シーノイ地区拠点、サポート要因であり、カレンが場に慣れるまで世話をするようにと指示された女性シーニャは、何度も首を傾げるカレンにの背に恐る恐る声をかけた。
「え~っとね」
呟いてカレンが振り向いた瞬間、シーニャは身を強張らせて僅かに退いた。これまでに見たことのない生物的で、禍々しさを感じさせる『鎧』と、それを平然と着用できる彼女そのものに気圧されているのである。
「・・・・・いい加減、慣れてよ。あなたを取って喰いはしないわよ」
「いい加減にって・・・・まだ、二時間と経ってませんよ~」
もともと生き物に関し、家畜動物以外が苦手なシーニャにしてみれば、生物感たっぷりの鎧は(実際はそうなのだが)異形の生物としか見えず、近づくだけでも神経がすり減る思いがするのである。
「そんな事より、こっち」
「現在地・・・・この拠点はここよね?」
「はい」
「で、私達の本部がこれで、敵がこっち。勢力圏の中央に位置していて、それぞれの縄張りを守る拠点が、各所このマークよね?」
「はい」
「ボードゲームはあまりやらないから判らないんだけど、シーノイ・・・だっけ?ここと、敵のこの拠点、なんでこんなに近いの?地図的にはほとんど目と鼻の先じゃない?」
「それは・・・」
「ここが、勢力の境界線だからだよ」
口を挟んだのは、広間でくつろいでいた傭兵仲間であるバイマンという、ウェイブより一回り程大きい体躯の持ち主で、その身体のあちこちに無数の傷を持った、戦闘が趣味だとでも言いそうな風体の男だった。
「まぁ、ここに限った事じゃないが、双方の境界線は争奪戦の対象になる。奪ったり奪い返したり・・・・牽制しあったり・・・・それの繰り返しの結果、睨みを効かせる為にこんな近距離に拠点ができあがったって訳だよ」
「つまりは泥仕合の挙げ句の結果って事ね。あなたは不甲斐ないと思わないの?」
「あん?」
「戦力として雇われて、期待された結果を出していないんじゃないのって聞いてるの」
「耳の痛い話だな」
「自覚はあるのね」
「当たり前だ。だがな、これは個人の戦闘じゃない。やったらやり返す、やられたらやり返すって、集団による不毛な連鎖だ。俺みたいな戦士じゃ、現状維持が関の山さ」
「双方のトップに、短期決戦って言葉は無いのかしらね?」
「駒が駒に聞くなよ。単に勝敗の結果だけじゃなくて、手駒が多く残したまま勝利したいんだろ?」
「手駒?」
「つまりは、支配する相手だ。全面戦争して、この街の人口が激減したら、支配者気分も削がれるだろ。それが嫌なんだろ。不毛なことこの上無しだがな・・・・」
「そう思ってるなら、何故あなたはここにいるの?」
「報酬が気に入っている・・・・と言えば納得するか?個人的事情、都合、役割だ。そこまで話す義務も義理もないだろ」
「・・・・そうね、失礼したわ。じゃ、少し出かけてくるわ。シーニャ、案内お願い」
「出かける? どこに?」
「そんなの話す義務は・・・って、言いたいところだけど職務に絡んでいるから有るのよね・・・・私はピカピカの新人だから、無垢にも、期待された結果を出してみようかと思ってね。当面の敵を見物しに行くわ」
「・・・・・・あそこにか?」
「敵も知らないんじゃ話にならないでしょ」
「確かにな・・・・だが、欲望より生存本能を優先させろ。何を報酬に望んでるかは知らないが、命あっての事だからな」
「ご忠告ありがと」
「地図で近いとは思ってたけど、本当に近いわね・・・・」
町の高台のすぐ向かい側と言って過言ではない場所に建つ、物々しい館を眺め、カレンは呆れた様に呟いた。
周囲の建物などが無ければ、自分達の拠点からでも肉眼で十分に状況が確認できるだろう距離に、それはあったのだ。
三階建てで奥行きにもゆとりのあるそこは、収納人数だけで言えば、彼女達の拠点を越えるだろう事は十分に予測できたが、やはりそれだけでは決め手に欠けるのだろう事は、現状が物語っていた。
「向こうも気合い入れてるのね。随分、頑丈そうな外装ね」
「はい、呪文処置を行った耐火レンガの壁に、魔法金属の支柱と、基本的な構造からして襲撃前提の設計な上に、土台にも結界魔法陣を描き込んでいますから、魔法での奇襲はほとんど無効化されてしまいます」
「ふ~ん・・・・」
「それじゃ、帰りましょう。当面の敵の所在地も把握したことですから・・・」
「・・・シーニャ、焦ってる?」
「それはそうですよ。カレンさん、その装備で目立ち過ぎているんですから、じきに気づかれますよ。その上、向こうがカレンさんに見覚えがないと来たら、敵側の傭兵って自動的に認識されるようなものです。見物に来ていきなり戦闘なんて、あり得ないですよ」
泣きそうな表情で鎧の端をつかんで引っ張ろうとするシーニャに、カレンは静かに言った。
「そうでもないわよ・・・」
「はい?」
「私は一応、そのつもりで来たわけだし・・・・」
カレンの周囲に、幾つもの光球が発生し始めているの見て、シーニャは思いっきり青ざめた。
「な、何です、その光の球は?ひょっとして今、まさに襲撃するつもりですかぁ?」
「うん、相手の実力の程も確認したいと思って・・・別に規約違反じゃ無いでしょ?個人の行動は自己の責任において任せる・・・とか、何とか言ってたし」
「そうですけど、私の話、聞いてました?あの外壁は魔法防御レベルが高くて、かなりの使い手でも、傷つける程度で精一杯で、過去何人も後悔してるんですから」
「その後悔した人達にも、同じ説明あったんでしょ?」
「え・・・はい」
「それで、その人達、素直に忠告を聞いたの?」
「・・・・・・・それは」
「それじゃ、今回も諦めて。そして見届けて。私は別にこの攻撃で、あの拠点を潰すつもりは無いんだから」
「へ?」
「それじゃ、オーソドックスに第一波」
カレンが左腕を前に突き出すと、彼女の周囲に滞空していた光球の半分である六個が、目標とされた敵拠点の屋敷に向けて飛来した。
光球は、飛来中に火球へと変貌して広がりを見せると、外壁に着弾する寸前、自爆して爆裂し、広範囲に衝撃と炎を撒き散らす。
もともとその建物が何であるかを街の一般人は知っていた為、いつ何時、こうした事態があるかと恐れていたため、人通りは皆無であり、一般人に被害が及ばないのを見越しての攻撃であったが、忠告にあった通り、その館の強度は申し分なく、並の造りであれば、半壊間違い無しであっただろう攻撃にも、ろくな損壊を見せていなかった。
「へぇ~~~~本当に、無駄なほど頑強なんだ」
「ね、判ったら逃げましょ。このポジションなら逃げやすいですから、ね!」
「何、言ってるの、逃げやすいんじゃなくて、攻撃しやすいのよ」
「え?」
「論より証拠。ホラ」
カレンが眼下を促すと、館の正面口から何人かの男達が、各々の武具を手に姿を現し始めていた。
彼等は、自分達の住まいの防御力に信頼を持っており、その認識を相手にも期待していたのだろう。無駄に等しい襲撃により、ささやかな休息を邪魔されたとあってかなり不機嫌そうな顔立ちで襲撃者を捜し、程なくして見上げる位置に立つ、カレンの存在に気づいた。
「あの野郎か?」
「野郎じゃない、女だ。先日、この近くに流れてきたのを見たことがある・・・・が、敵についたか」
「何にしても一人かよ」
「大馬鹿だな」
「一人?」
指摘されたカレンが左右を見ると、シーニャは既に彼女の陰に隠れて男達の視線から身を隠していた。
「カレンさん、もう良いでしょ~手柄を得る機会とか、何時でもありますから、いきなり獣の巣に飛び込むマネは止めて下さいよ~」
「何言ってるの、あの程度は獣とは言わないわよ、単なる大馬鹿。あるいは害虫かな」
言ってカレンは、残る六つの光球を、先程と同様に、館に向けて放つ。
「ははっ、無駄だってのに何やってやがる馬鹿が」
「馬鹿は貴方達!」
そう断言してカレンは光球をコントロールし、壁に着弾する前に、急降下させた。
「貴方達の肉体と装備は、外壁に匹敵するのかしらね?」
おおよそ結果が判っている質問をあえてしながら意地悪な笑みを浮かべると、彼女は容赦なく光球を爆裂させた。
たちまち館の正面口近辺が火と悲鳴に包まれた。
火が衣服に燃え移った者は、その熱さと恐怖で、その難を逃れた者でも、火に囲まれる事でパニックとなり、場は一瞬で混乱状態となる。
「やっぱり過保護な巣に頼り切ってた程度の連中ね」
眼下の混乱を見て、カレンは敵の技量をそう判断した。
「問題なのは・・・・どのくらい、あの中に残ってるか・・・よね」
実質的な障害は数のみと判断したカレンの意見を示すかのように、数人の男が炎の壁から外へと飛び出してきた。
おそらく後発組で、魔法攻撃の直撃を受けなかったのだろう、火に対して覚悟を決めて突っ込み、その先にいるカレンに向けて手にした弓矢を構えだす。
もちろん、カレンもそれは視界に捉えており、そうした行動も予想していた。右手の六牙の杖の先端を眼下の連中に向けた瞬間、敵の館の三階の窓が一斉に乱暴に開けられ、そこから複数人の男が姿を現し、これまた弓矢を構え出す。
下からの攻撃に対しては、僅かに位置を変えることで相手の死角になることから、正面の、つまりは窓の方の攻撃に警戒しようとしたカレンであったが、自分の背後にシーニャがいるのを思いだし、素早く方針を転換する。
彼女は素早く六牙の杖を全面の館の方に向け、最先端から風の魔法を発動させ、同時に放たれていた矢の軌道を変えさせると同時に、左手に魔力を込めて光の矢を下の連中に向けて連射する。
魔力発動体を経由させなかった強引な攻撃で、威力は多少なりとも劣ったが、相手を牽制させるには十分であり、こうして得た時間を用いて、再び六牙の杖に魔力を込めると、大きく振るって、風の影響を受けない光の矢を新たに放つ。
「!!?」
叩きつけられる礫の様に迫るそれを見た館の連中は、慌てて窓から離れて身を隠し、外壁による防御で難を逃れた。
「あの魔法使い、正気かよ」
本来なら、先程の風による防御でやり過ごした時点で、単独行動では限界と引き際を感じ、後退すべきところを、尚も反撃してくるカレンの姿を見て彼等は思わず本音で叫んだ。
一旦、場が膠着すれば、単独の魔法使いの方が絶対的に不利になるのは誰の目にも明らかなのである。それを無視するのは、この後に増援があるか、あるいは、自信過剰が過ぎているのか。
少なくとも、増援の姿は三階からは確認されていない。
その事実によって、相手が後者に分類されると判断した一同は、後衛に控えていた仲間の魔法使いを窓に呼び寄せ、反撃に移ろうとした。
仲間の意図を察した魔法使い達も、足早に窓へと近づき、魔法攻撃が無いのを伺って、素早く構えて窓に立つが、ほぼ正面にいたはずの相手は姿を消しており、込めた魔法を叩きつける先を探した。
「下だ!」
目標たるカレンは、二呼吸ほどして捕捉される。彼女は、先程の攻撃の直後、下に向かう階段を駆け下り始めていたのである。
既に下で構えていた弓兵達は、館へ向けられたのに数倍する光の矢の雨に射抜かれ、戦闘不能に陥っていた。
「我が六つの牙に宿りし六色の魔力、集いて眼前の敵を滅するべし!」
気分の乗ったカレンが不必要な呪文詠唱の真似事をして、六牙の杖の『牙』に異なる魔力を込めていく。
「させるか!」
館の中の魔法使い達は、六牙の杖が放つ六色の光に本能的な危険を感じて、それを阻止すべく、各々が得意な魔法を即席で放った。
詠唱の呼吸を乱せればと画して放たれた数本の魔法は、その最低限の目標すらも達成させることは出来なかった。
「「なにっ!?」」
魔法は正確にカレン目指して直進し、溜めを行っていたため動きの無かった彼女をことごとく捉えた。
だが、炎・雷・光と言った、数種の魔法の矢の全てが、彼女に直撃する寸前、意思を持ったかのように動き、庇った鎧の巨大な肩当てによって遮られ、まったくダメージを与えることが出来なかった。
「無傷・・・いや、小揺るぎもしてないだと?」
「何だ、あの鎧は?」
「数発分の魔法を受けられるだけの対魔法処置が施されているってのか!?」
この時、素早く弓矢という物理攻撃に交代していれば、魔法の溜めという目標だけは達成できたかもしれなかった。だが、始めて目の当たりにした自分の常識外の現実に目を奪われ、そうした判断に至るのが遅れてしまった。
「六魔光弾!行ってみよう!!」
六牙の杖から六つの光弾が同時に放たれ、近距離にあった館を直撃する。
館の外壁は、その対魔能力を発揮したものの、その威力の全てを抑える事は出来ず、その残りを外壁そのものの耐久力で補っていたのだが、複数種の混合破壊エネルギーに耐えられるはずもなく、分解消滅し、館は左側1F部分を中心に引き千切られたかのような傷跡を作り、要となる柱を何本か失い、建物としての強度・バランスを大きく損ない、やがて自重を支えきれなくなって倒壊した。
この一撃で、全ての決着がついた。
カレンの考えていた通り、中にはまだ戦力の余力があり、少しの降着が生じれば反撃に移れるチャンスが残っていた。
だが、彼女の速攻がそれを許さず、結果『巣』の中で出番を待っていた状態で、大半が倒壊に巻き込まれてしまう。
無論、生存者もそこそこいたが、防御面での拠り所っであった館を粉砕された連中に、戦意がろくに残っているはずもなく、カレンの言動に不安を感じ、その後の爆音を聞いたバイマンが、動ける仲間を集めておっとり刀で駆けつけた事が、カレンの部隊の本体と錯覚され、敵はあっさりと降伏してしまい、均衡・緊張状態であった、シーノイ地区は、あっさりとクレイシア正当自治武会の勢力圏へと変貌した。
「・・・・・・・・」
崩壊している敵拠点を背景にして歩み寄ってくるカレンを、バイマンは驚愕の表情でもって迎えた。
「若い女性を前にして、そんな化物を見るような目は止めた方がいいわよ」
「俺は化物を目にしているつもりなんだがな・・・・」
「爆発音を聞いたからまさかと思って助けに来てみれば・・・・無駄足になるとは思っても見なかった」
瓦礫と化した館を見て、いまだ信じられない面持ちのバイマン。
「あら、助けに来てくれたの?」
その言葉を本当に意外と感じてカレンは問うた。
「毎回、腕に覚えのある新人は似たような事をするからな。間に合わなかったケースも一度や二度じゃ無かったが、こうした意味での間に合わなかった・・・・は、初めてだよ」
「手柄を一人占めして悪かったかしら?」
意外に仲間意識の強い人物なんだと、カレンは目の前の傭兵に笑みを浮かべる。
「いいや、俺に対しては気にするな。ただ、今後は、何をしでかすかは教えてもらいたいな」
「そうするわ」
そう答えた彼女の中では、既に次の闘いに向けての闘志が燃え上がっていた。
シーノイの一戦を契機に、カレンは躍進する。
仲間内で敵味方の話を聞く限り、両陣営にずば抜けた使い手は存在していないと判断した彼女は、積極的な敵陣攻撃を繰り返してはその勢力図の書き換えに貢献した。
容赦のない、魔法による圧倒的な攻撃で主戦力と戦意を奪い、後詰めのバイマン達が敵陣を確保~維持が出来たと同時に、次の地域への侵攻を行うといった流れ作業のような電撃的侵攻がある程度定着すると、カレンの存在は自然的にその名を高めた。
特に敵陣営からは、莫大な報償が賭けられ、彼女を倒すべく多くの人員と、多彩な戦法が用いられ、その存在は台風の目と化していた。
日に日に増えてくる敵と、彼女の存在を前提とした防衛戦に、さすがにその侵攻ペースにも陰りが生じていたが、それはそれで、敵戦力が一極集中している傾向を示し、他の地区の戦力を少なからず削いでいる一面もあり、他地区の侵攻を間接的に援助しているという評価にも繋がり、カレンの功績はほとんど鰻登りの状態となっていた。
組織の運営者達にしてみれば、こうした強力な戦力の登場は喜ばしい物ではあったが、現場で実際にその闘いを見ている者達からすれば、頼もしいと言う感想を通り越し、その鬼気迫る様相に、恐怖を感じているのが実状だった。
そんなある日、長いつき合いと言うほどの日数も経過していなかったが、味方内でおそらくは最も彼女の闘いを見ていたバイマンは、当初から抱いていた疑問を直接、カレンに投げかけた。
「なぁ、カレン、あんたは何でそんなにも必死に闘うんだ?」
「必死に見える?」
日課のようになっていた地図とのにらめっこを続けながら、カレンは軽くとぼけたように応じた。
「ああ、まるで全て自分の力だけで決着させようかって勢いを感じるな」
「まぁ、ホント言うと、その気でやってるんだけどね・・・」
さらりと認めるカレンの口調には、現状に満足していない響きが含まれており、それが一層バイマンの疑問を増長させた。
「何故だ?ひょっとして俺達の力をアテにしてないか?」
「そうでもないけど・・・・修行の一環ね」
「修行?」
予想外だった返答に、彼は次の言葉に詰まる。
「そう、修行。凄腕の傭兵とか傭兵団とか魔獣でもいたら、私的には好都合だったんだけど、どうやら向こうにはそんな人材は居ないみたいだから、数を相手に修行させてもらってるのよ」
バイマンはその答えを信じなかった。
「冗談だろ?カレンの実力は既にこの辺りじゃダントツだ、修行の必要性があるとは思えないがな」
「そう思う?でも、この世界も、その向こうの世界も、思った以上に広いモノよ」
そう断言して、カレンはバイマンに視線を向け、決意の表情をもって語り続けた。
「私にはね、目標にしてる相手がいるの・・・いいえ、目標と言うより、せめて足下には及んでみたいって思った相手ね」
ここに存在しない誰かを思って語ったカレンの言葉を聞いた瞬間、バイマンの思考は驚愕の一色に染まった。
「足下に・・・・って、あんたが手も足も出ない相手がいるのか?」
「ええ一度だけの対戦だったけどね。しかも向こうのコンディションが最悪の時で、頼れる仲間二人と私の三人で挑んだんだけど、結果は散々。凄いハンデがあってようやく辛勝・・・・いえ、実質互角だったわ」
「カレンの相棒が務まる二人・・・それで互角?信じられないな・・・」
もう驚きの連続である。現在、単独で全て決着させているカレンが頼れる存在とする人間二人の存在。そんなメンバーがいれば、クレイシアの騒動など、数日で終演に導けることだろう。そんな最強メンバーとも思える戦力で勝利出来ない一個人の存在は、彼の想像の範疇を軽く逸脱していた。
「そして、その後に、その人の全盛期の闘いを少し拝見する事が出来たんだけど、それだけで、私達のこれまでの自信は喪失。でも同時に、人間まだまだ強くなれるんだ・・・・って、思い知らされた次第よ。でも正直、一対一じゃ、まず私に勝ち目は無し。だから、せめて得意分野の魔法で少しは苦しめる程度になれれば・・・ってのが、しがない私の目標なのよ」
考えようによっては妥協してしまっているとも言える内容に、カレンは自笑する。
「・・・・・・どこの化物だよ、そりゃ・・・・普通に考えてあり得ないだろ?」
カレンとの圧倒的差を自覚しているが故に、その彼女が無難な目標で甘んずる存在に、バイマンが信憑性を持てないのも無理からぬ事であった。
「だから普通じゃないの。相手は伝説の化物よ・・・・今となっては再会も難しいけど、垣間見た強さは心に焼き付いているわ。だから、自分でここだって思い描いた所にまでは行きたいと思ってる。その為にはもっともっと戦い続けて自分を磨くしかないのよ」
「・・・その向上心、まさに戦女神だな」
「そんな高貴な存在じゃないわよ、せいぜい戦魔女よ」
「それは言えてるな・・・・」
「世辞くらい言いなさいよ」
ごく自然に交差した会話だったが、妙に納得しきっている相手に、カレンは軽い不満を覚えた。
「あんたには不要だ」
侮辱にも思える発言だったが、不快感を感じなかったカレンは、いつもの装備を手にして、出口へと向かった。
「そうね・・・・それじゃ、行かせてもらうわよ」
「ああ、こっちもあんた好みにサポートするように心がけるよ」
「別にそこまで気を使わなくて結構よ、悪意ある邪魔さえしなければそれで十分。それに今回、私は敵集団を突っ切って先の区画まで行ってみるから」
なにげに語られた事に、バイマンが目をむいて驚きの表情をした。
「先の区画・・・って、おい、正気か?」
それは、敵陣内孤立を意味しているのと同義であるのだ。だがそれでも、彼女の表情に事に対する緊張感などはなく、いつもと変わらぬ笑みを浮かべていた。
「狂ってた時ってあった?その位、私の目指す人物は片手間でやっちゃうわよ」
当事者にすれば、率直かつ事実であったが、それがますます彼の想像を阻害する。
「だから、どこの化物だよそりゃ・・・・」
「だから伝説の魔王様よ」
どうせ比喩としてしか捉えられていないだろうなと思いつつ、カレンは扉を抜けて戦地へと赴くのだった。
・・・そしてカレンは、常人ならば無謀とされる、当面の目標であった敵拠点の、もう一つ奥に位置した拠点の強襲~制圧に成功してしまう。
前線の増援要請に即応するために、そこそこの戦力が待機しているだろうと期待しての襲撃だったのだが、敵にしてみれば、まだ大規模な戦闘が始まってもいない地区に対する増援準備など想定外であり、まだ先の拠点が生きているという事実が結果として油断となり、カレンの奇襲をあっさり成功に至らしめる要因となっていた。
そして、後方の拠点が陥落した事を知ったクレイシア自警団側は、激しく動揺し、戦線をろくに維持することも適わず、一日に二つの地区を失うという、これまでない大きな打撃を受けたのだった。
一方の、クレイシア正当自治武会側の勝利の立て役者は、目的が半分も満たされず不満顔であったが、彼女のもたらした結果は、否応なしに評価され、この前代未聞の立ち回りがきっかけとなり、クレイシア内に彼女の名と姿を知らない者はいない程になってしまった。
(別に名声はいらないんだけどね~)
一応、予想してはいた事だったが、否応なしに高まる周囲の声に、カレンは辟易した表情となり現拠点のサロンでくつろいでいた。
傭兵経験の少ない彼女は、活躍によって生じる周囲の声に慣れておらず、上手く聞き流すことが苦手であったのだ。それ故、待機時は一人でこうしてくつろぎ、組織の戦意高揚工作のための広報関係者などとは極力接触を避けるようにしていた。
そうした事情もあり、情報は他者からの口伝が主体となり、彼女に関しては、所持アイテムから出生まで、色々な憶測が行き交っており、既に人間で無いという説すらも存在していた。
「先週分の報酬が届きましたよ」
魔晶石の入った小袋を手にしたシーニャが、それを見せつけるようにしてカレンに歩み寄る。もう一方の手には組織の広報誌だろう丸められた羊皮紙が握られており、その表情には堪えられた笑みがあった。
「また何か笑える話が出てた?」
「ええ!」
思いっきり頷いて、シーニャは答えた。今や、定期発行されている広報の『カレン特集』は、彼女の楽しみの一つとなっていた。
本部の人間が、聞き知った噂話から憶測する彼女の仮説等が、実像を見知っている彼女からしたら実に笑える物が多かったのである。
「ほら、今回はコレ、大魔王キーンの血を継承した、古より生き続ける魔女って説が出てきましたよ」
その言葉に、一瞬、カレンの動きが止まり、その不自然な動きがシーニャの眼にとまった。
「どうかしました?」
カレンが僅かばかり動揺したのは、記事が事実にこれまでになく迫った為ではない。特に隠し立ても公言もしていない彼女にとっては、その事実が明白になったところで大きな問題ではなかった。事実と判明したところで、大半の者は、まず半信半疑になり、勝手に想像する魔王キーンの血族イメージとかけ離れる人物像を見て、事実とは認識しない。
彼女にとっての問題点は、そこではなかった。
「ねぇ、それはつまり、私が数百歳のお婆さん・・・・って、思われ始めたって事よね」
先程の笑みは何処へ行ったのか、いや、笑みは今だ浮かべていたものの、そこには怪しさと殺気が籠もっており、その眼にも異様な光が宿っていた。
「いえいえいえいえ、落ち着いてくださいカレンさん。あくまで仮説であって断言してるわけじゃありませんから、定番になった仮説コーナーですから、私が言ったんじゃありませんから」
同じ女性として、その心情と怒りを察したシーニャが慌てて弁解し、後ずさった。
まだまだ、化粧に頼らず素でもやっていけると自負している自分が、年齢を誤魔化している厚化粧の年寄りなどと噂されて喜ぶ者はいないだろう。
ひょっとして、こんな馬鹿らしい広報で、クレイシア正当自治武会最大の危機が訪れたのかもしれない・・・と、シーニャが危機感を抱いた時、不意に少年がサロンに駆け込んできた。
「あの、カレンさんはこちらですか?」
「何?」
呼ばれてカレンが反射的に振り向く。無論、溢れてていた怒気を抑えてもおらず、何の心構えもしていなかった少年は、おもむろに身に覚えのない殺気を受けて、その場でへたり込む。
「何か用?」
八つ当たり気味に怒気を放ちながら少年に詰め寄ると、彼の身体は意識するより先に震え出す。
「何か用?」
再度問われると少年は初めて感じる命の危機に、慌てて自分の役割を思い出し、震える口で語り出す。
「あ、あの、ほんっ、本部から、し、出頭・・・要請です」
「本部から?」
ふとカレンから狂気とも思える気配が消える。傭兵を初めて短い期間ではあるが、本部からの出頭命令は珍しくなかった。定期的に状況報告会や今後の計画発表などが行われているからであるが、こうして直接伝令が来るのは初めてであったのだ。
「分かったわ」
雇われの立場上、カレンに拒否する選択はない。とはいえ、処罰の対象とされるような事にも身に覚えもなく、その理由に好奇心の生じた彼女は即答し、そのままテラスを後にする。
彼女が去った後、少年のシーニャは、その場で思いっきり安堵の息を吐いたのだった。
「さすが、前線の英雄は気迫が違いますね」
「いえ、そう言う問題じゃないのよ・・・本部、無事だと良いけど・・・」
先の発作が本部で発症しないかと、一抹の不安を感じながらシーニャは呟いた。
あとがき
カレン独壇場です。
彼女クラスだと、どうしてもあの様な●○・インバースな状態になってしまいます。
そもそも、彼女が他者に前衛を任せなければならない程の相手が満載の、樹海の生物達が異常なのです。
そして、今回の一件で判るように、ミファールを装備した彼女の姿は、行く先々で有名になってしまいます。
地域の伝説度で言えば、ある意味、魔王級の認知度となり、彼女のあずかり知らぬ所で尾ひれがついて、とんでもない話が誕生しているケースもあるとか無いとか。
まだ全く考えてはいませんが、その方向のネタで、一つエピソードを作ってみたいものです。
投稿日:2012/12/22(土) 03:06:30
魔王様との戦いがないのですが
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