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2012/12/21(金)に投稿された記事
第2章 カレン編 1-6 -呪いの笑人形-
投稿日時:14:21:21|コメント:0件|》本文を開閉
ディレクトリ:くすぐりの塔AF -魔王の後継者達-
ところで、キャンサーさんも「くすぐりを神経に直接流し込む」ってストーリーを書かれておられますが、
くすぐったい刺激を、神経に直接送り込まれるって、どういう感じなんだろう。
あと、呪いの人形をワシワシくすぐると、呪われた相手がケラケラ笑い出すとか、
相手が見えないにも関わらず、身に襲いかかる、根拠のないくすぐったい刺激。
そんなものが、仮に高校で授業を受けている山岡美奈子さん(仮称)の身にわき起こったらどうなるのでしょうか。
1.保健室に行ってベッドの上で一人身もだえ笑い乱れる。
2.一人で今は使われていない美術準備室へ行ったら、今度は絵筆の群が襲いかかってきた!!
3.授業中であるにも関わらず、床を転げ回り「あたし、くすぐったがってる姿を人に見られるのが好きな変態しゃんなんでしゅうううう!!」って言う。
あなたなら、どれ。シンキング。
「よくぞ聞いて下さいました!」
カレンの質問が出るや否や、彼女は満面の笑みを浮かべて身を乗り出した。
「後方支援の私がコツコツ地道に任務をこなして、ようやく手に入れたアイテム!それがこれよ!!」
子供が玩具を自慢するかのような様相で、レズリーが自分の左腰のポーチから取り出し、披露した物を見て、カレンは返答に困った。
それは、藁を編み込んで作られたのだろう、人型をした物体であり、一見した位では用途が判別できなかったのである。
「何・・・・・・・・コレ?自分のダメージの身代わりになってくれる・・・みたいな感じのアイテム?」
軽く手をかざし、ある程度の魔法付与が成されているのを確認したカレンが問うと、レズリーは笑みを浮かべたまま、首を横に振った。
「残念、ハズレ。でも結構近いとこいってるかも」
「それで、何なの?」
「正式名称は長ったらしいんで忘れたけど、モノとしては、言ってみれば呪殺用のアイテムよ」
「呪殺!?」
物騒な事を笑顔のまま語るレズリーを見て、カレンは思わず退いて僅かに身構えた。平然とそうしたアイテムを所有する相手の心に警戒感を抱いたのである。
だがそれも杞憂でしかなかった。
「そう、呪殺アイテム・・・・の、失敗作」
カレンの様子に苦笑してレズリーは言葉を続ける。
「失敗作?」
ならば何故、そんな物を所有しているのか?聞き間違いかと思い、復唱するように問いかけた言葉に、彼女は肯定の頷きを見せると、左手に藁人形、右手に何やら極細の糸のようなモノを摘んでカレンの方に見せつける。
「そう失敗作。本来はこの藁人形に、対象者の髪の毛とか爪の欠片とかを差し込んで・・・・」
説明しながら右手の糸と思われた髪の毛を、藁人形に差し込むレズリー。
「後はナイフとかで刺すと、髪の毛の主にそのダメージが伝わるってアイテムなんだけど・・・」
「失敗作で、その効果は望めないのね」
「そうゆうこと」
途切れた言葉から、その本質を推測したカレンが確認すると、相手は素直に頷いて認めるが、それは同時に新たな疑問を抱かせる事となる。
「それじゃ何故、そんなモノを大事に持ってるの?」
「それはね、完璧に失敗って訳でもないからよ。ほら、論より証拠」
そう言ってレズリーは、先程ホットケーキを食していた時に用いていたフォークを右手に取って、それを藁人形の左腹部辺りに刺し込んだ。
「ふわひゃっ!!?」
珍妙な声をあげたのはカレンであった。
突如、左腹部数ヶ所を同時に指で突かれた感触が、身体を駆け抜けたのである。しかもそれは衣服や鎧を無視して直接肌に触れたような感覚であったのだ。
「・・・・・ひょっとして、今、藁人形に差し込んだのって、私の髪の毛?」
話の流れから、その現象がレズリーの手元にあると瞬時に悟ったカレンは、驚きの表情でもって、効果が正常に働いた事を彼女に示す。
「ええ。さっき鎧にくっついてたのを回収しちゃった。で、体験して判ったでしょ。本来なら、藁人形にこんな事をしたら激しい苦痛に襲われるはずなんだけど、これはどんなに痛めつけても、『痛い』ってダメージにならないの。むしろ優しく撫でる感覚しか与えられないのよ」
同意もなく人体実験同様の行為を行ったにも関わらず、悪びれた様子もなく楽しそうに説明を続ける彼女は、藁人形に刺さったままのフォークを更に左右に捻ってみせる。
その途端、カレンは左腹部に突き立てられた指をグリグリと震わされた様な刺激を送り込まれ、思わず腹部を押さえて身をくの字に捩った。
「ひゃっ!きひゃっはははははは!」
「もちろん、直接神経に作用するから逃げてもガードしても無駄よ。苦痛を与えるっていう本来の目的が達成できてないって事で廃棄予定だったんだけど、こういう楽しみ方が出来るから譲ってもらったのよ。ね、凄いでしょ」
「わかっ・・・わかったから、すとっ・・・ぷひゃっっははははははは!あひゃっっはははははははは!」
衣服の下で生じるくすぐったさに悶えながら、呪いの効果を確認したと頷きつつ、くすぐり行為を止めさせようとカレンが手を差し伸べるが、レズリーは意地悪く後退して二人の距離を広げた。
「だ~め、もう少し遊びたい」
そう本音を言ってカレンの手をかわした彼女は、手を差し伸べた事でカレンの右側が無防備になった事を確認し、それに合わせて藁人形の右脇腹にフォークを突き立て、先程と同じようにグリグリと刺激を送り込む。
「~~~~~~ひゃっっはははっははははははははは!」
判っていても不可避な刺激に右脇腹を襲われ、またしてもカレンは腹部を押さえ、先程と逆の形でくの字となった。
「良い反応。カレンって、虐めがいあるわ~」
責め手にすれば敏感な反応を示す相手にご満悦となったレズリーは、調子にのりだし、藁人形の各所に断続的かつ不規則にフォークを突き立て始める。
たちまちカレンの身体の各所で一秒に満たないが、爆発的とも言えるくすぐったさが沸き起こり、それに耐えきれない彼女がピクッピクッと面白いように反応してのたうち回る。
「くっくっくっくっくくっ~~~くはっ、はははははは!何・・・何これ!?・・・くっ、くすぐったすぎぃ~~~!ははははははははは!や、やめてよっ、やぁあああ~っははははははははは!!」
立つ事もままならず、汚れることすら気にするゆとりもなく、カレンは床の上で転がり続けながら、抑えきれない衝動に翻弄され続けた。
それは熱い岩場に落ちてしまったミミズの様な、必死に現状からの脱出を望みながらも自力ではどうにもならない哀れで無意味な足掻きではあったが、激しくくねるその姿に興奮を高めたレズリーは、更にテンションを上げて藁人形への悪戯をヒートアップさせた。
フォークの貫通、手足や胴の捻りや圧迫と、それが本来の能力を発揮していれば、とっくに対象を絶命させているだろう行為も、奇跡とも言える絶妙の失敗によって、決して痛みには至らなかったが、呪いの対象となった者にとっては、それはある意味での地獄とも言えるだろう。
「きゃはははははは!いやっ、いやっ、いやっははははははははは!もうだめ、ダメだってぇ~~~は~っははははははは!も、もう、許してっ、じゅ、十分でしょ~~~~!」
表皮を貫き体内を通過して背に至る未知なるくすぐったさ、手足そして胴体を揉みくすぐられるような感触を送り込まれ続けているカレンは、床を転がってレズリーとの距離を縮めようと尽力する。
「ま~だまだ、もう少し遊ばせてよ」
レズリーは、飛び越える様にしてそれをかわすと、更に強烈な刺激をと言わんばかりに、両手で藁人形が壊れるギリギリの力加減で揉みくしゃにする。
「ひゃはははははははは!あひははははははは!い、いい加減に、いい加減にぃ~~~!にぃやぁ~~あっははははははははは!」
「まだまだまだまだ~~~~」
不可避な責めの手段を持つレズリーは、主導権を握っていると言ってよいどころか、文字通り相手の運命をその手の中に掌握していた。そうした事実が支配者的な感覚を思い起こさせ、責めに熱中させる要因となった。
・・・・・だがそんな独裁的支配体制は、長くは続かないのが世の常である。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・あれ?」
しばらくカレンから放たれる心地よい笑い声を音楽の様に鑑賞していたレズリーは、不意にそれが途切れた事に気づく。
やりすぎて相手が気絶でもしたのかと、視線を向けると、そこにはゆっくりと立ち上がろうとするカレンがいた。
「・・・・・あれ?」
レズリーは再び疑問を声にして呪いの要、触媒となる髪の毛が抜けたのかと思い、手にしている藁人形に視線を見るが、肝心要のそれはしっかりと藁人形に挟まっている。
「あれぇ?」
ならば何故、効果が途切れた?
もともと失敗作の藁人形である。ひょっとしてこのタイミングで壊れた?
今までに無かった事態に戸惑った彼女は、藁人形に刺激を送り込みながら、カレンの様子を見やる。
「うくっ・・・くぅっ・・・」
小さな呻き声をもらし相手の身体が震え、反応を示したのを見て、レズリーはアイテムがまだ正常に機能していることを再確認したが、それはある種の動揺を呼び起こす事にも繋がった。
「な、何で平気なの?」
藁人形によるくすぐったさは、レズリー自身がその身で軽く試して熟知している。故に、誰にも耐えられないと太鼓判を押していたのである。
が、その刺激を受けつつ平静を保つ事が出来る相手が目の前に現れたのだ。
「へ、平気じゃないわよ。結構、こたえたわよ」
それを肯定するかのように荒い息をしていたカレンは、立ち上がってよろめく身体を立て直すと、冷たい視線を悪戯の過ぎた相手に向けた。
「う・・・あ、あははははは」
その視線が意味するものを正確に悟り、乾いた笑いをもらすレズリー。
カレンがゆっくりと歩み寄るが、今度はレズリーも間合いが取れなかった。視線に気圧され逃げられなかったのである。
「た、楽しんでくれた?」
緊迫が続けば身の危険が増すばかりと感じたレズリーが引きつった笑みでもって場を和ませようと努力したが、相手は表情をろくに変えず、無言のまま右手を差し出す。
「あ・・・はいはい」
それが意味するところを知った彼女は、素直に手にした藁人形をカレンに差し出す。
「ありがと」
レズリーの眼前にまで寄ったカレンは、冷ややかな笑みと共に素早く藁人形を奪い取ると、それを眺めつつ相手との距離を取る。
「これって、成功したモノもあるの?」
この時、レズリーは気づかなかったが、アイテムを見据えるカレンの眼には、ある種の殺気が隠っていた。
「な、無いわよ」
成功品を自分の行為の報復に使おうとでも思っているのか?
そんな恐ろしい考えが頭をよぎり、レズリーは思わず即答する。
「な、何度も何度も試行錯誤されて、出来上がったのは失敗作の群って話よ。だから効果がある分、ソレもある意味成功例に入るかも知れないけど」
「そう」
彼女の答えに嘘はないとカレンは思った。もし、こんなアイテムの『完成品』が存在していれば、彼等の抗争など既に終息しているはずなのだ。
それに呪殺の類は、魔法攻撃の様な直接攻撃とは異なり、即死ではなく、対象を苦しめてから死に至らしめる物が圧倒的に多く、悪意の結晶の様な手法である事を、彼女は思い出していた。
(どっちにしても、呪術の得意な奴とか、研究者がいる訳だ)
「で、カカカ、カレン、貴女、どうやって耐えたのよ」
体験上、耐える事も慣れる事もあり得ない、藁人形の能力に抗った実例を前に、レズリーは震えながらも真実を問うた。
「先祖伝来のこの鎧・・・・」
「はい?」
「この手の『攻撃』の耐性があるのよ」
悪の魔女を思わせる笑みを向けてカレンが答える。
ただ、命に関わる類では無かった上に、鎧=ミファールにとっても損では無い結果(『餌』となる快楽に類する精神波動の発生)が生じていたため、対応が遅れてしまった次第である。
カレンは、藁人形の中に差し込まれている自分の髪の毛を見つけ、それを人差し指と親指で挟んで丁寧に引き抜くと、変わりに小指と薬指に挟んだ別の毛を差し込み、おもむろに藁人形を捻った。
「ふひへひゃはぁぁ!?」
再び生じた珍妙な声はレズリーからであった。
身に覚えのある藁人形の能力が、彼女の身体に発現したのである。
「カ、カレン・・・さん?今、藁人形に入れたのは・・・・」
「当然、貴女の髪の毛よ。さっき、藁人形と一緒に貰ったのよ」
カレンはその発言を確認させるかのように藁人形を握り締める。
藁人形は人の姿勢としてはあり得ない形に歪んだが、それらは全て、くすぐったさと言う刺激に変換され、レズリーの身体を駆けめぐった。
「きぁぁぁ!!あはっあははははははははは!だ、だめぇ、うひひゃっはははははひっひっひひひひひっ!お、お願いぃっ、あ、あやっ、謝るから許して~~~きゃはははっはははは!わる、わるふっぅっ、ふひゃははははははっ、悪ふざけよぉ~~!!」
カレンはワキワキと手を動かし続け、藁人形に間断無い刺激を与え続け、その手の中で踊らせ続ける。
それに合わせ、レズリーの全身に細やかな、例えようのない笑いを生み出すマッサージの様な刺激が縦横無尽に往来し続ける。
そのくすぐったさたるや、自分で試した時の比ではない。それもそのはず、自分で効果を試した際には手加減があり、好きな時に中断できる選択も出来たのである。だが、今の彼女はそうした支配権を失っており、これまで行ってきた『悪ふざけ』の被害者と同じ立場に転落していたのである。
「お願いだからやめてえぇぇぇぇぇ~!やめっ、あっあははははははっ、あ~~はははははははは、あはははははは!!」
「ふ~ん、確かに悪戯アイテムとしては逸品ね」
相手の運命をその手にしている実感を得て、カレンはレズリーの心情を理解した。
「刺激なら何でも有効なのよね?」
適当に藁人形を揉みほぐしていたカレンは、確認がてらに問うたが、当のレズリーはそれどころではなく、全身で声を放つかのように身悶え続けている。
「きゃ~~~っはははははははは!いひっいひゃはっははははははは!くくっ苦しっ! 苦しいってばぁ~!」
「質問に答えてくれないかしら?」
「うわはははははははははは!!!やめてぇぇぇ~!!お願いぃ~! そ、その通りだからぁ~~~お願いでぇすぅ~~~~! 」
カレンの指が更に激しく藁人形を揉むと、一段と勢いを増した刺激が、レズリーを狂わせのたうち回らせる。
「それじゃ、こんなのは試した?」
必死の懇願を無視してカレンはテーブルに向かい、そこに残されていたホットケーキ皿に藁人形を置き、蜂蜜の小瓶を摘み上げて傾けた。
「ふはぁぁぁ!?」
一時的に中断したくすぐったさに安堵して、激しく乱れた呼吸を整えていたレズリーは、スライムのような粘性物体に身体を撫でられる感触、という不意打ちを受けて思わず喘ぎ声をもらす。
当然それは直接肉体に生じた現象ではない。蜂蜜が藁人形に垂らされた感覚が伝わったのである。
さすがにこうした使い方は後の手入れが大変なため、レズリーは試した事がなかった。だが、借り物であり使い捨てのつもりであるカレンにはそうした遠慮は微塵もなく、藁人形に付着した蜂蜜を更にスプーンで塗り広げていく。
「やだっ!あっあはははははは、ちょ、ちょっ、くすぐった、それもくすぐったいってばぁ!きゃは、きゃはははははははははは!」
蜂蜜の塗り込みは、大きな生き物の舌の徘徊の様な感触を彼女に与えた。たまらず身を丸めて刺激が生じる部分をガードするが、そんな防御などお構いなしに感触は徐々に広範囲に広がりを見せていく。
自分の抵抗が無駄である事は、藁人形の所有者である彼女は既に理解してはいたが、やはりそれとは無関係に身体は現状からの解放を求めて反射的な逃亡を繰り返すのだった。
「は~っはははははははは!ほ、ほんと、限界っ、あやまったでしょ~!ひははははははははははは!許しっゆるっ・・・・ぅわはははははははははは!や、やめ~~~っはははははははははは!」
容赦など微塵も見せず、手に入れたアイテムを試し続けるカレンによって、レズリーは本当に笑い死にするのかも・・・と、考えだした矢先、一つの助け舟が現れた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・何してるんです?」
手続きを済ませて戻って来たランジェラが、場の様相に半ば呆れた表情を見せていた。
現状を問うた彼であったが、レズリーと言う人物像を知っていたが故に、実のところ、こうした事態は予想していた。ただ、攻守の立場が想像とは全く逆であったのが正直意外ではあったが・・・・
「あぁ、ランジェラァー!助けっ、たすけてへぇへひゃははははははははははは!!」
レズリーの当初の予定では、彼女自身の悪ふざけの終了を告げるタイマーのような存在だった彼が、いまや救いの命綱となっていた。
「・・・・・あ~、え~と、戯れはその位にしていて、行きましょう」
仲間内でのいざこざの仲裁も初めてではない彼は、事が些細な出来事であるかのように振る舞って、レズリーの解放を求める。
「私の勤務先は決まったの?」
カレンは思いのほか素直に手を止めつつも、目の前の事態には触れず、自分の本題について尋ねると、ランジェラは首を縦に振って応じる。
「ええ、多少激戦区に類しますが・・・」
本来なら、新加入者は適当な部署で現状を知ってもらい、その後に本命の部署に赴いてもらう手順だったのだが、今回はボルトの私怨の隠った推奨があり、いきなり小競り合いの多い地域配属が決定した。その経緯などを説明をする義務は無かったものの、公正とは言えない行程が、若干の罪悪感となって僅かに言葉となって現れていた。
「結構よ。その方が報酬も期待できるのでしょ」
「はい、そちらは間違いなく。今から案内しますので・・・」
ランジェラは、視線で手にしているモノを手放すよう語りかけると、カレンもそれを察し、床に突っ伏してピクピクと悶絶しているレズリーに歩み寄った。
「質の悪い悪戯は、相手を選ぶべきよ」
「わ、わかりましたぁ~」
藁人形を左手の指先で摘んでユラユラ揺らして見せるカレンに、手を差し伸べるレズリー。だが、藁人形を返してくれるのだと思われた行動は誘いであり、藁人形は無造作に投げ捨てられ、窓の外へと消えた。
「それじゃ」
素直に返すものですかと眼で告げた後、カレンは指に付着した蜂蜜を舐め取る仕草を見せつけ、ランジェラと共に立ち去った。
残されたレズリーは、負け惜しみの一言も出せないままそれを見送り、身体に燻る余韻が落ち着くのを待ってようやく身を起こすと、再び彼女の本性なのだろう悪戯者の笑みを浮かべる。
「へはぁ~~~~酷い眼にあっちゃったぁ~でも、このお礼は倍返しよカ・レ・ンちゃん。私、貴女から手に入れた髪の毛が一本だなんて言ってなかったでしょ」
そうなのである。こうした事態を予測したわけでは無かったが、レズリーはあの時、複数本の髪の毛入手に成功しており、それが逆襲の意志を高める要因になっていたのである。
「対呪術能力の鎧なんて凄いの持ってるみたいだけど、四六時中装着しているわけでも無いでしょ。お風呂かお休みの時を狙って、今度こそ徹底的にくすぐり虐めしてあげるから、待ってな・・・」
不遜な企みを独り言で語るレズリーが、ふと口を止める。僅かながら身体に違和感を感じたのである。
「・・・・・?」
最初は気のせいかとも思ったレズリーだったが、その感覚は徐々に明確なものとなって彼女の全身へと広がりをみせていった。
「えぇ!?なに?こ、これって・・・・にゅ、にゅひゃぁははははははははは!!」
レズリーは抗えぬ感覚に両手で身体をおさえながら身をくねらせる。しかし彼女の身体に接触する存在はなく、彼女は瞬時にソレが藁人形の影響であることを悟る。
「な、何で、誰がぁ・・・やはっ、いやっ・・はぁ・・・・」
手加減がなされているようで、今、レズリーが受けている刺激は範囲を拡大させているものの、全く耐えきれないと言う域には及んでいなかった。
だがそれも何時までの事かは判らない。早急に相手の正体を知る必要があったレズリーは、窓から顔を出し、先程放り出された藁人形の行方を確認する。
「あ、あった?」
藁人形は誰の手に渡ることなく、窓からそう遠くない地面に無造作に転がっていた。
だが、干渉を全く受けていなかった訳でもなかったのだ。
先程、カレンの戯れによって塗られた蜂蜜に誘引されたアリが、藁人形に集りだしていたのである。
『彼等』に、レズリーを虐めるような意図など微塵もない。ただただ本能に従い、餌となる蜂蜜を得るために集まっているにすぎなかった。しかし、そうした集る感触すらも、彼女にとってはくすぐったさとして身体に送り込まれ、弱々しい力加減による焦らし責めに近い効果を味わう事となる。
「にゅわっ、にゃははは・・・ちょっ・・・そこっ・・・うひははははは・・・」
レズリーは独り、型のない悩ましげな踊りを踊りながら、藁人形の奪還を行わなければと、窓から身を乗り出そうと試みるも、断続的かつ不規則な波のように押し寄せるアリの集りによるソフトな責めに、姿勢を維持することが出来ず、子供すら可能な行為の達成に相当な時間を要する事となる。
それでも、転倒というリスクを無視・・・と言うよりは受け身の余裕すら維持できなかった彼女は、ようやく転がり落ちるようにして窓の外へと出ると、自身の写し身に悪戯を続けるアリ達を追っ払おうと藁人形に手を伸ばした。
「ふはぁぁ・・・こ、これで・・・」
身の安全を完璧に確保出来ると安堵した矢先、彼女に新たな試練が訪れた。
「~~~~~~ひきゃぁああああぁぁぁぁ!!!」
レズリーの手が藁人形に届く寸前、敷地内の警備用として放されていた犬が、程良い蜂蜜の香りを嗅ぎつけて現れ、その発生源である物体をくわえたのである。
藁人形に無造作に食い込んだ牙は、これまでと全く異なった強い刺激となって彼女の身体を駆けめぐった。
「ちょっ・・・返して・・かえっっっっっへひゃっっははははっははははは!!」
犬には奇声をあげて懇願するレズリーが異様に見えたのだろう、一瞬驚いて飛び退いたものの、くわえた獲物を落とすような真似はせず、先客であったアリを首を素早く数度振って、ある程度数を振り落とし、結果として横取りする。
「お願いだから、も、ひゃはっはあはっはあははははははははははは!!」
食い込む牙が断続的なくすぐったさを腹部と背に生じさせ、その耐え難い刺激に腹部を両手でおさえながら身は何度も仰け反り、それでもなんとかして犬に近づこうと、転がるよう地面を這う彼女であったが、やはりその姿は犬に限らず人が見ても異様でしかなく、犬は彼女とリンクしたままの藁人形を口にしたままさっさとその場を駆けて離れて行ってしまった。
「いやぁぁ~~~~!!そ、そんなっ、いやっっっはははははは!だ、誰か、誰か、たすけてぇぇぇえひゃっっははははっはははははは!し、しんじゃうから、しんじゃぁぁっはははははははははははははははははは、きひゃっははははははははは!ぎひははははははははははは~~~~~!!!」
犬が建物の影に隠れ見失った瞬間、彼女は悶笑以外の選択を選べなくなり、地面の上で恥も外聞もなく大声で笑い、はね回った。
不幸だったのは、その事態を見て、聞いて、集まった面々が、事情を正確に把握できず、また被害者レズリーが、笑いで会話も不能だった事で、適切な対応が出来なかった事である。
一見して気が触れたとも思える行為に、集まった者達は、自傷を始めるのではないかと考えて手足を押さえたりしたため、彼女は身体の自由も失う羽目になり、更にはこの騒ぎで警備の犬が怪しげなモノと戯れているというある種の異常に、気づく者がいなかった事が重なり、レズリーは目一杯の時間、呪いのくすぐり責めを受ける羽目となったのだ。
(きゃ~~~っっはははっははははははははは!あひゃっっはははっははははっははっははは! いやぁぁぁぁ~~~~)
レズリーの悲痛な笑い声は、壁を越え、外に出たカレン達の耳にも届いていた。
「・・・・・・レズリーですかね」
「そうみたいね」
その奇声に壁の方を見やるランジェラに対し、素っ気なく応じるカレン。
「また何か、されたのですか?」
「いいえ何も」
否定してはいたが、こうなることを期待してカレンは、蜂蜜を塗った藁人形を外に投げていた。
結局、不幸なレズリーは、犬が『味のする藁人形』を噛みまくって効果が発揮できなくなる程に損傷するまで、責め苦を味わう羽目となり、解放後は疲労で丸一日眠り続けたという・・・・
「それで?私はどこで何をするのが仕事なわけ?」
ランジェラと二名のお供の数歩後をついて歩き続けるカレンは、その背に向かって至極当然の疑問をなげかけた。
「シーノイと言う地区の防衛です」
軽く振り向いて答えるランジェラ。
「そこは、貴方達・・・・いえ、私達の支配区なの?」
「違います」
防衛という言葉から想像した問いかけは、あっさりと否定された。
「それじゃ、敵側の?」
「そうでもありません。正直言いますと、まだどちらの支配にもなっていない地域です」
「つまりは、縄張り争い中な訳ね」
「はい。位置的にも重要な地域なので、双方が睨み合ってる場所です」
その均衡を破るための戦力なのだと自身の役割を把握するカレン。
「なるほど・・・・それで、現場では、現状は教えてもらえるんでしょうね? 今更だけど、現地の管理人とかの命令だけに従って闘え・・・・なんて言われたら、考え直すわよ」
カレン自身には経験の無い事であったが、傭兵仲間の活躍を利用して自分の手柄にする様な輩の存在を、ウェイブやタールの昔話で聞いていた彼女は、そうした事態に先制した。
「ああ、その点はご心配なく。状況説明もせず闘いを強要させるような危険な真似はさせません」
ランジェラは、傭兵達の不要な反感を『危険』と言う表現で表し、それを否定した。
強要が無くとも、報酬が傭兵を突き動かすのである。多少の危険な任務も、達成時の報酬を聞けば、大半が承諾し、積極的に任務遂行に尽力を尽くすが現状であり、カレンもそれに類しているとランジェラは確信していた。
「それなら良いけど」
「・・・・ただ」
「やっぱり補足付き?」
付け加えられた言葉に、カレンは予想通りと苦笑する。
「いえ、何というか、先刻も少し言いましたが、本部の指示による大規模な作戦などが生じた場合は、従ってもらわなければなりませんので、ご了承願います」
「大規模な作戦?例えば?」
「強いて言えば、相手側の大きな拠点攻略などの事です」
その説明が、ランジェラの口調で感じるほどの『特例』ではなく『凡例』だろうと悟ったカレンは、少し意地悪な意図を持って問いかける。
「そんなの頻繁にあるわけ?」
「いえ、これまでの経緯から考えれば、それ程には・・・・ですが、お互い今は戦力の補強・削り合いの状況なので・・・」
ばつが悪そうに答えるランジェラ。説明時に騙さないと言った手前、都合の良い話だけで済ませる訳にはいかなかった彼は、何とか言葉を濁そうと苦々しい表情となった。
「優位さが明確になれば、全面攻勢にでる訳ね・・・・・気の長い話ね~」
両勢力が一進一退で似た事を続けている限りは、あり得ないだろう全面戦争の存在に、カレンは呆れた声を放った。
だが、組織の長が権力欲で動いている限りは、存命中に一度は大きな戦争が勃発するだろうとも考えていた。
「いえ、そうでもないと思いますよ。貴女のような新戦力が加わって頂いたのですから、均衡が崩れるのも早いと期待していますよ」
半分は世辞ではあったが、彼女の実力の一端を垣間見ている彼は、その楽観的とも思える発言が実現するのではないかという思いも抱いていた。
「私はその手のおだてで奮起するクチじゃないわよ」
「それは残念です」
あっさりと発言が煽りだと認めるランジェラ。
「それでも、貴方達の想像をそこそこ超える事くらいはしてみせる努力はするわ」
「頼もしいですね。でも、命は大切に願いますよ」
「言われるまでもないわよ」
そうした無垢とも言える返事を耳にして、ランジェラは本当に頼もしいと感じるのだった。
あとがき
呪血が絡んだ展開って事で、他に呪術系アイテムを少しは出すべきだろうと考え、思い至ったのが呪いの藁人形。
あまり呪術には詳しくないので、思い至るとすればコレしかなかったとも言いますが、これをアレンジ・・・と言うか、我々ならコレしかないだろうと、笑人形となりました。
そして、珍しくもカレン責められるの図。滅多にない出来事です。
金星のレズリーは、クレイシアのエピソードでもう少し頑張ってもらいたい所なんですが、やはりぽっと出キャラの悲しさ・・・
出番があるかは未定です。