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2012/12/21(金)に投稿された記事
第2章 カレン編 1-5 -採用試験-
投稿日時:14:09:45|コメント:1件|》本文を開閉
ディレクトリ:くすぐりの塔AF -魔王の後継者達-
ところで、そろそろクリスマスですが、皆様におかせられましては、恋人たちとスイートなナイトを満喫されることと、お喜び申し上げます(ペッ)
俺ほどの男ともなると、毎年、クリスマスツリーを一人寂しく部屋に飾って、クリスマスソングのCDをかけて、一人で謎の儀式ですよ。
フライドチキンも既に予約済み!
しかし、そんなクリスマスツリーですが、ついに今年壊れてしまいました。
クリスマスツリーのないクリスマスなんてクリスマスじゃない!
今年は庭の松の木をライトアップしようかな・・・
なんか、ますます儀式の危険度が増すような気がしないでもないんですが。
お供の二人は彼のそうした楽しみを熟知しているため、ひたっている雰囲気を壊してお叱りを受けないよう、彼の死角に位置するテーブルで、静かに飲食を行っていた。
彼は今日だけで、カレンと同様の勧誘を十数人に行っていた。どれもこれも一癖二癖ありそうな人物ではあったが、彼の見立てでは即戦力として期待できる者達ばかりである。
量よりも質。それが彼の信条であり、有能な人員を発掘して引き入れ、その活躍をもって自身の功績に寄与させるのが彼の仕事である。
彼自身、幹部クラスの地位にあったが、実戦面での実力は並程度しかなく、そんな現実を知るからこそ、自分の出来る事で組織内の地位を築き上げてきたのであった。
本日、勧誘を行った者達の半数だけでも引き入れる事が出来れば、組織の局地的戦力は大幅にアップすると確信していた彼は、誰が承諾するかを想像しながら、ゆっくりとした時の経過を堪能し続ける。
オフであれば、優雅な気分にひたり二時間でも三時間でも居座り続ける事の出来る彼であったが、ふと背後に違和感とも言うべき妙な気配を感じ、カップを受け皿に戻し振り向いた。
「おや、貴女は・・・」
「ホントに居たわね」
先程ランジェラが目をつけ勧誘した女性が、いつの間にか背後に来ていたのである。
日によっては数十人に声をかけるため、相手をいちいち覚えていられない彼であったが、さすがに古今例を見ない彼女の防具の形状は数時間程度で忘れようがなかった。
「偶然・・・で、ないと期待したいところですが」
速すぎる再会に、運命以外の意図的な関与があると察したランジェラは、意味深に笑んでカレンに着席を勧めた。
「ええ、貴方に会いに来たのよ。ご希望の言葉を伝えにね」
同様に本心を包み隠すような笑みを浮かべるカレン。
「それでは・・・」
ランジェラは想像以上に早く返事が貰えた事に、内心拍子抜けしながらも笑顔を崩さず、改めて自分の向かいの席に座るよう促した。
「これ程早くに決断を頂けるとは思いませんでしたよ」
彼は正直に述べる。本来であれば後日、二度三度の接触と勧誘で、徐々に相手をその気にさせていくのが彼の常套手段であり、ほんの挨拶程度の事で承諾意思を示して来たのは珍しいケースであった。
最初から傭兵となる気であるなら、街の出入り口に徘徊する他の勧誘員の誰かと契約を交わしているはずであり、そうした心情の急変に彼は興味を抱いた。
「迷惑だったかしら?」
「そんな訳ありませんよ。我々は貴女の助力に感謝し、その働きに期待すると共に、もたらされた結果に対する十分な報酬を約束します」
従来通り、歓迎の意を表すランジェラ。
彼がふと視線をずらすと、彼女の横で、新たな客から注文を受けようとしてやって来た店員が、その異様な出で立ちを前に声をかけられずにいるのを見て、思わず苦笑する。
「あの、よろしければこの場にいる間だけでも、その鎧を外されてはいかがですか?」
「このままじゃ駄目かしら?」
「もちろん強制はしません。ですが、物々しいと思うのも事実ですので・・・」
それ以前に、鎧除去の姿にも少なからず興味があるのも、男としての心情であろう。
「女一人旅、気を許せないでしょ。特にこの街はね」
意味深に告げて、店員に適当な飲み物を注文するカレンを見て、ランジェラは納得する。先刻自分達と別れた後に、一騒動あったのだと。そしてそれこそがここに来た理由であろうという事を・・・・・
「何か、ありましたか?」
先程とはどこか様子が違うのも、それが原因だろうと察した彼は、無用な刺激を与えないように口調に気をつけながらも直球で問いかけた。
「ええ、強要という手段の勧誘を行う馬鹿に会ったわ」
即答に、やはりかとランジェラは心の中で頷く。
彼等スカウトマンの勧誘は、各員で手段は異なるものの、強引な手法による勧誘も当然ながら存在する。ある意味それも結果を出しているのは彼も知っている。だが、そうした手法では相手のやる気を削ぎ、十分な活躍は期待できないと彼は考えており、相容れない手法でしかない。
「そうでしたか・・・・確かに、協力者に対する礼を忘れた輩は確かにいます。何者でしたか?」
「たしか・・・・クレイシア自警団とか言ってたわ」
カレンはあの時聞いたランジェラの組織名『クレイシア正当自治武会』ではなく、彼と出会うより前に聞いた組織名を騙った。
「やはりそうですか・・・・そうした輩が多いんです、連中の中には」
味方の誰かなら、フォローを行うと同時に、ライバルの失脚の材料にも出来ると考えていたランジェラだったが、そうでない結果に安堵しつつ、その状況を利用した。
「あなた達は信用できるの?」
意味深な質問を前に、試されていると察した彼は、質問を全肯定はしなかった。
「組織構成員全体は・・・・正直保証は出来ませんが、少なくとも私は貴女を騙すつもりはありません」
他者まで、しかも大勢を自信たっぷりに保証する輩は、冷静な視点で見れば、滑稽にしか見えないと同時に信用度を低下させる。事実、組織内には役立たずや怠け者、果ては任務遂行に仲間を捨て駒にする者も存在する。
それは、目的のためには仕方のない事と割り切る点もあるが、駒になる者達に歓迎される話ではない。
カレンの真剣な眼差しの中に、自分を推し量る意図が見え隠れしている事を感じ取った彼は、誇大な宣伝は行わず、相手が望む内容に近い返答を笑顔のまま推測して語り続けた。
「それじゃ、概要を説明してもらえるかしら」
「ええ、まず御理解いただいているとは思いますが、我々が求めているのは、即戦力としての人材です」
「つまるところ、傭兵ね」
「はい。ですが、堅苦しく考えないでください。我々の側・・・つまりは、担当してもらう地区で闘うという以上の制限は基本的にありません」
「各々の好きにさせているわけ?」
これにはカレンも少し意外に思った。
「そんなところです。それによって競争心を煽る目的もありますが、勿論、愚作となるような編成もしてはいませんよ。事前に適性を見せていただき、適材適所の配置を心がけています」
「適材適所・・・・ね。それで、傭兵としての報酬はどうなるの?」
「配属にもよりますが、基本的な住居と食事の提供の他、概ね活躍の度合いによって報酬は増減します。当然の事ではありますが・・・」
「じゃ、暇な日が続いたら?」
「それはあり得ません」
その質問に、ランジェラは迷うことなく断言する。
「現在、小競り合いであれば毎日、拠点の争奪戦は週に一度は起きているのが現状です。退屈は絶対にさせませんよ」
客観的に見れば酷い状態に彼自身も苦笑する。傭兵にとっては稼ぐチャンスが数多あるといって良かったが、無関係者には、はた迷惑な話でしかない。
「それじゃ歩合制の契約である以上、大きな手柄を立てれば、見返りは期待して良いのね」
「それは勿論」
「具体的に言って何があるのかしら?」
「そうですね、単純に金銭面としても問題ありませんが、大半はマジックアイテムの提供となりますね」
「マジックアイテム・・・」
僅かながらカレンの眉が反応したのを見て、ランジェラは更に言葉を続けた。
「ええ、武具関係のそれは少ないですが、アイテム系に関してはかなりの物がありますよ」
「例えば?」
「そうですね、魔晶石に始まって、魔除けの類の宝珠に、簡易結界鋲、防御力に優れた衣類、そして・・・・・呪血系アイテムです」
最後にややもったいつけてランジェラは語り、カレンの反応を伺って、興味を抱いた様子を見て取ると、彼は勧誘の成功を確信する。
呪血は魔法に携わる者であれば、おおよそ、その存在を知り、その製法に関してもそこそこの知識がある者がほとんどであった。
だが、製法の要点は明確に知らない場合がほとんどである事と、道徳的な見知から製造される事は稀でありながらも、その用途故に欲する者は多い。
『作り出す』事には良心が痛むが、完成品があるなら欲しい・・・と、言うところである。
偽善的ではあったが、それが概ね現実であり、事実、魔法に関する知識を持つ者で、報酬にソレを望む者は少なくない。
カレンもレア・アイテム入手のために、尽力するだろうと推測したランジェラだったが、実のところは違った。
確かに彼女は呪血に興味を抱いた。だがそれは、手に入れる機会に恵まれた事に関してではなく、組織に制作者がいる事実に関してであり、欲する思いは全くない。
カレンは望む情報を得たことで決意が固まり、秘めたる心情を隠しながら、ランジェラの組織に参入する事を告げた。
ランジェラからの大まかな説明を聞き終えた後、カレンが同意の意思を示すと、あとはトントン拍子に事は進んでいった。
生死に関わる仕事に従事する引き換えに報酬を得る。
強要はしないものの、死に至った場合は、自己の責任とする・・・・
と言った形式ばかりの書類を確認、サインすると、カレンは早々に彼等の組織施設に案内される。
そこは、彼女が街を見回っていた際、あからさまに組織がらみだろうと思っていた屋敷の一つで、大袈裟すぎる人数で物々しく警備され、その物騒さ故に一般人は誰一人近づこうとしない状況になっていた。
「ずいぶんな警備体制ね」
「お互いに本拠地は知れ渡っていますからね。警備を厳重にするしかないんですよ」
先頭を歩き、カレンを案内するランジェラは、数ヶ所の門で身分証明の腕輪を見せて門番から通行許可を得ながら敷地の奥へと進んでいく。
増設されたのだろう、その門と壁は、過去に攻防戦があった事を示す傷が幾重も刻まれており、先に見える屋敷が、実質的には城同様の意味合いを持っている事を否応なしに伝えていた。
「この組織間の抗争で、何人犠牲になっているのかしら?」
「私には正確な数はわかりません」
その質問に、ランジェラは言葉を濁した。
彼に余計な詮索をしてもまともな返答は得られないだろうと思いつつも、一桁二桁ではすまないだろうなとカレンが思っているうちに、一行は目的地に到着した。
「こちらです」
促された場所を見上げるカレンが見たのは、館の本館ではなく、離れにあたる別館の一つであり、その周辺の大きな庭では、仲間とも呼ぶべき傭兵数人が、個々の武具を振り回して鍛錬に励んでいた。
「こちらで簡単な受付と適性検査を受けて貰った後、当面の配属の決定になります」
「その適性検査って、何するの?」
「それは、その時の担当者によって異なってますんで、私からの助言はできません」
「そう」
彼はあくまで勧誘担当かと改めて納得すると、カレンは再び歩き出した彼の後についていった。
「ボルトさん。新顔です」
ランジェラは、別館の正面口横でたむろしていた数人の男達の中で、一番体格の良い男に声をかけた。
「おう、ご苦労さ・・・ん」
応じて彼の背後に立つ人物に視線を向けると、ボルトは瞬間、思考が滞った。
「こりゃまた奇抜な・・・」
これまでに見た事もない形状の鎧に言葉を失い、更に装着者が女性である事に気づき、彼はようやく言葉をもらす。
「おい嬢ちゃん、俺達の相手は人間であって、獣じゃねぇぞ」
ボルトとは別の男達から笑いがもれる。カレンの姿を威嚇の為のものと判断したのである。
「ええ、聞いてるわよ。獣より人間を相手にする方がよほど楽で助かるわ」
挑発的な口調で応酬するカレン。実際、樹海に挑み数多の魔獣等と対峙した彼女からすれば、獣という単語には魔獣も含まれており、それを考えれば言葉に偽りはない。
しかし、事実を知らず、推測も出来ない男達には、それが単なる強がりにしか聞こえなかった。
「それじゃ、今から試させてもらおうか?それとも、準備期間が必要か?」
「いつでも一緒よ」
「なら、丁度いい。ついでがあるから、早速始めさせてもらうとするか」
「構わないわ。それで?何をするの?」
「この館に入んな。そして、設定時間後に無事に出てくる」
「・・・・・それだけ?」
「それだけだ。詳細は中に入れば説明するさ」
促された館を見上げるカレン。それは何の変哲もない、中流階級の金持ちが住みそうな規模の館であり、外見からはとりわけ危険な要素は見受けられなかった。あくまで外見上は・・・・であるが。
「ボルトさん、ここは・・・」
館の素性を知るランジェラが、何かを言いたそうにするのを、ボルトが一喝した。
「ランジェラは黙ってろ。お前さんはスカウトが仕事。俺はそれを更に厳選するのが役目だ。違うか?」
「それは・・・その通りですが・・・」
「なら、黙ってろ。心配しなくても、実力が分かれば止める」
「行って良いのかしら?」
その僅かなやり取りだけでも、やはりただの館ではないと察するカレン。
「ああ、入りな」
ボルトが促し、手下二人が扉の鍵を開けて開ける。
「・・・・で、入って何をどうすればいいのかしら?」
開かれた正面玄関をくぐり、内容を問おうと振り向こうとした直前、扉がボルト達によって乱暴に閉められ、鍵をかけられたのを音で察したカレンは、正面に広がるロビーを見回し一人呟いた。
視界内の光景は、やはり変哲のない一般的な館の内装の範疇であり、魔獣やゴーレムが待ち構えている訳でもなく、これ見よがしのトラップが並んでいる事もなかった。
だが、中には先客達がいた。それも一人や二人ではない。ロビーの隅のソファーや正面の大階段の途上、その上の通路など、十名の傭兵と思わしき男達が来訪者のカレンに思い思いの視線を向けていた。
「この連中から私の貞操を守れと言う事かしらね」
先程の、無事に出てくるという内容を思い起こし、カレンは呟いた。
『さて、ロビーに全員いるな?』
突如、館内にボルトの声が響き渡った。遠方に声を伝える類の魔法を用いた物である。
『全員聞け、ちょっと予定の変更があって、当初伝えていた内容を変更する。お前達は俺の開始の宣言から四時間の間、互いに闘い合え。そして、時間が来たら玄関を開放するので出てこい。その中の上位三名を免責処分としてやる。そして嬢ちゃんはさっき言った通り、無事に出て来れれば契約にしてやるよ』
館内にざわめきが起きた事で、カレンは当初の予定と今の説明に、大きな違いが生じているのだと確信する。
『免責』という言葉があった事から、ここにいる連中は何かしらの大失態、あるいは契約違反を犯した者達で、その処分の内容が変更になったのだろうと推測した。
その推測は概ね当たっていた。
館内にいる面々は、言うなれば職務怠慢者で、抗争に参加しない・手加減をして戦闘を長期化させたなど、傭兵としての義務を果たさず余計な損害・出費をさせた者達であった。
組織は、定期的な監査でそうした者達を取り締まり、幾つかの過酷な懲罰を用いて傭兵としての責務をまっとうさせるべく『指導』していたのである。
今回の当初の予定では、館に閉じこめた連中に対して殺し屋(実力派の傭兵)数人を送り込み、一定時間生き残れれば免責となる予定であった。
過去の統計から、全員が生き残る可能性は皆無であったが、制限時間も短い為、全滅する事も皆無であり、生き残った者は、身内に狙われた事で、組織が傭兵に対して優遇しているだけでなく結果を求めているという事を痛感すると同時にある種の恐怖感も抱き、それから逃れるために『仕事』の遂行に専念・・・少なくとも手を抜くことはなくなる・・・・
という、いわゆる『更生』と『弱者淘汰』の目論見があったのだが、今回は中に居る者だけで行われる生き残り競争となったのである。
もちろん全員、割の良い報酬目的のために傭兵になった身である。契約の続行を望み、その条件となる上位三名を目指すため、命のやり取りはともかく、上位会得のための優位な立場となるための戦闘行為は不可避となる。
男達は、早々に武器を構えて互いに注意を払い、いかに相手の行動力を奪うかを思案し始めたが、やがてその視線はカレンに集中しだす。
これが設定された制限時間によって生じた、彼女への『試験』であった。
四時間という時間は、十名の中で上位三名が確定するには十分すぎるほどの時間であった。一対一のトーナメントなどではなく、乱戦とる状況下では態勢が決するのに一時間もかからないだろう。
この中で唯一の女であるカレンは、そうした競争相手には含まれていない事。そして余りある四時間という制限時間。闘争心溢れる面々が、手始めとしての余興を連想するのもそう不自然ではなく、むしろその様に誘導するための条件とも言えた。
「やっぱり、貞操を守る・・・で、正解みたいね」
視線の中に含まれる欲望の感情を察したカレンは、試験官役であるボルトの悪辣さに、好きになれる人物ではないなと考えながら、六牙の杖を横一文字に構えた。
「嬢ちゃん、災難だなぁ!」
ソファに横になっていた軽装の男が、身を翻して早い者勝ちと言わんばかりの勢いでカレンに迫る。
「災難はそっちよ!」
カレンはカウンターとばかりに突き出した杖のを経由して、いつもの様に魔法による炎の弾を放った・・・・つもりだった。
しかしそれは実に脆弱な火の玉であり、動き易さを追求したが故の軽い皮鎧の表皮を燻す程度に止まった。
「!?」
思いも寄らない威力の小ささにカレンは思わず目を疑った。
ガキッ!
その僅かな動揺の隙を突いて、男の短剣が繰り出され、六牙の杖の牙に絡んだ。
「凄ぇな、嬢ちゃん。この中でそこまでの魔法が放てるとはよ」
「馬鹿にしてるつもり?」
「いやマジさ。この館には魔封じの処置が成されてるんだよ。知らなかっただろ?」
「魔封じ?」
自分にはあまり望ましくない言葉に、カレンが僅かに動揺する。
「ああ、専門外だから詳しくはないが、この館の中じゃ並の魔法使いは初歩の攻撃魔法も放てない・・・・はずなんだが、コレだろ」
男は、焼けた鎧の表面を指さし、素直に驚きの表情を見せた。
「つまりこれは、嬢ちゃんが並じゃないって証明なのさ。正直、恐ろしい程さ」
言って男は短剣を捻って、彼女の手から六牙の杖を弾き飛ばした。魔法使いとしての能力を認めた上で、その発動体である杖を奪い、勝利を明確にする為に。
「ま、テスト運がなかったと諦めな、そうすれば必要以上の傷が心身につくことはないからよ」
男が値踏みするような視線をカレンの全身に向ける。
そんな彼の眼前に、彼女の左人差し指が突き出された。
「何だぁ? 交渉でもするつもりか?」
「やっぱりは災難は貴方の方だったわね」
言った直後、彼女の指、正確には爪から炎がはじけた。マニキュアに封じた炎の魔法を解放したのである。一つの切り札的装備でもあったため、彼女は常に強力な魔法をそこに込めているため、その威力は先程の初弾より遙かに高く、『魔封じの館』内という環境下においても人命を奪うに足りる威力を披露した。
「・・・・・・・っ!!!」
至近距離から顔面に火炎を受けた男は、一瞬で顔と呼吸器官を焼かれて絶命する。
「こ、この女!」
「この程度の結界じゃ、私の魔力を完璧には封じきれないみたいね」
色を失っていくマニキュアを見せつけ、カレンが挑発的に笑む。そして左手を突き出すと。今度は薬指の爪から光の弾が放たれた。
「な、舐めるなっ!」
光弾の進路上にいた数人が素早く退避すると、光弾は迷走して無人となった床を直撃する。
「信じられない女だな、だが、その爪の仕込みも使い捨てであると見た!」
回避に成功した剣士風の傭兵の一人が叫ぶ。それは彼女の魔法攻撃が必ずしも無尽蔵では無いことを指摘している。
正確に言ってしまえば、魔法使いの攻撃は例外なく有限である。ただ熟練度やアイテムの活用によって消耗する魔力を軽減する事はでき、やり方次第となるが、上級者であれば、休息無しで数日の戦闘も可能なのである。
だが、この館内は力足らずとはいえ、カレンの魔力を抑えているのも事実で、隠し手であるマニキュアをやり過ごせば逆転はあり得ると、歴戦の戦士は考えたのだ。
「正解よ。確かにこのままじゃ、ちょっと分が悪いわね」
カレンは意外にも現状を素直に認めてしまう。それは場の効力を無視して、あり得ない魔法の行使するという現象を目の当たりにして動揺していた傭兵達に光明を与えたようなものだった。
馬鹿な同僚の先走りのおかげで、女の手の内が判った。その点をふまえ、男達が体勢を立て直そうとした矢先、カレンが頭上から振ってきた何かを掴み取った。
「!!!」
それを見て一同が驚愕する。彼女が手にしたモノ。それは先程冥土に旅立った男が弾き飛ばしたはずの、六牙の杖だった。
「だ・か・ら、これ使わせてもらうわよ」
構えた杖の『牙』を魔力の光で六色に光らせ、カレンが笑んだ。
「四時間も闘うなんて真似したくないから、覚悟してね」
その瞬間、館の中は地獄と化した。
「何者だよ、あの女は・・・・」
中の様子を観察するための魔法の水晶球で様子を見ていたボルトは、想像と期待を裏切ったカレンの姿を見ながら、その素性を疑った。
見るからに魔法使いの出で立ちをしているため、見た目と実年齢が合致していない可能性がある事と、ランジェラに見込まれた事もあり、それなりの実力者だろうと推測したからこそ、彼はこの館に彼女を放り込み、特技だろう魔法以外の実力を観察するつもりだったのだが、当の本人は特技のみの、ごり押し戦法で事を進めているのである。
耐火性の強い敵を相手に、炎の魔法で闘っているのと同様の行為に、呆れるのを通り越し、感心さえしていたのだが、間もなくしてそんな事を言っている余裕もない事に気づきだす。
館内の被害が、徐々に増大し始めていたのが目に見えて明らかになって来たのである。
確かにカレンの魔法はその威力を抑えられていた。本来なら数人をまとめて葬れる各種攻撃魔法も、一人を仕留めるのが精一杯であった。
彼女は、接近戦を狙う相手に対して炎と風の魔法で牽制を行い、ある程度の間合いを維持し続け、油断した者には雷の魔法を繰り出すと・・・・いった連撃を繰り返していた。
その攻撃は実に雑で、百発百中には程遠く、かなり無駄な攻撃にも見えたのだが、彼女の思惑からすれば全てが有効であり、その証拠として魔法攻撃の破壊力の増加が見られたのである。
実際、今のカレンに魔法を的確に命中させる意図はなかった。当たれば儲けものという思いの中で、まずは魔法を連射する事こそが目的で、その成果が徐々に得られたのである。
中の傭兵達も、連続して繰り出される魔法の命中率が妙に悪い事が、魔封じの処置の影響だけではないと気づきだすが、その時には既に事態は手遅れとなっており、程なくして彼等は、猛獣に牙が戻った事を思い知らされる事になる。
「あいつっ!封魔処置の幾つかを潰しやがった!!」
彼女以外で、その狙いを最初に悟ったのは傍観者であるボルトであった。
相手の魔法を封じる方法には、大きく分けて二種類あり、一つは魔法による個人を対象にした結界、もう一つは魔法を付与した物体の均等配置あるいは魔法陣による一定範囲を対象にした結界とが存在する。
前者は術者の実力によって効果に幅が生じる他、素早く何処ででも使用できる反面、持続時間に制限が必ず生じる問題がある。
その一方で後者は、持続時間が永続する変わりに、決められた範囲でしか効果が望めず、その準備にも手間がかかるという問題がある。
つまりはそれぞれに一長一短があるわけである。
無論、館内に関しては後者であるのは明かであった為、カレンは敵の撃退よりも館内の破壊を優先させていたのである。
怪しげな物は当然の事ながら、壁・床・柱を初めとした箇所を手当たり次第に破壊する事で、魔封じの効力減退を狙い、そしてそれは成功を収めた。
威力の確認を兼ねた炎の弾が壁に着弾し、これまでにない炎上を見せた事で、彼女は作戦成功を確信し、同時に傭兵達もようやくにしてその狙いを悟る。
「・・・・そろそろ良さそうね」
「ま、待てっ!」
『よせ、もう止めろ!』
カレンがこれまでと異なる構えをとった事で、傭兵達は本能的な危機を感じ、時同じくして惨劇を予想したボルトの声が、中止を求めて響き渡った。
だがカレンは容赦なく魔法を発動させた。
炎と風の全方位放出。
相乗効果で炎の竜巻となったそれは、彼女を中心に放射状に広がり全てを呑み込んでいく。主戦場となったロビーは瞬く間に炎に飲まれ、ダメージを受けて強度の落ちた壁が崩れ、窓ガラスが全て吹き飛び外に散った。
「うおぉっ!!」
ボルト達から見れば、ロビーに爆発物が投げ込まれたようなものである。ガラス・壁・扉がまとめて吹っ飛び、方々に散る。仲間の何人かは、その破片を受けて痛々しく蹲り、テスト兼制裁場であった館は、瞬時に敵の襲撃現場の様相へと変貌してしまう。
これによって周囲は軽いパニック状態となり、警備兵を始め待機組が一斉に集まり出す。
「何だ! 何があった」
「本部に敵襲かよ!?」
「どこが襲われた!」
ボルトは集まりだした面々に落ち着けと促すと、変わり果てた姿となった別館の入り口へと向む。
「ったく~、おい、魔女! でてこい!」
中に入るなり、ボルトは当初の『お嬢ちゃん』ではなく、魔女という呼称でカレンの姿を捜すと、隠れる必要のなかった彼女はすぐに視界に捉えられた。
「何?」
カレンは元が何かも判らない瓦礫の一部に腰を下ろし、色を失ったマニキュアを塗り直していた。
「随分と余裕だな・・・」
「そう見える?」
彼女にしてみれば、消耗した隠し武器の再装填をしているようなものであったが、マニキュアが発動体とは理解していなかったボルトにはくつろいでいるようにしか見えなかった。
「他に見方があるなら、参考までに言ってくれ」
「別にいいわよ。そう見えるなら、そう見えるで。別に気にしないから」
言われてボルトは周囲を見渡す。
「やはり、余裕としか見えんな」
辺りは焼け野原、かつて人だったのか調度品だったのかも判別がつかない状態へと追いやる一撃の中で、彼女以外の生存者がいれば奇跡であり、その奇跡が起きたとしても、今後の戦力には到底なれるとは思えない。
仮に動ける者が居たとしても、ここまでの惨状を見せつけられれば、もはや彼女に戦闘を挑む者はいないだろう。本来のルールでは彼女との戦闘は必須ではないため、生半可な欲望など、先の一撃で綺麗さっぱりと吹き飛ばされているに違いない。
退屈しのぎのつもりであった臨時試験が、たいそうな惨事となり、予定以上の戦力を失う結果となった事に彼は後悔した。
「それにしてもやりすぎだな・・・・」
「辺りを壊してはいけないとは聞いてないわよ。無事にいろ・・・としかね」
その反論は、相手の興味本位なやり方に対する嫌味を隠さない物だった。
「それで? 貴方がここに来たって事は、自ら私を試すの? それとも合格?」
求める強さの基準からすれば、その質問に対する答えは決まっていた。若干、ファーストコンタクトの失敗により、ボルトの個人的な感情面では難色を示したいところではあるが、それは採用の正否の基準には含まれていない。それに、魔法使いとしての技量は申し分ないという事実があり、彼女を不採用として相手側に流入する可能性もある事を思えば、当面の判断はほぼ定まっている。
「合格・・・だ・・・・」
やむなしと言った感情を隠さずボルトは応じた。
「ランジェラに宿場へ案内してもらえ。配属は後で通知する」
「りょ~かい。くれる物をちゃ~んと、くれるのなら役に立ってみせるから安心してね」
ゆっくりと立ち上がり、崩れた穴から出ていく彼女の姿をボルトは複雑な心境で見送った。態度などは他の傭兵同様、自己主張の高い傾向が見られるのは珍しい物ではなかったのだが、どこか、何かが違うという思いを払拭できなかったのである。だが結局彼は、自身の疑念がどこから来たのか、納得できずに終わる。
「派手にやりましたね・・・・」
出迎えるように待っていたランジェラが、大破した館を見回してカレンに苦笑する。
「悪質な試しに、相応の態度を示しただけよ。私は傭兵志望したつもりだったんだけど、向こうは勘違いしたみたいだから、その辺りをはっきりさせたかったのよ」
本来それは、ランジェラの役割だと視線で語るカレン。だがそれも口実であり、行きすぎた行為は彼女自身の憂さ晴らしでしかなかった。
「少々過激でしたが、その意思は通じたと思いますよ」
ランジェラは手振りでついてくることを示すと、カレンは素直に後を追い、会話を続ける。
「それで、私はどこに着任するのかしら?」
「それはまだ何とも・・・ですが、今の攻撃性を考慮すれば、襲撃の多い支部のどこかに配属になると思いますよ」
「つまりは用心棒役?」
「基本はそうです。ですが、そこを拠点に積極的な攻勢に出てもらっても結構です。受け持った支部の維持が最低限の仕事となり、あとはより多くの敵を排除していただくことで、特別報酬も出ますので」
「好きにさせてくれる訳ね」
「支部が維持されるのであれば、何の問題もありません。ただ、大規模な計画が生じた場合は、強制的な指令が届くはずなので、その際には遵守してください」
「わかってる」
「では、こちらです・・・」
たわいない会話の間に、ランジェラは案内を済ませた。そこは、先程の別館と似た規模の館であった。
「ここは?」
「本拠地勤務組となった傭兵達の主な宿舎です。おそらくはすぐに配属が決定するはずなので、ここのロビーでくつろいで待って下さい」
扉を開け、促す相手にカレンは素直に従った。
「それじゃ、遠慮なく」
「あら、ランジェラ? お久しぶり」
館内に入るやいなや、予想だにしなかった迎声が投げかけられ、案内者は少々驚いた面持ちとなってそれに応じた。
「レズリー? 貴女が何故ここに?」
「支部のお使いよ。で、本部側がその準備を終えるまで、待たせてもらっているのよ」
運動性を重視するようにアレンジされた紺色の法衣を身に纏い、短めの赤髪が際立つ、レズリーと呼ばれた女性は、ロビーのソファに遠慮なく腰かけ、館専属の給仕に用意して貰ったホットケーキに蜂蜜をたっぷりとかけ、幸せそうに頬張っていた。
「急ぎではないのですか?」
彼女のテーブルに歩み寄るランジェラ。
「ええ、消耗品である魔晶石の補充要請だから・・・・で、そちらは新人?」
口の中に残っていたホットケーキを飲み込んで、視線を移すレズリー。
「ええ、今し方、圧倒的な能力を誇示してきた、期待の新人カレンさんです」
「ふ~ん・・・魔法戦士?」
「いえ、魔法使いですよ。カレンさん、こちらは後方支援が主な役目のレズリーです」
紹介を受けて軽く会釈したカレンは、現場を見て判断したランジェラの言葉を否定しなかった。単なる魔法使いと区分されるのも好ましくないと思ってはいたが、戦士・剣士としての腕前は自己評価であっても大したことはないもので、ましてや闘気士としては、技能がある程度で実戦には不向きと認めており、結局のところ、自分自身の取り柄は魔法しかないため、今のところ無理に否定する気もなかったのである。
「ガード堅そうね」
見た目の判断なのだろう。微妙なニュアンスを含めて、レズリーは言って笑みを浮かべる。少なくともカレンの外見で嫌悪感や威圧感を抱かなかった様である。
「何でも質の悪い勧誘に遭ったからだそうですよ」
誰もが同じ第一印象だろうなと思いつつ、ランジェラは軽いフォローを示す。
「いるいる、ベック達なんて良い例よね。ランジェラみたいなのが、人材集め上手いから、かなり焦ってるって聞いたけど」
その話は彼も聞き及んでいた。言ってみれば同じ分野で働く仲間ではあったが、根本的に発想が異なっていたため、ライバル視する事もない身内であった。
「私は競っているつもりはなかったんですけどね・・・・そもそも彼等は、協力者に対する礼儀を知らなすぎます。強要では、真の協力は得られませんよ」
その意見にウンウンと頷くレズリー。
「最悪、しっぺ返しもあるもんね。あ、そう言えば、それと関連しているのか、噂じゃベック達って誰かにやられたらしいわよ」
「本当ですか?」
おもむろに出てきた話題に、ランジェラが思わず聞き返す。
「噂・・・よ。管轄地区外だから、正確な情報が届いてないけど、街はずれの方で、遺体が見つかった・・・・らしいわよ。事実なら、また正式発表あるんじゃない?」
「それも日常茶飯事?」
味方の人員の死にあっさりとした様相の二人を見て、カレンが口を挟んだ。
「そこまでは・・・・ですが、少なくもない事件ではあります」
戦場外とはいえ、やはり二つの勢力の争いである。勧誘者同士の抗争もやはり不可避なのである。
「難儀ね」
だから彼は従者をつけていたのだなと、カレンは内心で納得する。
「全くです。では私は、手続きを行ってきますので、くつろいでいて下さい。レズリー、暇なら彼女の話し相手をして下さればありがたいですが・・・・」
申し訳ない、と、言うよりも、何か心配事があるような様相でレズリーの様子を伺うランジェラに対し、彼女は不満そうな様相を見せることなく笑顔で了承する。
「ええ、それくらいお安いご用よ。遠慮しないでよ」
「いえ、私が言いたいのは・・・・」
「そっちも大丈夫、苛めたりしないから」
レズリーは手をヒラヒラと振って応じると、彼は一抹の不安を抱きつつも、仕事をこなす為にその場を後にした。
「さあ、座んなさいよ。カレン・・・だっけ?あなたも雇われたのなら、この施設は自由に使って良いんだから、遠慮しなくていいのよ」
「貴女はここ長いの?」
言われるまま、テーブルを挟んで向かい側のソファに腰を下ろしたカレンは、とりあえず仲間となるはずの相手に対し、最初に気になった疑問を投げかけた。
「ん~四ヶ月目・・・だったかな?」
「何で傭兵になったの?」
「それは私も聞きたいわね。見たところカレンって余所者でしょ?わざわざここに来た目的ってのがあるんじゃない?さっき私が先に答えたんだから、今度はそっちからね」
子供のような理屈で返答を迫るレズリーに嫌悪感は抱かなかったカレンではあったが、組織にいるだろう呪血の精製者に対面して抗議するつもり・・・などとは言えるはずもなく、必然的に偽りを口にするしかなかった。
「成り行きよ。通りすがりで、好奇心に駆られて街の見物をしてたところに、不作法な勧誘があったから、その報復の意味もあるってわけよ。でも、彼・・・ランジェラの報酬内容を聞いて、少し物欲も出てるかな・・・」
カレンは肝心な部分を包み隠して歪曲しつつも、ほぼ真実を告げた。極端な虚偽は、どこかで矛盾が出る可能性があるため、極力しない方が良い・・・・と、以前ウェイブに教えられた事があるのを思いだし、それに従ったのである。
「マジックアイテムね。確かに使える物が結構あるもんね」
レズリーは疑うことなく納得し、頷いた。
「それで、貴女は?」
「レズリーでいいわよ。私は、徴兵されたみたいなものよ」
「徴兵?」
「私は地元出身で近隣にある故郷の自警団に所属してたんだけど、今回の地域の自治団の統一抗争が起きたわけよ。で、両方の陣営から参入要請があって、どちらかに組みしなければ・・・・って、お約束の強要。だから私は個人的に条件を聞いてみて待遇が良さそうだったこちらに入ったってわけよ。どうせなら割が良い方がマシでしょ?」
「多分・・・としか言い様がないわ。私とは違う境遇だもの」
「随分シビアね・・・それも、旅をしているせい? あ、そもそも何で旅なんてしてるの?」
「遠い地に在るはずのモノを探すためよ」
「それって宝とかの類?」
「そんなものよ。でも、詳しくはナイショ」
さすがに、結界解放の為のアイテム探しだと真実を述べても、信じてもらえないだろうと感じたカレンが先手を打つと、レズリーも少し不服そうな表情をしつつも、追求はしなかった。
「ふ~ん・・・ねぇ、旅って大変?」
「当然よ」
新たな質問に対し、カレンは即答する。
「ここと違って、頼れるのは自分自身、チームを組んでいるなら、その僅かな仲間だけで、待てば増援が来るなんて事もないし、場所によっては常に気を抜けない環境もある。楽なはずはないわ」
「やっぱりそうなんだ・・・」
稀に聞く、旅の経験者の話とほぼ同じ内容に、レズリーは頷く。だがカレンの話には妙な説得力というか迫力が感じられ、否定的意見を寄せ付けない雰囲気があった。それは、当人の『過酷』と十分に類されるであろう樹海中心部での経験から滲み出た物だった。
「それじゃ、やっぱ、その鎧も旅の経験からの工夫なの?」
席を立ち、カレンの右側に移動したレズリーが、物珍しそうに鎧の形部パーツを撫でてみた。やはり彼女も、その形状が野生生物の威嚇目的と考えた様である。
「そんなモノだけど・・・・気をつけてね。噛みつくから」
言ってカレンが意図的に肩を僅かに震わせると、噛むという言葉と相成って、レズリーを驚かせるに十分な効果を示し、彼女は思わず手を引っ込めて後ずさりし、引きつった表情を見せる。
「ゴメン、冗談よ」
敵意さえなければね・・・と、心で付け加えつつ、その様子に思わず吹き出すカレンであった。
「ひ・・・人が悪いわよ・・・」
ミファールの形状がかなり生物的である点と、触れた際の感触が妙に生々しかった事から、本当に動いたのだと心底信じてしまったレズリーは、激しく鼓動を乱した左手で押さえつつ、ゆっくりと開いた距離を詰めていった。
「でも人間にも効果あるのが判ったでしょ? これで結構、獣と小心者の悪党程度の牽制に役立ってるのよ」
「今、実感したわ・・・・凄い効果よ。お手製?」
暗闇で出会ったら、心臓麻痺もあり得るかもと、本気で思うレズリー。
「先祖代々の貴重品よ。どうやって造られたかは知らないけどね」
この時カレンは少し喋りすぎたと内心後悔する。先祖代々の物がカレンにジャストフィットしているのは、普通に考えれば疑問点となるだろう。
ミファールの機能性で見れば当然の現象ではあるが、できれば『鎧』の素性は、基本的には形状に凝っただけの鎧・・・で通しておきたかった為に、鋭い指摘に対する言い訳の一つも用意しなければいけないかと考えていた彼女であったが、少なからず寿命を縮める経験をしてしまった直後のレズリーには、それどころではなかった様で、そうした疑問にまでは至る事ができなかった。
が、それ以前に彼女は、別の目論見に集中しており、その狙いの最重要項目がクリアできた事に悪戯心を膨らませていたのであった。
あとがき
カレンは負けず嫌い、反骨精神が高いです。
先だっても、今回でも、そしてこの先でも、魔法の効果が抑制される環境と知りつつ、魔法を多用する行為を行っています。
修行の一環という考えもありますが、何よりも、魔法を封じてやったと考える相手に対しての抵抗であり、得意分野を極めんとする彼女の方針でもあります。
困難であればある程、燃える・・・と、考えていると思っても良いでしょう。
つまりは、相手の想像通りになってたまるかってところですね。
投稿日:2013/03/29(金) 15:16:34
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