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2014/02/02(日)に投稿された記事
第2章 ウェイブ編 1-1 -生贄の女-
投稿日時:10:15:53|コメント:0件|》本文を開閉
ディレクトリ:くすぐりの塔AF -魔王の後継者達-
現在いただいているデータは、この小説までとなっています。
そういや、昨日投稿したデータ、以前にもアップしてましたね・・・ごめんなちゃい
一つのパーティとして見れば、なかなかに息の合った三人であったが、そのつき合いは決して長いと言えるほどのものではなかったが、魔王の血という重いモノを背負っているという共通点が、彼等の間に強い絆を構築させていたのである。
無論、それだけというわけでも無かったが、そうした特殊な縁は、兄弟の絆と言っても良いほどの深みがあり、共に居るのが当然であるがごとき連帯感をも抱かせてもいた。
そんな彼等が自ら選択した『別行動』は、自己の成長を目指してのものであるのは疑いない。つい今しがた目撃した、ほとんど絶対的とも思える存在は、天から舞い降りた神でも、地の底から産まれし悪魔でもなく、自分達のルーツの原点であり、その片鱗が間違いなく自分達の中にもあり、あの域に至れる可能性が少なからずあることを意味している。
もちろん容易ではないだろうその域に、少しでも近づく為には、より多くの苦難を乗り越えていく事が必須であり、これまで互いの欠点を補い合っていた仲間と別れて行動する事は、必然的に行き着く選択と言える。
それが、どの様な結果に至ろうとも、己が目的の為に選択した判断が、誤りとなる事は無い。彼等にとっては選んだ行程云々より、目標から逃げた瞬間が、真の敗北となるのだから・・・
彼等の進む道は僅かな選択、ささやかな要因で大きくその内容を変えてしまう不安定な未来そのものであるが、ただ一つ確定事項とも言えるのは、それぞれに影響を及ぼす転機が、その道中に幾つか、ひっそりと潜んでいるという事であった。
ただそれが、どの様な形で現れるか、知る由もない事だった。
「・・・・・・!!!!」
魔鏡に触れたウェイブは、強い光に視界を遮られたと同時に浮遊感に包まれた。
落下時とも異なる感覚は、すぐに彼から上下感覚と並行感覚を奪い、過度のアルコール摂取による深酔いにも似た不快感を与えた。
やがて周囲の光が途切れ、周囲が一転して闇に覆われると、時間にして僅か数秒だった旅路が終わり、ウェイブはこの世界の中心点から最も離れた土地の一角へと転送された。
そこは密室の一つらしく、灯りが存在しない事が原因である闇が辺りを覆い、彼の行動を遮った。
目が慣れるのを待つ・・・事を考えるより先に、ウェイブは強烈な嘔吐感に襲われた。
「~~~~~~~!!!」
まるで数日分の飲酒の反動が数倍になって一気に訪れたかのような、最悪の不快感に、彼は手を口にあてるよりも早く床に嘔吐してしまい、しばらくの間、路地裏ののんだくれの様に喘ぎ続けた。
テレポーターによる影響なのだろう。平衡感覚が全く定まらない不快感はしばらく彼を襲い、胃を空にして尚、彼を苦しめた。
「~~~~~ぁあ、最悪だ・・・魔法転移ってのはあんな気持ち悪い物なのか?」
小一時間後、ようやく思考できる余裕を持てるほどに回復したウェイブは、装備・荷物が全てあるのを確認すると、鎧の肩パーツの裏側に差し込むように隠してあった、長さ10センチ程の棒状の物体を取り出し、その先端を床に擦りつけた。
シュパッ
擦りつけられた先端部分から火花が散り、その大きさからは不自然なほどの眩い光を放つ炎が燃え上がった。魔法薬を用いて作られた簡易松明である。
松明とはいっても、そのサイズは遙かに小さく、また照度は遙かに明るい。見たとおり、着火の手間も省ける優れもので、その便利さに比例して値ははったが、荷物を少なくしたい長期冒険者やベテランなら必ず所持しているだろう物品である。
これまではカレンによる魔法の照明が利用できたが、その彼女がいない今、手持ちの消耗品を使うしかなかったのである。
その人工光源を掲げたウェイブは、室内をゆっくりと照らして自分の放り込まれた空間を確認する。
「これ・・・かな?」
壁の一角に自分が先程触れた魔鏡と同じ形状の鏡が設置されているのを確認して、ウェイブは呟く。
彼は試しに、枠の上部に手をかざして起動するかを試みたが、鏡は手元で輝く人工光源の照り返し以外の光を放たなかった。
「やっぱり無理なのか・・・」
同じ形状なら戻る事も出来るのではと、期待していたが、枠のどの位置に手をやっても、鏡は鏡以上の役目を果たさず、その枠自体も完全には原型を留めておらず、所々で欠損も確認されていた。
「ま、使えても、あんな気分になるなら、願い下げだけどな」
先程生じた強烈な不快感は、この破損に原因があったのかもと、ウェイブは一人納得すると、魔鏡の利用を早々に諦め、自分の嘔吐物の臭いで新たな吐き気を催す前に唯一ある扉から部屋を出た。
「やっぱダンジョン・・・か?」
扉を出た先が、過去何度も見た景色である薄暗い通路となっている事で、彼はそう判断した。
それは予期せぬ出来事ではなかった。キーンの残したキーポイントを保護しておくための施設である、野晒しになっているはずはないと思っていた彼は、この状況に特に慌てる様子を見せることなく、一方向だけの通路をゆっくりと進み始める。
状況を単純に見れば、新たな遺跡巡りをしているのと変わらない。ただ、そのスタート地点が地上の出入り口ではなく、地図もない迷宮のまっただ中から始まっただけの事なのだ。
シビアに言うならば、彼が危機に陥りスタート地点に戻っても、そこが地上でないという状況的ハンデの存在が述べられる。
つまりは彼に後戻りの選択は無いに等しい状態であったのだ。
「・・・・・誰か、都合良くこの中で探索しているグループでもいないかな」
何よりも現地の情報が不足していたウェイブは、神頼みに等しい他力本願ぶりを口にして自笑する。当人もアテにもしてない冗談であったが、今この時、この迷宮では、都合良く、とある陰謀が進行していた・・・・・
「ふはっ、ふははははははは!遂に私は、伝説の力を我が物とするのだ」
迷宮内の一角にある、とある広い部屋で、悪役丸出しの笑い声と台詞を恥ずかしげもなく叫ぶ男がいた。
彼の名はクライマー。地元では魔法学に関してその名が高く、魔法を用いた動植物の育成と合成を得意とする人物である。
ここまでなら彼も単なる魔法使いや魔法学者に類するだけの存在であったが、彼には他者とは比べものにならないくらい探求心が強かった。
魔法に携わる者は少なからず探求心が存在する。そうでなければ向上などしないからだが、クライマーの場合それが際立っていた。
彼は幅広い魔法の分野において、自分の手がけるそれに僅かでも関わっている知識は必ず手に入れ、どんな形であっても実践して確認しないと気が済まない人物だった。
優しく言えば凝り性・完璧主義者というところだが、関わる分野が魔法であるが為に質が悪い。それが彼自身と周囲の不幸であったに違いないが、当人がそうした問題に気を病んだ事は、当然ながら一度もない。
クライマーのそうした探求心がもたらしたのが、今、この場で行われている現状であった。
彼は緻密に研究して描いた大きな魔法陣のほぼ中央で、大いなる力があと一歩の所に来ている事実に高揚し、高笑いを続けた。
一般人が見れば、紙一重の領域に足を踏み入れたかにも見える自己満足を主張する高笑いをしばらく続け、深呼吸が必要なほどに達してようやくクライマーは満足すると、いよいよ本題に入ろうと、視線を上に向ける。
「・・・・・・!」
そこには若い・・・少女といってもよい女が、両腕を触手状の物体に絡まれて天井から吊された状態になっていた。
彼女は袖口などを開いて動きやすくした法衣に身を包んでいたが、肌と共に派手に煤に汚れており、戦闘の後に捕らえられた事を伺わせた。
触手は、天井から壁、そして床と大きく迂回して彼女の直下に位置する巨大なタマネギ状の物体から伸びており、創造主たるクライマーの指示を待っている。
「さて、アニィ・レイス。待たせたな」
頭上の女に向かってクライマーは笑んだ。
「誰も待ってないわよ。それに私の姓はレイスじゃない!」
アニィと呼ばれた少女は力一杯に否定して、眼下の相手を睨みつける。
「いっそ、笑い続けて満足して、そのまま帰ってくれればありがたかったのに」
「何を言う。私が満足するのは君等の力を我が物とした時だ」
「何度も言わせないで、それは不可能よ!そんなの二十年も前に失われたのは誰もが知ってる事でしょ」
アニィは相手が求めているモノの正体を正確に把握している。そしてその当事者であり、現実的に考えてそれが実現出来ないことも自覚している。だがそれ故に、それが彼女の人生の大きな悩みでもあった。
「凡人の発想ならば・・・・な。だが、私のように魔法学を突き詰めて行き、応用を利かせて行くことが出来れば、それは不可能ではなくなるのだよ。それに・・・・これは君の望みでもあるだろ?」
「・・・・・・・・・」
アニィは答えなかった。それに関しては、肯定でもあり否定でもある複雑な事情があったのだ。
「君の事情は知っている。だが、私の探求に他者の意志は関係ない」
「知ってるわよ」
迷惑な話だが、だからこうして彼女はここにいる。
「ならば事を進めよう。今度は君が存分に笑ってくれ」
そう言ってクライマーは待機していた魔法生物に専用ワードで指示を与える。
創造主に対してのみ忠実なソレは、指示に従い行動を開始する。
タマネギ状の本体の底部から、先端がコブ状になった触手が四本伸び、アニィの身体へと向かって行く。
「ちょっ、やめっ・・・」
これが何をもたらすかを知っているアニィは思わず身体を揺すって逃れようとする。だが、吊された身では逃走も出来るわけもなく、せいぜいその身体をくるくる回すだけに止まった。
その程度の抵抗でどうなるはずもなく、四本の触手は難なく彼女に辿り着き、諸準備を開始する。
触手はその先端のコブを左右に広げ、中に閉ざされていた無数の細い触手を展開する。それは遠目にはブラシの様にも見え、準備が整った触手は一斉に彼女の身体に貼り付いた。
二本の触手は無防備状態となっている彼女の両脇の下に貼り付き、残る二本は脇腹に貼り付いて蠢き出す。
「あっ、はひっ、く、くすぐった・・・あっひゃははははははははははははははは!」
両脇の下で一本一本が不規則に動く触手の束の刺激に、たまらないくすぐったさを感じたアニィは、たまらず吹き出して悶えだす。
身体が刺激から逃れようと自然と身体が動きだすものの、触手はその柔軟さを活かして文字通り貼り付いたように所定位置を維持し続ける。
「ひひゃっははははははははははははは!あっきやっっ、くすぐったいってばっ!はひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃっははははははははは!!!」
アニィは自分に唯一出来る抵抗手段である身体のスィングを続け、何とか触手を払おうと懸命になったが、それは彼女の体力を消耗するだけの結果にしかならなかった。
今現在も弱点である脇の下に生じる刺激で身悶えるアニィであったが、そのくすぐったさは更に増す傾向となっていた。
「ふひゃははははははははははははは!あ~っっははははははははは!なに、なに、なぁぁぁんでぇ~~~くすぐったぁぃくすぐったぁ~~~い。くすぐったすぎぃひひひひゃはははははははははは!!」
一定個所の責めならば、少しは慣れが生じるかと思った彼女であったが、脇の下を責め続ける各触手からは粘液が分泌され、滑りを帯びた触手となって新たな刺激を送り込み、その淡い期待を簡単に一蹴した。
触手の束は滑りを利用してより大胆に、より激しく蠢き、ニュルニュルニチャニチャと淫靡な音まで生じさせる。その度に彼女は息が詰まりそうになるくすぐったさに敏感に反応して、身を激しくくねらせ続ける。
その上、その粘液はくすぐりの為のローションとして以外の効果も備えており、その効果は脇ではなく、もう一対の脇腹の方で生じ初めていた。
「はっ!?はい?はひゃっっはははははははは!な、なに、な、なぁひゃっっははははははははあっははははは、なにぃぃ~~~~!?」
断続的に続く脇の下のくすぐったさの中で、これまで法衣によってガードされ、意に介していなかった脇腹の刺激が徐々に強くなってきた事に、アニィは戸惑いつつ新たな加わった刺激に更に激しい反応を示し始める。
彼女は自分の意志では止めようもない身体のくねりをしばらく続けながら、ようやくにして事態を把握する。
触手から分泌された粘液によって、法衣の布だけが溶けだし、貼り付いた部分である脇腹の肌を露出し始めていたのである。
「うわっ、うひゃっっははははははははははははは!そ、そんなぁっ!ひぃ~~ひゃっっははははははは!!だめぇだめだってば~あっははははあははははははは!!く、狂う、狂っちゃうぅぅぅぁっははははははははは!!!」
脇の下のみならず、脇腹までもが滑りを帯びた触手の群に襲われた事で、より一層激しい反応を見せ始めるアニィをクライマーは満足そうに見上げた。
「いいぞ、その調子だ、そのまま狂って心を壊してしまえ。そうすればお前は、『魂の根元』が望む姿を取り戻し、私はその力を手に入れる」
彼は頭上で繰り広げられる痴態を眺めながら、その先の予定事項に意識を向けて悦に入る。
だが、そんな相手に構っている間などアニィにはない。魔法生物がこの上更に激しい刺激を与えようと動き出したのである。
「うひゃははははは、あっ、な、なになぁっはははははっははははっははははは!なにをぉ~~~?」
くすぐったさに翻弄されながらも彼女は身体が下がっている事に気づいた。
解放はまずあり得ないと判っていた彼女は眼下に視線を向け、相手の意図を悟り、笑いに歪んだまま顔を蒼白にさせる。
タマネギ状の本体がその頭頂部を四方に広げ、脇の下や脇腹を責める触手より遙かに多くの触手が蠢くその内部に彼女を招き入れようとしていたのである。
「い、いやっ!そ、それはぁ、それはぁははははははははっははははははだめぇ~~~~ひひゃっははははははっははははあぁぁぁぁ~~~~!!」
笑い悶えながらアニィは足を開いて待ちかまえる『口』の端で止まろうと必死に抵抗した。だが、口からはみ出した数本の触手が彼女の足首に絡みついて内側へと引き込もうとし始めた。
「いやっ、だめっぃひっひひひひひひひひ・・・・・」
足が内部に入り込めば、もう抵抗する手段はない。彼女は必死に足を踏ん張って、触手の力に抗ったものの、数本の触手が粘液をなすりつけて靴に小さな穴を開けると、そこから靴の中に潜り込み、滑りを利用して素早く足裏や指に移動し、指と指の間や足裏を刺激した。
「あっ!ああっ!!!いやっ!いひゃっっっ!!!~~~~っははははははははははははははは!足はだめっ~~~っっ!」
足裏に生じた刺激に、たまらずアニィが反応した思わず足をすぼめた。反射的であり仕方ない事ではあったが、これは彼女にとって致命的ミスでしかない。
くすぐったさから逃げるため、足が放れた瞬間を狙って触手が収縮し、あっと言う間に足を内部へと引き込んだのだ。
「あっ!」
しまったと思う間もなく、彼女を吊していた力が一気に抜け、彼女の身体はタマネギ状魔法生物の中へとはまり込んだ。
魔法生物は人一人を飲み込めるだけの大きさはなかった。だが、入った獲物を取り逃さないように開いていた先端部を閉じると、アニィの身体は首から下を殆ど取り込まれる形となる。
それはすなわち、彼女の責められる箇所を示している。
「~~~~~~~~~~!!!はひっ!はぁっ~~~~~!!あひゃっっはははははははははは!あぁ~~~~~~~~~っっはははっははっははははははは!」
魔法生物の内部の触手が逃げ場のないアニィの身体に一気に襲いかかる。時間が経過すれば粘液によって邪魔な衣類は全て除去されるが、それすら待てないのか触手は先を争うようにして服の隙間から中へと潜り込み、要所要所で蠢き、耐え難い刺激を送り込んだ。
「いひゃっっひひひひひひひひ!!ひぃひぃひぃひぃひきぃひひゃっはははははっははあははっははははははは!ほんっ・・ほはひゃははははははは、ほんと、狂っちゃうぅひゃっっはははははは!く、く、くるっ、くぁっっはははははははは!!」
タマネギ状魔法生物から顔と両腕のみを突き出した格好のまま、懇願すらまともにできず、アニィは発狂寸前の様相で笑い続けた。
「いいぞ、もうすぐだ・・・もうすぐ、もうすぐ全てが・・・」
「待て、まてぇ~い!!」
クライマーの祈願成就の寸前を狙ったかの様なタイミングで、行為を制止する第三者の声が響いた。
「「!?」」
クライマーとアニィの視線が一斉に声の発生源に向いた。
「何者だっ!」
人とは反射的にそう言ってしまうのか、クライマーは自分達のいる場所から少し離れた台座に立つシルエットに向かって問いただした。
「通りがかりの正義の味方(自称)だ!」
腕組みをしてたたずむその男、ウェイブは、芝居がかった口調で語った。
「状況的判断により、女を嬲る良い趣味してるお前を悪と見なし、成敗する!」
部分的に不謹慎な口上を終えた彼は、台座から高々とジャンプし、彼等の立つ床へと着地する。
「ふざけるな、この私が悪だと!」
クライマーは憤慨するが、やっている事はその物なので、否定の意思も空回り状態となる。
「今のこの現状を、どの角度から見れば、それ以外の結論が出る?役割通り、この俺に、た・・・たぉっ・・・たおれ・・」
「?」
突如、ウェイブが言葉を詰まらせた、特に難しい言葉を口にしようとしたわけでもない状況に、一同が怪訝そうな表情をする中、彼は顔色を真っ青にして、冷や汗を流していた。
「・・・ぅ・・・・・げぇ・・・・」
「!!!!」
彼等の抱いた疑問に、答えが明確な形で表現された。ウェイブは息を詰まらせるようにして咳き込むと、背後の壁に向き直って体を傾け、床に嘔吐しはじめたのである。
その出来事は、彼等の予測範囲を大きく逸脱しており、状況の把握を大幅に遅れさす。
「い・・・今のジャンプで、酔いがぶり返したっ・・・・」
ジャンプの際の僅かな浮遊感。それがウェイブが先程体験した忌まわしき感覚を思い出させてしまい、不快感を再び呼び起こしてしまったのである。
「な・・・・何の事はない。単なる酔っぱらいか」
クライマーの判断は、彼等が得た断片的情報からすれば至極まっとうな部類に入るだろう。しかしながら、『単なる酔っぱらい』が、この迷宮のこの場所に偶然たどり着ける可能性はかなり低いと知っている彼は、本心的には発言通りには判断しなかった。
「とんだ横槍だが、すぐに終わらせる。それまでインターバルだ」
クライマーが行おうとしている行為にはタイミングが必要であった。珍入者の相手でそれを逃しては元も子もないため、彼は魔法生物に、アニィに対する責めを中断するよう指示した後、部屋の各角に配置されていた四体の木の人形『ウッド・ゴーレム』に指示を送った。
主の命令を受けたウッド・ゴーレムは直ちに動き出して与えられた使命、-侵入者の抹殺-を遂行すべく、対象へと向かう。
並の冒険者であればウッド・ゴーレムは大した驚異にはならなかったが、クライマーの用意したそれは、攻撃を仕掛ける両腕が刃や斧といった武器になっており、要所要所に金属による補強が成されていた。
ゴーレムの類に攻撃力を求めれば、必然的にその素材は金属や石となり、それに伴って動きが鈍るのは常識であった。だが、大きな破壊力を有していても命中しなければ効果はなく、動きの鈍化で破壊力が活かせない傾向を嫌った彼は、求める動きを有するウッド・ゴーレムに着目し、戦闘力の低さを武装等の強化を施す事で補ったのである。その実力の程は、多少腕の立つ冒険者でも、一人であれば三体もあれば十分に通用する能力に仕上がっていた。
どうやって此処に辿り着いたか、少なからずの疑問と興味があったが、今はそれ以上にやるべき事が存在したクライマーは、邪魔者を即時排除して何事もなっかた事にしようとしていた。
「おい、体調の悪い相手に、この数は理不尽だろ」
「何をいう、そんな体調でこの場に現れた事をこそ恨むべきだ。余計な手間をかけさせぬよう、早々に死ね」
相手の不満の声も聞く耳もたず、クライマーは相手の死を至極当然のごとく望む。
無造作に間合いを詰めたウッド・ゴーレムの一体が、斧となった腕を振り上げ、無慈悲にそれを振り下ろした。
複数の僕が一箇所に集まった事によって、相手の姿が覆われてしまったものの、一体のその動作で事は済んだとクライマーは信じ切った。
ガキュッ
少々違和感のある金属音にクライマーはふと不信感を感じた直後、邪魔者を始末にかかったウッド・ゴーレムの背に、鋭い刃が生えだした。
「!?」
「情のない奴だな、あんた・・・」
ウッド・ゴーレム達の間から顔をのぞかせ、ウェイブが言った。彼は斧が振り上げられたと同時に両腰の剣を抜き、左の剣を斜めにして斧の一撃を受け流し、同時に右の剣を突き立てて攻撃を仕掛けた相手の胸に剣を突き立てたのである。
「情などかける価値のある人間でもないのだろ?」
冷淡に言い放つクライマーだったが、即座に反応して、防御板を備えたゴーレムの胸部を剣で貫いた相手の腕前は見事な物だと内心評価した。だが、その評価が相手に対する助命の意思に繋がる事はなかった。
それに相手は魔法に関しては素人だと判断する。魔法によって動くゴーレムを相手に、人の急所である胸部を刺し貫いたところで無意味なのである。
それを証明するかのように、攻撃を受けたウッド・ゴーレムが攻撃を再開しようとするが、ウェイブは辛そうながらも笑みを浮かべ、相手を貫いている剣の柄をくるりと横に捻った。
パキィ、キィン
軽い破壊音が二種類、ほぼ同時に響いた。
抉られた事で『傷口』が広がったウッド・ゴーレムの身体が、その素材である木の木目に沿って縦に裂けてしまったのである。同時に胸部の装甲版も、破損部から急激な力で押し広げられた事で亀裂を広げ、割れてしまったのである。
「安物の素材だな」
皮肉を込めた笑みに、愚弄する意志が込められていると判断したクライマーは、むきになって残りの僕に指示を送ろうとした。だが、それよりも早くウェイブの二刀が煌めき、間合いにいた三体のウッド・ゴーレムをまとめて横薙ぎに両断する。
それでもゴーレム達は動いていたが、上半身と下半身が別れたそれが驚異となるはずもなく、勝利を誇示するかのようなウェイブによって、その頭部が踏み砕かれる。
「いくら不調でも、人形で俺が殺れるかよ」
少なくともこの程度の・・・と、心の中で付け加えて苦笑するが、そんな心情を見抜けないクライマーは、低レベルな挑発にひっかかった。
「剣士風情が、本気で私の邪魔をしようというのか」
「あんたの都合は知らないさ。後ろの悲運な女性を助けるつもりなだけで、それがあんたの邪魔に繋がるなら仕方ないだろ」
ウェイブは努めて売り言葉に買い言葉的な言葉の応酬を心がける。今のところ、相手にはその気は無いようだが、自分が助けようとしている女性を盾にでもされれば、彼は一瞬で打つ手を失う事になる。
そうさせないために挑発をして勝負に持ち込ませ、彼女から引き離そうと目論んだのである。今の時点で相手の実力の程は未知数だったが、クライマーには自分の方が勝っていると思っている様子がありありで、ウェイブが危惧しているケースに入る気配はなかった。
だが、そうしたクライマーの自信は、得意とする戦闘スタイルの差や、誇張された自己評価や、大きな組織の後ろ盾によるものなどではなく、純粋に己の実力に対する信頼から来ていた。
彼は両腰に下げていた短い飾り棒の様な物を取り出して繋げると、即席の魔法発動体の杖として構え、呪文を詠唱する。
「我が大望を妨げる輩よ、消え失せるがいい」
杖の先端の先に小さなスパークが生じたかと思うと、そこから火の玉が発生し、ウェイブめがけて疾走する。
「そんなもので」
杖を構えた時点で魔法が来ると判っていたウェイブは、その種類を見極め、剣の腹でそれを受けると、放たれた炎の玉は弾けて四散した。
だがそれで気を抜ける状態となったわけではない。相手の呪文詠唱と杖の先端のスパーク現象は途切れておらず、そこから次々と魔法攻撃が繰り出されたのである。
しかもその種類は炎だけにとどまらず、氷・雷・光系の魔法を加えて不規則に繰り出し続けたのである。
「!」
その連続攻撃に対し、確認してから対応するでは間に合わないと認識したウェイブは、反撃へのタイミングが掴みにくくなるのを承知で、すぐさま姿勢を受けから回避へと変更する。
「どうだ、多少腕に覚えがあろうと、所詮は剣士。間合いの開いた状態では、私に傷一つ追わせることも出来ないだろう」
次々に放たれる魔法を右に左に駆けてかわす相手を眺め、クライマーは勝利を確信しているかのように言い放つ。
「この間合いで十分なんだよ」
「なに?」
不適に言い返すウェイブに、クライマーが僅かに眉をひそませた。
「あんたの大望とやらを挫くのは、この間合いのままで十分なんだよ!」
直撃しかけた氷の槍を転がるようにしてかわしたウェイブが、負け惜しみとは思えない自信を持って叫んだ。
「ほう、けっこうな大言だが、貴様が魔法剣士だとでも言うのか?」
そうならば少し厄介な話になると危惧するクライマーであったが、相手は素直に首を横に振って否定していた。
「俺に魔法の才能なんぞないよ」
「なら、この現状をどう覆すつもりだ」
僅かな危惧が一瞬で杞憂に変化し、クライマーは鼻で笑った。
(嘘でもそう思わせる事で多少の時間を稼げたものを・・・)
相手の無策ぶりに、彼は相手がやはり無能な剣士でしかないと確証した。
「こうすりゃ良いだけだろ?」
尋ねるように言って、ウェイブが右の剣を振った。もちろん物理的距離は開いたままで、投擲を行ったわけでもない。その振りのベクトルはクライマーではなく床に向けられており、振り下ろされた剣先が床の一部を砕いた。
「き、貴様っ!」
それを見てクライマーは短い悲鳴をあげ、相手の意図を理解した。
「どうだ、あんたの目的を邪魔するのは容易だろ?」
床に描かれていた魔法陣の一角を破砕する。それだけで事を成したウェイブが不適な笑みを浮かべた。
もとより精密な儀式のための魔法陣である、剣による僅かな傷でも描かれる紋様や文字に欠損が生じ、求めている効力は発揮されなくなる。
ウェイブは相手の言動と、床のそれを見た時点で、第一目標をそこにすると決めており、結果は彼の憶測通りとなった。
努力の成果を台無しにされたクライマーは、遠目に破損部を観察して修復のための行程を試算する。それは大願を適える寸前にあった者の反射的な動揺であった。
すかさずそこへウェイブが間合いを詰め、魔法迎撃の間も与えないまま剣を振るった。
「くっ!」
クライマーは身を退いたが、剣先は彼の杖の上部を捉えて両断し、魔法の発動体としての能力を奪い取った。
「まだだっ!」
クライマーは叫ぶと、役に立たなくなった杖を手放し、左の掌を相手に叩きつけるように突き出すと、その掌の中に炎の塊が生成された。
彼は杖以外にも指輪の発動体を両手にはめており、杖を奪って優位に立ったと瞬間的に思いこんだであろう剣士に、不意打ちの魔法を叩きつけようとしたのだ。
だがウェイブも、カレンという魔法の才女と行動を共にしていた事で、世間ではある種の常識と思われている、発動体が魔法使用の必須であるという考えを持っていなかったため、生じていたと思われた油断を生じさせていなかった。
「はぁっ!」
突き出された炎の掌に対し、ウェイブは気の玉を生成した掌で応戦した。
「何だとっ!?がはっ!!!」
気の光の塊と魔法の炎が衝突し、炎が力負けして四散した瞬間、ウェイブが気を拡散させて指向性を持った小さな爆発を生じさせ、正面に立つクライマーを弾き飛ばした。
「ま、魔法剣士・・・だと?」
予期しなかった応戦法を受けたクライマーが、苦痛に喘ぎながらウェイブを見やった。つい先刻否定した事と全く逆の行為を行った相手に、憎らしい小賢しさを抱かずにはいられない。
「いいや、俺にそっちの才能はないと言ったろ?」
両手に剣を携えたまま歩み寄るウェイブの言い様は謙遜にしか聞こえなかった。クライマーの不意打ちに対し、見事に反応して反撃した手腕は、彼の常識からすれば並の使い手ではあり得ない事だった。
「だが、あんたは凄いな。鍛えてない魔法使いにしては、今の衝撃によく耐えた」
ウェイブにしても相手に感心はしてはいたが、相手がそうだったのと同じように、それが助命理由にはならず、息の根を止めるべく確実な間合いへと近づいていく。
「お、おのれ・・・」
クライマーは歯がみする。目的達成まであと一歩まで来ておきながら、想定もしなかった乱入者によってそれが阻まれてしまったのである。本来なら放置しておくようなケースではなかったが、今の彼は受けたダメージによって身体の節々が痛み、まともに動くのが難しい状況に陥っていた。
「この屈辱、必ず晴らすぞ!」
敗北を認めるしかない。そう判断した彼は、相手が剣の間合いに入る前に転移呪文を唱え、その場から早々に消え去った。
「逃げた・・・・か・・・やっぱり魔法でダメージを軽減してたな」
転移が攻撃ポジションの変更でない事を気配で察したウェイブは、これ以上の戦闘行為は生じないだろうと判断し、左手の剣を右腰の鞘に納め、その場に取り残された状態となった魔法生物と、それに飲み込まれたアニィの元へと向かった。
「大丈夫かい、お嬢さん」
状況判断で助けたものの、ここに来て、何故彼女が襲われていたのかを疑問に抱き始めるウェイブは、まずはその安否を確認すべく、声をかけた。
「ええ、見かけ倒しじゃなかったのね」
アニィが答え、内心の感想を短い言葉で現した。
「今日は・・・いや、今はすこぶる調子が悪いだけだ」
それが登場時の醜態に起因していることを悟ったウェイブは、最初のイメージを訂正してもらうおうと苦笑して言った。
「そうみたいね、それで貴方、何者?」
「そういや、口上中に失敗して言ってなかったな。俺はウェイブ。通りがかりの正義の味方・・・」
「自称・・でしょ。完全無欠な正義じゃないって言ってるようなものね。私はアニィ・・・」
語り出すアニィであったが、それをウェイブが左手を差し出して制止させる。
「あ~アニィ、お互い聞きたいことがたくさんあるが、差し支えなければそこから出てから話さないか?」
「え、えぇ・・・でも・・・」
そのもっともな提案に、アニィは少し躊躇した。
「なに?まさかそこが気に入っちゃったとか?」
「そ、そんな訳ないでしょ!」
「なら、手っ取り早く出すぞ」
「え、ちょ、ちょっと待って!ちょっ」
「心配するな、この変な生き物だけを斬る」
構えられた剣を見て、その意図に気づき慌てるアニィに対し、ウェイブはそれが自分の身の危険を感じての台詞だと思いこみ、それを払拭するように言うと、相手の同意を得る間もなく、剣を振り下ろした。
ザシュ!
宣言通り、彼の斬撃は魔法生物の表皮のみを切り裂き、致命傷を与えた。
もともと彼女を特殊な手法で責めるために生み出されたそれは、周囲に危機に対する防衛本能も持たず、ただじっと命令を待つのみで、あっさりと攻撃を受けると声帯もないため悲鳴をあげる事もなく、激しい痙攣を数秒起こすと、あとはぐったりと力を失って事切れた。
たちまちアニィを拘束していた力が全て一斉に失われ、彼女は解放された。
手に絡まっていた触手がバラリと解け、首から下を包んでいた頭頂部の開閉部の力も失われ、バランスを失った彼女の身体が前のめりになる。
「おっと・・・」
倒れこみそうになったアニィの身体をウェイブが受け止めにかかる。その時、彼の斬撃によって生じていた表皮の傷が、彼女の身体の加重によって大きく避けた。
「きゃっ!」
倒れこむ勢いのまま、魔法生物の中から溢れる形となったアニィの身体を、ウェイブが抱きとめる。
「あっ・・・」
同時にしまったと、彼は思った。彼女は魔法生物の中に取り込まれた事により、全身がその分泌粘液に浸されていたのである。それによって、彼女の着衣は広範囲に溶解を生じており、全裸と言って過言でない程にまで肌を露出した状態となっていたのだ。
「視線をはずしなさい、ばかぁ!」
「がふっ!」
男の本能がその艶姿を凝視しているのを悟ったアニィが反射的に鉄拳を繰り出し、未成熟な身体の方に向いていたウェイブの視線を強制的に背けさせた。
「つ~~~~不可抗力だ、許せ・・・・」
モンスターマスターの時といい、助けた女性に対する運がないとウェイブは思うと、これも災難の序章ではないかと心の底で危惧し始めた。
「それは認めるから、何か羽織るもの頂戴よ」
アニィは自分の状態に頬を紅く染めて隠し、周囲に何か使える物がないか見回した。
結局、都合良く着替えがあるはずもないため、ウェイブの荷物にあった雨天用のポンチョを羽織ったアニィは、とりあえずそれで自分の身体が隠れたのを確認すると、改めてウェイブに向き直った。
「それじゃ、しばらく借りるわよ」
「ああ、それじゃお互いの事情を・・・」
情報の交換を始めよう。そう思ったウェイブに、アニィの手が突き出され、今度は彼女が言葉を制止した。
「?・・・なんだ?」
「もう一人いるの、助けて欲しい人が」
「何!?」
少し想定外の出来事を伝えられ、ウェイブが戸惑う。
「他に捕まってる奴がいるのか?何処に?」
「ここにいるわ、そこに・・・・」
言って彼女は、室内の端にある目立たない石棺を指さした。
「あれ・・・あの中か?」
教えてもらわなければ気づかなかっただろう事実を前に、ウェイブは念を入れた確認をすると、アニィはコクリと頷いて肯定する。
「・・・・・」
ウェイブは慎重に石棺へと歩み寄る。魔法使いの残した物である故に、少々過剰ではと思えるほどの警戒でもって近寄り、何事も生じないことを確認したウェイブは、石棺の蓋に手を差し伸べ、横にずらすようにして開けていった。
「にゅあはははははあははははは!いやっははははははははは!やぁだぁあ~~~~!!」
開かれた石棺から飛び出したのは、トラップでも怪物でもなく女の笑い声であった。
細く長い石棺の中では、両腕を頭にやった姿勢で腕を縛られ横たわっていた女性が、同じく中に入っていた数匹のクラゲのような生物の触手に身体を撫で回され笑い悶えていたのである。
「な、何だぁ?」
予想とは遙かに異なる事態が繰り広げられているのを目の当たりにし、ウェイブは思わず呆けてしまった。
蠢くクラゲタイプの触手は、アニィを襲っていた触手とは異なり、衣服の溶解能力はなかったが、分泌量が多く、その身体全体が大量の粘液にまみれていた。
その滑りを最大限利用し、触手は解放状態の脇の下や脇腹、太股といった要所を撫で回し続け、絶え間ない刺激を送り続けていた。
「きょわぁっははははははははははは!も、もぅだめっ、ひひゃっはははははははははは!あはぁぁぁぁん、いやぁははははははは!!たすけ、たすけてっ、ふひゃっははははは!!」
石棺の中の女性は、ウェイブの存在を認め、必死に身体を捩って助けを求めた。
「何してるの、早く!」
「お、おう!」
彼女の懇願と、アニィの急かせる声で我に返ったウェイブは、武器を剣からナイフへと持ち替え、石棺の中のクラゲタイプを一匹一匹刺しては、放り出す単純作業を繰り返し、一分程で全てを駆逐した後、中に横たわる女性を石棺から引き上げた。
「あ、ありがとうございます・・・ひゃっ」
抱き上げられた女性は、照れた様子で礼を述べて床に足をつけたかと思うと、全身に付着していた粘液で足を滑らせ転倒した。
「大丈夫、シルディ?」
「あ、アニィさん・・・無事だったんですね」
起きあがらせようとしたウェイブより早くアニィが駆け寄って彼女を起きあがらせると、シルディと呼ばれた女性は安堵した笑顔を見せた。
「ええ、少しスケベだけど一応正義の属性を持ったこの人が助けてくれたわ」
「おい・・・」
僅かながら棘のある説明に当事者たるウェイブがジト目を向けるが、アニィは気にする様子もなく話を続けた。
「シルディの方は大丈夫だった?助けれるどさくさに、変な所とか触られてない?」
「い、いえっ・・・私は・・・」
シルディは返答に迷った。あの時の彼女は、一刻も早く触手によって引き起こされるくすぐったさから逃れたい一心でそれどころではなく、どこに触れられたなどと気にするゆとりなどなかった。
今、思い起こせば胸や太股、尻や股間といった微妙な場所にも刺激を受けていた感覚はあったが、それが触手なのか彼の手なのかは判断がつかない。もしそれが目の前の男の手だったとしたら・・・そう思っただけで彼女の頬は羞恥に紅く染まる。
「あ~~~~やっぱり!いろんな所、どさくさに紛れて触ったんでしょう!!」
そうしたシルディの反応を見て、アニィがウェイブに詰め寄る。
「待て待て待て!一方的な判断で物事を決めるな!彼女の・・・その、あやしい部分には俺は触れちゃいないし、アニィの方も不可抗力だっただろ。だいたい、その気があるなら解放なんかせずに、そのままやっちゃってるだろ」
「!!!!や、やっちゃうんですか!?」
ウェイブの部分的発言のみを聞き入れたシルディが、悲しみと軽蔑の感情を入り混じらせたウルウル瞳で彼を見ながら後ずさる。
「だから違う!!」
頭を抱えてウェイブは否定する。
「頼むから、助けた事実を認めろよ」
何故こうなる?ペースが思いっきり乱され、ウェイブは懇願するように言い放った。
その必死な様子に、シルディは自分より事態を把握しているだろうアニィの方を見て判断を委ねた。
「そうね、スケベではあるけど、悪人ではないみたいよ」
「それは否定してくれないのか・・・」
どうやら救出時の一件を根に持たれているのだなと悟り、ウェイブが溜息をつく。
「だってそうでしょ。それに私、男はそういうもんだって理解してるから」
冗談めかして言うと、アニィは悪意の全く感じさせない笑みを浮かべた。
「俺は誤解されているようにしか思えないんだがな」
「そうかな?」
意味深な、含みある笑みを浮かべるアニィ。そこへ、シルディが並ぶように割り込んで来た。
「あ、あの、下心の方はともかく、助けて頂いてありがとうございます」
「だから・・・」
「とにかく、おかでげ助かったわ。ホントありがとう」
丁寧に頭を下げるシルディに、屈託ない笑顔で手を振るアニィ。まるで対照的な謝意を同時に送られウェイブは少し戸惑った。
「で、改めて自己紹介。私はアニィ、で、こっちが・・・」
「シルディです」
ペコリと再び頭を下げるシルディ。
「あ、ああ・・よろしく」
「あの、よろしかったら、そちらのお名前も教えていただきますか?」
「あ、そうだな・・俺は」
(酔っぱらい剣士の)
「ウェイブ・・・」
ウェイブが名を名乗るタイミングを見計らい、実に見事な呼吸でアニィが不名誉な横やりを入れると、シルディがたまらず失笑した。
「・・・・・・・・・」
ウェイブの恨めしそうな視線がアニィに向けられるが、当の彼女はそっぽを向いてそれを受け流し、抗議は時間の無駄だという事を悟らせた。
(何なんだ、この二人・・・面倒事の予兆か?)
それはウェイブの根拠のない予感であった。だがそれが間違いでなかった事を、後日彼は思い知る事となる。
あとがき
第2部ウェイブ編の道中パートナーとなるアニィ&シルディの登場です。
ばらけた3人がそれぞれのパートナーを持つことは、別々の道を歩む・・・と言う内容にした時点で、決定事項のごとく決まっていました。
お約束と言えばお約束なのですが、少しばかりの反骨精神で1対2の構図にしてやろうと思い立ち、各キャラの様相を考慮してウェイブに2人の相手をあてがう事になりました。
(一応)姉妹で性格もほぼ逆という構図も、お約束に従いました。
ただ、そうなると彼ばかりが美味しい目に・・・と言う事にもなるので、ちょっとしたパワーバランスで、彼女達には女性的ラインに難ありと言う宿命を背負って頂きました。
今後2人のうち、どちらが勝利者になるかは全く未定です。
AかSか・・・あるいはAWSとなるか・・・今後の進展次第となります。
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<ウェイブ現行装備>
①ブロード・ソード2改×2(主武器)
トラセナの騎士との模擬戦にて、刀身を痛めた剣をトラセナの魔力にて補修強化した物。
強度の向上、若干の修復能力が負荷されたほか、柄の部分が完璧にウェイブの手に合わせた形状へと変化した。
②ダガーナイフ(大)×2(予備武器)
③ダガーナイフ(小)×6(投擲用)
④ニードル×20前後(投擲用)
⑤ハードレザーアーマー(皮鎧)