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2008/03/10(月)に投稿された記事
題名未定 プロローグ
投稿日時:02:37:06|コメント:0件|トラックバック:0件|》本文を開閉
ディレクトリ:(未完成)その他 - *放課後の大天使様!
ぷろろーぐ!
色の薄い髪の毛に隠された整った顔に縦筋を走らせた彼は、口の中に広がる苦い味に眉間にシワを寄せている。
どうにも朝から体調が良くないとは思っていたが、まさか通い慣れた道すがらで乗り物酔いになろうとは。
長年通った道に今でも適用できていない自らの三半規管を呪いつつ、ムカムカとする胃袋を懸命になだめて、彼は馬車を走らせている『馬』に声をかける。
「……あとどの位かかりそうだ?」
まさか馬に向かって言葉をかけるとは。
乗り物酔いが悪化していよいよ頭にイケナイ事でも起こってしまったのかと思ったが、そんな心配はさにあらんや、話しかけられた馬は当たり前のような顔をして言葉を返してきた。
「あと15分もあれば着くと思うけどよ、どうした?ウンコか?」
馬は大きな口をだらしなく開いて白い歯を剥き出しにしてブヒヒンと下品に笑った。
男はその笑いに目眩でも感じたのだろうか眉間を抑えて座椅子にドッカリと腰を落とすと、いささか虚ろな瞳を空の彼方へと飛ばしてみる。
蒼く澄み切った空には雲一つ流れておらず、その青色の奥に1羽の鳥を遊ばせて悠々と広がっている。
その空の彼方、白い雪すら頂いた山並みの彼方には霞みを帯びて巨大な柱が数本ほど天を突いている。
驚くべき事に、その柱の先端は空の青さに溶け込んで見る事すらできない。
どれほどの高さの柱なのだろうか。まして、あの柱を誰が立てたのだろうか。
そんな事など疑問にすら感じる事もなく、その男は生暖かいため息を1つついて再び馬に言葉をかける。
「乗り物酔いだよ……構わないから急いでくれ」
「うへぇ。三半規管のバランスコントロールもしてないのかよ」
いかにもバカにした口調で馬が男に言う。
その言葉に気分を害する事もなく彼は薄く顔を上げると弱々しい苦笑いを口元に浮かべた。
「アレは『移動』の時にフワフワした感覚がして好きになれん……それより、この馬車の車輪をディストートメタルにでも変えてくれ」
やけに『移動』という言葉に重さを持たせて言った。
馬は眉間にシワを寄せると、首を横に振る。
「あんなモン車輪の風上にも置けねえ。オレは、このウッドニアメタルの車輪しか認めねぇからな」
「分かった……ともかく、急いでくれ」
馬車が速度を上げる。
ガタガタと荷台が揺れ、男は台座に深く背中を沈めると遠方に広がる山並みをぼんやりと見つめた。
到着までムカムカとした胃袋の感覚を感じ続けなくてはいけない不快感にさいなまれながらも、彼の脳裏には1つの思いが巡っている。
それは、この地に古くなら残された『予言』とも言うべき言葉。
馬車を走らせる砂利道は穏やかな傾斜に伸びているが、その上には轍(わだち)は残されていない。
野原が広がり、所々に木々が茂った小高い丘が並ぶ周囲には民家が幾つか点在しているのだから、浅い轍があっても良さそうなものなのだが。
道の彼方には細い川があり、その狭い河原には鈍い鉛色の光を放つ、例えるとしたら巨大な鉛筆の形をした建物がそびえていた。
馬車はどうやらそこへ向けて走っているらしい。
……この場所から目的地までは15分という訳にはいかないだろう。
あの男が途中で堪えきれずにエグい事にならない事を祈るばかりである。
いつもの帰り道を自転車を走らせていると、アーケードの隙間からはいよいよ白く舞い落ちる物が見え始めていた。
つい先日までは天気予報はハズれてばかりだったが、最近はよく当たる。
クリスマスも近くなりアーケード通りの天井には空色の電飾が取り付けられてパラパラと明かりを瞬かせていた。
人通りが多い道の中をペダルをこぎこぎ進めながら、慣れたハンドルさばきで人並みを舐めるように避けて行くと、アーケードが開けてイツカドーが見え始める。
パチンコ屋の前を通り過ぎる直前、視界の片隅にハンバーガーショップが飛び込んできて一瞬だけ買おうかどうか迷ったが『ここで食べたら負け』と自分に言い聞かせてペダルを漕ぐ足に力を入れた。
一体何に負けると言うのだろうか。
アーケードを抜けると大通りに面した信号機に突き当たり、そこを左に曲がってイツカドーの建物の横を通り抜ける。
そう言えば、このイツカドーの事を彼女はスーパーマーケットだと信じて疑わなかったのだが、どうやら『ゼネラルマーチャンダイズストアー』と言うらしい事を最近知った。
つい最近になって、慣れ親しんだイツカドーの看板は『エイト&Jホールディングス』という名前に代わったものの、彼女を含め周囲の人々は相変わらず『イツカドー』という呼び方を変えようとしない。
自転車と徒歩しか実質的な交通手段がない学生や主婦にとって、このイツカドーの存在は大変に重要だ。
周辺の台所事情を一手に担っていると言っても過言ではない。
……確かにここから少し先に行けば八百屋もあるし、少し郊外へ出れば別のデパートもあるのだが、そこまで足を伸ばすズクを出すには平日は辛すぎる。
はて『ズク』とは一体何かと思った人もいるかも知れないが、彼女自身も最近まで知らなかったが『ズク』とはこの地方の方言である。
その意味を聞かれると如何せん説明が難しいが『やる気があっても、やろうとしない』という様な感じの意味なのではないか。
彼女が考えあぐねた結果が正解かどうかは分からないが、果たして平日の夕暮れ時に遠くへと足を伸ばす気にもなれず、イツカドーはそんな周辺住民の食生活の営みを支えているのである。
イツカドーの横を過ぎてからも自転車を走らせながら彼女は、今日の放課後にふとして手に入れた、ある部活のチラシの事ばかり考えていた。
高校へ入学して9ヶ月が過ぎようとしている中、それまでは帰宅部を決め込んでいた彼女が、どうして部活に入ろうなどと思ったか。
それは彼女が通う高校の登校口を出た直後、今から十数分前の事を語らなくてはならない。
下駄箱へ靴をしまい込み、授業ですっかり固くなった体を小さく伸ばしながら登校口を出た彼女は、空にかかった霧状の雲を眺めながら雪の気配を感じていた。
西の空には間近に山が鎮座ましまして、夕陽などとおに隠してしまっていたが、空には幾ばくかの明るさが残されている。
今年の冬は、例年に比べると比較的寒くて、12月だと言うのに道路が凍みてしまう事があった。
そこに雪が降れば、翌朝には5センチ程度は積もっているかもしれない。
まあ、5センチ程度なら自転車は走らせる事ができるものの吹雪かれでもすると厄介だな、などと思いながら駐輪場へ足を運ぶ途中。
登校口前の申し訳程度に設けられたロータリーの中に、一人の女子生徒を見つけた彼女は、ふと足を止めた。
すでに薄暗い空の下、校舎の窓からは煌々と蛍光灯の明かりが漏れだしてアスファルトの上に明かりを落としてくれている。
その凍えるような光を浴びて立っていた女子生徒は、フード付きの白いコートにマフラーを首もとに巻いて、静かに帰宅しようとする生徒達を見つめていた。
1年生のクラスの中では見た事がない人なので、上級生だろうか。
自分よりも遙かに背が大きく目鼻立ちもはっきりとしていて、同性から見てもかなりの美人である事が分かる。
それにしても……と彼女は思う。
それにしても、帰宅部組がワサワサと帰路を急ぐ中で、その人はどこか空虚な影を落としているようにすら思えた。
決して雰囲気が暗いとか、近づきがたいオーラを放っているというわけではない。
冷たい冬の空気の中、蛍光灯の青白い明かりを浴びている中で、口から白い息を漏らしている彼女の存在そのものが、どこか神秘的とでも言えばいいのだろうか?
上手な言葉を思い浮かべる事ができないが、しいて言うとすれば『謎の女』という言葉が一番しっくり来るように思えた。
そうだ、『謎』なのだ。
ほんの一瞬でも目を離せば居なくなってしまいそうなほど希薄なのに、それでいてはっきりとした存在感を放った女子生徒の姿をじっと見つめていた彼女に、その『謎の女』が視線を向けて来る。
その漆黒の瞳が彼女の視線を捉えると同時に『謎の女』が薄いほほ笑みを浮かべて、しっかりとした足取りで彼女に近づいてくる。
正直「しまった」と思ったが、こんな寒空の下で一体何をしていたのかも気にかかる。
まさか、開口一番『アナタは選ばれた人なのデース』などと言われて、おかしな集団に連れ込まれる……なんて事もないだろう。
と思いつつも、万が一そんな事を言われたらメロスも真っ青になるぐらいのダッシュで逃げだそう。
そんな事を心に決めていると、その女子生徒は何かの紙切れを差し出して、小さく首を傾けていた。
「あなた、帰宅部?」
優しく穏やかな言葉。
その顔立ちから透き通るような声色を想像していたが、それ以上に透き通った声に、彼女はビクッと肩を震わせながらコクコクとうなずく事しかできなかった。
身長は……彼女よりも頭1つ分ほど大きい。
しかし、決して『謎の女』の背が極端に高いというわけではない事を、彼女が一番良く知っている。
「良かったら、考えてみてくれない?今年は一年生が誰も入ってくれなかったの」
それにしても、何と優雅な声でしゃべる人なのだろう。
薄く桜色の唇は僅かに濡れていて、そこから吐息が漏れる度に周囲の空気が彩りを得て踊っているようにすら思えてくる。
彼女の脳裏に真っ先に浮かんだ言葉は「お嬢様」という単語だった。
コクコク
ただ、紙切れを受け取りながら、うなずく事しかできない。
見とれてしまうほど透き通った瞳と長い黒髪。
神は二物を与えずと言うが、この人には三物も四物も与えられているようにすら思えてしまう。
「よかった。もし興味があったら明日の放課後に2年2組に来てね」
そうほほ笑んで言いながら、その『謎の女』はきびすを返した。
振り出された髪の毛の1本1本すら端正込めて作られたガラス細工のように見えてしまうのが不思議だった。
ぼんやりとして、しばらく呆けたように立ち尽くしていた彼女だったが、手渡された紙切れ……
いや、紙切れと呼ぶには少々失礼だったかもしれない。黄色い紙に印刷されたチラシの様な物に目を落としながら、なるべく周囲を見ないようにして駐輪場へと足を進めた。
顔を上げて、再びあの人と目が合ってしまったら、どういう表情を返せばいいのか分からない。
黄色いチラシには、大きな明朝体の文字で、こんな言葉が印刷されていた。
『- 新体操同好会 入会者募集中! -』
「し、しし、新体操!?」
駐輪場に向かう道すがら思わず声を上げてしまった彼女に、前を歩いていた男子生徒達が驚いて振り返る。
慌てて視線を落としてから、頬がちょっとだけ熱くなるのを感じた。
(新体操って……アレだよね。あの、レオタードで色々やる……)
彼女の脳裏に浮かぶのは、マラカスを小さくした様な棒をクルクル回したり、リボンをクルクル回しておかしな方向に足を曲げたりジャンプしたりする、優雅な女性達の姿だった。
新体操をしている自分の姿など想像もできなかったが、何となく想像してみる。
……大根を持って、足を交差させた、妙に際どいハイレグが入ったレオタード姿の自分が脳裏に浮かんで、思わず頭をワシワシと掻きむしってしまう。
それにしても、なぜ大根なのだろう?
(無理!私には無理!)
結論は考えるまでもなくすぐに出てしまった。
とは一瞬考えてみたものの、新体操と言えば子供の頃に憧れなかったと言えば嘘になるし、やってみたいと思った事も一度はあった……ような気がする。
彼女自身、スポーツ自体は嫌いではなかったので新体操を習えば良かったのかも知れないが。
彼女の心中を過ぎるのは、自分でも自覚している2つの身体的問題であった。
身長152.5センチ。
胸の大きさは、限りなくゼロに近いA。
「はぁぁ……」
そう言えばヒヤシンスを小学生の頃に育てた時の事。
隣の席の男子のヒヤシンスだけが花を咲かせる事なく、ただ葉を巨大化させて命を散らしていった事を思い出した。
(あのヒヤシンスですら、背だけは高かったのに……うぅ)
神は二物を与えずと言うが、一物すら与えられないのはどういう了見なのだろうかと彼女は思う。
せめて、贅沢は言わないからBカップほどの胸があれば……と思うが、コートの上から胸部を触ってみると膨らみすら確認する事ができない。
ブラジャーによっては『寄せて上げて』という物もあるが、無から有の創造はエネルギー保存の法則を破綻させない限り望めないのだ。
こんな自分に新体操など無理に決まっている。
あの人には悪いけれど、このチラシは見なかった事にして……と思いながら彼女は気になる事があった。
(……あの人、綺麗だったな)
黒く透き通るような瞳、長く美しい髪。
優雅な立ち振る舞いに優しげな声色。
それなのに決して高嶺の花のように思わせない雰囲気は、言葉遣いにあるのかもしれない。
自宅に到着し、玄関横のガレージに自転車をしまい込む。
いつも以上に力んでペダルを漕いだせいだろうか、若干息が上がっていた。
コートのポケットに手を突っ込んで玄関の鍵を探していると、彼女の手に先ほどのチラシがフワリと触れた。
(……い、行ってみるだけ。行ってみてダメそうだったら断ればいいんだ。うん)
自転車で帰宅する途中に考え続けた答えは、先ほど彼女内部のG7が全会一致で下した判断を覆すものだった。
いよいよ空からは本格的に白い雪が舞い落ち始めている。
すっかり夜の帳は降り、遠くに望む山並みは雪に白く霞み薄らぎつつあった。
彼女の家の台所には明かりが灯って、そこからはカレーの香りが漂って来ている。
鍵をガチャガチャと外して、嫌いなニンジンからどうやって逃れたものかと悩みながら彼女は言う。
「ただいまー」