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2009/02/13(金)に投稿された記事
どうにゅう その2
投稿日時:02:47:05|コメント:0件|》本文を開閉
ディレクトリ:(未完成)東方 - *クライシス8901
……それは、まるで透き通るような、冬の厳寒の中で作られたツララを小さく叩いたような澄んだ声だった。
霊夢ははっとしたように顔を上げ、そして思った。
(早く部屋の中に入っていれば良かった……)
澄んだような声ならぬ声、それは神聖さすらも漂わせる妙声となって霊夢の耳に届いたが、問題はその声の出所が庭の方からであった点にある。
庭は夏の夜の影を落として、日中の白熱した日差しの熱を今もって残したように、むっとした熱気を湛えていた。
一見しただけでは異常のない庭先に、唯一にして最大の異変と言えば、この緑色に発光する謎のエキスである。
その澄んだ声ならぬ声は、霊夢の勘が正しければ、その液体から発せられていたように思えたのだ。
「……」
無言で障子戸をそっと閉めようとする霊夢。
緑色で発光する液体であるというだけでも謎なのに、言葉を発するとなると謎を超越し、それは伝説となって世に平安と共にネチョグロエキスを大量に放出して阿鼻叫喚のドロドロ地獄を幻想郷の負の歴史に深々と刻み込んでしまう事にもなりかねない。
何も見なかった、何も聞かなかった。
すすすっと障子戸を閉めて行く霊夢。
『博麗の巫女よ、安心しなさい。私は怪しい者ではない』
(その怪しさがあれば、怪しさだけで天下一武闘会で不戦勝の内に優勝できるわよ……)
怪しさの塊、怪しいだけの怪物体に再び声をかけられた霊夢は「はぁぁ……」と深々とため息をつくと観念したように顔を上げる。
それにしても……漆黒の闇の中に浮かぶ緑色の発光物体、謎すぎる。
「なに?私、これから寝ようと思ってたんだけど」
明らかに不機嫌そうな口調で言い放った霊夢。
しかし、そんな彼女の態度にも臆する様子のない怪物体は静かに声ならぬ声を放った。
『博麗の巫女よ、そなたは幸いである。我が名はミラクルウォーターチヨリ。託宣をもたらす者である』
「なにその名前!?」
その見た目の怪しさに加えて声を発し、その奇妙奇天烈なネーミングに至ってはイグノーベル生物学賞を全力で受賞できるに違いない。
唖然とする霊夢を尻目に、ミラクルウォーターチヨリは淡々と声を放ち始めた。
『博麗の巫女よ。そなたに託宣を与える。これは祝福である。清らかなる慈愛と慈悲に福音は届けられる』
「あ、あんたの、どこを捻れば慈愛とか慈悲とかいう言葉が出てくるのよ……」
捻る場所がその液体の中に存在するのか、という疑問は尽きない。
しかし、そんな霊夢の言葉にも相変わらず立腹すらせずに、その液体は。
『博麗の巫女よ、あなたの元にはこれから7つの使者が訪れよう。それらは幸福の使者である。どのように幸福なのかは、室内にいる鬼を見れば分かるだろう』
そう告げた液体はシュワシュワと……
その様子に霊夢の全身にはざわざわっと鳥肌が立った。
緑色の液体の至る所から泡が吹き上がり、ジュワジュワと溶けるような音を立てながら液体が煙となって立ちのぼっていく。
その様はグロテスクの他の何者でもなく、慈愛と慈悲の託宣者という名とは正反対の、何か恐ろしげな呪いでもかけられてしまった魔物が断末魔を上げて地獄の業火に焼かれるような、そんな様相を呈していた。
液体は瞬く間に煙となって消え、辺りには静寂と、霊夢の全身には鳥肌だけが残される。
「……あ、悪霊の類…よね。アレは」
ニフラムを唱えられたスライムのように消え失せたミラクルウォーターチヨリが鎮座していた場所には、そこに発光体の残光はおろか、何の痕跡すら残されていない。
ただ夜だけが深々と深まり、微かに虫の声がちらほらと聞こえてくるばかり。
油皿の上で浮くように灯された明かりが揺れ、褐色の明かりがタンスや卓の長い影を畳に落としていた。
そっと障子戸を閉め、霊夢は考える。
7人の使者……
果たして、あの発光怪物体に類似する使者が7人も訪れると考えるのはぞっとする想像ではあった。
「まあ、いざとなれば萃香もいるし……」
居候をして酒と三食をしっかり頂いた上に、夜は霊夢よりも先に床に入り寝息を立て始める萃香。
こういう時ぐらいは活躍してもらわないと適わない。
「明日起きたら、とりあえず――」
萃香に7人の使者なる者たちへの警戒をお願いした上で、紫にでも事の次第を話して知恵でも絞り出してもらおうか。
そう言葉を続けようとした瞬間。
「はッ……!ひゃあァッ!」
隣室で寝息を立てていたはずの萃香の叫び声。
何かに驚いたような、不思議な甘さを含んだ絶叫に霊夢がビクリと肩を震わせた。
そうだ……あの怪物体が残した言葉を追想するように巡らせた霊夢は、慌てて萃香が横になっている布団へと視線を送る。
『室内にいる鬼を見れば分かるだろう』