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2007/12/11(火)に投稿された記事
こなたをこちょこちょ パート2
投稿日時:00:05:18|コメント:0件|トラックバック:0件|》本文を開閉
ディレクトリ:らきすた - こなたをこちょこちょ
私の腕の中で、ぐったりとしてうな垂れているこなたの荒い息づかいだけが、静けさを裂くようにして、私の耳に届いていた。
「ちょ・・・ちょっと!こなた!」
紅潮した顔のこなたは、相変わらず「はぁ、はぁ」と、まるで全力で500メートルを走りきったように、荒い呼吸を続けるばかり。
私の言葉は、おそらく、彼女の耳には届いていないのだろう。
「こ、こなた!こなたっ!」
小さな肩を両手で揺さぶると、「ぅぅ……」と重たさを感じさせるうめき声を上げ、こなたはゆっくりと瞼を持ち上げる。
口からは涎が流れ、目を真っ赤に染めた彼女は、目を開いた後もしばらくぼんやりとした面持ちで私の顔を見つめている。
その恐ろしく幼く感じる表情に、私の良心がズキンと痛んだ。
最初は遊び程度にと思っていた。
でも、こなたの体を思うがままにしているという優越感にも似た感情が、私に制止を忘れさせてしまった。
「……ご、ごめんなさい」
朦朧とした彼女の瞳を見ることができず、視線を反らした私は、うつむいて小さく謝った。
少しずつ光りを取り戻しつつある、こなたの瞳の奥に潜む、怒りを見るのが怖かったのかもしれない。
……そうだ、きっとこなたは怒っているに違いない。
私は、彼女にひどいことをしてしまった。
どう言い訳をしようかという気持ちと、言い訳などせずに謝れと自分を叱責する感情が入り交じり、許してくれるだろうか、許してくれなかったらどうしよう、と不安が止めどもなく心から溢れ出して来る。
そんなことばかり考えている自分に対する嫌悪感、こなたと友達でなくなってしまう恐怖に、目から涙が溢れそうになる。
自業自得も甚だしいが、今の私にできることは、どれほど軽蔑されたとしても、彼女に謝ることだけなのだろう。
冷静で客観的な自分と、戸惑いパニックに陥っている自分が心の中で渦巻き、その感覚が不思議だった。
こなたは、目を何度か開いては閉じを繰り返し、瞳の焦点が定まった頃に、ようやく体を起こすと、小さく
「……うぅ…おふろ……?」
とつぶやくと、辺りをキョロキョロと見回している。
額に張り付いた前髪を指先で払い、弱々しく立ち上がった彼女は、しばらく呆然とした様子で鏡を見つめていた。
数秒ほどの後、こなたの背中がビクリと動いたのを見て、私は思わず身構えてしまう。
ああ、こなたは一体、どんな言葉で私を責めるのだろう?
罵倒だろうか?それとも軽蔑だろうか?
どちらしても、私はそれを全て受け止めなくてはならない。
ゆっくりと振り向くこなた。
私は、自分が全裸であることなど構わず、自分にできる限り真剣な面持ちで、こなたの顔を見つめる。
振り向いたこなたの顔は、少しだけ微笑んでいるように見えたのは、きっと私の思い違いなのだろう。
その瞳は今にも涙を取りこぼしそうなほどに潤み、まだ収まらない呼吸の余韻が、こなたの小さな肩を微かに揺らしていた。
「もー、かがみんヒドイよぉ」
その言葉を彼女が言い終わる間を置かずに、私は深く頭を下げた。
「ご、ごめん!」
頭を下げ、ぐっと目をつむると、瞳の奥から涙がじんわりと広がり、目頭を湿らせる。
このまま頭を上げてしまうと、今にも涙が零れてしまいそうで、私はじっと目を強くつむったまま、こなたの次の言葉を待った。
私に想定できる範囲で、最悪な言葉が何度も脳裏を駆けめぐる。
じりじりと待っている時間は、私にとってはひどく長い、しかし、こなたにとっては、ほんの一瞬の出来事だったのかもしれない。
しかし、こなたの口から紡がれた言葉は、私が想像していた、どの言葉とも異なっていた。
「ちょっ…!か、かがみん……?な、なんで謝ってるの!?」
ああ、何と言うことだろう。
私が想像していた、どの言葉とも異なり、こなたは……あれ?
ぎゅっと閉じていた瞼を上げ、私は思わずこなたの顔を見てしまう。
こなたの顔は、まるで信じられないとばかりに驚きに溢れていたが、彼女の目が私の顔を捉えると、その表情は驚愕に変わった。
「か、か、かがみん!?なに泣いてるの!?」
こなたが見た私の顔は、一体どんな風だったのかは知るよしもないが、きっと目は真っ赤で、口はヘの字に曲がり、今にも涙が溢れんばかりに見えたのだろう。
私は慌てて、腕で目を拭うと、こなたの顔をじっと見つめてしまう。
「……こ、こなた…怒ってないの…?……ですか?」
思わず敬語で尋ねてしまう。
その口調に、彼女はおかしそうな笑いを口から漏らして「怒るはずないじゃん」と続けた。
良かった、という安堵の気持ちより先に、私の心は動揺していた。
「あ……あはは……そ、そっか、怒って……ない?ほんとに…?」
念のため確認してしまう。
こなたは、きょとんとして大きく かぶりを振った。
拍子抜けという言葉が正しいのかどうかは、いささか不安だが、緊張の糸が一気に解けた私は、その場でうな垂れてしまう。
よ、良かった……
私の心の中で渦巻いていた様々な恐怖が、一気に溶けたように感じた。
安堵の息を胸の奥から深く吐(つ)きながら、私の中で1つの疑問が沸々とわき起こる。
「あ、あー……でも、本当にごめん、ちょっとやり過ぎた…」
しかし『Q.どうして、こなたさんはくすぐられても怒らないのですか?』などと聞けるはずもなく、謝罪の言葉を吐くことしかできない。
「全然平気だって。気にしない気にしない。さて、汗かいちゃったから、体でも洗うとしますかね」
そう言いながら、こなたは据え置きのシャンプースタンドから、ボディソープを手に取ると、タオル掛けからスルリと抜き取ったボディタオルにそれをピチャピチャと垂らし、わしわしと太ももを洗おうとしたようだった。
太ももにボディタオルを当てがったまま、こなたの動きが止まる。
私はそんな彼女に軽く疑問を感じながらも、そそくさと湯船へと移動した。
体を縮め込むようにしてお湯に足を入れると、若干熱く感じるお湯に、皮膚がチリチリと痛む。
そのまま体を湯船へ沈め、肩までお湯に浸かると、こなたの姿を見た。
鏡の前でじっと自分の太ももの辺りを見つめる彼女、どうしたのだろう、と思いつつ声をかけてみる。
「こなた、どうしたの?」
「…!なっ……な、なんでもない」
ビクッとこなたの肩が大きく動き、ようやく、こなたの手がワシワシと太ももを洗い始めた。
風呂から上がりさっぱりした私たちは、ドライヤーで乾かしたとは言え、幾分かの湿り気を残した髪を気にしながら、リビングのソファに腰を下ろす。
すっかり雨に打たれてしわくちゃになったセーラー服をビニール袋に詰め込んで、私はこなたから借りた……どうして、そんな物があったのか、その事情を聞きたくない、謎のワンピースを身につけている。
こなたは、相変わらず、しわくちゃの紺色のタンクトップと山吹色のハーフパンツという出で立ち。
私の髪の毛からは仄かに花の香り。
ふと、学校でこなたの髪から感じた花の香りを思い出し、なるほどと思った。
「かがみんは、牛乳でいい?」
何の花の香りなのだろう?などと、ぼんやりと考えていた私へ、こなたの心配り。
「あ、うん。なんか悪いわね……お風呂いただいた上に、飲み物ももらっちゃって」
「気にしない気にしない。かがみんと私の仲ではないか」
ヒッヒッヒッとおかしな笑い声を立てながら、キッチンの奥へ消えるこなたの背中を見送りながら、私は窓の外に目を向ける。
すでに、私たちを濡らした入道雲は遙か彼方へ流れて行き、空にはわずかなモコモコとした雲が数個浮かんでいるばかり。
日差しは強いが、湯船に浸かって火照った体には、天窓から流れ込んでくる風が心地よく感じた。
じんわりと額に汗が浮かび、それを湿ったバスタオルで拭う。
「お待たせー」
その声と同時に、コトンとテーブルから音がするのを聞き視線を戻すと、牛乳がなみなみと注がれたコップが2つ。
そこに、小さなマフィンが4つ乗せられた小皿が1つ。
「お、サンキュー」
こなたがソファにボフッと座るのを見届けてから、私はコップに手を伸ばす。
ゴクゴクと喉を鳴らして牛乳を飲むと、乾いた喉に日の光が差したようだった。
牛乳を3分の1ほど飲んだ辺りでコップをテーブルに戻すと、こなたも4分の1ほど飲み終えた辺りでコップを置いて、マフィンに手を伸ばそうとしている。
こなたの細い腕を見ると、先ほど、風呂で触れた彼女の体のことを思い出し、少しだけ顔が赤くなったような気がした。
薄紙を指先ではがして、ポイとマフィンを口に放り込む。
ムシャムシャと頬を膨らまして食べる彼女の姿は、まるでリスを思わせ、微笑ましい。
……あまり、じっと彼女の姿を見つめているわけにもいかず、私もマフィンに手を伸ばす。
薄紙を剥がして口に放り込むと、ブルーベリーだろうか、甘酸っぱい味と香りが口の中に広がった。
「あ、…そだ」
もう1つ、マフィンに手を伸ばしかけた彼女は、その手を止め、口を動かす。
「ん?」
「かがみんや。これ食べたらさ……ゲームしない?」
マフィンを手に取り、薄紙をペラペラと剥きながら、こなたが伏し目がちに言う。
いつもと異なる雰囲気を訝しく思いながらも、思うところあって苦笑いしながら言葉を返した。
「またギャルゲか?」
私の言葉に、こなたは、ほんの少しだけ間を置いて首を大きく横に振った。
そして、一瞬だけ目を伏せ、何かを決意したように顔を上げるこなた。
若干、頬が赤らんでいるように見えたのは、風呂上がりだからだろうか?
そんな思いを巡らせる間もなく、彼女の口は、驚くべき言葉を発していた。
「く、くすぐりっこ……」
「へ……?」
私は自分の耳を疑って、思わず聞き返してしまう。
こなたは相変わらず伏し目がちのまま、マフィンを口に運んでいる。
「……あ、……えっと」
私は動揺を隠すこともできず、こなたの口から発せられた言葉の意味を、何とか汲み取ろうとしていた。
しかし、何度、彼女の言葉を頭の中で繰り返しても、その言葉からは、ただ1つの意味の他には、隠された暗号や、密かに込められたメッセージを読み取ることはできなかった。
なぜか神妙な面持ちになってしまいながら、私はじっと、こなたの目を見つめる。
マフィンをもぐもぐと食べながら、前髪に隠れた瞳を見ることはできなかったが、その顔が赤くなっているのが分かった。
普段なら他愛もない雑談の中にも出てくるだろう「くすぐり」という言葉。
こなたは一体、どんな気持ちでその言葉を口にしたのだろう?
様々な思いが交錯し、どうやって言葉を返せばいいものやら分からないまま、ただ、静かな室内に時計の針の音だけが響き渡っていた。
「か、かがみ……」
その静寂に耐えかねたのだろうか、こなたがおもむろに顔を上げる。
私はその顔を見て、自分の胸が大きく脈打ったのを感じた。
仄かに赤らんだ頬、垂れた前髪の間からのぞく潤んだ瞳。
私の指先に、風呂場で触れた彼女の肌の感触がよみがえる。
ドクンドクンと、鼓動が耳を打ち、耳が熱くなる。
「こ、こなた……くすぐりって……」
「私……さっき…変だったんだ……」
しどろもどろに言葉を紡ぎ上げるこなたは、途絶え途絶えの言葉を取りまとめるように、ゆっくりと私に自分の気持ちを伝えようとしている。
恥ずかしさと、選ぶべき言葉が見つからないもどかしさが、ヒシヒシと伝わってくるようだった。
「さっき……お風呂で、かがみにくすぐられて……変だった。苦しかったの」
間髪入れずに、ごめんと謝ろうと思ったが、やめておいた。
こなたは、私を責めているのではない。
彼女は、きっと自分でも自分自身が感じている感覚に、どんな施しを加えればいいのか戸惑っているのだろう。
私の中では、先ほどの疑問に答えが出つつあった。
『Q.どうして、こなたさんはくすぐられても怒らないのですか?』
その答えは。
「でも……でもね、かがみ……こんな事言うと…頭がおかしいと思うかもしれないけどさ……」
私は黙って、こなたの定まらない瞳を見つめている。
「私ね……もっと、く、くすぐられたい……」