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2011/02/13(日)に投稿された記事
くすぐりの塔外伝 -届かぬ想い、求める心-(中編)
投稿日時:21:33:20|コメント:0件|》本文を開閉
ディレクトリ:くすぐりの塔外伝RF
そこは、遺跡と言うにはまだ新しかった。かつては塔であった物が中央から倒壊し、補修が成されず放置されたもので、風化し始めてはいたが、10年も経過していないことが一目で判ったのである。
「ここは?」
やはり学者としての血が騒いだのか、セイルが問うた。
「さっき話した先代魔王の墓所さ・・・そして、俺の始まりの場所でもある・・・」
「始まりの場所?」
「来てくれ」
セイルの些細な質問に答えず、キーンはセイルを連れて塔へと入った。
二人が向かった先は地下の一室で、頑丈な作りだったのか損壊が及んでいない区画であった。
「昔、俺もこの塔内探索をしたんだが、当時はこの場所に気づかなくてな・・・・後日になって、この地下に居座っていた奴に教えてもらった先代の研究施設だ」
案内された部屋はまさしく研究室であった。居並ぶテーブルの上に載せられた試験管やフラスコ。幾つもの薬剤瓶といった物品は、学者の部屋にありがち・・・というより必須の備品であった。
だが、それらが部屋の主人公というわけではなく、真の主役は、この部屋の半分以上を占めて存在感を見せつけていた大きな直方体の物体だった。
それはブロックの様に、均等に切り出された水晶で組まれた浴槽あるいは水槽の様な物で、大型の人型モンスターが余裕をもって浸かれるサイズがあり、それが五つ横並びに並べられていた。
「ここで先代は、あの資料内容の研究を行っていたそうだ・・・」
実際には見ていない・・・というニュアンスを滲ませてキーンは言った。
「それ以上の説明は、俺には不可能だ。ここの事を知りたいなら、あとは資料に聞いてくれ」
「見せてもらえるんですか?」
「さっきの俺の頼みが実現可能か否か、手段の一つとして、これを検証して貰わないと駄目だろう?なら、心ゆくまで見てくれ。俺の知識では使用可能かさえわからん。判る奴がいなければ不用な物で、不用なら隠しだてする意味すらないだろ」
キーンにとっての論理はセイルの側からすれば実に極端な物であった。
「それはそうですが・・・」
セイルはキーンという人物が判らなくなっていた。先程の要望に対する真偽もそうであったが、仮にも敵国の人間にこうも軽々しく、かなりの規模と推されるこの実験施設を自由に見て良いと言うばかりか、価値がないと言い切ったのである。
器量の大きさと言うべきか、目的の為に手段を選んでいないと言うべきか・・・
「とにかくここを調べて、結果と返答を聞かせてくれ」
状況に戸惑うセイルに、期待を込めた一言を告げると、キーンは退室しようと彼に背を向けた。
「ど、どこへ?」
「俺が残っていても、やる事も質問に答えられる事もない。悪いが城に戻っている。帰りは迷わないように手配しておくから心配するな」
そう言い残してキーンは部屋から姿を消した。
(試されている?)
一人残されたセイルは、出入り口まで行って本当にキーンがいない事を確認すると、自分の置かれた状況をそう推察したが、合点がいかなくなって、瞬時にその疑問も保留した。
(いやいやいや、試すも何も、こちらは一言もあの人に仕えたいとか申し出た訳じゃない。むしろ頼まれている上に、好意的な返事もしていない・・・・なのに、国家機密に類する施設をこうも容易く敵側の人間に見せる?)
彼は生粋の戦士ではなかったが、戦場に赴く人員としての教育は受けさせられていた。いわば、国家に忠誠を誓い国のために働く思想・・・であるが、その教育が敵国に捕らわれたに近い状況下にあって急に思い出され、その考察に混乱を生じさせた。
(資料を解読できたとしても、申し出を断るないし理解できなかったと伝え、得た技術をクォバリスに漏洩されると考えていないのか?いや、それとも理解できない前提なのか・・・いいやいや、その可能性を考慮した上で・・・それが前提でクォバリスへ偽の情報を伝えようとさせているのかもしれない。僕という存在を利用してのトラップという形で・・・と、すれば、どんなトラップ?僕そのものが爆弾?得た技術に潜在的暴走の罠がある?)
考えれば考えるほど、その可能性に幅が広がり、彼の思考はまとまりへとは逆の方向へと進んでいく。
魔王キーンが、この場所に自分を案内した動機を真実と考えれば、ここにある資料は本物であるはずだった。だが、全ての発言が偽りである事も十分にあり得る。世界を欲し、闘いを挑む者は、より強い力を求めるのは共通する傾向なのである。
(・・・・・・・?)
そう思案していたセイルはそこである違和感を感じた。
(強い力を欲する?・・・共通の傾向?)
何かがひっかかった。
キーン・キングダム(自称ではなく、あくまで世間が称し始めた呼称)とクォバリスは、キーン陣営側の方がその領土を急速に広げている点では異なるものの、国としての規模は拮抗しているといえた。
だが、何か根本的に違うと感じた彼は、その心の引っかかりが何かと思案し始めた。
もともと洞察力の高い彼は、先入観となっていたキーンの言葉を一旦忘れ、国単位での相違点を模索し、最も単純な違いを簡単に発見した。
「あの人は・・・・・『王』じゃない!」
目の当たりにしていて忘れていた事実が明確となって現れ、思わず口にして叫ぶセイル。
そう、キーンは国の主でありながらほとんど単独で戦場に赴き、自国クォバリス帝国に闘いを挑んでいるのである。自分達の主は戦場には程遠い城にて魔王討伐を指示し、対象であるキーンはその矢面に立っている。同じ国の主としては、その行動に天地の差があった。
もちろん武断的な国王は他にも存在はする。それでも一軍を率いての事であり、単独戦闘を行う事はまずあり得ない。
(あの人は嘘は言ってない!本気であの人は・・・本気で・・・)
国を率いようと考える者には考えられないこの行為は、そうした視点から見れば、自殺行為でしかなく、まさしくそれは、彼がセイルに要望した内容に直結した。
これによって彼は合点がいった気がした。だが、事情全てを知り得たわけではなかったため、納得はしていなかった。
これも結局は自分の憶測でしかないのだが、この判断が一番真実味があると感じた彼は、更に思案した挙げ句、このままでは想像の域を出ない事に直面し、最も単純で早々に気づくべき確認方法に辿り着き、その手法を用いる事を決心した。
その手法とは、何のことはない。本人への確認である。
その為にも、彼の課した課題をクリアするべきと、ようやくにして目の前の設備・資料を本格的に検討に入った。
それからのセイルは文字通り時間を忘れて資料検証に夢中になった。真偽の検討どころではなかった。今までに思いもしなかった技術や発想はもとより、既存の技術を更に応用・発展させた内容がそれには多く記載されており、彼の学者としての血を大いに騒がした。
無論同時に、この技術に秘められた恐ろしさも感じてはいたが、それにも増して、そこに記された技術に秘められた可能性に魅了されていった。
セイルが時間の経過を忘れて文献に夢中になっていた頃、手持ちぶさたとなっていたキーンは退屈そうに玉座に座り窓から見える景色を遠目に眺めていた。
城そして国の主としての義務として、いわば形式として座していたキーンであったが、彼はこの豪華な席を一度として好ましく思った事はない。
ここにあるのは悲しみの思い出、後悔の始まり、そして憎しみの源泉。
この場にいる度、彼の感情は爆発しそうになり、辺り一面を見境無く破壊したくなる衝動で一杯になる。危険な負の感情だと自覚はしていたが、それがある限り自分は自分でいられると考えている。
そうした怒りの感情を失うことは、その根元となる者達を許した事と同意だと彼は思っていたのだ。
最愛・・・となるはずだったルシアの死の原因となった者達を、許す事は一生できないと、彼は自分に誓っていた。
それが覆る場合があるとすれば、それはたった二つ。
一つはルシアが生き返る事。
そしてもう一つは、ルシアの待つ世界へと自分が旅立つその瞬間であった。
人の身である彼が、唯一実行できる手法が後者であり、その目的を達成するため彼は戦い続ける。闘いの場で死した者が旅立つ世界に赴くために・・・・
幾つかの勇者御一行や正義を掲げた国軍、欲にまみれた盗賊集団達にその望みを託し続けて現在、いまだにその望みは叶えられず、今回、得られた機会も、寸前の所で達成には至らなかった。
惜しい事をしたと、彼は思う。だが、背後を振り返っても前進がない事を経験で知っている彼は、それ以上の後悔はしない。望む結果に至るまで闘い続けるのみだった。
そして今、セイルという別の角度からの可能性を見出した彼は、それに望みの一端を託してみたのである。
あの強敵、古種ライカンスロープの秘められた戦闘力は、自称勇者や正義の国軍達よりも遙かに強力であり、彼の願いを叶えるのに最も近い存在といえた。だが、彼が確認し得た存在は強敵ではあったものの、勝利者にはならなかった。
彼の周囲から消え失せて久しいそれらが再現できるのであれば、停滞していた望みが前進するともいえ、その実用化を心底願った。
その行程でセイルに裏切られ、資料を持ち逃げされるのも良いと彼は考えている。最終的に行き着く結果さえ望み通りであれば、道順など些細な問題でしかない。
セイルとの偶然的な出会いに、キーンは最近では珍しく期待感を感じ、心躍るという感情を得ていたが、この玉座にいると、やはりどうしても好まざる過去の出来事が思い起こされ、彼の意識は深い闇の側へと傾く。
そうした静かな殺気がみなぎる謁見の間に、何の前触れもなく一人の少女がやってきた。
「失礼いたします・・・」
「やぁ、ファーラ・・・」
好き好んで今この場に来訪する者はいない。それを自覚するが故に、ただのご機嫌伺いではないと知るキーンは、不敵な笑みを浮かべ来訪者に視線を向けた。
「クォバリス帝国方面の情報が一部届きました」
ファーラと呼ばれた女戦士は、キーンがその覇道の一歩を踏み出した頃から配下に入ったメンバーの一人で、彼の実像を正確に知る数少ない人物の一人であった。それ故、放たれる殺気に怯む事なく玉座の前まで近づき、膝を折った。
「来るか?」
「はい。魔王キーンの卑劣な攻撃にも関わらず勇敢に戦い、道連れにした多くの英雄達の死を無駄にせず、一気に魔王の軍勢を殲滅する・・・との事で、兵力の編成が成されているそうです」
「あれが俺の仕業になってるのか?だがしかし当然か。死人に口なし・・・にしても、被害が少なくもないのに早急に来るのは、他国に事態を知られる前に侵攻して、ブラッド・ストーンを得たいんだろうな」
ファーラの報告にキーンは苦笑した。既に悪の権化とされることに慣れており、またそれに匹敵する行いをしてきている彼ではあるが、濡れ衣を着せられるのは始めてであったのだ。
「おそらくは・・・・まだ、動向に関する詳しい情報は届いていませんが、あの戦闘の後です・・・・明日明後日にとはいかないかと・・・」
「同感だ。その応戦に俺が突然現れたら大混乱だろうな」
そうした光景を頭の中で思い浮かべたキーンは、意地の悪い笑みをもらした。
「はい。魔王伝説に拍車がかかることは間違いないですね」
現実に、彼が一つの大戦に勝利する都度、人間キーンとはかなりかけ離れた噂が生まれ、諸国に飛び交う。最初のうちは敵を呼び込む為に自ら噂を流していたが、今となってはそれも不要であり、勝手に走り出した彼の偶像と実像とのギャップが大きくなる度、彼女も失笑を禁じ得ず、今回はどうなるだろうと今から可笑しく感じていた。
「・・・と、なると、クォバリスの連中はもう敵とはならないか・・・・」
「それは何とも・・・混乱して狂気に陥るか、恐怖に駆られるかで状況は異なります。ましてや、先だっての戦法を用いられた場合は・・・」
先の一件はファーラ達の耳にも情報として伝わっていた。現実にそれを目撃したわけではなかったが、その壮絶さと非人道さには鳥肌が立つのを止められなかった。
「確かに・・・と、言いたいが『魔王』以外にあの戦法を使う事もないだろ・・・・だが椿には更なる情報を収集させてくれ」
「はい」
一礼してファーラはその謁見の間を後にした。
「・・・・・・・とはいえ、俺がいない前提で侵攻してくるでは・・・・な」
結局、自分の負ける要素は少ないだろうとキーンは早々に予見し、彼は新たな敵国を選ぶ必要があると感じていた。
だが彼は侵略者ではあっても、征服者でも野心家でもない。世界征服など、目的を達成するために選んだ手段によって発生した現象であり、その事に対して何ら興味はなかった。したがって、現在の敵国が滅べば次の隣国を攻めるだけの事で、征服のための効率的計画など練るつもりさえなかった。
どの国を攻めるかの自問に、キーンは即答を出さない。それはセイルの返事やクォバリス帝国の滅亡後に思案しても何ら問題ない出来事だったからである。
そこでふと、セイルの事が気になった矢先、指示された用件を担当者に伝達し終えたファーラがキーンの元へと戻って来た。
「?」
予期していなかった出来事にキーンはキョトンとした表情になった。
「他に・・・・何かあるのか?」
その問いかけに即答はなかった。だが、言いづらそうに、そして若干頬を朱に染めて、装備していた軽装型の鎧を外し始める彼女を見ると、鈍いキーンも彼女が何を求めているかを悟った。
「あの、お時間に余裕があれば・・・・」
キーンはファーラの要望に無言で応じた。
その意志は、彼が常に所持していると言うよりミファール内に隠匿している『メルフィメールの秘宝』に伝わり、その力を発動させた。
秘宝・・・それは、神秘的な響きを持ってはいたが、その実態は『フュージョン・エッグ』と呼ばれる、無機物と融合を起こして定着し、対になる宝玉の持ち主(キーン)の意志に応じた形状に自在に変化するという能力を有した古代アイテムの一つである。
基本用途は『大人の夜のお楽しみ用』であり、キーンは女達との絡みには必ずと言って良い程、これを使っている。
秘宝の融合率は軽く城の全域に至っており、言ってみれば城全てが彼の手足の延長となっている。従って彼は、好きなときにプライベート空間を構築させる事が出来るばかりか、応用すれば城内の防衛機構としても活用できるのである。
キーンの意志に秘宝は忠実に従い周囲を変化させ、謁見の間の出入り口が徐々に小さくなって周囲の壁と同化すると、その場を窓だけの密室へと変貌させる。
これから何をするかは判ってはいたものの、何が起きるかは予想できなかったファーラは、期待感と興奮を抑えながら装備していた鎧を全て床に散らした。
彼女が求め一歩踏み出した足が、突如床に沈んだ。
「きゃっ」
驚いて足を引き抜こうとするファーラであったが、無駄な行為であった。床は粘性を持った沼地の様に彼女の足を捕らえて離さず、逆に強い力で引き寄せるばかりか、周囲から触手状の物体を何本も生やして彼女を絡め取る。
足掻いても無駄だと知るファーラは特に必死の抵抗をするつもりはなかったが、四肢に絡みついた触手は彼女の動きに過剰に反応してのたうち回ったため、その身体は派手に振り回され、彼女は軽く目を回した。
その動きが停止し、彼女が落ち着きを取り戻すと、その身体はいつの間にかキーンの手前にまで運ばれていたが、ただ運ばれただけではない。
彼女の四肢に絡んでいた触手はその太さを爆発的に増大させて変形し、即席の壁を作り出すと、そこへ首枷・手枷の穴を作り出し、そこへ彼女を固定していた。
一枚の壁を隔て、前から見れば壁からファーラの頭と両手首が生えたように見え、後ろから見ると、首から下が壁から生えて膝立ちしている状態が作り出されていた。
「あ、あの、これはっ?」
これまでの経験にない、ギロチンの受刑者のような状況にファーラは困惑して正面に立つキーンを見上げた。
「懐かしいだろ?始めて会った時は、こんな感じだったな」
「あ、あの時はこうじゃなくて・・・」
頭を下げ、顔を近づけて語るキーンの言葉に、当時を思い出したファーラが顔を染めて反論する。
「覚えてるよ。あの時は腰・・・いや尻がつかえて挟まってたんだったな」
「そぅ・・ぅわぁきゃあっっははははははははははやはぁはははははははは!!」
降って湧いた思い出話にファーラは吹き出して答えた。彼女の死角となっている壁の向こう側で、無数の触手が無防備な肢体をくすぐりだしたのである。
彼女の脇の下に潜り込んだ触手が先端を激しくくねらせ、腹部に突き立てられた触手群が震えてツボを刺激し、背筋を絶妙な力加減で上下している触手もあった。
自身のこうした状況と昔話の内容から、責めの趣向を予想していたファーラであったが、やはり見えない所から行われる多彩な触手の責めの前に、堪えるなどという事は不可能であった。
「あはっ、あはははあはあはははははははは!ちょ、ちょっと、いひゃっっはははははははは、ちょっと待って~~~っっはははははは!待って待って待って~~へひゃっはははははは!!」
いきなり生じたくすぐったさを何とか抑えたいと願うファーラは、現状からの脱出を心底望んだ。だが、首と両腕を抑える壁は彼女の筋力では破壊することは適わず、また抜け出すことすら出来ず、いいように触手の蹂躙を許し、そのくすぐったさに笑い続けた。
「そうして、動けない状態で悪戯されまくって・・・・抵抗できない状態で責められるのが好きになったんだよな」
笑い狂うファーラの顔を覗き込んでキーンは意地悪くいった。
彼は愉しむにしろ拷問にしろ、その僅かな指の動きにも過敏に反応する様子に愉しみを感じ、僅かなやりようで対象者には天国にも地獄にもなる『くすぐり』行為を多用する。
「はひっ、ひゃっっはあははははははははっっはははははは!や~~~っっはははははははは!!くるひっくるっ・・はぁっっはははははははは!!」
そうした問いかけにファーラは答えなかった。答えることが出来なかったと言うのが正確なところであるが、実際には彼女もこの行為を愉しんでいた。
この、味わって始めて実感できる苦しさは、何度経験しても慣れる事はなく、その時の苦しさと疲労感はかなりのものである。
だが、その行為で徐々に過敏になる身体が得る感覚と、後にやってくる壁を越えたような快感に病み付きとなっていたのである。
これには秘宝の巧み動きによるところも大きい。今の地獄を味わったからこそ得られる快感。この地獄を通らなければ得られぬ天国。それを彼女の身体は覚えてしまい、病みつきとなり求め、欲っしていたのだ。
「きひっ!きひひっひっひひひひひっ・・・っひひゃっっははははははは!あ~~~~っあ~~~~っあぁ~~~っっははははははっははははははは!!」
ファーラは見えない所で行われる触手のくすぐりに、いいように悶えさせられる。
「そこはっ!そこっ、そこだめぇぇ~~だめっていいぃやぁっっはははははは!!」
今、最もくすぐったさを感じている脇の下を何とかガードしようと二本の腕が足掻いたが、手首を押さえられた位置が悪く、彼女の脇は完全に閉じることができず、触手の振る舞いを許し続けた。
快楽を欲して受けたくすぐりではあったが、その責めを自分で調製することが出来ない彼女は、本気で脱出を願って身体を突き動かすが、すでに彼女には自由などなく、終わりを迎えるまで悶えるしかない。
「やはっ!あはっ!も、もうすっ、もう少しぃぃ~~~」
ファーラは手加減を求めて顔を上げたが、それを聞き入れるべきキーンの姿がそこにはなかった。彼は移動して、壁の向こう側、首から下の側へと回り込んでおり、そこで彼は抗う術などない彼女の両脇腹を、おもむろに揉み回す。
「いひゃあ~~~~~あっははははははははははははははは!いひゃはははぁ~~~~~~~!!」
触手とは全く異なるくすぐったさがいきなり脇腹に生じ、それに敏感に反応したファーラが悲鳴に近い笑い声をあげ、身体を跳ねさせた。逃げることも出来ず、抵抗することも出来ない彼女は、腰を振って脇腹にまとわりついた指を払おうと努力するが、彼の指は得物を逃すまいと貼り付いて離れず、左右から押さえつける様な状態を維持したまま、軽く食い込ませた指先を更に蠢かせた。
「くひっひっひひひひひひ!!あぁっ!あっ!あ~~~~~~っっ!!!」
グリグリと脇腹周辺のツボを刺激され、ファーラは息を詰まらせながら笑い悶える。解放を望む本能が反射的に身体を突き動かし、その腰を淫靡に踊らせたが、そうした行為も周囲から見れば男を誘っているようにしか見えなかった。
そうしてしばらく脇腹に対する揉みくすぐりの反応を堪能したキーンは、一旦その手を離して解放した。だが、周囲の触手は依然として彼女の身体を不規則に蠢いたりつついたりしての責めを続けており、完全な安息を与えてはいなかった。
それに、キーンが手を離したのは更なる責めの為であり、彼の指が離れると同時に小さな触手が新たに現れて、短いチャイナ服を思わせるデザインであった彼女の着衣の裾をまくりあげ、薄青い色の下着に包まれた、形の良い尻をさらけ出させた。
「相変わらず美味そうだ」
キーンは冗談めいて呟き、その尻を軽く撫でると、蠢かした両手の指先をあてがい尻全体に這わせ始めた。
「やはぁ~ん!あっ、あぁん、いひゃはぁっはははははっはははははははん!おしっ、おしひひひひひひひゃっっははははははははは!お尻はだめぇ~~~~やっっはははははははははは!!」
首から下の状況が遮られている以上、何が起きるか判らないファーラは、新たに生じた感覚に、またも敏感に反応し、ムズムズする感覚の広がる尻を激しく振った。
「この辺が一番好きだったかな?」
右に左へと激しく揺れ動き、時にはキュッと引き締まる尻を楽しそうに眺め、キーンは言った。
「やはっ!やはぁっ!やはぁっっはははははははははは、あはあはははっ、いやいやいやいやっはははははははは!!」
問いかけに笑いで応じながらもファーラはその時の事を思い出していた。あの時も彼女は自由にならない下半身をいいようにモンスター達に嬲られていた。そしていつの間にか入れ替わったキーンによって、絶頂に達してしまい、その感覚に目覚めたのである。
今こうして彼女は、似た状況で責められ、その時と同じ快感を呼び覚まされそうになっていた。それを意識し始めるとたちまち身体の性感は高まりを見せ、受けている刺激を快感と認識し始める。
「はっひはぁん・・・・・んんぁっはははぁぁぁぁ・・」
そうした変化をファーラはもらす吐息で表してしまい、それを聞き取ったキーンは、そのまま終着へと向かうことを許さず、蠢かしていた指先を尻から腰へと滑らせる。
「なぁっひゃっっっはははははははは!あひはははははははははっっっっ!」
そのポイントに対しては、まだ性感よりくすぐったさの方が勝っていたようで、急に変化した感覚にファーラは翻弄された。
暴れる腰と肘がその度合いをキーンに伝える役割を果たし、その様子に満足した彼は、ゆっくり優しい力加減で指先を這わせ、両腰をソフトにくすぐり回す。
「はひぃぃぃ・・・やぁぁぁぁん・・・うくっ!うきぃぃぃひゃぁっっははははははははははは!」
何が起きるか確認できない状況が彼女の感覚を敏感にさせ、そのソフトな刺激の効果を増大させる。腰が右に逃げようと左へ逃げようと、左右から責める指先からの脱出は適わない。
そして同じポイントの責めによって、感覚が緩慢になり始めたかと思うと、声でそれを感知したキーンが指の位置をずらし、腰から脇腹、脇腹から胸の横、胸の横から脇の下へと刺激ポイントを不規則に変更させ、緩やかな往復を繰り返す。
その為、ファーラの身体に沸き起こるくすぐったさは、なかなか一定以下に収まる兆しを見せず、苦しい笑い地獄の中で彼女を翻弄し続ける。
「きぃやぁっっっっっはははっはははははははははは!やっはあっははははははははははは!!苦しっひっひっっひひゃっっはははははは!もう、もうううぅわぁっっははははははははああはははは!」
発言すらも許さないという様子のくすぐりが続き、ファーラは狂ったように首を振り乱し、溢れた涎や涙を床に散らして悶笑する。
「そろそろ・・・・終わりたいか」
「はいっ!はい!はひゃはははははははははははははは!」
壁越の問いかけに、ファーラは笑いながら即答する。存分にくすぐられ出来上がっていた身体は、要所の刺激を受ければすぐにでも高まりを見せる状態になっていたのだが、弱点を知り尽くされていた彼女は、そうしたポイントを外されてのくすぐりによって、その域に達する事を、半ば強制的に抑えられていたのである。
「それじゃ、笑うことなく懇願してみろ。出来るまではお預けだ」
「そんっそんなっそっっっいひゃははははははっははははははははは!!」
思いもしなかった過酷な課題にファーラの焦燥感は一気に高まった。驚愕の一言すら満足に放てない状態で、笑いを一切もらさず懇願など出来るはずがないのが十分に理解でき、自分が出口のない地獄にいるような感覚が襲いかかる。
「冗談だ」
絶望感に近い感情が湧き上がり始めたその時、さらりとキーンが語り、途端に触手の動きが一気に変化した。
これまでくすぐりポイントに対して突っつきや蠢きによる振動責めをしていた触手達は、そうした動きを一斉に停止し、ファーラの着衣の中へと潜り込み始めた。
それらはたちまち網目状に枝分かれして広がると、メロンの表皮の様に不規則な形状で彼女の全身に付着すると、一斉に小刻みに震え、微細な振動を送り込む。
「っっっっはぁっ!ぁぁぁあはあぁっぁぁぁぁぁ~~~~~~」
全身の皮膚が震えている様な感覚を受けてファーラが甘ったるい喘ぎ声をあげる。こうした待ち望んでいた刺激は、たちまち彼女の官能に火を灯し、溢れる欲望がその身体を突き動かして不自由な体勢のまま、淫らなくねりを披露した。
そうして弱々しい刺激で彼女の性感を十分に燻すと、キーンは新たな責めのイメージを秘宝に送り込んだ。
それによる変化は直接ファーラには訪れず、彼女の身体に張り付く触手の根元、つまりは床面に生じていた。
触手の根元が瘤の様な膨らみが生じると、それは先端へ向かって徐々に移動を開始する。
触手が管状になっており、その中を何かが移動している様にも見えるそれは、四箇所で発生し身悶え続けるファーラへと近づいて行き、同じタイミングで身体に到達した。
「あっひゃっぁん」
接触ポイントが両肘と両太股という視界外からであったため、瘤の接近すら察知していなかったファーラは、唐突に生じた新たな刺激に敏感に反応した。
その瘤も身体にまとわりつく触手同様に振動しており、その強さに関してはそれ以上の物だったのだ。
触手はファーラの身体に広がった時点で極端に細くなっていたが、瘤の動きはそれに阻害されることなく、触手に沿って彼女の身体を移動し始め、その着衣の中に潜り込む。
「はぅっ!あひっはぁぁぁん・・・・」
全身に広がる微弱な震動に加え、四つの震動体を押しつけられる状態となったファーラは、その強弱の差によって生じる甘美な感覚に酔いしれる。
震動する瘤は触手にそって移動を続けるが、その動きは壁の反対側という視界外の出来事である上に、広がる触手が不規則かつ、枝分かれする触手のどこを辿るかの規則性もなかったため、予測は不可能であった。
「はひい・・・あっ・・・ぁぁ・・・ぁあっはははははははぁぁくひゃぁぅ・・・・あんぅぁぁぁぁぶぁひゃっっはははははは!・・・・あぁぁぁぁ~~~」
瘤は震動を放ちながら縦横無尽・気ままにファーラの身体を這いずり回り、その都度生じる感覚に彼女は翻弄され続ける。
腕をほぼ螺旋状に這い上がって脇の下に到達し、どこへ移動しようかと迷っているかのようにその場でウロウロする瘤。
脇の下を通過し、乳房を横断し、腹部で迷走したしたかと思うと両腰を行き来する瘤。
太股を行ったり来たりと考え事をしているかのような動きを見せる瘤。
背中を中心に徘徊し、刺激に身体が反応する度、転がり落ちそうな動きを見せたかと思うと、再び這い上がって定位置を確保しようとする瘤。
着衣の中で蠢く瘤の動きは何かの生き物が徘徊している様にも見え、個々が全く異なる動きを見せながら、急にそのパターンを交換する様相は、ファーラの喘ぎ声と相成って淫靡さを醸し出していた。
秘宝は、その基本用途故に対象者の反応を学習し、不規則な動きを見せつけながらその弱点を的確に責め始める。
そのままであれば、瘤は最終的には彼女の性的弱点に集中し、一気に絶頂へと導くはずであったが、使用者の意地の悪い意志が関与していた為、未だ彼女はその幸福には至っていない。
「はあん・・・はぁぁぁん・・・・そこ、もう少し・・・いやははははははっははははは!ちがっちがぅっ!そこじゃ・・・あはっあはははは!」
瘤の動きは明らかにファーラを焦らしていた。
胸の周辺を徘徊していた瘤は、何箇所かの枝分かれした触手を介して敏感な先端部分を目指す様な動きを見せながら、彼女の期待するポイント寸前でいきなりコースをまるで違う方向に変えて大きく迂回して脇の下や腰周辺で停滞し、しばらくして再び乳房に到達しながら、登頂には至らないという動きを繰り返す。
また下半身に徘徊する二つの瘤は、それぞれ両太股に位置して股間部分を目指している素振りを見せてはいたが、上っては下り上ってはは右に左へとそれ、肝心な部分への到達を意図的に避けているとも思える動きを続けたり、同時に迫った瘤がようやく股間に達するかと思いきや、目的地に達するより先に瘤同士がぶつかってしまい、後戻りを始めてしまう。
「はぁぁぁぁぁ!!そ、そんなぁ・・・いやっはぁぁぁぁ!!」
そうした寸止めが繰り返される度、ファーラは切なげに泣きそうな声をあげて、自由にならない首と手をばたつかせ、今度は瘤同士の衝突が起きないようにと、はしたなくも脚を広げて空間を確保するが、そうした姿勢が長時間維持できるはずもなく、自然に幅が狭まった頃合いを見て、再び瘤は近づき、同様の結果をもたらす。
今ここで拘束を解放すれば、例え人前であっても彼女は自ら快楽を貪る行為を行った事だろう。
「もうだめっ!お願い!!お願いですからぁ~あっあぁぁぁ!!」
快楽を欲する懇願が狂気を感じさせる悲鳴になると、ようやくにしてキーンは彼女の切なる願いを叶える意志を示した。
それに従い、瘤は的確に移動し始め、二つが両胸の先端。一つが下着の後ろ、尻の割れ目側から、一つが下着の前部から中に潜り込み、股間の前後へと同時に定着した。
「あはぁぁぁぁぁ」
待ちに待った箇所への到達に、思わずファーラが歓喜の声を漏らしたが、到達寸前、瘤は肝心要である振動を停止してしまっていた。
「そ、そんなっ・・・・あぁぁぁぁ!!!!!」
ここに来てまた焦らされるのかという思いに、ファーラが絶望の悲鳴を上げた瞬間、その思考の間隙を突くかの様に瘤が一斉に振動した。
それはこれまでの振動よりも更に強く、それによって生じる刺激を堪えようなどと言う意志はもはや彼女にはなかく、待ちわびた感覚を全て受け入れようと、ファーラは快楽に身を委ねた。
彼女の精神は完全に無防備となってまとめて襲いかかる快感に押し流された。抑えられていた官能は一気に高まり止まるところを見せない。
そして絶頂寸前、背後にいたキーンが自分の脚を彼女の股間に押しつけ、股間に生じる振動を増大させ、同時に両手を脇腹にあてがって、知り尽くした彼女のツボを揉みくすぐった。
「!!!!!」
ゴール直前、あるいは衝突寸前状態でアクセルを踏み込まれた彼女は、予想を遙かに上回る快感を伴って絶頂へとなだれ込んだ。あまりに急な出来事に、声が追いつかず一瞬後、遅れて悲鳴が巻き起こった。
「はあああぁぁぁぁぁ~~~~~~!!!!あひぁっっはぁぁあぁぁっぁぁ!!!」
爆発的に生じた快楽と、それに伴うように生じたくすぐったさに、発作のような痙攣を起こすと、ファーラの意識は絶頂感の波に流されたまま闇へと沈んでいった。
セイルの学者としての探求心は、その勢いを衰えさせなかった。
まずは概要を把握するのみで事足りるのだと彼の理性は理解しており、手頃な項目で区切りをつるべきだと思っても、新たな項目が目に入ると、それに対する好奇心を抑えることが出来ず、ずるずるとページをめくるという現象が続いていた。
「凄すぎる・・・・」
事あるごとにセイルはそう呟いていた。
記載されている内容はどれも戦闘目的でしか使用を想定されていないのが明白な物で、危険極まる知識だという事は早々に判っていた。
項目が進むにつれて、彼が資料に抱く認識は、優れた研究資料から高度な研究資料へ、更に奇跡の研究資料から古代文明期の研究写本、果てに禁断の書へとランクを上げていた。
自らも関わって産み出した蜂型魔法生物や、世の合成モンスターの研究など子供の実験でしかないと思える程であり、それによって資料の示す内容に恐怖を抱いた彼は、これ以上知るべきではないという理性の警告を感じながらも、もう一方の感情、本心とも言える欲望が、未知なる知識を求めてしまい、その衝動に勝てずにいた。
これは、セイルの学者としての悲しき性と言えるだろう。
「・・・・お客人・・・お客人!」
「!?」
セイルは突如、自分に大声がかけられ仰天した。ビクリと大げさに反応して背後を振り返ると、トレイを手にした女性がばつが悪そうに立っていた。
「失礼、驚かせてしまいました。私の声が届かないほど、夢中になってたみたいですね」
「あ・・・こちらこそ、ついつい魅入ってしまって・・・・」
皮系の鎧を装備した女戦士がすまなそうに言うと、セイルはそこまで自分が熱中しいていたのかと自嘲した。
半ば強制的とも言える形で理性が望んだ中断を得たセイルではあったが、心の奥に潜む貪欲な本能が関与したのか、彼の指は本を閉じる際にページを折って、しおり代わりにするという行為を無意識のうちに行っていた。
「何か?と言うか、あの人のお呼びでもありましたか?」
自分に声がかかるなど、それしかないと考えていたセイルは椅子から立ち上がろうとしたが、それを女戦士が止めた。
「あ、いえ、満足行くまでご覧になって下さい。少々長くなるご様子でしたので、お食事とお飲物をこちらにお持ちしました」
本の虫といった類の人種を理解していたキーンの指示なのかな?と、セイルは思い、断る理由も見出せなかったため、素直にそれを受けた。
「・・・・あの・・」
「なんですか?」
持ち込んだ飲食物をトレイから空いている机に並べ終え、退室しようとしていた女戦士をセイルが呼び止める。振り向き、次の言葉を待つ彼女を見ながら、彼は少し躊躇う様子を見せていたが、内心の疑問を抑えきれず、口を開く。
「君は・・・あの人の下について長いの?」
あの人とは無論、キーンを示していた。
「はい。初期の頃・・・この国がメルフィメールと呼ばれていた時に国を捨ててあの方に従った者の一人です。大した実力もないんで、あまりお役には立ってないですけど」
女戦士は当時の事を思い起こし、罪悪感や無力感が入り交じった感情を抱き、それを僅かに表情に表した。
「それは・・・恐怖から?」
セイルの問いかけに女戦士は返答に戸惑った。
その間は当然な反応だと彼は思っていた。返答内容によっては主への批判、そして情報漏洩に類するだろう問いかけだったのだが、それでも彼は相手の返答を予想以上の内容で得ることとなる。
「最初は・・・そうでした。何度かあの方の闘いを垣間見て、自分では・・・いえ、国力の全てを用いても勝てないと思った私は、国に殉じる事より生存を選びました。最初は恐怖だけで使えていましたが、すぐにあの方は人間だと言う事を理解して、あの方の進む道に少しでも協力してあげたいと感じるようになりました」
「進む道・・・・」
比喩して語られたが、セイルにはそれが「何か」を理解している。
「お聞きになったはずです」
「闘いによって死ぬこと・・・・」
【俺を殺せる能力を持ったモンスターの創造。この研究資料を用いて、それが実現可能かを是非検討してくれ・・・】
あの時、城の自室で魔王キーンは、そう彼に依頼した。
自分の命を奪う研究の実施。確信めいて事実と察しながらも、にわかには信じ難い事が、いよいよ自分の前に実体化したような感覚をセイルは感じた。
「でも、何故、そこまでして・・・・」
それは疑問として当然であった。
自殺願望を抱く者は残念ながら多い。理由も、深刻なものや追いつめられてという他、面白くないといった単純な理由によるものすらあり、実に多種多様であった。
だが、動機がどれ程多くとも、死を得ること自体はそう難しい事ではない。にも拘わらず、わざわざ近隣諸国に闘いを挑むという手間をかける理由が、どうしても判らなかった。
「あの方は、闘いによって死ぬという、行程を望んでいます」
「なら何で?どこかで手を抜くとか、自爆的な方法とか、いくらでも・・・」
「それでは駄目なんです」
確証を抱いている口調で女戦士は断言した。
「あのお方は、死に方に対して臆病なんです」
「は?臆・・・病?」
この場ではまずあり得ないだろう単語の登場に、セイルが耳を疑った。
「これは、あの方の信念です。手を抜いたり、仰る自爆的行為は、行き着くところ『自殺』に類します。それは闘いによる死ではなくなり、望む世界へ旅立つ道が閉ざされると考えていらっしゃいます」
「・・・・宗教観念!」
女戦士の言葉から導き出された結論に、彼女は小さく頷いた。
「厳密には宗教ではないかも知れませんが、あの方は元々は傭兵。それ故か、闘いで死んだ者のみが行く死後の世界というのを信じていらっしゃいます。そして、そこへ赴く事を望んでいるのです」
「それがこの戦争の理由?魔王を称して戦争を仕掛けてまでの?何故、そこまでその世界にこだわっているんです?」
被害者にすれば、キーンの行為は自殺に巻き込まれたに等しい状況とも言える。にもかかわらず、当事者は生き延び、被害ばかりが増大している。ある意味、世界征服を目論む動機よりくだらないとも思える事実に、セイルは憤りに近い感情を禁じ得なかった。
「その世界に・・・愛する人がいるからです」
キーンの心情を知る女戦士は、思い詰めた表情で語る。
「!!」
その瞬間、セイルは思想は一部同調してしまった。
愛する者と何としてでも再会したい。その心情は彼の中にもあり、死の一歩手前から回復して見せた要の意志力も、それによるところ大だった。
単純極まりない事ではあったが、この一言でセイルはキーンに近親感を抱き、彼も何ら代わらない人間であると実感してしまった。
二人に大きな違いがあるとすれば、その対象が生きているという事であろう。
「死が代償である以上、チャンスは一度・・・ですからあの方は妥協も許されず、全力で闘い続けなければなりません。古代の技術にまですがるのも、全ては強大な己を凌駕する相手を求めるために・・・」
「もういいです・・・・事情は・・・わかりました」
自分にも愛して病まない人物がいるため、それを失う痛みが分かる気がした。無論、心の痛みが共有出来るなどというのは詭弁であり、実際には当事者にしか判りようのない痛みである。
それでも漠然とした想像はできた。
おそらくキーンにとって、この世界は会いたい者に会えない地獄でしかないのだろうとセイルは感じ、その境遇に対して少なからず同情に近い感情を抱くのだった。
その後、セイルは更に経緯を聞き、諸国では謎とされていたキーンの魔王以前の諸事情を知り、全ては不運な偶然による産物である事を知る。
彼は復讐の為に強さを求め、闘いの場で生き、その手段を得ていった。
しかし彼の目標は当初、実体のはっきりしない存在だった。それ故に、彼は『敵』を強大に想像し、それを越える力を得るべく闘い続けた。
時を経て、力を得た彼は人生を賭けた目的を達成する。これにより一つの生き甲斐を失う形となったものの、時同じくして彼は愛する者・・・愛する事ができるかもしれない存在を得る。
だがそれは、明確な形となる前に死という永遠の壁にによって遮られる。
当人に自覚はなかったかも知れない。だが、目標達成に生じた虚脱感を埋められるだろう存在の消失は、彼に生きる希望を奪い去った。
もともと困難な目標を抱いていた彼は、新たな目標を見出せないまま心は闇に包まれ、その先に望んだのは、恋心・・・であろう感情を抱いた存在との再会だった。
事の真相を知ったセイルは、もう少し・・・もう少しだけ彼に心の余裕と寛大さがあれば、事態はここまで大きくはならなかったに違いないと考え、運命の非情なまでの公平さを苦々しく思った。
だが自分でも、愛する者を失えば冷静さを保っているかの自信もなく、キーンの行為を批判する事はできなかった。
セイルは悩んだが、人としてのキーンを知ってしまい、共感を抱いてしまい、何より命を救ってくれた恩義が大きかった。
自分は今後絶対に、彼を敵として見ることは出来ないだろう事を予感するのだった。