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2011/08/07(日)に投稿された記事
第2章-獣魔の街編- 第3話 合流
投稿日時:20:22:06|コメント:0件|》本文を開閉
ディレクトリ:くすぐりの塔AF -魔王の後継者達-
ちなみに俺様は最近何だか忙しくて、あまり家に帰って色々やる時間が取れなかったけど、最近時間が作れ始めたというわけだ!
そんなわけで、公開が遅れててすんませんキャンサーさん・・・
一晩を過ごすには十分な量の枯れ木を回収して一ヶ所に集め、八匹の魚を捕獲し終えていた彼女は、それ以上の作業を行おうとはせず、できた時間をのんびりと川を眺めたり、川辺での水遊びといった行為に費やしていた。
一見して無防備な行為とも思えたが、彼女は自分以上の探知能力を持つミファールの感覚に警戒を一任していた。
それはミファールの主機能ではなかったが、相手が気配を消すなどしなければ、たいていの生物の接近は関知するため、それに頼って自身は過度の警戒を必要と思わなかったのである。
そんな彼女にも、他の二人同様、望まぬ敵対者との接触という運命が訪れる。
「!?」
魔鎧ミファールは、警戒モードとして機能していた表層の感覚器官が察知したそれを、不意に装着者であるカレンに伝えた。それは装着者でなければ表現しにくい感覚であったが、単純に言って、自身の五感・・・特に触覚のブースター的役割を果たしており、何かが近づいている事実を気配に近い感覚で伝えていた。
その気配が急速に、しかも的確に迫っている事を悟り、向こうも自分を見つけた上での接近と判断したカレンは川からあがり、魔法の発動体となる宝玉を柄に埋め込んでいる短剣を抜いて臨戦態勢をとった。
単独時での敵との遭遇という事態に、緊張感を感じたのか、少し落ち着きのなさを自覚した彼女は、それを解消する手段として呪文詠唱を行った。
正体不明の存在に対する備えを少しでも行って、否応なしに生じる不安感を緩和したかったのである。
どんな『モノ』が出てくるか皆目見当のつかない状況では、どの様な魔法を準備すべきかが問われるところでもあったが、とにかく何かをしておきたかった彼女は無難と思える魔法を選択し、その詠唱を済ませて発動タイミングを凍結させた。
カレンは明確になっていく気配の方向に向かって身構えた。その察知力に狂いが生じていなかったり、相手側の陽動でなければ、それは彼女の位置から見て、川の対岸の森から姿を現すはずだった。
(間違いなく気づいている)
まっしぐらに近づくその動きに、偶発的な接近ではないと確信するカレン。
その目的までは判らない。が、この森で遭遇した存在が友好的であった事は只の一度もなく、敵前提として対処することこそが生き延びる為の最善策となっていた。
(話で解決できる相手だといいけど・・・・)
常々言っている、原住民に対してはフレンドリーに・・・という持論を自ら破る事にかけては最多を誇る彼女は、自覚しているが故に、まずは友好的に行こうと自分に言い聞かせていた。だが、視界に現れたそれを見て、そうした些細な思考は一気に消し飛んでしまった。
『それ』は、森の木々の上部を掻き分ける様にして飛び出し、川の直上数メートルの地点で滞空した。
陸上生物だとばかり思っていたカレンは、方向こそ正しかったものの、僅かに生じた誤差を修正してその物体を肉眼で捉えた。
羽のように左右に広がった身体の両端を、水生生物の様に波立たせるように震わせ浮遊する平たい謎の生物の上に立つ、妙齢の女性を・・・・・
「「何?貴女?」」
カレンと謎の女性は同時に問いかけていた。見上げるカレンも、見下げる女性も、自分にとっては予想外だった存在に少し呆けた表情をしていた。
「「それはこっちの台詞よ」」
またも二人は言葉を重ならせた。
「・・・・・」
思惑は異なれど、現状における思いは同じであるようで、二人は次なる発言を考えるべく、しばし沈黙した。そうした中で先に口を開いたのは、謎の女性の方だった。
「悪趣味な鎧のお嬢ちゃん、あなた何者?」
状況はどうあれ、この森では確率的には極めてゼロに近いはずの現地民(人間)に、ようやくにして遭遇できた喜びの思いは、女の放ったこの一言で瞬時に消滅したと言って良かった。
「あら、奇遇ね。私も似た事を聞きたかったの、不気味な物体と共に浮遊しているお・ば・さ・ま!」
「「・・・・・・・・!!」」
かなり無理のある愛想笑いを浮かべる双方の周囲で空気が固まった。その言い様のない気配に、森に住む鳥や虫は囀るのを止めてじっと身を潜める。
生命に満ち溢れていたはずの森の一角で、生き物達の自然の声が一気に消失し、川の流れる音のみが辺りに漂う形となった。
「ふふふふふ・・・・」
「ほほほほほ・・・・」
偶然に出会った二人は、いきなり互いを敵と認識した。
「どこの誰かは知らないけど、私と私の愛しいフライ・マンタ『スカルス』を馬鹿にして無事な者はいないのよ」
笑みは浮かべたまま、殺気を充実させながらその女は言った。
「辺境に住む人の美的感覚は理解できないんだけど、私の知る世間では、その浮遊生物は十分に『不気味』と類されるのよね。そして、それを使役する人間も、高い確率で悪趣味な人間とされているのよ」
違和感満載のカレンの発言は、第三者が聞けば前半部に関してのみ大多数の支持を得ることが出来たであろう。だが後半に関しては、いささか偏見と言わざるとえない。単にセンスが悪いだけの善人もいるのは周知の事実であり、スケルトン等を慈善事業に用いてる人物も実在する。
全ては彼女の主観による発言でしかないのだが、ミファールを着用している彼女がそう発言すると、聞いた者は今ひとつ納得しかねる事も、よく起きる現象であった。
「ろくでもない人間?お嬢ちゃんに言われると心外ね。それにっ!」
スカルスと呼ばれた浮遊生物が突如動きだし、獲物に向かって迫る猛禽のように急降下して、まっしぐらにカレン目指して突っ込んでいく。
「!」
それは人間一人を乗せているとは思えないほどの速さであり、水面の魚を狙って突っ込む鳥の勢いにも劣らなかった。
カレンが横っ飛びしてその場を離脱した瞬間、そこをスカルスが通過し、先端が二股になっている尾を繰り出して地面を抉った。
殺る気十分で、手加減の微塵さも感じられない一撃に、カレンも本気で相手をする事を決意して、保留していた魔法を解放した。
「風よ!吹き荒れろ!!」
彼女の叫びに呼応し、たちまち川から蛇の様にうねる水柱が発生し、その長さを増していった。当初彼女は、正体不明の存在の迎撃魔法に、突風を生じさせる類の呪文を詠唱していた。風の力で相手の動きを抑え、次の攻撃の牽制にするのが当初の目論見であったが、彼女は少し運用の手法を変えて、それを川の中で発動させ、広域に生じるはずであった風の範囲に若干のアレンジを加えた。
竜巻のように局所に発生した風に巻き上げられた大量の水は、カレンのコントロールする風の動きに付き従って、頭上で旋回する浮遊生物を追った。
「たたき落としてやる!」
高速故に反転に間が生じていた女は、背後に迫る水の触手に気づくのが遅れた。方向転換が完了してその視界にカレンを認めた時、それは間近にまで迫っていた。
「スカルス!」
その声に反応した浮遊生物は、どんな動きにあっても主が絶対に振り落とされない前提があるかのように、一見して無茶な機動を行って、迫る水柱の直撃を避けた。その動きは彼女と浮遊生物が一体化しているようにも見え、その動きの鮮やかさにカレンは一瞬眼を見開いた。
「!?・・・・でもっ!」
が、すぐに対象に対する殺意を思い出すと、使役中の魔法を更にコントロールして水柱の軌道を変えて、避けた相手を追撃させた。
見た目は質量のある水のコントロールであるが、実態は風の魔法による操作であったため、その軌道変更は容易であった。
「何ですって!?」
女も、見た目によってその性質を誤解していたため、予期しなかった水の動きに驚き、回避を遅らせてしまう。
重力に逆らい、ぐるりと上旋回した水流の先端が浮遊生物と女を捉えた。巻き上げられた大量の水が風の助力も得て、すぐ脇の滝よりも早い勢いで降り注ぐ。
「落ちろぉ!」
魔法の風をコントロールしている腕を大きき振り下ろし、カレンが叫ぶ。
目標を呑み込んだ水は、そのまままっしぐらに落下して元の川へと戻りはじめる。正直な状況分析でいえば現状はカレンに不利であった。単純に言えば上と下、空と地上の位置関係は、後者には圧倒的に不利なのは当然だった。だからこそカレンは、地上戦に持ち込む意味でも、相手を叩きつける攻撃を加えたのである。
空中を飛行する相手に対し、準備していた風の魔法だけではその効果が低いと察したカレンは、近場にあった水をも利用して最も単純にて抗いにくい質量攻撃に転用したのである。
その着眼点は間違いではなかった。だが、目的を達成するには僅かにその力がカレンには不足していた。
「!」
カレンは水柱が自分の意志とは異なる動きをしたのを見て身構えた。一直線に落下していたはずの水が僅かにくねりを見せたかと思うと、いきなりそれは破裂を起こし、一本の塊だった水は四散して即席の雨となって地に還った。
「驚いたわ!お嬢ちゃん。あなた、相当な魔法使いね」
無論その女にダメージはない。地面に落下していない以上、ただ単に水を浴びただけでしかない。
「こちらこそ・・・・見た目によらず、優秀なペットみたいね」
言葉では余裕を見せるカレンではあったが、今の現象が女と浮遊生物のどちらによる物かも分からず、位置関係の不利を奇襲によって同条件に持ち込む作戦すら失敗し、今後の魔法による奇襲も警戒されてしまったとあっては、状況は一層不利になったとしか言えない。
「お嬢ちゃんのおかげで、また女が上がったわ」
「水も滴る・・・と言いたいの?似合ってないわよおばさま!」
全ては強がりだった。だが、それが相手の怒りに油を注いだ。
「それじゃ、若いお嬢ちゃんは水ではなく、血で染めてあげるわ。美しい朱に染まってきっと綺麗よ!」
憎しみの光が篭もった瞳がカレンを見据え、抱いた殺意を実行に移した。
女の忠実なる下僕のスカルスは、再び彼女めがけて突進を開始する。
「うくっ!」
カレンは再び横っ飛びしてその直撃をかわしたが、さすがに先程のような反撃は行うことは出来ず、警戒していた女による急な方向転換でその隙も伺えなかった。
「相手が馬に乗っている程度だったら良かったのに・・・・」
生き物の上にいると言う点では、馬もアレも運用法にかんして大差はない。だが、平面的動きと立体的動きとでは、その運用性に雲泥の差があり、その動きも尋常ではなく生半可な呪文では命中させる事も難しかった。
「炎よ、敵を討て!」
そう考えながらも反撃しないわけにはいかないカレンは、短唱呪文で基本的な攻撃魔法である炎の矢を数本同時に放って応戦した。
「遅い遅い、そんな魔法で私が捉えられるとでも思って?」
炎の矢の間隙を縫うようにかわして女は笑むと、魔法の発動直後の間隙を狙ってカレンに肉薄した。
「うるさいぃ!」
さすがに今度は横っ飛びする間も無かった。カレンは咄嗟に短剣をかざして浮遊生物のヒレによる体当たり攻撃を受けた。
「はぅっっ!」
その質量とスピードに適わなかったカレンは、大きく弾かれて地面に転がった。
「あら、ごめん・・・喉を一気に裂いてあげようと思ったんだけど、失敗しちゃったわね」 せせら笑う女に悪びれた様子など微塵もない。むしろ格下の相手を嬲る事を悦んでいる傾向が見えた。
「風よっ!」
炎が駄目ならと、今度は風を巻き起こす呪文を詠唱するカレン。先だっての魔法と同種の物であり、瞬間的な突風を広範囲に巻き起こさせた。これが本来の姿であり、鳥型の飛行モンスターに用いられる魔法であった。
これで、あれを撃退できるとはカレンも思っていない。だが、バランスを崩して魔法詠唱の時間が稼げればという思惑があった。
しかし浮遊生物はそんな風の荒波の中を、平然と飛行し、何一つ動きを乱すことなく再び彼女めがけて迫った。
「そう、何度も何度も!」
あの浮遊生物に乗って・・・・という用法上、その攻撃手法はごく限られている。そうした一撃離脱戦法に一存している女の闘い方を見抜いたカレンは、左肩の肩パーツを相手に向けて防御の態勢を見せつけつつ、瞬時に詠唱できる炎の矢を準備した。女曰く、遅いと評された攻撃ではあったが、それは迎撃を目的にした際のものであり、攻撃の為に最接近した瞬間に放てばそうした欠点は補える。
相手の攻撃をあえて受け、カウンターを女めがけて放つ。例えそれが致命傷にならなくとも、落下には至るであろう。そうなれば彼女にも十分に勝機はあるはずだった。
ガシィッ!
カレンの左肩装甲に浮遊生物のヒレが接触し、重々しい衝撃が襲いかかる。
「喰らえ!」
その衝撃を合図に右手から炎の矢を放つ。タイミングは申し分ない。それだけで半ば勝利を信じた彼女だったが、目標であった女は、身の柔らかさを誇示するかのように、しなやかに身を反り返らせて超近距離からの魔法攻撃をかわしていた。
「!?」
「残念」
一瞬の間に、驚愕したカレンと余裕の笑みの女が交差した。
カレンはすぐさま次の手段を思案したが、この瞬間においては女の方にはもう一手、攻撃のステップが残っていた。交差の瞬間に攻撃という発想は同じでありながら、その行使にタイミングに若干の差があったのである。
女は仰け反らせた身を起こしながら、腰に束ねて吊していた鞭を手に取ると、すかさずそれを振るった。
「あぐっ!?」
すれ違いざまの僅かな一瞬の隙に鞭の先端が首に巻きつき、カレンは息を詰まらせる。咄嗟に鞭と首の間に両手の指をねじ込んで、一気に窒息する事態は避けられたものの、次の瞬間には彼女の足は地面から離れていた。浮遊生物の力が彼女の体重をも持ち上げたのである。
「さぁ、お死になさい」
女が力一杯鞭を振るい、そのタイミングに合わせて浮遊生物が急停止した。
「なっ!」
これによってカレンの身体は鞭に振られて前面へと放り投げられ、滝のすぐ横の岸壁に叩きつけられた。
「っっっっっっ・・・・・・!!」
打ちつけられた背中全体に激痛が走り、声にならない悲鳴をあげるカレン。咄嗟にミファールが背面に対して展開していたが、物理的衝撃を全て緩和する事は出来なかった。
痛みにカレンが藻掻いていると、ヒュッと、小さな摩擦音が生じ、彼女の首に巻きついた鞭がほどけた。
「ま・・・だ、私は・・・・!!」
勝負が決したと思われての手心と思ったカレンが、生きている・・・と、意思表示しようと顔を上げた時だった、その眼前に浮遊生物が迫っていた。
もはや今の彼女に回避は不可能だった。自身が傷つく事など考えもしない、あるいはこの程度ではダメージにはならない自信があっての事か、今までと変わらぬ勢いで急進した浮遊生物がまともにカレンの腹部を捉えて、そのままの勢いで岸壁へと衝突した。
「・・・・・!!!!!!!」
浮遊生物の突撃と岩肌によるサンドイッチはカレンに痛烈なダメージとなった。
「わぉ、痛そうね」
同情の様相を微塵も感じさせない一言にも、すぐに言葉を返す気力がカレンにはなかった。
下僕のスカルスがゆっくりとカレンから離れると、追い打ちとばかりに二股の尾を振るって、岩肌にめり込んだ状態の彼女に追い打ちをかけて、地面に叩きつける。
「肋骨の何本かが肺を突き破ったかしら?」
「あ、生憎、・・・・・その御意向にはそってないわ・・・・」
腹部を押さえながらもよろよろと立ち上がるカレン。
「・・・・!しぶといわね」
女にとっても、その姿はある意味賞賛に値したが、そうした驚きと感心の心情は一時的な物で、すぐに本来のサディスティックな本性を取り戻すと、まだ獲物をいたぶれるチャンスがある事を知って、残忍な笑みを浮かべた。
「もう少し楽しめそうで嬉しいわ」
そう言い放って女はこの時始めて浮遊生物から飛び降り、大地に降り立った。
それは当初カレンが望んだ状況だった。だが今の彼女に十分な戦闘力は残っていない。
「ただで・・・・楽しむ事なんて出来ないわよ」
痛みを堪えて魔法詠唱に入ろうとするカレン。だがそんな彼女の手から力が失せ、視界もぼやけて定まらなくなった。
「な・・なに・・・?」
訳も分からぬまま脱力して倒れるカレン。
「あぁ、そうそう、言い忘れてたわ。私の可愛いスカルスだけど、尻尾に毒を持っててね、それを受けた生物は身体が麻痺するか、悪くすればショック死しちゃうのよ」
「あ、あらそう・・・気を付けるわ・・・」
彼女なりの意地だろう。カレンは震える手足を必至に動かし、よろよろと立ち上がると、かなりの無理をして笑みを浮かべた。
「・・・・呆れたしぶとさね。単独でここにいるのは伊達では無さそうだけど、その行為は馬鹿そのものよ・・・」
言って鞭を振るう女。視界が失われつつあったカレンにその軌道を読むことなど出来ようはずがなく、ろくに動かす事も適わない身体は、まともに横合いから来た鞭の一撃を受けてしまう。
「あぅっ!」
容赦ない一撃に、悲鳴を上げて吹っ飛んだカレンは、そのまま滝壺に落下した。
女が川縁に近づき滝壺を覗き込むが、小さいとはいえ間断無い水の落下によって生じる気泡と水面の乱れは沈んだ彼女の姿を覆い隠していた。
「・・・・・・・・・・」
女はしばらく鞭を構えたまま水面を眺めていた。
そうすること十数分。一向に変化のない水面に飽きた女は、手にした鞭を巻いて腰に戻すと、軽く口笛を吹いて上空で待機していたスカルスを呼び寄せた。
「麻痺した身体じゃ滝壺の流れからも脱出できなかった様ね・・・・」
よほど特殊な人間でない限り、限界であるはずの時間を待っても姿を現さない相手に、そう判断をした女は再び下僕の背に乗るとゆっくりと上昇し始める。
「何者かは興味はあったけど・・・・」
最後に再び滝壺に視線をやって以前変化がないのを確認すると、女は飛び去っていった。
「あの女かと思えば、とんだ道草だったわね。ザイアかボヴァに先を越されたわねきっと・・・」
僅かに興味を抱きはしたものの、既に亡き者となった以上、彼女の思考は本来の目的へと移行していた。
・・・・・・・・・・・・・
二人の女性のささやかな感情の不一致から生じた対立が終息し、森は再び平穏を取り戻した。
先程までの緊張感を既に忘れたのか、鳥や虫は各々に声を鳴らし、生命の営みを誰とはなしに示していた。
そうして静けさを取り戻して更に幾らかの時間が過ぎた時、突如として滝壺からカレンがその姿を現した。
「・・・・・」
その姿は酸欠に苦しんだ様子もなく、滝壺の深みから浅い下流へとゆっくりと歩み、水位が腰の辺りに至った所でその動きを止めた。
俯いて水面を眺めたままの彼女の口と鼻には、ミファールの一部が変形して形成したマスク状の物体が装着されていた。これが水中に在った彼女に空気を提供し、溺死という悲惨な死から救っていたのである。
こうして死の直接的要因を回避させたミファールは、そうした生命維持活動と同時に主の体内に残る毒素の中和とダメージの修復を開始した。
だが、回復能力に秀でていた訳ではなかったため、動けるようになるまでに今までかかったと言う訳であるが、これは彼女にとっては幸運だったかも知れない。
主の呼吸器系が水面から脱したのを察知して、ミファールのマスクが鎧の装甲へと戻ると、カレンは黙ったまま周囲の空気を思いっきり吸い込み、そして吐いた。
(負けた・・・)
未知の相手だったとはいえ、迂闊な判断によるところが大きいと自分でも思った。悔しさが身体の中を駆けめぐり、その怒気は自然に彼女の両手に魔力を集中させる。発動体が手元になく、魔法発動の意志もなかったため、ミファールも助力しなかったが、カレンは溢れた魔力を炎に変え、両掌の上で燃えさかる炎を水中に叩きつけた。
「あの女!次は・・・必ずっ!!」
魔法の炎は水面に接した瞬間、周囲の水の温度を僅かに上げた代償に、膨大な水量によって掻き消された。
温かかった水もすぐに押し流されてもとの水温になり、そうした水の冷たさは徐々に彼女に冷静さを取り戻させた。
「・・・・・あれには対策が必要ね・・・」
既に先程のダメージもほぼ回復し、これ以上水に浸かっている意義を見いだせなかったカレンが川岸に視線を向けたその時、滝壺に何かが落下し、派手な水しぶきを上げた。
「!?」
タールにとって不幸だった事は、自慢の巨体とその身体に合わせた装備が、水中ではマイナス要因でしかなかった事であった。
そして幸運だったのが、彼の落ちた川が想像以上に急流であった事。そしてその川が彼等のベースキャンプの上流に位置していた事である。
激しい川の流れは泳ぐには不向きであり、抵抗の大きい彼の身体を押し流し、下流の滝へと運んでいった。
偶然的にも自然の助力を得たタールは、戦場離脱を果たした上に、仲間たちとの合流ポイントに苦もなく辿り着く事となる。
・・・・いや、流される間、溺れた状態になっている以上、厳密には苦が無いわけではなかったが、ともあれ、彼は辛うじてながら帰還を果たす。
滝壺への落下という形で・・・・
(ぉぉぉぉおおおおおっっ!!!)
半ば意識を失いかけていたタールは、滝への落下と言う感覚で意識を覚醒させたが、次の瞬間、身体が更に深みに沈んだことに軽いパニックを起こした。
不慣れな手足をばたつかせ、水面への上昇を望んだものの、つたない水中での動きは彼の求める動きが望めず、その身体の位置は変化を見せなかった。
人間の生存には適していない空間での望まない滞在と、自分の得意な技能が全く役に立たない無力感、そして息苦しさが彼のパニックに拍車をかけ、更なる無駄な運動を呼び込んだ挙げ句、報われない結果が彼に死の恐怖を与えた。
(・・・・・・!)
最も苦しいとされる溺死が自分の死に方か・・・と、不吉な考えがよぎったその時、彼の足が望む方向とは逆の川底に触れた。
(!!)
この時タールは地獄の中で蜘蛛の糸を見た心情となった。生に対する本能が脱出を求めて身体を突き動かし、彼の足は川底を蹴った。
この反動によって彼の身体は水面を目指し、滝壺の水流からの脱出をも果たした。水中で身体が軽くはなっているものの、この一蹴で水面までの脱出ができはしなかったが、事態は着実に好転へと向かっていた。
彼の身体は滝壺から下流へと至る深みの斜面に辿り着き、そこで彼は四肢を使って更に水面めがけて跳ねた。
これによって彼は完全に滝壺から脱し、背の立つ水深の川にまで辿り着いていたが、いまだパニックになっていたため、その事実に気づいていなかった。
「タール!?」
不意に上流から落下してきた物体を確認しようとそれに近づいたカレンは、水中で藻掻く物体のシルエットに見覚えがあり、呆けた声を上げる。
「ちょっ・・・どうしたのよ?」
どの様にして川に落ちたのか、その経緯など知りようもないカレンはこの事態に戸惑った。だが、水中に見えるシルエットが一向に水面上に現れず、闇雲な動きをしている事で、事態の深刻さを若干理解し、慌てて水を掻き分けて彼に近づく。
そうした仲間の接近さえ知り得ないタールは、兎にも角にも『生』目指して、普段気にもとめていない『空気』を求めて四肢を振り乱した。
そうした最中、彼の手が水面を突破し、何かに接触した。
「!?」
タールがそれを何かと察するよりも先に、彼の『溺れる者は藁をも掴む』心情がそれを掴んだ。
それはあくまで偶然であり、緊急避難的行動であり、故意的思考の働いた余地など微塵もなかった。しかしそれでも結果は、タールの不幸に直結する。
彼の純粋な生への衝動による行為が掴んだモノ。それは近づいたカレンのアンダーウェアであった。
「た、タール!?」
カレンのガードよりも早く、その腕に力が込められた。
ビリッ!
ミファールのパーツでもない、単なる布地でしかないアンダーウェアが、水面に浮上しようと欲するタールの力に耐えられるはずもなく、それはあえなく限界に達して破れてしまう。
この時始めてタールは自分が何かを掴んだ事と、身体が浅瀬に来ている事を知り大慌てでその身を水面上に持ち上げた。
「ぷはっ・・・ぁ?」
「!!!!!」
全ては一瞬の出来事であった。
『藁』を掴んでしまった腕が水面に沈むとほぼ同時に、タールの顔が浮上し、その眼前にアンダーウェアを引きちぎられたカレンの姿があるのに気がついた。
カレンも反射的に露出した胸を両腕で隠したが、タールの煩悩動体視力は、その神速とも思えるガードの動きを見極め、コンマゼロ秒のお宝シーンを網膜に焼き付ける。
「か、カレン?」
立ち上がったタールは浅瀬で藻掻いていた無様さより、目の当たりにした光景に戸惑い、リアクションに困った挙げ句、自分の手が彼女のアンダーウェアの一部を握りしめているのに気づいて、ようやくにして事態を把握した。
「!!??ぉ・・・・・あ、あい・・・そ、その・・な・・・」
言うべき言葉が見つからず、タールは青ざめる。
「・・・・」
カレンは両腕で胸を隠したまま、真っ赤になって俯いていたが、やがてゾッとするような冷たい視線をタールに向ける。
「お、おい・・・カ・・・・レン」
「・・・・魔拳擬装!!!!!!!!」
カレンはタールの声に耳を貸さないまま大声で叫ぶ。それに呼応して彼女の鎧の両腰のポーチ状パーツから肉片状の物体が飛び出し、彼女の周囲を数回旋回すると、両肩に付着する。
「よ、よせぇぇぇぇ!!!!」
タールが悲鳴を上げたが、カレンの行動は止まらない。彼女の肩に付着した肉片はたちまち同化・肥大を行い、彼女の腕の外側にもう一対の巨大な腕を形成した。
「ま、まて・・・ふ、不可抗・・力・・・・」
「死ねぇぇぇぇぇ!!」
「ぎゃぁぁぁぁぁ!!」
必死に両手を振って後ずさり、川縁に躓いて倒れるタールに容赦ない鉄槌が下された。
彼女の新たな腕は、タールの身体よりも大きい拳となって彼に襲いかかった。
しかもそれは一発ではない。まるで二人がかりの餅つきのように、左右交互の容赦ない打撃が繰り出された。
正確な視点から状況を把握すれば、タールの行為は仕方ないと納得いくものだったであろう。だがしかし、人はそうした正論より感情の方を優先させてしまう生き物でもある。
この時のカレンも、感情的になりすぎていた。しかしだからこそ、タールは死に至らなかったとも言えた。
事故とはいえ、辱められた事で逆上したカレンは我を忘れていた。我を忘れるほどに逆上したからこそ、ミファールの身体同化式武装の使用に不可欠な意志の同調にズレが生じ、100%の威力を発揮できなかったのだ。意志の空回りと言うわけである。
それでも、与えられたダメージは深刻な物であり、タールは地面に身体が埋まるまで、巨大な拳によるラッシュを受ける羽目となった。
「戻ったよ・・・」
その惨劇からしばらくして、ウェイブが無事に帰還した。一人黙々と焚き火に薪を投げ込み、暖をとり、魚を焼いているカレンを見つけた彼は、声をかけようとして妙な雰囲気に気づいて声をかけるのを躊躇った。
何処が?と、問われれば明確に即答できない類の違和感だったが、何か違うと言う思いがウェイブの中で広がり、気づいておかしくない距離にまで来ている自分に、依然として語りかけても来ないカレンの無愛想さから、彼女が本物なのだろうかと言う疑問が湧き起こった。
それは今し方、モンスターマスターを称する異質な存在との闘いがあったが故の過剰な想像であった。しかし、遭遇戦が自分だけだったという保証が存在するはずもなく、別行動の仲間にもそうした事態が生じていてもおかしくはないと判断した彼は、自然と掌に気を集めて目の前の存在の一挙一動を警戒した。
「?」
その気の変化にカレンが反応して顔を上げ、帰っていた仲間の存在にこの時始めて気づく。
「あらウェイブ、戻ってたの?何か収穫はあった?」
「え?ん・・・いや、何も・・・」
緊張していた所にいきなりいつものカレンが出迎え、ウェイブは呆気にとられ、手にしていた気を散らせてしまった。
罠?という可能性が彼の脳裏をよぎったが、さりげなく確認した彼女の鎧ミファールが本物であった事から、そこにいる人物が正真正銘のカレンであると納得し、焚き火の前に座り込んだ。
ミファールは半分とはいえ契約に従って活動する悪魔の一種である。主であるカレン以外が装備する事は、幻術や変身能力を持つモンスターであっても適わない。いわば彼女に対してのみ有効な確認手段ともいえた。
「そう・・・空飛ぶ年増は見かけなかった?」
「な、なに?」
少し虚ろな目で問いかけてきたカレンのその内容に、ウェイブは耳を疑って問い返した。
「空飛ぶ・・・何だって?」
「おばさんよ。変なモンスターに立って飛び回る・・・・」
現実的に信じにくい予想図がウェイブの脳内で構築された。珍しい物との接触が多い冒険者であっても信じてもらえるか疑わしい内容であったが、彼女ほどではないにしても、彼もある点で共通点を持つ存在と遭遇している。
「・・・・ひょっとしてモンスターマスターとか言う奴か?」
「さぁ、お互い肩書きも名前も名乗らなかったから・・・・」
炎を見つめながら淡々と話すカレン。
「見かけたの?」
「別の連中をな・・・・って、それじゃひょっとしてタールもそいつ等と・・・あいつまだ戻って・・・」
ウェイブは突如生じた危機感に思わず立ち上がったが、カレンは依然として動きを見せず、立ち上がった彼を見上げて視線を合わせると、意味ありげな表情でその視線を川縁へ向けた。
「?」
それにつられてウェイブも視線を移動させると、そこに話題の対象となっていたタールの存在があった。
「タール!!」
仲間三人の中において、最も存在感のある人物が、すぐ傍らにいながら気づかなかった事とその状況に、ウェイブは大いに驚いた。
「お前、何、血みどろになって倒れてるんだよ」
タールは両脚を川に浸し、川縁に大の字になって地面にめり込んでいた。それ故に、カレンに意識が集中していたウェイブは、それを見逃してしまったのである。
そうしたミスより何より、彼が関心を持ったのは、タールの肉体がこうした状態に陥った原因であり、こうした事態が間近に起きていながらカレンが何ら対処していない事だった。
「おい、一体何があった、生きてるんだろ?」
ウェイブは埋まったタールの首に手をさしのべ、生存確認をすると同時に持ち上げ、彼の頭を引き起こすと、一番手っ取り早い情報源の覚醒を試みた。
案の定、タールの命に別状はなく、数回軽く頬を叩く程度で彼は目を開けた。
「ぉ・・・おぉ、ウェイブか・・・」
タールは視界に広がる仲間の名を懐かしそうに呟いた。
「呆けるな、一体何が起きた。落石の直撃でも受けたか?なんだか、カレンも様子がおかしいし・・・」
「・・カレン・・・カレンの・・・・」
小声で呟くタール。その声がどうしても聞き取れなかったウェイブは、更に耳を彼に近づけ、いわんとしている事を聞こうと試みる。
「何?何だって?」
「カ・・・・カレンの乳は美しかった」
「・・・・・は?」
ウェイブには、その発言の意味が理解できなかった。一瞬、ダイニングメッセージの類かとも思ったものの、その思考は後方上空から放たれた強烈な殺気によって中断を余儀なくされた。
「「!!??」」
その尋常じゃない程の殺気に、タールとウェイブが揃って、その源である方向を見上げる。
そこに鬼の形相をしたカレンがいた。
「記憶よ消えろぉぉぉぉ!!!!!!」
魔拳擬装を右肩に集中させる事により、倍の大きさとなった拳が有無を言わさず、そして容赦なく二人を直撃した。
その一撃は痛烈な物であり、タールはもとよりウェイブまでが諸共に地面へと沈み込んでしまっていた。
「・・・・なんで・・・俺まで・・・」
理不尽だと感じつつも、この一撃でウェイブは事態を大まかに悟るのだった。
結局、事態が沈静化して全員の情報が共有されるまでに数時間が経過し、空は陽が月に交替して闇の支配する世界となっていた。
この間、もう少し努力する意志があれば、事態収拾は半分以上の時間で済ませることが可能なはずだった。だが、荒れ狂う魔女を落ち着かせようとウェイブが苦戦し、ようやく落ち着きを見せ始めると、きまってタールが、
「胸を見られたくらいで気にするな」
「一瞬しか見えなかった」
「こうした旅なら、こうした事はお約束だ」
「むしろ自慢しろ」
などと言った、無神経な発言を口にし、眠りに入りかけていた獣をたたき起こしてしまって振り出しに戻ってしまい、ここまでの時間がかかってしまったのである。
実は意外にもカレンは貞操観念が強く、男性経験もまだであればこれまでにタール達にまともに裸体を晒した事すらなかった。
それでいて非人間(ミファール)との経験は豊富で、その際の声や行為直後の粘液まみれの艶姿などを惜しげもなく彼等に披露しているのが、彼女のアンバランスな点と言えた。
それ故の過剰反応とも思えなくもないが、こうしたトラブルは実のところ始めてではない。
過去に遡れば、知り合って間もない頃、互いの気性を知り得ていない頃には、覗き行為・セクハラ行為・痴漢行為と言った仲間内での悪戯が、激しい内戦に発展した事が何度かあった。
これによって一同の経験値も上がった訳だが、得る物がない不毛な闘いに、いつしか、生じれば激戦必至となる行為の自粛が自然として成り立ったと言う訳である。
こうして各員が別行動時に体験した事態を報告し終えると、各員は共通点であるモンスターマスターに対して話題を集中させた。
「・・・畜生!!あの棘鎧の野郎!今度会ったら、俺が川に叩き落としてやる!」
中でも露骨に敵意を現しているのがタールであった。
タールが今回最後に彼が受けた災難の原因が、曰く棘鎧の野郎であるのは間違いなく、彼は早々にモンスターマスター・ザイアへの復讐を誓っていた。
「モンスターマスターって奴等・・・この辺の部族みたいなモノなのかな?」
痛む顎、それ以上に痛む先程のダメージ箇所である胸を押さえてウェイブは呟く。
「それは分からないけど、私達、ばらけたのを狙われた・・・訳ね」
冷静さを取り戻した彼女も、先刻の敗北を思い起こし、苦い思いにとらわれた。
「いや、それは違うだろうね。俺の遭遇した奴は、名無しの女性を捕まえていて、こっちを捜してはいなかったよ」
その点に関しては、偶発的な出来事だと確信していたウェイブが、カレンの意見を否定する。
「俺の方もだ。いきなり仕掛けてきておいて、誰?とか聞いてやがったし・・・」
「そう言えば・・・・あの女も問いかけてたわ・・・」
「少なくても、こちらが狙いじゃなかったって事だよ。俺が保護しそこねた女の人が目的だったのか、手がかりだったのか・・・・ともかくも、俺達は向こうには予定外の存在だった」
「目的不明じゃ、対応しずらいわね・・・・」
「俺達が狙いでないなら、無視してもいいんだろうけど・・」
「いいや!出会ったらぶちのめす!出会わなかったら探し出す!」
獣除けにも役に立ちそうなほど殺気をみなぎらせるタールを横目にウェイブが溜め息を吐く。自分は相手を倒したものの、できるならあのような手練れを策も無しに何度も相手にしたくないと考えていたのである。
「闇雲に立ち向かっても返り討ちに遭うのがオチだ。少しは対策考えなよ」
少しは自重する事を考えろと諭すウェイブであったが、滾ったタールの怒りは治まる気配がなかった。
「馬鹿にするな、俺だってあのイノシシ野郎の闘いの欠点は見抜いてんだ!」
先だっての闘いによって、鎧の胸部が一部破損していたため、その部分を手足のパーツの流用で応急処置していたタールは、はめ込もうとしていたパーツを握りしめて使用不能とさせてしまう。
止めようがない。そう察したウェイブは、無駄な労力の行使をやめ、溢れる一人の戦意を有効利用する方向に転じた。
「そう・・・・カレンは?」
「幾つかは対抗策考えてるけど、まだまとまってないわ」
「明日にはまとまりそうかい?」
「何故?」
「タールじゃないけど、遭遇した連中・・・・俺達が狙いでなくても、ああも好戦的なら森でまた遭遇するより、準備万端の体勢で片づけておいた方がいいかな・・・って思ってさ・・・」
「ウェイブも十分、好戦的よ・・・・」
その指摘に苦笑するウェイブ。
「でもね、レアなモンスターと連携するなんて連中・・・しかも友好的ではないなら、倒せるうちに倒した方がいいよ」
「賛成だ!」
意気揚々と手を上げるタール。
「カレンの言う空飛ぶ女はともかく、あの棘鎧のチビだけは殺る!」
「いや、タールから見れば人類の過半数が言わなくてもチビだから・・・・それよりも装備はいいのかい?」
「剣を無くしたのは痛いが、アレがまだある」
「アレね・・・・タールらしいと言えばらしいけど・・・・カレンは?」
「準備がいるから明日の昼以降に決行・・・としてくれる?」
全く否定しない上に準備をするとなると、彼女も明確な決着をつけるつもりである事をウェイブは悟った。
「分かった・・・・できればどちらかを生け捕りにして情報を得たいと思うんだけど・・・・・」
「カレンにさせろ!」
「時の運よ・・・」
「こりゃ駄目だな・・・・」
少なくても情報がほしいところだが・・・と思いつつも、それが難題に類する事項だとウェイブは思った。
勝利したが故に冷静でいられた彼は、二人が敵対した相手の実体を、口頭説明のみで実際には正確には把握していない。それぞれがリベンジを狙っているのであれば、経験者に対応させておくべきだろうと考えた彼は、二人のサポートに専念することにした。