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2011/08/07(日)に投稿された記事
第2章-獣魔の街編- 第4話 再戦
投稿日時:20:26:08|コメント:0件|》本文を開閉
ディレクトリ:くすぐりの塔AF -魔王の後継者達-
そーいや、この間久しぶりにパソコン組んだんですが、今って組むの簡単なんすね。
ちなみにi7の2600と、メモリ16G、グラボはGTX550Tiで、10万ぐらいでした。
日の出早々、ウェイブ達一行は再戦というこれまでと違う目的の為の準備に、取りかかった。
辛酸を舐めたタールとカレンが、個々にリベンジを誓って譲らなかった為、いつもの連携行動もできず実質蚊帳の外に追いやられたウェイブは、昨晩に聞いた内容から相手を想像し、独自の対応手段を用意せざるをえず、しかもそれを積極的に用いる事は許されなかった。生半可な介入は、敵より味方の反感を買い、今後、更なる連携の不一致を招くのが目に見えていたからである。
「タール、ほらよ・・・・」
鎧の補修を行っていたタールに、夜通し灯していた焚き火の残り火を利用して焼いた魚を差し出すウェイブ。
「おう・・・って」
それを受け取ろうとしたタールは、差し出された手に魚の串だけでなく小さなカプセル状の物体があるのに気づいた。
「魚を食ったあとにこっちだ」
大きな手に串とカプセルを手渡し、ウェイブが言った。
「おいこれは・・・・」
「魚が先だぞ。胃に何かを入れてから服用するように」
タールの言わんとしている事を理解していたウェイブは、有無を言わせない口調で、彼の言葉を遮った。
「俺はまだ・・・」
「いいから!強敵との対決が分かってるなら、体調は万全にしておくべきだろ。今、無傷とは言わせないからな」
ウェイブが返そうと差し出されたタールの手を強引に押し返す。そのカプセルは回復用の使い捨て服用アイテムで、通常の医薬品(薬草類)と回復魔法を併用して造られた物である。
街であれば殆どのところで取り扱われているアイテムで、冒険者に限らず野外作業に従事する者には重宝されている物ではあったが、若干価格が高い贅沢品でもあり、彼等の所持しているそれは、中でもかなり上質な品で、同サイズの宝石と同等の価値がある。
その価格に見合った回復能力を発揮はするが、その価値故に使用をしぶる傾向も見られ、タールの反応も冒険者としてはごく普通の反応と言えた。
それを承知してウェイブも服用を勧めた。外見からでは判別は難しかったが、彼のダメージは骨にも至っている。並のモンスターであればそれでも良いが、相手はモンスターマスターを称する存在である。実力の程は不鮮明ではあったが、同じモンスターマスターとの闘いを経験しているウェイブは、おおよその実力を想定し、現状では危険と判断して完全回復を勧めたのである。
「それでも断ると言うなら、俺はお前の闘いに介入するぞ」
言ってウェイブは懐からもう一つ同じカプセルを取り出し、自分の口に放り込んで呑み込んだ。
「お前・・・」
「こっちも無傷ではないんだよ。まだ顎と・・・・カレンにやられたダメージが尾を引いてる」
「分かったよ」
怪我などは時間があれば自然に回復する。それに対し高価な宝石に等しい物を使い捨てにするような行為に抵抗感を感じながらも、その時間が無い事を理解し、何より余計な手出しを嫌ったタールは不承不承、魚とカプセルとを同時に口に放り込んだ。
「それで、カレンは?」
呑み込んだカプセルは胃に到達すると早々効力を発揮した。全身の細胞が一気に活性化し、回復していくのを、身体の火照りという感覚で自覚したタールは、これで文句は言わせないといいたげな表情で既に姿のないもう一人の仲間の所在を問うた。
「準備だそうだ・・・」
短くウェイブは答えた。
「準備?どんな?」
その問いかけに首を横に振って答えるウェイブ。
「聞いてない。それにタールには関係ないことだろ?自分の方に専念しな」
「そうだな・・・」
言われてタールは視線を手元に戻した。
「それじゃ俺も・・・・」
タールの肩をポンと叩いて離れるウェイブ。
「おい、何をする?」
「俺なりの準備だよ」
その意味ありげな素振りに、感じるところのあったタールが問うと、Vサインを伴った返事だけが帰ってくる。
「おい、余計な手出しは・・・・・」
「しないしない」
手を振って離れるウェイブの背を、タールは疑いの眼差しで、しばし眺めていた。
独自の準備のため、川から離れて森の中にいたカレンは、一人考えを巡らしていた。
敗北の遺恨も手伝って、自分の力だけで倒すと望んではいたが、相手の特性を考えれば考えるほど、これが容易でないことを自覚せざるをえなかった。
勝つには仲間との連携が望ましいことは承知している。だが、それにも増して相手に対する憎悪が上回ったカレンは、その選択をあえて棄てて、自分の能力のみでの対処法を思案し、行き着くべき結論に達した。
「結局・・・いつものやり方しかないのよね」
意外に自分の闘いの幅が狭いことを自覚してカレンが自笑する。
「お願いね・・・・」
カレンはそっと鎧を撫でて靴を脱ぎ捨てると、ミファールが脈動し、方々に『触手』を展開して周囲の樹を利用した巨大な蜘蛛の巣のような物を構築する。
彼女の結論。それは最も得意とする魔法の全力攻撃とミファールの能力に依存する闘いに他ならなかった。
しかしその要となるミファールのパワーが、連日に及ぶ樹海の先住動物やモンスターとの闘い、そして先日の戦闘によってダメージを受けた主の回復作業により、かなり消耗していた。
あと数日、闘いが続こうとも、それが従来の樹海モンスターであれば活動に深刻な影響は生じない。だが、全力でという前提であるなら、ミファールがフルパワーであるにこしたことはないと考えた彼女は、ウェイブ曰く万全の体勢で挑むために、ミファールに食事を与える事にしたのである。
構築された異質なる蜘蛛の巣は、その中央にカレンを捕らえてその身を地面から浮かせると、残った鎧のパーツが一気に膨張し、球形となって彼女を覆い隠した。
蜘蛛の巣に貼り付いた大きな繭の中にて、カレンのお愉しみ・・・もとい、ミファールの食事が始まった。
鎧であったミファールは全て巣と繭に変貌し、その中でカレンは、アンダーウェアのみの姿でXの字状態となって捕らわれていた。
既に繭の中はミファールの分泌し始めた臭気と粘液で噎せ返るような状態となり、その効用により彼女の性感は急速に高まったが、ミファールはすぐには行動に入らず、それに焦れたカレンは、少し自分で愉しもうかと身体を動かすが、四肢に絡みつく疑似蜘蛛の巣がそうした欲求を阻止する。
自分の求めが適わない事に、もどかしさを感じたカレンがもじもじと身体を捩らせ始めると、それに反応したかのように疑似蜘蛛の巣のあちこちから細い触手が何本も分離するように姿を現した。
それは髪の毛よりも僅かに太い程度であったが、独自の意志を持つかのように明確に目標に向かってうねりながら彼女に迫った。
四方八方から迫る極細触手は躊躇い無く彼女のアンダーウェアの袖口等から中へと潜り込む。
「わっ・・・・ひゃっ」
アンダーウェアの袖口周辺にムズムズとした感覚が走り、カレンがぶるっと身震いする。
極細触手は細いながらも周囲の肉壁同様に粘液を分泌しており、その滑りを利用して徐々にウェアの奥へと進んで行く。
「うひっ・・・くひひゃっっははははははははははは!」
滑りがあるとはいえ、太さが十分とはいえなかった触手は、アンダーウェアと肌の密着力に打ち勝つため、その先端をくねらせる行動をとっており、その動きに堪えきれないくすぐったさを感じたカレンは、思わず吹き出して身悶えた。
イヤイヤと首を振って四肢に力を込めて、微妙なくすぐったさを抑えようとするが、囚われの身体は自由にはならず、X字の体勢を覆す事は適わず、触手の蹂躙を許し続ける事となる。
「あはっ・・・あはは、あは、あはははははははははははっ」
触手の侵攻が進むにつれて大きくなるくすぐったさに、カレンはいいように振り回され、自由のきかない身体をクネクネと捩らせる。
袖口から生じ始めた感覚は徐々に広がりを見せ、皮膚の中に根が広がっていくような感覚を与え続け、アンダーウェア全体に広がるのにさほどの時間は要さなかった。
「ひぁっっははははははははははは!やははははははっはははははははっ!そっそっそこっっひゃっっはああっぁぁはははははは!!」
アンダーウェア内全体で蠢く極細触手にカレンは翻弄され続け、絶え間ない笑いを強要される。
極細触手からの粘液は、その動きによって塗り広げられ、たちまちウェア内全域に広がり、布地を通して表面にまで滲み出し、彼女の身体は衣服の内外で粘液まみれとなっていった。
誰が指を這わせても十分な効果が得られる状態となったところで、ミファールは新たな触手を四本生成させた。
今度のそれは、女性の手首回り程もある太目の触手で、X字状態の四肢の先端を目指して進み、そのそれぞれの指先に達すると、いきなり先端を四方に開いて手首足首を同時に呑み込んだ。
「うきゃっはぁぁぁぁ!!」
触手は内部がヘビのように空洞状となっており、呑み込んだ部位を包み込む。その空洞部内壁も粘液に満たされているだけでなく無数の突起が並び、密着した状態にも関わらず、滑りの効果を得て絶妙な刺激を手と足に与えていた。
特に両足に対しては、弱点の一つである足裏全体を突起になぞられ、カレンはたまらず仰け反って息を詰まらせた。
触手は右に左にと捻りを加えて突起を密着面に擦り続け、新たなくすぐったさを与え始める。
「はぁっっははははっははははははははあっははははぁぁぁっ!!」
耐えきれないくすぐったさにカレンが不自由な足首を振って触手を振り落とそうとするが、密着した触手はその動きに負けることはなく、それどころか徐々に呑み込む範囲を伸ばしていった。
上は手首から肘、下は足首から膝、そして太股へと、ヘビが獲物を呑み込むように徐々に手足が包み込まれて行くにつれ、突起でのくすぐったさは範囲を広げへいく。
「いひゃっっははははあはははははは!いはっっははははっははははははは!あ、ああぁ、あっぁぁぁぁ~~~~」
磔状態のカレンは四肢から浸食してくる触手に成すすべもなく、無慈悲に生じるくすぐったさに笑い悶え続け、触手はそんな彼女を嬲るように蠢き続け、内壁の突起を擦りつけ続ける。
やがて、その広がりは四肢の付け根に至り、形状的にも終焉になるかと思われた。だが、付け根に至ったことでそれ以上の前進ができなくなった触手は、先端部を不定形のアメーバ状に変化させて浸食を続けた。
「ひぁっっはははははっはあはははははっいやぁぁぁぁ~~~~~っっはははあはっはっはははは!!あああああ~~~~~~~!!!」
カレンの身体に合わせて尚も広がりをみせる触手は、密着面に同様の突起を生じさせ、それを細かく震動させながら彼女を容赦なく責め立て続けた。
腕の方から広がった触手は手始めとばかりに脇の下を覆い、無数の突起に脇の下を擦られたカレンは悲鳴と笑い声の混じった絶叫をあげる。
毎度、理性が無駄な抵抗だと判断しても、身体が反射的に逃げ場を求めて激しく足掻いてしまうのだが、本能が求めた要望が適った事は一度もない。
そうしている間にも触手は容赦なく範囲を広げ、背中・胸・腹そして腰を覆っていく。
「~~~~~~~~っっっっっ!!!」
やがて、首から下が完璧に覆い尽くされた時、その感覚は最高潮に達し、カレンは息を詰まらせたまま声にならない悲鳴を上げ、思考が真っ白になった。
その瞬間、胸・背筋・股間周辺を覆っていた部位の突起が、他とは異なる動きを行い、これまでとは異なった、突き抜けるような快感を与えた。
それはまさしく不意打ちであり、そうした責めが来るとは予期していなかった彼女は、気を失う直前に、いきなり脳内をくすぐったさから快感に変換されながら急な感覚についていけないまま失神した。
そうして放たれた主の精神波を全体で吸収するミファールは満足したかのように脈動するのだった。
ウェイブ達がキャンプした場所からそう遠くない所に、カレンとタールの憎悪の対象が揃っていた。
無言のまま立ちつくす彼等の足下には、変わり果てた同僚と、その配下の亡骸が横たわっており、二人は信じられないといった様相でそれを眺めていた。
「どう思う?」
ボヴァの亡骸を足でこづき、周囲を見回してザイアは傍らの女に問うた。
「死んでるわね」
しれっとした表情で、問いかけられた女は答える。
「おい、ケリア・・・・」
「判ってるわよ」
冗談をいなされ、不服そうな表情を見せて、ケリアと呼ばれた女も改めて周囲を見回した。
「あちこちに戦闘の痕跡はあるけど、相手は・・・・少数ね」
「やっぱりそう思う?」
結論が同じとなったのを確認して、ザイアは自分の考えが間違いでないと認識した。
「ええ、人間の足跡が少ないわ。ボヴァは、お得意の集団戦法まで使ったみたいだけど・・・・」
ケリアは地面のみならず、樹の幹等にもついていた独特の跡を見て断言する。
「君としてはこの事実を信じられるかい?」
「あの女の仕業でない事だけは断言できるけど、足跡の主である人間に負けたと言うなら、どんな人間か皆目見当つかないわ。足跡を残していないモンスターが存在して、そいつの仕業だって方がよほど現実味があるわ」
「そうだね。未知のモンスターの方が可能性は高いか・・・・でもそれだと、この人間の足跡は何だろうね?あの女の物でもないし・・・」
「さぁ・・・・でも珍しい事ではあるけど、あの女を追っている途中に、よそ者の人間に・・・つまりは冒険者には会ったから、そいつらの仲間じゃない?」
ケリアは何気ない会話のつもりであった。彼等の常識の範疇であれば無視しても差し支えない内容だったのだが、意外にもそれにザイアが飛びついた。
「冒険者?大男かい?」
「大男?いいえ、可愛らしいけど悪趣味なお嬢ちゃんだったわ。あなたは何?大男に会ったの?」
「ああ、敵じゃなかったけどね」
ザイアはさり気なく勝利した事を伝えたが、ケリアは何の感心も示さなかった。彼等にしてみればそれは当たり前の出来事であり、わざわざ宣言する価値もない事だという常識があった。
「他に仲間でもいたのかしらね?ひょっとしたらあの女、そいつ等と合流したかもしれないわね」
彼等にとっては、仲間であるはずのボヴァより、その彼が一度は捕獲したサナの行方の方が重要な問題となっており、その死に対する悲哀の感情は微塵もなかった。
「そう考えるのが妥当かもね・・・めんどくさいな」
「いいじゃない、ボヴァがしくじって手柄を得るチャンスが私かあなたのどちらかになったのよ」
「どこかにボヴァを倒した何かがいることも忘れない方がいいよ。一応はね・・・」
「おおかた、数と早さだけで得意気になっていたから油断しすぎたんでしょ」
「ま、それもあり得るね」
「それじゃ、引き続き捜索を始めましょう」
ケリアは待機させていたスカルスに飛び乗ると、そのまま上昇していった。
「じゃ、まずはボヴァの担当地域も再捜索するか・・・・」
ザイアもパートナーのワーライノスと共に移動を使用とした矢先、ケリアが頭上から呼びかけてきた。
「待って、ちょっと事情が変わったわ!」
「は?」
「この先の・・・川の方から煙が上がっているわ」
「煙?」
ザイアは思わず問い返していた。
「おい、こんな事であいつ等が来るのか?」
全ての準備を整えたタール、そしてカレンは、今目の前で行われている行為に対して、不信感をあらわにして問うた。そこでは、ウェイブが焚火の上に生の葉をくべてわざと煙を発生させて狼煙をあげていたのである。
「連中に知能があれば、煙を確認しに来るよ。何時出会えるかも判らない遭遇戦より、すぐにでも闘いたいんだろ?」
「そりゃそうだが・・・」
「なら、準備万端のこの場に御足労願う方がてっとり早い」
「でも、警戒してなかなか姿を現さなかったら?」
立ち上る煙を見上げてカレンも問う。
「それは大丈夫だと思うよ。連中、自分達が強い自覚があるから、コソコソしないと思うし、仮に警戒してても、相手が一度勝った相手と知れば、油断して姿を現すよ」
「「!!!!」」
「いや・・・あくまで、向こうの思惑だよ・・・俺の意見じゃなくて・・・ね」
軽率な発言の直後、二つの殺気をすぐ背後で感じたウェイブは、ダラダラと冷や汗を流して場を取り繕った。
その時、この攻撃的気配に反応したのか、川の対岸側の森の茂みから小さな子供程の大きさの石が飛び出し、彼等の方へと迫った。
「来た・・・・ホントに」
ウェイブ達は僅かに移動して石の落下予想地点から外れ、その直撃をかわす。飛来した石はワンバウンドして焚火を直撃して強引にもみ消すと、そのまま少しの距離を転がって止まる。
「お早いご到着で・・・」
呟き、ウェイブが視線を石の飛来方向へ向けると、そこにワーライノスを従えた鎧男のザイアが立っていた。そして、その視界内に自ら入るように、浮遊生物・愛称スカルスに乗ったケリアが降下してきた。
「へぇ、生きてたのか。しぶといね」
「お嬢ちゃんもね。その滝壺で溺れ死んだのかと思ってたわ」
ザイアとケリアは仕留めたと思っていた相手の存在に多少ながら驚きはしたものの、それは恐怖や驚愕とは無縁のものであり、なんら動揺を誘うような現実ではなかった。
彼等的に見てこの状況は、踏みつけたアリが生きていたのと同じ程度の出来事でしかなかったのである。
「一人見ない顔があるけど、これで全員なのかしら?」
これ見よがしの狼煙が誘いだと感じていたケリアは、敵味方の面々で最も高い視点から周囲を眺め、伏兵の有無を探った。
「この森で、他に人間に心当たりがあるなら、是非紹介してもらいたいな。モンスターの群が追ってた若い女とか・・・・ね」
指摘された人物であるウェイブも、初めて見る二人のモンスターマスターをじっくり観察しながら応じ、彼の相手にしたボヴァが追っていた女の存在をちらつかせて反応を伺った。
「ふ~ん・・・意外だけど君かい?ボヴァを殺ったのは・・・・でも、それで調子に乗ってたら痛い目見るよ」
「それよりもあの女の方よ。どこへ隠したのかしら?答えてくれれば、見逃してあげるわよ」
自身の力を知るが故の発言に、ウェイブは相手が実力を過信している傾向があるなと感じた。それは彼が相対したボヴァにも言えた傾向でもあった。
(モンスターマスターってのは全員あんな尊大なのかな)
小声で冗談交じりに両隣の仲間に話を振って、ウェイブはギョッとした。既に二人とも臨戦状態となっており、暴発寸前であったのだ。
対岸の二人の妙に挑発的とも感じられる発言も、この様子を見たからこそのものだったという事実をこの時彼は悟った。
「教えてほしいなら、態度で示せ!」
「本番開始よ!」
タールが駆けだし、カレンが呪文を詠唱し始める。
「い、いきなり?」
相手の態度の大きさにつけ込んで、少しはこの周辺の諸事情でも聞き出せたらと期待していたウェイブは、同僚の短気に今更ながら呆れた。
かといって、二人同時に手綱を引けるはずもない彼は、説得を既にあきらめ二人の動向を見守った。
カレンは魔法詠唱で両掌に生じた光を、一方を縦に、一方を横に振って自分の前に光の十字を描くと、そこへ両手を差し伸べ、意識を集中する。
「光よ、我の代理となりて敵を討て!魔滅十字光!!」
光の十字がその光量を増し、溢れた光が無数の矢となって二人のモンスターマスターに襲いかかった。
ザイアは川岸に飛び退き、ケリアは上空へと移動して光の矢をやり過ごすが、カレンは二手に分かれた相手に戸惑うことなく十字の角度を変えて、ケリアへの対空攻撃を続行する。
「叩き落としてやる!」
「出来るのかしらね?」
余裕の笑みを浮かべて光の矢をやり過ごしていたケリアが突如方向を変えてカレンに肉薄する。正面から迫る光の矢を右に左へと急転換して間合いを詰めながら鞭を繰り出すと、カレンも魔法の発動を放棄して飛び退き、森の中へと駆けだして行った。
「ザイア、ここは任せるわよ」
ケリアは返事を聞くこともなく、カレンの後を追った。
「はいはい、遊びは程々にね・・・っと、いうところで、こっちも遊ぼうか」
ワーライノスとともに、足の届く川をゆっくりを横断してタール達の待つ川岸に辿り着いたザイアがスパイク付き手甲を構えると、タールも無骨なボクシングスタイルっぽい構えで応じたが、もう一方の男が手頃な石に腰掛けたのを見て、思わず顔をしかめた。
「へぇ?あんたは闘わないんだ?」
ザイアは、立ち上がろうとする気配を見せないウェイブを見て、本当に意外そうな声をあげた。
「俺はそうしたいんだが、こいつが嫌がるんだ」
ウェイブは鞘に収めたままの剣先で臨戦状態のタールを示して溜息をつく。
「君、馬鹿だねぇ・・・この人と共闘すれば少しは勝てる可能性があるのにさ」
ザイアにはウェイブの発言を素直に信じる気はなかったものの、タールの必要以上の意気込みがそれを肯定していると感じ、その無謀さを嘲笑した。
「うるせぇ!」
怒鳴ってタールが火蓋を切ったが、その攻撃は正面からの正拳突きという単調極まりないものだった。
「素手?ほんとに馬鹿だな」
ザイアは盾も兼ねている巨大な手甲をかざして、その一撃を受け止めたが、その時、彼の予期した以上の衝撃が体内を駆けめぐり、その身体は大きくバランスを崩した。
「?」
「うらぁっ!!」
インパクトの瞬間、更に力を込めて強引に拳を突きだしたタールに力負けしたザイアは、後方につんのめって倒れた。
「手加減して倒されるほど俺は甘くないぞ、出し惜しみしてないで、ペットも使いやがれ」
拳を突き立て、タールが唸る。
「そうした方がいいよ、鎧のモンスターマスターさん。彼の着けてる手袋は特注で、拳と指の部分に金属のサポートが入っているから、ナックルを装備していると同意だからね」
「その通り!貴様なんざ、剣でなくとも十分だ!」
説明を証明するようにタールが両拳をぶつけて鈍い金属音を響かせる。
「そうみたいだね。呆れた体力は認めるよ」
相変わらず石に腰掛けてるウェイブに、やる気満々のタールを見据え、ザイアは立ち上がると、配下のワーライノスに参戦を命じた。
途端に、控えていたワーライノスが駆けだし、主の前に出てタールと組み合い、拮抗した力比べが始まると、その隙を狙ってザイアも手甲を突き立ててタールに迫る。
「今度こそ確実に死になよ!」
「お前がな!」
突き出された手甲のスパイクを掴み取って防御するタール。だが、それによってワーライノスに対する注意がそれ、手放してしまった相手の腕が横殴りに彼を襲った。
「おうっ!」
ワーライノスこそ本当に素手ではあったが、繰り出される腕は鈍器に等しく、さしものタールもまともにそれを受けて思わずよろめき、続くザイアの攻撃をまともに脚に受けてしまった。
早々に状況は前回とほぼ同じになってはいたものの、優勢であるはずのザイアは奇妙な感触を感じていた。
「こいつ、何だ?」
タールに叩きつけたスパイクの手応えが、とても人間の物とは思えなかったのである。鎧越しではなく、生身の脚を確実に打ち据えたのだが、肉体と言うより石にゴム板でも張り付けた物を殴ったような感じがしたのである。そしてその手応えが事実であるかのように、タールは平然とした顔で立ちつくしていた。
多対一での闘いではスピードを用いて不利な体勢にならないようにするのが基本的な思想である。だが、その巨体故に敏捷さでは常人以下である事を自覚する彼は、不得手な行動をするのを早々に断念し、自身の特徴でもある肉体の強固さを最大限に用いる戦法を選んだのである。
更に彼が闘気士である事もその戦法のプラスとなっている。元々の資質のせいであろうが、彼は肉体強化の気孔を得意としており、現在も全開状態で気を全身に纏う事で防御をアップさせており、ザイアであっても生半可な攻撃はダメージに至ることはなかった。
だがこれは、言ってみれば諸刃の剣でもあった。こうした手法は闘気士であれば早々に思いつく類の戦法であるが、その用途上、気の消耗度は高く短期決戦でしか活用できない方法でもあった。
ただザイアを倒す。それだけに集中したタールの執念故に使われた戦法とも言える。
一方でワーライノスとの連係攻撃がほとんどダメージに至っていない現状に、ザイアは驚きを禁じ得なかった。当初から相手を侮ってはいたが、手加減しているつもりはなかっただけに、平然と立っているタールが信じられずにいた。
「!?」
そんな時、視界の端に捉えていたウェイブが立ち上がったのを見て、ザイアの注意が一瞬そちらに傾いた。その瞬間、タールの丸太のような脚が振り回され、ザイアとワーライノスをまとめて突き飛ばす。
「おらぁ!じゃれてないで本気で来い!」
ウェイブは僅かに笑んで、再び腰を下ろす。これは手出しを禁じられていた彼なりの援護であった。タールのリベンジ宣言は本気であったが、ザイア側がそれを真に受けるかは別問題であった。もう一人の敵が何時動くか判らないというプレッシャーが、自然とウェイブにも注意を傾ける結果となり、その分、タールへの対応が緩慢となる。
そうした心理が働いているだろうと見越したウェイブは、わざとらしく立ち上がる事で相手の動揺を誘ったのである。
「人間風情が調子にのるなよ・・・」
規格外ではあっても、人間に倒されたという事実はザイアのプライドを大きく傷つけた。
「ペット使いが偉そうに吠えるな!」
「モンスターマスターを甘く見るな!」
殺意をあらわにしてザイアが跳躍すると、ワーライノスの肩へと着地する。
「!」
その姿を見たタールの脳裏に忌々しい過去が蘇る。
「覚えているよね?これで今度こそ死んでもらうよ」
「おいタール!」
聞き知っていた相手の必殺攻撃の態勢を目の当たりにして、ウェイブが思わず声をかけた。
「騒ぐな、アレは一度食らって弱点を見つけてある」
「へぇ、そうなんだ」
明らかに信じていない口調と共に、ワーライノスが大地を踏みしめ、タールめがけて突進する。
「早っ!」
実際の動きを始めて目にしたウェイブが、率直な感想をもらす。
(突撃だけに限った事だろうけど、確かにアレならタールが喰らった訳もわかる)
彼は対応策があると宣言した仲間の動向を注視する。
「お前のその技はホントに一撃必殺でしかないんだよ」
叫んでタールは身構え、衝突直前のタイミングを見計らって右側へと身体をずらした。
「馬鹿っ!」
それを見て叫んだのはウェイブだった。その直後、重々しい打撃音が彼の耳に届き、思わず視線を背けた。
「ぬわぁっ!?」
タールがザイアの一撃を受け、派手に地面に転がった。
「馬鹿、相手は闘牛の類じゃないんだから」
痛々しい表情で視線を戻し、呆れたウェイブが言う。
「馬鹿馬鹿言うな!」
気で強化していたとはいえ、さすがに今の一撃はこたえたらしく、タールは左腕に痛みを感じながらその部位を押さえ、立ち上がる。
彼はあまりに直線的な相手の必殺攻撃をかわすという案を抱いていた。ただ避けるだけでは相手もコース修正するのが判っていたため、指摘があった闘牛ばりに寸前でかわそうとしたのだが、すれ違う瞬間、ザイアが正面に突きだしていた手甲のスパイクを横に突きだしたのである。
寸前での回避であったため、タールはその変化についていけず、結局左腕を痛打した。
「タール・・・相手は二人だって事、忘れてない?」
これが彼の対応策かと心底呆れてウェイブが言った。
「全くだ、あの攻撃を避ける発想は誰でも思いつく。それをさせないために組んでかかってるんだ。それくらい判らなかったかな」
「タールは直情だからね」
ザイアの嘲りにウェイブが同意する。
「ほんと、やりやすい相手だよ。君の方がまだ手強そうだ」
「てめぇ!まだ終わってねぇだろう!」
叫んでタールが殴りかかると、ザイアとワーライノスは左右に散って交わし、両サイドから息の合った攻撃を繰り出そうと構える。
「!」
と、そこへウェイブの横槍が入った。
二人、正確には一人と一匹に数発の気孔弾が飛来してその行動を制して体勢を崩させ、タールとの間合いを広げさせると、すかさずウェイブはタールのもとへと駆け寄った。
「手出ししない話だったろ」
やって来たウェイブに拳を繰り出すタール。ウェイブはそれをかわして彼の鎧の一部を掴んで引っ張り、高低差の大きい頭を同位置に持ち込み耳打ちする。
「だったら安心して観戦できる闘いをしろよ」
「これからが本番なんだよ」
「嘘つけ、まぁ勝つにしてもまた回復薬使う羽目になりそうだからな、もったいないから一つ作戦を伝授してやる」
「作戦?」
耳打ちするウェイブの話を聞いた時、タールはそれが冗談かと思った。それが如実に顔に表れたのだろう、ウェイブは意味深に笑って頷き、本気だと言う事を暗に伝えた。
タールから見れば、馬鹿と評された自分の回避案よりもくだらないと思える提案に半信半疑のままタールはザイアに向き直った。
「相談はまとまったのかい?」
ザイアは余裕の表情で二人を見つめていた。二人の様子から何らかの企みがあるのは明白で、現実的・堅実的に考えるならそうした相談を阻止して一気に勝負をつけるのが鉄則であったが、彼はそれを成さず、相手の体勢が整うのを待っていた。
それは、どの様な策があろうと、そして2対1であっても負けることはないという彼の慢心によるものだった。
「ああ、まとまったよ。それじゃタール、がんばりな」
「?」
ザイアは驚いた。共闘するかと思われた小柄の方の男が、大男の身体を軽く叩くと、そのまま彼から離れ、また手頃な石に腰掛け観戦の体制に入ったのである。
「どういう・・・事かな?」
「見ての通り、仕切り直しだ」
構えて言い切るタール。その、まだ一人で闘おうとする彼の身の程知らずな態度にザイアは苛立ちを感じた。
「ほんと、死んでも直らない人なんだな」
「気にするな・・・殺ることに変わりはないだろ。それとも、あいつが気になるなら離れようか?」
不適に笑ってタールはウェイブとの距離をゆっくりと広げていく。
「そう言うつもりなら・・・・」
実際、ザイアにはタールの思惑は計りかねていた。垣間見た気質からすれば言っている事は真実と思えた。だが、もう一人の進言を受け入れて自分を騙そうとしている可能性も十分にある。
2対1でも負けるとは思っていなかったが、不意打ちを受けるのだけは厄介と感じていたザイアは、その不確定要素を排除すべく、正面の存在を一気に除去しようと決断した。
「来るならさっきの技で来やがれ!どうせ小技じゃ俺の命は取れん」
明らかに誘っているとザイアは思った。何を考えているかは分からなかったが、タールの動きなら、左右そして上下に逃げようと対応できる自信があり、それ以上の対処法など無いと信じていた。それに何より、人間相手に過度に警戒するのはプライドが許さなかった。
「人間程度の罠で、モンスターマスターを退けられるものか!」
下等な人間の抵抗など打ち砕いてやると言わんばかりに、ザイアがワーライノスの上に飛び乗った。
「今度こそ本当に死ねよ!」
ザイアにしてみれば、これまでで初めての、同一目標に対する三度目となる必殺攻撃が繰り出された。
彼は迫る目標の動向を注視していたが、相手が突進を受け止めようとする素振りを見せると、僅かに抱いていた危惧は一気に消し飛んだ。
(やっぱり馬鹿だこいつは)
ワーライノスの全力突進に加え、突き出せば軽く腕のリーチを越えるスパイクの攻撃が先に命中するのは当然であり、スパイクを掴んだところで勢いを止める事など物理的にも不可能である。
今度こそあの大男を串刺しに出来ると確信していたザイアの視界に、突如地面が映し出された。
「?」
事態が理解できるよりも早く、彼の身体は地面に叩きつけられ、勢いよく転がった。
「くはぁっ!」
予期しなかった衝撃に息が詰まったが、それから回復する間もなく駆けつけたタールがザイアを蹴り上げ、更に浮いた身体に渾身の力を込めた拳を叩きつけた。
ボールのように弾かれた彼の身体は、後方にいたワーライノスと衝突し、もんどり打って倒れる。
「がっ・・・はぁっ・・」
想像を遙かに上回るタールの一撃にザイアは両膝を突いて唸った。
「一体・・・・何が・・」
何が起こったのか?混乱したザイアであったが、自分達が通ったポイントに窪みが生じているのを見ると、事態を察して歯噛みした。
「お、落とし穴・・・だと」
それは実際には深さも浅い、子供が悪戯で作る程度の穴であったが、ここに突進中のワーライノスが足を踏み入れてしまったため、バランスが崩れ転倒してしまったというわけである。
「なっさけねぇ~マジにあんな手にひっかかってやがる・・・」
ウェイブの口添えは、彼が即席で作っていたその穴を通るコースへの誘導・・・であったのだが、そんな中途半端な罠が効果を出すとは思っていなかっただけに、仕掛けたタールも呆れてしまった。
「ふ、ふざけた真似をっ!」
ザイアが事の張本人を睨みつけるが、そこへタールが肉薄した。
「相手は俺だって言ってるだろ!」
振り下ろされた拳が再びザイアを捉えた。これまでまともに攻撃を受けていなかっただけに、その一撃一撃のダメージは大きく彼にのしかかり、更には大きな屈辱となって彼の心までも傷つけた。
「くそぉ!」
ムキになったザイアがスパイクを振り回すが、それは空しく空を切り、更なる拳の連打を呼び込む事となる。
しこたまワーライノス共々殴りつけられた挙げ句、繰り出された回し蹴りに、ザイア等はまとめて吹っ飛び、またも地を舐める事となる。
「少し崩れればこのざまか・・・モンスターマスタも大したもんだな」
この発言は、ザイアにとっての追い打ちとなった。
「このっ・・・俺を甘く見るなぁ!」
絶叫してザイアは立ち上がったかと思うと、軽くジャンプして傍らのワーライノスに飛び乗った。
すかさずワーライノスは駆け出し、タールめがけて突進する。
「まともにやり合えばお前なんて!!」
「てめぇこそ、俺を甘く見るな!!」
タールも吼え、大地を力強く踏みしめ、大きく右拳を引いた。
見る間に双方の距離が縮まり、タールが拳を、ザイアがスパイクを突き出す。
スパイクの先端と拳とが衝突し、火花を散らす。
この力と力の衝突に勝利したのはタールであった。互いの激突に耐えられなくなったザイアのスパイクは砕け散り、突進を急停止出来ない彼は、砕けるスパイクと共に、自らタールの拳に突っ込んでいく形となり、その胸板に最高の一発を受ける事となった。
「ぐぁっはぁぁぁ!!」
鎧と肋骨を砕かれザイアが弾け飛ぶ。
そして続くワーライノスが、主を傷つけられたことに対して咆吼をあげるが、その主を突き飛ばして尚、勢いの衰えないタールの拳を顔面にまともに受け、軽くよろめいた後、地に伏して絶命した。
「いよっしゃぁ!完全勝利!!」
拳を掲げて叫ぶタール。
「でも生きてるみたいだけど?」
タールに駆け寄ったウェイブが、地に伏してはいたものの、僅かながら痙攣を起こしているザイアを促して言った。
「お前の期待通り、情報を聞くために加減したんだよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
得意げに語るタールに、ウェイブは見上げるようにして不信そうな視線を向けた。
「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・すまん嘘だ。本気の一撃だったが、向こうが堪えやがったんだ」
その視線に耐えかねたタールが事実を語る。
「だろうね。何にしても結果オーライだ。これで少しはこの近辺の情報が手に入る・・・」
そうした未来の展望が垣間見えたその時、彼等の背後で木々を掻き分けるように何かが飛び出し、彼等の頭上から影が降ってきた。
川から離れ、森に駆け込んだカレンを追っていたケリアは、当初、その目論見を誤解していた。
上空からという圧倒的優位な位置にいる自分の視界を遮り、魔法での攻撃。あるいは、低空におびき寄せる為に遮蔽物の多い森の中へ逃げ込んだのだろうと思っていたのだ。
そうした発想は常識の範疇であり、かつて彼女と敵対していた相手の多くは、樹海という戦闘フィールド上、同様の行動を取っている。
従って、対処法があるのは当然であり、これもありふれた常勝パターンでしかないと考えていた。
先立っての戦闘で生きていた事はちょっとした驚きであったが、結果としては死期が延期されただけの事であり、今、自分は改めてカレンを死の世界へ誘う死神の役割を担っているという感覚を抱き、他人の生命を握る優越感に浸っていた。
「ほら、お嬢ちゃん、いつまで逃げているの?」
ケリアは木々の隙間から時折見えるカレンを上空から追尾しながら、時折、魔法による光の矢を放って彼女を追い立てた。
その光の矢に対して氷の矢の返礼が来るが、ケリアは難なくそれを回避しては追撃の手を休めない。
それでもこうした行為が長々と続くと、さすがに飽きが生じ、彼女はこの退屈さを紛らせようと新たな行動に移った。
「私は忙しいのよ。ただ逃げてるだけなら終わりにしましょうね」
ケリアはいきなりスカルスに高度を下げさせると、減速することなく木々の中に突っ込んで行った。
「!?」
カレンは上空の敵が突如障害物を無視して突進してきたのを見て、咄嗟に身をかわしてその直撃をかわす。
ケリアとスカルスはそのまま進路上にある木々を薙ぎ倒し、低空で旋回すると再びカレンへと迫る。それが数回繰り返され、カレンの周囲は瞬く間に変貌する事となる。
繰り返されたその行為によって、辺りの木々は倒れ、あるいはへし折れて吹っ飛び、カレンの周囲に開けた空間を構築した。しかも倒れた木々が壁の役割も果たし、ちょっとした決闘場の様相となっていたのである。
「もう良いでしょ?逃げ回るのは止めて、ここで潔く死になさい」
あくまでも浮遊生物スカルスの上から降りようとはせず、見下ろす体勢で語るケリア。優位さを誇示したいが為の行為であろうが、眼下の獲物は彼女が期待したような怯えた素振りを一切見せてはいなかった。
「そうね。この辺で良いわね」
「あら、ひょっとして、闘うつもりなのかしら?」
「もちろん。仲間巻き込んじゃ悪いから、わざわざ移動したのよ」
それは彼女の基本戦闘が魔法に依存していることを証明しているのに等しい発言とケリアは判断した。
「懲りない娘ね。魔法じゃ私を倒せる可能性は皆無なのわからないの?」
「剣と魔法は使いよう・・・・おばさんのくせにそんな言葉も知らないの?」
もはや二人の女性の間に和解の言葉はない。
睨み合う二人の間で火花が散り、カレンが先手を取るように動き出す。
「若者の柔軟な活用術を見せてあげるわ」
更に挑発的発言と共にカレンの指が印を結ぶと、彼女の周囲に七つの光球が発生する。
「?」
「まずは御挨拶から!」
カレンの指が頭上のケリアを指さすと、光球の一つが炎の玉に変化し三本の炎の矢となって飛翔し、一本が正面、二本が左右に分かれて襲いかかる。
「何かと思えば、ぬるいわよ」
その動きに誘導性質がないと見抜いたケリアは僅かな動きでそれをかわす。と、そこへ今度は氷の矢が三本直線的に彼女に襲いかかる。
「まだまだこれからっ!」
「これも子供だましね」
その攻撃も鳥を思わせるような柔軟な動きで回避して見せると、反撃とばかりにスカルスは口内にある分泌腺から毒液を吐いた。
すかさずカレンが両手を別々に動かし、光球の一つを自分の前面に、一つをケリアの頭上へと誘導する。
カレンの前に位置した光球は小さく弾けたかと思うとガラスを思わせる透明状の壁に変化して毒液を遮り、ケリアの方に向かった光球は大きく弾けて激しい爆発を起こした。
「あうっ!」
その衝撃の煽りを受けたケリアとスカルスは思わず高度を下げる。そこへカレンが駆けだし、ほぼ直下の位置に立つと、光球の一つを地面めがけて放つ。たちまちその周辺が激しく震え、無数の石礫を噴火した火山弾の様に直上へと放つ。
さしもの浮遊生物も石の散弾までは回避する事ができず、幾つかの直撃を受けてその表皮から幾筋かの血を流した。
「こ、小娘!!」
足下の出来事だったため、ケリアは直接の被害を被る事はなかった。だが、愛しの下僕がダメージを受けたことを脚に伝わる振動で感じた彼女は、それをもたらした相手に激昂した。
年上、そして優位さからなっていた余裕の笑みは失せ、明確な殺意がカレンを捉えたが、その眼は相手が更なる行動を起こそうとする瞬間を映していた。
「さて、今度は風の刃よ!」
カレンの掲げた右手刀が光球に触れ、それを引き伸ばすように振り下ろすと、小さな風が生じた。
「!」
カレンのリアクションに本能的な危機を察したケリアが身を捩ると、その間近を風が通過した。圧縮された風の魔法は、かまいたちのように真空波を発生させ、彼女の顔を掠め、右頬を裂く。
「なっ!?」
「外した!」
カレンはモンスターもろとも縦に両断するつもりで放ったそれが目的を達成せずに終わって舌打ちし、ケリアは頬に感じる生暖かい感触に呆然となった。しかしそれも長くは続かなかった。頬に流れる血を掌で受け、改めて流血を確認すると、その意識は燃えたぎる憎悪へと変化する。
「このっ畜生がぁ!!」
主の意思をくんだスカルスは、これまでにない早さで加速し、カレンに肉薄する。感情が大きく関与したその動きは更に荒々しさを増し、地面を抉るほどの機動を見せて相手を葬ろうという意思を見せつけた。
「もう手加減などしないっ!八つ裂きにしてやるから覚悟しな!」
「地が出てますわよ。おばさま」
「黙れ、発動を停止させて一度に複数の魔法攻撃をしてのけたようだけど、それもネタ切れでしょ。これ以上、小細工する間など与えさえしなければ、貴様みたいな小物など、一瞬で仕留めてやるわ」
浮遊していた光球が全てなくなったのを確認してケリアが叫ぶ。
「生憎、小細工がなくても、私は手強いのよ!」
カレンはそう応じて、迫るケリアに向かい合い、光る指先で素早く星の陣を描いた。
「封魔解放、烈風陣!」
その言葉と共に、描かれた光の星から突風が発生し、辺り構わず猛威を振るった。その力は本物の嵐に匹敵し、周囲に倒れていた木々に止まらず、根付いていた樹も押し倒す勢いで吹き荒れる。
その影響は当然ながら空にいるケリアにも及んでいたが、スカルスは空のモンスターだけあって風の影響を受けにくいのか、周囲の被害に比べればその影響度は明らかに低かった。
「こんな魔法まで使えるなんて、なかなかね。ただし、相手が悪かったわね」
「とんでもない、まだこれからですわ」
暴風の中心にあって、唯一影響のない場所にいたカレンが、魔法発動時に生じた安全地帯の結界から飛び出し、自ら風に身を委ねた。
同時にミファールが展開し、風の抵抗を受けやすい形状に変化したため、カレン身体はたやすく風に煽られ、宙に巻き上げられた。
「ほら、これで私も空中戦が可能よ」
ケリアより遙かに上に舞い上がった・・・と言うより吹き飛ばされたカレンが挑発的な笑みを浮かべてると、これまで他人に見下ろされた事のなかったケリアは更に不満を募らせた。
「自由飛行もできないくせに大口をたたくなっ!」
頭上の敵に向かって上昇しながら叫ぶケリア。
「そんなことで勝敗が決するわけでもないでしょ」
吹き上げられたカレンは、自分の身体が降下し始めた瞬間、両腰に手を差し伸べ、鎧に命じた。
「魔砲擬装!」
展開した腰のパーツから飛び出した二つの肉塊は、引き寄せられる様にして彼女の左腕に付着すると、瞬く間に腕を覆い尽くして無数の突起の突き出した装甲へと変化する。更に、手の甲の部分に肉塊が集中すると、それは筒状となって完全に硬化した。
「!」
生物的ではあるものの、その形状から何が起きるかを察したケリアが上昇を中断すると、カレンは目標に向けて、左腕に装備された筒の先端を突きつけた。
ボシュッ!
筒の先端から光の球が放たれ、ケリアに迫る。
「そんな物っ!」
攻撃を予測していただけに彼女の動きに動揺はなく、緒戦の魔法攻撃同様、軽い回避運動で光球をやり過ごす。
この一発目が外れるや否や、カレンは二発目、三発目を放ったが、これも命中することなく空中を通り過ぎ、彼方の大地に誤爆した。
「面白い装備だけど、当たらなければ意味はないわねっ!」
攻撃をかわしたことで余裕が生じたケリアは、砲撃の間隙を縫うようにして接近し、カレンの直上へと到達する。
「!?」
「やっぱり自由に飛べないと不便よねぇ」
距離の詰まりきった中でケリアが笑い、カレンが左腕を構えるが、光球が放たれる早くスカルスが急降下して体当たりし、彼女の身体を下方へと突き飛ばした。
もともと落下中だった彼女の身体は加速が加わり、巻き起こっていた風の呪文も治まり始めていたため、地面に叩きつけられるのは必至と思えた。
そんな中、カレンはクルリと身を翻して地面に背中を向けると、地面に叩きつけられる寸前、最初に展開させ背中に付着させるように待機させていた七つの光球の最後の一つを発動させた。
それは激しい風の爆発であった。封魔解放の風系呪文より威力はなかったものの、一点に威力が集中していたたため、再び彼女の身体を上方へと押しやる結果をもたらす。
「このっ!まだ悪あがきを!!」
ケリアはそのしつこさに辟易しながらも、自身の勝利を疑わなかった。ここからどのような攻撃が成されようと、風の落ち着きだした現状であれば全てかわせる自信があったのである。
今考えられる攻撃は、左腕の装備からの砲撃であり、あの連射速度であれば回避は難しいことではなかった。その予測に従うかのようにカレンが左腕を突き出すと、彼女は勝利を確信したが、直後、目に入った砲身の形状を見て、本能が危険信号を放った。
光球の砲口となる『筒』が、いつの間にか三連装になっていたのである。
「なっ!」
ケリアの内心の焦りを悟ったのか、カレンが不適な笑みを浮かべ、次の瞬間、その砲口からこれまでにない断続的砲撃が始まった。
変形によって口径が小さくなり、放たれるのは『光球』から『光の矢』と変化していたが、その数が尋常ではなかった。三つの砲口から順番に放たれる光の矢は、途切れることなく光の雨となってケリアに襲いかかる。
スカルスの高機動も圧倒的な数の前では無力であった。
回避しきれなかった光の矢が、ケリアとスカルスを貫き、赤と青の鮮血を宙に散らせた。
「・・・・・っっっはっ!」
身体を貫通した光の矢の一つが肺を傷つけたのだろう、ケリアの口から血が溢れてその呼吸が激しく乱れた。その隙を逃さず、カレンは右手の指で再び星の陣を描き、それを相手とは反対方向に向けた。
「封魔解放!旋風烈火」
その叫びと共に、星の陣から小さな竜巻が生じた。先だっての、広域を対象としたそれとは全く逆の、局所集中型の風の魔法は、進行方向にあった木々と地面を激しく抉った。無論、反対側にいる相手に何らダメージは生じないが、空中でその魔法を放ったカレンは、反動によってその距離を急速に縮めていった。
「終わりよっ!おばさま!」
カレンが左腕を正面に掲げると、表面に突きだしていた突起幾つかが飛び出し、触手となって伸び、スカルスに絡みつく。
既にスカルスは傷つき、幾重にも絡まった触手を振り解くこともできず、浮遊しているので精一杯の状態となっており、敵対する余力はなかった。
「お、おのれっ!」
魔法の反動と、触手を縮めることで近づいてくるカレンに向けて、ケリアは魔法による光と炎の矢を同時に放った。
しかしその二種の矢は、悪趣味と評したカレンの鎧の表面で四散し、目標に命中する事なく終わる。
「なっ!?」
ケリアが驚愕している間にカレンがスカルスと衝突し、彼女の突進運動が加わり、もみ合い状態で吹っ飛び、あっという間に当初の遭遇地点へと押し戻される。
「さぁ、これで終わりよ!」
スカルスの上で、ケリアと場所の取り合いをしているような状態となっていたカレンは、いつの間にか三連装から最初の状態へと戻っていた左腕の先端を足下に向け、有無を言わさず一発の光球を放った。
直上にいた上に触手で絡まっていた相手からの攻撃をかわせるはずもなく、まともにその直撃を受けたスカルスは、頭部を粉砕されてその生命活動を完全に停止した。
たちまち彼女達を宙に維持していた力が消失し、二人は落下し始める。
「あぁぁぁぁぁぁぁっっっ!」
ケリアは常にその危険にありながら、想定もしていなかった落下感に悲鳴を上げ、為す術もなく手足を無意味にばたつかせた。
「これでっ、この前のお返しにさせてもらうわっ!」
カレンが叫び、左腕を大きく振り回した。ミファールの助力もあって触手に絡まっていたスカルスの死骸がぐるりと周り、落下中のケリアの上に叩きつけられ、その直後、彼女の身体は地面に・・・・より正確に言うと、その間に横たわっていたザイアの上に叩きつけられ、忠実な下僕の死骸とのサンドイッチ状態となった。
上は叩きつけられたモンスターの死骸。下は強固でしかも突起の多い鎧に身を包んだ仲間に挟まれて、傷を負っていたケリアが無事でいられるはずもなく、内蔵と骨を程良く破壊され絶命した。
そしてカレンの方は狙っていた行動であったため、川に落下し、致命傷には至っていない。前回の闘いでケリアに受けた一撃をアレンジして仕返し、上出来とばかりに満面の笑みを浮かべて川から顔を出した彼女であったが、讃えてくれると思っていたタールとウェイブは、呆気にとられた表情をカレンに向けていた。
「な、何よ・・・・」
まるで自分が大失態をしでかしたかのような視線の意味が理解できず、カレンが戸惑いの声をもらすと、ウェイブとタールは同時にある場所を指した。
「?」
そこはつい今し方、カレンがケリアを葬った場所である事に気づく。
「何?」
「情報源が消えたよ・・・・」
それは辛うじて生きていたため、多少なりとも周囲、そして出来ればモンスターマスターの情報を聞き出そうとしていたザイアの、完全な死を意味していた。
もちろん原因は、先程のカレンの行為である。
強固な鎧とはいえ、タールの一撃を受けて破損し、装着者も大きなダメージを受けていたところに人間一人とモンスター一匹分の質量が落下してきたのである。それは当事者には十分なトドメとなっていた。
狙った結果ではなかったが、そうした事情を聞かされた時、カレンは笑うしかなかった。
明らかに土着モンスターとは異なる存在と連日に渡って遭遇しながら、得られた情報は一片もなく、結果的にいつもの一日と代わらない状況に、一同は実質以上の疲労感を感じるのであった。