インラインRSSがどうも動作しなくなったみたいなので、RSSへのリンク追加しました
このサイトに掲載されている作品を、無断で掲載・転載する事を禁止します。
Copyright 2007- C Powered By FC2 BLOG
生きてるけど、今は家族のことを最優先中!
「くすぐりの塔」はキャンサーさんから作品が届き次第、ちゃんと更新していきます!
(今は公開させていただいた作品が手元に届いているすべてです)
ご連絡:キャンサーさん、何度かメール送っているから、ご返信くださ~い
2011/09/04(日)に投稿された記事
第2章-獣魔の街編- 第7話 魔女カレン
投稿日時:03:47:47|コメント:0件|》本文を開閉
ディレクトリ:くすぐりの塔AF -魔王の後継者達-
今まで別に秘密にしてきたわけでもないのですが、私はスパイダーさんが苦手・・・と言うか超絶に嫌いです。
もう「く」と「も」の言葉の組み合わせを聞くだけでも鳥肌がぶわっ。
だから「入道雲」と言うよりも「積乱雲」とか、「ハイパーストーム」とか、そういう言葉の方が好き。
でも、スパイダーさんの糸に捕らえられているシチュエーションは好き。
小さなチャイルドスパイダーさんに群がられて
「こんな細かな部分にまで入り込んだらおかひくなっひゃひゃひゃ!」
とか、思わず状況を説明してしまう、かがみさんが好き。
なんでかがみさんなのかは、よく分かんないんだけど。
すみません、何分ジーンダイバーという懐かしいものが自分の記憶から掘り起こされようとは、思ってもみなかったもので・・・
それの正式な銘も聞かず、また棚にも記載さてもいなかったため、『六牙の杖』と勝手にそう命名した彼女は、早速その調子を試そうと、とある目的地目指して軽快なステップで街路を進んでいた。
「開門~~~~」
「ちょっ!何やってるの?」
この街に訪問した際にくぐった門の前で叫ぶカレンを、通りかかったというより途中で見かけて気になり、後をつけていたサナが思わず制止させた。
「何って、新しい玩具のテストよ。さすがに街中で魔法を試し打ちするのもマズイし」
手にした杖を軽く左右に振って、さも当たり前のようにカレンはいった。
「いや、そうじゃなくて、一人で外に出るつもりなの?って聞いてるのよ」
住む地域の差によって生じた常識の違いなのか、さらりと出たカレンの言葉にサナは一瞬、呆気にとられる。
「ここの人間ですら、数人のチーム編成でないと滅多に外に出ないのに、無茶すぎるわ」
サナにとっては当たり前の事実を真剣に伝えているだけのつもりであった。だがカレンは、その言葉に真実味がないとでも言いたげな表情で彼女を見つめている。
「誇張してないわよ。モンスターマスター以前に、強力なモンスターが数多く周辺に生息しているんだから・・・・」
「それは解ってるわ。ここまで来るまでに体験している事だもの・・・でも、それを、単独で飛び出してた貴女がいうのは少しおかしいわよ」
戦士でもなかったサナの単独逃避行。一か八かの選択だったにしても、この行為を据え置いて無茶という行為を語れないのも確かであった。
そうした指摘を受けて、サナも自分の発言の矛盾を実感する。
「あ、あれは緊急避難的行動よ。この街に残っていれば、間違いなく連中に捕まったし、みんなにも迷惑がかかるから・・・・あえて危険に飛び込む貴女とは違うわ」
「なら一緒に来てよ」
「え?」
またしても軽く出た発言に、サナが呆ける。
「地理に詳しい地元住人である貴女なら、危険なモンスターの縄張りとかを、大まかに把握してるんでしょ?だったら危険の少ないところを教えてよ。今回は別にモンスターが相手でなくていいんだから」
「本当に?」
武器の試行と聞き、モンスターとの闘いを想像していたサナは、彼女の言葉を疑った。
「いくら私でも、一人でモンスターマスター達に挑もうなんて思わないわよ。楽しい事ははともかく、苦しい事はみんなで分かち合わないとね」
どこまで本気か少し考えたくなる発言をして笑んでみせるカレンを見て、サナは説得を諦めた。知り合って間もない間柄ではあるが、引き止めても聞かないだろうし、一時的に止めても、また勝手に出ていくだろうだろうと悟ったのである。
そうなるなら、彼女の欲求を早々に解消させて戻ってもらった方が安全と判断した彼女は、同行を承知した。
サナがそうして案内したのは、街の外にありながらもある程度の開拓が進んで人間が利用している雰囲気を滲ませる水辺であった。
そこは、近くを流れる川から分岐した水が窪みに溜まって出来た池のような場所で、外に出ている者のみならず他の動物・モンスター達の水飲み場にもなっている場所でもあった。
ただやはり、人間の往来が多いためだろう、モンスタークラスの生物が堂々と表れる事は少なく、今も僅かな小動物が水辺の片隅で水を飲んでいるだけだった。
物寂しい様相であったが、今回モンスターの有無を問わないと公言していたカレンに不満はなかった。
単純に言えば、周囲に壊してはならない家屋や壁さえなければ良かったわけで、そうした意味ではここは実に適した場所ともいえる。
「ここで良いわよね?」
カレンの表情をのぞき見て、聞くまでもないと感じるサナ。
「ええ、申し分なし。それじゃ早速始めさせてもらうわ」
嬉しそうに言って、カレンは手にしていた六牙の杖をクルクルと回転させ、ビシっと、構える。
「・・・我に宿りし負の力、集いて光となって敵を貫け・・・」
呪文詠唱に伴い杖の先端部が輝き、それを突き出すと同時に、それは光の矢として放たれ、彼女達の立つ水辺の対岸へと突き進み、そこにあった樹木の一部を射抜いて砕いた。
「うん、発動体としては問題なし・・・と。で、お次は・・・・」
この杖の最大の特徴ともいえる、『六つの牙』を試すべく、カレンが意識を集中させる。
左手で杖を持ち、右手に魔力を集中させて、それぞれの牙にかざしていく。
「火の力、氷の力、雷の力、風の力、光の力、闇の力・・・・我が魔力を糧に刃と化せ・・・」
初めての試みでもあるため、ゆっくりと個々の『牙』に異なる力を付与していくカレン。その手がそれぞれの牙にさしかかると、魔力を付与された牙はその力を表す色の光を放ち、やがて全ての牙が異なる六色の色を放ちだす。
「いよっし、成功!必殺ぅ~・・・・・六魔光弾!!」
カレンが手にしていた杖を無造作に振ると、牙に蓄えられていた魔力が、それぞれの属性、すなわち炎・氷・雷・風・光そして闇の矢となって一斉に放たれ、対岸の岩を直撃する。
岩は加熱・凍結・放電・切断・貫通・侵食といった現象を同時に起こしたかと思うと、瞬く間にその原型を維持できなくなって崩れ去る。それは単純な物理的崩壊とも若干異なり、六種類もの力が一箇所で同時に起きた事によって生じた、『消滅』とも言える現象であった。
「・・・・あら、思いつきでやった技だけど、結構いけるかも」
杖と岩を交互に見てカレンが嬉しそうに語る一方で、サナは信じられない物を見たかのような表情となっていた。
「あ、あなた、あんなに多様な魔法が使えるの?」
過去そして現在、魔法使いという存在そのものは珍しくはない。魔法・・・とりわけ攻撃魔法とは、古代から用いられる『言霊』を用いて、多様な力を発現させる手法である。
人が各々に持つ魔力をその言霊(等)によって、この世界の色々な破壊的『力』(炎や電気)に変換して放出するわけである。
理論上、この世に存在する物理的な『力』は全て具現可能ではあるが、個人によって変換できる力に差異が生じるのは当然ともいえる現象であり、いわば常識であった。
簡単に言えば、炎系の魔法が得意な者は通例のごとく、氷や水系の魔法が苦手、あるいは全く扱えないという現象を起こす。
これは、魔法使いのそれぞれの性格が表れた結果だとも言われているが、実際には、最初に会得できた属性こそが、自分に最も相性の良い属性と思いこみ、結果、相反する属性に対しては相対的に相性が悪いだろうと、当人が常識のように思い込んでしまう事が一因となっている。
これは人の常識としての認識が、魔法使いとしての成長を阻害している要因でもあり、一部の賢者や高名な魔法使などは教えられなくとも悟っている事実でもあった。
だが、知識人として在るが故に、その常識の枠から抜けきることが出来ず、多様な魔法を扱える人物がいても、本来同じ威力になるはずの『魔法攻撃』において、各属性によって威力に差を生じさせる事となる。
そうした魔法使いそのものの常識からすれば、六種もの属性を完璧に使い分けたカレンはかなり特殊な存在と言わざるを得ない。
が、これはあくまで常人の見識であり、それが出来てしまうカレンにして見れば、何ら難しい事ではなかった。
全ては彼女に魔法を教えた師に起因するのだが、その師は、全ての『力』を柔軟に、幅広く用いる事を基本的に教え、炎は攻撃に用いる・・・などという固定概念を抱かせず、全てが攻撃にも防御にも転用できるのだと彼女に繰り返し教えていた。
結果、カレンは周囲の状況に合わせて各種属性を機転を利かせて扱えるようになり、どんな『力』の変換も、できて当たり前と把握し、攻撃魔法に関しては不得手のない使い手となったのである。
そう、攻撃魔法に関して言えば・・・・である。難を言うならば、彼女がイメージしている『魔法』とは、魔力を既存の『力』に変化させて用いるという行為であるため、細胞活性・・・すなわち回復関連を行うために必要な『生命力』のイメージが上手く理解できず、回復系や肉体強化系の魔法がほとんど出来ないという欠点がある事だろう。
これも認識による阻害であったが、この例に関して言えば、同様の理由で回復魔法が苦手な魔法使いは彼女に限らず多く、実際の冒険のメンバー構成では、そうした回復関係には、生命への力の還元を主に教え・学ぶ、神官や僧侶の類に依存する傾向がある。
従って、大きな視野で見れば、魔法というモノは、回復系であっても攻撃系であっても同じ『魔法』の枠から外れることはなく、根元を同じとする存在であった。
ただ、理解するが故にその知識が邪魔をしてしまい、本来存在しない『魔法の属性・分類』を生み出す結果となってしまったのである。
実際、理解する事が必要な分野でありながら、無知ほど偉大な魔法使いになる・・・とする、皮肉的な言葉が、この世界では存在している。
「生き延びるには力が必要だから、結構、努力したのよ」
サナは意味深に笑うカレンを見て、女故に腕力に関しては不利を否めない彼女が、本当に相当な苦労をしたのだろうと直感する。
『なら、その成果、俺にも見せてくれよ』
あからさまに挑発を意図とした言葉が、対岸木々の奥から放たれ、カレンとサナは同時に身構えた。
「派手な音がしたから来てみれば、噂の余所者か?」
木の陰から堂々と姿を現した男は、カレンとサナの姿を確認するや、値踏みするような目つきで言った。
「サナのお友達?」
「・・・・いいえ、顔を知ってるって程度よ」
まさか自分達以外の余所者とは思っていないカレンは、地元民に確認を取って予想通りの返答を聞くと、更に問いかけた。
「彼はお仲間?それとも・・・・道を踏み外した側?」
現在のカレンにとって重要な疑問の返答は、当事者本人から語られた。
「酷い言い様だな。新たな力を手に入れた、選ばれし者・・・・とか、格好良く言ってくれよ」
男は自らモンスターマスター側である事を誇示して、肉体の変化を開始し始める。
「なら、遠慮しないわ!」
カレンは左手に六牙の杖を持って右手を突きだし、三本の光の矢生成して同時に放った。
「!」
敵サイドと明言した途端の攻撃に男は面くらったが、咄嗟に跳躍してその直撃をかわす。変身を始めていたことで既に身体能力が向上し始めていたため辛うじて不意打ちを回避できたのである。
彼は通常の人間では有り得ない跳躍で数メートル離れた木に飛びつくと、重力を意に介さないかの様に、その幹に立った。
正常な位置から見て横向きに立ったまま、男は変身を完了させ、本人曰く新たな力を二人に晒した。
その姿からイメージされる生物はクモであり、頭部の上半分が複眼化した目で覆われ、身体は人間としての面影を残してはいたが、全身至る所に短い針の様な細い毛が生え、背中からは先端が鋭い爪と化した蜘蛛を思わせる節足が四対八本生えており、間違っても女性に好印象が得られる姿ではなかった。
「うぁ・・・・そんな姿になっちゃって・・・・自殺したくなったりしない?」
カレンは本気で思った。用途上、力を得るためにモンスターを受け入れる事が条件となる前提であるにしても、ここまでするかという思いが彼女にはあったのである。
「なりふりかまってないわね・・・・」
醜悪さと力が比例する傾向があるのかと思いながら、サナもそれに同意した。
「小娘等がっ!」
選ばれた者でなければモンスターマスターの力を得る事はできない。事実、不適合の結果、命を失う者を見てきたクモ男は、自分が成功例であることに優越感を抱いていた。
この姿は選ばれた者たる証であり、彼にとっては優秀な人材の証明という解釈も同時に生まれていた。それを認めらなかった彼は少し逆上し『格下』であるはずの存在に対し殺意をあらわにする。
それは精神的未熟者以外の何者でもなかったが、身体能力的には遙かに人を凌駕しているクモ男は、それを誇示するかのようにジャンプした。
「池を飛び越すつもり!?」
池といっても自然が長年かけて構築したものである。その広さは決して狭くはない。それを越えてこちらに肉迫しようとするクモ男の姿に、カレンは改めてモンスターマスターとなった者の非常識とも思える能力向上に驚いた。
「その程度、俺には苦にもならないさ」
カレンの驚きの声を耳にして、クモ男は優越感に浸った。
「でも馬鹿よ!」
カレンは驚愕の意志をいきなり切り替えて呪文を詠唱し、六牙の杖の先端から雷の矢を放った。
外見からして飛翔能力はまずないだろうと判断した上での魔法攻撃であり、命中すれば池に落下するだけでなく、電撃によって身体が一時的に麻痺して溺れるだろう事を見越しての行為であったが、その目論見は相手の飛翔能力とはまた異なる能力によって阻害された。
クモ男の背に生えた八本の節足が、身体の全面に回り込んでガードの体勢をとると、その重ね合わせた爪先で雷の矢を受け止め、無効化したのである。
「!?」
クモ男は何事もなかったように、勢いを殺すことなくカレン達に迫った。
「サナ!」
カレンは咄嗟にサナを突き飛ばし、自身も横っ飛びすると、その空間にクモ男が勢いよく着地する。
「そんな子供だましみたいな攻撃で、俺がどうかなると思ってたのかよ」
「思ってたのよっ!」
間髪入れずにカレンが光の矢を連射する。だが、またしてもクモ男の背の節足が身体の全面に展開し、断続的に迫る魔法攻撃を次々に受け止め霧散させていく。
「無駄無駄、魔法攻撃に自信があるようだが、俺の背にある足の爪は、あらゆる魔法エネルギーに反応して防御・吸収するんだ。何十発繰り出そうが、一発も当たりはしない」
得意げに背の節足を蠢かせ、クモ男はいった。
(まずい・・・)
彼の自慢話を聞いて、サナは状況の不利を感じた。
カレンの並はずれた戦闘力は、殆どが魔法に依存している。その魔法攻撃が通じないとなると、敗北色は濃厚だった。例え総合力で彼女がクモ男に勝っても、勝つことの出来ない天敵ともいえる存在なのである。
ここは逃げるしかない。そしてタールかウェイブによる肉弾戦主体の戦闘に持ち込むのが最善と感じたサナは、何とかしてこの場を脱しようと、その隙を窺ったが、当のカレンは、まだ闘う気満々で構えていた。
「やっぱり馬鹿よ貴方・・・・」
言い切る少女言葉に、クモ男は耳を疑った。
「何だと?」
「自分の持つ特徴を、事もあろうか敵に語るなんて、馬鹿の極みよ」
「そうか?知ったところでお前に何ができる?この情報を得たところで何も出来ないでは、ハンデにもならないだろ」
彼にはその忠告が負け惜しみにしか聞こえなかった。主張するように、知られようと知られまいと、対応できなければ意味はなく、出来るはずがないと信じていたのである。
「そこまで自信があるなら思い知りなさい。魔法と・・・私の恐ろしさを!」
叫んだカレンが後方に飛びながら右腕を頭上に掲げると、そこに魔法による光の集中が始まり、ハンドボール程の大きさの光球が素早く作り出された。
「お前こそ、俺の恐ろしさを教えてやるよ!その身体でな」
クモ男も一端後方に退いて間合いを取ったが、すぐに地面を蹴ってカレンとの間合いを詰める。
「はぁっ!!」
カレンが右手の光球を投げ放つと、クモ男は反射的に背中の節足を前面に向けて防御の態勢に入った。魔法攻撃など問題外であった。そのまま勢いを殺さずに突進し、肉薄する。そして接近戦に持ち込めば、魔法攻撃も封じ動きも封じることは造作もなく、あとは思うがままの時間が官能できる。
それが彼のシナリオであった。他の可能性など有り得ないはずだった。確かに彼は魔法使いという存在の天敵であり、身体能力も体力も格段に上の存在ではあった。
だが、そんな彼にも明らかに劣る点があった。それが実戦経験である。
ドォン!!
カレンの放った光球は、クモ男に辿り着く前に失速して手前の地面に落下した。コントロールミス・・・と、通常戦闘では思われただろうが、そうではない。
既に単純な魔法攻撃は無効化される事を知る彼女は、あえて迫る敵の手前に魔法を着弾させたのである。
そこは特に際だった魔法耐性も防御能力もない単なる地面でしかなく、彼女の放った爆裂の魔法攻撃を受けて、激しい爆発を起こした。
「くあぁぁっ!」
その爆風の煽りに加え、砕けた地面や石の破片が飛び散り、クモ男を直撃した。思わぬカウンターを受けた彼はバランスを崩して転倒する。
「ご自慢の足も、やっぱり物理攻撃には無関心のようね」
地に伏すクモ男に侮蔑の眼差しを向けると、カレンは新たな魔法を詠唱し始める。
「こ、こんな程度の攻撃で俺が、モンスターマスターが倒せるとでも思っ・・・・」
「もちろん思ってないわよ」
相手の言葉を遮って肯定すると、新たな魔法を繰り出した。
それは水をコントロールする魔法であった。魔力の干渉を受けた池の水が、水面からほとばしった。あたかも水中に隠れていた大蛇が、得物に襲いかかるかの様に飛び出した水の触手は、くるりとクモ男を一周して側面からぶつかった。
魔力によって生じた水ではなかったため、何よりその量が多すぎたため、クモ男の防御節足では抑える事が適わず、突如生じた激流に、彼の身体はあえなく流され、池へと突き落とされた。
クモ男の身体が水面に沈み、沈殿していた泥が舞い上がって水を濁してその姿を覆い隠すと、カレンはすかさず見当をつけて、氷の矢の魔法を数本は放つ。
氷の矢が命中した水面は瞬時に凍結し、水面の一角に小さな氷棚を作り上げて乱れていた水面を一気に落ち着かせる。
「魔法は直接敵に命中させなきゃならない物ばかりじゃないのよ」
氷の塊に向かって説明するカレン。その後方で傍観者となっていたサナは、不利と判断していた状況を苦もなく切り抜けたカレンの手際に驚きを隠せなかった。
「強い・・・」
それが率直な感想だった。単に強いというだけなら、今、この場所に来ている現実が証明してはいたが、カレンを含めた一同は、そうした言葉で表す意味合いを更に熟達させたような存在だという事を改めて実感した。
「さ、未熟者は片づいたし、帰りましょう」
『待てよっ!』
カレンが池に背を向けたその直後、氷の中からクモ男の声が響いたかと思うと、氷塊を砕いて彼が姿を現し、健全な姿を誇示して不敵な笑みを浮かべた。
「まだ勝負は終わっちゃいないぜ。次のラウンドに突入だ」
「・・・・」
カレンは人知れず舌打ちする。
優勢に事を進めた彼女ではあったが、基本的にな魔法の防御能力が高いクモ男は、結局のところ闘いにくい相手には違いなかった。
連続した不意打ちにより、そこそこの有効打は与えても、決定打には届いておらず、同じ手による成果にも過剰な期待はできない以上、長期戦はやはり不利であり避けたい現実であった。
相手が森のモンスターの類であれば本能的に、人間でも先の連続攻撃に怯んで、戦闘続行に二の足を踏むものだが、モンスターマスターという過分なる能力を手中にして増長した人間には、そうした部分が欠落してるのか、あるいはモンスターマスターとなったが故に、負けたままではいられないのか、結果として状況は彼女の望まない方向へと移りつつあった。
「あなた一人で?また吹っ飛んで行くのがオチよ」
「いい気になるなっ!これまでは俺が油断してたんだ。そもそも、多少腕が立っても魔法使い・・・それ以前に一人の人間である以上、俺が負けるはずがない。この巡り会わせになった時点で、お前の命運は尽きてるんだよ」
やはりモンスターマスターは共通して自身を過信している。これまでに遭遇した相手の誰もが確かに誇れる能力を保有はしていた。だが、優れた能力ではあっても、絶対な物ではないという事実を認識していないとカレンは思った。
牽制のための挑発的発言であったが、クモ男は怯むことなく自分の勝利を信じて疑わない自信過剰な返答を返し、戦闘続行の意志を示した。
(この馬鹿一人なら、勝てない相手じゃない・・・けど・・・)
相手の戦闘経験不足は緒戦で把握していたため、苦手なタイプであっても勝つ自信はあった。だが、愛用の鎧ミファールが、先程から周囲に対する警戒を怠っていないのを感じていたカレンは、クモ男以外のモンスターマスター・・・つまりは伏兵の存在を気にせずにはいられなかったのだ。
クモ男と全く違うタイプのモンスターマスターが一体参戦するだけで、彼女の負けはほぼ確定すると言ってよく、無断外出に近い状態では、都合の良い仲間の応援も望むわけもいかず、彼女は判断を迫られる。
「どうした、かかって来ないのかよっ!」
カレンの思案による状況の停滞が、自分に対する警戒による物と勘違いしたクモ男が、勝ち誇った様に威嚇して間合いを詰めると、口から粘着性の糸を吐いた。
「!?」
それは偶然にも不意打ちという形となった。相手が下級のモンスターマスターと判断した結果、周囲の、より高い危険の可能性に意識が向いてしまい、目の前の驚異に対する注意が瞬間的にではあるが散漫になってしまっていたのである。
「カレン!」
その窮地を救ったのはサナだった。
彼女は、反応の遅れたカレンに体当たりして突き飛ばす形で糸の直撃を回避させたものの、それがもとで自分の対応が遅れ、身代わり的に糸を身体に受けてしまった。
「サナ!?」
「ちっ、雑魚がかかったか!」
クモ男は忌々しげに唸ると、糸を引いて振り回す。
「きゃぁぁっ!」
糸によって自由を奪われたサナの身体は軽々と引き寄せられると、まるでゴミを扱うように脇に放り投げられる。
本来なら、糸に絡まり受け身を取ることも出来ない彼女は、ただ落下してダメージを受けるのを待つのみだったが、尾のようになびいていた糸が木々の枝や幹に付着し、地面への激突を救った。
だが、状況的には大きなクモの巣に捕獲されたに等しいものとなり、以後は一切闘いに関与する事は不可能となってしまった。
「サナ!」
これで逃げるというカレンの選択肢は消えた。当事者の感情を含まない客観的な選択肢にはサナを見捨てるとする選択も存在するが、彼女はそうした選択肢を選ぶタイプではなかった。
だが、長期戦も状況が不利になる可能性が高い以上、彼女にとっての最善の選択肢は、迅速な決着しかなかった。
「今度はお前が絡まれなっ!」
再びクモ男が糸を吐く。鋼以上に強靱で柔軟な糸で捕らえる事さえできれば、あとは好きにできる。邪な思いを込めて放たれた糸であったが、それはカレンが無造作に放った炎の玉によって消滅させられた。
「!?」
炎の玉は、糸を焼きつつ、その発射元であるクモ男の顔に向けてまっしぐらに飛来した。思わず彼が身を退くと同時に、背中の節足がそれに反応して炎の玉を受け止める。
「ふっ、ふん・・言っただ・・・」
流石に顔面間近の出来事で怯みはしたものの、魔法攻撃の無意味さを改めて伝えようとした矢先、彼の視界いっぱいに拳が写り、直撃した。
「ぐあっっはぁっ」
不意な一撃に、クモ男がよろめく。炎の玉の防御行為によって彼の視界が節足に遮られた瞬間を狙ってカレンが間合いを詰め、顔面を素手で殴りつけたのである。もちろん拳には少なからず気が込められていたため、そのダメージは女性のパンチとしては桁違いな威力になっていた。
「あら、吹っ飛ばなかったわね・・・」
それは相手に感心したというより、自分の拳の威力の低さに呆れたという感が強かったが、そうした相手の心情が見抜けなかったクモ男は、その発言が、自分に対する侮蔑と感じて更に逆上した。
「あ、当たり前だ!女の力で俺がねじ伏せられるかよ!」
怒声を上げて腕を振るい、眼前に立つ彼女を突き飛ばそうとするが、相手は素早く身を屈めてそれをやり過ごすと、左手にしていた六牙の杖に魔力を込めた。
所有武器の威力を増大させる魔法によって、杖が淡い光に包まれたのを確認するや否や、カレンはそれを突き立てる。
ガキッ
近距離からの一撃は命中するかと思われたが、クモ男の背の節足は素早く反応して集まり、その攻撃を受け止めた。
「無駄無駄、物に込めようがトリッキーに動こうが、魔力である以上、この節足の防御反応に死角はないっ・・くはぁっ!!」
今度は腹部だった。魔力ではなく気を込めた拳が再びクモ男に叩きつけられ、彼にダメージを与えたのである。そこへ更に一撃を加えるべく、カレンが拳を握ると、彼は慌てて後方に飛び退き、間合いを取った。
「き、貴様っっ!!」
「どう?少しは自分の弱点を理解した?」
殴りつけた拳をプラプラと振ってカレンは笑みを浮かべる。魔法攻撃に対しては意志とは無関係に反応して防御する『節足』も、物理攻撃には全く無反応である事の問題点を彼はこの時、初めて思い知った。
それは彼の実戦経験の不足を物語っており、得た能力を存分に発揮する機会が無かった事をも示すものでもあった。そもそも、対魔法防御能力など、森のモンスター相手にはあまり有効な能力ともいえず、使う機会が皆無であったため、これまでその欠点に気づかなかったのである。
素質と経験があれば自分の身体である、自由に動かせるようになって、それも克服できるであろうが、いまこの瞬間に闘いながら成長するほど、クモ男の素質は高くない。素質としてあったのは、クモ系モンスターとの相性だけであり、その攻撃行動もモンスターの本能に依存している傾向があった。
「馬鹿な・・・馬鹿なっ!」
彼は正直ショックであった。仲間内の勝負での劣性ならいざ知らず、人間、しかも本来優位であるべきはずの魔法使いを相手に自身の問題点を悟らされたのである。人を越えたと慢心するモンスターマスターとしては、そのプライドは大きく傷つけられたと言ってよいだろう。
ここでデキた者であれば、己を見直す道を選ぶであろうが、力に溺れた彼はその正道に戻る機会を見逃した。
特に努力も必要のない体質的な合致で得た能力を、選民的なものと誤解した彼は、高位種のプライドなる曲解した感情に流され、自分を見下す下級生物に対する復讐心を滾らせたのである。
「てぇめぇ~!捕まえて嬲ってやるだけで済ませてやろうと思ったが、絶対に殺す!どれだけ小細工しようが、こっちは攻撃が一発当たれば決まるんだ。覚悟しやがれっ!」
そんなあまりに短絡的な発言に、カレンは思わず頭を左右に振った。
「・・・貴方、本当に死ななければ直らない部類の人なのね」
「うるせぇっ!俺はもう、人を超越している!」
クモ男は糸を木の枝に向けて吐き、それをロープ代わりにしてターザンばりにカレンに迫る。
「能力だけはね」
冷たく言い放ってカレンの右手刀が空を切ると、そこに風の刃が発生し、相手めがけて迫った。もちろん、本体を直接狙ってはいない。目標は魔法防御能力を持たない糸である。
だがそれはクモ男も想定していた事であり、彼は糸が切断される寸前、新たな糸を放って急激な方向転換を行った。
「!?」
それはこれまでの動きを考えれば、目を見張る機動であった。怒りに我を忘れていよいよ能力の限界に挑みだしたのか、モンスターマスターの呼称に相応しい身体能力が発揮されていた。
「けぁぁぁっ!」
無我夢中だった。クモ男はとにかく一撃を与えるべく、考える限りの力を振り絞った。たかが人間にここまでしなければならないのは屈辱であったが、それを晴らすチャンスが一撃後にあると信じていた。
右に左に、枝と糸を利用して素早く移動したクモ男は、備わっていた動体視力でカレンの隙を見出し、その背後に着地する。
「やった!」
「後ろっ!?」
「遅いっ!」
これまでの劣勢の恨みを全て叩きつけるかのごとく、手加減ない腕の一撃が振り下ろされ、カレンの背を痛打した。
異形で禍々しい鎧ではあったが、表層の様子と感触からレザー系の鎧と判断したクモ男は、今の一撃は鎧の上からでも十分に衝撃を伝え、ダメージを与えていると確信した。
人ならざる者の痛烈な一撃を受けた女体はもんどりうって倒れ、転がった。
「はっはぁ~!どうだよ?本気さえ出せばお前なんて一分で・・・」
「あ痛ったぁ~~~」
優越感に浸ったクモ男の言葉は、場違いとも思えるカレンの言葉と、立ち上がるという行動で中断された。
「な・・・に?」
クモ男は驚愕した。彼のモンスターマスターとしての人生は短かったが、これまで何度か森のモンスターと闘い、自分の一撃がどれ程の威力を秘めているか位は把握していた。したがって先程のタイミングであれば、女性の着用できる程度の鎧の防御力など無関係に背骨を粉砕していて当然のはずだったのだ。にもかかわらず相手は健在であり、転んだ程度でしかない様な様相を見せていたのである。
それは魔鎧ミファールだからこそ生じた現象であった。ミファールは、主に向けて加えられた衝撃を、あの一瞬で可能な限り分散させて致命傷に至るのを封じたのである。
それでもやはり完璧な緩和にはいたらず、転倒となったわけだが、粉砕骨折・内臓破裂に比べれれば遥かにましな怪我と言える。
「な、何で動ける!何で無事だぁ!」
「うなる前に!敵の反撃に備えるべきよ」
相手の迂闊さを叱咤しつつ、立ち上がったカレンが駆け出した。
彼女は手早く六牙の杖に魔力を付与すると、それをクモ男の方へと投げ放つ。
だがそれは直撃コースではなく、その頭上に至るコースを辿っていた。
「またフェイントか!?」
これまでの闘いで、痛手という形でカレンの戦法をそれなりに学んだクモ男がそう判断すると、それを裏付けるかのように、両手を発光させたカレンが迫っていた。
(なめるなっ!)
手の内が分かっていれば惑わされない。クモ男は杖とカレン、両方の動向に注意を払うと、背の節足に意識を傾け、頭上を意味ありげに通りすぎようとする杖を一対の節足で払い飛ばし、その瞬間を狙ってカレンが放った二発の光弾を別の一対で受け止めた。
「今度こそ死ね!!」
相手の攻撃をさばいたクモ男は素早く駆けだし、その間合いを近接戦闘のそれに持ち込んだ。
先の攻撃の対処により、二対の節足がまだ完全に体勢を取り戻していなかったが、彼にはあと二対の節足が控えていた。これまで防御に用いてはいたが、その鋭い爪は十分に攻撃に転用できる物であり、殴打によるダメージが致命に至らないのであれば、その爪先で顔面を刺し貫いてやろうと彼は画策していた。
攻撃をより確実に成功させるべく、クモ男は間合いを詰めると、両腕でカレンの鎧の肩パーツを掴んで動きを抑え、同時に背の節足を繰り出した。
この状況で左右二方向から迫る爪を避ける術はなく、小生意気な娘は無惨に頭部を貫かれる・・・・はずだった。
節足は、本体頭部がその脳内で抱いていた未来図を実現させなかったのである。
それは彼の身体が意志に反して動いた・・・少なくともその瞬間は、そう思えた現象であった。攻撃を行ったはずの四本の節足は、ただ真っ直ぐに突き進んで目標を貫くだけの行為を実行せず、事もあろうか全て右に逸れたのである。
「!?」
左側の節足の爪先が僅かにカレンの頬を掠め少量の出血を生じさせたが、もちろんそれは彼の意識した事ではない。それ故に動揺はひときわで、その思考はこれ以上なく混乱したが、その答えは命を代償として得ることとなる。
目標を逸れた彼の節足は全てカレンの左手に殺到していた。
「なっ?」
見ると彼女の左手は放電を放ち、魔法が準備されていた事を物語っていた。これに攻撃途中であった節足が反応し、防御のため動いたのである。
(魔法を込めた左手を囮にした!?)
「自分の弱点、理解した?」
先刻と同じ台詞をカレンはいうと、淡い光に包まれた右拳を繰り出した。
何かと思えば結局は同じパターンかとクモ男は思った。自分の本能的反応を利用して、不可避なはずの攻撃をかわした事には驚愕したが、その次の行動が結局のところ同じなのである。光る拳には間違いなく魔法の力が付与されている。でなければ女の力では致命傷には至らない事を相手も把握しているのだ。だが、魔力を込めた拳なら、一呼吸動きの遅れていた二対の節足の防御反応で十分対応できる・・・と、彼は最終的に判断した。
しかし、迫る拳に彼の節足は何ら反応を示さず、顔面に、下から上へと突き上げるような一撃をまともに喰らう事となる。
ゴシャッ!
鈍い音と共にクモ男の顔面の骨の大半が砕け、ハンマーを叩きつけたかの様な一撃が彼の脳に大きな衝撃を与えた。
(な・・・ぜ・・)
がくりと脱力する中、かすれる声でクモ男は問う。
「光ってたから魔法かと思った?そうじゃなかっただけの話よ」
魔法とは異なる力の付与。クモ男の思考は、そんな物があるのかという疑問に至るより先に、魔法にしか反応しない自身の防御能力を呪った。
自分の弱点を理解する・・・・
自分の能力を敵に明かす愚かさ・・・・
カレンに指摘された本当の意味を、彼はこの時初めて悟るのであった。
「さよなら、お馬鹿さん・・・」
最後の言葉を耳にしたとき彼の意識は途絶え、完全に力を失った身体は大きく倒れて池に落ち、そのまま沈んで行った。
「何とかしのげたわね」
水底でまだ微かに姿を見せるクモ男の身体が微塵も動く素振りを見せない事を確認して、ようやくカレンは息を大きく吐いて安堵する。
実際、背の節足をもう少し使いこなせていたら、カレンの採る戦法は大きく変更せざるを得なかった。それは即ち、ミファールの擬態武装の使用を意味するが、今回はそれを披露せずに済ませられたことを幸運に思った。
今尚、警戒心を解かないミファールの反応が、どこかのそれなりの殺意を放つ者が潜んでいる事を示し、その者に手の内を明かさずに済んだからである。
未だ彼女一人である。もし相手が新たなモンスターマスターであれば、隠し手を温存しておいた方が得策なのは当然であった。
「カレン?」
クモの巣に捕らわれたままの状態のサナが、すぐに助けに来てくれない事を不審に思って声をかけたが、カレンは少し待ってと手で合図して、周囲を見回し口を開いた。
「いるんでしょ?」
場所を特定できないため、全方位に意識を集中して威嚇するが、森は静けさを保ったまま、その問いかけには返答しなかった。
だが逆にそれが彼女の警戒を更に促す事となる。あまりに静かな森は即ち、小動物や虫が何かに警戒している証でもあり、何らかの強き存在がいる事を自然が証明している現象でもあったのだ。
「・・・・・・」
そのまま待つこと数分。ついに焦れてか、向こうから声が生じた。
「わかった・・・・出ていくから、攻撃は控えてくれ」
そうして森の木々、囚われのサナの死角になる所から姿を現したのは、人間の青年であった。
容姿・体型に関して言えば、特筆すべき特徴は見受けられないものの、自信のみなぎった姿勢と瞳の輝きは、彼もまたモンスターマスターであることを暗に示しているようでもあり、威風堂々さすら感じられた。
「貴方、誰?」
「俺はレギアス。あいつの同類だ」
男は池の一角、沈んだクモ男の方を指さし、自身の立場を明らかにした。
「レギアス!」
その声を聞いたサナは途端に顔色を変えた。
「カレン、彼は・・・」
慌てだすサナを手で制止し、カレンは相手を観察した。
「それで、何の用?一目惚れしてストーカーしてたって話は信じないわよ」
挑戦的に放たれた言葉に先手を取られ、似たような冗談を言おうと思っていたレギアスは苦笑した。
「いずれ闘う事になりそうな君の手の内を観察していた。魔法に関してはかなりの使い手だけど、肉弾戦もなかなか・・・・まさか女が素手であいつを仕留めるなんて光景が見られるとは思わなかったよ」
「彼を捨て駒にしたのね・・・・」
「闘いを望んだのは奴だ。だが結局、過信と慢心で命を失った。まぁ、あんたが魔法以外の手の内を持っている事を証明させただけでも上出来ではあっただろうけどね」
「抜け目ないわね。で、それを踏まえて闘うつもり?」
カレンが徒手空拳で構えを取ると、レギアスは両手を上げて首を横に振った。
「いいや、今回は止めておくよ、手の内を見たと言っても片鱗だしな、勝てても手傷を負って残る二人との闘いに支障を来したら大変だ。それに何より、俺の準備が整っていない」
「準備?」
「村の連中に聞けば分かるさ。それじゃ、闘う日を楽しみにしてるぞ・・・・」
そう言い残してレギアスは木々の陰へと姿を消す。
「こっちは楽しみじゃないわよっ!」
叫んで彼のいた辺りに対し、数発の魔法弾を打ち込むカレン。だがその手応えはなく、相手の気配は消えていた。
彼女はミファールを頼ったが、生きた鎧も相手の存在が消えたのを察したらしく、既に警戒を解除していた。
そうした状況の変化は周囲にも如実に表れ、全体に漂っていた重い雰囲気が緩和し、これまで身を潜めていた小動物等が普段の生活に戻り始めていた。
「・・・・行った・・・?」
邪な気配が消えてカレンは呟く。やがてそれが戻って来る気配もないと察するや、彼女は身動きのままならない状態になったままのサナに視線を向けた。
「サナ、大丈夫だった?」
「え、ええ・・・」
顔色はまだ悪いままだったが、特に外傷のない彼女は頷いた。
「あのレギアスって、何者?」
「・・・・この騒動の張本人の一人よ」
彼はやはり諦めていなかった。先程の僅かな言動でそれを確信したサナは、やりきれない思いに胸を痛めた。
「他のモンスターマスターみたいには行きそうにないわね」
この時のカレンは相手の実態を何一つ把握してはいなかった。だが、第一印象からなるその感想は、的確に当を得ていた。
「とんだ、試行だったわね・・・・」
元はと言えば、新しい杖の調子を見るだけであったはずの出来事が、一戦闘を繰り広げた上に、敵の頭領格との対面にまで発展してしまい、事態の推移の意外性というものの幅広さを痛感した。
・・・・・と、カレンが孤軍奮闘していた頃、
ウェイブは未だ武器の選出に勤しみ、タールは無数の猫娘達の争奪戦対象となって女体の中に埋もれていた。
この事実を知った時、彼女は二人に八つ当たり的行為を行使したが、それはささやかな出来事でしかなかった。