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2012/01/01(日)に投稿された記事
第2章-獣魔の街編- 第12話 そして再戦準備
投稿日時:00:06:44|コメント:0件|》本文を開閉
ディレクトリ:くすぐりの塔AF -魔王の後継者達-
2012年はいい年でありますように。
今年、勉強したことは3つ。
1.東京→長野→新潟→山形→仙台経由の高速バスを乗り継ぐと、結構無理矢理入れる
2.人間結構1日100キロは歩ける
3.最強の運搬手段は折りたたみ式リヤカー
そんなわけで久しぶりにくすぐりの塔だ!!
キャンサーさんが執筆されたくすぐりの塔、第12話です。
キャンサーさん遅くなってごめんなちゃい・・・
気持ちの整理つけられないなんて俺弱いっすよね、だがもう大丈夫だ!!
激闘を終え、一時の安息の中で息をついたタールは、ふと周囲を見渡し呟いた。それは警戒というわけではなく、本来起こるべき事態が起きなかった事に気づいたが故の危惧だった。
「何が?敵の数が足りないとでも?」
剣そして回収した投擲ナイフの数を確認していたウェイブが、それを聞きつけ問いかける。
「いや、お前等は来て早々に戦闘だったから知らないのかもしれんが、ここは既にドラゴンのテリトリーの近くのはずなんだ」
「本当なの?」
六牙の杖を回収したカレンが、タイミング良く戻ってその発言を耳にして、軽い驚きを露わにした。
「セルシオの話では・・・・な」
タール自身、それに確証を持っていなかった為、仲間の疑問に対し、歯切れの悪い返答とでしか応じられなかった。
「でもそれだと、少しおかしくないか?」
聞いた情報が真実と仮定した時点で、ウェイブはたちまちタールと同様の心情を抱き、周囲を必要以上に警戒しだす。
「あの・・・何が?」
合流を果たした上に、当面の強敵を撃退し、本来なら喜ぶべき所を真逆の表情となりはじめたウェイブ達に、セルシオがおそるおそる問いかける。
「なぁ、ここは一応、ドラゴンの生息圏内に入ってるはずなんだよな?」
「え?はい・・・多分・・・そのはずです」
自分の質問がウェイブの質問で返され、セルシオは戸惑いながらも答えた。
「なら、何故、姿を現さない?」
「はい?」
タールの更なる質問の意味が解らず、彼は怪訝そうな表情を浮かべる。
「自分の縄張りで、あんな派手な戦闘があったってのに、何故ドラゴンは様子を見に来ない?」
改めて周囲を見回し、その姿が無いのを確認してタールは言った。一般の街でも、すぐ外で喧嘩騒ぎが起きれば、何事かと様子をうかがうものである。
彼等が繰り広げたのは、そうした物で済ませられるレベルの騒ぎでは無かった。周囲の木々は倒れ、岩が砕けるという局所的災害とも言うべきもので、ある程度の知能があれば、何が起きたかを確認したくなるのが当たり前の事態であり、獣やモンスターであっても、縄張り内で起きた騒ぎの根元を排除する行動に出ても何ら不思議はない。
実際、ドラゴンにそんな行動を取られれば、彼等の命運に関わってくるが、あって当然の事態が起こり得なかった事に、疑念を抱いたのである。
「既に先を越されているとか?」
「そ、そんなはずは・・・」
あり得る上に不吉な予測をカレンがすると、意外にもセルシオが慌てた声をあげた。
「そ、そんな事になったら、何の為にここまで来たのか・・・・」
そこまで言って彼は言い詰まる。
「何にしても、進むしか確認の方法はないだろ」
「ま、そう言う事ね。望む望まないに関わらず、結果を見届けないと今後の行動すら決められないものね」
剣を鞘に戻してウェイブが出発を促すと、必殺の魔法を放って左右六本の指の骨に亀裂を生じさせ、ダメージ的には一番深刻なはずのカレンが、腰に腕をあてた格好で余裕を見せつけ、真っ先に同意する。
まだまだ元気という雰囲気もあり、一応、応急処置としてミファールの腕パーツから伸びた細く薄い触手がダメージを受けた指を包帯のように保護してはいたが、実際には武具を持つ握力は皆無であり、肉弾戦はもとより、指に負荷のかかる行為全てがほぼ不可能なのが実状であった。
(ちょっと辛いな・・・・)
その様子を見てウェイブは内心思った。ドラゴンの存在以前に、未知数ではあるがレギアスと同クラスと予想されるもう一人の首謀者セイムと闘うには、万全とは言い難い現状で不安材料が多すぎた。
どちらと相対するにしても戦力が欲しいところで、その候補にラーディとサナがいたが、移動力の差の関係で、彼等は未だここに向かっている最中であり、それをのんびり待っていられる状況でもなかった。
せめて相手の能力が判らないまでも予想だけでも出来れば、多少なりとも対策も検討できたのだが、モンスターマスターの能力予想程、困難な物はなく、基礎概念が判明したとはいえ、個々にどんな能力を秘めているかなど、まるで見当がつかないのである。
思えば思うほど、不利な材料が蓄積されている気がして、ウェイブは無意味な予想をすることを中止した。
しかし現実はそうした予想を外す形で進行していた。
タールが当初目論んでいた小高い場所での地形確認をウェイブが代行した結果、地形や木々の状態等から、やはりそこは大型生物の生息区である事が判明する。更には、何かが頻繁に出入りしている痕跡のある洞穴までも発見し、一行はそこへ向かう事となった。
この一帯が『誰』の物か知っているのであろう。その道中において野生モンスターとの遭遇はなく、一行は安全な行軍が行えた。
がだ、平穏な森で一歩一歩進むにつれ、各員の緊張感は徐々に増していき、敵対生物がないまま目標の洞穴前に達した時には、既に臨戦態勢に近い心理状態にまで達していた。
だが、事ここに至っても、ドラゴンはその姿を現さなかった。
野生生物であるそれが、複数の人間の接近に気づかないとは考えにくく、先を越されたと言う可能性が大きくなる中、それを確認すべくウェイブ達が動き出す。
手始めにウェイブとカレンが散って、左右から洞穴に近づき、その手前で気配を伺い、すぐそこに何もいないのを確認すると、待機していたタールとセルシオを手招きする。
タールはヘビー・シックルを構えながらゆっくりと前進し、その影に隠れる様にセルシオが続く。
ゆっくり、慎重に距離を縮め、何もないまま洞穴間近まで来た二人は、そこで左右に分かれてウェイブ達と合流し、しばらく緊張した面もちで十分に待機した後、何も変化が起きないのを確認して、穴の中をゆっくりと覗き込む。
「カレン」
ウェイブが小声で呼ぶと、小さく彼女は頷き短く魔法を詠唱して光の玉を作り出し、洞穴の奥へと送り込む。
光の玉はゆっくりと進行して、闇に覆われた空間を照らして行く。
しばらく先に進み、確認できた範囲に『目標』がいないの確認すると、一同は揃って頷き、光を追うようにして洞穴に入って行った。
確証はまだない。だが、大型生物の巣と思わしき痕跡が所々に見受けられ、嫌でもここが魔窟の一種であることを示していた。
カレンは数メートルおきに新たな光球を作り出しては等間隔に配置し、自分達が闇に孤立するのを警戒した。
光球は一同を導くように先導する最中、カーブにさしかかり一瞬視界から消える。無論、発する光そのものは途切れていないため、それを追って曲がり角に入った彼等は、おもむろに『それ』に遭遇する。
「「「「!!!!」」」」
曲がり角に入ってすぐ、そこはかなり開けた空間になっており、そこにドラゴンがいたのである。
存在の予想はしていた。
遭遇の警戒もしていたつもりであった。
そもそも相手は巨大生物である。先に彼等を察知して、地響きを立てながら近づいて来るだろうという先入観が彼等にはあり、待ち伏せされてるという選択肢がすっぽりと抜け落ちていたのである。
これには全員、声にならない悲鳴を上げて飛び上がり、慌てて曲がり角の影に飛び込んだ。
(いた!イタッ!!居た!!!ドラゴんっ!初めて見たっ!!)
声を殺して叫ぶ・・・とでも言うのだろうか?タールが全身を使って心情を表現するが、伝えずとも皆、思いは同じであった。
(判ってる。俺も見たんだ、落ち着け!)
(ね、居ましたでしょ!ドラゴン!いましたよ!ねっ!ねっ!)
(だから、あんたも落ち着け!)
パニック状態になっている大男と非戦闘員をなだめるウェイブ。彼も例外なく驚いてはいるが、それ以上に慌てふためく者を前にして、そうなるタイミングを失う形となっていた。
ウェイブはちらともう一人の様子を伺う。そのカレンも当然ながら驚きを隠せずにいたが、二人のように取り乱してはいない。と、言うより恐怖に近い驚きによって硬直しているというのが正しい状況だろう。
(どうする・・・・)
ドラゴンがまだ居たことは歓迎できる事態であった。だが、想像とはだいぶ異なる事態に、ウェイブ達は行動を決めかねていた。
今はまだ彼等の方へ来る気配はないものの、あそこまで近距離に迫ったのである。ドラゴンが気づかぬはずはなく、かといって大慌てで逃げようものなら、追ってくる可能性は高い。
(・・・・あ~・・・やっぱ、闘うしかないだろ)
(こ、ここでですか?)
何事もなく幾分時間が経過し、少し落ち着きを取り戻したタールが、当初の目的を口にする。
(そりゃ、外の方が闘いやすいけど、それは向こうも同じだよ。向こうはドラゴン。空を飛ばれて攻撃されたら、こっちの勝率は皆無。でも、ここなら飛べないから例の毒石の剣が有効に使える・・・はずだしな)
ウェイブも同意し、僅かな望みをタールの所有物に求めた。どのみち不利は避けられないのなら、その差を少しでも縮める努力が必要であった。時間があれば装備や人員、そして修行といった手段も得られたが、その時間が無いため、唯一といっても良いだろう「環境」を利用するしかなかったのである。
(はぁ・・・・)
どのみち反対しても聞き入れてもらえないと判断してセルシオは曖昧に頷き、どうしてこうも無茶ができるのか、その思考を理解しあぐねる。
一度、意を決した三人の行動は素早く、ウェイブとタールが同時に、一呼吸遅れてカレンが、隠れていた陰から飛び出し、ドラゴンのいる空間へと飛び込んでいく。
「いくぞっ!」
「おぅっ!」
「はぁぁぁぁっ!!」
威勢の良い声が洞窟内に響き渡った。
(無茶苦茶だ!)
その場に残ったセルシオが、その行動を一番明快な表現で評する。
先だってのレギアスと同様の死闘が、否、それ以上の激戦の始まりを予感して、彼は縮こまったが、突入の雄叫び以降の声や戦闘音が全く生じなかった。
(・・・・・・?)
睨み合いが生じたにしても様子が変と感じたセルシオは、恐る恐る中の様子を覗き込む。と、同時に中から眩い光が発生して、一時的に彼の視界を白く奪った。
「う!?」
思わず顔をしかめる。だがそれは、ここまで来たのに使用した魔法と同様、単なる光であり、攻撃の類ではなかった。静寂のまま、ただ時間が経過し、回復した彼の目が見た物は、最初に見たときの状態のままのドラゴンと、その周囲にいる三人だった。
「あの・・・ど、どうしたんですか」
見ただけでは正確な事態が判らなかったセルシオは、ゆっくりと彼等の方に近づき、声をかけた。
ウェイブはドラゴンに近づき様子を伺い、タールとカレンはその後方で不測の事態に備えている様で、先の光は調べごとをするためにカレンが放ったより大きい光源だった。
「死んでる・・・・」
ドラゴンの様子を見ていたウェイブが言った。
「え?」
思いもしなかった返答にセルシオは驚き、ドラゴンへと駆け寄ろうとするが、それをタールが制止した。
「正確には死にかけてるみたいだ」
言われてセルシオはドラゴンの様子を見た。
確かに呼吸による腹部や首の動き、口元から生じる空気の流れはあった。しかしそれはその巨体からすれば遙かに小さく、まさしく死を間近に迎えた存在の姿であった。
「でも何で?見る限り、エルダードラゴンでもないのに・・・」
エルダードラゴンとは、年老いたドラゴンの総称である。
人間が「見て」ドラゴンの年齢が判るはずもなく、また見分け方すら伝わっていないこの世界である。セルシオの発言はあくまでも個人的見知に基づいての発言であった。だが、 確かに表皮の様子を見る限りは、誰もが老齢とは思えなかった。だからこそ、それが死にかけている状況に合点がいかなかったのである。
「ここから見ても外傷は皆無よ」
「脱皮中・・・なんてあるわけないし、ましては卵を産んでいるわけでもない」
まるで判らない様相でドラゴンの周囲をうろついていたウェイブであったが、ふとドラゴン以外の空間を見回し、一つの可能性を見いだした。
「ひょっとして病気・・・」
「いや、毒じゃないか」
この状況で最も可能性の高い仮説と思った自身の発言を、タールが遮った。
何を根拠に・・と、訴えようと視線を向けると、その発言者はある空間を促した。
そこには幾つかの果物が食いかけの状態で転がっていた。が、ただの果物ではない。そのサイズが通常の十倍はあるだろう、ドラゴンサイズに育った果実だったのだ。
未知の果実であればその仮説にも疑問が生じただろう。だがこれは、既存の果実が有り得ないサイズになっているだけなのだから、人工的に・・・つまりは魔法の類で創造された可能性が否定できず、同時に毒物が混入している可能性も否定できなかったのだ。
「毒か・・・」
今の彼等にそれを検知する装備はない。軽く口に含んでみる・・・・と言う乱暴な手段もあるが、もし本当に毒なら、ドラゴンをこの様にするほどの毒である。人間など僅かな量で致死となる可能性が高いため、ウェイブは単純明快な確認行動を避け、再びドラゴンの方へと近寄る。
「・・・・・・」
ぎりぎりまで近づき、顔を剣で軽くつついたり、瞼をこじ開けて瞳を見たり・・・・かなりの冒険もしながら様子を伺っていた彼は、それらの反応を確認して一応の結論に達した。
「正解かもしれん・・・・中毒の症状がでてる」
もちろん彼にドラゴン医学の知識があるわけではない。医者ですらないが、彼には冒険者としての経験による知識があり、それに基づいての結論であった。
「ドラゴンが毒を誤飲したんですか?」
彼が見つめる大きな果実と発言の行き着く結論をにわかに信じなかったのは、森の住人でもあるセルシオであった。
「人間ならともかく、野生生物のドラゴンがそんな失敗をするはずは・・・・」
「俺もそう思う」
ウェイブが自身の意見を否定する言葉にすんなりと同意し、批判者を戸惑わせる。
「ドラゴンに限らず、野生生物がそんなヘマをするなんて、俺も信じられん。だが、瞳孔は開いてるわ、呼吸は小さい上に乱れてるわで、毒物に症状としか思えない状態になってる。その上、外傷が無いとなると自分で飲み込んだ・・・としか思えないだろ。いや、そもそも果実ってのは他の動物に食べて貰うことで、種を移動してもらうんだ。毒を含むなんて事は有り得ない。そこからして信じられないんだよ」
「でも、毒の実ってのも実際にあるだろ?」
「それは常識の範疇だよ。全ての生物に対して毒になる実は存在しないよ。でもここの実は、サイズからして常識を逸脱している。正直言えば、誰かがドラゴンを毒殺する目的で作ったとしか思えないんだよ」
「誰かって誰よ?」
「判らん。少なくても俺達でも、モンスターマスター連中でもないだろ。この付近にエルフやドワーフの集落があって、身を護るため・・・・って、言われれば俺は納得するね」
「そんな話は聞いたことがありません」
ウェイブの冗談めいた仮説をセルシオが真顔で否定する。
「ま、何にしても、結論だけで言えば、手間が省けたっていうもんだ。多分、このままでも死ぬと思うけど、念のためって事なら楽にトドメを刺す事もできるけど」
「そうですね・・・・手間が省けたと考えれば良いですね・・・・」
四人の侵入者に対し、何のリアクションも起こさないドラゴンを眼下にして、セルシオは小さく呟いた。
『ウェイブ?タール?カレン?ここなの?』
不意に洞窟の先で聞き慣れた声がこだました。サナの声である。
先刻、タールが戦闘状態になった事を知ったウェイブ達は、サナとラーディを残して先行し、レギアスとの戦場に駆けつけた。
後続を待つ時間も惜しかった一行は、遅れてくる彼女達の為に、道しるべと置き手紙を各所に配置してこの場所を伝えていたのだが、今ようやくにして追いついたと言う訳である。
「ああ、奥にいる。入って来ても大丈夫だ」
まだ姿を現さない後続に向かってウェイブが叫ぶ。
『流石、今、行くわ』
そうした返事と共に、徐々に足音が近づき、サナ達が洞窟の曲がり角の影から姿を現す。
「「!!!!!」」
その途端、現れた二人は仰天した。
無理もない、早々に本物のドラゴンと遭遇するなどとは思ってもいなかっただろう。自分達がそうであったのと同様に、彼等も驚くのも当然の結果・・・・と、誰もが思った。
「あ、貴方達!何してるのっ!!」
サナは血相抱えて叫び、ラーディが殆ど反射的に身構える。その視線はドラゴンとはまた異なる方向に向いており、驚愕の原因が他にあることを示していた。
その異様ともいえる反応の意味が判らなかったウェイブ達の間を、何かがすり抜けた。
「?」
それは後方に小さな宝玉の付いたニードルだった。
セルシオの放ったそれは、一同の間をすり抜け、ドラゴンの皮膚に突き刺さった・・・と、言うより付着した。
「セルシ・・・」
「どうしてセイムと一緒にいるのよ!」
「!?」
何の真似かと問いかける声を掻き消すかのようにサナが叫ぶと、今度はウェイブ達が仰天する。
彼女はセルシオをセイムと呼んだ。何かの冗談にも聞こえたが、その声に含まれた気迫が、説明も無しにそうした疑念を払拭させた。
セルシオと呼び、この僅かな時間ではあるが行動を共にした相手が、モンスターマスター騒動の発端者と認識した一同は、一斉に身構え、たちまち場に緊迫感が戻る。
しかしそれを、カレンが光源として生み出した光とは異なる光が邪魔をした。
「!?」
光は一瞬であったが、どこから発生したものかは全員が理解した。今しがた放たれたニードルからであるが、もちろん現象はそんな単純な事だけでは止まらなかった。
光はニードルの宝玉から放たれていて、その瞬間的な光の放出の後、今度は空間を歪めた。否、正確には空間ではなかった。歪められたのはそれが付着しているドラゴンの体だけで、その範囲は徐々に大きくなり、すぐにドラゴンの全身に達すると歪んだそれが急速に収縮していく。
宝玉による封印なのか転移なのか吸収であるのかすら判らない。だが、宝玉によって成されている事は事実であり、一行がその光景にあっけに取られる中、ドラゴンをすべて取り込んだニードルは、付着対象が消滅して落下する直前、生ある物の様に飛翔して投擲者であるセルシオと名乗っていたセイムの元へと帰還する。
「な、何をした!?」
もはや彼が本当にセルシオではないと納得し、武器を構えて問い詰めるタールだったが、その声は当人には届いていなかった。
「ははっ・・・・やった、本当にやった!生きたドラゴンを手に入れた!!」
マッドサイエンティストを思わせる狂気を含めた笑みを浮かべ、手にしたニードルを見つめるセイムは、自身の願望が達成された喜びに打ち震えていた。
「セルシオ?」
「違う!セイムよ!」
「ならっ!」
正確な状況は把握できていない。だが、事実を受け止めたカレンは、戸惑いを残しながらも短い呪文を詠唱し、数本の炎の矢を放つ。
まずは機先を制する目的で、威力よりも命中させることを目的とした攻撃は、誰の目にも直撃したと映った。
炎の矢が物体に直撃し、瞬間的に炎上を起こし、周囲に炎を散らし消えた時には、彼女が狙った目標はその場にはいなかった。炎の矢は、彼の背後にあった岩壁を直撃していたのでる。
「?」
どこへ?という、誰も見届けていない現象の問いを行うよりも先に、洞窟内の一角から発生した物音が、一同共通の疑念に答えた。
「上だと!?」
タールに限らず、誰もが驚きを隠せなかった。モンスターマスターであれば、そのずば抜けた身体特徴を用いて、その手の芸当は十分可能である。
だがセイムは、人のままでそれをこなし、今尚、左腕一本で天井にぶら下がっているのである。
「やはりこいつも特殊マスターかよ!?」
レギアスにしても、能力を行使する際は身体の一部だけを獣化させていたが、こちらはそれすら見せてはいなかった。
「色々邪魔をしてくれた君達だったが、結果はこちらの望みどおりになったよ。感謝する」
「何故、俺達といた?先行していればもっと早くにここに辿り着いて目的を達していただろうに」
「それは違う。ドラゴンが既に戦闘不能状態であるなんて誰が考えた?君達ですらそんな仮定を抱いてはいなかったはずだ」
確かにそうである。争奪の対象が、その用途を果たせなくなっているなどという状態など、誰が選択肢に入れるだろう。
「敵は伝説級の化物だからこそ、時間をかけて多くのモンスターマスターを揃えて来たんだ。ところがどうだ?いきなり現れた君達がその目論見を数日で砕いてしまった。造るより壊す方が遥かに簡単とはいえ、この数日に起きた現実は正直ショックだったよ」
これもまた、セイムとっては選択肢外の望まぬ出来事であった。
「だが、それで諦めがつく話でもない・・・・だから計画を変更させてもらったんだ」
「変更?」
「なに、そう難しい話じゃない。単に、ドラゴンと闘う戦力を変えただけさ。数人でモンスターマスター数十人に匹敵する価値を持つ冒険者にね」
眼下の一同を指さし、セイムは笑んだ。
「だから俺たちに接触を・・・?」
「それ以外に何がある?だが結果は予想外な上に拍子抜けで、これまでの労力の大半が無駄だった訳だが、最終的な目的は果たせたから良しというところさ」
セイムは右手に持つニードルを見せつける様に振ってあからさまに嘲笑した。
それは誰もが挑発だと理解できた。怒りはこみ上げても、それに乗るつもりのなかったカレンとウェイブだったが、判っていて我慢できなかった者もいる。いわずと知れたタールである。
「てめぇ!」
彼にしてみれば、一番長く「セルシオ」と行動を共にしていてその正体を見抜けなかった事が自分の負い目となり、それを嘲笑されたかのように思えてならなかったのである。
「タール落ち着け」
幸いだったのが、彼が完全肉体派だったことである。短気に任せて魔法を打つ事もできなければ、気孔弾を放つのも得意としていなかったため、今のところは頭上の敵に対して怒鳴ることしか出来なかった。
・・・・はずだった。
「ぬぁぁぁぁぁぁ!!」
気や魔力を飛ばす技能に乏しい彼は、ヘビー・シックルの投擲という物理的手段で技能の欠如を補ったのである。
「馬鹿ぁっ!」
ウェイブの制止も既に意味を成さず、主から離れた武器はその物理的間合いをものともせず目標に向かったが、不意打ち的な魔法も回避したセイムがそれから逃げられないはずもなく、難なく位置をずらして飛来物の衝突を避けた。
ビキシィィーン!!
洞窟内に激しい衝撃音が響いた。ご丁寧に彼は気まで付与して投擲していたのである。そのため、威力は格段に増し、洞窟内の岩壁に致命的打撃を与えた。
ビシッ・・・ビシビシビシッ・・・・
打撃点を中心に歓迎されぬ亀裂が生じ、嫌な音を伴って徐々にその幅を広げていくのを見て、タールもようやく事態のまずさを悟る。
「あっ!」
「あっ!じゃねぇ!このド馬鹿!!皆、逃げるぞ」
言ってウェイブは一目散に出口を目指し、他の一同もそれを追っていく。
ちょっとした脱出劇は偶発的事態であり、トラップによるものではなかったため、確実に命を奪う様な崩落を起こすことはなく、一人の脱落者も出すことなく終わったが、彼等にしてみれば、寿命が縮む思いである。
「くはぁ~・・・・皆、無事だよな」
「当たり前だ、仲間の自爆で生き埋めなんて死に方は受け入れられん。死ぬなら自分の責任において死にたいからな」
「こちらとしては、あれで死んでもらったほうが手間が省けたんだけどな」
またしても一同の頭上からセイムの声が降り注いだ。さしもの彼も、空中に浮くには人の形態のままでは不可能なようで、背から蝙蝠に似た羽を二対四枚を展開していた。
「やはり、モンスターマスター達の遺恨は創始者が絶てという神の意思かな?」
「神の意志?そんなのある訳ないでしょ!」
セイムを否定したカレンが、掌から雷を放った。
「冗談だよ」
機動性確保のため羽を更に一対生やしつつ、セイムは雷をかわす。
「この世界に神がいたら、とっくの昔に救いを垂れてるよな・・・・・」
「いても関与する義務も義理もないんだろ」
ウェイブはこの時点での迎撃を断念し、相手の様子を伺う事に専念し始める。
「成る程・・・そんな解釈もあるかもね・・・」
「で、やるのかい?」
「そうだね。正直言うと、俺自身はドラゴンを手に入れた以上の闘いは無益と思っているんだが、尊い仲間の犠牲・・・特にレギアスの遺志のためにも決着は必要・・・だよな?」
同志の目指したものが、望んだ最強たる力が得られたのか?彼を倒した連中を越えることでそれを証明すべきだろう、それを彼は、自身ではなくその当事者に問うた。
「誇示したいなら、そうなるか・・・」
遺志など関係ないだろうとウェイブは思った。それはあくまでも口実であり、セイムも結局は手に入れた能力を使いたくて仕方ないのだという心情を見て取っていた。
「時間はやるよ」
「何?」
激戦を覚悟していた一行に、またしても予想外の言葉が告げられた。
「君達は連戦してるんだ。その直後では万全じゃないだろ。一日以上の猶予をやるから、それまでに少しでも勝てる算段を考えるんだね」
それは強者であるといいう自覚から来る余裕でもあったが、相手によってはそれは、侮辱以外の何者でもない。
「何だと!」
「だからいちいち相手の挑発に乗るな」
当然のように反応するタールをウェイブがかなりの労力を用いて抑えにかかった。
「だけどな・・・」
「実際事実なんだから、お言葉に甘えたほうが良いだろ」
「なっ!」
よもや身内から肯定の言葉が出るとは思っていなかったタールは、驚きの表情でもって、その言葉の訂正を求めたが、眼前の相棒は冷淡な言葉をもって、彼の戦意を挫いた。
「お前、さっきの馬鹿で武器を失ってるだろう」
「うくっ・・・・」
手に武具が無い事に今更ながら気づいてタールは言葉を失う。流石の彼も、拳の類だけで闘う不利を十分に把握はしていた。
「理解してもらったかな?もちろん、その二人みたいな助っ人を集めてもらっても結構だよ。だが、落胆さけはさせないでくれよ。君達は今の俺のとりあえずの目標なんだからな」
そう告げ、背から更に新たな翼を出すと、セイムは高速で飛び去り、あっという間に視界から消えた。
「畜生、ドラゴン手に入れて優越感まるだしだな」
セイムの消え去った方向を凝視したまま、タールは悔しそうに唸った。
「モンスターマスターって技能者からすれば、この一件で最高位になったのと同意だからな。増長しない方が不思議だよ。すぐに闘おうとしなかっただけでも快挙だね」
「私達がもっと早くに合流さえしていれば・・・・」
こうした事態にはならなかったかも知れない。手の届く僅かな差で事が悪い方向に傾斜した気がしてならないサナは、後悔の念を隠さなかった。
「今更それを言っても仕方ないわよ。それで、どうする?」
「どうするも何も、戻るしかないさ。ここじゃ、失った装備は整えられない。戻って・・・装備と体調を整える」
さも当たり前だと言わんばかりに、ウェイブがカレンに応じた。
「随分・・・消極的ね?」
「そうは言うけど、カレンは今、レギアスみたいなのともう一戦・・・・って、できるかい?」
「それは・・・」
「だろ?正直、全員ボロボロだ・・・」
ウェイブとタールは肉体的疲労や打撲によるダメージが幾つもあり、カレンに至っては魔力の消耗に加えて半分以上の指の骨に異常をきたしている。現状では、通常のモンスターが相手でも一苦労であろう状態で、ドラゴンと一戦交えようとしていたのだから、当時の心理状態が切羽詰ってたというのが伺える。
「私達じゃもう手助けはできない・・・のね?」
ウェイブ達がそう断言する程である。にわか能力の自分では到底役には立てないだろう現実をサナは感じた。
「多分ね・・・・彼の得る力が想像の範囲でも、とんでもない事態だよ。もう中途半端な攻撃力じゃ逆に命取りになる」
「俺も・・・・・だな」
残念そうに呟いてラーディが腕の戦闘状態を解除した。
「残念ながらね・・・・ともかく戻ろう」
一同は静かに頷いた。
双方ともに予期せぬ事態が重なった今回の一件は、その行程を激しく蛇行させながらも結果的にはセイムの思惑通りに至った。
寸前までリードしていながら敗者となってしまった一行の足取りは実に重いものであった。
「それにしても、ストックがあってよかった」
街に戻ってすぐさま駆け込んだ武器庫の奥にて、失ったヘビー・シックル同型を発見したタールは、意気揚々とそれを構えて、自分に生じた最大の問題点をクリアした事を示して見せた。
「だが、鎧は表層処置しか出来そうにないよ」
彼の傍らではウェイブが、脱ぎ捨てられた鎧の各パーツを入念にチェックしつつ、表層に樹脂を塗り込んで傷の補修し続けていた。武器こそ大型サイズはあったものの、防具に関しては統一性のない身体に変化する者達の村であるが故に、基本的にオーダーメイドとなり、単純な巨「人」サイズがなかったのだ。その為、補修用樹脂を用いての応急処置しかできなかったのである。
「俺の身体が鎧になるさ」
ドンと胸を叩いてタールはいった。
「ただのモンスターなら、その言葉も頼もしいけど、今回は出来うる限りの装備を整えるべきだって判ってるだろ」
それが半ば虚勢だと知るウェイブは、視線を向けることなく鎧の作業に没頭する。
「ああ・・・・」
「これ使いなよ」
ウェイブが傍らに用意していた「盾」をタールに投げ渡した。
それはもちろん彼のサイズに合わせて見繕ったもので、ベルトを用いて腕に固定するタイプのアームシールドであった。
ラグビーボールを縦に半分に割ったような形状であるため、厚みがある上に、前方向に3つの鉤爪状の刃物が取り付けられており、武器としての機能も十分に備えている代物だった。
腕にウェイトがつく事にもなるが、手が自由なままであるため、主兵装のヘビーシックルの扱いに支障が生じない利点もある。
「それとコレもね・・・」
「弓?」
盾に続いて投げ渡された物を拾い上げ、タールは意外そうな声をあげる。
「正式には鉄弓。金属製の弓。強力だけど、人間で扱えるのは皆無。だけど、タールなら大丈夫だろ」
「俺に狩人をやれってか?」
あまり経験のない武器をあてがわれ、タールは困惑する。
「セイムは飛べるのを実証してる。そうなったらどうする?またそれを投げるのか?効率悪すぎだろ」
「そりゃそうだが・・・お前もやるのか?」
「俺は気孔弾が打てるから良いんだよ。カレンは言うに及ばず・・・遠距離攻撃用装備が必要なのはお前だけなんだよ」
「そうかよ・・・そういやカレンはどうした?」
露骨な指摘に不機嫌そうな表情をして見せたタールではあったが、反論の余地がないのを認めて手にした弓を軽く引いて見せて、持ち前の剛力を軽く示すと、この場にいないもう一人の所在を問うた。
「彼女には装備面の心配がないからね。魔晶石探しを俺に押しつけて、二人に施した紋様処置を解きに行ってるよ」
「もう闘いには加わらせないのか」
タールは紋様の力を用いたラーディとサナの闘いを見てはいなかったが、ウェイブ達と行動を共にして無事であったという事実から、大雑把ではあるが、その実力を評価していた。その彼等の力の源である紋様を解くということは、武装解除と同意であり、今後の戦力として考慮していない事を示していた。
「必要ない・・・」
ウェイブの呟きをタールは一つの決意と感じ取った。
「同胞と闘う事に躊躇いそうな輩は足手まといになる・・・か?」
その認識を耳にしたウェイブは、ピタリと作業の手を止め、タールを見上げると、少し考え込み、やがて自分が彼に情報を伝えていないことに思い至った。
「いや、ちょっと違うんだ・・・あの場での戦闘が回避できた時点で、勝算はこっち寄りになったんだよ」
そう言ってウェイブは、遺跡でカレンが得た、必勝となるだろうモンスターマスターの情報を語りだす。
「いきぃやぁっっっははははははあはははあははっっははああははははは!ひっひっ、いやっっはははっははは!!」
サナの家のサナの寝室にあたる部屋で、部屋の主のけたたましい笑い声が響いていた。
先に紋様解除処置を受けたラーディの手際があまりに良かった事から、単純作業と思い込んでいた彼女は、彼が出ていった後、言われたとおり最低限の着衣になった後、しばらくして呼ばれた部屋に入った途端、自分の迂闊さを思いっきり後悔した。
甘かった・・・・考えれば容易に予想できた事だった。そう思っても、もはや手遅れであり、彼女は部屋の片隅で巨大な卵のような『繭』状態となっていたミファールと対面していた。
主のカレンの姿はない。既にあの繭の中だろうと察するのと同時に、これから何が起きるかも想像できた彼女は、反射的に回れ右をして部屋を脱出しようとしたが、素早く伸びたミファールの触手に足を絡み取られて転倒し、そのままズルズルと引き寄せられてしまった。
「いやぁぁぁぁ!!」
まだ見慣れぬ醜悪な繭に殺意がないとは判っていても、迫り来る身の危険に悲鳴を上げて身を捩るサナ。だが、そんな抵抗も空しく、彼女の身体は繭の間近にまで引き寄せられる。
「落ち着きなさいよ。とって喰うわけじゃないんだから・・・・」
繭の一部が開き、中にいたカレンが顔を覗かせた。
「判ってるわよ!それで慌ててるんじゃないわ!」
彼女の声を耳にしたサナは、仰向け状態に身体を反転させて対話できる状態へ移行した。
「あら?それじゃ何で?」
「過去の経験から嫌な予感がするのよっ!いったい、何するつもり!?」
「何って・・・・言ったじゃない。サナの全身に描いた紋様の解除じゃない」
「聞くけど、ラーディの時もこんな状態だった?」
「ううん」
カレンは首を思いっきり左右に振った。
「放してぇ~~~!!」
自分の予感がもはや疑いない現実となるのを悟り、サナは再び藻掻きだす。
「暴れないでよ。貴方の処置は念入りだったから、彼みたいに簡単処置で済まないのよ。じっくり!丁寧にしないとダメなの」
口調では面倒くさそうに語っているものの、その表情には満面の笑みが浮かんでいた。
「嘘っ!絶対ぃうそだぁ~~~~!」
「もぅ、諦めなさい」
覗き窓状態となっていた繭の一部が、何とか逃れようと激しく藻掻くサナの両足を巻き込んで閉じた。
「ひぅっ!」
サナの両足首に、生温いヌルッとした感覚が襲いかかり、足首から下を完璧に捕らわれてしまう。
引き抜こうと力を込めるが、繭は僅かに盛り上がる程度の変形を見せるだけで、彼女の足を解放させる事はなかった。
「やめやめやめやぁ~~~~ひぅっ!!」
繭の内側に潜む魔女が、自由の利かない自分の両足の靴と靴下を脱がしにかかるのを肌で感じたサナは可能な限りで足首をばたつかせようとしたが、無論それで抵抗となるわけもなく、無防備となった両足の裏を指先で軽く引っかかれ、思わず身を軽く反らせて強張った。
「やぁぁぁぁ」
これから何が起きるかは容易に予想ができる。だが、肉壁の向こうで何時・どの様な事をされるのかが判らないため、サナの緊張と恐怖は増大した。その心構えもままならない状況の中、容赦なくカレンの指が足裏への悪戯を開始する。
「ふひゃっ・・・あぅぅ・・・くぅ~~~~・・・」
カレンが掌で足全体を撫で回しながら内壁に分泌されているミファールの粘液を塗り込んでいくと、そのヌルヌルとした感触にサナは息を詰まらせて身震いする。
やがて足全体が粘液にまみれると、指先がその滑りを利用しながら足裏を引っ掻きはじめる。
「いやっ!いやぁっははっはははははははは!やっっははははははは、あはっあはっにゃぁぁぁんっっはははっははあはははは!!」
視認できない為に全くタイミングの掴めない刺激に襲われたサナは、一気に吹き出し意味もなく両手で床を激しく叩く。
「やめっ、やっやっ、やはははははははは!こ、こんなのはぁっははははははははは!こんなのほぉ~~ばっかりぃいいいっははっっははははははは!!」
更に身を右に左へと捻って暴れるが、固定された足首は向きすら変えず、そうした激しい動きを平然と抑えていた。
もちろんそうした激しい動きは肉壁内でも行われてはいた。だが、位置が固定されている以上、その行動範囲は限られており、カレンはそうした動きを見て愉しみつつ、動きの緩急を突いて足裏を不規則に引っ掻き続ける。
「あははははははは、あっははははははは、ひゃ~っははははははははははぁ~~!」
どんなに藻掻こうが尽きることのないくすぐったさが足裏に生じ、サナは笑い悶え続ける。その笑いは衰えないものの、暴れるように悶える事で体力は確実に消耗し、その動きには鈍りが生じ始める。
全身を眺める事ができなくとも、眼前の足裏の動きでそれを把握していたカレンは、訪れたチャンスに目を光らせ、両手の親指と小指で足裏を抑えつつ、残った中央の三つの指先を鈎状に曲げて順に上下させつつ足裏を刺激した。
「ひきぃぃぃ~~~~~~ぃぃぃ~~~ぃやぁ~~~~~~~っっっはははははははははっはははははははは!やぁっっはははははっはははっははは!」
突如これまでと全く異なる、断続的くすぐったさに足裏を襲われ、サナは息を詰まらせながらも笑いを絞り出す。
たちまち失われていた力が足首に甦り、先程以上の激しい抵抗運動を始める。それに対しカレンは左足裏に対する集中的な責めで対応した。暴れる彼女の左足を片手(左手)で抑え、右手が動きを制された足裏を襲う。その結果一時的にカレンの手から逃れたかと思えた右足裏には、ミファールの触手が群がって主に変わって刺激を加え、一時の休息も与えようとはしない。
「ひひゃっっはははははははは!!やぁっっははははははっはあはあはははは!あっっははははははは!あぁっはっははははははははははっ!!」
一方は絶妙の力加減で足裏を上下し続けるカレンの指、もう一方は複数の不定形な触手による舐めるような刺激が足裏や指の間にまで及び、左右異なるくすぐったさにサナは発狂したかの様な様相で笑い続ける。
これだけでも十分な責め苦であったが、彼女の災難は始まりでしかない。何故ならこの行為は口実的に言えば、身体に施した紋様の除去・・・であり、彼女のそれは全身に至っているのだ。
くすぐったさで頭がいっぱいの彼女に、それを自覚させるかのように、ミファールが動き、彼女の身体を覆う範囲を少し広げた。
「ふぁ・・な、何?」
この動きによって、くすぐりの手が止まり思考のゆとりが出来たサナは、足首に感じていたミファールの感触が膝周辺に移ったことに戸惑を感じた。客観的に見れば、ミファールがサナを更に飲み込んだ状況であり、これがどういった結果を招くかを彼女は瞬時にして把握した。
「うそ、うそっ!そんな、そっっふひゃははははははははははははははは!!」
抗うよりも先にくすぐったさが彼女の脳に襲いかかる。今度は足首から膝にかけて粘液が塗られ、指が這い回る。
粘液に塗れたカレンの指が、サナの肌の上をうねる都度、書き込まれていた紋様が絵の具のように滲んでは落ちていく。一応は言ったとおりの処置を行ってはいるものの、書込時同様、必要以上の丹念さが加わっているのは言うまでもない。
こうして、一部の処置が終わると次の範囲へと徐々に段階を経ていく行程は、サナにとっては地獄といって過言では無いどころか、これからが地獄と言うべきであろう。
「いやっはははははは、だめっっひゃはははははっはははは!だめだめぇ~~~~」
身体が引き込まれる都度、必死に抵抗するサナであったが、全てが徒労に終わり、腰以下が飲み込まれるに至ると、彼女の徒労は最高値に達した。
「きやっぁっっははははははははは!だめぇっへへへへへひゃっっははははは!やめてやめてぇ~~~~!!!」
サナの両腕は狂ったようにミファールの肉壁を叩いたが、柔軟かつ頑強なそれにダメージを与える様な奇跡も起きず、内側で行われるカレンの悪戯的処置を許し続ける。彼女は
抵抗が無いことを良いことに、サナの柔らかい両腰を遠慮なく揉みくすぐり、時には内股の付け根部分を指でグリグリと刺激する。
「きぃぃやぁっっはははははは!!!!!あああああ~~~~っっはははははは、あはっははああっっはははははは!!!!ひゃひひゃぁ~~~~~~!!!!」
その度に、サナのけたたましい笑い声がミファールの壁を通して届き、責め手を愉しませる。
『もう少しだから頑張ってね~』
「あと、少しって、すこ、すこほっっっはひゃはははははははははははは!!」
気楽なカレンの言葉がサナの耳に届く。確かに残る範囲はあと僅かである。だが、その部分・・・得に腋の下周辺に対する責めを考えれば当事者には嬉しいはずがない。
一刻も早い解放と、来て欲しくない最終ポイント。相反する思いを頭の片隅で抱きながら彼女はくすぐったさに翻弄され続ける。
実際のところ、彼女に選択権はない。本来の目的通り、全身に至った紋様を消すまで、ジワジワと意地悪な処置を持続されるのであった。
結局、サナが解放されたのはここから更に小一時間経過してのことであり、当時を振り返った彼女は、よく生きていたばかりか正気を保っていたものだと、感心したという。
そしてカレンは、この行為のおかげでミファールの「食事」が完了し、装備面では万全な状態になったという・・・・