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2012/12/21(金)に投稿された記事
第2章 カレン編 1-3 -勧誘-
投稿日時:13:52:14|コメント:0件|》本文を開閉
ディレクトリ:くすぐりの塔AF -魔王の後継者達-
あ、ちなみに今日の俺は午後会社お休みです。
もーね、荷物を2階から1階に運び下ろす作業を延々と3時間続けていたら、
年末になると伝票類の整理とかで、毎年こんなことばっかやってます。
そんな整理をしている中、段ボールの中に3年前の「生八つ橋」が入った箱が出てきました。
こんな得体の知れない箱を開封する勇気はなかったので、捨てました。
捨てたはずなのに、なぜか帰り際に会社の接客テーブルの上に、例の八つ橋(だったもの)の箱が。
「3年前」って張り紙して帰ってきたけど、誰か食ったりしねーだろーな、あの八つ橋・・・
名も聞く気も生じなかった荒くれ共が、思いもかけず呪血という呪法を用いた事にカレンは憤りを隠しきれなかった。
死者の魂を束縛する類のそれは、言ってみれば死後も続く牢獄であり、人間によって生み出された、この世の地獄であった。
そうした魂の無限牢獄という状況は、カレンの意識の中で、どこかキーンに似ているという思いを抱かせ、同時に冒涜と感じた。
それに対する怒りは彼女の冷徹さとなって現れ、命を軽んじた者達を本当の地獄行きにする結果へと至る。
事が全て済んだ後、彼女はようやくにして頭に登った血が下がり、凄惨とした状況を見てやりすぎたかなと少し後悔したが、冷静であっても相手の生死に大きな差は生じなかっただろう事は疑いない。
「貴女・・・この連中に義理はある?あるなら敵討ちの機会をあげるけど?」
カレンは感情を押し殺した表情で、唯一の生き残りとなった女性、ジェニーを見やった。事の一部始終を見ていた彼女に愛想など無意味と判断した彼女は、相手が敵対者の一味であった事実をふまえて話しかける。
「いっ・・・いいえっ、いいえ!!」
問いかけに、ジェニーは怯えきって蒼白となった顔を激しく左右に振った。
もともと奴隷扱いで連れ回された身の上である。殺され哀しく思う人物など、この中に一人もいるはずがなかった。
「それじゃ、私に協力してくれる?報酬は、貴女がこの迷宮から脱出する手助けを、私がする事・・・でね」
「え?」
唐突な申し出にジェニーはきょとんとなった。
彼等が全滅し、彼女は事実上自由な身の上となった。だが同時に、迷宮に単独で取り残されるという弊害が生じ、その難題をクリアする自信が彼女にはなかった。しかしそれを敵対者であるはずのカレンが助力してくれるというのである。
「どうするの?」
動揺して返事に戸惑うジェニーに、再度カレンが問いかける。
「え・・・あのっ、でも私、協力とは言っても力にはなれない・・・きっと」
どんな装備を授かったとしても、実力からしてカレンの足下にも及ばない。今し方の戦闘を見てジェニーは確証し、要望に応じられないだろう意思を示す。
「何も力だけだ協力の方法じゃないでしょ。私の知らない情報を与える。それも協力よ」
相手が協力の意味を勘違いしていると察したカレンは、率直に要求を述べた。
「ここの地図の完璧なの持ってない?もしくは、この連中が向かっていた場所。それを教えてよ」
「あ、それなら・・・」
取引に応じられると分かったジェニーは、ぱっと表情を明るくして答えた。
「知ってるのね」
「はい。彼等が『最高の宝』の在処と言っていた場所でしたら・・・・」
その思わせぶりな言葉に、カレンはそれと自身の目的地が同じである事を願ったが、ほぼ間違いないだろうと確信していた。
「どこ?」
「ここです」
カレンの質問に即答が返る。
「へ?」
想像より遙かに近距離を示され、カレンは呆けた。
「でも、ここって単なる広間じゃない?どこにも・・・・」
周囲を見回すカレンを後目に、ジェニーはかつての仲間、否、ご主人の荷物をあさりはじめ、一枚の羊皮紙を見つけだすと、それを見ながら室内の一方の壁へと歩み出す。
「宝そのものの場所や、隠し場所の秘密は結構知られているんです」
そう言って彼女は。羊皮紙と壁を見比べながら、慎重にブロックの一つ一つを指で押していく。
「こうした仕掛の手順すら、お金で取引できるほどに・・・・」
幾つかのブロックを押した手がピタリと止まり、ジェニーはカレンに向き直った。
「でも、先に言っておきます。こうした情報があるにも関わらず、その宝が今まで誰の手にも渡らなかった理由もあるんです」
カレンには彼女の言いたい事が全て判っていた。宝を誤った使い方をさせないための、数多の仕掛け。自身の欲に従順な者を排除するトラップが存在する事実を。
「その点は大丈夫。それだけは貴女より詳しいつもりだから」
言って笑むと、カレンは作業を続けるように促し、ジェニーも覚悟を決めて、手順最後のブロックを押し込んだ。
すると壁全体が地響きをあげて個々に動き出すと、まるで立体パズルを解いていくかのように左右に開き、奥に隠されていた部屋を人目に晒す。
「ビンゴ!」
奥の部屋の中央に台座に、陳列されているかのように存在する物体を遠目に確認し、カレンは思わず叫んだ。
中心地で見たのと同じ様相の魔法陣の中央に設置されたそれは、まだ記憶に新しく、つい先刻まで自分も所持し、誤った使い方で浪費させてしまった至高のアイテム『ブラッド・ストーン』を見間違うはずもない。
カレンは無防備に駆け寄ると、ジェニーは途端に青ざめた。
「だ、駄目です、不用意に近づいては・・・・これまで多くの人が、ここまでは来れたんです。でも必ずあと一歩のところで命を・・・」
「大丈夫よ。これに関しては詳しいって言ったでしょ」
そう言ってカレンは、ジェニーが止める間もなく台座の紅い石に手をかざし、一つの想いを込めた。
(真の世界の扉よ、開きたまえ・・・・)
所定の言葉や文言は必要なかった。ただ、解放の願いさえあればそれは発動するようになっていた。
紅き石は定められていた意思を受けて目覚め、輝きを放ちだすと、その溢れた魔力の波動に呼応するかのように床の魔法陣も輝きを始めた。
「よしっ!一つ目クリア!」
魔法の宝玉によって、直接取り扱い方法を把握していたカレンは、この現象が正常なそれだと認識し、上手く行った事を素直に喜んだ。
「あ・・・の、これは一体?」
状況が把握できなかったのはジェニーであった。カレンはこれまで触れて生きている者が一人としていなかった伝説の宝に無警戒に触れ、トラップを何一つ起動させることなく、何事も無かったように発動させ、あまつさえ、何も手にせず戻ってきたのである。
「なぜ持ち出さなかったんですか?」
至極当然の疑問をジェニーは投げかけた。
「持ち出しては駄目なのよ。あれは、ああする物なの。一個人の意思を適えようとするとトラップが発動するのよ。だから、過去の挑戦者は全員失敗したの」
それが事実なら、悪辣なトラップだとジェニーは思った。そもそも『宝』とは、人が探し求めて得る物であり、そうするために人々は危険を冒して訪れるのである。にもかかわらず、そうした意志に反発する『宝』など、厳密に言って『宝』とは言えない。
「何故、そんな事を知ってるんですか?」
命が代償に成り得る事実を知るカレンに、ジェニーは新たな疑問を抱く。
「他の場所で知ったのよ」
「他?」
「ええ、ここの他に・・・・遠く離れた地に同じ物が六つあるの。私は・・・いえ、私達はそれを求めて旅をしてるの。そして全ての『宝』に輝きが戻れば・・・・・」
「・・・・どうなるんです?」
意味深に語るカレンに、当然ジェニーは興味を持って問いかける。
「素晴らしい事が起きるの。この世界の人々全員にね」
個人の欲を抑えて得る結果を、彼女は漠然とした表現で語った。
「それは何です?」
当然それで理解できるはずもないジェニーは、更に詳しい話を求めた。
「ん~・・・・秘密。まだ成功するかも分からないから、変に期待させても仕方ないでしょ。それまではこの迷宮の宝は噂だけだった・・・と、しておいて」
事実の秘匿と、彼女自身の自信の無さの現れでもあった。今回はテレポーターによって現場の近くに移動できたが、次はゼロから始まるのである。
位置を確認し、現場で目的の場所を探す。そこに何かしらの情報を持つ現地民がいれば良いが、誰もいない秘境である可能性もある。更には、道中で命を落とす事態も十分にあり得るのである。
「・・・・わかりました」
詳細には興味のあるジェニーであったが、聞いてこれ以上話してくれる雰囲気でもなく、彼女の抱く危惧を少なからず察し、彼女は多少未練があるものの頷いた。
宝の真偽も確認でき、奇跡のアイテムが手の届く範囲にあるという生涯に一度あるかないかの機会ではあったが、せっかくのそれも個人意思の介在を許さないのであれば、ない物と同じであった。
カレンの言う通り、世界の人々を対象に起きる事なら、いずれ説明がなくとも成功すれば解る時が来る。そう信じて彼女はこれ以上、好奇心を抱くのを止めにしたのだ。
「それじゃ、もうここには用はないから出ましょうか。案内してね」
鎧の形態を通常の姿に戻しつつ、カレンは言った。
「はい」
それに喜々として答えるジェニー。実は彼女は、再び外の空気を吸える機会を得られるはずがない存在だったのだ。
この部屋にブラッド・ストーンが存在する事を知り、その場所まで行き着ける事までは彼女の仲間、否、主達も、かなり以前から出来はしたのである。
彼等に限らず、そこそこの熟練度のチームであれば、それは可能なことではあり、所在も隠し扉の情報も独占の物ではなかった。
だが、トラップの秘密だけは解明できず、その場で個人の願いを達成させようとしたり、持ち出そうとしたりした欲深き者達がトラップによって葬られていった。
それでも会得を望んだ彼等は、多くの犠牲を出してトラップの特性を調べ、思案した結果、一人を犠牲にする手法を思いつく。
つまり、一人がトラップを発動させ、始末されている隙に、本命が石を奪うという訳である。それは奪えば所有権は己の物となる・・・・という勝手な思いこみによるものだったが、一度手中に収めればあとは意のままだろうという憶測が、計画を実行させる動機となり、その犠牲者としてジェニーが用意されていたのである。
行き着くところ、カレンの捕獲も、肉欲の対象でもあったが、最大の目的はジェニーで失敗したときのための予備要員としての活用法も想定しての事だったのである。
ただ計算違いだったのが、彼女の実力が想定外だった事であり、冗談めかして述べていた比喩的表現こそが、最も的確だった事だった。
本来であれば貴重な人生経験だっただろうが、もはや彼等に経験を活用する機会は永遠にない。
結果、偶然的に生じた双方の出会いが、ジェニーとその主達の運命を逆転させたのである。
カレンはジェニーの命を救い、案内としたおかげで、最短距離での迷宮脱出は成ったものの、出口に至る間に実に百を越すモンスターを誘引し、否応なしに戦闘状態になる試練に強制参加させられる羽目となる事を補足しておく。
「うらぁ!!!!!」
とても女性とは思えない豪快な雄叫びをあげ、カレンはストレスと共に貯め込んでいた魔力を一気に解放して迷宮の出入り口に叩き込んだ。
迷宮内で飽きるほどのモンスターに遭遇し、相手にするのも面倒になった彼女は、出口が近いと聞くや全力で駆けて脱出を優先した。
そして外に飛び出した途端、周囲の破損による崩落を気にしなくてよくなった彼女は、しつこく追ってくる複数種のモンスターの群が殺到しようとしていた出入り口に、容赦ない爆発系の呪文を繰り出したのである。
瞬間的に発生した爆発のエネルギーは、爆心地付近のモンスターを粉々に引きちぎり、周囲の壁面や天井に致命的打撃を与え、一気にその強度を奪った。
現状維持が不可能となった出入り口は、その重みに耐えきれなくなって崩れ落ち、生き残ったモンスターを押し潰しながら、その穴を塞いでいった。
「これで、少しは落ち着くかしら?」
自然の光と風をその身に受けつつ、ほぅと息をつくカレン。その瞳は遠くを凝視しており、その傍らでは、その後を必死について走り、辛うじて難を逃れたジェニーが地面にへたり込んでいた。
「少しやりすぎですよ・・・・」
「そう?」
惚けてみせるカレンであったが、問いかけは本心からであった。
勿論ジェニーにも、あの出入り口を開放しておけば追っ手が次々に出てくる事は予想できたため、それを塞ぐという行為には異論はなかった。ただ、その手段が大袈裟すぎると感じたのである。
「それにしても・・・・底なしの魔力ですね」
ここに至るまで、絶え間ないモンスターの襲撃に対し、絶え間ない魔法で応戦していたカレンの一部始終を目撃していたジェニーは、半ば呆れた感じでそう評価した。
魔法の心得はなかったものの、魔法使いの知人がいたため、それが概ねどの様なものかを理解していた彼女は、カレンの行為が長距離を短距離走のペースで走り抜けるようなものと感じ、泉のごとく魔力が湧いているのではと思わせた。
実のところ、その感覚は正しかったのだが、ミファールの能力を把握していなかったため、カレン単独の能力と錯覚してしまっていた。
「私の数少ない取り柄よ。これでこの先も生きていくつもりだから」
むやみに秘密を口にしないまま、カレンは周囲を見回しつつ本心を語った。自分の技量では、今から剣に手を出したところで、良くて並程度の実力しか得られないと見切っての発言であり、進むべき道の方向を定めているとも言えた。
「単独行動できる程の魔法使いなんて・・・・クレイシアなら重宝されますよ」
「クレイシア?」
一方向に視線を向けたまま、カレンは初耳となる致命と思わしき名称の詳細を尋ねる。
「ええ、この地域にある大きな町の一つです」
息を整えたジェニーが、ゆっくりとカレンに近づき答える。
「一つ・・・という事は、この辺りには他にも町があるのね?」
「はい。村や町、大小二十近くが点在してます」
総人口を確認しなければ何とも言えないが、人の住む場所がこれ程あるのは多い方だとカレンは感じた。これは地域の環境によるところも大きいだろう。
むやみに点在するより、一箇所に集まって生活した方が良いと考える地方も当然あり、外敵(モンスター)に対して安全を確保するため、そうした驚異の大きい環境下では必然と選択される居住方法でもある。
カレンはそうした集落の出身であったため、この居住地が点在している地域が新鮮に見えたのである。
「今、この地域って、戦争でもしてる?」
幾つかのグループに分かれると高い確率で起きてしまう地域紛争。戦争と言えば大げさかも知れないが、魔法使いを重宝する町と聞いて真っ先に思い描いた理由で例えて、カレンは問いかけた。
「いいえ、基本的に共存体勢にあります」
基本的にという部分に含みを持たせてジェニーが答える。
「基本的に・・・ね。それじゃ、勧めてくれた理由は何?」
「あの町では今、戦争・・・と言う程ではないんですが小競り合いが続いていて、双方の組織が腕自慢を集めているらしいんです」
「やっぱり、そう言う事・・・」
思った通りと納得するカレン。それは過去に一度ならず経験済みの、さして珍しくもない事例の一つであった。
その地域の権力を求めて、幾つかの集団の抗争。それに勝利するために必要な戦力を、単純に言えば用心棒を、内外から掻き集めているという事である。
「その小競り合いとかの理由は知ってる?」
「いえ、そこまでは・・・・」
首を横に振るジェニーを見て、カレンはそれ以上の質問を止めた。実際に知りたければ直接現場に向かえば良い事であり、事情を詳しく知らない者の憶測を聞くより確実なのである。
「分かったわ。クレイシアとかの件は考えておくとして、もう一つ大事な事を聞きたいんだけど・・・・」
「はい?」
「ここは何処なの?」
「何処・・・とは?」
大事な事と聞き、少し緊張して質問を聞いたジェニーは、予想に反した単純な内容に、頭の回転がついていかなかった。
「この地域って、世界のどの辺りなの」
質問の補足を受け、ジェニーはようやく内容を理解する。
「イーストの最短部のやや北側の地域ですけど・・・・」
この隔離世界では、地形や環境の関係などもあり、全ての地域での交友は成されておらず、町や地名などの公式名称などはほとんど定まっていない。
地域別に呼び名が異なっている事も珍しくはなかったが、地区区分だけは明確に成されており、円形の地を単純に東西南北に四分割した地を、ノウス・サウス・ウエスト・イーストと呼称しており、自然に定着したものではあったものの、ほぼ唯一と言ってよい共通の地方認識となっていた。
ジェニーは質問の内容から、カレンが全くの地理不案内と判断し、共通認識の言葉で位置を説明したのであった。
「と言う事は・・・」
カレンは頭の中で円形の世界と現在地を照らし合わせ、散った二人の仲間の行き先を想像した。
(多分、ウェイブがノウスで、タールがイーストとサウスの境あたりの地区ね)
カレンは自分の選択したテレポーターと転送場所の位置関係からそう推測すると、次の目的地に対して迷いを生じ始める。
(と、すれば、一番近い両隣のポイントは二人が担当してるはずよね・・・・)
それは、次に彼女が向かうべき場所が、ここから最長に近い距離があり、しかも、そこへ向かうのにも残る二人の方が早く到達する可能性があ事を示唆していた。
魔法陣の構成と、テレポーター魔鏡の位置関係をもう少し考慮すべきだったと、今更ながらにカレンは後悔した。
「あの・・・・?」
カレンが急に考え込む事で、ジェニーが少し不安げな声で呼びかける。
「何か問題でも?」
「ううん、いいの、貴女には関連はないから。私が次に目指す場所が少し遠いんで、どうやって向かうか途方に暮れてただけ」
「何処なんですか?」
ささやかな好奇心がジェニーの口から漏れる。
「ウエスト方面の最短部よ」
そんな悪意のない問いに、カレンもほぼ即答で答えると、質問者は途端に耳を疑い、それが聞き間違え出ないことを返答者の表情から悟り、その現実に驚いた。
「この世界の反対側ですよ!?順調に向かったとしても、半年以上かかるんじゃ・・・」
その順調の基準もあやふやである事を認識しているカレンは、その意見に同意した。
「そ、多分、それ以上ね。だからちょっと計画が立てにくくて・・・・」
「どうするんですか?」
「もちろん行くわよ。焦らずじっくりと、周囲の集落に立ち寄りながら・・・・ね。で、その一環として、貴女の行きたい町や村、何処でも案内して。送っていくわ」
「ありがとうございます・・・・」
カレンの行動にタイムスケジュールは存在しない。余程の寄り道や、計画断念さえしなければ良いだろうという漠然的な計画でもあるため、この程度の事は遅延原因にもなりえず、彼女にとっては片手間とも言えた。
ジェニーはそんな好意に甘え、一礼すると自分の故郷の村に向かって歩み出す。
「もののついでよ」
礼を言われるほどの事もしていないと思っていたカレンは、案内者の背に向かって言うと、その後についていった。
その彼女等の背後には、越えるべき史上最大の『壁』が今も昔と変わらぬまま、立ちはだかり続けけていた。
「きっと越えてやるから・・・・」
一度『壁』の方に振り向いたカレンは、決意に満ちた瞳でそれを見つめると、静かに呟やくのだった。
「あそこ?」
山道を抜け、ちょっとした草原に出たカレンは、長年の人の往来によって出来上がった道の先に、木の柵で覆われた集落を確認し、案内人に問いかけた。
「はい。点在する村の一つ。マグノトの村です。私の故郷です」
再び見る事の適わないと諦めていた村を前にして、ジェニーは嬉しそうに語ると、小走りとなって村の出入り口へと向かい出す。
「よそ者が食事が出来る店は?」
「はい。案内します」
カレンのささやかな質問にジェニーは応えると、慣れ親しんだ道を案内し、一軒の木造建築物へと向かった。
そこは一目で酒場の類と判る建物で、ジェニーは景気良く入り口となる開き戸を両手で押して、中へと入っていく。
「いらっしゃ・・・・・っ!?ジェニー!?ジェニーか!?あぁ、無事だったのか!!」
カウンターにいた店主と思わしき中年男は、来客の人物の正体を知るや、大声を上げ、カウンターを乗り越えて彼女の元へと駆け寄った。
「ええ、ただいま・・・デックス伯父さん」
ジェニーが少し照れた様子で応えると、伯父である中年の男は、その頭を乱暴に撫で回した。
「何がただいまだ、ロイドのゴロツキ連中に拐かされたって聞いてたんだぞ」
「その通りなのよ、それをこの人に助けてもらって・・・」
そう言ってジェニーは身体を横へ移動させ、遮っていた伯父の視界を確保して、背後の入り口で待っていたカレンを紹介した。
「そうなのか?なら恩人じゃないか、そんなところで待たせないで中へ・・・・」
姪の恩人を迎え入れようとするデックスは、カレンの姿を確認するや硬直した。およそ、自分の感覚から大きくかけ離れた美的感覚の鎧を恥ずかしげもなく装備する女性と予備知識なしに対面すれば、大概はそうなるであろう。
「あ・・ぁぁ、別地方の方でした・・・か?」
不気味としか思えない生物的デザインの鎧を身に包んではいるものの、相手の容姿は問題なく、年齢も見たところジェニーと変わらぬ若い女性であった事から、地方差による流行と無理矢理解釈したデックスは、その答えを当人に求めた。
「確かに、私は余所者だけど・・・」
「やはり、そうだったか、いや失礼、この辺じゃ、そんな生々しい鎧を装備する習慣がなくてな。それなら納得いく」
「何か微妙に勘違いしていない?」
そうした初対面者の反応は何度も経験していたカレンは、特に気分を害する様子も見せなかったものの、さりげに相手の解釈を指摘した。
「まぁまぁ、この際、美的感覚や習慣の違いを論議しても何の得にもならんだろ、ささ、入って入って、くつろいでくれ」
デックスは細かいことをあまり気にしない性格なのか、早々にカレンの姿に順応し、彼の示す席に腰を下ろした。
「さて、恩人殿。あんたの好みが分からないんで要望に応じる自信は正直ないんだが、美食家でなくて、こっちに任せてもらえるんなら今回の食事はサービスしておくが、どうかな?」
「ゲテモノ料理でないならね」
「それなら心配無用。美食家相手の店じゃないからな」
カレンの軽い挑発を手慣れた様子で受け流すと、デックスはカウンターに戻り、料理の準備を始めた。
「ところで伯父さん、少しお客さん減った?」
着替えを終え、ウェイトレス風の衣装に身を包み、カレンへの給仕を行っていたジェニーは、店内の様子をぐるりと見回して抱いた疑問を、カウンターの店主にぶつけた。
「ああ、減った減った。例のクレイシアの騒ぎのせいだ。あそこの連中が結構な条件を出して、ここだけじゃなくて近隣の村からも腕自慢を連れていきやがったんだよ」
豪勢な野菜の盛りつけをジェニーに渡してデックスは胸の内の不満をもらした。
「ねぇマスター、ジェニーも言ってたけど、そのクレイシアの小競り合い?何が原因なの?」
ジェニーが詳しく知らない経緯に関し、もう少し聞き知ってるかもと感じたカレンは、閑散とした店内を一度見回して店主に問うた。
「なに、なぁんの事はないさ」
問われたデックスは、呆れるように、そして吐き捨てるように答えた。
「単純に言って町の支配権の争奪戦だよ。統治したがる連中が派閥を作って、正当性を主張。で、不毛な言い合いが続いた挙げ句、力で主張を押し通す結論に至ったわけだ。そんないざこざで、余所からも引き抜きしやがって、こっちの自治が悪くなるだけだってのにな」
村の柵の様子からして、モンスターの類の驚異は少なそうであったが、皆無でもないだろう事は予想できた。そして、モンスターの襲撃が無くとも、その分、人の悪事が目立つのが悲しい世の常である。それから村を守るには、やはり人員が不可欠であるが、今それが重要とも思えない問題によって不足気味になっていたのである。
「本当に単なる利権争いなの?裏とか隠されてるとかないのかしら?」
カレンはそうした問題でよくある点を問うてみたが、デックスは興味なさそうに首を左右に振った。
「さてな、この地域の支配者になれる以外の旨味があったとしても、地方の店主が知るはずもなしさ。どのみち、身内だけじゃなく各地域にまで迷惑かけてるんだからろくなもんじゃないよ」
「そうかもね・・・」
カレン同意しつつ、その争いで手に入れられる権力でどれ程の得があるのか、ふと思案した。だがそれは、これまで大集団での行動経験が皆無で、その手の・・・組織レベルの権力欲に興味を抱かなかった彼女には理解できない世界であり、その思考は空転する。
ジェニーはカレンを実力者と評価し、流れ者故にその件を勧めてくれた訳だが、彼女にはそれに参加する意義が見いだせなかったのである。
「手伝ったとして何か得はあるのかしらね?」
その、ふとした呟きはデックスの耳に届いた。
「お前さん、権力争いのコマになりにいくつもりか?」
「見返り次第・・・と言いたいところだけど、どうなの?」
「さぁてな・・・・ここに来たスカウト連中は調子の良いこと並べ立てていたが、結局は歩合制みたいだったぞ」
「日雇いの用心棒でしかないわけね」
「そう言うこった。活躍すれば報酬に色は付くだろうが、その分、敵の標的になっちまう。恨みを買う仕事さ」
「傭兵まがいの事をする以上、それは覚悟できるけど、その見返りに過度の期待ができないんじゃねぇ・・・・」
リスクと精神的疲労に見合わない。そう思わせるカレンの発言は、デックスの関心を誘った。
「なら、人手不足であるこのマグノトの村の用心棒をしちゃくれないか?報酬はそうだな・・・食事と宿泊場所の無料提供でどうだ?」
報酬に限って言えば遙かに及ばない内容であったが、デックスの瞳は、真剣にカレンの答えを求めていた。
「駄目か?命の危険も少なく、恨みも得に買わない綺麗な仕事だ。たいそう凄の立つ魔法使いなんだろ?協力してくれないか?」
「う~ん、そうね、食事は美味しいんだけど、私にも本来の目的があるし、無期限の仕事は受けてられないのよね」
「なそれら、クレイシアの騒ぎが落ち着くまでっ!なっ、これで何とかならないか?」
難色を示すカレンにデックスは食い下がった。
「そんなに深刻なの?」
「いや、そうでもないがな、村の見張りが無しなんて状況には出来ないだろ。だから、そのせいで残った連中に結構負担がかかってるんだ。正直言うと、一人でも人手が欲しいんだよ」
切実な要望は真実であり、それ故にカレンは悩んだ。だがそれは早々に打開策が浮かんだことで僅かな間で解消される。
「そうだっ!そう言うことなら私でなくても、そこそこの冒険者でもいいのよね?」
「ん?まぁな・・・心当たりがあるのか?」
「ええ、大勢。でも交渉はそっちでしてね」
「そりゃいいが、一体どこに・・・」
デックスは、他に仲間がいたのか?と、ジェニーに視線を向けて問うたが、彼女もそんな存在は一瞬たりとも見ておらず、訳が分からないとゼスチャーした。
「少し待ってて」
そう言ってカレンは食べかけの料理をテーブルに残したまま席を立ち、そのまま店から出て行った。
そして数分後、戻って来たかと思うと、彼女は背後に何人もの女冒険者を引き連れていたのである。
「????」
さしものこの現象にはデックス&ジェニーのみならず、その場に居合わせた数少ない客も面食らった。
「マスターこの娘達よ、上手く交渉して口説いて」
カレンは相手の呆けた表情を見て笑みを浮かべると、食べかけの料理皿を手にして席を端の方に移動させ、デックスと助っ人達とを面通しをさせた。
「あ、あぁ、でもどうやってこんな大勢連れてきた?あんた魔法使いか?」
「あら、そう言ったじゃない」
相手のニュアンスの違いを承知でカレンは答える。
他者には湧いて出たようにしか思えない女冒険者達だったが、勿論本当に湧いて発生した訳ではない。
当然、カレンが僅かな間に周囲から勧誘した者達でもなく、その正体は、以前から彼女が保護していた者達であったのだ。
先刻数人は、ミファールの回復に利用されたが、基本的にあの樹海から脱出すれば解放する約束もあったため、この場で解放し、この地の事情を話した上で、デックスと相談するよう伝えたのである。
これは彼女等の望む地で解放できないカレンの、出来うる限りの譲歩ともいえ、比較的平穏な地で、仕事の斡旋もしたようなものだった。
カレンは暫く食事を続けながらデックスと女冒険者達の交渉を遠目で眺めていたが、ややして全員が頷いて握手が交わされるのを見ると、全て上手く行ったのだと悟る。
「恩人殿、ありがとうよ。彼女達、暫く残ってくれる事を承諾してくれたよ」
デックスは嬉しそうに言って手を振り、満面の笑みをカレンに向けると、彼女も冒険者とデックス双方に対する義理のように感じていた物が解消でき、肩の荷が下りたような気がして軽く安堵の息を吐いた。
「これでこの村は安泰でいけそうね」
「何から何まですみません」
飲み物を届けに来たジェニーは、カレンの善意に改めて感謝した。
「別にいいの。こちらもあの娘達の受け入れ場所が見つけられたんだから、お互い様よ。こっちもこれで気兼ねなく出発できるってものよ」
この気兼ねなくと言う言葉はデックスに対してではなく、むしろ彼女等冒険者達に向けられていた。
今回の機会を失えば、次に彼女等を残して安心できるような地に辿り着くチャンスを得るのが何時になるかも判らない。ある程度安全であり、彼女等でも自活できる場所・・・という意味では、ここはかなり条件に合致していたのである。
「出発・・・・やはり、ウエストまで行かれるんですね?」
事情を聞いていたジェニーは、その果てしなく遠い目的地に、カレンの旅が否応なしに過酷な物となる事を悟った。
「ええ、仲間とも決めてる事だから・・・」
決意の表情でもって答えるカレンに、ジェニーはもはや止めようとする言葉を口にする事は出来なかった。
あとがき
この物語のシリーズ冒頭に保護されていた女戦士達(忘れかけていた)が、この度、解放され新たな生活を始める事となりました(笑)
このために、宿場が登場したのではなく、宿場が登場したので解放されるに至りました。
もしこれがなければ、彼女達は先の章の様に、ミファール緊急回復用のアイテムにされ続けていたかもしれません。