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2014/02/02(日)に投稿された記事
第2章 ウェイブ編 1-5 -二人の真実-
投稿日時:10:23:35|コメント:4件|》本文を開閉
ディレクトリ:くすぐりの塔AF -魔王の後継者達-
続きはまた後でアップの予定!
翌朝、朝食の席にてウェイブは唐突にモラレスの謝罪を受けた。
アニィとシルディは寝過ごしているのかその場にはおらず、二人だけの食事中、いきなりその話を切り出されたのである。
「聞き及んでましたか?」
アニィに関しては正確な情報は説明していない。アニィ本人が説明していれば別だが、まだ起きていないのでは、その可能性もなく、ウェイブの話がそのまま伝わっていると判断して応じた彼だったが、モラレスは意外にも首を横に振るという反応をして見せた。
「いえ、想像の範囲ですよ。多分、二人は貴方に接触するだろうと・・・・・二人の様子はどうでしたか?」
二人と言い切った時点で、ウェイブは事態の詳細はともかく、ああいった事が生じるのを承知で、モラレスは放置していたのだという事を悟った。
「どうって・・・・・」
漠然とした問いに、返答に窮する彼だったが、日中とは若干様子が違う違和感を抱いていたの点を思い出し、これも想定の範囲なのだろうと察した。
「何かありそうですね。あの二人・・・・シルディは冗談めかして『夜は人格が変わる』とか言ってましたけど、そんな事じゃないですよね」
「ええ、違います。そんな単純な話ではありません」
食事の手を止め、深刻な表情でモラレスは言った。
「・・・・・部外者が知っても良い内容なんですか?」
語る事そのものを思い悩んでいる。様子からそう察したウェイブは、相手の決心を促した。二人の将来などに関わるなら、語らなくてもよい。そう伝えたのである。
だが、彼の中では既に結論は出ていた。
「実のところ、極力口外はしたくありません。ですが、例の物に接触する以上、知っておいて貰った方が無難と判断して、お伝えする事に決めました。場合によっては・・・・・・あの二人を斬ってもらう為にも」
「!?」
思いもかけない発言に、ウェイブが眼を丸くした。
「事情を・・・詳しくお話しします」
相手の動揺は当然と知るモラレスは、ゆっくりと語り出す。
----------------------------------------
事の初めは、シドレ・レイスの戦乱末期の事だった。
シドレの理不尽な行為に反感を抱き、敵対する立場に立った者達が集い、人民軍・反抗軍等と称して、彼に挑んだ戦いは長きに渡ったものの、多くの犠牲を出しながらも相手の行動を研究し、対策を練る人民軍側が優勢となり、シドレは徐々にその勢力を失って行った。
その時シドレは、自分に敗北が訪れる可能性を既に予見していたが、自身の力を誇示し、魔王の再来を宣言した己に逃亡の選択が選べない事も理解していた。
そこで彼は、かなりの確率で訪れるだろう敗北に際しての『保険』を施したのである。
その保険とは、-転生の儀-
死後、己の魂を新たな命である赤子に憑依させ、記憶と肉体の継承を行う呪術に類する手法であった。
従来のそれは、肉体を失った魂が無作為に赤子(特に産まれたて)を選出して憑依するものだったのだが、生前の人格や記憶が覚醒する可能性が100%ではないという問題点があった。
これは、憑依対象との相性や、憑依者本来の魂が影響すると言われており、このためシドレは、転生をより完璧に行う為に、類い希な知識を用いて独自の手法を編み出したのである。
それが、血縁間による転生儀式だった。
すなわち、自分の子に転生するという手段を編み出したのである。しかも彼は、複数の子をもうけてその中から特に魔法素質の高い者を選出するという念の入りようを見せたのである。
シドレが数人の子供を産ませたという話は、当時人民軍の中で後継者説・悪魔への儀式の供物説・改心説と、色々な論議を呼び込み、その事実が確認できる間に、時間的猶予を与えてしまったのである。
後になって彼の企みを知った人民軍は、それを阻止するために強襲に近い決戦を挑み、シドレに致命傷を負わせる事に成功した。
だが、辛うじて命を永らえた彼は、戦場を逃亡、既に準備を整えていた儀式を実行に移そうとした。
儀式の場にて、彼は用意された数人の赤子の中から一人を選び、己の死後、その魂が確実に憑依するための目印となる呪術刻印を身体に刻もうとしたその時、追撃してきた人民軍の一隊(後に戦乱の勇者達と記載される者達)が乱入し、一気にとどめを刺して事は解決・・・したかに見えた。
シドレ・レイスは打ち倒された。だが、儀式は間に合っていたのである。儀式の魔法陣は術者の命が消えゆくのと関係なく発動し、その中心部の対象に印を刻もうとした。
その場にいた人民軍の中で、唯一状況を正確に理解した一人の魔法使いは、魔法陣にいる赤子がシドレ再来の為の触媒であり、赤子の素質次第では転生前より強力な存在になりうる可能性もある事を考慮し、その最善の対策として真っ先に赤子の殺害を思い立つ。
だが、その赤子に罪はない。シドレの道具にされそうになっているだけという至極当然の良心が、最短の解決策の実行を拒絶し、次なる案として魔法陣からの救出を思い至る。
しかしそれも、現状で最適の『器』への憑依を阻止するだけで、目印を失ったシドレの魂は転生の儀を行っている以上、その場に『器』が無ければ別の場所へ赴くことは確定している。
瞬時の判断が求められる中、彼が咄嗟に選択した行動は、
『シドレが最適と選んだ赤子を魔法陣から救い出し、代わりにその場にいた別の女の赤子二人を魔法陣に差し出す』
というものだった。
僅かな間の出来事であったため、それを止める事のできた者もいなかったため、事は成されたが、後になって道徳的にも正しいのかという批判が当然のごとく生じた。
これに対する実行者の言い分はこうだった。
魔法陣の赤子をそのまま座視するのは、シドレの転生が成功する事を意味する。
とはいえ、シドレの魂が宿ったあるいは宿ろうとしているからと言う理由で、罪を犯してもいない赤子を殺すことは出来ず、また、選ばれた以上、その素質は高いと予想され、『彼』の覚醒を見届けてから処罰するでは危険すぎる。
儀式の邪魔をして赤子を助ければ、本来の目標を失ったシドレの魂がどこに転生するかも判らなくなり、彼に再建の機会を与える事にも繋がる。
そこで、シドレが選んだのとは別の赤子に、あえて憑依させる手法を選んだのである。
性別の異なる二人の赤子という点にも勿論、思惑があった。
転生者との性別の違いはそのまま相性に繋がり、魂の適合に関して不利となる上に、二人となった事で魂は二分化されて宿る事になり、その力は大きく低下し、覚醒の可能性はかなり低下する・・・・
そう考えたのである。
----------------------------------------
「・・・・・その二人の赤子が、アニィとシルディ・・・・ですか」
話を聞いていたウェイブが確信しつつ問うと、モラレスは頷いて肯定する。
「では、彼女達の様子が変わったのは、シドレの魂の影響というわけですか?」
これにも頷くモラレス。
「ほぼ間違いないと思います。兆候はここ数年前に現れました。魔法使いとしての素質の向上、そして無意識とも思える知識の探求。これは、二つに分かれたシドレ・レイスの魂が一つに戻る手法を求める意識が影響しているものと、私は考えています」
「そんな事が可能なんですか?」
分かれた魂の再結合。ウェイブには、にわかには信じがたい現象であった。
「残念ながら、私が知る範囲でも可能性のある儀式が幾つか存在します。大半が呪術になりますが・・・・」
「そんな呪術もあるんですか・・・」
「ええ、かなり乱暴かつ簡単に言ってしまえば、二人の心を一致させるだけで、事は成り得てしまいます。何より、血の繋がりや縁はその手の呪術には重要な要素です。全く異なる夫婦の子ならまだしも、どちらも同じ人物の血を継いでいますから、あの二人の心が一定の条件下で一つになれば、復活はかなり容易に行われてしまいます」
「ああ、成る程・・・・二人を一緒にではなく、あえて別々に育てたのも、対策の一環って訳ですね」
そして同時に、昨日アニィに対してどこか違和感のある反応をしていた彼の様子の理由にも合点がいった。
「ええ、全く異なる環境で、異なる『個性』を持たせる。心を容易に一つにさせない手段です。ですがアニィを私の養女にしたのは、シドレ復活の驚異以前に、贖罪の意味があるんです」
「贖罪?」
「ええ、あの娘、娘達にシドレの魂を背負わせてしまった罪・・・・先程の話で、この状況を作り上げたのは・・・・・私なんです」
現場にて、誰に相談する余裕もなく、一人で苦渋の決断を下した事実。多くの人民の驚異を取り省くために二人の人生に外れない枷をかけた『英雄』の苦悩がここにあった。
当時の年齢も考慮すれば、背負うには言葉で表せられないほど大きすぎる責任だっただろう。
「そうでしたか・・・・二人はこの事を・・・」
「勿論知っています。兆候が感じられたときに話しています。なのに二人とも恨み言も言わずに受け入れ、自分自身として生きて行くと気丈に言ってくれました」
その時の一幕は今も彼の脳裏に焼き付いている。
恨まれて然り、殺されて然り、自分の意志も持たず表現できない時に、一方的に過酷な運命を押しつけた男に対しての言葉は、一つの免罪にも感じられる程だった。
「実際、いい娘に育ってますよ」
初めて知ったその事実を考えれば、自暴自棄になっていたり世間を敵視してても不思議ではなく、それがなかったのもひとえに、モラレスの愛情ある育成の賜物と言えるだろう。
「ええ、自慢の娘であると同時に、感謝もしてます。ですが、シドレの魂は確実に干渉している上に、それに目をつける輩も出てきました」
「クライマー・・・・ですね」
ウェイブは察する。
「ええ、昨日、彼のしていた事も、シドレ復活に関連した手法の一つなんです」
「!?」
「二人の精神を壊す・・・・そうすれば、自然にシドレの魂が主導権を握ります。そして、融和は容易となります。昨日は言えませんでしたが、実際に貴方には大惨事を未然に防いでくれたといっても過言でない恩があるんですよ」
自覚は無かったが、背後の事情を説明されてようやく理解できる内容だった。だが、その感謝の言葉を素直に受け止められるウェイブではない。まだ事態は解決には至っていないのである。
「いえ、まだ完全にではありませんよ。でもだからか・・・・あの時、あいつが価値がどうのと言っていたのは。確かに俺は事態を正確に把握していなかったな・・・・」
当時の発言が、魔法使いなどの学者系が使いたがる比喩とばかり思っていたものが事実を示していた事を痛感するウェイブ。
「クライマーはともかく、シドレが復活すれば大勢の人々の命が失われるの目に見えています。なので・・・・」
重々しい語尾の口調から、ウェイブはモラレスの語ろうとしている内容を察した。
「最悪の事態になった場合はアニィ達を斬れと・・・?でも、本心じゃないでしょ」
「当然です!養女とはいえ、私はアニィを娘として愛して育てました。どうして死を望むことが出来ますか。出来れば忌まわしき魂の呪縛から救ってやりたい。ですが今、事態はクライマーより危険な芽がでているんです」
思いがけない発言に、それが示す事項を思案するウェイブだったが、まるで思い当たる節の無かった彼は、疑問の眼をモラレスに向けてその回答を求めた。
「あいつより?何かもっと手早く復活できる手法か異変でも?」
「ええ、諸手順も不要なほどに・・・・野望が現実化する手法が一つ・・・」
深刻な眼差しで頷くモラレス。
「そんな簡単に・・・・・・・って、まさか」
呪術うんぬんの行為で成り立つ復活の話が、いきなり容易な扱いとなった事で冗談にも聞こえたウェイブであったが、そうした冗談の様な力を有したアイテムの存在が身近に在るのを思い出した。
「お察しの通り、ブラッド・ストーンです。あの力ならシドレ復活は苦もありません。全く別な身体に再転生する事も、二人の意識を乗っ取り二人のシドレになる事すら不可能な話ではないのです」
「ああそうか、二人がブラッド・ストーンに興味を示したのはそれか・・・・」
シドレ魂は、二人の意識を通して遺跡に眠るブラッド・ストーンの存在を以前から認識していたに違いない。それが使用できない偽物という情報と共に・・・・
だが、先日モラレスとの最初の対話にアニィが割り込んだ際、それが本物である可能性がある事を知った。
それを危惧したからこそ、モラレスは場を濁してアニィ達の前でその話するのを避けたのだが、可能性を見いだしたシドレの魂は、二人の意識に干渉して同行する事を欲した訳である。
幸いにして、ウェイブの悪戯心でその場はうやむやになったものの、そうした事情があるとすれば、当人の自覚のないまま今後も同行を強く求めてくる可能性はまだまだあった。
「ええ、当人の自覚はないにせよ、必ず二人はブラッド・ストーンに対して何らかのリアクションを起こすはずです。ですから、万一の事態になる前に、真実をお話しておこうと思った次第です」
「なるほど・・・・」
アニィとシルディの行為が純粋な好意だけによる物ではないという事実確認ができ、当人への聞き取りの手間が省けた一方、少し残念な気がするのをウェイブは自覚した。しかし彼はそうした個人的喪失感よりも、周囲に存在する危険への思案を優先した。
「となると、厄介なのはクライマーと内なるシドレ、両方が同じ目的で暗躍して、意図的でも偶然でも歩調が合ってしまった場合ですね。当事者が企んでなくても、その結果次第では最悪のケースが生じてしまうかもしれない訳だ」
「はい。それは私も危惧しているところです。その上、ブラッド・ストーンの件も加わると、正直・・・・」
もはや事態は自分の手に負える状況ではなくなりつつある。そんな自覚がウェイブに真実を語り、頼る要因にもなっていた。
「あ、でも、そっちの心配は杞憂ですよ。今回のブラッド・ストーンには既に魔王キーンの保護対策が成されていますから、シドレにせよクライマーにせよ、私用で使うことは適いません。それよりは、クライマーのちょっかいで二人の中のシドレが覚醒する可能性の方が問題ですよ」
「そうなんですか?しかし如何なる事があってもシドレ・レイスは二度と世に現れてはいけない存在です。どんな些細なモノでも、可能性がある以上は、手を打っておきたいんですが・・・」
今のブラッド・ストーンに対する話も鵜呑みにしたわけではない。とはいえ、それに関しての情報はウェイブの方が詳しいため、信じるほかないものの、思えば幾らでも心配事が湧き出すモラレスは、少しでも安心を得る材料が欲しかった。
それもこれも、シドレ・レイスの実像を知っているが故の、当時の惨事を繰り返したくないが為の思いであった。
「とは言っても、正直なところ情報が少なすぎますね。今後どうするのか?組織力は?昨日の儀式が失敗して、他に場所を用意しているのか?出来るのか?不確定要素が多い以上は当面の間、相手の動きに備えるしかないのが現状ですね。もちろん、関わった手前、二人の護衛は務めさせてもらいますが」
「申し訳ないです」
客観的に言えば、ウェイブは現れた当初に宣言したように、単なる通りすがりであり、ここまで関わる義務も義理もないはずなのだ。にも関わらず自らの責として協力を申し出てくれる事に、モラレスは心から感謝した。
「それはそれとして一つ疑問があるんですが、そもそも奴は二人の秘密をどこで知ったんですか?お借りした部屋にあった公式記録にすら二人の事は記載されてなかったでしょ?」
話の最中、ふと昨晩の資料の一件を思い出し、ウェイブはクライマーの野心の源泉を問うた。
「これも身内の恥の様な物なんですが、実は彼は事実を直接知る者の関係者、つまりは当時の『勇者達』の一人の家系なんですよ」
世に平和を取り戻したメンバーの中から、その倒した相手を復活させようとする輩が現れる。それは運命の皮肉のように思えてならないモラレスは気まずそうに答えた。
「本来は、私の様にシドレ復活が成されないように二人を見守る側にいるべき者が・・・親から聞き知った奴の強さに憧れを抱いてしまったんです。嘆かわしい話です」
「力に対する渇望・・・・あり得る話です」
まるで自分の責任のように語る彼に、ウェイブは理解を示す。
「ですが、彼は地元の人間です。あの悲惨な出来事を理解すべき者が、それには目を背け、力のみに憧れを抱くとは情けないとしか言い様がありません」
モラレスのような人にはそうした行為は理解の範疇外なのだろう。彼は脳裏に浮かんだクライマーの所業の数々を追い払うように頭を振って、それを完璧に否定する。
「結局、彼もシドレ・レイスなんですよ」
「え?」
思いがけない一言にモラレスが思わず首を傾け、その真意を伺った。
「己の資質と才能に慢心した存在だって事です。シドレは魔王の再来と、そしてクライマーはシドレの後継者たる資質がある・・・とね。あ、もしかすると奴は、自分自身にシドレの魂を宿らせたいと考えているのかもしれませんよ」
クライマーに対する評価を述べているうちに、ふと思いついた事をウェイブは語り出す。
「悪名高き過去の大魔法使い。その魂を真に受け入れられる資格を持つ存在はアニィでもシルディも、他の子息でもなく、自分自身だという自負が彼の中にあるのかもしれませんね」
初めて出会った時、我が物にすると言う内容を口走っていた事を思い出したのがその根拠であった。もっとも、クライマーにシドレの魂を受け止められるだけの器があるかは推測すらできなかったが・・・
「馬鹿げた話です」
モラレスとしては、できればそのまま一笑して終わりたいところであったが、彼のこれまでの言動はその指摘を納得させる部分が多く、頭から否定する事が出来なかった。
「ええ、馬鹿な話です。だからこそ、それが奴の、クライマーの限界です」
「限界・・・ですか?」
唐突とも言える評価にモラレスが意外そうな表情となると、ウェイブは頷いて言葉を続けた。
「ええ、さっきの仮説が本心だとしてですが、奴は結局のところ、他人の力を得るという方法を選択している訳ですからね、自力で目標とした人物の凌駕を放棄してしまった訳です。そんな奴に本当の成長はないと思いませんか?」
その言葉はウェイブ自身にも向けられた自戒とも言える発言であり、聞く者に対して心のこもった説得力を得ていた。
「それは・・・・おっしゃる通りかもしれません。ですが人間性などはどうあれ、プライドは人一倍高い男でしたので、それに大きな傷をつけたウェイブさんは本来の目的に関わらず、標的になっているかと・・・・」
「それは、あいつの腕を切り落として逃がしてしまった時点で覚悟してますよ」
結局のところ、自分から首を突っ込んでしまったという自覚があるため、この件を途中放棄することがウェイブにはどうしてもできなかったのである。
「宜しくお願いします・・・・・としか言えない自分が情けないですね。十年前なら何とか後方支援も出来たでしょうが、今の私の魔法の腕は衰えましたからね」
「まぁ、無理なさらずに。あいつの基本戦法が判っていればやり用はあります。これまでの対戦で、ゴーレムの類を操ってけしかけるのが得意な魔法使い・・・って、評価なんですが、合ってますよね?」
「ええ、概ねそうです。ただ、ゴーレムを使うのはあくまでも手段の一環で、策士である事を第一に把握しておいてもらった方が良いと思います。あと、シドレの再来と自負するだけあって、魔法攻撃の威力もなかなかのものです」
「へぇ、でも、奴はまともな攻撃魔法をしかけてなかった様な・・・・」
これまでの闘いを思い起こし、クライマーが魔法を繰り出した記憶のない事に気づくウェイブに、モラレスが頷いてその疑問に答えた。
「ええ、普段は極力、使用を控えているんです。その理由は、過去のシドレの敗因となった逸話に起因してます」
「ああ、記録本にあったアレですね。人民軍を広範囲に展開させて、家畜等を囮にして魔法攻撃を誘ってシドレの魔力を消耗させたって・・・・」
「はい。そのため彼は、先人の失敗を繰り返さない為の準備を常に整えています。具体的には・・・」
「魔晶石の所持や、使い捨ての攻撃アイテムってところですか?」
かつての仲間、魔法使いカレンも同様の奥の手を幾つも持っていた。その経験から来た例を述べると、それは肯定された。
「ええ、それに加えて予備の魔法発動体や増幅器も複数所持していると聞いています」
「それじゃ、魔法使いでありながら魔法はとっておきって感じですか?」
「そうですね。使う時は一撃必殺をモットーにしている感はあります」
「そうですか・・・・それは使えそうですね」
その情報に一つのヒントを得たウェイブはふと考え込む。
「何か対策が?」
「いえ・・・対策とは言い難いですが、情報としては有益かと・・・」
「そうですか。他に彼に関して気になるところがあれば、お尋ね下さい」
「ええ、何か思い至ればそうします」
「こちらも、有益な情報が入りましたらすぐにお伝えしますので・・・・・おっと、娘達が目を覚ましたみたいですね」
話の途中、モラレスは壁の向こう側から聞き慣れた足音が近づくのを察し、話を中断した。
それとほぼ同時に、食堂の扉が開かれ、室内着姿のアニィとシルディが入ってきた。
「おっはよ~」
「おはようございます」
朝の挨拶もそこそこに、二人はウェイブの左右に位置すると、挨拶時の爽やかさを一時放棄し、やや不満げな表情でウェイブそしてモラレスを見やった。
「な、なんだ?」
「アニィ、どうした?今朝は少しご機嫌斜めに見えるが?」
「そうよ」
アニィがあっさりと養父の指摘を認めた。
「何で起こしてくれなかったのよ?みんな一緒に朝食したかったのに~」
「そうです、楽しくお食事したかったです」
アニィはモラレスに、シルディはウェイブに向けて、その薄情な行為を非難する。
「いやすまん、二人ともぐっすりと眠ってたようだからね」
モラレスは家庭人らしく苦笑し、日常の父親の表情をして見せた。彼にとっても食事が一緒でないなどという苦情を受けたのはここ最近では初めてであり、目の前の客人がその要因だと一瞬で理解する。
もっとも、彼等二人の食事も、込み入った会話によって、既に冷め切っていた。
一方でウェイブは、昨夜の行為による気まずさに二人と視線を合わせるのが躊躇っていた。
「ウェイブも、起こしに来てくれても良いようなものなのに」
アニィは何故か視線を逸らすウェイブを覗き込むようにして、非難の矛先を向けると、彼は冷や汗を流しながら弁解した。
「そうはいってもな、客人の身分で、館のお嬢さんの部屋に無断で立ち入る訳にもいかないだろ」
実際には夜這い同様の行為をしていたりするが、やはり事実を自分の口では語れないウェイブだった。
「無断でと言えば、起きた時はびっくりしたわよね。目の前にシルディが眠ってるんですもの。趣味が変わったのかと思って焦ったわ」
「あ、あれは、事故というか、私も記憶に無いんです。何時眠ったかもよく覚えてなくて・・・」
アニィには浴室での一件を話題にする意志を微塵も見せないどころか、ウェイブでは無くシルディをからかい赤面させた。
彼女であれば、あの一件を話題に持ち込み、ウェイブをからかうはずが、それも成されず、その会話を耳にした事で彼は、どうやら二人は昨晩の行為の記憶がそうとう抜け落ちているようだと察した。
それがシドレの思惑なのか、またはシドレの関与があるときは全てそうなのかは判別できなかったが、その状況は彼にとってもありがたい結果となった。
「昨日は二人とも災難だったからな、精神的にも疲れてたんだろ」
ウェイブは状況を利用して、二人が昨晩の空白に疑問を抱く前に結論へと無理矢理に誘導する。
「その通りだ。食事は逃げないし、ウェイブ君も待って下さるだろうから、席に着きなさい」
モラレスも二人がシドレの影響を受けていたという事実を知るのを良しとせず、余計な心配をさせたくないという親心から、彼の発言に同意した。
「「は~い」」
気を取り直した二人は、示されたモラレスの両隣の席にそれぞれ着席すると、入れ替わるように彼が立ち上がった。
「お父さん?」
「すまないが私は先に出かけなくてはならないので、失礼するよ。朝食の相手はウェイブ君がいれば大丈夫だろ」
年頃の娘に対する父親そのものの気遣いを見せて、モラレスは残りのパンを片手に出口へと向かう。
「では、午後にまた・・・くれぐれも二人の中のシドレに余計な情報は与えずに」
すれ違いの言葉の後に、小声で念を押すモラレスに、ウェイブは頷いた。
「え、何?内緒話した?」
その僅かな行為を目敏く観察していたアニィが興味津々の眼差しを向ける。
「おてんば娘のお守りが大変でしょうが、お願いしますってさ」
笑みを浮かべて場を誤魔化したウェイブに、モラレスが少し困った表情となって娘に視線を向けると、その言葉を真に受けたアニィが、拗ねた様子で睨みを聞かせていた。
「お父さん~!」
「おっと、失言・・・それではな」
無用な言い訳はせず、父モラレスは、逃げるようにして食堂から姿を消した。
「そう怒るなって」
「そんなに怒ってるように見える?」
「いいや、全然。平和な家庭だ」
嫌味のないアニィの笑み。それを確認して心底そう思うウェイブは、彼女達が少し羨ましく感じつつ、カップに口をつけて残ったミルクを一気に飲み干した。
食事をしながら談笑するアニィとシルディを眺め、また時折その会話に参加しつつ、ウェイブは目の前の二人を観察し続ける。
(今、目の前の二人の中には伝説の魔法使いシドレの魂が潜んでいる・・・・)
食事を楽しみ、たわいない話題で笑む娘二人のその姿を見ると、とても信じられない話だとウェイブは思う。
だが、その運命を定めてしまった男がおり、それを狙う男も存在する以上、全否定できる話ではない。
常に出来ることを行い、前へと進み続ける。
そんな人生観を持つ彼は、当面、彼女達の中の存在に対しては、有効な手法がない以上、対応できる問題から解決しようと改めて決意した。
「ウェ~イブ」
「ウェイブさん」
そんなシリアスな思いなど全く察する事のなかった二人が、何やら含みある視線を同時に彼に向けた。
「二人揃って何だいきなり」
「確か、午後まで暇なんでしょ、ちょっとつきあってよ」
尋ねる、と言うより、殆ど決定事項のようにアニィが言うと、クライマー対策の装備を調えようと考えていたウェイブは、少し困った表情をして見せた。
「いや、言うほど暇じゃ無いんだが、どこへつきあえって?」
「街よ、昨日、服や装備を失ったでしょ。だからシルディの分も一緒に買いに行くの。で、ボディガードして欲しいのよ」
「あの、無理なら結構ですけど」
「ダメよ、私達二人、クライマーにつけ狙われてるんだから、常にガードして貰わないと」
さすがにシルディは、相手の意志も尊重すべきとする思いやりを前面にだし、ウェイブに選択肢を持たせたが、そこへすかさずアニィが割り込み、選択肢を奪おうとする。
「でも、服や装備でしたら予備が・・・」
「何言ってるのよっ」
アニィは分からず屋の耳を引っ張り、ウェイブの表情を伺いつつ耳打ちする。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「そうですね、やっぱり一緒に来て貰った方が良いですね」
「うわっ、シルディまでいきなり・・・・今、何を話した?」
僅かなやりとりで、シルディの意志があっさりと覆ると、さすがにウェイブも驚くしかなかった。
「秘密」
「秘密です」
意味深で、憎めない笑みで応じる二人。
「思いっきり怪しいな。でもまぁ、俺も街で行きたいところがあったから、そこへ案内してくれるなら・・・・」
「はいっ決定!どこでも案内したげるから早く行きましょ、でないとお父さんの約束に遅れるでしょ」
アニィにはウェイブが承諾するという確信があったのだろう。彼女は返答を最後まで聞くことなく席を立つと、早々に出発を促した。
「私達、着替えてきますからウェイブさんも早くお願いします」
アニィに呼応したシルディも歩調を合わせて席を立つ。
「分かった、分かったから急かすなって・・・・」
二人の勢いに負けたウェイブは、半ば強制的に起立させられ食堂の外へと連行される。
これもシドレの意志なのかとつい勘ぐってしまった彼だったが、すぐにそうした考えは危険だと判断し、自分の中に生じかけた偏見をうち消すように頭を振った。
常にシドレの存在を意識していては、彼女等の全ての行為に彼の思惑が込められていると、遠からず考えるようになってしまう。
それは彼女達を守るという意志を消滅させる事にも繋がり、更には相手を利する結果へと繋がるのである。
二人はシドレではない。二人は己の運命を受け入れ、己を失わずに生きる決意もしているとモラレスは語った。それは内に潜むシドレと闘う決意と同意であり、そんな彼女達を否定するような真似など出来ようはずもない。
(シドレの件も、捨てられなくなったな・・・)
自分の心情を把握し、ウェイブは一人苦笑する。
知ってしまった事で見過ごす事が出来ないと感じる思考は世間でも珍しくないだろう。悪く言えばお人好しに類する訳だが、そうした言われ方を不名誉だと彼は思わなかった。
ただ彼の突っ込んだ足場は実に難解であるのも事実であった。何しろその相手は実体もない魂だけという曖昧な存在なのである。
潜伏中の病原体、発症の条件の分からない呪い、治療法の確立されていない病気に類するようなものであり基本的に手のつけどころが存在しないのである。
もちろん、このままシドレ覚醒が成されないまま終わるケースも有り得る話ではある。だが万一、復活が成された時、事態はどの様になるのか?
ふといつもの癖で、悪いケースも想像してウェイブは軽く身震いする。世間の惨状を想定してではない。アニィあるいはシルディの姿をしたシドレ・レイスの誕生の可能性を思い描き、これが現実の物となった時、自分の前に立ちはだかった時、立場を変え敵となった時、対峙しチャンスがあれば斬る事が出来るのか?
そんな難題を思い浮かべてしまったのである。
モラレスもアニィを引き取った時点でその命題を背負ったに違いないとウェイブは確信した。責任感の強い彼の事である。世界と娘の天秤で事あるごとに思い悩んでいるに違いない。そしてその日の訪れる事がない事を日々祈っているに違いないと。
それはあくまでウェイブの予測でしかなかったが、場合によっては斬ってくれともらした彼の表情を思い浮かべ、誤った推測でないだろうと思われた。
(過酷な課題だな・・・)
来る日までに必要な決意。
その時には彼女は自分の知る彼女ではなくなっている。
だが、だからといって、その姿をした敵に容易く剣を向ける自信が彼にはまだなかった。
だからこそウェイブは選択する。
その日が来ないように願い、同時にそうする手法がないかを模索する事を。
「お待たせしました~」
「それじゃ、早く行きましょ」
自分の支度を済ませ、そんなことを悶々と考えていたウェイブに、いつもと変わらぬ二人の声が投げかけられると、彼は気を取り直して二人の元へと歩き出した。
あとがき
アニィ&シルディの裏設定公開章・・・・
ある意味、ウェイブが二人を同時に恋愛対象にしてしまうようなハーレム選択を抑制させるための設定でもあったりします。
彼が二人を愛して、二人が彼を愛した結果、ある種の意思統一現象が起こるかもしれないという危惧を枷にして、その進展を遅らせるつもりなのですが、その辺り上手くやっていけるかは自信:低です。
他にも、二人がもう一方に遠慮して、旅路の関係のギクシャクする事を気にして、簡単な一言を言えない・・・なんて状況にしていきたいのですが、なにぶん、そうした実体験には無いモノで・・・
このウェイブ編が一番進行に悩む章となる要因となりそうです・・・・
投稿日:2014/02/02(日) 14:08:25
楽しみにしてましたー
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