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2014/03/04(火)に投稿された記事
第4章 ウェイブ編 1-6 -足止め計画-
投稿日時:21:42:39|コメント:0件|》本文を開閉
ディレクトリ:くすぐりの塔AF -魔王の後継者達-
と言うわけで、ものすごい雪が降りましたがみんな大丈夫だった?
キャンサーさん執筆のくすぐりの塔だ!
今回は頂いている分すべてアップロードが目標だ!
明日も雪って言うし、もう雪かきは真顔で勘弁っす・・・
ウェイブは、先導するアニィとシルディの笑顔を見て、先刻背負わされたような気がした命題をあれこれ思案する事を放棄した。
二人の命を奪う。
もはや感情を抑えて履行するのは難しい程の交遊を持ってしまったウェイブは、条件を満たしていない以上、その問題に悩むのは滑稽だと割り切ったのである。
ウェイブ自身も自分の中にある血を自覚した頃、魔王の血が目覚めて周囲に害を及ぼすのではと、そんな思いに一人恐怖した時もあった。
だが、結局のところそれは現実の物とはならず、実際に実物とも出会った事で、魔王も根本的には単なる人でしかない事を知り、抱いていた恐怖は杞憂となり消え去った。
キーンとシドレではその受け継がれ方の状況が異なるとはいえ、シドレは事実上、転生に失敗しているのである。魂の断片が二人に潜んでいるとしても、支配には至らず、逆の現象が生じてもおかしくはなく、つまりは、このまま大事にはならない可能性も十分にあり得るのである。
ならば悪い方にばかり気を回さず、このままの状態が続くことを祈り、目指すべきだろうと思い至ったのである。
実際これはモラレスも辿った道であった。
事の発端を成した彼は、その当時からシドレ復活を常に気に病んでいた。それに対し、抱いていた危惧を最も効率よく解消する方法も同時に頭の中にはあった。
それが、二人の処分、あるいは封印であった。
だが彼は、強硬論があった状況下においても、それを選択しなかった。
それは、後の平和という理由のために、罪もない者を手にかけたくない強い意志の現れであったと同時に、自分と関係者等が抱く不安が必ずしも現実の物にはならないという希望があったからに他ならない。
自己が強ければ己を見失いはしないだろう。
ウェイブもそうした結論に至ると、その希望を踏みにじろうとするクライマーの魔の手から二人を守り抜こう。と、心に誓った。
旅人の身空のため、さすがにそれを当人達と面と向かって語り、必要以上に二人の関心を得るのはさすがにまずいと思ったウェイブは、ともかくもクライマーの件を早急に解決しようと、そちらの方に考えを巡らせた。
そんな思案のせいで上の空であったウェイブを、二人が連れ込んだのは、そこそこの規模の道具屋であった。そこには店外にも幾つもの雑貨が並べられており、幾人もの客が出入りする、見るからに活気のある店であった。
「ここなのか?」
「ええ、見ての通りの雑貨店よ。色々あるんだから」
自慢げに語るアニィを見てウェイブは意外に思った。年頃の女性が服を目的としていたのだから、その専門店と思っていたのである。
「こんな所で服探しか?」
「あら、ここって結構、品揃え良いのよ」
「そうなんです。良い物いっぱいなんです」
アニィもシルディは常連なのだろう。実に嬉しそうに語り、二人してウェイブの手を引き店内へと導いていく。
「分かった分かった。そっちの買い物に口出すつもりは無いからご自由に。見たところ、武具の類も置いてあるみたいだからこっちも都合がいいしな」
「何?ここに用があったの?」
「まあね。旅の消耗品と少なくなってきたし、投擲ナイフも補充がしたかったからな」
ウェイブは戦闘時、結構な頻度でナイフなどを投擲する。それが特技の一つであるため、そこそこの数を携帯しているのだが、これまでの闘いで回収できなかった物も結構あったのだ。
「なら、丁度よかったんですね」
「みたいね。それじゃ、私とシルディは服のコーナーに居るから」
二人は多種多様な服が並ぶコーナーを指さしてそちらへと向かいだす。
「あ、おい、身の危険を感じたら大声出せよ」
「分かってるわよ」
「ご心配なく」
よもや、こんな場所での襲撃はないだろうと思いつつも、ウェイブが心配性な面を見せると、二人は手を振って応じたが、その様相に緊張感は全く感じられなかった。
「んじゃ、こっちも手早く済ませるか」
変に気を張りつめるのも周囲に対して異様に見える上に、注意を喚起した当人すらも、まず心配ないだろうと考えていた。だがそれでも、長時間、彼女等から離れるのも問題があると考えたウェイブは、まず手近なカウンターに向かい、店員に手持ちの宝石・アイテム類の交換で取引が可能かを確認し、良い返事をもらうと野外活動用品のコーナーへと向かった。
今、彼が欲しているのは、先程二人に説明したとおり、投擲に用いるナイフであった。
これには、投げるのに適している形状であること、複数持ち運びしやすい事、などの条件があるため、あまり大型なのは好ましくない。
幸い、この店には多種多様のナイフ類の他、条件に見合うニードル(本来は大工用の大釘)もあり、調達に困る事はなかった。
ウェイブは実にスムーズに必要な品の購入を済ませると、足早にアニィとシルディを求めて服のコーナーへと足を運ぶ。客の多い中、見つけだすのは困難かと思いきや、お目当ての二人はあっさりと見つかった。
「ねぇ、こんなのもいいかも?」
「でも少し、動きにくそうです。こっちの方が・・・」
二人は、結構人の多い衣服のコーナーにあっても、大量の服を手にして歩き回っていたため、一際目立っていていたのである。
「お前等・・・それ、全部買うのか?」
二人と合流した早々、選ばれた服のあまりの多さにウェイブが絶句する。
「あ、ウェイブさん」
「あら、ウェイブ、早かったのね、もう買い物終わり?」
「ああ、消耗品選びに時間はかけないよ」
「それじゃ、もう少しだけ待ってて。すぐに決めるから」
ウェイブはひょっとして自分があの服の群から選べと言う厄介事を押しつけられるのではないかと思っていたが、意外にもそうした依頼は課せられず、軽く安堵した。
だが、アニィの宣言した『すぐ』は、彼の感覚のとは随分とかけ離れており、軽く食事が済ませられるほどの時間を費やすことになる。
「お待たせ~」
「お待たせしました」
候補の中からようやくにして自分を納得させる服を選んだアニィとシルディが、支払いを済ませ、包みを両手で大事そうに抱え満面の笑みでやってくると、ウェイブは隠しきれない不満顔で迎えてしまう。
「あ、やっぱり怒ってる」
「いいや、アニィの『少し』が、俺の知っている『少し』とどのくらい感覚が違うのかを確認しなかったのが悪かったんだ、気にするな」
認識の違いは有り得る事だが、その大きな差をウェイブは皮肉った。
「すみません、丈夫さとか色々と見てたもので・・・」
そうした不機嫌さを敏感に察したシルディがすまなさそうに頭を下げると、彼の不機嫌さも幾分か緩和された。
「まぁいいさ、モラレスさんの時間には間に合うし・・・で、どんなやつを選んだんだ?」
長い熟考の末に選ばれた服がどんな物かに興味のあったウェイブが、包みの中を覗き込むうとしたが、素早く二人はそれを隠して背にやった。
「ダメです」
「駄目!後のお楽しみよ」
「後っていつだよ?」
てっきり、着て帰るとばかり思っていたウェイブは、この場で披露しない二人の思惑を計りかねた。
「後は後よ。お楽しみに」
意味深な笑みのあと、二人は互いにしか理解し得ない思惑を胸に顔を見合わせた。
「セクシー路線とか言わないよな?」
昨晩の一件をふまえ、僅かながらの期待を含ませウェイブが問うと、途端にアニィがジト目となってウェイブを見やった。
「何、ウェイブって、そんなの期待してたの~?」
その視線の意地悪さに、ウェイブは口が滑ったと後悔した。
「いや、期待じゃなくて、予想だ。出し惜しみなんてするから」
慌てて指摘を否定するウェイブ。
「ふ~ん・・・でも、そういったやつ、シルディ候補に選んでたわよね?」
「ち、違います。アレは・・・」
いきなり話を振られて、シルディは真っ赤になる。
「シルディのセクシー服・・・」
その言葉に思わず想像するウェイブだが、シルディは普段が大人しいお嬢様風の様相であったため、その明確なイメージができず、どうしても場違いな娼婦の格好をした彼女しかイメージできなかった。
それでも、昨晩の一件を考えれば、かなりやばそうな気になった彼は、頭を振ってその妄想を振り払う。
「なに?妄想しちゃった?」
そんな様子を見て、アニィが鋭くつっこむ。
「そっちに誘導されたんだ。でも期待はずれなんだろ?」
「あったりぃ~そんな目的で選んだ訳じゃないもの」
この一言で『夜用』の服でない事が確定し、とりあえずは昨晩の二の舞にはならないと、ひとまず安堵すると同時に、どこか残念に思う自分がいることを内心で自覚するウェイブ。
「ま、お披露目のつもりがあるなら、その時に期待するさ。ともかく、約束の時間があるからひとまず帰ろう」
その提案に異論の無かった二人は揃って頷いた。
「ね、ね、ね、ウェイブって、遺跡の件を済ませたらすぐにここを出発しちゃうの?」
買い物帰りの途上、アニィは唐突に問いかけてきた。それは彼女達にはある意味重要な感心でもある。
「当初はその予定だったけど、クライマーの件を完全に解決させるまでは、そうもいかないさ」
「私達のため・・・ですか?」
「まあね・・・乗りかかった船、と言うより、勢いで首を突っ込んだのはこっちだし、多少なりとも責任もあると思ってね」
言葉の中に、自分達を護る騎士のイメージを抱いたシルディが、少し照れながら問いかけると、ウェイブは即答したが、それは彼女等にとって満点には至らない返答であった事は否めない。
「でもさ、向こうもウェイブが去るのを待ってたらどうするの?」
敵の持久戦。即ち、ウェイブの滞在の長期化の可能性を指摘した。
「実のところ、それが厄介だなと思ってた。奴にしてみれば、俺を倒す事は目的の必須条件ではないんだよな。闘って奪わなくても、君達二人を手中にすればいいだけで、決着にこだわらない選択をされると否応なしに長期戦になるんだよな~」
彼にしてみれば一番嫌なケースであり、十分に有り得る現実であった。
「そうなると、ウェイブさんはずっと居て下さるんですか?」
そんな彼のぼやきを前に、どこか嬉しそうにシルディは確認を取る。
「言った手前、そうなるんだよな~」
滞在に関しては不満はない。だが、彼自身も目的抱えており、長期足止めは他の地に散った二人にも手間をかけさせてしまうと言う負い目も少なからずあり、見通しの立たない問題に、溜息をもらす。
「あいつが、プライドを傷つけられて逆上するタイプなら、早期の決着も望めると思うんだけど、仮にそんな性格であっても、すぐには行動を起こせないだろうし・・・」
「あら、どうして?」
「奴は昨日、俺に腕を斬り落とされたんだぞ。魔法を駆使しようと、一日でどうにかできる問題じゃないさ。できれば、その時の恐怖で隠居してくれれば有り難いんだけど、そんな気も無いみたいだし・・・」
言ってウェイブは購入したばかりのニードルを一本、無造作に投げ放った。
「「!?」」
何事かと、アニィとシルディがニードルの投擲方向を見ると、一匹のコウモリがニードルに射られ、民家の壁に突き刺さっていた。
「たぶん、あいつの使い魔だよ」
壁に磔となったコウモリが、少しの間藻掻いて動かなくなるのを確認して、ウェイブは残ったニードルを包みに戻す。
「たぶんって、確証無かったの?」
言葉尻を捉えたアニィが、思わず問い返す。
「俺には魔法で使役された動物の区別はつかないさ。でも、昼間っからコウモリが飛んでるなんてどう考えても不自然だろ」
常識的にコウモリは夜行性である。飛翔は夕刻になってからであり、今の時刻でのそれはまずあり得ない。しかも、餌の虫を捕るでなし、彼等の周囲ばかりを飛ぶでは、怪しさが際立って当然であった。
「よく気づいたわね~」
壁の飾りと化したコウモリを遠目で見やってアニィが感心する。指摘されなければ、確実に見過ごしていたからである。
「冒険者の習性だよ。ともあれ、奴が諦めていないのはこれでほぼ確実だな。奴の住処でも判ってれば、こっちから攻める手もあるんだけど・・・・」
一つの可能性を述べ、二人にその情報を求めたが、それは首を横に振る仕草で否定された。
「すみません・・・」
「だろうな。最初っから判ってれば、俺でなくても討伐してるよな」
「じゃ、やっぱり待つだけ?」
「人手とかモラレスさんの協力が得られれば、捜索する手もあるが、今は奴より遺跡の方が先だ」
転送先のすぐ近くに目的のポイントがあった事実を考えれば、カレン・タールも同様の条件であるのが当然であり、トラブルに遭遇していなければ、ウェイブも早々に目的を達成しているはずであった。
話の流れで、近くにあった目的地を素通りしてしまった彼は、自分が最も道草をくって手間取っているのではないかと思い、僅かながら焦っていたのである。
特に競争という訳でもなかったが、おれは互いに仲間の様子が判らない事と、目の前の問題に対し、頼れる仲間が不在であるという不安によって生まれた心情であった。
それ故、当面の問題となりそうなクライマーが完璧な状態でない、今のうちにできるだけ事を進めたいとウェイブは考えたのである。
買い物から帰宅したウェイブは、約束の時間にまだ間があり、再び出かけるのにも中途半端な時間帯であったため、客間でくつろぎながらモラレスの訪れを待っていた。
アニィとシルディは、購入した物品の確認の為に、自室に籠もっており、この場にはいない。
既に鎧を装備し、剣を傍らに置いて準備万端のウェイブがのんびりと時間の経過を待っていると、想定の時刻よりやや早い時間にモラレスが戻り、執事と共に客間へと姿を現した。
「お待たせしました・・・娘達は?」
客間で待っていたのが一人であった事に意外さを感じて、モラレスは問うた。
「今、買い物した品を吟味中みたいですよ」
簡潔に説明してウェイブは、視線を彼女等の部屋の方向に向け、少し真面目な表情となって小さく語った。
「このまま黙って出ていって、手っ取り早く用件を済ませるのも手かと思いますけど・・・」
二人の中のシドレに、可能な限り機会を与えない。そんな思いから出た発言に、モラレスは首を横に振って応じた。
「多分、無駄ですね」
自分の帰宅は既に知られているだろうと悟っての返答である。だが彼には、それに対する代案があった。
「それより、私も一案を思いついたんですが・・・」
「案?」
「ええ、多少強引ですが、二人を足止めできるはずです・・・これを」
言ってモラレスは小脇に抱えていた羊皮紙を広げてテーブルの上に置いた。
「これは?」
「例の遺跡の図面です。調査で判っている事が全て書き込まれた物ですが、ここを・・・」
そう言ってモラレスは、図面の一部を示して己の考えをウェイブに説明し始めるのだった。
「・・・・・・・どうです?」
自分の計画を全て説明し終えたモラレスが意見を求めた。
「まぁ、実際、数分間だけ時を稼げれば良いだけですからね。思惑通りの機能が約束されてるなら十分だと思いますけど、本当に命に関わらないでしょうね?」
「ええ、それは保証します。過去に実証済みです・・・」
「実証済み・・・と、ともかく、それならその案で行きましょう。ちょっと二人には気の毒かもしれないけど」
「それは、許してもらいましょう」
モラレスとウェイブは苦笑して、出発の支度を始めるのだった。
ウェイブとモラレスが出発するという報告は、隠し立てしないという方針となった二人の意志により、執事を介してアニィとシルディに伝えられた。
「お待たせ~」
玄関前の広間で待つウェイブ達の前に、バタバタと派手な足音と共にやって来た二人の姿を見て、彼は少し拍子抜けする。
「あれ、買ってきた服じゃないのか?」
二人の姿は、買い物時の衣服に上着を羽織っただけのもので、予想していた新品の服とは違っていたのである。
「後でのお楽しみって言ったじゃない」
「そのお楽しみが、今かと思ったんだがな・・・」
「もっと後なのよ」
言ってアニィとシルディは顔を見合わせ笑みを浮かべる。
二人は、お揃いとなる魔法用の杖を手にし、左の指には昨日ウェイブが譲渡した魔法発動体となる指輪もはめられ、一応の護身対策を施していた。
ただ、ウェイブの視点から見ると、カレンという大きな比較対照の存在もあることから、通常戦闘、つまりは武器を用いての接近戦闘にまるで対応できない様相にはかなりの心細さを感じるのだったが、これこそが本来の魔法使いであり、基本的に比較対照となる存在が特異すぎるのである。
「ま、今回は戦闘はないとは思うが、用心にこしたことはないからな。まぁそれでも、できれば二人とも、奥の手とか隠し球の一つや二つはあった方がいいけどね」
「それって、コレの事とか?」
言って左手の薬指にはめている指輪を見せるアニィ。
「そうだな。でも普段はポケットに隠しておいた方が、杖を奪ってもう魔法は使えまいと、敵を油断させる効果もあるけどな」
ウェイブは冒険者としての経験に基づく意見を至極当然に語り、見せつけた指輪の位置と意味を全く理解していなかった。
その一方で、指輪の件が初耳だったモラレスは、その細部の意味まで悟って若干驚きの表情を見せていた。
「う~つまんない」
肝心のウェイブが、指輪に対する関心を全く示さなかった事で、からかうネタにも、意識してもらえるきっかけも掴めなかったアニィが、不満の声をもらす。
「ははは・・・・あの手の、肝心な部分に無関心あるいは鈍い場合の人は、直球勝負の方が効果的だよ」
アニィの膨れっ面を見て可愛いと心底思ったモラレスは、笑いながら娘の頭を無造作に撫でるのだった。
「何の話です?」
本当に状況の理解できなかったウェイブが親娘に問いかけたが、親は笑ったまま、娘はそっぽを向いて、結局彼は答えを得る事が出来ずに終わる。
こうして戦士と学者、そして攻守専門の魔法使い一組という構成の即席パーティが結成された。この面子は遺跡探索に関して言えば、理想的に近い編成と言えるだろう。
だが今回の探索は、大半が調べ尽くされ、街の敷地内に存在する遺跡であるため、大きな危険は生じないと誰もが予想しており、それに間違いはなかった。
昔から行われている調査によって、土着のモンスターの大半は駆逐され、街の敷地内となってからは侵入して居座る種も激減し、地中生息型のモンスターが紛れ込む以外に発生のケースはなくなり、その頻度も稀であるため自然的危険は皆無と言って過言ではなかった。
そのため、人為的な危険となる未発見のトラップ、そしてクライマーの驚異が当面の注意点となっていた。
しかしトラップに関しても、これから一同が向かう先は長い年月をかけて調査が成された区画でもあるため、危惧するに値する危険性は無いといえた。
「こちらです・・・」
モラレスは、世間一般で言われる遺跡内の行動では有り得ない、学者が先頭となっての構成で複雑なはずの通路を黙々と歩き続ける。
そのペースたるや、続くウェイブがマッピングをする暇も無いほどで、まるで我が家の中を歩くような様相であった。
「モラレスさん、この中にどのくらいの期間、過ごしてたんですか?」
一つの迷宮を熟知し尽くした事による歩みに、ふとウェイブが問うた。
「さぁ、自分でもはっきり覚えていませんが、ここは私の生活の一部でしたからね。この中にいた時間だけに限定しても、数年分はあると思いますよ」
「凄いな」
心底ウェイブは思った。
飽きなかったのか?などという疑問は抱かなかった。剣や魔法、そして気孔闘法も奥が深く、どれだけ修行しようとまだまだ先がある事を肌で知る彼は、武術に限らずあらゆる分野もそうなのだと思っている。
ましてや、モラレスは過去の遺品から当時の情報を得ようとしているのである、いくら調べても足りないだろう事は容易に察しがつき、その調査の積み重ねで今の状況が存在するのだと理解した。
そして、今回のウェイブの行為で、彼の中に新たな情報が積まれるのである。
それは何の事はない、ただ現場にて意思を持って触れるだけの行為ではあったが、それだけの行程で、彼等が代々目論んでいた外界への扉の一歩が踏み出されるのである。実行者であるウェイブ以上に緊張と興奮と期待が渦巻いていた。
その反面、邪な思惑が横槍を入れれば、大きな反動が生じるのも知っていたウェイブは、僅かとはいえ危険性を除去する必要性があると感じ、その根元であるアニィとシルディを場に居合わせないようにする事を望み、諸事情を知るモラレスもそれに同意した。
都合良くモンスターの襲撃も期待できないこの場において、二人は地の利を活かした手法によって彼女等を足止めする計画を練り、いよいよそれが実行にうつされようとしていたのだった。
「・・・・・大丈夫そうだな」
「何がですか?さっきからずっと後ろを気にしてますけど」
最後尾に位置し、数刻に一回の間隔で背後に視線を向けていたウェイブの行為に疑問を抱いていていたシルディが、ついに好奇心を抑えきれなくなってその理由を問うた。
「クライマーの手の者が尾行しているかもしれないなと思ってね、気にかけてはいたんだけど、中までは追ってきてないようだ」
「中まではって事は、遺跡までは誰かつけてたの?」
言葉の中に潜む可能性に気づいたアニィが少し驚いて振り向き、ウェイブを見た。
「ああ、あからさまに怪しい尾行者に、意味ありげについてきていた黒猫がな・・・場合によってはまた出入り口で一悶着かもしれないけど、中で邪魔されるよりはましだよな」
言ってウェイブが視線をモラレスに向けると、彼も小さく頷き、いよいよ計画が実行されようとする。
「もう、そろそろ・・・・なんですよね?」
目的地そして、計画実行のタイミングの確認も兼ねてウェイブが問うと、モラレスはこくりと頷いた。
「ええ、この辺りは例の場所に近いためか、幾つものトラップやその制御区画が混在しています。昔、石が発動しなっかた事で本物ではないと断定されてから、この区画の調査意義も失なわれて、半ば放置状態となっていますので、足下などに気を付けてください」
モラレスは一同を見回し、注意を促す。だが、それこそがアニィとシルディをある場所へと誘導するための奸計であった。
彼女等はその言葉に応じ、慎重を期すため、先頭のモラレスと同じコースと辿って歩き出す。しかし、全く同じポイントに足を運んでいないところに付け入る隙があった。
彼は後方の二人を注視しながらタイミングを待ち、二人があるポイントに足を置いた瞬間、二人の後方で殿を努めるウェイブに視線を送って頷いた。
それに応じてウェイブはあらかじめ手を添えていた壁の一部に軽く力を加える。すると、その加重に反応して巧妙に仕掛けられていた仕掛けが作動し、二人が視界から姿を消した。
「きゃっ」
「ひゃっ」
それは消えたのえはなく、下に落ちたのであった。
突如、アニィとシルディの足下に小さな穴が発生し、二人を落とし込んだのである。
最初から生じていたのではなく、文字通り発生した『穴』に、二人はつんのめって倒れる事もなく、無抵抗のまま真下に落ちたのである。
「「いたぁ~い」」
だが、完全に姿を消したわけでもなかった。
穴は本当に小さく、彼女等の腕が引っかかる形となって完全に床下に消えるのを防いでいた。まぁ、本来の、平均的発育をした女性であれば、胸の部分で引っかかりが生じていたはずだが、それは個人差による物で彼女等の罪ではない。逆に、そのおかげで落下の勢いで胸部を打ちつけるというダメージを受けずに済んだのだから良しと見るべきかもしれない。
「トラップか、おい、何やった?」
事の張本人であるウェイブとモラレスが、わざとらしく心配した表情を見せて二人の元へと向かう。
「知らないわよ、急に床が消えて・・・シルディが変な所を踏んだんじゃないの?」
「そんな、私、知りませんよ」
「ともあれ、穴が小さくて良かった」
本来の『落とし穴』の類であれば、それは大きく深く、人が完全に落ち込む作りとなっている事に加え、這い上がれない事が要される物となっているはずであり、その事をふまえれば、今回のそれはそうした条件をまるで満たしては居なかった。
だが穴は失敗作でもミスでもなく、こうした形状である事が必須とされた仕掛けであり、これがどんな類の物なのかを過去の調査で把握していたモラレスは、二人には気の毒であるものの、命に支障のないこの罠へと誘い込むことを目的とし、見事に成功したのである。
「まったく、不注意だぞ」
叱ることで、今の出来事には無関係を装いウェイブが歩み寄ると、モラレスもそれに合わせて言った。
「とにかく、未完成の穴とも思えません。早く引っ張り上げましょう」
そう言ってモラレスは娘のアニィの両手を持ち、それに習ってウェイブもシルディの手を取って引っ張り上げようとしだす。この男二人の力によって二人は穴から容易に脱出できるように思えた。
だが、二人の身体は僅かに上がったかと思うと、急に重さを増して沈み込み、元の位置へと戻ってしまう。
「な、何?」
思わぬ加重の変化に対応しきれなかったモラレスがつんのめり、ウェイブもバランスを崩してよろめくと、少し驚いた様子でシルディを見やった。
「シルディ・・・・一日で急に重くなった?」
「ち、違います、何かが下で・・・・」
シルディは大慌てで体重増加説を否定する。実際には体重増加ではなく、穴の底から生じた『何か』が、脱出しようとした彼女等を引っ張って引きずり戻したのである。
「やだっ、穴の中で何かが、何かが蠢いてる」
見えぬ足に絡んで蠢く何かの存在を肌で感じてアニィは小さな悲鳴を上げた。
(しばらく我慢してくれ・・・)
その正体を正確に知るのはモラレスだけであったが、その説明をするわけには行かなかった彼は、心の中で二人に謝罪すると、間もなくしてトラップがその本性を現した。
「はうっ!うきゃぁっはははははははははは、あは、あはははははは~~~~~」
「はぁん、やはっやぁはははははあははははははははっうひゃっはははははは!」
穴から脱することができなかった二人が突如、笑い声をあげて身悶えだす。
穴の底から生えだし、脱出を妨げた触手状の物体が、群をなして彼女等の身体を撫で回し始めたのである。
ほぼ肩から下が見えない彼女等は、不意打ちを受けて堪える間もなく吹き出してしまったのだ。
「ちょっ、やだっやはっっはははははははははは、あ、あしっ、わきばらっ、こすられてっ、いひゃっっははははははははは!」
「だめっ、だめっ、だめですぅぅ~~~そ、そこっ、ふひゃっっはははははははあああはははははは!!」
アニィとシルディを襲う触手は丸いと言うよりはやや広がりがあり、人の舌が異様に伸びた様な存在であった。その表層はお約束のように粘液を分泌しており、絡む衣服を徐々に滑らせていった。
その上、表層の一方向には適度な堅さ、あるいは柔らかさの棘状の物体が並び、それを擦りつける事で微妙な刺激によるくすぐったさを与えていたのである。
「やだっ、そこっ、ダメだって、ひゃぁぁぁ~~~~っっはははっははっははははは!弱いから、弱いんだからぁ~~~ひゃひゃひゃっっははははは!」
「くるっ、くるしっ、くぅあぁっはははははははは!!ひあはははははははははは!」
触手の動きは何一つ目に捉えることができず、どこを責められるかのタイミングも掴めない二人は、常に刺激の不意打ちを受け続け、穴の中で悶え続ける。
手足の拘束こそなかったものの、状況は事実上、抵抗の手段無しといって過言ではなく、長細い穴の中で、二人は身を縮める事も、手でガードする事も、身を捩る事も満足に出来ないまま、その狭い中を滑りと細さで自由に動き回る触手の蹂躙を許した。
その上、触手が蠢く度、衣服には粘液が浸透して棘の滑りを円滑にし、それによる刺激の効果を増大させていた。
「はやく、早くはすけてくださぁぁぁぁ~~~~い」
自力で這い上がろうとしても、足を引っ張られて抜け出せないシルディがウェイブとモラレスに助けを求めて手を差し伸べる。
「わたしっ、わたしもぉ~ほ、ほひゃっはははははははははやぁぁぁ~~~~~!!」
時の経過と共に慣れるどころか激しさを増すくすぐったさに、アニィも両手で激しく床を叩いて身の苦しさを緩和させようと儚く無駄な努力をし続ける。
「と、とにかくもう一度」
「はい」
ウェイブとモラレスは、無駄と知りつつ再度二人を力任せに引っ張り上げようと暴れる両手を掴んで力を入れた。
当然そんな単純なことで抜け出せる程、この『くすぐり穴』トラップは甘くはなく、逆に両手を伸ばした事で身体の筋肉の伸び方が変わり、新たなくすぐったさを生み出す要因となってしまった。
「ふひゃっ!ふひゃっっははははははははっははははは!だめ、だめぇ、我慢できない、だめぇぇぇぇ!!」
たまらずアニィが手を振りほどいて再び床に腕をついた。本当は更にその下をガードしたかったのだろうが、狭い穴がそれを許さず、触手の独壇場を許し続ける。
「これじゃ、引っ張り上げるのはかなり難しいですね」
少しわざとらしさが垣間見える口調でウェイブが言ったが、触手のヌルヌルトゲトゲ擦り責めをほぼ全身に受けて笑いを止められないアニィとシルディが、それに気づく事はなかった。
「やはり、トラップを制御している仕掛けを止めるしかないですね」
モラレスも顎に指をあてて、さも考えたように呟く。
「あるんですか?」
「もちろん、こんな手の込んだトラップです。複雑な仕掛けが必要になります」
「で、何か心当たりがあるんですか?」
「もし、ここも基本的に作りが同じであれば、この辺りに・・・・」
言ってモラレスは用意していた図面の一部を開いてウェイブに見せ、ある区画を指し示す。それこそが彼の目的地、ブラッド・ストーンの置かれている区画であった。
「判りました。俺が行って来ます。モラレスさんは二人の側に」
そう言ってウェイブは急を要すると言わんばかりに駆けだして行った。
トラップの制御部へ・・・という口実を持って単独行動に入ったウェイブは、当初の予定通り、教えられたブラッド・ストーンの安置区画へと向かった。
彼女達を比較的安全な罠で足止めし、その隙に事を成す。
発動時にシドレの意思に関与されたくなかったウェイブとモラレスの苦肉の策は一応の成功を収め、彼は邪魔を得ることなく目的地へとあっさりと到達する。
「ほんとに図面通りだったな・・・」
辿り着いたその部屋は、中央部で見た魔法陣と同形状の魔法陣が、床一面に描かれており、その中央では光を失った至高のアイテムが、時が来るのを静かに待ちかまえていた。
-始動キーとなる思いを強く抱くだけ-
それを知るウェイブは、罠の存在を無視するというより、発動しない事を確信し、無造作に中央部に歩み寄ると、台座に置かれた石に軽く手を振れ、新たな世界への渇望を想いとしてぶつけた。
『それ』を永きの期間、待っていたブラッド・ストーンは、いとも簡単に眠りから覚め、独特の血の色の輝きを放ちだす。
「・・・・予想以上に簡単だったな」
最初にこの地に訪れた際、もう少し二人への質問の意味を変えていれば、こんな回り道をせずにすんだはずだとウェイブは思う。だが、そうした場合、彼は二人の中に眠る存在に気づかぬまま、ブラッド・ストーンと接触させてしまい、余計な騒動を起こしていたかも知れないのである。
そうした運命の絡まりを思うと、世のバランスは実に微妙だと実感せざるを得ないウェイブだった。
「・・・・・・・・・・・・・」
そんな事を考えながら、ウェイブはそのままいくばくかの時間を潰した。
しばらく待てば、目の前のブラッド・ストーンが新たな反応を示して、次の地の転移魔法陣でも構築するか、道標でも出すのではないかという淡い期待があっての事だったが、至高のアイテムはそこまで便利に、あるいは解放を求める者達に甘くはなく、起動以上の反応を一切示すことはなかった。
「・・・・・自力で向かえって事か・・・やっぱりキーン殿は不必要に優しくもないみたいだな」
魔法陣が正五角形を頂点としている事が判っているため、次のポイント位置もあらかた想像はつき、その単純な距離を考えただけでも目眩が生じる旅の予想に、ウェイブは一人苦笑した。
唯一救いなのは、その苦労が自分だけでなく、三人共通の物であり、その中にあっても彼は地理的に比較的有利だという状況だった。
ウェイブは転移先とテレポーターの位置関係を早々に察し、タールとカレンの転移先も予想していた。
各員が転送先のポイントの起動に成功していれば、残るポイントは二箇所となる。
位置関係からすれば、自分とタールが隣接するポイントに向かえば良いわけだが、カレンから見れば、両隣のポイントは既に起動状態となっており、残る二箇所へは最短でも自分達の倍近い行程となる。
更には、タールなどがテレポーターの位置関係を把握せず、勘だけで次のポイントを選択した挙げ句、カレンの処置したポイントに向かってしまう可能性も捨てきれないのである。
もしそうなれば自分達の苦労は増加する訳だが、さすがにそこまで考えるのは行きすぎであり、その結果が判明するのは良くも悪くもまだ遠い先の事なのである。
今から思い悩むのも馬鹿げていると判断したウェイブは、ともかくもこの場の用件を済ませた事で一つの区切りを得る事となり、こちらの都合で足止めを受けているアニィとシルディを解放すべくブラッド・ストーンの間を後にした。
「ひひゃはははははははははは!!おと、お父さっ、まだっ、まだななおぉ~~~」
「ふぁ、ふ、服の、服の中に、だめっ、ダメですいひゃははははははあはははははは、あひゃっひゃっひゃっひゃっはははははは!!」
その頃、アニィとシルディは疲れを知らない触手の不規則で手心などまるでない責めに、一時の間もなく笑い声を吐き出し続けていた。
留守番役でもあり事の犯人の一人でもあるモラレスも、さすがに同情して何とか苦しみを和らげられないか、一人でも助けられないかと孤軍奮闘するが、どの様な体勢で引っ張っても、彼女達の身体は穴から脱することはなく、それどころか、逃れようと思い立った事の罰とばかりに、触手の動きがより活性化して、彼女達を苦しめているのである。
既に穴の中の衣服は全体が粘液にまみれ、それが浸透して肌にも付着していた。そして抵抗の術もないまま、一層滑りの良くなった肢体を、触手は縦横無尽に這い回るだけでは飽きたらず、衣服の中へと侵入を開始していたのである。
唯一の障害となるはずだった、肌と衣類の摩擦も、既に粘液によって効果を失っており、触手はいとも簡単にその深部まで進行していった。
「いやっっははははははははは!!あ~~~~っはははははははははは!それっ、それ以上は駄目ですってばぁ、ぁぁああああ~~~~~~~!!」
法衣のズボンの裾から侵入した触手が徐々に這い上がって来る感覚にシルディは笑い悶える。触手の動きに伴って、その表層に生じた指圧用の突起の様な棘が皮膚に擦りつけられ、粘液がローションに似た効果を発揮する事で、彼女の肌に指先で引っ掻くような微妙な刺激を生じさせていたのである。
それは足首から太股へと進行し、更には腰のベルトの圧迫も突破して上半身にも至り、その細身の身体に幾重もの螺旋状に絡んでいく。
「はひっ!あひゃははははははは、それ、そ、そ、それはぁぁっはははははははは!いきゃぁっははははははははは!」
腰回り、肋の下、あばら骨の間、と、微妙なポイントを棘が通過する度、シルディは身をビクッビクッと震わせ、弱点を駆けめぐる感覚に敏感に反応する。
やがて活動ラインなのか、穴の縁に至った触手はピタリと上昇を停止させる。
「はぁっ、はぁ?と、とま・・・!!~~~~~いひゃぁぁぁぁ~~~~」
触手の動きが緩慢になって安堵しかけたその瞬間、触手はもう少しで辿り着けるはずだった脇の下に到達できない悔しさをぶつけるかのように、その先端を腋下のやや下のポイントにぶつけたのである。
そこは発育不全ではあるが、胸の膨らみの付け根部分であり、力加減によっては十分な有効ポイントと成り得る場所であった。
そのツボ的急所を責めた触手の先端は、人の指先によるそれと等しい刺激を与え、彼女にまたしても不意打ち的くすぐったさを押し売りした。
「はひゃ、あひゃ、いやっっははははは!そ、そんなとこ、グリグリしちゃ、だめぇですぅ~!!」
聞き入れられないと知りつつもシルディは悲鳴混じりの懇願をし、身体を僅かにくの字に曲げる。だが触手は彼女の身体に巻きついてポジションを維持しているのである。穴がもっと広く、多少身体の自由があったところで、その苦しみに変化はない。
触手はしばらくの間、シルディの胸の付け根を絶妙の力加減で刺激し続けたかと思うと、いきなり彼女の身体から撤退を開始する。
「~~~~~~~~~~~!!!」
しかしそれは『解放』ではない。絡みついた状態を維持したままでのそれは、『棘』の刺激が逆行しているだけであり、彼女は無数の指が爪を立てて身体を上から下へと螺旋を描いて降りていく刺激を強制的に堪能させられた。
「あきっ、ぁきゃっ、ぁあっ~~~~~~っっっひゃっはっっっはひゃっっはあっははははははははは!あぁぁぁああああ゛~~~~~~~!!」
シルディは狂った様な笑いと共に、両手、両肘を床に叩きつける。本来なら、両手両足でもって身体をガードしたい刺激だったのだが、陰湿な小穴はそれを頑なに拒み続けている。
絶妙な力加減とスピードで身体を下った触手は、一連の反応を気に入ったのか、再度足下からの侵入を企てる。
「ひぁあぁっっ!はっはひっ、そ、そんなぁ」
しかも今度は一本ではなく、左右の足の裾から二本の触手が侵入を開始し始めており、これによって生じる苦しみを想像してシルディは身震いした。
無論、この悲劇は彼女だけではなく、もう一人の犠牲者アニィにも等しく降りかかっている。
彼女もまた、粘液によって服の内外を滑らせており、触手の侵入を容易にしていたが、彼女を襲う触手はその思考パターンが異なるのか、同じ動きをしていなかったが、それが、苦しさの緩和に繋がるかと言えばそうではない。
アニィの身体を嬲る触手は、シルディ同様ズボンの裾に着眼したが、上へではなく、下へと侵入~移動を開始したのである。
「うわっ、うわはははははは・・・そ、そっちはぁ~~」
左右の靴下の中へと侵入する触手を感じ取り、アニィは必死に足をばたつかせたが、既に侵入を開始したそれを排除するのは不可能であった。
「やめっ、やだっ、や、あぁっ・・・・」
足に完全フィットしている靴下であったが、触手の強引な侵入と粘液の滑りによって、簡単にずり下がり、更に下の靴まで進行を許し、その靴もそうした強引な割り込みによって簡単に脱げてしまう。
そこに残ったのは、覆う物を一切失った無防備な足裏のみ・・・・
「きゃ~~~~~やぁ~~~」
これによって触手の目論見を悟ったアニィが悲鳴を上げた。
視界の外では足が狭い穴の中を必死に逃げ回ったが、行動範囲の狭い中で逃げ切ることなど不可能だった。
触手はくるりとそれぞれの足首に巻き付いて引っ張り、その抵抗を制すると、絡みついた余剰部分を無造作に擦りつけた。
「ひぎゃっ!ひひゃっはっはっはっはっは、はぁ~~~~~~~っっっはははあはははははははは!!!」
もちろん擦りつけられた面には、例の棘が生えていた。まるで両足裏に何本ものペン先で落書きされているかのような刺激を味わって、アニィは堰を切らしたかのように咽せながら笑い続ける。
触手は縦・横・右・左と、緩急だけでなく移動方向も不規則に変化させながら執拗に足裏だけを重点的に責め始める。粘液によって足裏は、絶妙の滑りを提供し、通常あり得ない感覚を足裏から与え続ける。
そして時には先端を足の指の間に潜り込ませてうねったり、土踏まずの柔らかい部分を円を描くように蠢いたりと、ただでさえ弱点となっている足裏の、更なる要所を重点的に責める技巧までも駆使し始める。
「はひゃ!あひひひひっひひひっひひひひひ!!あぁっっはははははははははは!そんなっ、そ、そんなとこばかりっ、ひ、ひ、ひぃやぁ~~~~あ、あ、あははははは!!」
身体全体でみれば、僅かなポイントでありながら筆舌しがたい強烈なくすぐったさに貫かれ続け、アニィは狂ったように笑い続ける。どんなに藻掻こうと、そんなに気を張りつめようと、受け止めるしかない刺激に彼女は流され続ける。
そんな疲れも知らない触手を前に、アニィが笑いながらも意識を失いかけたその時、唐突に触手がその動きを停止した。
「はひひひひひひひ・・・・・ふ、ふぁ?」
更なる責めの予兆、あるいは不意打ちのための緩急かと考えつつも、正直な身体は不足した酸素を欲して荒々しい呼吸を開始する。
ここでまた責められたら地獄だ・・・と、恐怖したものの、恐れた刺激は一向に来なかった。それに代わってやって来たのは、聞き慣れたウェイブの声だった。
「お~い、二人は無事ですか?」
自分達の為に奔走したウェイブが帰ってきた。と、アニィは声で察し、自分がようやく解放されたのだと知る。
だが、実際のところ経過した時間の大半は別の目的に費やされていたのだが、その事実に彼女はまるで気づかず、また、疑う余裕がなかった。
「ああ、かなりへばっているが、大丈夫だよ」
(それで?)
戻ってきたウェイブに答え、要点に関して耳打ちするモラレス。
(ええ、やっぱりあそこは本物でした。石は輝きを取り戻してます)
(そうか・・・そうか・・・)
ウェイブが事を手短に語ると、モラレスは嬉しさを隠しきれずに何度も何度も頷いた。
永きに渡って調査していた遺跡の要所の実態が、遂に現実となって明らかになったのである。一族でここを調査していた者にとっては、興奮の出来事であっただろう。
「ウェイブ、遅い~~~」
そこへ不満に満ちた声が割り込んだ。散々、くすぐり触手に嬲られて息も絶え絶えとなったアニィが、その諸事情も知らないまま、遅れた彼を恨めしそうに見上げており、その隣では、シルディが既に昇天状態と化している。
「悪い、色々道に迷ったり仕掛け相手に手間取ったりしたんだよ」
よもや、最優先事項がブラッド・ストーンとは言えないウェイブは、偽りの理由で謝罪する。
「ほんと、死んじゃうかと思ったわよ」
呼吸も徐々に落ち着いた彼女は、いつもの調子を取り戻しながら嫌味のない愚痴を続ける。
「そう言うなって、何とか間に合った訳だし・・・・って、最初に出会った時もそんな状況だったよな」
「そう言えばそうね。でも、そんな思い出より、早く助けてよ」
アニィが苦笑しつつ床を叩き、現状をPRすると、ウェイブとモラレスは慌てて彼女等に駆け寄った。
「ああ、これは失礼」
「まったく・・・ウェイブと一緒に迷宮に居ると、こうなる確率が高いのかしらね」
「あ、助けてもらってる最中に、そんな事いう?」
引っ張り上げられている最中に出た愚痴は、ウェイブにささやかな悪戯心を芽生えさせ、引き上げていた手をするりと滑らせて指先が両脇の下へと潜り込む体勢に変化させると、有無を言わさずその指先を蠢かせ、脇の下をこね回した。
「!!!~~~うきゃぁぁ~~~~~~~!あ、あひゃっっははははははははははは!あ~~~~っっははははははは!ごめっ、ごめん!口がすぎましたぁっ!やはっっはっははははははははははは!ゆる、ゆゆ、ゆるしっ、ゆるしふぇっっへへへへへへへあひゃっはははははは!!」
先程の一件では責められていなかったポイントに対する刺激に、アニィはまた元気な笑い声を放ちながらウェイブの腕の中で藻掻き笑うのだった。
あとがき
前にお話しした、アニィ&シルディ受難ネタ、その基本路線とも言うべき構図の話となりました。
今後、二人の陥る「事態」の考案が課題となり、機会を見つけては、トラップ本やらモンスター本、その手のモノの出てくる作品をあさって、ネタ探ししております。