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2014/03/04(火)に投稿された記事
第4章 ウェイブ編 1-7 -結界より訪れしモノ-
投稿日時:21:45:15|コメント:0件|》本文を開閉
ディレクトリ:くすぐりの塔AF -魔王の後継者達-
そういう3月ですね、俺の住んでる所では、毎年ひな祭りは公民館あげての大イベントを企画します。
しかし開催日は昨日!参加できなかった俺!
こういうイベントって参加したいよね。
要となるブラッド・ストーンの場所さえ分かれば、その諸手続は想像以上にスムーズに進み、その簡潔さたるや、肉体的・精神的疲労や代償も何一つ費やさず、これによってもたらされる『事の大きさ』を考えれば、本当にそれで良いのかと、思わず首を傾げてしまうほどであった。
それ故に、他に何か手続きがあるのではと勘ぐりもしたが、現時点でこれ以上の必要手順が無い、あるいは得ていないウェイブは、考えすぎて余計な事をした挙げ句、機能を損なわせる愚は犯せないとして、当初の予定以上の行動を控えた。
そして何より、彼が単独でブラッド・ストーンに接触するために、アニィとシルディを気の毒な方法で足止めしている事を自覚していたため、急ぎ来た道を戻り、その途中で教えられていた場所に立ち寄って、トラップ制御用の魔法球を破壊して状況を整えると、彼女等の待つ部屋へと戻った。
「あ~苦しかった・・・・」
激しい笑い地獄から解放されて数分。ようやく息が整ったアニィは、ゆっくりと立ち上がって遠回しに対処が遅かったウェイブを非難した。
「そう言うなよ、ここは俺の庭じゃないんだ」
「だったら、お父さんが行けば良かったんじゃない」
それはもっともな意見であり、これをよくよく考えれば状況の不自然さに行き着く事もあり得ただろう。だが、そうした疑問を抱かれるのはウェイブの想定の中に存在した。
「でも、モラレスさんじゃ、トラップを制御する魔法球を物理破壊する事は難しいだろ。場所に素早く行けても、止めるのに時間がかかったかもしれない。下手したら今も楽しく笑ってたかもしれないだろ?」
「う~ん・・・そうかも・・・・」
魔法学者モラレスと、気孔剣士ウェイブというスキルの質の差を考えれば、その意見には説得力があった。止める方法が魔法球の破壊という前提での内容に限っていたが、アニィは破壊せずに止める方法を、養父モラレスなら知っているのではないかという可能性を見逃し、納得してしまう。
これには昨日、この迷宮でウェイブに助けられた際、やはりそれが破壊的行為(拘束対象の抹殺)だった事が起因している。
「で、シルディは大丈夫か?」
アニィがそれ以上の追求を断念したのを見取ると、ウェイブはいまだに床にへたりこんでいる彼女の方に視線を向けた。
「は、はい・・・大丈夫です」
半ば放心状態だったシルディは、声をかけられると慌てて返事をして立ち上がり、健気にも小さなガッツポーズをして見せた。
その様子からは明らかに疲労の色が見て取れたが、気を遣った彼女の意志をくみ取りウェイブは軽く頷いた。
「それじゃ、至宝の宝の見物ツアーと行こうか」
「・・・って、何でいきなりウェイブが先導するの?」
先程とうって変わって先頭を歩き始めるウェイブに、目敏く気づいたアニィが疑問の声を投げかける。
「ん? ああ、実はさっきトラップ解除に行ってた時に、目的の場所も確認できたんだよ」
「え? そうなの?」
「うん。そうなの」
あまりにも呆気ない返答に驚くアニィを尻目にウェイブは微笑んで応じた。
「で、本物でしたか?」
興味津々で問うたのはシルディであった。その瞳は好奇心と無邪気さに溢れてはいたが、その裏にシドレの意志が関与している可能性があるかと思うとウェイブは複雑な気持ちとなる。
「ああ、後は見てのお楽しみだ」
表情の変化を悟られまいと、ウェイブは短く言って二人に背を向けると、先程駆け込んだ通路に向かって歩き出す。
二人の受難の場所と、目的地は本当に離れておらず、ゆっくり歩いても僅か数分で到達できる場所にあった。
その部屋は、やはり特別さを示すために、他とは異なる造りの扉が備え付けられており、その前で一行は並んで立っていた。
「ここが・・・・」
「ブラッド・ストーンの部屋」
そう思って見ると、目の前の扉も威厳のような物を感じなくもないと思ったアニィとシルディの二人あったが、雰囲気よりも実物を目の当たりにしたい好奇心の方が当然のごとく勝り、早々に扉を開けようと取っ手に手を差し伸べたが、その二人の腕をウェイブの両手が掴んで阻止する。
「ウェイブ?」
「ウェイブさん?」
突如の行動に二人が戸惑いの表情をみせる。
「中に入る前に注意しておく。ブラッド・ストーンは見るだけで、触れたり何か願ったりはするなよ」
「何よ、唐突に?」
「ブラッド・ストーンは意志に応える万能アイテムだけど、それはフリーな状態の物に限っての事だ。ここにあるそれは、本来の所有者の意志で、既に使われる目的が定められているんだ。だから、それ以外の目的で使用を目論むと、手痛い・・・では済まない反動が生じるからな。展示品を眺めるように、無心でいる事。いいね?」
真剣な眼差しで念を圧すウェイブ。それは彼女等というより、その中の存在に向けての警告であった。
邪な意志に対するラッド・ストーンの制裁が、意志を抱いたモノにのみ影響するなら言うことはなかったのだが、さすがにそんな細かな区分までされているとは思えず、その器となるアニィ達にも・・・と言うよりむしろ、彼女達に制裁の影響が及ぶのは容易に予想できる事態であった。
だからこそ彼は警告を行い、この場での余計な行動をとらないように牽制したのである。そしてシドレの意思も、取り憑く肉体が滅んでは目的の達成は成されないため、状況を説明すれば応じるだろうと言う打算があったのである。
「う、うん」
「わかりました」
内容そのものより、ウェイブに気圧された様子で二人が頷くと、彼は掴んでいた腕を放して自分も扉に手を添え、それを押し開いた。
「おっ、おおぉ!」
開かれた部屋の中の様子を見て、まず声を漏らしたのはモラレスだった。
この部屋のアイテムの正体を知り、その稼働を夢見て適わずに終わり、空想だけに止まっていた光景が今、現実の物となって目の前に在る事実に、思わず感動してしまったのである。
台座以外に何も設置されていない部屋の中央で、その台座に鎮座している宝玉が、名前に恥じない血の色の光を放っている光景は、これまでにない神秘さと生命の脈動にも似た雰囲気を放ち続けていた。
「目覚めている・・・・本当に、あの眠れる石が目覚めてっ・・・これで我々に、世界への帰還の道が見えてきた・・・」
ある意味、夢物語でしかなかった出来事が現実の仲間入りをした瞬間に立ち会った事を意識した彼は感極まって涙すら溢れさせるモラレス。
その一方で、アニィとシルディは伝説級のアイテムを目の当たりにし、アイテムが放っているとは思えない威圧感にも似た感覚を受けながら、ただただその神がかった光の美しさに見入っている。
そしてウェイブは最後尾に位置し、大丈夫だろうと思いつつも、二人が潜む人格の抱いた衝動に突き動かされて無為な行動をとらないように、神妙な面もちで注視していた。
「なんだか・・・凄い」
「はい。迫力ある石ですね」
「伝説は伊達じゃないのさ。何度も言うが、気安く触れるなよ?」
「何度も言われなくても分かってるわよ」
「そうです。なんだか怖くて・・・」
二人のこの反応は彼女等の本心だとウェイブは察した。
「怖い・・・か、確かに神々しさは感じるけどな」
物をみて、それをどう感じるかは個々の感性である。彼女等の意見は、状況的には好ましい物であると同時に、そうした受け止め方もあるのかと、ウェイブは思った。
「それは石にドラゴンの魂が残っているからかもしれないね」
モラレスがふと会話に加わると、一同の視線が彼に向けられた。
「ドラゴンの魂・・・ですか?」
言っている意味が理解できず問いただすウェイブ。
「ええ、もともとブラッド・ストーンは、失われた古代文明の最高技術の一つとも言われていて、一説では、最低でも一匹のドラゴンの血肉を生贄同様の手法で精製させた物だという言い伝えがあります」
「それは聞いた事があります」
「ですから、昔からブラッド・ストーンには、生贄となったドラゴンの意志も封じられている・・・とした言い伝えや意見が存在するんです」
「それは初耳ですね」
だが言われてみれば、それもありかもしれないと思うウェイブ。人を生贄にした物ですら呪いや祟りが生じるのである。更に高位生物とされるドラゴンを生贄として用いたのであれば、そうした現象が生じても不思議ではい。
「もともと、実在するかどうかも疑われていたアイテムですから、御伽話や空想のレベルの話ですが、真面目に考えた者の中には、人の意志に反応する特徴は、石が意志を持っているからである・・・とする意見もあるんです」
「え~でも、ブラッド・ストーンって、所有者の願いを何でもかなえる石でしょ?もし自我を持ってたら、つまらない願いは受け付けないんじゃないの?」
養父の話にアニィが疑問を投げかけると、モラレスはもっともな意見だと頷いて話を続けた。
「もちろん、その意見に対する仮説もあるよ。さっきも言ったが、ブラッド・ストーン精製はドラゴンを生贄にして精製される。これは一種の呪いであって、石にされたドラゴンにとっては永続的な苦しみでしかないという説があるんだ。故に、ブラッド・ストーンの意志は、誰彼構わずどんな願いもかなえて魔力を消費して燃焼してゆき、唯一の救いとなる『消滅』に向かっていくのだ・・・・と」
「へぇ~」
これまで考えもしなかった角度の見方に、ウェイブが思わず感心した声をあげると、持論の様に語っていたモラレスは途端に照れた表情となって頭を掻いた。
「いや、これは昔の文献などの内容であって、私の研究結果ではありませんから・・・・何しろ調べようにも実物など入手できようはずのない物でもありますし・・・」
「確かに・・・」
その先の、言わんとしている事を察してウェイブは納得する。
仮に所有できたとしても、調査のために費やすなどという行為を行う者が居るかどうかも疑わしい・・・という所であった。
ただのアイテムであれば、それもあり得るだろうが、モノが有限のブラッド・ストーンとなると、それも難しくなる。人の欲とはそうしたものなのである。
「まぁ、そうした学説の講義はここまでにして、そろそろ街に戻りませんか?二人の我が儘にも応えて、襲撃される危険のある場所まで連れて来ている事だし、心配事をこのまま思い過ごしで終わらせたいんですが・・・・」
パンと手を叩いて一同の注意を集めたウェイブが少し強引かつ唐突に、この場から去る事を提案した。
公言したことも事実であったが、やはりこの二人をブラッド・ストーンの近くにいさせる事は、必要以上の心労にも繋がるのが最たる理由であった。
「そうですね。見たい物も見せていただいた事ですし、この場を離れるとしますか」
モラレスもそうした心情を察してその意見に同意すると、厄介者扱いされた二人がにわかに不機嫌そうな表情をした。
「ちょっとウェイブ!我が儘って酷い表現じゃない?私は貴方と離れる方が危険だと思って・・・」
「判った。それも一理あるよ。でも、ここが襲撃しやすい場所である事も確かなのは理解してほしいな。昨日の今日なんだから」
「う・・・・それは、まぁ・・・」
その被害者たるアニィは、過去の事実を指摘されると返す言葉がなかった。
結局、この場を離れたい明確な理由を持つウェイブが勢いで勝り、場を治める形となり、一行は遺跡内から出ることとなる。
余談ではあるが、彼等が出るのと入れ替わるように、モラレスが手配した調査学会のグループが、一区画の補修整備の名目で遺跡に入り、ブラッド・ストーンの部屋に続く通路の閉鎖処置を施している。
その後の偶発的トラブルなどが極力生じないための、彼の権限でできうる最大の処置だった。
「おや?」
館に戻る帰路の途上、ふと空を見上げたモラレスは、そこに言い様のない違和感を感じ取り、思わず口にもらした。
「お父さん、どうしたの?」
隣で歩いていたアニィがいち早くその様子に気づいて問いかけると、彼は答えに困った表情を彼女に向けて眉をひそませた。
「ん・・・いや、何か、何か様子が違うなと思ってね」
その答えを見出せないモラレスが首を傾げて改めて見上げると、アニィは視線を養父からウェイブへと向ける。
「ウェイブ、何か判る?」
「判るって何を?」
ウェイブもその会話は耳にしており、モラレスの視線を追って同じ方向を見回していたが、空、つまりは結界特有の現象が見える以外の異変を確認する事ができなかった。
「何か気になる所があるんですか?」
ウェイブはこうした結界の壁を見て育ってはいないため、今、天に高々と伸びている障壁こそが違和感の対象なのだが、彼等はこれこそがが日常の風景なのである。
そんな認識の差がある彼に、地元民ですらはっきり把握できない異変が認識できるはずもないため、無駄に考えず率直に答えを求めたのである。
「うん・・・・何というのか、結界の様子が微妙に違うような気がしてね・・・」
「ブラッド・ストーンの影響がもう出たんでしょうか?」
結界への影響。それ即ち、先程のブラッド・ストーン起動に繋がると察したシルディが、少し興奮気味に問いかけると、ウェイブはほぼ即答するように首を横に振った。
「たぶん違うよ。ブラッド・ストーンも用意されている定数の半分が起動しただけで、実質的には準備も整ってないんだ」
「それじゃ一体何が変に思われてるんですか?」
シルディにも変化が見て取れず、一人悩むモラレスを見やった。
「う~ん、私自身の心の問題かもしれないね。ブラッド・ストーンの一件で、準備が整いだした事を目の当たりにして、早速それが形に現れてるのではないかという、期待感。それが私の見る目を曇らせているのかもしれない・・・」
苦笑してモラレスはシルディの疑問に答えた。そうした心情による感覚の変化は十分にあり得る話であった。前もって高級酒と言われた出された酒が、実は安物であっても高級品と錯覚する者がいるように、ブラッド・ストーンという伝説のアイテムの起動を目の当たりにしたモラレスが、早速結界に異変が生じているように感じるのも、決して不自然な事ではない。
「ま、歴史の証人になって嬉しくて仕方ないから・・・って、ところですか」
「これは手厳しい。しかし、嬉しいというのは確かですね」
これはモラレスの嘘偽りのない言葉である。世代を渡って調査してきた物の真偽が確認された上に、おそらくは歴史に影響を与えるだろう事態に立ち会える事は学者という立場からすれば非常な名誉な事と感じられたのである。
(シドレ動乱より遙かに有意義な歴史とも言えますからね・・・)
過去の血生臭い歴史も体験している彼は、過去のそれとは大きく質の異なる今回の出来事に、こちらの世界の全ての生物に対する光明すら感じていたのである。
「でも、これはまだ可能性でしかないですよ。順調に行っていれば現在三つのポイントが起動しているはずですが、残るポイント二箇所は遙か遠方で、一ヶ月や二ヶ月で済む行程ではない上に、見つけられるかも判らないのが実状なんですから」
水を差す発言と理解しつつもウェイブは、過剰の期待もしないでほしい意思を込めた発言をその場で語った。今回はスタート時に目的地近くに転移してもらえたから良かったものの、次回以降は全て自力で探さなければならないのである。
判っているのはおおよその位置だけであり、どの様な場所でどの様な環境でどの様な状況であるのか、まるで判っていないのである。
更に言えば、人も住んでいないような地であった場合、情報収集すらもままならず、数年レベルの捜索となるのは十分にあり得る事態なのである。
「もちろん承知してますよ。私達がブラッド・ストーンの存在を知って、それが確かなものと確認されるのにも、数十年かかったんですから、その位は当然覚悟していますとも」
調査という職務に携わっているが故に、モラレスは理解を示す。
だがそうした未来への展望の前に、彼等にはクライマーという問題が残されていた。
規模から比較すればささやかな問題だとして見過す訳にもいかず、この件を解決せずして、ウェイブも新たなポイントに向けて出発する気持ちにはなれなかった。
結局そのクライマーも、彼等が僅かに可能性として危惧していた様な襲撃も行わず、尾行と思わしき使い魔の猫・カラスを見かける程度にとどまり、一行は無事にモラレスの館へと帰り着いた。
やはり腕を切断された傷が癒えないのだろう。あるいは、ウェイブ打倒を前提とした計画をねっているのかもしれなかったが、それに乗じて攻勢入れるような状況に立てなかった一同は、一仕事の後のひとときを各々自由に過ごし始めるた。
モラレスは今回の顛末を記録するとして自室に篭り、アニィとシルディは先刻買い込んだ物品を整理すると言ってアニィの私室にて時間を過ごし、客人という立場であるが故に手持ちぶさたとなったウェイブは、館の庭に出て軽い稽古を始めていた。
(しばらくは魔法使いと、その人形との戦闘が主体になるかな?)
両手に持った剣を構えながらウェイブは、今後の敵の姿を何もない正面の空間にイメージした。幾つもの魔法を隠し玉にしていそうな魔法使いクライマーと、彼が操る無数の小型ゴーレム群。
イメージしたそれらが一斉にウェイブ向かって迫り、彼は他者には見えぬ敵に対して剣を振り下ろし、次々に切り捨てていく。
彼自身、他人が端から見れば滑稽だろうなと思いつつも、精神集中をする際には時々行っているイメージトレーニングであり、実際に剣を振り、身体を動かしてまでするのは久方ぶりの事であった。
少し前までは、必要であればタールという手合わせする相方がいた事もあり、ここまで身体を動かすイメージトレーニングも必要なかったのだが、今は肉体派の仲間もおらず、直面している問題を相談する相手もいないため、じっとしていると望ましくない状況ばかりが頭に浮かんでしまう状態であったウェイブは、それを払拭させたいが為に、クライマーを仮想敵にしたて、無理に身体を動かしていたのである。
それはいずれ訪れるかもしれない過酷な現実から目を背けた行動ともいえたが、そこはそれ、ウェイブもやはり闘いの人であったため、剣を振りイメージした相手を斬り捨てていく度に意識が高まり、その動きが実戦レベルへと近づいて行った。
架空のゴーレムが思いつく限りの動きと編成で迫り、それを次々に仕留めていく最中、地面を擦る微かな足音を背後で察知したウェイブは、反射的に振り向いて剣を突き出した。
「ひっ!」
その『足音』も自分のイメージした物だとばかり思っていたウェイブは、怯えきった悲鳴とイメージでない相手の姿を見て面食らい、慌てて突き出した剣に制動をかけると、その切っ先は直撃寸前の所で停止した。
「は、はぅはぅ~~~~」
突き出された剣先を眼前にして、来訪者シルディが目を丸くさせて腰を抜かし、その場にへたり込む。
「す、すまない。いきなりだったから・・・・」
恐怖の元凶となった剣を鞘に収め、空いた右手をシルディに差し出すウェイブ。
「い、いえ・・・私こそ、お稽古中に不用意に近づいてしまってすみません。声をかけても気づいてもらえなかったものですから・・・」
「声をかけた?俺に?」
掴まった手に力を入れて、彼女が立ち上がるのを手助けしていたウェイブは、その話に軽い驚きの表情を示し、自分がいつの間にか本気でイメージトレーニングに没頭していた事を諭された。
「気合いが入りすぎたか・・・悪かった。ほんと驚いただろ?」
「いっ、いえっ・・・」
ウェイブの自嘲ぎみの苦笑を向けられたシルディは、その何とも言えない表情を間近で見た事を妙に意識して赤面してしまい、思わず顔を下に背けた。
だが、背けた視線の先にはしっかりとウェイブの手を掴んだままの自分の手があり、彼女は更に頬を染め、顔が上げられない状態へと陥ってしまう。
「それで、何か用だったのかな?」
「あっ、はい。モラレスおじ様が、お呼びです」
少し惜しそうに手を離したシルディは、本来の用事を果たすべく、その簡潔な内容をウェイブに伝えた。
「モラレスさんが?あの結界に面した部屋かい?」
「いえ、館を挟んだ反対側の庭です」
「庭?お茶のお誘いかな?」
予想と異なる場所からの呼び出しにウェイブが僅かに首を傾げた。趣向を変えた夕食の誘いとも思える時間帯でもなく、彼は相手の意図が計りかね、伝達者にその疑問を投げかける。
「いえ、違う用件です」
「ふぅん・・・・何だろ?」
話の内容からしてシルディは知っていると察したウェイブだったが、その答えは直接赴けば済むことでもあったため、彼は判ったと頷き、彼女と共に館の向こう側へと歩き出す。
その行程は一分程度。左右対称の構成を成した反対側の庭へと入ったウェイブは、その奥の、敷地の最端部である結界近くに呼び出した張本人とアニィが揃って待っているのを見ると、そこへ向かって真っ直ぐに歩み寄った。
その距離が縮まるにつれ、ウェイブは、モラレスが軽い興奮状態にあるという事を悟り、また何か新発見でもあったのかという仮定を思い浮かべる。
今見えるモラレスは、ブラッド・ストーン真偽を保証され実際に稼動したのを目の当たりにした時と同じ、研究の成果が実った時の充実した表情をしていたのである。
「どうしたんです? 何か良いことがあったみたいですけど」
「ええ、ええっ、ありましたともっ!」
開口一番、モラレスは興奮状態を隠そうともせず何度も頷く。そして自分の背後に悠然とそびえる結界を促した。
「アレの、ブラッド・ストーンの影響がやはり生じているんですよ!」
「はい?」
いきなり結論を語られ、戸惑うウェイブ。
「先程、帰宅途中に結界の様子が何か違うと言ってましたよね?」
「え、ええ・・・」
「私も最初は先入観からくる誤認かと思っていました。ですが、先程自室で結界を観測していたら、揺らぎが大きくなっている事が判ったんです」
「揺らぎ?」
「ええ、私達は代々、結界からの脱出法を研究していました。その為、観察は日常的な事なんですが、今、結界はこれまでにない揺らぎを起こし始めているんです」
言われてウェイブは結界に近づき、一部を凝視する。
「揺らぎ・・・・この、シャボン玉の表層というか、小川のせせらぎみたいな揺れですか?」
結界の力場の様子をウェイブはそう評すると、モラレスはその通りと頷き彼の見ていた部分を指で指し示す。
「そうです。結界は不動の『壁』ではなく、常に全体的な揺らぎを生じさせています。これがおそらく超広範囲を覆う力を均等に維持させる為の現象と思われますが、今、その揺らぎが、これまでにない大きさになっているんです」
「もう結界が干渉されて壊れそうだという事ですか?」
昨日今日、間近で結界を見た身のウェイブには、さしたる変化が認められず、専門家の答えを素直に求めた。
「いえ、通常より大きくなっているとはいえ、結局は揺らぎであって、結界を脅かす物ではありません。ですが、これまでになかった力が結界全域に加えられて、反応している・・・のは確かです」
「それじゃどうしてそんなに嬉しそうなんです?」
大きな視点で言えば、とりわけ大きな変化ではない。そうした意味合いの言葉であるにも関わらず、興奮さめやらぬ様子のモラレスを見て、ウェイブは率直な疑問を投げかけると、彼は右手でVサインをするかのように二本の指をつきだした。
「理由は二つあります。一つは、あのブラッド・ストーンを用いた遺跡が、紛れもなく文献通りの能力を持っていそうだというのがはっきりした事。もう一つは、この揺らぎの増大で、私の実験が試せるからです」
「・・・実験とは何です?」
この場の力の入れようから、後者が話題の本命と察したウェイブが確信をついた疑問をなげかけると、モラレスは待ってましたと言わんばかりに即答する。
「はい、私が長年構想していて実現できなかった、結界突破の手法です」
「・・・・・・・・・・・できるんですか?今?」
あまりに突飛だった内容に、ウェイブは僅かに思考の速度が鈍ってしまい、思わず愚問に類する質問をしてしまと、相手はコクリと頷いて肯定した。
「もちろん、構想のみで実験は一度もできていませんが・・・・」
「実験も何も、ブラッド・ストーンも用いずに結界突破って、どんな構想なんですか?」
彼が結界を突破する研究をしているという話は既に聞いている。だが、数百年を経て衰えない非常識な超特大結界を相手に、人智を越えた力を借りずにどう対応するのか?その点に疑問が集約したウェイブは、どの様な手法を思い描いているのか好奇心をくすぐられた。
「それは、先程も話題にしている揺らぎを利用しています」
「揺らぎを?」
「先程、小川を例に例えていましたが、それを思い浮かべて下さい。緩やかな川の表面を」
言われるままウェイブはそれを脳内でイメージする。
「そこにはじっくりと見れば判る水の流れがあり、時にその流れの僅かな対流が小さな渦を作り出します・・・」
「・・・・それって、ほんの一瞬生じる小さなヤツですよね?」
『渦』に対するイメージに関し、言われるまま想像したそれとモラレスの抱くそれが異なっていないか心配になったウェイブが思わず確認を取る。
「そうです。それが結界でいうところの揺らぎです」
「・・・・・確かに、結界の揺らぎが渦っぽい動きをする瞬間があるにはあるみたいですけど・・・・」
話の内容を確認すべく、再び結界面を凝視したウェイブは、それが間違いではない事を確認する。
「私は、この時の渦に人為的な力を加え、それを大きくし、瞬間的にでも結界に穴が開けられないかと考えて、あれこれ試行錯誤していたんです。しかし、揺らぎの渦がいつどこで発生するか、まるでタイミングが得られなかったのですが・・・・」
「今回の一件で、一時的にでもその回数が飛躍的増えている今なら、試すチャンスがある・・・と言う事ですか?」
「その通りです」
「それで今、実験すると・・・」
「はい。先程言った通りです。もちろん、構想のみであるため成功率が低いのは承知していますが、是非立ち会ってもらいたいと思いまして」
仮に成功あるいは良い結果に至ったにしても、身内では証人にはならない。その為の存在である事をウェイブは理解する。
「まぁ、それはいいですけど、危険ではないですか?結界は内側からの全ての力を拒む存在ですよね?」
「もちろんそれは折り込み済みです。反射現象を受けても命に関わらない程度の力で実施します」
「なら、こちらとしては反対理由もありませんから、構いませんよ」
自分がもっとしっかりとした学者であれば、あらゆる危険性を提示できたかも知れなかったが、やはりこの場で多少思い悩んだところで、モラレスの想定しているだろう事項以上の危険を指摘できないだろうと感じたウェイブは、軽くそれに応じた。
「有り難うございます。では早速・・・・」
言ってモラレスは、後ろで待機していたアニィに視線を送り、既に用意してあった幾つもの魔法の杖を運び出させる。
彼の指示に従い、既に地面に描かれた魔法陣の所定位置次々に突き立てられていく杖は全て同じ形状をしており、それを見たウェイブは何を目論んでいるか一人で推測する。
(相乗効果を目的にした連動式の発動体陣形ってところかな?)
配置と魔法陣の様子に一定の法則を思わせる幾何学的形状を見た彼は、魔力の一点集中を目論んでいるのだろうと考え、彼が今までテストもできなかった事に合点がいった。
複数の発動体に魔力を込めて放出する事は多少時間がかかっても戦闘行為ではないため致命的とはならない。しかしその数が多くなればなるほど、そこから放出される魔力を一点集中させる事は難しくなる。その上、一点集中という用途上、狙える範囲も狭くなる。
その限られた範囲内で何時生じるとも分からない揺らぎを待ち、尚かつ、揺らぎのタイミングに合わせて魔力を放出すると言ったチャンスなど、従来であれば数十日に一度あれば良い方であるにちがいない。それまで結界とにらめっこし続けて待つなど、肉体的以前に、精神的に不可能なのは明白であった。
モラレスが主張するとおり、だからこそブラッド・ストーンの影響で、にわかに結界が反応している今が絶好のチャンスなのである。
時間の経過と共に結界が順応する。あるいはブラッド・ストーンの活動が沈静化するなどして、状態がもとに戻る可能性も大いに考えられるため、彼は焦りとも思える性急さで思い描いていた実験を試みようとしているのであった。
「準備、できました」
少し興奮気味の様子でモラレスが言った。そこには、一部が重なり合った三つの円で構成された三角形型魔法陣が展開し、杖は各円の結界側に面した部分に柵のように配置されていた。
「シルディお願い」
「はい」
アニィが声をかけると、既に申し合わせがあったのだろう、ウェイブの後ろで待機していたシルディが二人と合流し、モラレス・アニィ・シルディの三人は、それぞれの円の中心に立ち、手をかざしてそれぞれの杖に魔力を込め始める。
一本、二本と、杖に光が灯り、程なくして全ての杖に光が灯ると、モラレスはウェイブに視線を向け、いよいよ事が始まる事を告げた。
「では、始めます。ウェイブさん、その・・・脇のテーブルの隣にある物に被さっている布を取って下さい」
「布・・・これですね?」
言われるまま、ウェイブは屋外の会食用テーブルの隣にあった物体の布を軽く引っぱって中の物を露出させる。
それは大きな描きかけの絵画の様に、イーゼルに似た物で固定されたレフ版であった。それが自然の光を反射し、日陰部分にあった結界の一角を軽く照らす。
「いいね二人とも。さっき言った通り、あの光の枠の中で揺らぎが生じたら迷わず杖を経由して魔力を一斉放出するんだ。完璧に同時である必要はない。三人が同じ揺らぎに魔力を集中できればいいだけだから・・・・判ったね?」
「うん、判ってる」
「判りました」
結界を相手に魔力を放出するという行為に、これまでにない緊張した返事を二人が返すと、モラレスも結界に向き合い、光によって限定された範囲を凝視し始める。
(・・・・・・!!)
たちまちその場に戦場の様な緊迫感が立ちこめ、思わず息を呑むウェイブ。
そして、指定範囲に生じるチャンスをただ待つだけの時間が経過し始める。
言ってみればモグラ叩きと同種の状態ではあったが、何分以内に揺らぎが生じるとする法則も約束もなく、制限時間無制限という状況は過酷な忍耐力勝負の何者でもなかった。
しかし、モラレスが宣言している通り今はチャンスの時であり、素人であるウェイブにも判別できる揺らぎが数分に一回、彼等の凝視する範囲近くに現れており、集中力の持続するうちに一度か二度は実験が可能だろうと思えたその時、モラレスが動いた。
「はぁっ!」
普段の様相からは想像もつかない気合いと共に、彼が杖に魔力を送り込むと、彼の周囲に立ち並ぶ五本の杖から一斉に白い光条が伸び、結界の一点に集中する。
「!?」
ウェイブもそこから目をそらしていた訳ではない。だが彼の目は揺らぎを認めてはいなかった。それでも、長い間、結界と向き合っていたモラレスには僅かな揺らぎの生じるタイミングが見え、そこへ躊躇わず魔力の光を放ったのである。
その反応の早さに驚いたのはウェイブだけではなく、両隣にいたアニィとシルディも同様だったようで、二人も何も起きていない・・・ように思えたところで行動に移った彼を驚いた様子で見やったが、そうした動揺も一瞬の事だった。
結界に関する事でモラレスが焦って先走るとは思わなかった二人は、これが緊張による失敗とは考えず、ほとんど反射的と言って良いだろう速さで反応し、モラレスの狙ったポイントに向けて自身達も魔力を放った。
たちまち十五本の杖から照射された光が一点に集約し、結界をまばゆく照らしだす。
その光が攻撃的な威力を持っていれば、その力は照射地点に跳ね返るか、あるいは別方向に反射する反応を見せただろう。
だが、杖から放たれる魔力は、結界の障壁の力場とほとんど同種の物であり、拒絶反応を示すことがなかった。
言うなればこれは、水面に異なる方向から新たな流れが加えられた様なものであり、揺らぎに命中したそれは、モラレスが長年頭の中で思い描いていた現象をほぼ具現化するように、揺らぎをより大きくさせ、これまで誰も見た事のない不安定な『穴』の様な物を構築させた。
「できっ、できたっ!!結界障壁の歪みの穴だっ!」
興奮したモラレスが周囲をはばからず叫んだ。
それは、位置・大きさ・安定感と、あらゆる要素で人が通るのはほぼ不可能な物ではあった。だがこれを応用して地面近くに安定した物を構築する工夫を研究する事は可能であり、何より彼の構想が、人智を越えたアイテムを用いる事もなく結界に干渉できた事実は、学者達の目線から見れば大いなる一歩、大いなる偉業と言えたのである。
「やりました、やりましたよ!私の研究も無駄じゃなかった!やはり人類の作った結界である以上、人が越えられないはずはなかったんだ。やはりこの世界は神が切り捨てた地じゃなかったんだ!」
モラレスは思わず感涙した。
何百年と隔離された地の中にあって、この世界が人々ではなく、神にも捨てられたとする風潮が生じるのも自然な出来事と言えた。
今でこそ、そうした状況も当たり前となってしまい、人々に常識レベルで受け止められているが、結界が成されて百年前後には大規模なパニックを生じさせた時代も存在した。
だが今、人の力によってその結界に瞬間的とは綻びが生じた事実は、世界を隔てる壁が全能の神の意思でない事を示したともいえ、学者や宗教関係者達に一つの希望をもたらしたといえる。
そうした達成感も、立ち会い者でしかないウェイブには実感の及ばない物ではあったが、一人過度に興奮しているモラレスの姿を見るとつられて喜びが込み上げそうになったが、不意に頭上で生じた異音が、彼のそうした気分を遮った。
グキュ・・・
「!?」
例えようもない、これまでに聞いたことのない独特の物音を耳にして、ウェイブは何事かと視線を上へと傾ける。
半ば予想していた事ではあったが、そこはモラレスの実験が行われた箇所であり、視線が現場を捉えた瞬間、そこから何かが飛び出し、館の屋根に衝突した。
派手に屋根の一部が砕け、その破片が落下すると、実験成功に湧いていたモラレスやアニィ達も異変が生じた事を悟り、屋根を見上げた。
「「「!?」」」
一同の視線が見たモノ、それは一角獣らしき物体に跨った、人型の存在だった。