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2014/03/04(火)に投稿された記事
第4章 ウェイブ編 1-8 -騎士 対 剣士-
投稿日時:21:47:13|コメント:0件|》本文を開閉
ディレクトリ:くすぐりの塔AF -魔王の後継者達-
そういや、くすぐりの塔で抜けている部分がある件は、
今キャンサーさんに問い合わせ中。
お忙しいようだから、返事をいただいたら、このブログで連絡するので、それまで待ってね。
事実この目撃がシルエットのみであらば、『ユニコーン(一角獣)騎士(跨った者)』と表現していたであろうが、幸か不幸か、彼等はその全貌を認識できる間合いにあったため、その詳細を見て、既存の言葉での呼称が即時にできなかったのである。
一角獣、すなわちユニコーンらしきそれは、シルエットこそ角の生えた馬という点で合致はしていたのだが、身体の表層が金属質と思われる光沢を放っており、全身が鎧の様な物で覆われていた・・・・というより、身体その物がそれで構成されていた。
そして最大特徴の一つとも言える頭部の角が、鋭角状の、例えるなら『雷』を模した様なデザインをしていたのである。
そして何より、それをユニコーンと言い切れない要因となったのが、人型の存在を背に乗せているという事実そのものであった。
本来、ユニコーンは清らかな女性にしかなつかないと言われており、どの様な経緯があるにせよ、とうてい女性には見えない存在を背に乗せている時点で、ユニコーンという説の信憑性を薄くさせていたのである。
そして、人型のそれは、同じく全身が金属と思わしき材質の装甲で覆われており、兜の中には白い人形のような無機質な顔が存在しており、とうてい生きた人間とは思えない様相を示していたのである。
「な、何ですかアレ・・・」
突如として現れた一組の物体を、ウェイブの影から怯えるようにして見上げているシルディが疑問の声をあげるが、その場の誰も正確な答えを出せようはずがなかった。
「解らない・・・・見ようによっては、手の込んだスケルトンにも見えなくもないけど、そもそも、何であんなのが結界の・・・外から来た?」
まさに問題はその一言に尽きる。
結界の外から来た存在。
それは、結界が作り出されておよそ千年。その間、隔たれた双方の世界から行き来した話などこれまで一度も存在しなかったのである。だが今こうして、降って沸いた出来事がその通例をあっさり破ったのだ。
歴史的観点からすると重大事だという事を、ウェイブ・アニィ・シルディ等が実感も理解もできずにいた中、モラレスだけはその事実の重大さにいち早く気づいていた。
「ウェイブさん・・・」
「何です?」
「あれ、捕まえられませんか?」
「はいぃ?」
トントンとウェイブの肩をつつき、内緒話のように求められた事柄に、ウェイブは思わず素っ頓狂な声を上げ、謎の存在の観察も忘れ、呆けた顔で彼をみやった。
「アレは結界の外を知る存在です。是非、情報を得たいんです」
「い、いや、ですけど、アレと意思の疎通が・・・いや、そもそも喋れるとも限りませんよ」
「会話が成されなくても、アレその物を調べられれば外界の情報にはなるはずです」
冗談と聞き流したいところであったが、モラレスの目は真剣そのものであり、先の願いの遂行を切に願っているのがはっきりと見て取れたウェイブはジト汗を流す。
「あんなの生け捕りなんてできるのか?」
自問しながらもウェイブはとりあえず、頭の中でその手法を模索し始める。
平和的な会話から入る案から、問答無用で攻撃を仕掛けて叩き落とす強行案と、幾つかの素案はすぐに出るものの、相手がどの様に応じるのか、その潜在能力が未知数のため、自身で納得できるまでには至らなかった。
そうした外野の思惑などまるで意に介さず、外界からの来訪者である『彼』=騎士は、その場を動かず、悠久の時を経て目の当たりにした『内側の世界』の景色を生気のない瞳で眺めていた。
「やはり閉ざされてはいても、大いなる生命は引き継がれていたな」
周囲の一角を結界で遮られてはいたが、彼は生命溢れる遠方の景色をじっくり眺めた後、眼下に広がる街を複雑な心境で見回した。
「そして、邪悪なる意思を継承する者達も・・・」
その口調は目の前の光景が残念でならないという意思が込められているようにも聞こえた。そんな彼の言葉を聞いたユニコーン型生物は、首を傾け意見を述べるようにして小さな唸り声をあげた。
「言うなニンベルク・・・状況は理解している。だが、いくら待とうと増援などあるわけもない。我等だけでやるしかあるまい?」
まるで友人に語るかの様に彼が語りかけると、ニンベルクと呼ばれたユニコーン型生物は、不承不承と思える様子で唸り、視線を前に戻した。
「なに、我とてかつては希代の戦鬼と言われた存在だ。この命尽きるまでに多くの骸を積み上げ、魔王の軍勢を消耗させてみせるさ」
騎士は愛馬をなだめるかの様にその首筋を撫でる。
「だがお前はそこまでつきあう必要などない。我が倒れればお前は野に還れ。ここには自然も残っている。十分に生きていけるだろう」
そんな言葉にニンベルクはまた唸って応じる。
「ああ、だが、その時までは我につきあって貰うぞ」
意を決した騎士がピシリと手綱を叩くと、愛馬ニンベルクは軽く身を持ち上げて吠え、足場になっていた屋根を蹴って宙に舞った。
「何!?」
それに驚いたのはウェイブであった。
飛翔能力を持つ生物は珍しい事ではない。小は雀、大は魔獣と過去幾つも目撃しているのである。だがゴーストの類を別として、翼あるいはそれに類した物も持たずに空を飛ぶものなど、これまで見た事がなかったのだ。
「モラレスさん、ユニコーンの類って空飛べましたっけ」
「いえ・・・・いえ、そんな話は・・・・そもそも翼もない生物が飛ぶなんて、あの馬は魔法でも使ってるんでしょうか?」
この驚きが自分の知識不足故ではないかと思ったウェイブは、その不足部分をより学のある人物に求めたが、疑問をぶつけられたモラレスも、彼と意見を同じにしていた。
「こ、こっち来るぅ!」
アニィが上空を指さし、叫んだ。
「!?」
ウェイブが見上げると、そこには獲物を狙う猛禽のように高度を下げて迫る人馬一体の姿があった。
「狙ってる!」
そこに潜む敵意を察してウェイブが剣を抜いて構えた。飛翔行為に面食らったものの、馬に乗った騎士の攻撃でも、それにはやはり剣の間合いに入らなければならない事を忘れてはいなかった彼は、互いの攻撃のチャンスとなる最接近の瞬間を待った。頭上からというハンデはあるが、相手の攻撃を寸前でかわして通過の瞬間に斬りつけるタイミングを計ったが、攻撃は相手の一方的なものに終始する事となる。
人馬は剣の間合いには入る事はなく、一定の高度を保ったまま飛翔を続け、その攻撃はニンベルクの頭部の角から放たれる雷撃によって行われたのである。
「うぁぁぁぁっ!!」
「っきゃあぁぁぁっ!」
幾つもの雷が集中してウェイブ達の近辺を直撃し、断続的な爆発を生じさせて悲鳴をもかき消す。
人馬はそれでかたがついたと判断したのか、そのまま舞い上がると、再反転する事もなく街の方角へと飛び去っていった。
「過激な奴だな」
おさまる爆煙の中、無傷で済んだウェイブが忌々しげに呟いた。
「み、皆さんご無事ですか?」
雷撃にさらされた一同の中心近くに立ち、頭上に両手を掲げていたシルディが心配そうに問いかける。彼女は相手が攻撃を仕掛ける素振りを見せるや否や、発動体の指輪を用いて魔法の防御壁を展開し、雷の雨から彼等を守ったのである。
「ああ、助かったよ。良い反応だった」
来る事が分かっても対応できなかった自分を少しばかり反省しつつ、ウェイブは人馬の飛び去った方を見やった。
「モラレスさん、さっきの話、期待しないで下さい」
「どこへ?」
依頼の返答を率直に言って、いきなり駆け出すウェイブの背に向け、モラレスが問うた。
「装備を整えて追います。場合によって・・・・いや、間違いなく戦闘になると思います」
いきなり攻撃を仕掛けた相手である、他所で友好的振る舞いをしているとは考えられなかったウェイブは、不可避だろう闘いの事を考え、生け捕りが容易でない事をその場で明言した。
「シルディ」
「はい、アニィさん」
そんな彼を見送ったアニィとシルディも、互いに顔を見合わせると、その意思が当然のように同じだと理解し、同時に館に向かって走り出していた。
街はウェイブが想像した中で最悪の部類に入る事態に陥っていた。
空を駆ける人馬は、ウェイブ達だけに飽きたらず、その矛先を街全体に向けていたのである。
突如現れた古今例のない特異な襲撃者に、街はパニックに陥り、天から降り注ぐ雷から逃れる人々、それを射落とそうと試みる衛兵達でごった返していた。
衛兵達は唯一の対空兵装である弓とボウガン、そして魔法攻撃を用いて応戦を続けるが、かなりの距離がある上に、高速で移動する対象を捉えるのは実に困難であり、逆撃を受けてはその数を徐々に減らす事態へと陥っていた。
「一体なんなんだよ」
混乱する街路の中心で、人馬を遠目に確認したウェイブは、その存在の正体より、現在の行為の理由そのものに疑問を抱いた。
何故襲う?
何故暴れる?
この地に封印されていた悪しき存在とでも言うのなら、納得もいく。
だが『彼等』は、人智の及ばない結界の向こう側から訪れた存在なのである。単純に考えて襲撃の理由など無さそうなものであった。
しかし目の前のそれは今尚、無慈悲と言っても過言ではない破壊活動を継続している。したがって、彼は詮索より行動に迫られ、不可避の戦闘へと否応なしに突入する事となる。
(さてどうしたものか・・・)
戦う決意があっても、肝心要とも言うべき攻撃手段が見出せなかったウェイブは視線を巡らし必死に思案した。
滞空を続ける相手に対して、彼が最も得意とする剣の間合いに・・・最悪でも彼の攻撃を届かせるという問題を解消しなければならなかった。
「・・・・・・・あれしか、ないか」
利用できる物はないかと周囲を見回していたウェイブの目がある方向で止まり、溜息をつく。あまり気が進まないとした心情の現れであったが、呑気に別の手法を検討する猶予もなかった彼は、意を決して旗を掲揚するための木製のポールに向かって駆けだして行った。
「そこのっ!ちょっと手伝ってくれ!」
ポールに辿り着いた早々、ウェイブは弓を構えて矢を射ろうとしていた数人の衛兵に声をかける。
衛兵達はこの混乱の中で、戦士と見受けられる男が応戦の様子も見せず、ポールの縄を手にしている事に揃って首を傾げた。
「早く!即席の投石機だよ」
自分の考えが理解されていないと察したウェイブは、短い言葉で大まかな意図を説明して協力を求めると、ようやくにして衛兵達は納得し、矢の補充役に回っていた数名に声をかけ、力を貸すよう指示した。
少し冷静に考えれば、ウェイブの口にした投石機と弓矢では、圧倒的に弓矢の方が現状に適しているのは誰の目にも明かである。そもそも投石機とは、文字通り大きな石を投げつける為の大型武器であり、城の攻防戦に用いるのが主であり、飛翔体を狙う精度は皆無なのだ。
だが、謎の空飛ぶ騎士の襲撃によって、少なからず混乱を起こしていた衛兵達は、非効率な面よりも、事態を打破する一撃の大きさに期待してしまい、ウェイブの無謀な行動に荷担し始めたのであった。
「よし、引け!」
号令のもと、数人の男達が縄を引きはじめる。その力の影響を受け、丸太のようなポールが徐々にしなって天に向いていた先端を地面へと近づけていく。
「おい、そろそろ限界だぞ、早く投擲物を・・・」
「よしっ、放せ!」
「何?」
縄越しにポールの湾曲が限界近くまで来たのを感じた衛兵の一人が、状況打破の為の石の設置を求めたが、その要求をかき消すかのように言い放たれたウェイブに指示に、各員は揃って耳を疑った。
「俺が行く。石より遙かに有効だ」
「・・・・お前、正気か?」
ウェイブの意図を理解した衛兵の一人がその神経を疑ったが、その当人の瞳は微塵の迷いも見せてはいなかった。
「弓矢でアレを射落とそうとするのといい勝負だろ」
「届くと思ってるのか?」
「届かなくていいんだよ、間合いさえ詰めればね」
「何するつもりだ?」
「質問が多いな。結果で示すから、奴が遠ざからないうちに行かせてくれないかな」
「知らんぞ。どうなっても」
「自分の策なんだ、責任を押しつけやしないよ」
「・・・・行け!」
問答をしていた衛兵がウェイブの意志を尊重すると、周囲の同僚もほぼ同時にそれに倣った。
たちまち弾力を支える力が消失し、ポールは一気にもとの状態に戻ろうと大きく揺れ、一人、縄を持っていたウェイブの身体を軽々と引き寄せる。
「せいっ!」
ウェイブは自身を引っぱる力に合わせて地面を蹴って、その跳躍高度を飛躍的に上げてポールの上まで飛び上がると、更にポール揺れを利用しての二弾跳躍を行い、まっとうな方法では到底不可能な高さまで飛び上がった。
だがそれでも目標には至らなかったが、彼の宣言通り、その間合いは確実に埋まってはいた。
「くらえっ!」
ウェイブは上昇が限界に至った瞬間、右手から気孔弾を連射した。
破壊力より速射性を優先したそれは、彼の身体が落下を開始するまでに五発の光弾を生成して放った。
「ぬ?」
上空で命中率の低い矢を警戒していた騎士は、死角から迫る光弾に僅かながら動揺した。ニンベルクが瞬間的な回避を試んだが間に合わず、騎士が左腕をかざして身体を庇うと同時に気孔弾が着弾する。
騎士とニンベルクにそれぞれ一発づつの直撃であったが、急所には命中せず、どちらも致命傷には程遠いものであった。
「やっぱり撃墜は無理だったか」
結果を見てウェイブが舌打ちする。せめて全段命中なら飛行に支障を来せる事も可能だったかもしれなかったが、相手は死角から迫る気孔弾の風を切る音を察知して危機を察し、最小限のダメージに止めたのである。
「何だ?あいつは」
騎士は人としてはあり得ない高度にジャンプしている剣士を認め、それに感心を持った。
そうした主の意志を敏感に悟ったニンベルクは、向きを変えて落下を始めているウェイブに向かって接近を開始する。
「やべっ」
まともに身動きのできない状況下で敵に狙われた事を察したウェイブは思わず舌打ちする。十二分なダメージを与える事さえできていれば、無事に着地するチャンスもあったが、先の失敗でその機会も失っている。
彼は新たなチャンスを得るべく、更に気孔弾を放ったが、来るのが判っている攻撃をかわすのは騎士達には難しい事ではなかった。
ニンベルクは僅かな旋回運動でそれを回避して距離を縮めると、騎士は手にした剣を構えて一撃離脱の体勢に入る。
「人が不用意に空に舞うからそうなる・・・」
騎士が剣を振り下ろし、命を代償にした教えを身体に叩き込もうとするその瞬間、彼とウェイブの間に三つの小さな金属球が割り込んだ。
「「!?」」
双方がそれを認識し、共にその正体を理解できずにいると、金属球は揃って鈍い輝きを放った。
「ぬおぉっ!?」
それによって生じた効果は、ウェイブと騎士で大きく異なった。金属球が輝いたかと思った瞬間、騎士はニンベルク諸共、全身に強い衝撃を受けて後方へと弾け飛んだ。それは彼等が見えない壁に激突したかのようでもあり、結果、ウェイブは着地までの時間を稼げた事となる。
だが、それはそれで一つの試練であった。
周囲の物品を用い、自力以上の跳躍を行ったウェイブは、必然的に高所からの着地の衝撃に耐えなければならなかったのである。
高度に比して受ける衝撃は増大するのは常識で、激突死は回避できるにしても四肢に異常など来してしまうと後の戦闘に支障が生じるため、彼には無傷で着地する必要性があったのだが、それはとても容易とは言えなかった。
これは言うまでもなく、迎撃行為のみを急いだウェイブの詰めの甘さである。
着地時に民家の屋根か樹があれば、それを緩衝材代わりとして着地する事は可能と考えていた彼であったが、今の彼の落下コースに、そうした物は何一つ無かったのである。
「覚悟決めるか」
半ば諦めてウェイブは脚に気を込め、肉体強化を試みる。だが本人が自覚している通り、彼は気を武器や身体に込める行為が不得手であり、頼みの綱である肉体強化も十二分に発揮されてはいなかった。
いよいよ地面が目前に迫った時、またしても金属球が現れ、ウェイブと地面の間に正三角形を描くかのように規則正しく配置されると、先と同様の鈍い光を放つ。
「くぉっ!」
刹那、不可視の衝撃が放たれ、ウェイブの身体の下方から襲いかかる。
(これがさっきの・・・)
ウェイブはその身で騎士が受けた攻撃を理解したが、同時に、騎士の時よりも威力が劣っているのではないかという疑問を生じさせ、それは次の結果で確信へと変わる。
下方からの衝撃波の突き上げを全身で受けたウェイブは、その落下速度を急速におとしたのである。
それは彼が身体に支障を来さず着地するに十分なスピードにまで減速し、彼は理想とする状態での着地に難なく成功する。
「ふぃ~間に合ったぁ~」
着地したウェイブの背後で、安堵の声がもれた。
その声の主に確信をもってウェイブが見やると、そこにはアニィが肩で息をして立っていた。
「アニィ、こんな所に・・・・」
「助けてもらって『来るな』・・は、なしよ」
言って彼女が両手を広げて構えると、先程乱入した六つの金属球が飛来して、それぞれの指の間に収まった。
「そいつ、アニィのか?」
「そう、私の魔力で自在に動き、衝撃波を放つ事のできるマジックアイテム。その昔、お父さんから頂いたの」
新しい玩具を見せびらかす子供のように無邪気な笑みを浮かべてアニィは語ったが、好評を得たかった相手は、そのとっておきの一つに顕著な反応を示すことはなかった。
「何で来た!」
「何でって事はないでしょ・・・私がいなかったら・・・」
お約束のような二人の口論は長続きしなかった。彼女の横槍で攻撃のタイミングを狂わされた騎士が、体勢を立て直して再飛来したのである。
ウェイブは、自分の無礼な言い様に気を取られ、背後に迫る危機に気づかないアニィを問答無用で抱きかかえると、そのままの勢いよく横っ飛びする。
「ちょっ、何っ?」
ウェイブに抱きつかれたアニィは瞬時に赤面し、脳内で妄想していた稚拙な期待、『援護に対する彼からの感謝の行動』が現実になるのかと思い、人知れず心拍数を上昇させる。
が、次の瞬間、予期せぬ方向に身体を振り回され地面に倒された事で一転、ムードはぶち壊され、乙女心を微塵も解しない相手に不満を抱いたが、それが言葉として出るよりも先に、金属が地面を削る嫌な音が響き、彼女は思わず身を竦めた。
急降下した騎士の一撃が、つい先程、彼女の立っていた辺りを剣で削ったのである。それを恩人の腕の間から確認したアニィは、思わず息を呑んで間近にあるウェイブを見やった。
「敵の存在を忘れるな」
その忠告を実証するかのように、ウェイブはアニィに目を向けずに言い放つ。間合いの外に存在し、高速機動を行う相手を見失う事は、闘いにおいては死活問題となるのである。
「う、うん、私、ウェイブを手助けする」
その為に来た彼女は、震える手を無理矢理に突き動かし、腰のフックにかけていた小型の杖を取り出すと、左手で強く握りしめ小声で呪文詠唱を始めた。それに伴い杖全体が放電を始め、上下に小さな雷を断続的に放って棒状の形状を形成する。
そして中央部では放電が小さな突起を生み出しており、そこへアニィの右手が差し伸べられ、親指から中指までの三本の指で摘み、素早くそれを引き延ばし、あたかも弓矢を放つかの様な姿勢を作り出す。
アニィは雷の弓の起点となる杖を持った左手の人差し指を伸ばして滞空する騎士を指し示すと、右手の指を開く動作をした。
「ラァ~イトニング・アロー!」
自分が役に立つところをPRするためか、妙に気合いの入った掛け声とともに雷の矢が放たれた。
弓を形成したエネルギーも巻き込んだ雷の矢は、まっしぐらに騎士に向かって飛来し、その距離を10メートルに縮めた辺りで三つに分裂する。
ウェイブから見ても、完璧に思えたタイミングの攻撃は、騎士に着弾する直前、ニンベルクの角から放たれた雷によって相殺された。
角からの放電は、無効化しただけに止まらず、迫るアニィの矢のを呑み込んで自らの物とし、そのままウェイブ達へと襲いかかる。
「!!」
魔法使いでもない相手にカウンター・マジックをされるとは思ってもみなかったアニィは、驚愕で回避するという行為を失念し、それに気づいた時には手遅れな間合いになっていた。
「ぼさっとするなって!」
雷とアニィの間にウェイブがわって入り、X字に交差させた二本の剣で雷を受け、左右に振り抜いて命中コースにあった雷を無理矢理に切り開く。
「あ、ありがと・・・でも、大丈夫なの?」
見た目は違っても、今の行為は剣に落雷したのと同意と言ってよかった。自然のそれとはエネルギー量が違ったにしても、無傷であるのは嬉しくもあるが、不自然なのである。
「この剣には魔女の御加護があってね」
実際、ウェイブもダメージ覚悟の行為であったのだが、魔王キーンの理解者の一人トラセナの樹液と魔力によって強化・形成された彼の剣は、半ば偶然ながら彼自身が防御に込めた僅かばかりの気の抵抗も加わって、雷のエネルギーが刀身から肉体に伝わるのを辛うじて防いだのである。
「ウェイブさん、アニィさん、ご無事ですか」
二人の後方から聞き慣れたシルディの声が発せられ、少し苦しそうな表情をした彼女が駆け寄ってくる。アニィとは同時に行動したものの、運動行為の得手不得手から生じる、走る速さの違いから、現場到着に誤差が生じたのである。
「お、お手伝いします」
合流した彼女は、息を乱しつつ得体の知れない相手を見上げ、震える手で大型の宝玉の入った杖を握って構える。
だが、そんな二人の好意をウェイブは拒絶する。
「いや、いい」
「何でよ、ウェイブだけじゃ攻撃もろくにできないじゃない」
「そうですよ。アニィさんが牽制して私が防御して、最後のチャンスにウェイブさんが・・・・」
「その発想は判る。でも周りを見てくれ」
「「周り?」」
言われて二人は周囲を同時に見回す。
「まだ逃げ遅れている人達がいる。そっちを頼む!」
ウェイブの言うとおり、周囲には、得体の知れない襲撃者に混乱し、どちらに逃げたら良いかも判らず右往左往する人々が何人か見受けられた。
「でも、ウェイブは・・・・」
言うまでもなく、単身で不利な闘いを強いられる。その際の最悪のケースを思い浮かべ、アニィの表情が曇った。
「何とかもたせる。だから周囲の人達を避難させてくれ、でないとアニィ達も思い切った攻撃ができないだろ」
「・・・分かりました。無理しないでくださいね」
この場において、無駄な論議こそが一番の愚作と理解するシルディが意を決して了承すると、強引にアニィを手を取って引っぱった。
「ちょっ、シルディ」
「急ぎましょうアニィさん。そして早く戻ってくるんです」
その決意の眼差しを前にしたアニィは、シルディもその場にで手助けしたい思いは同じである心情をいち早く悟り、こくりと頷いて同意する。
「ウェイブ、戻ってきて死んでたら許さないからね」
「ウェイブさん、なるべく早く戻ってきます。ですから・・・・」
そう言い残して二人は左右に散って逃げ遅れている人々の方へと駆けだして行った。
「頼むよっと・・・・で、奴は何してる?」
二人の背を見送ったウェイブは、滞空を続ける騎士を見上げ、今の会話中に仕掛けてこなかった事を疑問に思った。
「・・・ここは何処なのだ?・・・我は何を攻撃していたのだ?」
自分の関心を得た人間の行為を眺めていた騎士は、自分の想像していたのと遙かに異なる行動をとっている事実を目の当たりにして、己のこれまでの行為に疑問を抱き始めていた。
敵は魔王の軍勢。結界のすぐ側に街を置いていた状況も、来るべき侵攻の拠点とすべく用意していた・・・と考えればある程度合点はいく。だが、居並ぶ相手はどれも歯ごたえがなく、魔王の配下と称するにはあまりに脆弱であった。
騎士はその場に一人残って自分を見上げている剣士ならば、そうした疑問に応じてくれるのではないかと考え、愛馬に降下を命じた。
「降りる?」
空に舞う人馬がその優位さを放棄して降下を始めたのを見て、ウェイブのその意図を理解できずに怪訝な表示をして見せた。
不利な条件などない滞空状態をやめて地表に降り立った相手がどの様な行動に出るのか、まるで推測できなかったウェイブは、剣を構えて相手側の動きを待つ。
地表での突進攻撃か、それとも必殺技の準備か?
緊張の面もちで相手の行動を観察していた彼は、相手の次の行動を見て面食らった。
「何?」
騎士が愛馬から降りて、自分の足で地表に立ったのである。
「我が名は、ティルフィング・ダイン。古の技術によって生を得た闘人なり。貴公の名は?」
「け、剣士ウェイブ。見ての通り、人間だ」
ウェイブは敵の意表を突くような名乗りに、思わず応じてから、その言葉の意味を理解し始める。
「古の・・・・闘人?古代のスケルトンって事か?」
生を感じられない事には合点がいった彼は、会話が成立したことで更なる疑問をぶつけ始める。
「そう思ってもらって結構」
厳密に言えば違っていたが、既に失われた文明の話をしても理解してもらうのに時間がかかると感じた騎士ダインは、解釈は間違っていないことから訂正を求めず、話を続けた。
「次はこちらから問う。貴公等は魔王の軍勢の縁の者か?」
だとすれば、それは随分と話が違うものだと思いつつ、彼はその返答を待った。
「魔王?魔王って、キーンの事を言ってるのか?」
「いかにも」
「あの人の軍勢なんて、この世界があの結界で隔離された時点で解散してる。人間の寿命を遙かに越えた時間が経過してるんだ。生き残っている残党なんていやしない。邪教崇拝的な集団は一部にあっても、軍勢と言うには程遠い連中ばかりなはずだ」
「では、この集落も魔王の物ではないと?」
「当然だ。魔王はもう死んだ」
つい最近・・・などと、余計は事は言わないウェイブ。
「生物的にその血を継ぐ者は数多くいるだろうけど、自覚してない者が大半だ」
「では、貴公は?」
要点を的確に突いた問いがダインから放たれた。
「俺?」
「貴公の言葉には、自分は例外である思いが秘められている様に感じ取れた。貴公は魔王縁の者なのか」
生気のない瞳がウェイブを見据える。まるで彫像と対峙しているかのように微動だにしない相手であったが、放たれる言葉には下手な嘘など通用しないように思わせる力強さがあり、彼は素直に頷いた。
「・・・・そうだよ。だけど、ご先祖の伝説には到底及ばない未熟者だ」
それが実際の体験から来た言葉とは、さしものダインも思わなかった。だが、相手の返答を得て、彼は行動に一つの方向性を得た事となる。
「なれば・・・・」
ダインは微動だにしなかった状態から一転、長剣を構えてその切っ先をウェイブに向けた。
「魔王とそれに関わる者を殲滅するが、我が使命。勝負して頂こう」
「やっぱり、そうなるのか」
問われた時点でそうなる事は予想できていたウェイブが、同様に二本の剣を構える。スケルトンという属性を肯定した以上、与えられた使命、つまりは自ら口にしたように、キーン縁の者の抹殺のみが存在意義であろう相手に、対話による解決も不可能なのは容易に察する事ができる。
たちまち場が緊張に包まれ、傍観者が皆無の決闘が始まろうとする。
「最後に一つ尋ねたい」
「何を?」
「先程の二人を何故逃がした?あの二人の助力があれば我の攻略にも幅があったであろう」
「あんたなら、その理由に察しはついてるんだろ?あのまま戦闘を続けてたら、無関係な連中に被害が及ぶ。できればそれは避けたかったからね。そちらを優先しただけだ。あぁ、ついで言うと、彼女等にはあんた程の相手と対峙するには経験がなさ過ぎる」
やはり・・・と、ダインは思った。目の前の人間は、定められた『排除対象』としての条件は満たしてはいたが、敵とすべき存在ではなかったのだ。
「貴公も騎士だな」
「いや、剣士だよ」
相手の評価を察して苦笑するウェイブ。
「俺からも質問させてくれ。何で、後ろの馬に乗らない?」
使われると面倒この上なしなのだが、その素振りを全く見せない相手に、彼は相手同様に想像できた真意を問う。
「我はこれでも騎士だ。ふさわしい相手には正々堂々と対峙するものだ」
「・・・・礼を言うべきかな?」
それは評価されたと言っても良かった。だがそれが戦闘回避には結びつくことはない。
「無用だ」
言ってダインは地面を思いっきり踏み込み、ウェイブに肉迫する。その初動の早さは、踏み込みによって砕け散った床石の破片が再び動きを失う前に、剣の間合いに入る程であった。
「はっ速ぇっ!」
外見からは想像もできない早さに、ウェイブは二本の剣を交差させて右から薙ぎ払いに来る初撃を受け止めるだけで精一杯だった。
受けた一撃は体重ののった重いもので、彼の身体は勢いに負けて左へと弾き飛ばされる。
「しかも重いっ!」
剣士としての実力はこの一撃で十二分に把握できた。よろめく中でそう思った矢先、好機を逃すまいと、突き出された剣が再度ウェイブに迫る。
「くっ!」
ウェイブは手近な方であった左の剣を振って相手の刀身に接触させ、僅かにその軌道を変えつつ、自身は身を思いっきり身体を仰け反らせてその攻撃をかわすと、姿勢をを戻す勢いを利用して右の剣を振るった。
キィン!
不完全な体勢から始まったウェイブの初撃は、素早く引き戻されたダインの剣によって受け止められた。
ウェイブも先と同様、剣の勢いで相手を押しやろうと、止められた剣に力を加えたが、彼の腕力ではその目論見を達成することは適わなかった。
力比べでは現状の好転は不可能と早々に認めた彼は、相手が自分の剣を押し返すタイミングに合わせて剣を引き、入れ違いに左の剣を振って応戦する。
左右から繰り出される攻撃を、ダインは一本の長剣を右に左にと僅かに傾ける事で対応し、二つの剣の攻撃の僅かな間隙を見いだしては逆撃を行い、ウェイブをひやりとさせて、攻撃の呼吸を乱していく。
両者の闘いは、素人目には一進一退に見えただろう。だが現実には無駄に手数の多いウェイブに対し、ダインが最小限の動きでそれを制して的確な反撃を行っており、当事者にはそうした現状が明確に理解できていた。
そうした理解があったところですぐに現状改善が成される訳でもなく、事態打開が容易に行えない事にウェイブは焦りを感じ始め、それは明確に剣の動きにも現れていた。
ヒットを焦るあまり、思わず同時に繰り出してしまった二本の剣を、身体ごとという大振りで長剣を振り回してまとめて払いのけたダインは、その勢いのままバランスを崩したウェイブに蹴りを繰り出した。
「つぅ!!」
それをまともに顎に受けた彼は、二歩三歩とよろめきながら後退しつつも、剣だけは構えて相手の追撃を牽制した。
「まだまだ無駄が多いな。二刀流なれば、常に一刀は相手の死角を狙うべきだ」
ダインに指摘されるまでもなく、そうした常套手段はウェイブも理解している。だが生来の両手利きではなく、キーンの文献内容に感化されて二刀流のスタイルになった彼は、焦ればどうしても手が同時に出てしまう傾向があるのは否めない。
実際、完璧な二刀流として確立するには、片手で△、もう一方の手で○を同時に描いてみせる位の器用さが必要であろうが、それをウェイブがマスターしきれているとはお世辞にも言えず、故に彼は回避を主体にしたり、片方の剣を牽制に回す戦法を主なものとしていたのだが、今回のような実力者の前では、回避にもかなりの集中力が要され、カウンターアタックにまで十分な余力を回せなかったのである。
「判ってはいるんだけどね・・・」
何が足りないかを十分に理解できているが故に、それを苦々しく思うウェイブ。
現状ではそれを意識して行動すればするほど、剣の動きはぎこちなくなってしまい、より一層の不利は目に見えていた。
(今の俺の一撃を増すしかないわけだけど・・・・)
現状好転の素案がないわけではなかったウェイブは、その手法を思い浮かべ少し憂鬱になる。それは彼にも不可能な事ではなかったが、なにぶん不得意な分野であったのだ。
『それ』を得意とする相棒はこの場にはいない。いたとしても、相手の早さに対応しきれない可能性が高く、結局のところは自分が相手をする事になるのは容易に想像ができた。
「やるしか・・・ない」
ウェイブは正面で剣を十字に交差させて、その刀身に気を込め始めた。
「いよいよそれを使って来るか・・・」
最初に空中で攻撃を受けた際、それが魔法の類でなく気孔弾である事に気づいていたダインは、相手がいよいよその力を行使し始めた事で慎重に身構えた。彼の闘いの歴史において、対闘気士戦は生まれて間もない頃の、ほんの僅かしかなかったが、その手強さは忘れられない記憶として残っていたのである。
「行くぞっ!」
両手の剣を大きく振りかぶってウェイブが駆け出す。
「不用意な・・・」
あまりに無策な行動にダインは失望感を覚え、振り下ろされた左の剣を、頭上で真横にした長剣で受け止めたが、その異様な手応えの軽さに戸惑った。
「!?」
気が込められた剣とは思えないのも無理はない。ウェイブは剣の衝突の瞬間、手を離して放棄し、残った右の剣にフリーとなった左手を添え、気と渾身の力を込めて突き出したのである。
気の込められた剣を警戒するあまり、注意がインパクト時に集中していた隙を突かれた格好となったダインは、この時初めて体勢を大きく崩す事となる。
やや下段から突き出された剣先を、身を捻ってかわそうとするが、タイミングが一呼吸遅れ胸部の装甲を強引に引き裂かれる事となる。
「おぉっ!?」
たまらずよろめく相手に、再度の突きを繰り出すウェイブであったが、それはあまりに単調であったため、容易くかわされ、同時に長剣が振り下ろされた。
「ぬはっ!」
咄嗟にウェイブは腕の上に刀身を添える形で頭上に構えて受け止めると、押し切られる前に横っ飛びして地面を転がり一旦、相手との間合いを広げた。
「やはり我の身体を断つだけの力は備えているか」
胸部に生じた大きな傷を確認するかのようにして右手でなぞったダインは、どこか嬉しそうに語ると、長剣を大きく左右に振って儀礼の様に、眼前に縦一文字に構えて見せた。
「剣士ウェイブよ、もう少しこの闘い、楽しませてもらうぞ」
あるはずのない気迫の様な物をウェイブが感じた時、ダインの長剣が小さな放電を始めたのを彼は見逃さなかった。
「向こうにもまだ奥の手があったって事か・・・・」
古代の技術はやはり奥が深いと実感し、苦笑いと共に一筋の冷や汗を流すウェイブであった。
あとがき
今回の敵である、古代スケルトン『ダイン』は、いわゆるターミネーターであり、 Tower- Zero-にて登場した、ヒューズ&ブレイカの上位機体です。
イメージ的には、アイ・ロボットに登場するやつをイメージしてます。
そして、それが結界の外から来た点に関しては、先のあとがきにて触れた、世界解放後の進展に関する素案の一つの伏線にもなりえる要素を含んでいます。
が、これが結界の撓みを表現するだけに止まるか、本格的伏線に繋がるかは、言ってたとおり、未定です。
(無計画で申し訳ありませんが・・・)